JP4139019B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電動パワーステアリング装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ステアリングハンドルの操舵力を軽減して快適な操舵感を与えるために、電動パワーステアリング装置が多用されてきた。この種の電動パワーステアリング装置は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクをステアリング系のラックアンドピニオン機構に伝達するものであって、例えば特開平9−193815号「電動パワーステアリング装置」(以下、「従来の技術」と言う。)が知られている。
【0003】
上記従来の技術は、同公報の図4に示される通り、モータ11(番号は公報に記載されたものを引用した。以下同じ。)で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを小傘歯車7bと大傘歯車7aを介して、ピニオン2aとラック軸5の組合せからなるラックアンドピニオン機構に伝達し、このラックアンドピニオン機構によって操舵輪を操舵するというものである。
【0004】
ところで、自動車のステアリング装置は、一般に操舵輪の最大操舵角を制限するためのストッパ機構を備えている。
具体的には、ストッパ機構は、ラック軸5をスライド可能に収容したハウジング4の長手方向両端部にラックエンドストッパ(図示せず)を取付け、また、ラック軸5の両端部にボールジョイント(図示せず)を取付けたものである。ラック軸5が所定量だけスライドすると、ボールジョイントがラックエンドストッパに当る。このようにラック軸5の移動量を規制することで、操舵輪の最大操舵角を制限することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の技術において、ラックアンドピニオン機構におけるピニオン2aとラックは、「すぐば歯車」又は「はすば歯車」であり、これらのすぐば歯車やはすば歯車の歯形は、一般にインボリュート歯形である。はすば歯車は、すぐば歯車よりも噛み合いが円滑であり、振動や騒音が小さく、高負荷・高速歯車として広く採用されている。
【0006】
電動パワーステアリング装置のラックアンドピニオン機構においても、小型で高負荷対応のはすば歯車が用いられている。はすば歯車は所定のねじれ角を有する歯車であるから、回転力に応じたスラストが、常に生じることになる。
通常の操作時において、ピニオン2aには、運転者の操舵トルクにモータ11の補助トルクを加えた複合トルクが作用するとともに、この複合トルクに応じたスラストが作用する。
【0007】
ところで、ラック軸5は所定量だけスライドしたときに、ストッパ機構によって移動が規制される。ラック軸5が停止するので、ピニオン2aには、通常の操作時に比べて大きな複合トルクが作用するとともに、この複合トルクに応じた大きなスラストが作用する。このときの複合トルクは最大トルクであり、スラストも最大スラストである。
【0008】
電動パワーステアリング装置の動力伝達部、軸受、ハウジング等の各部材は、このような最大スラストを勘案した大きな強度を要する。各部材の強度を高めるためには、比較的高級な材料を使用したり、大径の部材を使用することになる。このため、電動パワーステアリング装置が大型になったり、高価格になるので、改良の余地がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、電動機の慣性による負荷トルクに対して十分な耐久性を有するラックアンドピニオン機構を備えた、電動パワーステアリング装置を小型で低価格にできる技術を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを歯車式減速機構を介して、ステアリング系のラックアンドピニオン機構に伝達し、このラックアンドピニオン機構によって操舵輪を操舵するようにした電動パワーステアリング装置において、ラックアンドピニオン機構のピニオン並びにラックをはすば歯車とし、はすば歯車としてのピニオンのねじれ角を、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲に設定するとともに、はすば歯車の歯形を、1組の歯車の両方共に、歯末の面及び歯元の面が、基準ピッチ線上をほぼ中心とする円弧面である、円弧歯形としたことを特徴とする。
請求項2は、電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを歯車式減速機構を介して、ステアリング系のラックアンドピニオン機構に伝達し、このラックアンドピニオン機構によって操舵輪を操舵するようにした電動パワーステアリング装置において、ラックアンドピニオン機構のピニオン並びにラックをはすば歯車とし、はすば歯車としてのピニオンのねじれ角を、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲に設定するとともに、はすば歯車の歯形を、1組の歯車のうち、一方の歯車の歯末の面が、基準ピッチ線上をほぼ中心とする円弧面だけで形成され、他方の歯車の歯元の面が、基準ピッチ線上をほ ぼ中心とする円弧面だけで形成されている、円弧歯形としたことを特徴とする。
【0011】
請求項1及び請求項2は、はすば歯車であるから、すぐば歯車(平歯車)よりも大きいトルクを伝達することができる。
操舵輪を左又は右へ最大操舵角まで操舵して、ラック軸がラックエンドストッパに衝突したとき、すなわち、ラック軸が移動終端まで移動したとき、ラックは即時に停止する。このときのトルクは、静トルクではなく衝撃トルクであるから、通常の操舵時よりも極めて大きい。しかし、はすば歯車としてのピニオンのねじれ角が、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲にあるから、このときには、ピニオンにスラストが作用しない。従って、ピニオンに作用するスラストは、ラックが左又は右の移動終端で停止していない通常の状態にあるときの、極めて小さい力だけである。
さらには、円弧歯形であるから、インボリュート歯形よりも表面疲れ強さ、曲げ強さ、曲げ疲れ強さが大きい。このため、運転者の操舵トルクに電動機の補助トルクを加えた複合トルクが、通常の操作時よりも大きい場合であっても、十分に伝達することができる。
【0012】
請求項3は、電動機と歯車式減速機構との間にトルクリミッタを介在させたことを特徴とする。
【0013】
所定以上のトルクをトルクリミッタにてカットすることで、電動機から歯車式減速機構へ伝達する補助トルクを制限する。従って、ラック軸がラックエンドストッパに衝突したときに、電動機に反力として過大なトルクが発生することはない。
【0014】
請求項4は、操舵トルクを操舵トルクセンサにて検出するようにし、この操舵トルクセンサを、ラックアンドピニオン機構におけるピニオン軸の磁歪を検出する磁歪式センサで構成したことを特徴とする。
【0015】
従来の操舵トルクセンサで操舵トルクを検出する場合のように、ピニオン軸を長手方向に二分割して、これら分割軸間をトーションバーにて連結する必要がない。分割しないので、ピニオン軸を長くすることができる。ピニオン軸を長くできると加工精度が高まり、ピニオンとラックの噛み合い精度が高まる。特に、円弧歯形のラックアンドピニオン機構では、噛み合い精度と動力伝達効率の相関関係が非常に強いので、噛み合い精度の向上は重要である。
【0016】
請求項5は、歯車式減速機構を、駆動ギヤと従動ギヤの組合せ構造とし、これらの駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面のいずれか一方又は両方を、低摩擦剤からなる被膜層にて被覆するとともに、駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面とを、バックラッシが無いように噛み合わせたことを特徴とする。
ここで、「低摩擦剤からなる被膜層にて被覆する」ことには、低摩擦剤にてコーティングしたり低摩擦剤を含浸させることを包含する。
【0017】
駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面とを、バックラッシが無いように噛み合わせた。このため、駆動ギヤと従動ギヤの噛み合いのガタが無い。ガタが無いので、電動機の慣性による衝撃トルクが、駆動ギヤの歯面から従動ギヤの歯面に作用することはない。従って、歯車式減速機構の耐久性は、より一層高まる。
さらには、駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面のいずれか一方又は両方を、低摩擦剤からなる被膜層にて被覆した。駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面との間の滑り面の摩擦係数を、低摩擦剤にて低減させる。従って、駆動ギヤと従動ギヤの噛み合いのガタが無いにもかかわらず、動力伝達効率を高めることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る車両用ステアリングシステムの模式図である。
車両用ステアリングシステム10は、車両のステアリングハンドル11から操舵輪(車輪)21,21に至るステアリング系22に電動パワーステアリング装置30を備えた、電動パワーステアリングシステムである。
【0019】
詳しくは、車両用ステアリングシステム10は、ステアリングハンドル11にステアリングシャフト12及び自在軸継手13,13を介して、電動パワーステアリング装置30の入力軸31を連結し、入力軸31にラックアンドピニオン機構32を連結し、ラックアンドピニオン機構32に左右のタイロッド37,37を介して左右の操舵輪21,21を連結したものである。
ラックアンドピニオン機構32は、入力軸31に設けたピニオン33と、ピニオン33に噛み合うためのラック34を設けたラック軸35とからなる。電動パワーステアリング装置30は操舵トルクセンサ70を備える。
【0020】
このような車両用ステアリングシステム10によれば、運転者がステアリングハンドル11を操舵し、この操舵トルクにより入力軸31、ラックアンドピニオン機構32及び左右のタイロッド37,37を介して、左右の操舵輪21,21を操舵することができる。
【0021】
さらには、ステアリングハンドル11で発生したステアリング系22の操舵トルクを操舵トルクセンサ70で検出し、この検出信号に基づき制御手段81で制御信号を発生し、この制御信号に基づき操舵トルクに応じた補助トルクを電動機82で発生し、補助トルクをトルクリミッタ90、歯車式減速機構110及び入力軸31を介して、ステアリング系22のラックアンドピニオン機構32に伝達し、このラックアンドピニオン機構32及び左右のタイロッド37,37によって、左右の操舵輪21,21を操舵することができる。
従って、運転者の操舵トルクに電動機82の補助トルクを加えた複合トルクによって、操舵輪21,21を操舵することができる。
【0022】
図2(a),(b)は本発明に係る操舵トルクセンサの原理図である。
操舵トルクセンサ70は、鉄鋼材のように磁歪特性を有する入力軸31にトルクが作用したときに、このトルクに応じて生じる磁歪効果を電気コイルにて電気磁気的に検出する、磁歪式トルクセンサである。このような磁歪式トルクセンサは、特開平6−221940号公報「磁歪式トルクセンサ」に示されるように、公知のセンサである。以下、操舵トルクセンサ70の概要について説明する。
【0023】
(a)に示す操舵トルクセンサ70は、概ね8の字状に形成した励磁コイル71と、励磁コイル71とほぼ同様の大きさで概ね8の字状に形成した検出コイル72とを、ほぼ同心上に互いに略直交させて重ね、これらの励磁・検出コイル71,72を1組の磁気ヘッド73として、入力軸31の外周面の近傍に配置したものである。すなわち、入力軸31の外周面に対向して、概ね8の字状の励磁コイル71を配置し、この励磁コイル71に概ね8の字状の検出コイル72を90゜位相を変えた状態で重ね合わせた。この場合、励磁コイル71をなす8の字状の直線部分を、入力軸31の外周にほぼ平行又は軸方向にほぼ平行にして配置する。74は励磁電圧供給源、75は出力電圧増幅器である。
【0024】
励磁電圧供給源74から励磁コイル71に20〜100kHz程度の高周波数の交流電圧(励磁電圧)を供給すれば、トルクに基づく入力軸31の磁歪効果に対応して、検出コイル72にて励磁電圧と同じ周波数の交流電圧(出力電圧)を得ることができる。
出力電圧は、入力軸31に作用するトルクの方向によって、励磁電圧と同相又は逆相になる。このときの出力電圧の振幅は、トルクの大きさに比例する。従って、励磁電圧の位相を基準として、出力電圧を同期整流すれば、トルクの大きさと方向を検出することができる。
【0025】
出力電圧は出力電圧増幅器75にて増幅され、操舵トルクセンサ70の検出信号として、制御手段81に発することになる。
なお、入力軸31の磁化力が小さければ、励磁コイル71と検出コイル72の巻数を増し、これらの励磁・検出コイル71,72を1巻ずつ交互に配列することで、対応すればよい。
【0026】
(b)に示す操舵トルクセンサ70は、励磁・検出コイル71,72からなる磁気ヘッド73を2組準備し、これら2組の磁気ヘッド73,73を、入力軸31の外周面の近傍に且つ入力軸31の軸線の対称位置に配置したものである。そして、出力電圧増幅器75で、検出コイル72,72からの出力電圧の差を増幅することにより、環境温度の変化に対してあまり変化しない操舵トルク信号を得ることができる。
【0027】
上記(a)や(b)の操舵トルクセンサ70を採用することにより、従来の電動パワーステアリング装置において操舵トルクを検出する場合のように、入力軸31を長手方向に二分割して、これら分割軸間をトーションバーにて連結する必要がない。従って、入力軸31を簡素な構成にすることができるとともに、入力軸31を十分に長く設定することができる。
しかも、図1に示す入力軸31に設けたピニオン33を加工する場合に、入力軸31を加工機械にセッテイングすることが容易であり、加工精度を一層高めることができる。加工精度が高まると、ピニオン33とラック34との噛み合い精度も高まる。この結果、ラックアンドピニオン機構32の動力伝達効率を高めることができる。
【0028】
図3は本発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図であり、左端部及び右端部を断面して表したものである。この図は、電動パワーステアリング装置30のラック軸35を、車幅方向(図左右方向)に延びるハウジング41に軸方向へスライド可能に収容したことを示す。
ラック軸35は、ハウジング41から突出した長手方向両端にボールジョイント36,36をねじ結合し、これらのボールジョイント36,36に左右のタイロッド37,37を連結した軸である。ハウジング41は、図示せぬ車体に取付けるためのブラケット42,42を備えるとともに、長手方向両端部にストッパ43,43を取付けたものである。
【0029】
ラック軸35が右へ所定量だけスライドすると、左のボールジョイント36の当接端面(ラックエンド)38がストッパ43に当る。ラック軸35が左へ所定量だけスライドすると、右のボールジョイント36の当接端面(ラックエンド)38がストッパ43に当る。このようにしてラック軸35の移動量を規制することで、左右の操舵輪21,21(図1参照)の最大操舵角を制限することができる。すなわち、ラック軸35が移動終端まで移動したときに、左右の操舵輪21,21の操舵角は最大になる。
図中、44,44はダストシール用ブーツである。
【0030】
図4は図3の4−4線断面図であり、電動パワーステアリング装置30の縦断面構造を示す。
電動パワーステアリング装置30は、入力軸31、ラックアンドピニオン機構32、操舵トルクセンサ70、トルクリミッタ90(図1参照)、歯車式減速機構110をハウジング41に収納し、このハウジング41の上部開口をリッド45で塞いだものである。操舵トルクセンサ70は、ハウジング41又はリッド45に取付けたものである。
【0031】
ハウジング41は、入力軸31の下端部及び長手中央部を、上下2個の軸受51,52を介して回転可能に支承することで、縦置きにセットしたものであり、ラックガイド60を備える。53はリッド取付ボルト、54は止め輪である。
【0032】
入力軸31は、下部にピニオン33を一体に形成し、さらに下端部にねじ部55を形成するとともに、上端部をリッド45から外方へ突出したピニオン軸である。ラック34は、ラック軸35に一体に形成したものである。ねじ部55にナット56をねじ込むことで、入力軸31の長手方向(軸方向)の移動を規制することができる。57は袋ナット、58はオイルシール、59はスペーサである。
【0033】
ラックガイド60は、ラック34と反対側からラック軸35に当てるガイド部61と、このガイド部61を圧縮ばね62を介して押す調整ボルト63とからなる。このようなラックガイド60によれば、ハウジング41にねじ込んだ調整ボルト63にて、圧縮ばね62を介してガイド部61を適切な押圧力で押すことで、ガイド部61でラック34に予圧を与えて、ラック34をピニオン33に押し付けることができる。64はラック軸35の背面を滑らせる当て部材、65はロックナットである。
【0034】
図5は図4の5−5線断面図であり、入力軸31と電動機82とトルクリミッタ90と歯車式減速機構110との関係を示す。
電動機82は、出力軸83を横向きにしてハウジング41に取付け、ハウジング41内に出力軸83を延したものである。
【0035】
歯車式減速機構110は、電動機82で発生した補助トルクを入力軸31に伝達するトルク伝達手段であって、駆動ギヤと従動ギヤの組合せ構造である、ウォームギヤ機構からなる。詳しくは、歯車式減速機構110は、電動機82の出力軸83にトルクリミッタ90を介して連結した伝動軸111と、伝動軸111に形成したウォーム(駆動ギヤ)112と、ウォーム112に噛み合うとともに入力軸31に結合したウォームホイール(従動ギヤ)113とからなる。電動機82の補助トルクを、入力軸31を介してラックアンドピニオン機構32(図1参照)に伝達することができる。
【0036】
本発明は、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面との、いずれか一方又は両方を、表面処理することによって、低摩擦剤からなる被膜層にて被覆したことを特徴とする。低摩擦剤からなる被膜層にて被覆するには、例えば、低摩擦剤にてコーティングしたり低摩擦剤を含浸させる。低摩擦剤にて、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面との間の、滑り面の摩擦係数を所定値まで低減させることにより、動力伝達効率を高めることができる。
低摩擦剤としては、例えば、ポリテトラフルエチレン(略記;PTFE、登録商標;テフロン)等のフッ素樹脂がある。フッ素樹脂は摩擦係数が極めて小さい。
【0037】
上記低摩擦剤を用いる表面処理方法としては、次の第1表面処理方法や第2表面処理方法がある。
(1)第1表面処理方法は、ウォーム112やウォームホイール113の材質を機械構造用炭素鋼鋼材(JIS-G-4051)等の鉄鋼とし、所定の処理液中でウォーム112の歯面やウォームホイール113の歯面に無電解ニッケルとPTFEを共析させ、被膜の中にPTFEを容積比で10〜30%まで均一に含ませ、被膜生成後に熱処理(約400℃で焼成)を施すことで、歯面に無電解ニッケルとPTFEの被膜を強固に密着させる処理方法である。被膜の厚みは5〜20μmである。この第1表面処理方法は、アルバックテクノ(株)の「ニフグリップ(登録商標)」として知られている。
【0038】
(2)第2表面処理方法は、ウォーム112やウォームホイール113の材質を機械構造用炭素鋼鋼材(JIS-G-4051)等の鉄鋼とし、ウォーム112の歯面やウォームホイール113の歯面に、無電解メッキ法にてニッケル・リンの多孔性被膜を形成し、この多孔性被膜にPTFEを含浸させ、その後に、熱処理(約400℃で焼成)を施すことで、歯面に被膜を強固に密着させる処理方法である。歯面に密着した被膜は、粒子状に析出したニッケル・リンの多孔性被膜にPTFEを含浸させたものであり、厚みは5〜20μmである。この第2表面処理方法は、アルバックテクノ(株)の「ニダックス(登録商標)」として知られている。
【0039】
伝動軸111は、出力軸83と同心上に配置し、2個の軸受114,115を介してハウジング41にて回転可能に支承した軸である。ハウジング41は、出力軸83に近い位置にある第1軸受114を軸方向移動不能に取付け、出力軸83から遠い位置にある第2軸受115を軸方向移動可能に嵌合したものである。
さらには、第2軸受115の外輪の端面を、板ばね116を介して調整ボルト117で出力軸83側に押している。調整ボルト117と薄板円盤状の板ばね116の押圧力にて、第1・第2軸受114,115に予圧を与えることで、伝動軸111の軸方向の遊びがないように調整する、すなわち、ガタ取りすることができる。しかも、ウォーム112の軸方向変位を調整して、ウォーム112とウォームホイール113の噛み合いを、適切な摩擦を保ちつつガタが無いように調整することができる。
また、板ばね116の弾性力により、伝動軸111の軸方向の熱膨張等を吸収することができる。118はロックナット、119は止め輪である。
【0040】
ところで、本発明は、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面とを、バックラッシが無いように噛み合わせたことを特徴とする。バックラッシを無くする構成としては、例えば、次の(1)〜(4)の組合せからなる。
(1)ウォーム112を金属製品にするとともに、その歯面を上記低摩擦剤からなる被膜層にて被覆する。
(2)ウォームホイール113を樹脂製品にする。
(3)ウォーム112の中心O1からウォームホイール113の中心O2までの距離Xを、所定の理論値(基準値)に設定する。
(4)ウォーム112の基準ピッチ円直径d1又はウォームホイール113の基準ピッチ円直径d2を、所定の理論値(基準値)よりも若干大きく設定する。
【0041】
歯車式減速機構110を組立たときに、基準ピッチ円直径d1又はd2が大きい分だけ、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面とを、予圧を付加して噛み合わせることになる。この結果、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面との間のバックラッシ(噛み合い隙間)が無くなるので、噛み合いのガタが無くなる。噛み合いのガタが無いので、電動機82の慣性による衝撃トルクが、ウォーム112の歯面からウォームホイール113の歯面に作用することはない。従って、歯車式減速機構110の耐久性が、より一層高まる。
【0042】
但し、バックラッシが無いので、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面との間の噛み合い抵抗(フリクション)が増す。この点を解消するために、ウォーム112の歯面を上記低摩擦剤からなる被膜層にて被覆した。この結果、低摩擦剤にて、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面との間の、滑り面の摩擦係数を低減させることができる。従って、ウォーム112とウォームホイール113の噛み合いのガタが無いように調整したにもかかわらず、各ギヤ112,113の歯面同士の摩擦を適切に保って、動力伝達効率を高めることができる。
【0043】
図6は本発明に係るトルクリミッタの断面図である。
本発明は、電動機82と歯車式減速機構110との間にトルクリミッタ90を介在させたことを特徴とする。トルクリミッタ90は、電動機82の出力軸83にセレーション結合したインナ部材91を、伝動軸111にセレーション結合した筒状のアウタ部材93に嵌合したトルク制限機構である。
【0044】
インナ部材91は外周面92を、伝動軸111の先端に向って先細りテーパとした雄部材である。アウタ部材93は内周面94を、インナ部材91の外周面92が嵌合するべく先広がりテーパとした雌部材である。テーパ状の外周面92をテーパ状の内周面94に嵌合し、インナ部材91の後端面95を皿ばね96で弾発しつつ止め輪97で抜け止めすることで、トルクリミッタ90を組立ることができる。101はスペーサ、102はワッシャ、103は皿ばねである。
【0045】
皿ばね96の弾発力で、外周面92を内周面94に押し付けて予圧を与えることにより、外周面92を内周面94に所定の摩擦力を有して、連結することができる。このようなトルクリミッタ90であるから、所定の摩擦力を上回る大きなトルクが作用すると、外周面92と内周面94との間がスリップする。この結果、電動機82から歯車式減速機構110へ伝達する補助トルクを制限、すなわち、オーバートルクをカットすることができる。従って、電動機82に過大なトルクが発生することはなく、また、負荷側に過大なトルクが伝わることもない。
【0046】
さらには、インナ部材91をアウタ部材93にテーパにて嵌合したので、両者の組立精度は高く、心合せも容易である。従って、出力軸83に対する伝動軸111の組立精度は高く、心合せも容易である。
また、比較的高速回転する電動機82と歯車式減速機構110との間に、トルクリミッタ90を介在させたので、トルクリミッタ90が小さくてすみ、トルクリミッタ90の小型化、低コスト化を図ることができる。小型のトルクリミッタ90であるから配置スペースが少なくてすむので、ハウジング41に収納することが容易である。
【0047】
図7(a)〜(d)は本発明に係るラックアンドピニオン機構の構成図である。なお、理解を容易にするために、ラック34よりも図手前側にピニオン33を配置して表した。L1はピニオンの中心線、L2はラック軸の中心線、L3はラックの歯面に直角な線である。
なお、図7及び図8においては、ピニオンの中心線L1がラック軸の中心線L2に直交する場合について、説明する。
【0048】
(a)は、ラックアンドピニオン機構32のピニオン33並びにラック34を「はすば歯車(ヘリカルギヤ)」としたことを示す。すなわち、ピニオン33は、はすばピニオンであり、ラック34は、はすばラックである。
例えば、ピニオン33をなす「はすば歯車」とは、(b)に示すように、基準ピッチ面となる円筒33aの周面と歯面33bとの交線である、歯すじ33cが、所定のねじれ角θを有したつる巻線である、円筒歯車を言う。「ねじれ角θ」とは、つる巻線33dとつる巻線33dを考える円筒33aの母線33eとのなす、鋭角θを言う。
【0049】
(c)は、ラック34をなす「はすば歯車」の部分拡大斜視図であり、はすば歯車のねじれ角が、ピニオン33をなす「はすば歯車」のねじれ角θと同一であることを示す。
本発明は、ピニオン33並びにラック34をなす、はすば歯車のねじれ角θを、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲に設定したことを特徴とする。その理由については後述する。
【0050】
(d)は、ピニオン33並びにラック34をなす「はすば歯車」の歯形の拡大断面図であり、はすば歯車の歯形が円弧歯形であることを示す。
円弧歯形の歯車については、「[新しい歯車とその応用]円弧歯形歯車」(機械設計・第26巻第3号(1982年3月号)第47頁〜第51頁、日刊工業新聞社発行)の文献等によって知られている。以下、円弧歯形の概要について説明する。
【0051】
円弧歯形の歯車とは、1組の歯車のうち、少なくとも一方の歯車の歯末の面を、基準ピッチ線Pi上をほぼ中心とする円弧面に形成し、少なくとも他方の歯車の歯元の面を、基準ピッチ線Pi上をほぼ中心とする円弧面に形成した、円弧歯形を有する歯車であって、W/N歯車とも言う。円弧歯形の歯車には、対称形の円弧歯形と非対称形の円弧歯形がある。
ここで、歯元の面とは、歯底曲面と基準ピッチ線Piとの間にある歯面の部分であり、歯末の面とは、歯先曲面と基準ピッチ線Piとの間にある歯面の部分である。
【0052】
ピニオン33において、対称形の円弧歯形とは、(d)に示すように、歯末の面33fを円弧面に形成するとともに歯元の面33gも円弧面に形成、すなわち、歯末の面33fと歯元の面33gとを、基準ピッチ線Piに対してほぼ点対称形の円弧面に形成した円弧歯形であり、例えば、ノビコフ歯車第3種やシンマーク歯車がある。rは円弧面の半径である。
ラック34における、対称形の円弧歯形も、上記ピニオン33における対称形の円弧歯形と同一であって、歯末の面34aと歯元の面34bとを、基準ピッチ線Piに対してほぼ点対称形の円弧面に形成したものである。
【0053】
一方、非対称形の円弧歯形とは、1組の歯車のうち、一方の歯車の歯を、基準ピッチ線Pi上をほぼ中心とする歯末円弧だけで形成し、他方の歯車の歯を、基準ピッチ線Pi上をほぼ中心とする歯元円弧だけで形成した円弧歯形であり、例えば、ノビコフ歯車第1,2種やサーカーク歯車がある。
本発明においては、はすば歯車の歯形を、対称形の円弧歯形にすることが、より好ましい。
【0054】
インボリュート歯形の正面歯形は、凸歯面と凸歯面との噛み合いである。これに対して本発明は、はすば歯車の歯形を円弧歯形にした。円弧歯形の正面歯形は、凹歯面と凸歯面との噛み合いである。歯すじ方向の相対曲率半径が大きいので、負荷が作用したときには、接触線が大きな面積を有した領域となる。一般に、円弧歯形の強度はインボリュート歯車に比べて、表面疲れ強さが6〜7倍、曲げ強さが1.5〜1.6倍、曲げ疲れ強さが1.5〜1.6倍である。
【0055】
ピニオン33並びにラック34を上述の円弧歯形のはすば歯車にしたことにより、これらの歯車の強度をより一層高めることができ、例えば、次のようなときに効果を発揮する。
左右の操舵輪を最大操舵角まで操舵したとき、すなわち、図3においてラック軸35が移動終端まで移動したとき、左のボールジョイント36がストッパ43に当ったり、右のボールジョイント36がストッパ43に当たることで、ラック34(図1参照)は即時に停止する。このとき、通常の操舵時よりも極めて大きなトルクが、ピニオン33(図1参照)とラック34とに作用する。このような場合であっても、強度を高めたピニオン33並びにラック34は、大トルクを十分に受けることができる。
【0056】
図8(a)〜(c)は本発明に係るラックアンドピニオン機構の概念図である。
(a)は、ピニオン33を回転させることで、ラック34を図左方向に移動させたことを示す。左右の操舵輪を右へ最大操舵角まで操舵したとき、すなわち、ラック軸35が移動終端まで移動したとき、右のボールジョイント36がストッパ43に当たることで、ラック34は即時に停止する。このときのトルクは、衝撃トルクであるので、通常の操舵時よりも極めて大きい最大トルクである。
【0057】
(b)は、ピニオン33の歯面でラック34の歯面を図左方向に押している状態を示した模式図である。(c)は、(b)を更に模式的に示した図であり、ラック34の歯面を斜辺Dとする直角三角形を、△ABCとして表した。
(b)及び(c)において、斜辺Dの傾斜角は、はすば歯車のねじれ角θと同一のθである。斜辺Dをピニオン33の歯Eで押す力はW0であり、この力W0はピニオン33のピッチ円上の円周方向に作用する力(ピニオン33の回転力)に相当する。従って、力W0は線ABに直角方向に働く。
【0058】
移動終端で停止した状態のラック34を、ピニオン33で更に押した場合には、歯Eは斜辺D上を点A方向へ滑って移動しようとする。斜辺Dと歯Eとの間に働く直圧力、すなわち、ピニオン33の歯面とラック34の歯面との間に働く直圧力(歯面に直角に働く力)W1は、
W1=W0×cosθ ………(1)
斜辺Dに平行に働く力(ラック34の歯面に平行に働く力)W2は、
W2=W0×sinθ ………(2)
【0059】
また、力W2によって、歯Eが斜辺D上を点A方向へ滑って移動しないように、線ABと平行な力P0で支える必要がある。この支える力P0はピニオン33に働くスラストであり、力P0の方向は力W0の方向と直交する。支える力P0の分力は、斜辺Dに直角な分力P1と斜辺Dに平行な分力P2とであり、次式で表すことができる。
P1=P0×sinθ ………(3)
P2=P0×cosθ ………(4)
【0060】
斜辺Dに直角な方向の力の成分の総和、すなわち、複合直圧力Rは直圧力W1と分力P1の和であるから、これを次式で表すと、
R=W1+P1 ………(5)
ピニオン33の歯面とラック34の歯面との間の最大摩擦力をFとしたとき、最大摩擦力Fの大きさは複合直圧力Rに比例する。
これを次式で表すと、
F=μ×R ………(6)
但し、μは、はすば歯車としてのピニオン33の歯面とラック34の歯面との間の、摩擦係数である。摩擦係数μに対応する、はすば歯車の摩擦角をρとすれば、
μ=tanρ ………(7)
力W2によって、歯Eが斜辺D上を点A方向へ滑って移動しようとするので、摩擦力Fは力W2の方向と逆向きに働く。
【0061】
斜辺Dに平行な3つの力F、W2、P2は次式の関係にある。
P2=W2−F ………(8)
(8)式に(1)〜(6)式を代入すると、
P0×cosθ=W0×sinθ−μ×R
=W0×sinθ−μ(W1+P1)
=W0×sinθ−μ(W0×cosθ+P0×sinθ)
=W0×sinθ−μ×W0×cosθ−μ×P0×sinθ …(9)
(9)式を整理すると、
P0(cosθ+μ×sinθ)=W0(sinθ−μ×cosθ) ………(10)
P0=W0(sinθ−μ×cosθ)/(cosθ+μ×sinθ) ………(11)
(11)式に(7)式を代入すると、
【0062】
【数1】
【0063】
上記(12)式から明らかなように、θ=ρのときにはP0=0となる。また、θ<ρのときにはP0<0となる。従って、ラック34が停止した状態では、ピニオン33に大きなトルクが作用しても、ピニオン33にスラスト、すなわち、力P0が働くことはない。これが、はすば歯車のねじれ角θを、はすば歯車の摩擦角ρを越えない範囲(0°<θ≦ρ)に設定したことの、理由である。
【0064】
一方、ラック34が左又は右の移動終端で停止していない、通常の状態にあるとき、ピニオン33でラック34を左又は右へ駆動する場合には、斜辺Dをピニオン33の歯Eで押す力は、力W0よりも極めて小さい力である。この小さい力に応じたスラストがピニオン33に働くことになる。
このように、ピニオン33に作用するスラストを、極めて小さなものに抑制することができる。
【0065】
次に、入力軸31を傾けて取付けた場合の、ピニオン33に作用するスラストについて、図9に基づき説明する。
図9(a),(b)は本発明に係るラックアンドピニオン機構の変形概念図である。
(a)は、ラック軸35の中心線L2に直交する直線を基準線Sとしたとき、この基準線Sから図左へ、入力軸31を傾き角αだけ傾けた場合を示す。(b)は、基準線Sから図右へ、入力軸31を傾き角αだけ傾けた場合を示す。
【0066】
ここで、はすば歯車としてのラック34のねじれ角をβとする。(a)のラック34のねじれ角はβ=θ+αであり、(b)のラック34のねじれ角はβ=θ−αである。しかし、ピニオン33のねじれ角θは、入力軸31の傾き角αにかかわらず、一定である。ピニオン33のねじれ角θが常に一定であるから、ピニオン33に働くスラストP0も一定であり、上記(12)式で表すことができる。
上述のように、ピニオン33のねじれ角θについては、はすば歯車の摩擦角ρを越えない範囲(0°<θ≦ρ)に設定してある。従って、入力軸31の傾き角αにかかわらず、ラック34が停止した状態では、ピニオン33に大きなトルクが作用しても、ピニオン33にスラスト、すなわち、力P0が働くことはない。
【0067】
以上をまとめると、ピニオン33並びにラック34をはすば歯車としたので、すぐば歯車(平歯車)に比べて、比較的大きいトルクを伝達することができる。この結果、ラックアンドピニオン機構32を小型にすることができる。
しかも、はすば歯車としてのピニオン33のねじれ角θを、はすば歯車の摩擦角ρを越えない範囲に設定したので、ピニオン33に作用するスラストは、ラック34が左又は右の移動終端で停止していない、通常の状態にあるときの小さい力だけである。このため、図8(a)の入力軸31や図9(a),(b)の入力軸31に作用するスラストは小さく、入力軸31を支承した軸受51,52や、入力軸31に連結した歯車式減速機構110(図4参照)に、作用するスラストも小さい。
従って、はすば歯車を採用したにもかかわらず、入力軸31、軸受51,52、歯車式減速機構110の強度を高める必要がなく、これらの部材を小型にすることができるとともに、安価にすることができる。
【0068】
図10は本発明に係る歯車式減速機構の変形例図(その1)であり、歯車式減速機構110における伝動軸111の支持構造の変形例を示す。
変形例の支持構造は、伝動軸111を第1・第2軸受114,115並びに偏心スリーブ121を介して、ハウジング41にて支承したことを特徴とする。詳しくは、偏心スリーブ121は、ハウジング41の孔に回転可能に嵌合した管状スリーブであり、この管状スリーブの内部の孔に第1・第2軸受114,115を嵌合し、これらの第1・第2軸受114,115を介して伝動軸111を回転可能に支承したものである。ハウジング41に偏心スリーブ121をリング状ボルト122にて軸方向に押し付けることで、ハウジング41に偏心スリーブ121を摩擦力で固定することができる。
【0069】
図11は本発明に係る歯車式減速機構の変形例図(その2)であり、上記図10の11−11線断面における、ウォーム112とウォームホイール113と偏心スリーブ121との関係を表したものである。
この図は、偏心スリーブ121の中心O3に対して、ウォーム112の中心O1(伝動軸111の中心O1)が、上又は下へ偏心量δだけ偏心していることを示す。偏心スリーブ121の偏心した位置で伝動軸111を支承するので、偏心スリーブ121を回転させると、ウォーム112の中心O1が中心O2に接・離するように移動する。この結果、ウォーム112の中心O1からウォームホイール113の中心O2までの距離Xが変わる。このため、偏心スリーブ121を回転させるだけで、ウォームホイール113に対するウォーム112のバックラッシを容易に調整することができる。なお、この変形例においても、ウォーム112を金属製品にするとともに、その歯面を上記低摩擦剤からなる被膜層にて被覆し、また、ウォームホイール113を樹脂製品にすることが好ましい。
【0070】
従って、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面とを、バックラッシが無いように噛み合わせ調整し、更に、ウォーム112の歯面とウォームホイール113の歯面とを、予圧を付加して噛み合わせることができる。バックラッシが無くなるので、ウォーム112とウォームホイール113との噛み合いのガタが無くなる。噛み合いのガタが無いので、電動機82(図10参照)の慣性による衝撃トルクが、ウォーム112の歯面からウォームホイール113の歯面に作用することはない。従って、変形例においても、歯車式減速機構110の耐久性が、より一層高まる。
【0071】
このような歯車式減速機構110の噛み合わせ調整作業は、次の手順による。
(1)上記図10において、電動機82及びリング状ボルト122を外した状態で、偏心スリーブ121を工具で徐々に回転させる。この結果、伝動軸111の中心O1が移動するので、ウォームホイール113に対するウォーム112のバックラッシを調整することができる。
(2)調整完了後にリング状ボルト122を締めて、ハウジング41に偏心スリーブ121を摩擦力で固定する。
(3)電動機82に組込んだ状態のトルクリミッタ90を、ハウジング41内に挿入して、伝動軸111に嵌合させる。
(4)ハウジング41に電動機82をボルト123にて取付けて、作業を完了する。なお、電動機82のボルト孔124は、通常のボルト孔径よりも大きい孔である。従って、電動機82の出力軸83の中心を伝動軸111の中心O1に容易に合せることができる。
【0072】
なお、上記実施の形態において、トルクリミッタ90は、摩擦式トルクリミッタに限定されるものではない。
また、歯車式減速機構110は、ウォームギヤ機構に限定されるものではなく、例えば、ベベルギヤ機構や平歯車機構であってもよい。
【0073】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1及び請求項2記載の発明は、電動パワーステアリング装置におけるラックアンドピニオン機構のピニオン並びにラックをはすば歯車としたので、すぐば歯車(平歯車)よりも大きいトルクを伝達することができる。
さらには、はすば歯車としてのピニオンのねじれ角を、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲に設定したので、ピニオンに作用するスラストは、ラックが左又は右の移動終端で停止していない、通常の状態にあるときの小さい力だけである。このため、入力軸に作用するスラストは小さく、入力軸を支承した軸受や、入力軸に連結した歯車式減速機構に、作用するスラストも小さい。従って、はすば歯車を採用したにもかかわらず、入力軸、軸受、歯車式減速機構の強度を高める必要がなく、これらの部材を小型にすることができるとともに、安価にすることができる。
【0074】
さらにまた、はすば歯車の歯形を円弧歯形としたので、歯車の強度がより一層高まる。従って、運転者の操舵トルクに電動機の補助トルクを加えた複合トルクが、通常の操作時よりも大きい場合であっても、大きいトルクを十分に伝達することができる。
このようなことから、電動機の慣性による負荷トルクに対して十分な耐久性を有するラックアンドピニオン機構を備えた、電動パワーステアリング装置を小型で安価にすることができる。
【0075】
請求項3は、電動機と歯車式減速機構との間にトルクリミッタを介在させたので、所定以上のトルクをトルクリミッタにてカットすることにより、電動機から歯車式減速機構へ伝達する補助トルクを制限することができる。従って、ラック軸がラックエンドストッパに衝突したときに、電動機に反力として過大なトルクが発生することはなく、また、負荷側に過大なトルクが伝わることもない。
【0076】
請求項4は、操舵トルクを操舵トルクセンサにて検出するようにし、この操舵トルクセンサを、ラックアンドピニオン機構におけるピニオン軸の磁歪を検出する磁歪式センサで構成したので、従来の操舵トルクセンサで操舵トルクを検出する場合のように、ピニオン軸を長手方向に二分割して、これら分割軸間をトーションバーにて連結する必要がない。このようにピニオン軸を分割しないので、ピニオン軸を長くすることができる。ピニオン軸を長くできると加工精度が高まり、ピニオンとラックの噛み合い精度が高まる。特に、円弧歯形のラックアンドピニオン機構では、噛み合い精度と動力伝達効率の相関関係が非常に強いので、噛み合い精度の向上は重要である。
【0077】
請求項5は、歯車式減速機構の駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面とを、バックラッシが無いように噛み合わせたので、駆動ギヤと従動ギヤの噛み合いのガタを無くすることができる。ガタが無いので、電動機の慣性による衝撃トルクが、駆動ギヤの歯面から従動ギヤの歯面に作用することはない。従って、歯車式減速機構の耐久性を、より一層高めることができる。
さらには、駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面のいずれか一方又は両方を、低摩擦剤からなる被膜層にて被覆することによって、駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面との間の滑り面の摩擦係数を、低摩擦剤にて低減させることができる。従って、駆動ギヤと従動ギヤの噛み合いのガタが無いにもかかわらず、歯車式減速機構の動力伝達効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る車両用ステアリングシステムの模式図
【図2】 本発明に係る操舵トルクセンサの原理図
【図3】 本発明に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図
【図4】 図3の4−4線断面図
【図5】 図4の5−5線断面図
【図6】 本発明に係るトルクリミッタの断面図
【図7】 本発明に係るラックアンドピニオン機構の構成図
【図8】 本発明に係るラックアンドピニオン機構の概念図
【図9】 本発明に係るラックアンドピニオン機構の変形概念図
【図10】 本発明に係る歯車式減速機構の変形例図(その1)
【図11】 本発明に係る歯車式減速機構の変形例図(その2)
【符号の説明】
21…操舵輪(車輪)、22…ステアリング系、30…電動パワーステアリング装置、31…ピニオン軸(入力軸)、32…ラックアンドピニオン機構、33…ピニオン、33f…歯末の面、33g…歯元の面、34…ラック、34a…歯末の面、34b…歯元の面、70…操舵トルクセンサ(磁歪式センサ)、82…電動機、90…トルクリミッタ、110…歯車式減速機構、112…駆動ギヤ(ウォーム)、113…従動ギヤ(ウォームホイール)、121…偏心スリーブ、Pi…基準ピッチ線、θ…はすば歯車のねじれ角、ρ…はすば歯車の摩擦角。
Claims (5)
- 電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを歯車式減速機構を介して、ステアリング系のラックアンドピニオン機構に伝達し、このラックアンドピニオン機構によって操舵輪を操舵するようにした電動パワーステアリング装置において、前記ラックアンドピニオン機構のピニオン並びにラックをはすば歯車とし、はすば歯車としてのピニオンのねじれ角を、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲に設定するとともに、前記はすば歯車の歯形を、1組の歯車の両方共に、歯末の面及び歯元の面が、基準ピッチ線上をほぼ中心とする円弧面である、円弧歯形としたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
- 電動機で操舵トルクに応じた補助トルクを発生し、この補助トルクを歯車式減速機構を介して、ステアリング系のラックアンドピニオン機構に伝達し、このラックアンドピニオン機構によって操舵輪を操舵するようにした電動パワーステアリング装置において、前記ラックアンドピニオン機構のピニオン並びにラックをはすば歯車とし、はすば歯車としてのピニオンのねじれ角を、はすば歯車の摩擦角を越えない範囲に設定するとともに、前記はすば歯車の歯形を、1組の歯車のうち、一方の歯車の歯末の面が、基準ピッチ線上をほぼ中心とする円弧面だけで形成され、他方の歯車の歯元の面が、基準ピッチ線上をほぼ中心とする円弧面だけで形成されている、円弧歯形としたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
- 前記電動機と前記歯車式減速機構との間にトルクリミッタを介在させたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記操舵トルクを操舵トルクセンサにて検出するようにし、この操舵トルクセンサを、前記ラックアンドピニオン機構におけるピニオン軸の磁歪を検出する磁歪式センサで構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
- 前記歯車式減速機構は、駆動ギヤと従動ギヤの組合せ構造であり、これらの駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面のいずれか一方又は両方を、低摩擦剤からなる被膜層にて被覆するとともに、駆動ギヤの歯面と従動ギヤの歯面とを、バックラッシが無いように噛み合わせたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の電動パワーステアリング装置。
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