JP4138853B2 - 赤外線センサic - Google Patents

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Description

本発明は、赤外線検知の分野、特に長波長帯の放射エネルギーを検知するような赤外線センサ、例えば人感センサの技術分野に関する。
一般に赤外線センサには、赤外線エネルギーを吸収することによって発生する温度変化を利用する熱型(焦電素子やサーモパイルなど)と、入射した光エネルギーで励起された電子によって生じる導電率の変化や起電力を利用する量子型とがある。熱型は室温動作が可能だが、波長依存性がなく、低感度で応答性が遅いという欠点がある。一方、量子型は低温に冷却する必要があるが、波長依存性があり、高感度で応答速度も速いという特徴を有している。
赤外線センサの応用は、人を検知することによって、照明やエアコン、TVなどの家電機器の自動オンオフを行う人感センサや、防犯用の監視センサなどが代表的な例である。最近、省エネルギーや、ホームオートメーション、セキュリティシステム等への応用で非常に注目されてきた。
人感センサとして現在使われている赤外線センサは、焦電効果を利用した焦電型赤外線センサである。焦電型赤外線センサは、非特許文献1に示されているように、その焦電素子のインピーダンスがきわめて高いために、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けやすい。そのため、金属Canパッケージなどのシールドが必須になる。また、I−V変換回路に大きなRやCが必要であり、小型化が困難となっている。
一方、量子型の赤外線センサとしては、HgCdTe(MCT)やInSb系がその代表的な材料として利用されてきた。MCTやInSb系を用いる場合、センサ部を液体窒素や液体ヘリウム、あるいはペルチェ効果を利用した電子冷却等で冷却する必要がある。一般に、冷却された量子型赤外線センサでは、焦電センサの100倍以上の高感度化を達成できる。また、素子抵抗は数10〜数100Ωと小さく、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響は受けにくい。ただし、パッケージについては低温に冷却する必要があるため、頑丈な金属パッケージが使われている。
さらに、量子型赤外線センサの中でも、MCTは最も高感度であるが、それに用いられるHgの蒸気圧は高い。そのため、結晶成長時の組成制御性や再現性が難しく、均一な膜が得られにくい。また素子化プロセスにおいても機械的強度が弱く、Hgの拡散や抜け出しという問題をかかえている。
InSb系については、検出すべき波長にあわせてInAsSb1−xの混晶が検討されている。例えば、InSb基板を用いてその上にInSbの一部をAsに置換してエピタキシャル成長する方法(特許文献1参照)などが試みられている。
さらに、読み出しおよび信号処理回路が集積化された基体の上に、赤外線センサ部を成長させたモノリシック構造が提案されている(特許文献2参照)。しかし、信号処理回路上に赤外線センサ部である化合物半導体薄膜を成長させる技術はきわめて難しく、実用的なデバイスとして応用可能な膜質は容易には得られない。また、信号処理回路を動作させたときに発生する熱が、その上にモノリシック形成された赤外線センサ部に熱ゆらぎのノイズとなって誤信号を与えてしまうことが問題となる。従って、この熱ゆらぎの影響を抑制するため、センサ全体を液体窒素等で冷却させることが必須となる。このような冷却は、一般の家電や照明用の人感センシングの用途には適さない。
特開昭53−58791号公報 特開平2−502326号公報 松井邦彦著「センサ活用141の実践ノウハウ」CQ出版、2001年5月20日、p56 A.G. Thompson and J.C. Woolley, Can. J. Phys., 45, 255 (1967)
本発明は、室温での動作が可能であり、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響も受けにくい超小型の、赤外線センサICを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するため、素子抵抗の小さな化合物半導体センサ部と該化合物半導体センサ部から出力される電気信号を処理する集積回路部を同一パッケージ内でハイブリッド形成させることにより、室温で検知できることを見出し、本発明をなすに至った。さらに本発明一実施形態に係る赤外線センサは、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくいという特徴を有することを見出した。さらに、本発明の一実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部は、素子抵抗が小さいため、化合物半導体センサ部から出力される信号処理回路におけるRやCを小さくでき、従ってセンサモジュールとしたときのICの小型化が可能となる。
さらに、本発明の一実施形態に係る赤外線センサICは、赤外線センサ部と集積回路部とを別々に製作できるので、デバイスプロセスはそれぞれに適したプロセスを利用できる。また、赤外線センサ部と集積回路部とはハイブリッド形成されているために、モノリシック構造で問題となった集積回路部からの発熱の影響を受けにくい。従って本発明の一実施形態に係る赤外線センサICは冷却する必要がないという大きな特徴を有している。
すなわち、本発明における第1の実施形態の赤外線センサICは、基板上に薄膜成長されたインジウム及びアンチモンを含む化合物半導体層を有し、該化合物半導体層により波長が5μm以上の赤外線を室温において検知して該検知を示す電気信号を出力する化合物半導体センサ部と、前記化合物半導体センサ部から出力される電気信号を処理して所定の演算を行う集積回路部とを備え、前記化合物半導体センサ部及び前記集積回路部が同一樹脂パッケージ内にハイブリッドの形態で配設され、前記化合物半導体センサ部は、基板と、該基板上に、格子不整合を緩和させる層であるバッファ層をはさんで形成された化合物半導体層とを備えており、前記バッファ層が、AlSb、AlGaSb、AlGaAsSb、GaInAsSbのいずれかであることを特徴とする。
本発明の第3の実施形態の赤外線センサICは、本発明の第1及び第2の実施形態の赤外線センサICにおいて、前記化合物半導体層が、第一化合物半導体層の単層からなり、かつ該第一化合物半導体層が、InSb、InAsSb、InSbBi、InAsSbBi、InTlSb、InTlAsSb、InSbN、InAsSbNのいずれかであることを特徴とする。ここで、前記第一化合物半導体層が、p型ドーピングされていてもよい。
本発明の第4の実施形態の赤外線センサICは、本発明の第1及び第2の実施形態の赤外線センサICにおいて、前記化合物半導体層が、インジウム及びアンチモンを含む材料である第二化合物半導体層と、該第二化合物半導体層上に該第二化合物半導体層とヘテロ接合するように形成された、アンチモンを含み、かつ前記第二化合物半導体層とは異なる材料である第三化合物半導体層とを備えることを特徴とする。ここで、前記第三化合物半導体層/前記第二化合物半導体層の組み合わせが、GaSb/InSb、GaInSb/InSb、InSb/InAsSb、GaSb/InAsSb、GaInSb/InAsSbのいずれかであってもよい。また、前記第二化合物半導体層と前記第三化合物半導体層との両方、もしくは、前記第三化合物半導体層のみが、p型ドーピングされていてもよい。
本発明の第5の実施形態の赤外線センサICは、本発明の第1及び第2の実施形態の赤外線センサICにおいて、前記化合物半導体層が、インジウム及びアンチモンの少なくとも一方を含む材料である第四化合物半導体層と、該第四化合物半導体層上に該第四化合物半導体層とヘテロ接合するように形成された、インジウム及びアンチモンの少なくとも一方を含み、かつ前記第四化合物半導体層とは異なる材料である第五化合物半導体層とを備え、前記第四化合物半導体層と前記第五化合物半導体層とは、周期的に積層された超格子構造であることを特徴とする。ここで、前記第五化合物半導体層/前記第四化合物半導体層の組み合わせが、InAs/GaSb、InAs/GaInSb、InAs/GaAsSb、InAsSb/GaSb、InAsSb/GaAsSb、InAsSb/GaInSbのいずれかであってもよい。
本発明の第6の実施形態の赤外線センサICは、本発明の第1及び第2の実施形態の赤外線センサICにおいて、前記化合物半導体層が、インジウム及びアンチモンを含み、n型ドーピングされた材料である化合物半導体層と、インジウム及びアンチモンを含み、p型ドーピングされた材料である化合物半導体層とを備えたp−n接合の積層体であることを特徴とする。ここで、前記積層体が、p型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたInSb、p型ドーピングされたInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたInSb、p型ドーピングされたGaInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたGaInSb、p型ドーピングされたGaInSb/p型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたGaInSbの中から選択されたp−n接合積層体であってもよい。
本発明の第7の実施形態の赤外線センサは、基板と、該基板上に形成された、複数の化合物半導体層が積層された化合物半導体の積層体とを備え、前記化合物半導体の積層体は、該基板上に形成された、インジウムおよびアンチモンを含み、n型ドーピングされた材料である第六化合物半導体層と、該第六化合物半導体層上に形成された、インジウムおよびアンチモンを含み、ノンドープあるいはp型ドーピングされた材料である第七化合物半導体層と、該第七化合物半導体層上に形成された、前記第七化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ前記第六化合物半導体層、及び前記第七化合物半導体層よりも大きなバンドギャップを有する材料である第八化合物半導体層とを備えることを特徴とする。前記第六化合物半導体層はInSbであり、前記第七化合物半導体層が、InSb、InAsSb、InSbNのいずれかであり、前記第八化合物半導体層は、AlInSb、GaInSb、またはAlAs、InAs、GaAs、AlSb、GaSbおよびそれらの混晶のいずれかであってもよい。また、前記第六化合物半導体層のn型ドーパントはSnであり、前記第七化合物半導体層および前記第八化合物半導体層のp型ドーパントはZnであってもよい。
また、前記化合物半導体の積層体は、前記第八化合物半導体層上に形成された、インジウムおよびアンチモンを含み、該第八化合物半導体層と同等か、またはそれ以上の濃度にp型ドーピングされた材料である第九化合物半導体層をさらに備えることができる。前記第九化合物半導体層は、InSbであってもよい。
さらに、前記基板は、半絶縁性、または前記基板と該基板に形成された第六化合物半導体層とが絶縁分離可能である基板であり、前記第六化合物半導体層のうち、前記第七化合物半導体層が形成されていない領域に形成された第1電極と、前記第八化合物半導体層上に形成された、第2電極とをさらに備えることができる。なお、「前記第八化合物半導体層上に形成された」とは、第八化合物半導体層に対して第2の電極が空間的に上に形成されることを指す。すなわち、第2の電極を第八化合物半導体層の直上に形成することに限らず、第八化合物半導体層に他の層(例えば、第九化合物半導体層)を形成し、該層に第2の電極を形成することも含まれる。ここで、前記基板上には、前記化合物半導体の積層体に形成された第1の電極と、該第1の電極が形成された化合物半導体の積層体の隣の化合物半導体の積層体に形成された第2の電極とが直列接続するように、複数の前記化合物半導体の積層体が連続的に形成されていてもよい。
本発明の第7の実施形態において、出力信号を測定する際に、前記第1および第2の電極間のバイアスをゼロバイアスとし、赤外線入射時の信号を開放回路電圧として読み出すようにしてもよい。
本発明の第8の実施形態の赤外線センサICは、本発明の第7の実施形態の赤外線センサと前記赤外線センサから出力される電気信号を処理して所定の演算を行う集積回路部とを備え、前記赤外線センサ及び前記集積回路部が同一パッケージ内にハイブリッドの形態で配設されていることを特徴とする。
本発明の第9の実施形態の赤外線センサの製造方法は、基板上に、インジウムおよびアンチモンを含み、n型ドーピングされた材料である第六化合物半導体層を形成する工程と、該第六化合物半導体層上に、インジウムおよびアンチモンを含み、ノンドープあるいはp型ドーピングされた材料である第七化合物半導体層を形成する工程と、該第七化合物半導体層上に、前記第七化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ前記第六化合物半導体層、及び前記第七化合物半導体層よりも大きなバンドギャップを有する材料である第八化合物半導体層を形成する工程とを有することを特徴とする。前記第六化合物半導体層はInSbであり、前記第七化合物半導体層が、InSb、InAsSb、InSbNのいずれかであり、前記第八化合物半導体層は、AlInSb、GaInSb、またはAlAs、InAs、GaAs、AlSb、GaSbおよびそれらの混晶のいずれであってもよい。また、前記第六化合物半導体層のn型ドーパントはSnであり、前記第七化合物半導体層および前記第八化合物半導体層のp型ドーパントはZnであってもよい。
さらに、前記第八化合物半導体層上に、インジウムおよびアンチモンを含み、該第八化合物半導体層と同等か、またはそれ以上の濃度にp型ドーピングされた材料である第九化合物半導体層を形成する工程をさらに有することができる。ここで、前記第九化合物半導体層は、InSbであってもよい。また、前記第九化合物半導体層のp型ドーパントはZnであってもよい。
本発明一実施形態に係る赤外線センサICを用いれば、超小型で、室温で動作可能な人感センサを実現できるため、これまで搭載が難しかった家電などへも容易に搭載が可能となる。本発明の一実施形態に係る赤外線センサICは、これまで、冷却が前提であり、計測用途にしか応用がされてこなかった化合物半導体を用いた量子型赤外線センサを、集積回路とハイブリッド化することにより、室温での動作を可能にする。しかも素子抵抗が小さいという化合物半導体素子が電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくいという特徴を生かし、小型で安価な人感センサを実現した。本発明の一実施形態に係る赤外線センサICを用いれば、ホームエレクトロニクスやオフィスエレクトロニクスの大幅な省エネルギー化が達成でき、エネルギー・環境上の有用性は計り知れない。
本発明について、以下で、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外線センサICの模式図を示す。図1中、符号1は、プリント基板(もしくはリードフレーム)、2は化合物半導体センサ部、3は集積回路部、4aはプリント基板1上に形成された引き回し電極を示している。化合物半導体センサ部2及び集積回路部3、ならびに集積回路部3及び引き回し電極4aは、それぞれ各電極13間をワイヤーボンディング4bで接続されている。符号5はパッケージカバーを示している。すなわち、プリント基板1上に、化合物半導体センサ部2及び集積回路部3とがハイブリッド形成されている。
本発明の一実施形態において、「化合物半導体センサ部」とは、入射された赤外線を検知し、その検知結果を電気信号として出力する手段、すなわち赤外線センサのことである。また、「集積回路部」とは、複数の回路素子が基板上または基板内に形成されている回路であり、化合物半導体センサ部から出力される赤外線の検知信号(電気信号)を処理して所定の演算を行う手段である。また、「ハイブリッド形成(ハイブリッドに形成する)」とは、1つの基板上に、集積回路部や化合物半導体センサ部などの素子を個別に組み合わせて、それらの素子を互いに電気的に接続して形成することである。
本発明の一実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を形成するために用いられる基板は、一般に単結晶を成長できるものであれば何でもよく、GaAs基板、Si基板などの単結晶基板が好ましく用いられる。また、それらの単結晶基板がドナー不純物やアクセプタ不純物によってn型やp型にドーピングされていてもよい。さらに、絶縁性の基板上に成長させた後、化合物半導体センサ部を他の基板に接着剤で付けて、絶縁性基板を剥がすことも行われる。
化合物半導体センサ部を構成する化合物半導体層は、各種の成膜方法を用いて形成される。例えば、分子線エピタキシー(MBE)法、有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などは好ましい方法である。上記成長方法により、所望の化合物半導体層を形成する。
化合物半導体センサ部を構成する化合物半導体層の材料として、E[eV]≦1.24/λ[μm](赤外線の波長λ=10μm)を満足するバンドギャップEを有する化合物半導体が用いられる。例えば、第一化合物半導体層としては、該半導体層にインジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含むものであればいずれを用いても良いが、中でも、InSb、InAsSb、InSbBi、InAsSbBi、InTlSb、InTlAsSb、InSbN、InAsSbNなどが好ましく用いられる。InAsxSb1-x混晶のバンドギャップEは、0.58x−0.41x+0.18=Eで表され、非常に大きな非線形因子がある(非特許文献2参照)。As組成比のxが0の場合、すなわちInSbは室温で約7.3μm以下の波長において感度が得られる。また、0.1≦x≦0.6の範囲においてはEg≦0.12eVとなり、10μm帯をピーク波長とした赤外線検知に対し、より適した化合物半導体層となる。さらに好ましいxの範囲は0.2≦x≦0.5である。図2に、GaAs基板6上に形成された第一化合物半導体層7の一例の断面図を示す。
また、化合物半導体層が、第二化合物半導体層と第三化合物半導体層とからなるヘテロ構造を形成していてもよい。本発明の一実施形態に係る第二化合物半導体層としては、該半導体層にインジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含むものであればいずれを用いても良く、また、第三化合物半導体層としては、該半導体層にアンチモンを含み、かつ第二化合物半導体層とは異なる材料であれば良い。中でも、第三化合物半導体層/第二化合物半導体層の好ましい組み合わせは、GaSb/InSb、GaInSb/InSb、InSb/InAsSb、GaSb/InAsSb、GaInSb/InAsSbなどである。特にInAsxSb1-x混晶のxは、上記で述べたように0.1≦x≦0.6の範囲が好ましく、さらに好ましいxの範囲は0.2≦x≦0.5である。図3に、GaAs基板6上に形成された第二化合物半導体層8/第三化合物半導体層9からなる化合物半導体センサ部2の例の断面図を示した(電極13は図示せず)。
なお、本明細書において、記号/がある場合、記号/の左側に記載される材料は、該記号/の右側に記載される材料の上に形成されることを示す。よって、上述のように、第三化合物半導体層/第二化合物半導体層とある場合は、第二化合物半導体層上に第三化合物半導体層が形成されることを示す。
本発明の一実施形態に係る、第一化合物半導体層、第二化合物半導体層や第三化合物半導体層は、p型ドーピングされていてもよい。p型のドーパントとしては、Be、Zn、C、Mg、Cd、Geなどが好ましく用いられる。ここで、ドーピング濃度とは、化合物半導体中にドーピングされる不純物原子の濃度である。p型ドーピング濃度としては、1×1016〜1×1017原子/cmであり、より好ましくは、2×1016〜5×1016原子/cmである。
本発明の一実施形態に係る、第一化合物半導体層、第二化合物半導体層や第三化合物半導体層をp型化する効果について以下に述べる。第一化合物半導体層、第二化合物半導体層や第三化合物半導体層を化合物半導体センサ部に用いる赤外線センサは、一般に光導電型赤外線センサと呼ばれる。光導電型赤外線センサの場合、感度Rpcは、数1で表される。ここで、λは赤外線の波長、hはプランク定数、cは光速、ηは量子効率、lはセンサ素子の長さ、wはセンサ素子の幅、Vはバイアス電圧、τはキャリアのライフタイム、dは化合物半導体層の膜厚、Nはセンサ素子のキャリア濃度、qは電子の電荷、μは電子移動度、Rinはセンサ素子の素子抵抗である。
Figure 0004138853
数1によれば、赤外線センサの高感度化のために、化合物半導体層の膜特性としては、電子移動度が大きく、素子抵抗が大きく、キャリア濃度ができるだけ小さい膜特性が求められる。本発明の一実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を構成する第一化合物半導体層や第二化合物半導体層、第三化合物半導体層は、ノンドープでn型を示す薄膜材料である。従って、キャリア濃度低減のために、それら化合物半導体層をp型ドーピングすることが好ましく行われる。膜厚については、薄いほどよいが、量子効率は膜厚が厚くなるほど大きくなるので最適値が存在する。また、素子抵抗についてもあまり大きくなると(kΩ以上)、電磁ノイズの影響を受けやすくなるため、最適値が存在する。
化合物半導体層が、第四化合物半導体層と第五化合物半導体層とが交互に積層された超格子構造を形成することも好ましく行われる。本発明の一実施形態に係る第四化合物半導体層はインジウム(In)及びアンチモン(Sb)の少なくとも一方を含む材料であり、第五化合物半導体層としてはインジウム(In)及びアンチモン(Sb)の少なくとも一方を含み、かつ第四化合物半導体層と異なる材料であれば良い。中でも好ましい超格子構造を形成する第五化合物半導体層/第四化合物半導体層の組み合わせとしては、InAs/GaSb、InAs/GaInSb、InAs/GaAsSb、InAsSb/GaSb、InAsSb/GaAsSb、InAsSb/GaInSbなどが、高感度な赤外線センサを実現する上で、非常に好ましく用いられる。また上記化合物半導体の中で、InAsSb1−x混晶のxは、上記で述べたように0.1≦x≦0.6の範囲が好ましく、さらに好ましいxの範囲は0.2≦x≦0.5である。図4には、GaAs基板6上に第四化合物半導体層10と第五化合物半導体層11とが交互に積層された超格子構造の化合物半導体センサ部2の一例の断面図を示す(電極13は図示せず)。
超格子構造は、Type−IIと呼ばれるバンド構造である。すなわち、超格子構造とは、第五化合物半導体層を構成する薄膜材料の伝導帯が、第四化合物半導体層を構成する薄膜材料の価電子帯の下に位置しており、バンドギャップが分離している構造である。このようなバンド構造においては、価電子帯のホールと伝導帯の電子とがそれぞれ空間的に分離される。その結果、再結合しようとするキャリアのライフタイムが長くなり、赤外線のエネルギーを電気信号として取り出す効率が向上する。よって、赤外線センサの高感度化が達成できると考えられる。
化合物半導体層が化合物半導体の積層体、すなわちインジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含み、n型ドーピングされた化合物半導体層と、インジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含み、p型ドーピングされた化合物半導体層が積層された積層体も用いることができる。該積層体の好ましい組み合わせとしては、p型ドーピングされたInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたInSb、p型ドーピングされたGaInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたGaInSb、p型ドーピングされたGaInSb/p型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたGaInSbなどのp−n接合積層体が好ましく用いられる。またp型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたInSb、高濃度にp型ドーピングされたInSb/低濃度にp型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたInSb、n型ドーピングされたInSb/低濃度にp型ドーピングされたInSb/高濃度にp型ドーピングされたInSbといった積層体も好ましい。
なお、本明細書において、記号/が複数ある場合も、記号/が1つある場合と同様に、複数の記号/のうち右側の記号/から左側の記号/に向けて順に、各材料が形成されることを示す。すなわち、例えば、p型ドーピングされたInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたInSbとある場合は、n型ドーピングされたInSb上にp型ドーピングされたInAsSbが形成され、該p型ドーピングされたInAsSb上にはp型ドーピングされたInSbが形成されることを示す。
p型ドーパントは、すでに述べたものと同様の元素が使用できる。n型ドーパントは、Si、Sn、Te、S、Seなどが好ましく用いられる。図5には、n型GaAs基板6上に化合物半導体の積層体12が形成されている化合物半導体センサ部2の一例の断面図を示す(電極13は図示せず)。図5において、化合物半導体の積層体12が、高濃度n型ドープ層12a/低濃度p型ドープ層12b/高濃度p型ドープ層12cの3層からなる例が示されている。
なお、本発明の一実施形態において、「積層体」とは、複数の化合物半導体を積層した積層構造を有する化合物半導体の膜のことである。
化合物半導体の積層体12は、一般に、高濃度p型ドープ層/低濃度p型ドープ層/高濃度n型ドープ層の3層構造からなっていることが好ましい。高濃度p型ドープ層のドーピング濃度は、6×1017〜5×1018原子/cmであり、より好ましくは1×1018〜4×1018原子/cmである。また低濃度p型ドープ層のドーピング濃度は、1×1016〜1×1018原子/cmであり、より好ましくは1×1016〜1×1017原子/cmである。高濃度n型ドープ層のドーピング濃度は、6×1017〜5×1018原子/cmであり、より好ましくは1×1018〜4×1018原子/cmの範囲である。
一般的にp−n接合積層体を用いた赤外線センサは、光起電力型赤外線センサであり、光起電力型赤外線センサの感度Rpvは、数2で表される。
Figure 0004138853
数2によれば、赤外線センサの高感度化のためには、素子抵抗が大きく、量子効率を大きくするために素子の膜厚が厚いほど好ましい。また、p−n接合積層体の場合には、逆バイアス電圧を印加することでより効率よくキャリアを電気信号として取り出すことが可能となる。その結果として赤外線センサとしてのさらなる高感度化が達成できる。ただし、素子抵抗については、あまり大きくなると(kΩ以上)、電磁ノイズの影響を受けやすくなるため、最適値がある。また、逆バイアス電圧を印可せず、ゼロバイアスの状態で素子の解放回路電圧を測定する方法も好ましい測定方法である。これに関しては後で詳述する。
また、これまでに述べてきた化合物半導体センサ部を構成している化合物半導体層を、基板6上に成長する際、図6に示したように適当なバッファ層14を挿入することにより、化合物半導体層(例えば、第二化合物半導体層8)の欠陥が減少し、表面の平坦性や結晶性を向上できることを見出した。バッファ層14としては、AlSb、AlGaSb、AlGaAsSb、AlInSb、GaInAsSb、AlInAsSbなどが好ましく用いられる。またp型ドーピングを行ったInSbでも良い。これらのバッファ層14は、基板6との格子定数が大きく異なっているが、成長を開始すると非常に速く格子緩和が起こり、化合物半導体層の表面が平坦化し、結晶性に優れた薄膜が得られてくることが確認できている。バッファ層14の膜厚は、基板6との格子不整合を緩和し、良好な結晶性と平坦な表面とが得られればよく、一般に100nm〜1μm、好ましくは150nm〜600nm程度である。バッファ層14の組成は、バッファ層14上に成長させる化合物半導体層の材料にできるだけ格子定数の近い組成を選択することが好ましい。この格子整合効果により、直接基板上に成長するよりも化合物半導体層の結晶性や平坦性、さらに界面の急峻性を大きく向上できる。
なお、バッファ層14を、GaAs基板6上と第一化合物半導体層7との間に設けるようにしても良い。すなわち、バッファ層14をGaAs基板6と化合物半導体層との間に設けることによって、上述の通り、GaAs基板6とその上に形成される化合物半導体層との格子不整合を緩和させ、形成される化合物半導体層の結晶性等を向上させることが目的である。よって、バッファ層14上に形成される化合物半導体層は、単層であっても、複数の層であっても、複数の層の積層であってもよい。
これらの結果、赤外線センサとしての素子特性も改善でき、高感度化や低ノイズ化が実現できる。
化合物半導体センサ部を構成している化合物半導体層の膜厚は、単層の場合には0.5μm〜10μmであり、好ましくは、0.7μm〜5μm、より好ましくは1μm〜4μmである。
また、ヘテロ構造を用いる場合は、第二化合物半導体層及び第三化合物半導体層のトータルの膜厚が0.5μm〜10μmであり、好ましくは、1μm〜5μm、より好ましくは2μm〜4μmである。
さらに超格子構造の場合には、第四化合物半導体層及び第五化合物半導体層の1周期の膜厚は、ミニバンドが形成される程度に薄くする必要がある。その1周期の膜厚は、1nm〜15nmの範囲が好ましく、より好ましくは2nm〜10nm、さらに好ましくは3nm〜7nmである。また超格子構造の周期は10〜100周期、さらには20〜50周期程度成長させることが好ましい。
本発明の一実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を加工するプロセスは、まずメサエッチングにより、上記成長方法にて形成された化合物半導体層に対して、素子分離を行う。次いで、基板及び素子分離された化合物半導体層の表面にSiN保護膜を形成する。次いで、SiN保護膜(パッシベーション膜)に電極用の窓開けを行った後、電極13をリフトオフ法で形成する。電極13としてはAu/Tiが好ましく用いられる。ここで、Au/Tiとは、電極を形成すべき下地層上にTi、Auの順に形成することを示す。さらにダイシングを行い、化合物半導体センサ部のチップを形成する。上述のプロセスは、本発明の一実施形態に係る化合物半導体センサ部を作製する一連のプロセスフローの例である。第一化合物半導体層7を用いた化合物半導体センサ部2(光導電型赤外線センサ)の一例の断面図を図7に示す。また、p−n接合積層体12を用いた化合物半導体センサ部2(光起電力型赤外線センサ)の一例の断面図を図8に示す。
本発明の一実施形態に係る赤外線センサICにおける集積回路部は、Si基板上に増幅回路、チョッピング回路等が組み込まれ、通常のCMOSラインで形成されるのが一般的であるが、それに限定されるものではない。
さらに、図1に示したように、ガラスエポキシ基板などのプリント基板1上に化合物半導体センサ部2と集積回路部3とをダイボンディングし、所定の電極13をそれぞれワイヤーボンディング4bで電気的に接続させるのが本発明の赤外線センサICの一例である。
また、図9に示したように、前記集積回路部3上に前記化合物半導体センサ部2をのせ、ワイヤーボンディングでそれぞれを電気的に接続する形態が、本発明の赤外線センサICの他の例である。図9の例のように、集積回路部3上に化合物半導体センサ部2を重ねることにより、赤外線センサICのサイズをさらに小型化することが可能になる。
パッケージについては、波長5μm以上の赤外線、特に10μm帯付近の赤外線の透過率が高い材料であれば何でもよい。また、ポリエチレンなどの樹脂材料も膜厚を薄くすれば、パッケージカバーとして用いることができる。また、10μm帯付近の透明性が高く、かつ放熱性に優れた樹脂等も好ましく用いられる。本発明の一実施形態に係る赤外線センサICは、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくいので、金属Canパーケージなどの頑丈で高価なパッケージは必要ない。
また、後述の実施例15に一例を示すように、プラスチックやセラミックなどで形成された中空パッケージの中に、センサ部とIC部とを配置し、ワイヤーボンディングやフリップチップボンディングにより、センサ部とIC部及びパッケージの電極をそれぞれ電気的に接続し、さらにパッケージの表面をSiなどのフィルタでカバーすることも好ましく行われる。なお、赤外線の入射方向はセンサ部の表面側からでも、裏面の基板側からでもどちらでもよい。
さらに、本発明の一実施形態に係る赤外線センサICにおいて、人感センサとして用いる場合、人以外から発せられる光(5μm以下の近赤外や可視光など)の影響を完全に避けるため、5μm付近以下をカットするようなフィルタを取り付けることもある。また、検知する距離や方向性を定め、集光性をより高めるためにフレネルレンズを設けることも好ましく行われる。
化合物半導体による量子型の赤外線センサは高速、高感度という優れた性質を持っていることが知られている。例えば、PN接合を持つ光ダイオード型の赤外線センサや、PN接合の間に、ノンドープかあるいは非常に低濃度にドーピングした層を挿入したPIN構造をもった光ダイオード型の赤外線センサなどは、本発明における赤外線センサICの化合物半導体センサ部として好ましく用いられる。これら量子型の赤外線センサを用いて、波長5μm以上の赤外線を室温において検知する場合、その更なる高感度化の為には、赤外線センサの漏れ電流を抑制することが重要である。例えばPN接合を持つ光ダイオード型の素子において、その漏れ電流の主な原因となっているのが拡散電流である。拡散電流は赤外線センサを構成している半導体の真性キャリア密度niの2乗に比例する。また、niは数3で表される。
Figure 0004138853
ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。また、N、Nはそれぞれ伝導帯、及び価電子帯の有効状態密度である。また、Eはエネルギーバンドギャップである。N、N、Eは半導体物質固有の値である。
すなわち、波長5μm以上の赤外線を半導体が吸収するためには、そのエネルギーバンドギャップが約0.25[eV]以下と非常に小さくなければならない。このため、室温ではその真性キャリア密度が6×1015[cm]以上と大きくなり、結果として拡散電流も大きくなる。よって、漏れ電流は大きくなってしまう。従って、室温で光ダイオード型の化合物半導体赤外線センサをより高感度化する為には、赤外線検出素子部分を液体窒素やスターリングクーラーなどの機械式冷凍機、あるいはペルチェ効果を利用した電子冷却等で冷却し、真性キャリア密度を抑制する必要があった。
本発明の一実施形態に係る化合物半導体赤外線センサ構造によれば、拡散電流を抑制する事ができる。その結果、本発明の一実施形態に係る化合物半導体赤外線センサは、室温において冷却機構無しで、更なる高感度化を実現できる。図10に本発明の一実施形態に係る化合物半導体赤外線センサの断面図を示す。以下で図10を参照しながら、その構造と動作の特徴を述べる。
図10において、基板15に、n型ドーピングされた層(n層とも呼ぶ)である第六化合物半導体層16が形成されている。第六化合物半導体層16の所定の領域には、ノンドープあるいはp型ドーピングされた層である第七化合物半導体層17が形成されている。第七化合物半導体層17上には、第七化合物半導体層17よりも高濃度にp型ドーピングされた層(P層とも呼ぶ)であり、かつ第七化合物半導体層17よりもエネルギーバンドギャップが大きな第八化合物半導体層18が形成されている。第八化合物半導体層18、及び第六化合物半導体層16のうち第七化合物半導体層17が形成されてない領域には、電極19が形成されている。このような構成の化合物半導体赤外線センサの表面を保護するように、パッシベーション膜20が形成されている。このとき、パッシベーション膜20は、電極19上には形成されないようにする。
図10に示す赤外線センサに赤外線を入射した場合、赤外線は光吸収層である第七化合物半導体層17において吸収され、電子正孔対を生成する。生成した電子正孔対はn層である第六化合物半導体層16とp層である第八化合物半導体層18とのポテンシャル差、すなわちビルトインポテンシャルによって分離され、電子はn層側へ、正孔はp層側へと移動し光電流となる。この時、発生した電子がPINダイオードの順方向、すなわちp層側に拡散してしまうと、光電流として取り出すことは出来ない。このPINダイオード順方向へのキャリアの拡散が拡散電流である。ここで、p層である第八化合物半導体層がエネルギーバンドギャップのより大きな材料であることで、数3に示すようにp層部分の真性キャリア密度niを小さくすることができる。よって、第七化合物半導体層17から第八化合物半導体層18への拡散電流を抑えることが出来るようになる。
図11に、図10にて説明した化合物半導体赤外線センサのエネルギーバンド図を示す。図11において、Eは電子のエネルギーを示し、Eはフェルミエネルギーを示し、Eは伝導帯レベルを示し、Eは価電子帯レベルを示す。また、図中の矢印は、赤外線の入射によって生成された電子の移動方向を示し、それぞれ光電流となる移動方向(矢印A)と、拡散電流となる移動方向(矢印B)とを示している。すなわち、図11に示す化合物半導体赤外線センサのエネルギーバンド図からわかるように、第八化合物半導体層18自身がp層側への電子の拡散に対するバリア層となる。一方で赤外線の入射により生成された正孔の流れは阻害しない。この効果により、漏れ電流を大幅に減少させる事ができる。さらに、赤外線の入射により発生した電子が光電流方向Aへ流れやすくなることから、取り出せる光電流が大きくなる。すなわち、センサの外部量子効率が向上する。この結果、素子の感度を飛躍的に上げることが出来る。
また、各化合物半導体層の積層の順番は本発明の一実施形態において非常に重要である。以下で、基板上にn型ドーピングされている第六化合物半導体層をまず成長し、該第六化合物半導体層上にp型ドーピングされた第七化合物半導体層を成長し、さらに第七化合物半導体層上に第七化合物半導体層よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ第七化合物半導体層よりも大きなバンドギャップを有している第八化合物半導体層を成長することの理由を説明する。まず第六化合物半導体層16は、光吸収層となる第七化合物半導体層17を基板上に結晶性良く成長させるためのバッファ層であると共に、電極とのコンタクト層となる。ここで、第六化合物半導体層16の表面積は素子の中で最も大きいため、そのシート抵抗はセンサの抵抗の主な要因となっている。一方センサの抵抗Rは熱ノイズであるジョンソンノイズの原因となる。すなわちセンサの抵抗が大きいほどノイズは大きくなる。ここで、ノイズ電圧v、センサ信号を増幅する際の増幅器のバンド幅fとすると、ジョンソンノイズは数4の様に表せる。
Figure 0004138853
従って、第六化合物半導体層16はシート抵抗が小さい層であることが好ましい。一般に化合物半導体は電子の移動度がホールの移動度よりも大きいため、n型ドーピングの方がp型ドーピングよりもシート抵抗を小さくすることが出来る。ゆえに第六化合物半導体層16にはn型ドーピングを行うことが好ましい。
また、バリア層である第八化合物半導体層18をまず成長し、次に光吸収層である第七化合物半導体層17を成長した場合、拡散電流を抑制する効果は、図10に示した積層構造とは変わらないので、化合物半導体赤外線センサの構造としては好ましい。しかし、第七化合物半導体層17は結晶の格子定数の異なる第八化合物半導体層18上への格子不整合のあるヘテロ成長となる。従って、光吸収層である第七化合物半導体層17に結晶欠陥が発生しやすく、赤外線の吸収により発生した電子正孔対が対消滅を起こしやすくなる。すなわちセンサの量子効率が下がりやすくなる。ゆえにバリア層である第八化合物半導体層18は光吸収層である第七化合物半導体層17の次に成長することがより好ましい。
上記理由により、上述の化合物半導体赤外線センサ構造は、基板15上にn型ドーピングされている第六化合物半導体層16を成長させる。次いで、該第六化合物半導体層16上の所定の領域にp型ドーピングされた第七化合物半導体層17を成長させる。さらに、第七化合物半導体層17上に第七化合物半導体層17よりも高濃度にp型ドーピングされ、かつ第七化合物半導体層17よりも大きなバンドギャップを有している第八化合物半導体層18を成長させる。本発明の一実施形態では、このような順番の成長方法で化合物半導体赤外線センサを形成する事が好ましい。
また、第八化合物半導体層18上に、第八化合物半導体層18と同等か、またはそれ以上の濃度でp型ドーピングを行った第九化合物半導体層を更に続けて成長しても良い。これについては後述する。
また、第八化合物半導体層18は、室温において拡散する電子を十分に止める事が出来るだけの、大きなバンドギャップを持つ必要がある。一般にバンドギャップをより大きくする為には、第八化合物半導体層18を、格子定数がより小さな材料とする必要がある。この結果、バンドギャップの小さい第七化合物半導体層17との格子定数差が大きくなり易く、バリア層である第八化合物半導体層18に、ヘテロ成長による結晶欠陥が発生し易くなる。この結晶欠陥は欠陥による漏れ電流の原因となる。従ってそのバンドギャップの大きさは、拡散電流抑止の効果と、第八化合物半導体層18の結晶性により決定される。これは使用する化合物半導体層の材料の組み合わせによって変化し得る。また、第七化合物半導体層17と第八化合物半導体層18との接合界面では、材料のエネルギーバンド構造の差により、図11に示すような価電子帯の跳び(スパイクともいう)が生じる。このスパイクの先が第七化合物半導体層の価電子帯よりも飛び出すようになると、赤外線の吸収により発生した正孔の流れを妨げるようになる。これを防ぐために、第八化合物半導体層18は十分なp型ドーピングを行う必要がある。
上記赤外線センサを構成する各化合物半導体層の材料として、第六化合物半導体層16の材料としては、該半導体層にインジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含むものであればいずれを用いても良いが、好ましい材料としてはInSbが用いられる。InSbは化合物半導体の中でも特にキャリアの移動度が大きく、シート抵抗を小さくする事が出来る。また、第七化合物半導体層17の材料としては、該半導体層にインジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含むものであればいずれを用いても良いが、好ましい材料としては、InSb、InAsSb、InSbNなどが用いられる。前述のように、InAsSb1−x混晶のバンドギャップEは、0.58x−0.41x+0.18=Eで表され、非常に大きな非線形因子がある。As組成比のxが0の場合、すなわちInSbは室温で約7.3μm以下の波長において感度が得られる。また、0.1≦x≦0.6の範囲においては、E≦0.12eVとなり、10μm帯をピーク波長とした赤外線検知により適した化合物半導体層となる。さらに好ましいxの範囲は0.2≦x≦0.5である。また、InSb1−y混晶(0<y<0.01)のバンドギャップは更に大きな非線形因子があり、窒素Nの組成yが僅か0.01でバンドギャップがほぼ0に近くなることが知られている。したがって、InSb1−yは、InSb(第六化合物半導体層)と格子整合に近い系で、InSbで吸収できる波長よりも、より長波長の赤外線を吸収することができる。
なお、InAsSbやInSbNを第七化合物半導体層17として第六化合物半導体層16であるInSb層上に成長する場合、ヘテロ成長による結晶欠陥の発生を抑制するために、組成を0からx、あるいは0からyへと段階的に変化させる成長方法などが好ましく用いられる。
第八化合物半導体層18の材料としては、バンドギャップが第七化合物半導体層17よりも大きい材料でよく、AlInSb、GaInSb、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、AlAsSb、GaAsSb、AlGaSb、AlGaAs、AlInAs、GaInAs、AlGaAsSb、AlInAsSb、GaInAsSb、AlGaInSb、AlGaInSb、AlGaInAsSbのいずれかが好ましい。特にAlIn1−zSb混晶のバンドギャップE’はE’=0.172+1.621z+0.43zで表され、僅かなAl組成によって大きなバンドギャップを得ることが可能となる。この為、光吸収層となる第七化合物半導体層17のInSbやInAsSb等の材料と格子定数が近く、バンドギャップの大きなバリア層とすることが可能となる。ここで、好ましいzの範囲は0.01≦z≦0.7であり、より好ましくは0.1≦z≦0.5である。
第六化合物半導体層16の膜厚は、シート抵抗を下げるためになるべく厚いほうが好ましい。ただし、第六化合物半導体層16の膜厚が厚くなると膜の成長に多大な時間を要し、かつ素子分離を行うためのメサエッチング等が困難となる。この為第六化合物半導体層16の膜厚は、好ましくは、0.3μm以上2μm以下であり、より好ましくは、0.5μm以上1μm以下である。
また、第七化合物半導体層17の膜厚は、赤外線の吸収を増やすためになるべく厚いほうが好ましい。ただし、第七化合物半導体層17の膜厚が厚くなると第六化合物半導体層16と同様に、膜の成長に多大な時間を要し、かつ素子分離を行うためのエッチング等が困難となる。この為第七化合物半導体層17の膜厚は、好ましくは、0.5μm以上3μmであり、より好ましくは、1μm以上2μm以下である。
また、第八化合物半導体層18の膜厚は、素子抵抗下げるためになるべく薄いほうが好ましい。ただし、電極19と第七化合物半導体層17との間でトンネルリークが発生しないだけの膜厚が必要である。この為、第八化合物半導体層18の膜厚は0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.02μm以上である。なお、矩形のポテンシャルバリアを仮定した場合の電子のトンネル確率Pは数5、及び数6で表される。ポテンシャルバリアの高さVを0.2eV、ポテンシャルバリアの厚さWを0.02μm、電子のエネルギーEを0.1eV、電子質量mをInSb中での有効質量と仮定したとき、トンネル確率Pは約0.002と十分に小さい。
Figure 0004138853
Figure 0004138853
ここで、
Figure 0004138853
はプランク定数hを2πで割ったものである。
第六化合物半導体層16のn型ドーピングの濃度は、第七化合物半導体層17とのポテンシャル差を大きくし、かつシート抵抗を下げるためになるべく大きいほうが好ましく、1×1018原子/cm以上であることが好ましい。また、第七化合物半導体層17は、ドーピングしないで真性半導体のままでも良いし、またはp型にドーピングしても良い。p型にドーピングする場合には、第七化合物半導体層17のp型ドーピング濃度は、第六化合物半導体層16及び第八化合物半導体層18それぞれの伝導帯と十分大きな伝導帯のバンドオフセットを取れるように調整される。ここで、第七化合物半導体層17のp型ドーピング濃度は、1×1016原子/cm以上1.0×1018原子/cm未満が好ましい。また、第八化合物半導体層18のp型ドーピング濃度は、第七化合物半導体層17と第八化合物半導体層18との接合界面における価電子帯のスパイクが、赤外線の吸収により発生した正孔の流れを妨げ無いようにするため、1×1018原子/cm以上が好ましい。
また、n型ドーパントとしては、Si、Te、Sn、S、Seなどを用いることができる。中でもSnは、InSbにおいて、より活性化率が高く、シート抵抗をより下げることが可能であることから、より好ましく用いられる。また、p型ドーパントとしてはBe、Zn、Cd、C、Mg、Geなどを用いることができる。中でもZnは、InSbにおいて、より活性化率が高く、かつ毒性も低いために、より好ましく用いられる。
また、バリア層となる第八化合物半導体18上に、さらにコンタクト層となる第九化合物半導体層を形成した素子構造とすることは、より好ましい形態である。ここで、図12には上記素子構造の断面図を示す。以下で、図12を参照しながら、上記化合物半導体赤外線センサ構造の特徴を述べる。
バリア層となる第八化合物半導体層18は、バンドギャップが大きい材料であり、一般にキャリア移動度は小さくなってしまう。この為電極19とのコンタクト抵抗が増加し、この抵抗は前述したジョンソンノイズの原因となる。ここで、図12に示すように、第八化合物半導体層18上に形成された、第九化合物半導体層21について、電気抵抗が第八化合物半導体層18よりも小さな材料とすることで、この抵抗の増加を抑える事が出来る。また、第九化合物半導体層21は、その電気抵抗を小さくするために、十分に大きなp型ドーピングを行うことが好ましい。
この様な第九化合物半導体層21の材料としては、該半導体層にインジウム(In)及びアンチモン(Sb)を含むものであればいずれを用いても良いが、好ましい材料としてはキャリア移動度の大きいInSbが用いられる。
第九化合物半導体層21の膜厚は、コンタクト抵抗を下げるために十分な膜厚であれば良く、0.1μm以上2μm以下が好ましく用いられる。
また、第九化合物半導体層21のp型ドーパントとしてはBe、Zn、Cd、C、Mg、Geなどが好ましく用いられる。中でもZnは、InSbにおいてより活性化率が高く、かつ毒性も低いために、より好ましく用いられる。またp型ドーピング濃度は、膜の抵抗を十分に小さくする必要があるため、1×1018原子/cm以上が好ましい。
さらに、上述した素子構造を特徴とする化合物半導体赤外線センサを基板15上でさらに複数個、直列接続する構造とすることがより好ましい。このように複数の単一素子が直列接続された化合物半導体センサ部の一部を示す断面図を図13に示す。また、図14は、図13に示した構造の上面図である。図14において、素子分離された単一素子としての化合物半導体赤外線センサは、基板15上で、電極19によって連続的に直列接続されている。すなわち、基板15上に連続的に直列接続された化合物半導体赤外線センサのうちあるセンサに着目すると、該センサの一方において、該センサの第六化合物半導体層16と該センサの隣に配置されたセンサの第九化合物半導体層21とが電極19により直列に電気的に接続され、かつ、該センサの他方において、該センサの第九化合物半導体層21と該センサの隣に配置されたセンサの第六化合物半導体層16とが電極19により直列に電気的に接続されている。また、直列接続の両端に位置する化合物半導体赤外線センサはそれぞれ、電極パッド22に接続されている。なお、図14において、破線は、上記構成で各センサが連続的に繰り返し接続されていることを示す。また、図14では、各素子間の電極の接続構造を分かり易くするため、パッシベーション膜20を便宜上省略している。
本発明の一実施形態に係る、複数の化合物半導体赤外線センサを図13および図14に示すような構造とすることで、各単一素子からの出力を足し合わせることが可能となり、出力を飛躍的に向上させることが可能となる。この場合、各素子は電極19以外の部分では絶縁分離されていることが必須である。したがって、基板15は、化合物半導体薄膜の単結晶を成長できるもので、半絶縁性か、または化合物半導体薄膜部分と基板部分とが絶縁分離可能であるような基板でなければならない。また、このような基板としてさらに、赤外線を透過するような材料を用いることにより、赤外光を基板裏面から入射させることが可能となる。この場合、電極により赤外光が遮られることが無いため、素子の受光面積をより広く取ることが可能でありより好ましい。この様な基板の材料としては、半絶縁性のSiやGaAs等が好ましく用いられる。
なお、本発明の一実施形態に係る赤外線センサを構成する、各化合物半導体層は各種の成膜方法を用いて形成される。例えば、分子線エピタキシー(MBE)法、有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などは好ましい方法である。従って、上記各方法により、化合物半導体層の各々を所望に応じて成長させる。また、素子の加工方法としては、特に限定されない。例えば、上記各成長方法にて形成された化合物半導体層に対して、酸またはイオンミリングなどを用いて第六化合物半導体層16とコンタクトを取るための段差形成を行う。次いで、段差形成がされた化合物半導体層に対して、素子分離のためのメサエッチングを行う。次いで、SiNやSiOなどのパッシベーション膜20で基板15及び素子分離された化合物半導体層の表面を覆った後、電極19部分のみを窓開けし、Au/TiやAu/Cr等の電極をリフトオフ法などで形成する。このようにして、化合物半導体センサ部のチップを形成する。
また、上述した図10、図12に示すような単一素子の赤外線センサと、図13及び図14に示すような単一素子を複数個直列接続させた赤外線センサとを用いて赤外線をセンシングする測定方法としては、電極間に逆バイアスをかけ、信号を電流として取り出す測定が感度を向上することのできる好ましい方法である。
一方で、この測定方法では電流を流すために1/fノイズが大きくなってしまうという問題がある。人感センサに必要な周波数領域は10Hz程度であり上記方法では化合物半導体赤外線センサを人感センサとして使用することには問題があった。
そこで本発明者らは、上述した化合物半導体赤外線センサにおいて、電極間をゼロバイアスとし、信号を開放回路電圧として読み取る光起電力型の測定方法を採用した。この光起電力型の測定方法の場合、素子に電流が流れないため、そのノイズはジョンソンノイズのみである。従って、低周波で使用することが可能となる。またこの方法によれば、ジュール熱による素子自身の発熱が起こらないため測定誤差を極めて小さくできる。また、従来の光起電力型の測定方法では信号が小さくなってしまう。しかしながら、本発明の第7の実施形態に係る化合物半導体赤外線センサを用いることで、十分に大きな信号を得ることが可能となる。
また、本発明の第7の実施形態に係る化合物半導体赤外線センサを、センサから出力される電気信号を処理する集積回路部と同一パッケージ内にハイブリッドに形成することで、超小型で、ノイズや温度揺らぎに強く、室温でより高感度である画期的な化合物半導体赤外線センサICを得る事ができる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
(実施例1)
MBE法により、GaAs基板上にノンドープのInAs0.23Sb0.77を2μm成長した。InAsSb薄膜の膜特性は、van der Pauw法で測定したところ、室温での電子移動度が、35,000cm/Vs、シート抵抗(素子抵抗)が20Ω、キャリア濃度が1×1017原子/cmであった。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作製した。まず、素子分離のためにGaAs基板に形成された化合物半導体膜にメサエッチングを行った後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiN保護膜で覆った。次に形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は、35μm×115μmに設計した。実施例1の化合物半導体センサ部の断面図は、図7に示した通りである。
増幅回路とチョッピング回路等を搭載した集積回路部は、通常のCMOSラインで作製した。その後、同一基板上に上記化合物半導体センサ部と前記集積回路部とをダイボンディングし、ワイヤーボンディングで電気的に接続した。パッケージカバーをつけて実施例1に係る赤外線センサICを完成した。
500Kの黒体炉、光チョッピング周波数1Hz、雑音帯域幅1Hzで室温における感度を測定したところ、D=1×10cmHz1/2/Wであった。ここで、Dは、比検出能力を示す指標であり、S/N比が1になるために必要な入力光強度(W/Hz1/2)の逆数に、検出素子の受光面積の1/2乗を掛けた値で表す。実施例1に係る赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
(実施例2)
MBE法により、GaAs基板上にノンドープInSbを1μm、ノンドープInAs0.23Sb0.77を2μm順に成長した。化合物半導体層の膜特性は、van der Pauw法で測定したところ、室温での電子移動度が51,000cm/Vs、シート抵抗(素子抵抗)が20Ω、キャリア濃度が9×1016原子/cmであった。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作製した。まず、素子分離のためにGaAs基板に形成された化合物半導体膜にメサエッチングを行った後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiN保護膜で覆った。次に、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は、35μm×115μmに設計した。
増幅回路とチョッピング回路等を搭載した集積回路部は、通常のCMOSラインで作製した。その後、同一基板上に上記化合物半導体センサ部と前記集積回路部とをダイボンディングし、ワイヤーボンディングで電気的に接続した。パッケージカバーをつけて実施例2に係る赤外線センサICを完成した。
500Kの黒体炉、光チョッピング周波数1Hz、雑音帯域幅1Hzで室温における感度を測定したところ、D=2×10cmHz1/2/Wであった。実施例2に係る赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
(実施例3)
MBE法により、GaAs基板上に5nmのInAsと3nmのGaSbとを交互に50周期成長し、超格子構造を形成した。実施例3に係る超格子構造の膜特性は、van der Pauw法で測定したところ、室温での電子移動度が8,000cm/Vs、シート抵抗(素子抵抗)が90Ω、シートキャリア濃度が2.6×1013原子/cmであった。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作製した。まず、素子分離のためにGaAs基板に形成された化合物半導体膜にメサエッチングを行った後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiN保護膜で覆った。次に形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は、35μm×115μmに設計した。
増幅回路とチョッピング回路等を搭載した集積回路部は、通常のCMOSラインで作製した。その後、図9に示したように、同一基板上に集積回路をダイボンディングした後、化合物半導体センサ部を前記集積回路部上にダイボンディングし、ワイヤーボンディングで電気的に接続した。さらに、パッケージカバーをつけて実施例3に係る赤外線センサICを完成した。
500Kの黒体炉、光チョッピング周波数1Hz、雑音帯域幅1Hzで室温における感度を測定したところ、D=1×10cmHz1/2/Wと高感度を示した。実施例3に係る赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
(実施例4)
MBE法により、n型GaAs基板上にn型ドーピングされたInSb(n型ドーピング濃度=3×1018原子/cm)を1μm、続いてp型ドーピングされたInAs0.23Sb0.77(p型ドーピング濃度=3.5×1016原子/cm)を2μm、次いでp型ドーピングされたInSb(p型ドーピング濃度=3×1018原子/cm)を0.5μm成長した。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作製した。まず、素子分離のためにn型GaAs基板に形成された化合物半導体膜にメサエッチングを行った後、全面(n型GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiN保護膜で覆った。次に形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は、35μm×115μmに設計した。実施例4に係る化合物半導体センサ部の断面図は、図8に示した通りである。
増幅回路とチョッピング回路等を搭載した集積回路部は、通常のCMOSラインで作製した。その後、同一基板上に上記化合物半導体センサ部と前記集積回路部とをダイボンディングし、ワイヤーボンディングで電気的に接続した。パッケージカバーをつけて実施例4に係る赤外線センサICを完成した。
500Kの黒体炉、光チョッピング周波数1Hz、雑音帯域幅1Hzで室温における感度を測定したところ、D=2×10cmHz1/2/Wと高感度を示した。実施例4に係る赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
(実施例5)
MBE法により、GaAs基板上にバッファ層としてAl0.5Ga0.5Sbを150nm成長した後、引き続きノンドープのInSbを0.5μm、InAs0.23Sb0.77を2μm成長した。InAsSb薄膜の膜特性は、van der Pauw法で測定したところ、室温での電子移動度が45,000cm/Vs、シート抵抗(素子抵抗)が40Ω、キャリア濃度が5×1016原子/cmであった。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作製した。まず、素子分離のためにGaAs基板に形成された化合物半導体膜にメサエッチングを行った後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiN保護膜で覆った。次に形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は、35μm×115μmに設計した。
増幅回路とチョッピング回路等を搭載した集積回路部は、通常のCMOSラインで作製した。その後、同一基板上に上記化合物半導体センサ部と前記集積回路部とをダイボンディングし、ワイヤーボンディングで電気的に接続した。パッケージカバーをつけて実施例5に係る赤外線センサICを完成した。
500Kの黒体炉、光チョッピング周波数1Hz、雑音帯域幅1Hzで室温における感度を測定したところ、D=3.5×10cmHz1/2/Wと高感度であった。実施例5に係る赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
(実施例6)
MBE法により、GaAs基板上にノンドープInSbを1μm、p型ドーピングされたInAs0.23Sb0.772μmを順に成長した。InAsSb薄膜の膜特性は、van der Pauw法で測定したところ、室温での電子移動度が41,000cm/Vs、シート抵抗(素子抵抗)が150Ω、キャリア濃度が1.5×1016原子/cmであった。実施例6のp型ドーピングは、InAsSb層中の電子のキャリアを補償し、キャリア濃度の低減化を目的としている。実施例2と比較して、電子移動度は低下したが、p型ドーピングすることにより、電子のキャリア濃度が低減でき、またシート抵抗も増大した。また、GaAs基板上のノンドープInSb層をp型ドーピングすることにより同様の効果が得られる。
この化合物半導体薄膜を用いて、実施例2と同様に化合物半導体センサ部を作製した。集積回路部も実施例2と同様に作製し、実施例6に係る赤外線センサICを完成した。
500Kの黒体炉、光チョッピング周波数1Hz、雑音帯域幅1Hzで室温における感度を測定したところ、D=1.2×10cmHz1/2/Wと高感度を示した。実施例6の赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
(実施例7)
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上にZnを3.5×1018原子/cmドーピングしたInSb層を2.0μm成長し、この上にSiを1.8×1018原子/cmドーピングしたInSb層を0.5μm成長した。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体赤外線センサ部を作成した。まず、上記形成された化合物半導体薄膜について、p型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は225μm×150μmに設計した。実施例7に係る化合物半導体赤外線センサ部の断面図を図15に示す。図15から分かる通り、実施例7に係る化合物半導体赤外線センサは、いわゆる、PN接合ダイオードの構造である。図15において、符号23は半絶縁性のGaAs単結晶基板であり、24はp型ドーピングしたInSb層であり、25はn型ドーピングしたInSb層であり、26はSiNパッシベーッション膜であり、27はAu/Ti電極である。
上記化合物半導体赤外線センサに、赤外線を照射したときの素子の開放回路電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、可視光等の光をカットするフィルタとしてSiを使用した。
出力電圧の測定結果を図22に示す。出力電圧は54nVであり、室温において赤外線の検知が可能であることが確認できた。
(実施例8)
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上にZnを3.5×1018原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを6×1016原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、さらにこの上にSiを1.8×1018原子/cmドーピングしたInSb層を0.5μm成長した。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体赤外線センサ部を作成した。まず、上記形成された化合物半導体薄膜について、高濃度にp型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は225μm×150μmに設計した。実施例8に係る化合物半導体赤外線センサ部の断面図を図16に示す。図16から分かる通り、実施例8に係る化合物半導体赤外線センサは、いわゆる、PIN接合ダイオードの構造である。図16において、符号28は高濃度にp型ドーピングしたInSb層であり、29は低濃度にp型ドーピングしたInSb層であり、30はn型ドーピングしたInSb層である。
上記化合物半導体赤外線センサに、赤外線を照射したときの素子の開放回路電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、可視光等の光をカットするフィルタとしてSiを使用した。
出力電圧の測定結果を実施例7と同じく図22に示す。出力電圧は117nVであり、PN接合の場合よりもさらに出力電圧が増加することを確認した。
(実施例9)
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上に、Snを1.0×1019原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを6×1016原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、さらにこの上にZnを7.0×1018原子/cmドーピングしたInSbを0.5μm成長した。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体赤外線センサ部を作成した。まず、上記形成された化合物半導体薄膜について、高濃度のn型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は225μm×150μmに設計した。実施例9に係る化合物半導体赤外線センサ部の断面図を図17に示す。図17から分かるように、実施例9の構造は、実施例8の構造について、p型ドーピング層28とn型ドーピング層30とが入れ替わった構造である。
上記化合物半導体赤外線センサに、赤外線を照射したときの素子の開放回路電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、可視光等の光をカットするフィルタとしてSiを使用した。
出力電圧の測定結果を同じく図22に示す。出力電圧は155nVであり、実施例8の場合よりもさらに出力電圧が増加することを確認した。これはn型ドーパントとしてSnを用いたことによる効果である。すなわち、InSb中では、SnはSiよりも高い活性化率を持つ。このためより高濃度のn型ドーピングが可能となり、より大きなPN接合のビルトインポテンシャルが得られる。出力電圧Voutは、ビルトインポテンシャルVによる電位障壁を越えて拡散電流を流すのに必要な電圧である。よって、ビルトインポテンシャルが大きいほど出力電圧は大きくなる。したがって、実施例9においてn型ドーパントにSnを用いたことによる出力増加の効果を確認することができた。
(実施例10)
実施例8と同様の構造を持つ化合物半導体薄膜を使用し、複数の素子を直列に接続した化合物半導体センサ部を作成した。まず、実施例8と同様にして形成された化合物半導体薄膜について、高濃度にp型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。このとき、ある素子の、Znを3.5×1018原子/cmドーピングしたInSb層と、該素子の隣の素子であって、該素子の段差が形成されている側の素子の、Siを1.8×1018原子/cmドーピングしたInSb層とを電気的に接続するように電極を形成した。作成した単一素子の受光面積は18μm×18μmであり、GaAs基板上で、単一素子を125個、直列接続したものを作成した。作成したセンサ部の一部を示す断面図を図18に示す。
上記化合物半導体赤外線センサに、赤外線を照射したときの素子の開放回路電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、可視光等の光をカットするフィルタとしてSiを使用した。
上記125個接続した素子において12.5μVの出力電圧を得た。すなわち、上記化合物半導体膜構造と解放回路電圧を測定する測定方法との本発明における組み合わせにおいて、接続素子数を増やすことで出力を増加させることが可能であることが確認できた。これは単一素子から得られる信号が小さい、室温での量子型赤外線センサにとって、極めて大きな利点である。
また、125個接続したセンサを信号増幅器に接続し、そのノイズを室温(27℃)の暗室において、高速フーリエ変換(FFT)アナライザを用いて測定した。信号増幅器のノイズを除き、センサのノイズのみとした結果、周波数が10Hz以下でも1/fノイズは見られないことを確認した。さらに、赤外線センサ部の抵抗をテスターにより測定した結果、その値は12.75kΩであった。この値を数4に代入し、ジョンソンノイズを求めたところ、測定したセンサノイズと一致することがわかった。
すなわち、センサのノイズはその抵抗で決まるジョンソンノイズのみであり、10Hz以下の低周波領域においても極めてノイズの小さなセンサであるという、本発明の特徴を確認した。
(実施例11)
実施例9と同様の構造を持つ化合物半導体薄膜を使用し、実施例10と同様のマスクセットを用いて、複数の素子を直列に接続した化合物半導体センサ部を作成した。まず、実施例9と同様にして形成された化合物半導体薄膜について、高濃度にn型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。このとき、ある素子の、Snを1.0×1019原子/cmドーピングしたInSb層と、該素子の隣の素子であって、該素子の段差が形成されている側の素子の、Znを7.0×1018原子/cmドーピングしたInSb層とを電気的に接続するように電極を形成した。作成した単一素子の受光面積は18μm×18μmであり、GaAs基板上で125個、直列接続したものを作成した。作成したセンサ部の一部を示す断面図は図19に示す。
上記化合物半導体赤外線センサに、赤外線を照射したときの素子の開放回路電圧を出力電圧として測定した。その結果は22.5μVであり、実施例10の同一接続素子数の出力電圧に比べて約1.8倍の出力が得られた。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)であり、入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、可視光等の光をカットするフィルタとしてSiを使用した。
また、上記化合物半導体赤外線センサの素子抵抗をテスターにより測定した結果、9.6kΩであった。すなわち実施例10における同様の接続個数の抵抗よりも小さくなっていることが確認できた。これは、抵抗率の低いn型ドーピングの層を最下層に配置し、素子の抵抗が下がるようにした為である。この結果、センサのノイズを実施例10におけるセンサのノイズの約0.87倍とさらに低下できることを確認した。
(実施例12)
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上にZnを5×1018原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを5×1018原子/cmドーピングしたAl0.2In0.8Sbを0.02μm成長し、この上にZnを1×1016原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にSnを1.0×1019原子/cmドーピングしたInSbを0.5μm成長した。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作成した。まず、p型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は225μm×150μmに設計した。実施例12に係る化合物半導体赤外線センサ部の断面図を図20に示す。図20において、符号31は高濃度にp型ドーピングしたAl0.2In0.8Sb層を示す。
赤外線を照射したときの素子の開放電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、フィルタとしてSiを使用した。
上述の構成によって得られた出力電圧は242nVであった。この測定結果を他の実施例と同様に図22に示す。PINダイオード構造の実施例9と比較し、さらに出力が約1.6倍となることを確認した。
また、素子の抵抗を、0.01V正のバイアスをかけた場合と、0.01V負のバイアスをかけた場合とで測定し、両測定結果の平均値をゼロバイアスの素子抵抗Rとして測定した。さらに、同様のRの測定を実施例9の赤外線センサにおいても行った。測定したRより飽和電流Iを数8の式から求めた。
Figure 0004138853
ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは素電荷である。飽和電流Iは拡散電流I、出力電圧Voutと数9の様な関係にある。
Figure 0004138853
従って、飽和電流Iは素子の拡散電流の大きさを表している。
図23に、得られた実施例12と実施例9のIの結果を示す。図23に示すように、AlInSbのバリア層を形成した赤外線センサにおける飽和電流Iは、AlInSbのバリア層を使用しないPINダイオード構造の素子に比べて、約1桁減少していることを確認できた。
すなわち、AlInSbバリア層により拡散電流が抑制される特徴を確認できた。この効果により、出力が増加している。
(実施例13)
MBE法により、半絶縁性のGaAs単結晶基板上にSnを1.0×1019原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを1×1016原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを5×1018原子/cmドーピングしたAl0.2In0.8Sbを0.02μm成長し、この上にZnを5×1018原子/cmドーピングしたInSbを0.5μm成長した。この化合物半導体薄膜を用いて、化合物半導体センサ部を作成した。まず、n型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。受光面積は225μm×150μmに設計した。実施例13に係る化合物半導体赤外線センサ部の断面図を図21に示す。
赤外線を照射したときの素子の開放電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、フィルタとしてSiを使用した。
上述の構成によって得られた出力電圧は765nVであった。この出力電圧の測定結果を他の実施例と同様に図22に示す。実施例12の結果と比較し、さらに出力が約3.2倍と飛躍的に増加することを確認した。
また、素子のゼロバイアス抵抗を、素子に0.01V正のバイアスをかけた場合と、0.01V負のバイアスをかけた場合とで測定した。両測定結果の平均値をゼロバイアスの素子抵抗Rとして測定し、実施例12の場合と同様に飽和電流Iを求めた。この結果を実施例12、実施例9の場合と同様に図23に示す。図23に示すように、実施例13においても、実施例12と同様に、AlInSbのバリア層を形成した赤外線センサにおける飽和電流Iは、AlInSbのバリア層を使用しないPINダイオード構造の素子に比べて、約1桁減少していることを確認できた。すなわち、実施例12と同様、AlInSbバリア層により拡散電流が抑制される特徴を確認できた。
さらに、解放回路電圧を測定する本発明の測定方法では、光電流Iphと拡散電流Iとが等しくなるので、飽和電流Iと出力Voutとにより、数10に示す関係により素子内部で発生した光電流Iphを求める事が出来る。
Figure 0004138853
数9より、実施例9と実施例12と実施例13との光電流をそれぞれ求めた。その結果を図24に示す。図24に示すように実施例12においては、光電流Iphが実施例9のPINダイオード構造の素子に比べて約半分に減少していることを確認した。これは光吸収層であるp型ドーピングInSb層をAlInSb層上にヘテロ成長した結果、光吸収層の結晶性が低下し、量子効率が減少した為である。
一方で、実施例13の光電流は、実施例9のPINダイオード構造の素子に比べて、光電流Iphが約1.8倍に向上することを確認した。これは赤外線の吸収により発生した電子正孔対のうち、p層方向へ拡散する電子が減少した結果、光電流が増加したものである。すなわち、外部量子効率が向上する効果が確認できた。すなわち、実施例13に係る構造は、化合物半導体赤外線センサの単一素子の構造として、より好ましい構造であると言える。
(実施例14)
MBE法により、半絶縁性の、GaAs単結晶基板上にSnを1.0×1019原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを1×1016原子/cmドーピングしたInSb層を1.0μm成長し、この上にZnを5×1018原子/cmドーピングしたAl0.2In0.8Sbを0.02μm成長し、この上にZnを5×1018原子/cmドーピングしたInSbを0.5μm成長した。この実施例13と同様の構造である化合物半導体薄膜を用いて、複数の素子を直列に接続した化合物半導体センサ部を作成した。まず、n型ドーピングされたInSb層とのコンタクトを取るための段差形成を酸またはイオンミリングなどを用いて行った。次いで、段差形成がされた化合物半導体薄膜に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後、全面(GaAs基板及び該基板に形成された化合物半導体膜)をSiNパッシベーッション膜で覆った。次いで、形成されたSiN保護膜上で電極部分のみ窓開けを行い、Au/TiをEB蒸着し、リフトオフ法により電極を形成した。このとき、ある素子の、Snを1.0×1019原子/cmドーピングしたInSb層と、該素子の隣の素子であって、該素子の段差が形成されている側の素子の、Znを5.0×1018原子/cmドーピングしたInSb層とを電気的に接続するように電極を形成した。作成した単一素子の受光面積は9μm×9μmであり、GaAs基板上で260個直列接続している。作成したセンサ部の一部を示す断面図は図25に示す。
赤外線を照射したときの素子の開放電圧を出力電圧として測定した。なお、測定中のセンサ温度は室温(27℃)である。入射する赤外線は500Kの黒体炉を使用して発生させ、センサから10cmの距離に黒体炉を設置した。このような配置で、センサの基板側から赤外線を入射した。入射した赤外線のエネルギーは1.2mW/cmである。光チョッピングの周波数は10Hzであり、フィルタとしてSiを使用した。
得られた出力Voutは91μVであり、室温において100μV近い出力電圧が得られることが確認できた。出力は単一素子だけの場合に比べて飛躍的に出力が向上している。これらの結果は、ICによる信号処理に十分な出力あり、該化合物半導体赤外線センサと、赤外線センサICをハイブリッドに組み合わせることで、室温において冷却機構なしで更に高感度である、超小型の赤外線センサが実現できる。
(実施例15)
実施例14と同様の構造で作成した化合物半導体赤外線センサを用い、増幅回路とチョッピング回路等を搭載した集積回路部とを同一パッケージ内にハイブリッド形成する赤外線センサICを作成した。
増幅回路とチョッピング回路等とを搭載した集積回路部(IC)は、通常のCMOSラインで作製した。その後、前記集積回路部の基板上に実施例14に係る化合物半導体赤外線センサ部を、センサの化合物半導体薄膜上の電極部分とICの電極部分とが接合するように、センサの基板部分を上にしてIC上にフリップチップボンディングにより接合した。さらにパッケージ内部の電極部分(ランド)と集積回路部とをワイヤーボンディングで電気的に接続した。さらに、上記パッケージの赤外線入射部にSiのフィルタをつけて実施例15に係る赤外線センサICを完成した。図26にその断面図を示す。図26において、符号32は化合物半導体赤外線センサ部であり、33は集積回路部であり、34はワイヤボンディングであり、35はパッケージであり、36はSiフィルタであり、37はバンプであり、38はランドであり、39はパッケージ電極である。
完成した赤外線センサICは、その面積が3mm×3mm、厚さ1.2mmと従来に無い超小型の赤外線センサICである。また本構造では、赤外線はSiのフィルタ36を通して化合物半導体赤外線センサ部32の基板側より入射される。基板は半絶縁性のGaAs基板を用いているため波長5μm以上の赤外線は基板部分を十分に透過し、化合物半導体薄膜層に吸収される。従って、入射した赤外線は化合物半導体赤外線センサ部32の電極や配線部分によって遮られることはなく、効率的に信号として取り出すことが可能である。
また、実施例15に係る赤外線センサICは、簡易なパッケージにも関わらず、電磁ノイズや熱ゆらぎの影響を受けにくい特徴を有していることを確認した。
上述のように、本発明の一実施形態に係る赤外線センサICは、人が放射する熱エネルギーを検知する人感センサとして好適に利用できる。ICチップサイズ程度の超小型で電磁ノイズや熱ゆらぎの影響も受けにくい特徴を有しており、照明や家電などの自動オンオフを可能とし、省エネルギー化に大きく効果が期待できる。
本発明の第1の実施形態に係る赤外線センサICの一例を示す斜視図である。 本発明の第3の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の第4の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の第5の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の第6の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の第2の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の第3の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部の電極構造(光導電型)を示す断面図である。 本発明の第6の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部の電極構造(光起電力型)を示す断面図である。 本発明の第1の実施形態に係る赤外線センサICの他の例を示す斜視図である。 本発明の第7の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の第7の実施形態に係る化合物半導体赤外線センサのエネルギーバンド図である。 本発明の第7の実施形態に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部の他の例を示す断面図である。 本発明の第7の実施形態に係る赤外線センサICの複数の単一素子が直列接続された化合物半導体センサ部の一部を示す断面図である。 本発明の第7の実施形態に係る赤外線センサICの複数の単一素子が直列接続された化合物半導体センサ部の一例を示す上面図である。 本発明の実施例7に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の実施例8に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の実施例9に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の実施例10に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部の一部を示す断面図である。 本発明の実施例11に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部の一部を示す断面図である。 本発明の実施例12に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の実施例13に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部を示す断面図である。 本発明の実施例7〜9、12及び13に係る化合物半導体センサの出力電圧の比較を示す図である。 本発明の実施例9、12及び13に係る化合物半導体センサの飽和電流の比較を示す図である。 本発明の実施例9、12及び13に係る化合物半導体センサの光電流の比較を示す図である。 本発明の実施例14に係る赤外線センサICの化合物半導体センサ部の一部を示す断面図である。 本発明の第8の実施形態であり、実施例15に係る赤外線センサICの断面図である。
符号の説明
1 プリント基板
2 化合物半導体センサ
3 集積回路部
4a 引き回し電極
4b ワイヤーボンディング
5 パッケージカバー

Claims (10)

  1. 基板上に薄膜成長されたインジウム及びアンチモンを含む化合物半導体層を有し、該化合物半導体層により波長が5μm以上の赤外線を室温において検知して該検知を示す電気信号を出力する化合物半導体センサ部と、
    前記化合物半導体センサ部から出力される電気信号を処理して所定の演算を行う集積回路部とを備え、
    前記化合物半導体センサ部及び前記集積回路部が同一樹脂パッケージ内にハイブリッドの形態で配設され、
    前記化合物半導体センサ部は、
    基板と、
    該基板上に、格子不整合を緩和させる層であるバッファ層をはさんで形成された化合物半導体層とを備えており、
    前記バッファ層が、AlSb、AlGaSb、AlGaAsSb、GaInAsSbのいずれかであることを特徴とする赤外線センサIC。
  2. 前記化合物半導体層が、第一化合物半導体層の単層からなり、かつ該第一化合物半導体層が、InSb、InAsSb、InSbBi、InAsSbBi、InTlSb、InTlAsSb、InSbN、InAsSbNのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサIC。
  3. 前記第一化合物半導体層が、p型ドーピングされていることを特徴とする請求項2に記載の赤外線センサIC。
  4. 前記化合物半導体層が、
    インジウム及びアンチモンを含む材料である第二化合物半導体層と、
    該第二化合物半導体層上に該第二化合物半導体層とヘテロ接合するように形成された、アンチモンを含み、かつ前記第二化合物半導体層とは異なる材料である第三化合物半導体層と
    を備えることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサIC。
  5. 前記第三化合物半導体層/前記第二化合物半導体層の組み合わせが、GaSb/InSb、GaInSb/InSb、InSb/InAsSb、GaSb/InAsSb、GaInSb/InAsSbのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の赤外線センサIC。
  6. 前記第二化合物半導体層と前記第三化合物半導体層の両方、もしくは、前記第三化合物半導体層のみが、p型ドーピングされていることを特徴とする請求項4または5記載の赤外線センサIC。
  7. 前記化合物半導体層が、
    インジウム及びアンチモンの少なくとも一方を含む材料である第四化合物半導体層と、
    該第四化合物半導体層上に該第四化合物半導体層とヘテロ接合するように形成された、インジウム及びアンチモンの少なくとも一方を含み、かつ前記第四化合物半導体層とは異なる材料である第五化合物半導体層とを備え、
    前記第四化合物半導体層と前記第五化合物半導体層とは、周期的に積層された超格子構造であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサIC。
  8. 前記第五化合物半導体層/前記第四化合物半導体層の組み合わせが、InAs/GaSb、InAs/GaInSb、InAs/GaAsSb、InAsSb/GaSb、InAsSb/GaAsSb、InAsSb/GaInSbのいずれかであることを特徴とする請求項7に記載の赤外線センサIC。
  9. 前記化合物半導体層が、
    インジウム及びアンチモンを含み、n型ドーピングされた材料である化合物半導体層と、
    インジウム及びアンチモンを含み、p型ドーピングされた材料である化合物半導体層と
    を備えたp−n接合の積層体であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線センサIC。
  10. 前記積層体が、p型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたInSb、p型ドーピングされたInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたInSb、p型ドーピングされたGaInSb/p型ドーピングされたInAsSb/n型ドーピングされたGaInSb、p型ドーピングされたGaInSb/p型ドーピングされたInSb/n型ドーピングされたGaInSbのいずれかのp−n接合積層体であることを特徴とする請求項9に記載の赤外線センサIC。
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