JP4137580B2 - 位相情報復元方法及び位相情報復元装置、並びに、位相情報復元プログラム - Google Patents

位相情報復元方法及び位相情報復元装置、並びに、位相情報復元プログラム Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、放射線撮像により得られた画像情報に基づいて画像を構成するために用いられる位相情報復元方法及び位相情報復元装置、並びに、位相情報復元プログラムに関する。なお、本願において、放射線とは、X線、α線、β線、γ線、紫外線等に加えて、電子線等の粒子線や電磁波を含む広義の放射線を指すものとする。
【0002】
【従来の技術】
従来より、X線等を用いた撮像方法は様々な分野で利用されており、特に医療分野においては、診断のための最も重要な手段の一つとなっている。最初のX線写真が実現されてから、X線写真法は数々の改良を重ねられ、現在では蛍光スクリーンとX線フィルムを組み合わせた方法が主流となっている。一方、近年においては、X線CTや超音波、MRI等の様々なディジタル化された装置が実用化されており、病院内での診断情報処理システム等の構築が進められようとしている。X線画像についても、撮像システムをディジタル化するための多くの研究がなされている。撮像システムをディジタル化することにより、画質の劣化を招くことなく、大量のデータを長期間保存することが可能であり、医療診断情報システムへの発展にも役立つものである。
【0003】
ところで、このようにして得られる放射線画像は、被写体を透過した放射線等の強度を画像の明度に換算することにより生成されたものである。例えば、骨部を含む領域を撮像する場合に、骨部を透過した放射線は大きく減衰し、骨部以外の部位、即ち、軟部を透過した放射線は僅かに減衰する。この場合には、異なる組織を透過した放射線の強度差が大きいので、高コントラストの放射線画像を得ることができる。
【0004】
一方、例えば、乳房等の軟部領域を撮像する場合に、軟部においては全体的に放射線が透過しやすいので、軟部における組織の違いが透過放射線の強度差として現れ難い。このため、軟部については、低コントラストの放射線画像しか得ることができない。このように、従来の放射線撮像法は、軟部における僅かな組織の違いを可視化する方法としては適当ではない。
【0005】
ここで、被写体を透過した放射線等に含まれている情報としては、強度情報の他に位相情報がある。近年、この位相情報を利用して画像を生成する位相コントラスト法が研究されている。位相コントラスト法は、X線等が被写体を透過することにより生じた位相差を画像の明度に変換する位相情報復元技術である。
【0006】
位相コントラスト法には、干渉計やゾーンプレートを用いることにより生じた干渉X線に基づいて位相差を求める手法や、回折X線に基づいて位相差を求める手法がある。この内、回折X線に基づいて位相差を求める回折法は、次のような原理に基づいて位相差を求める。例えば、X線は、光と同様に波が進行することにより物質中を伝搬する。その伝搬する速度は、物質が有する屈折率によって異なる。このため、位相の揃ったX線を被写体に向けて照射すると、被写体における組織の違いによりX線の伝わり方に相違が生じる。これにより被写体を透過するX線の波面が歪むので、透過X線に基づいて得られたX線画像に回折縞が生じる。この回折縞のパターンは、X線を結像させるスクリーンと被写体との距離やX線の波長によって異なっている。従って、回折縞パターンの異なる2枚以上のX線画像を解析することにより、スクリーンの各位置において生じたX線の位相差を求めることができる。この位相差を明度に換算することにより、被写体における組織の違いが明確に現れたX線画像を得ることができる。
【0007】
特に、被写体の軟部を透過した後の放射線においては、透過した組織の違いにより、透過放射線において強度差よりも位相差の方が大きくなるので、位相コントラスト法を用いることにより、組織間の微妙な相違を可視化することができる。このような位相コントラスト法を用いるために、放射線撮像における撮像条件や、回折縞パターンから位相を復元する手法が検討されている。
【0008】
下記の非特許文献1には、軟X線撮像を行うことによって得られた画像情報に基づいて位相復元を行い、X線画像を構成することが述べられている。この文献においては、位相復元の基本式であるTIE(transport of intensity equation)が用いられている。ここで、rはベクトルである。
【数1】
Figure 0004137580
【0009】
次に、位相復元の原理について、図9を用いて説明する。図9に示すように、波長λを有するX線は、図の左側から射し、物体面101を透過し、物体面101から距離zだけ離れたスクリーン102に入射する。ここで、スクリーン102上の位置(x,y)におけるX線の強度をI(x,y)、位相をφ(x,y)とする。このとき、強度I(x,y)と位相φ(x,y)との間には、次式に示す関係が成り立つ。ここで、強度Iは、波の振幅の2乗である。
【数2】
Figure 0004137580
式(2)においてκ=2π/λとおき、(x,y)成分をベクトルrに書き換えると、式(1)に示すTIEが導かれる。
【0010】
しかしながら、このようなTIEを解くことは困難であるため、TIEは、主に近似して用いられていた。下記の非特許文献2には、硬X線撮像によって得られた画像情報に基づいて位相復元を行い、X線画像を構成することが述べられている。この文献においては、式(1)に示すTIEを次のように近似している。まず、式(1)を展開する。なお、以下において、上記文献におけるベクトルrは(x,y)成分に書き換えられている。
【数3】
Figure 0004137580
【0011】
式(3)の右辺第2項をゼロに近似すると、次式(4)に示す近似式が得られる。
【数4】
Figure 0004137580
式(4)においては、物体面101から異なる距離zだけ離れたスクリーン102に入射した複数のX線の強度I(x,y)を用い、有限要素法等の解法によりφ(x,y)を求めることができる。
【0012】
しかしながら、スクリーン102に入射したX線の強度I(x,y)は、X線を発生する放射線源が有限の焦点サイズを有することによりボケが生じる。また、物体面101とスクリーン102との距離を変えると、強度のボケ量が異なるため、単純に2つの強度I(x,y)の差を計算し、有限要素法等の解法によりφ(x,y)を求めても、異なるボケ量による誤差が生じる。
【0013】
【非特許文献1】
オールマン(B. E. Allman)等「軟X線非干渉量測定位相撮像法(Noninterferometric quantitative phase imaging with soft x rays)」米国光学協会誌A(J. Optical Society of America A), Vol. 17, No. 10 (October 2000)、p.1732−1743
【非特許文献2】
グレイエフ(T. E. Gureyev)等「硬X線量測定非干渉位相差撮像法(Hard X-ray quantitative non-interferometric phase-contrast imaging)」光学写真法研究専門家誌(SPIE) Vol. 3659 (1999)、p.356−364
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、有限要素法等の解法に用いるX線の強度の放射線源の焦点サイズに起因するボケ量を補正し、位相の推定精度を高めることを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するため、本発明に係る位相情報復元方法は、被写体を透過した放射線の強度を検出することにより得られた検出データに基づいて、被写体を透過した放射線の位相情報を復元する位相情報復元方法であって、被写体からの距離が異なる複数の検出面において放射線の強度を検出することにより得られた、複数の検出面における放射線画像情報をそれぞれ表す複数の検出データの内の少なくとも第1の検出データと第2の検出データについて互いのボケ量が揃うようにボケ量を補正するステップ(a)と、少なくとも1つについてボケ量が補正された複数の検出データの内の第1の検出データと第2の検出データとの差分を表す差分データを求めるステップ(b)と、複数の検出データとボケ量が補正された検出データとの内のいずれかと、差分データとに基づいて、位相のラプラシアンを求めるステップ(c)と、位相のラプラシアンに逆ラプラシアン演算を施すことにより位相データを求めるステップ(d)とを具備する。
【0016】
また、本発明に係る位相情報復元装置は、被写体を透過した放射線の強度を検出することにより得られた検出データに基づいて、被写体を透過した放射線の位相情報を復元する位相情報復元装置であって、被写体からの距離が異なる複数の検出面において放射線の強度を検出することにより得られた、複数の検出面における放射線画像情報をそれぞれ表す複数の検出データの内の少なくとも1つについてボケ量を補正するボケ補正手段と、少なくとも1つについてボケ量が補正された複数の検出データの内の第1の検出データと第2の検出データとの差分を表す差分データを求める差分処理手段と、複数の検出データとボケ量が補正された検出データとの内のいずれかと、差分データとに基づいて、位相のラプラシアンを求めるラプラシアン処理手段と、位相のラプラシアンに逆ラプラシアン演算を施すことにより位相データを求める逆ラプラシアン処理手段とを具備する。
【0017】
さらに、本発明に係る位相情報復元プログラムは、被写体を透過した放射線の強度を検出することにより得られた検出データに基づいて、被写体を透過した放射線の位相情報を復元する位相情報復元プログラムであって、被写体からの距離が異なる複数の検出面において放射線の強度を検出することにより得られた、複数の検出面における放射線画像情報をそれぞれ表す複数の検出データの内の少なくとも1つについてボケ量を補正する手順(a)と、少なくとも1つについてボケ量が補正された複数の検出データの内の第1の検出データと第2の検出データとの差分を表す差分データを求める手順(b)と、複数の検出データとボケ量が補正された検出データとの内のいずれかと、差分データとに基づいて、位相のラプラシアンを求める手順(c)と、位相のラプラシアンに逆ラプラシアン演算を施すことにより位相データを求める手順(d)とをCPUに実行させる。
【0018】
本発明によれば、有限要素法等の解法に用いるX線の強度の放射線源の焦点サイズに起因するボケ量を補正することにより、位相の推定精度を高めることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1に、本発明の一実施形態に係る位相情報復元装置の構成を示す。図1に示すように、この位相情報復元装置は、被写体にX線を照射することにより、被写体に関する放射線画像情報を表す検出データを出力する撮像部1と、検出データに基づいて位相情報を復元することにより画像データを生成する画像構成部2と、画像データに基づいて可視画像を表示する表示部3と、可視画像をフィルム等にプリント出力する出力部4とを有している。
【0020】
図2は、撮像部1の構成を示す模式図である。放射線源12としては、コヒーレント性及び単色性が高いビームを発生するこができる放射線源を用いることが望ましい。ここで、単色性が高いビームとは、主に単一波長を有するビームのことをいうが、厳密に単一波長である必要はない。また、放射線源12から発生したX線は、被写体11を透過し、センサ13に入射して回折縞を生じる。
【0021】
本実施形態においては、放射線源12として、X線管を使用している。図3に、X線を発生させるX線管の構成を示す。図3に示すように、ガラス容器に封入された陽極及び陰極に所定の電位差を与え、集束電極により電流を集束させ、フィラメントから電子流を発生させる。フィラメントから発生した電子流は、陽極及び陰極の電位差により生じる電界により、銅体にセットされたターゲット(タングステン)に衝突し、X線を発生させる。このため、X線源は点線源ではなく、X線はある広がりを持つことになる。この広がりはX線源の焦点サイズと呼ばれており、線源の強度分布をガウシアン分布で表したときの標準偏差を用いて表す。ここで、x方向、y方向における強度分布の標準偏差(焦点サイズ)をσ、σと表すことにする。また、X線管以外の線源においても、同様に焦点サイズを考えることができる。
【0022】
また、センサ13は、X線を入射させて回折縞を生じさせるためのスクリーンとして用いられ、センサ13の各位置に入射した回折光の強度を表す検出信号を出力する。センサ13としては、例えば、CCD(coupled charge device)等のように、入射したX線の強度を電気信号に変換して出力する複数の検出素子を有する2次元センサが用いられる。
【0023】
また、撮像部1は、増幅器16と、A/D変換器17とを有している。増幅器16は、センサ13から出力された検出信号を増幅する。A/D変換器17は、増幅器16によって増幅された検出信号をディジタル信号(「画像信号」又は「検出データ」という)に変換し、検出データを画像構成部2に出力する。
【0024】
さらに、撮像部1は、センサ13を保持する保持部14と、保持部14を移動可能な状態で支持しているレール15と、保持部14を駆動するセンサ駆動部18とを有している。センサ駆動部18は、後述する画像構成部2の制御部27の制御の下で保持部14を駆動することにより、被写体11とセンサ13との距離を変化させる。なお、以下において、被写体11とセンサ13との間の距離を、「撮像距離」という。
【0025】
再び、図1を参照すると、画像構成部2は、撮像部1から出力された検出データを一時的に記憶する記憶部20と、撮像距離の異なる検出データの拡大率を揃える拡大率補正部21と、撮像距離の異なる検出データのボケ量を揃えるボケ補正部22と、撮像距離の異なる検出データの間における差分係数を求める差分処理部23と、位相のラプラシアンに相当する値を算出するラプラシアン処理部24と、位相復元を行うための逆ラプラシアン演算を行う逆ラプラシアン処理部25と、復元された位相情報に基づいて画像データを生成する画像処理部26と、上記の各部20〜26及び撮像部1における撮像距離を制御する制御部27とを有している。画像構成部2は、ディジタル回路で構成しても良いし、ソフトウェアとCPUで構成しても良い。その場合には、CPUを含む制御部27が、記録媒体28に記録された位相情報復元プログラムに基づいて検出データを処理する。記録媒体28としては、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、又はDVD−ROM等が該当する。
【0026】
表示部3は、例えば、CRT等のディスプレイ装置であり、画像構成部2によって復元された位相情報を表す画像データに基づいて可視画像を表示する。また、出力部4は、例えば、レーザプリンタであり、画像データに基づいて可視画像をフィルム等にプリント出力する。
【0027】
次に、図1、図2及び図4を参照しながら、本発明の一実施形態に係る位相情報復元方法について説明する。図4は、本発明の一実施形態に係る位相情報復元方法を示すフローチャートである。本実施形態においては、図2に示すように、撮影距離を変えて撮像された2枚の回折縞画像を表す検出データを用いて可視画像を構成する。
【0028】
まず、ステップS10において、X線撮像を行う。即ち、図2に示すように、放射線源12からの距離がRとなる位置に被写体を配置し、センサ駆動部18は、制御部27の制御に基づいて、撮像距離がzとなる位置にセンサ13を配置し、被写体11にX線を照射することによりX線撮像を行う。同様に、撮像距離がzとなる位置にセンサ13を配置し、X線撮像を行う。
【0029】
ステップS10におけるX線撮像により、それぞれの撮像距離z1及びz2面において画素(x,y)に入射した回折光の強度を表す検出データI(x,y,z1)及びI(x,y,z2)が画像構成部2に順次入力され、記憶部21に記憶される。これらの検出データは、それぞれの撮像距離面における回折縞画像情報を表している。
【0030】
次に、ステップS11〜S16において、画像構成部2が、記憶部20に記憶されている検出データI(x,y,z)及びI(x,y,z)に基づいて、センサ位置における位相φ(x,y)を復元する。
まず、ステップS11において、拡大率補正部21が、検出データI(x,y,z)及びI(x,y,z)の拡大率を揃える。例えば、検出データI(x,y,z)が被写体11のM倍の撮影で、検出データI(x,y,z)が被写体11のN倍の撮影である場合には、検出データI(x,y,z)をN/M倍に補間拡大画像処理を行う。ここで、検出データI(x,y,z)をM/N倍に補間拡大画像処理を行っても良い。
【0031】
次に、ステップS12において、ボケ補正部22が、検出データI(x,y,z)及びI(x,y,z)のボケ量を揃える。ここで、図5を用いて、有限の焦点サイズを持つ放射線源から発生したX線をセンサ13で検出する検出信号について説明する。有限の焦点サイズを有する放射線源12から発生するX線により得られる画像にはボケが生じる。その画像のボケを表すボケ関数f(u,v)は、被写体11と放射線源12との距離をR、被写体11とセンサ13との撮像距離をzとし、放射線源のx軸、y軸方向の焦点サイズをそれぞれσ、σとすると、次式(5)で表される正規分布となる。
【数5】
Figure 0004137580
ただし、u、vはそれぞれセンサ13におけるx軸、y軸方向の空間周波数成分であり、また、a=2πσz/R、a=2πσz/Rである。
【0032】
ここで、図5に、空間周波数の関数としてボケ関数を示す。なお、f1(u,v)、f2(u,v)は、次式(6)及び次式(7)で表される異なる距離z1、z2におけるボケ関数である。
【数6】
Figure 0004137580
図5に示すように、異なる距離におけるボケ関数は異なるため、従来の方法のように、ボケ量の揃っていない複数の検出データを用いて位相情報を得ても、検出データのボケ量の違いにより誤差が生じていた。そこで、本発明においては、検出データI(x,y,z1)及びI(x,y,z2)のボケ量を揃える。
【0033】
検出データI(x,y,z2)のボケ量を補正し、検出データI(x,y,z1)に揃える場合は、次式(8)に基づくフィルタ処理を検出データI(x,y,z2)に施せば良い。
【数7】
Figure 0004137580
ここで、図6に、空間周波数の関数としてフィルタ処理に用いられる式(8)の関数を示す。
【0034】
したがって、ボケ補正処理された検出データI’(x,y,z2)は、次式(9)のように表される。
【数8】
Figure 0004137580
ここで、I2(u,v)はI(x,y,z2)の空間周波数成分であり、I’2(u,v)はボケ補正処理されたI(x,y,z2)の空間周波数成分である。また、F[ ]はフーリエ変換を示し、F-1[ ]は逆フーリエ変換を示す。
【0035】
本実施形態においては、検出データI(x,y,z2)のボケ量を補正し、検出データI(x,y,z1)に揃えたが、検出データI(x,y,z1)のボケ量を補正し、検出データI(x,y,z2)に揃えても良いし、検出データI(x,y,z1)及びI(x,y,z2)のボケ量をそれぞれ補正し、検出データI(x,y,z1)及びI(x,y,z2)とは異なるボケ量で揃えても良い。
【0036】
次に、ステップS13において、差分処理部23が、次式(10)を用いて検出データI(x,y,z1)と検出データI’(x,y,z2)との差分を求める。
【数9】
Figure 0004137580
【0037】
次に、ステップS14において、ラプラシアン処理部24が、ステップS13において求められた差分係数と、記憶部20に記憶されている検出データとに基づいて、次式(11)を用いて位相のラプラシアンf(x,y,z)=∇2φ(x,y,z)を求める。
【数10】
Figure 0004137580
ここで、式(11)においては、差分係数をボケ補正処理されていない検出データI(x,y,z1)で割っているが、ボケ補正処理されていない検出データI(x,y,z2)で割っても良いし、ボケ補正処理された検出データI’(x,y,z2)で割っても良い。
【0038】
さらに、ステップS15において、逆ラプラシアン処理部25が、ステップS14において求められた位相のラプラシアンf(x,y,z)=∇2φ(x,y,z)に対して逆ラプラシアン演算を行うことにより、位相φ(x,y,z)を得る。
【0039】
ここで、逆ラプラシアン演算について、詳しく説明する。f(x,y,z)のフーリエ変換は、次式(12)のように表される。
【数11】
Figure 0004137580
【0040】
これより、位相φ(x,y,z)は、式(13)で表される。
【数12】
Figure 0004137580
【0041】
この式(13)を利用することにより、逆ラプラシアン演算を行うことができる。即ち、f(x,y,z)をフーリエ変換し、{−4π2(u2+v2)}-1を掛け、さらに、これを逆フーリエ変換することにより、復元された位相φ(x,y,z)が得られる。
【0042】
ここで、|u|及び|v|が所定の値以下となる範囲内で{−4π2(u2+v2)}-1を予め算出しておき、式(13)に示す演算を行う際にこれを利用しても良い。即ち、所定の値constを設定すると、|u|,|v|≦constの場合には、式(13)において次式の値を用いる。
{−4π2(u2+v2)}-1=(予め算出された値)
また、|u|,|v|>constの場合には、式(13)において、次式の値を用いる。
{−4π2(u2+v2)}-1=0
これにより、逆ラプラシアン演算を高速に行うことができる。
【0043】
次に、ステップS16において、画像処理部26が、位相φ(x,y,z)に基づいて画像データを生成する。すなわち、画像処理部26は、それぞれの画素における位相φ(x,y,z)を、明度を表すデータに変換すると共に、階調処理及び補間処理等の必要な画像処理を施す。
【0044】
その後、必要に応じて、ステップS17において、表示部3が、画像データに基づく可視画像をディスプレイに表示したり、ステップ18において、出力部4が、フィルム等に印刷する。
【0045】
実施形態においては、被写体を撮像する際にX線を用いているが、被写体を透過して回折像を形成することができるビームであればX線に限らず用いることができる。例えば、電子線を含む粒子線等が挙げられる。また、本実施形態においては、撮影距離の異なる2つの検出データを用いて位相を復元したが、撮影距離の異なる3つ以上の検出データを用いて位相を復元しても良い。
【0046】
また、X線を発生する放射線源としては、例えば、立命館大学が開発した電子蓄積型高輝度硬X線発生装置は、卓上型でありながら放射光並みに輝度及び指向性の高いX線を発生することができる。この装置が発生するX線はコヒーレント性を有しており、また、単一波長ではないが、単色化結晶と組み合わせることにより単色化することが可能である。また、技術研究組合フェムト秒テクノロジー研究機構(FESTA)が開発した線源は、逆コンプトン散乱の原理に基づいて極短パルス高輝度X線を発生する。この線源は、小型で持ち運びが可能であり、干渉性を有すると共に、指向性及び単色性の高いX線を発生することができる。
【0047】
次に、本発明の一実施形態に係る位相情報復元装置の変形例について、図7を参照しながら説明する。図7に示す位相情報復元装置は、撮像部6及び読取り部5を有している。その他の構成については、図1に示す位相情報復元装置と同様である。
【0048】
撮像部6においては、画像情報を記録するために用いられるスクリーンとして、図2に示すセンサ13の替わりに、輝尽性蛍光体シート(記録シート)が用いられる。
輝尽性蛍光体(蓄積性蛍光体)とは、放射線等を照射するとその放射線エネルギの一部が蓄積され、その後、可視光等の励起光を照射すると、蓄積されたエネルギに応じて輝尽発光する物質である。この輝尽性蛍光体を塗布したシートに人体等の被写体の放射線画像を撮像記録し、この輝尽性蛍光体シートをレーザ光等の励起光で走査すると輝尽発光光が生じるので、この光を光電的に読み取ることにより検出データを得ることができる。この検出データを適切に処理した後、CRT等のディスプレイに出力したり、レーザプリンタ等によりフィルムに印刷して、放射線画像を可視画像として表示することができる。
【0049】
図7に示す読取り部5は、記録シートに記録された放射線画像を読み取るために用いられる。ここで、図8を参照しながら、読取り部5の構成及び動作について説明する。画像情報が記録された記録シート50は、読取り部5の所定位置にセットされる。記録シート50は、モータ51により駆動されるシート搬送手段52により、Y軸方向に搬送される。一方、レーザ光源53より出射したビームL1は、モータ54により駆動されて矢印方向に高速回転する回転多面鏡55により反射偏向され、収束レンズ56を通過する。その後、ビームL1は、ミラー57により光路を変えて、記録シート50をX軸方向に走査する。この走査により、励起光L2が記録シート50に照射され、照射された部分からは蓄積記録されている放射線画像情報に応じた光量の輝尽発光光L3が発散される。輝尽発光光L3は、光ガイド58により導かれ、フォトマルチプライヤ(光電子増倍管)59により光電的に検出される。フォトマルチプライヤ59から出力されたアナログ信号は、増幅器60により増幅され、A/D変換器61によりディジタル化される。A/D変換器61から出力された検出データは、画像構成部2に入力される。
【0050】
撮像部6において、撮像距離を変えて複数枚の記録シートを用いて放射線撮像を行い、読取り部5において、それぞれの記録シートから画像情報を読み取ることにより、異なる撮像距離において得られた複数の干渉縞画像を表す検出データが得られる。画像構成部2は、この検出データに基づいて位相復元を行い、画像データを生成する。画像構成部2における処理については、図4を用いて説明したのと同様である。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、有限要素法等の解法に用いるX線の強度の放射線源の焦点サイズに起因するボケ量を揃えることにより、位相の推定精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る位相情報復元装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示す撮像部の構成を示す模式図である。
【図3】X線を発生させるX線管の構成を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る位相情報復元方法を示すフローチャートである。
【図5】空間周波数の関数としてボケ関数を示す図である。
【図6】空間周波数の関数としてフィルタ処理に用いられる関数を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る位相情報復元装置の構成の変形例を示す図である。
【図8】図7に示す読取り部の構成を示す模式図である。
【図9】位相復元の原理を説明するための図である。
【符号の説明】
1、6 撮像部
2 画像構成部
3 表示部
4 出力部
5 読取り部
11 被写体
12 放射線源
13 センサ
14 保持部
15 レール
16、60 増幅器
17、61 A/D変換器
18 センサ駆動部
20 記憶部
21 拡大率補正部
22 ボケ補正部
23 差分処理部
24 ラプラシアン処理部
25 逆ラプラシアン処理部
26 画像処理部
27 制御部
28 記録媒体
50 輝尽性蛍光体シート(記録シート)
51 モータ
52 シート搬送手段
53 レーザ光源
54 モータ
55 回転多面鏡
56 収束レンズ
57 ミラー
58 光ガイド
59 フォトマルチプライヤ(光電子増倍管)
101 物体面
102 スクリーン

Claims (6)

  1. 被写体を透過した放射線の強度を検出することにより得られた検出データに基づいて、被写体を透過した放射線の位相情報を復元する、放射線撮像装置における位相情報復元方法であって、
    被写体からの距離が異なる複数の検出面において放射線の強度を検出することにより得られた、前記複数の検出面における放射線画像情報をそれぞれ表す複数の検出データの内の少なくとも第1の検出データと第2の検出データについて互いのボケ量が揃うようにボケ量を補正するステップ(a)と、
    前記ボケ量が補正された第1の検出データと第2の検出データとの差分を表す差分データを求めるステップ(b)と、
    前記複数の検出データとボケ量が補正された検出データとの内のいずれかと、前記差分データとに基づいて、位相のラプラシアンを求めるステップ(c)と、
    位相のラプラシアンに逆ラプラシアン演算を施すことにより位相データを求めるステップ(d)と、
    を具備する位相情報復元方法。
  2. ステップ(a)が、前記複数の検出データのボケ関数に基づいて、前記複数の検出データにおいて放射線源の焦点サイズに起因するボケ量を揃えることを含む、請求項1記載の位相情報復元方法。
  3. 被写体を透過した放射線の強度を検出することにより得られた検出データに基づいて、被写体を透過した放射線の位相情報を復元する放射線撮像装置の位相情報復元装置であって、
    被写体からの距離が異なる複数の検出面において放射線の強度を検出することにより得られた、前記複数の検出面における放射線画像情報をそれぞれ表す複数の検出データの内の少なくとも第1の検出データと第2の検出データについて互いのボケ量が揃うようにボケ量を補正するボケ補正手段と、
    前記ボケ量が補正された第1の検出データと第2の検出データとの差分を表す差分データを求める差分処理手段と、
    前記複数の検出データとボケ量が補正された検出データとの内のいずれかと、前記差分データとに基づいて、位相のラプラシアンを求めるラプラシアン処理手段と、
    位相のラプラシアンに逆ラプラシアン演算を施すことにより位相データを求める逆ラプラシアン処理手段と、
    を具備する位相情報復元装置。
  4. 前記ボケ補正手段が、前記複数の検出データのボケ関数に基づいて、前記複数の検出データにおいて放射線源の焦点サイズに起因するボケ量を揃える、請求項3記載の位相情報復元装置。
  5. 被写体を透過した放射線の強度を検出することにより得られた検出データに基づいて、被写体を透過した放射線の位相情報を復元する放射線撮像装置の位相情報復元プログラムであって、
    被写体からの距離が異なる複数の検出面において放射線の強度を検出することにより得られた、前記複数の検出面における放射線画像情報をそれぞれ表す複数の検出データの内の少なくとも第1の検出データと第2の検出データについて互いのボケ量が揃うようにボケ量を補正する手順(a)と、
    前記ボケ量が補正された第1の検出データと第2の検出データとの差分を表す差分データを求める手順(b)と、
    前記複数の検出データとボケ量が補正された検出データとの内のいずれかと、前記差分データとに基づいて、位相のラプラシアンを求める手順(c)と、
    位相のラプラシアンに逆ラプラシアン演算を施すことにより位相データを求める手順(d)と、
    をCPUに実行させる位相情報復元プログラム。
  6. 手順(a)が、前記複数の検出データのボケ関数に基づいて、前記複数の検出データにおいて放射線源の焦点サイズに起因するボケ量を揃えることを含む、請求項5記載の位相情報復元プログラム。
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