JP4136612B2 - タンパク質PGC−1vとその遺伝子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPARγ)コアクチベーター(PGC-1)の派生体タンパク質PGC-1vとこのタンパク質をコードする遺伝子に関するものである。さらに詳しくはこの出願の発明は、肥満や痩身等の体形異常、代謝調節異常等の疾患の診断や治療に有効な新規タンパク質PGC-1vとその遺伝子材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ペルオキシソームは動植物の細胞中に見られるオルガネラ(細胞小器官)であり、コレステロールなどの脂質代謝や吸収に関与する酵素群を含んでいる。ペルオキシソームは、食餌や生理的な要因によっても増加するが、ペルオキシソーム増殖剤(peroxisome proliferator:例えば抗脂血薬、殺虫剤およびフタル酸類の可塑剤など)によってもそのサイズと数を劇的に増加させると同時に、β−酸化サイクルに必要とされる酵素の発現増加を介してペルオキシソームの脂肪酸代謝能を高めることが知られている。そして、このペルオキシソーム増殖剤によって活性化される核内受容体として、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferator activated receptor:PPAR)が同定されている。
【0003】
PPARは、その構造などから核内受容体ファミリーメンバーと考えられ、リガンドとの結合により活性化され、標的遺伝子上流域に存在する応答配列に結合して標的遺伝子の転写を活性化する。特許文献1には、PPARのリガンド(アゴニストおよびアンタゴニスト)をスクリーニングする方法が開示されている。
【0004】
またPPARは、他の核内受容体と同様、その転写活性化作用を発揮するためには共役転写因子(コアクチベーター)群との相互作用が必要であると考えられている。PPARには、αタイプ、δタイプおよびγタイプの3種類のサブタイプが知られているが、特に脂肪組織で発現して脂肪細胞の分化に関与するPPARγ(非特許文献1、2)のコアクチベーターとしてPGC-1が報告されている(非特許文献3)。
【0005】
PGC-1の活性は多様であり、PPARγ以外に、PPARα、ER(estrogen receptor)、CBP(CREB binding protein)、NRF1(nuclear respiratory factor 1)、MEF2(myocyte-specific enhancer factor 2)等の転写因子に結合してこれらの転写調節活性を高め、これらの転写因子の下流にある遺伝子群の発現を制御している(非特許文献3-10)。特に、欠失変異によるドメイン解析の結果、N末の約200アミノ酸残基の領域にPPARα、PPARγ、ERα等の転写因子が結合することが判明している(非特許文献3、4、6-9)。また、この領域の下流に存在するN末約200-400アミノ酸残基の領域は、前者の領域の活性に対して抑制的に働くため、N末約200アミノ酸残基の領域が全長PGC-1タンパク質に比較して、転写因子に対する高い活性化能を有することも知られている(非特許文献5)。そして活性化された転写因子は、褐色脂肪細胞の分化やUCP-1(uncoupling protein-1)の発現亢進(非特許文献11、12)、ミトコンドリア内の脂肪酸酸化回路酵素であるMCAD(medium chain acyl-CoA dehydrogenase)やLACD(long chain acyl-CoA dehydrogenase)等の発現亢進(非特許文献6、7)を生じさせる。
【0006】
【特許文献1】
特開平11-56369号公報
【非特許文献1】
Tontonoz et al., Genes and Development 8:1224-1234, 1994
【非特許文献2】
Tontonoz et al., Cell 79:1147-1156, 1994
【非特許文献3】
Puigserver, P. et al., Cell 92:826-339, 1998
【非特許文献4】
Wu, Z. et al., Cell 98:115-124, 1999
【非特許文献5】
Puigserver, P. et al., Science 286:1368-1371, 1999
【非特許文献6】
Vega, RB. et al., Mol. Biol. 20:1868-1876, 2000
【非特許文献7】
Barbera, MJ. et al., J. Biol. Chem. 276:1486-1493, 2001
【非特許文献8】
Tcherepanoval, I. et al., J. Biol. Chem. 275:16302-07, 2000
【非特許文献9】
Knutti, D. et al., Mol. Cell Biol. 20:2411-2422, 2000
【非特許文献10】
Michael, LF. et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA. 98:3820-05, 2001
【非特許文献11】
Boss, O. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 261:870-876, 1999
【非特許文献12】
Rosen, ED. et al., Molecular Cell 4:611-617, 1999
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記のとおり、PRARγのコアクチベーターPGC-1は、様々な転写因子を活性化し、それによって褐色脂肪細胞を分化増殖させ、UCPタンパク質や脂肪酸酸化回路の酵素を増加させることによって、例えば肥満の改善等に機能すると考えられるが、その活性化領域はPGC-1の一部であり、他の領域は転写因子の活性化に対して抑制的である。
【0008】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、PGC-1タンパク質よりもさらに高い転写因子活性化能を有する新規タンパク質を提供することを課題としている。
【0009】
またこの出願の発明は、この新規タンパク質の遺伝子操作材料と、抗体を提供することを課題としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この出願は、前記の課題を解決するための発明として、以下の(1)〜(12)の発明を提供する。
(1) 配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトタンパク質PGC-1vをコードするヒト遺伝子。
(2) 配列番号5のアミノ酸配列を有するマウスタンパク質PGC-1vをコードするマウス遺伝子。
(3) 前記発明(1)のヒト遺伝子のゲノムDNA、mRNA、cDNAまたはそれらの相補配列から精製されたポリヌクレオチド。
(4) 前記発明2のマウス遺伝子のゲノムDNA、mRNA、cDNAまたはそれらの相補配列から精製されたポリヌクレオチド。
(5) 前記発明(3)または(4)のポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブ。
(6) 前記発明(3)または(4)のポリヌクレオチドをPCR増幅するオリゴヌクレオチドプライマーセット。
(7) 前記発明(3)または(4)のポリヌクレオチドを保有する組換えベクター。
(8) 前記発明(7)の組換えベクターによる形質転換体細胞。
(9) 前記発明(1)のヒト遺伝子の発現産物であって、配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトタンパク質PGC-1v。
(10) 前記発明(2)のマウス遺伝子の発現産物であって、配列番号5のアミノ酸配列を有するマウスタンパク質PGC-1v。
(11) 配列番号2または5における連続5アミノ酸残基以上のアミノ酸配列からなるオリゴペプチド。
(12) 前記発明(9)または(10)のタンパク質PGC-1vを認識する抗体。
【0011】
すなわちこの出願の発明者らは、PPARγのコアクチベーターとしての新規因子をヒトおよびマウスで探索した結果、PGC-1タンパク質の派生体(スプライシングバリアントまたはアイソフォーム)としてPGC-1vタンパク質をを同定した。このPGC-1vタンパク質は、PGC-1遺伝子からの選択的スプライシングにより発現されたmRNAより産生され、ヒトPGC-1(GenBank/AF106698)のN末から268アミノ酸残基の領域とそのC末にLeu-Phe-Leuの3アミノ酸残基が付加されている(配列番号2)。またマウスPGC-1(GenBank/AF049330)の派生体PGC-1vタンパク質も同定した(配列番号5)。そして、後記の実施例に示したように、PGC-1vタンパク質について以下の知見を得た。
(a)PGC-1vタンパク質は生体内で生理的に存在し、ヒトでは皮膚、甲状腺、腎臓などに比較的多く発現している。
(b)細胞内局在はPGC-1タンパク質とは異なり、細胞特異性が存在する。例えば、HeLa細胞では細胞質に存在するが、褐色脂肪細胞やヒト乳癌由来細胞では細胞質に局在する場合と核に局在する場合が認められる。
(c)PGC-1vタンパク質の細胞内局在を特異的に調節する機構が存在し、転写因子ERαをHeLa細胞に共発現させるとE2(エストラジオール)依存的にPGC-1vタンパク質は核に移行する。
(d)PGC-1vタンパク質が核内に存在する場合に、PGC-1vタンパク質はERαに対するコアクチベーターとして機能する。
(e) PGC-1vタンパク質の2つの転写因子結合モチーフ(LLXXL:但しXは任意のアミノ酸)への変異導入が、E2存在下におけるERα依存的なPGC-1vタンパク質の核内移行を阻害する。
(f) PGC-1vタンパク質の核内移行は、ERα以外の転写因子であるPPARαおよびPPARγ2を共発現させることによっても、リガンド依存的に亢進する。
【0012】
前記のとおり、PGC-1タンパク質の欠失変異の解析から、PGC-1タンパク質のN末約200アミノ酸残基の領域は全長PGC-1タンパク質よりも強い転写因子活性化能を有している。このPGC-1タンパク質の転写因子活性化領域にほぼ相当するPGC-1vタンパク質は従って、核に存在した場合は、PGC-1タンパク質の欠失変異と同様にPPARα、PPARγ、ERα等の転写因子を活性化させ、その結果、褐色脂肪細胞を増殖させ、UCP-1タンパク質や脂肪酸酸化回路の酵素を増加させると結論することができる。例えば、UCPの過剰発現マウスでは、UCPタンパク質によるエネルギーの過剰消費により体重減少と痩身が観察されている(Clapham, JC. et al., Nature 406:415-418, 2000)。また褐色脂肪細胞はヒトでは腹腔内脂肪組織に存在し、肥満体に比べて痩身体ではUCP-1タンパク質の発現量が像体している(Obwekofler, H. et al., J. Lipid Res. 38:2125-2133, 1997)。さらに脂肪酸酸化回路の酵素増加により脂肪酸消費が増大すると考えられる。
【0013】
すなわち、PGC-1vタンパク質が核に局在した場合には、PGC-1タンパク質に比較して強い褐色脂肪細胞分化とUCP-1タンパク質の増加および脂肪酸代謝の亢進が引き起こされる。その結果、褐色脂肪細胞は増加し、脂肪酸が燃焼され、UCP-1タンパク質により産生されたエネルギーが熱変換され、肥満が改善される。
【0014】
さらに、PGC-1vタンパク質の細胞内局在は、PGC-1vタンパク質がコアクチベーターとして機能するPPARα、PPARγ、ERα等の転写因子の存在によって、それぞれのリガンド依存的に調節される。細胞特異的なPGC-1vタンパク質の細胞内局在の変化は、これらの転写因子が存在する細胞(褐色脂肪細胞や乳ガン由来細胞など)でリガンド依存的に核移行するためと考えられる。そして、これらの細胞でコアクチベーターとしての機能を最大に発揮すると考えられる。以上のことから、PGC-1vタンパク質を外来性に投与した場合でも、PGC-1vタンパク質のコアクチベーター活性は特定の細胞や臓器(褐色脂肪組織や乳腺など)でのみ発現すると考えられる。
【0015】
以上のことから、PGC-1vタンパク質やそれをコードする遺伝子ポリヌクレオチドは、肥満や痩身等の体形異常の診断、治療のための新たな材料自体として、あるいはそれらの材料を探索するためのプローブとして極めて有用である。
【0016】
この出願の発明は、以上のとおりの新規な知見に基づいてなされたものである。
なお、この出願の発明において、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は特定塩基数の断片を意味するものでなく、一応の目安として100bp以上の断片をポリヌクレオチド、100bp未満の断片をオリゴヌクレオチドとするが、例外も存在する。同様に、オリゴペプチドについても特定範囲のアミノ酸残基数に限定されるものではない。この発明において使用するその他の用語や概念については、発明の実施形態や実施例の記載において説明する。また、この発明を実施するために使用する様々な遺伝子操作技術等は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献(例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989)等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能なものである。
【0017】
以下、この出願の発明について、実施形態を詳しく説明する。
【0018】
【発明の実施の形態】
発明(1)および(2)は、それぞれ、ヒトおよびマウスのPGC-1vタンパク質をコードするゲノム遺伝子である。
【0019】
さらに具体的には、発明(1)のヒトPGC-1v遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトPGC-1vタンパク質をコードし、この遺伝子から転写されるmRNAからは配列番号1の塩基配列を有するcDNAが合成される。
【0020】
発明(2)のマウスPGC-1v遺伝子は、配列番号5のアミノ酸配列を有するマウスPGC-1vタンパク質をコードし、そのmRNAからは配列番号4の塩基配列を有するcDNAが合成される。さらに詳しくは、このマウスPGC-1vゲノム遺伝子の部分配列は配列番号3に示したとおりである。
【0021】
発明(1)および(2)のPGC-1v遺伝子は、例えば、それぞれ配列番号1、3、4の塩基配列またはその一部配列からなる精製ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドをプローブとしてヒトおよびマウスのゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによって単離するすることができる。得られたゲノム遺伝子は、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBN(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法およびSDA(Strand Displacement Amplification)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅することができる。
【0022】
なお、この発明(1)および(2)の遺伝子には、それがコードするタンパク質の発現に対する制御領域(プロモーター/エンハンサー、サプレッサー等)も含まれる。これらの発現制御領域は、PGC-1vタンパク質やその遺伝子の更なる機能を解明するためにも有用である。また、発現制御領域に対する転写因子の探索は、肥満や代謝異常疾患の治療薬成分としても有用である。
【0023】
発明(3)および(4)は、それぞれ前記のゲノムPGC-1v遺伝子やその遺伝子から転写されるmRNA、mRNAから合成したcDNA等から精製されたポリヌクレオチド(DNA断片やRNA断片)である。例えば、cDNAはヒトおよびマウスのそれぞれの細胞から抽出したポリ(A)+RNAを鋳型として合成することができる。例えばヒト細胞としては、人体から手術などによって摘出されたものでも培養細胞でもよい。cDNAは、公知の方法(Mol. Cell Biol. 2, 161-170, 1982; J. Gene 25, 263-269, 1983; Gene, 150, 243-250, 1994)を用いて合成することができる。あるいは、オリゴヌクレオチドをプライマ−として、ヒトおよびマウスのそれぞれの細胞から単離したmRNAを鋳型とするRT-PCR法を用いて、目的cDNAを合成することもできる。このようにして調製されるヒトPGC-1v cDNAおよびマウスPGC-1v cDNAは、具体的にはそれぞれ配列番号1(ヒト)および配列番号4(マウス)の塩基配列を有している。これらのポリヌクレオチドは、例えばこの発明のPGC-1vタンパク質の遺伝子工学的な製造に使用することができる。また、ヒトPGC-1v遺伝子やそのポリヌクレオチドは肥満、痩身、代謝異常疾患に対する診断や治療材料等としても有用である。さらに、これらのポリヌクレオチドは、PGC-1vに対するアゴニストやアンタゴニストをスクリーニングするための材料としても有用である(特許文献1参照)。またさらに、マウスPGC-1v遺伝子やポリヌクレオチドは、例えばPGC-1vタンパク質の機能不全動物(例えばPGC-1vノックアウト動物)やPGC-1vタンパク質過剰発現動物(例えばPGC-1vトランスジェニック動物)の作出のための材料としても有用である。
【0024】
発明(5)のオリゴヌクレオチドプローブは、前記のポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズするDNA断片またはRNA断片であり、例えば、配列番号1、3または4の塩基配列もしくはその相補配列における連続10〜100bpのDNA断片等である。ここで、ストリンジェント条件とは、前記のポリヌクレオチドとプローブとの特異的なハイブリッド形成を可能とする条件であり、ハイブリダイゼーションおよび洗浄工程における塩濃度、有機溶媒(ホルムアミド等)の濃度、温度条件によって規定される。詳しくは、米国特許No. 6,100,037等に詳しく規定されている。
【0025】
発明(7)のプライマーセットは、前記のポリヌクレオチドをPCR増幅するための1対のオリゴヌクレオチドである。これらのプライマーセットは、配列番号1または4の塩基配列に基づき設計し、合成・精製の各工程を経て調製することができる。なお、プライマー設計の留意点として、例えば以下を指摘することができる。プライマーのサイズ(塩基数)は、鋳型DNAとの間の特異的なアニーリングを満足させることを考慮し、15-40塩基、望ましくは15-30塩基である。ただし、LA(long accurate)PCRを行う場合には、少なくとも30塩基が効果的である。センス鎖(5'末端側)とアンチセンス鎖(3'末端側)からなる1組あるいは1対(2本)のプライマーが互いにアニールしないよう、両プライマー間の相補的配列を避けると共に、プライマー内のヘアピン構造の形成を防止するため自己相補配列をも避けるようにする。さらに、鋳型DNAとの安定な結合を確保するためGC含量を約50%にし、プライマー内においてGC-richあるいはAT-richが偏在しないようにする。アニーリング温度はTm(melting temperature)に依存するので、特異性の高いPCR産物を得るため、Tm値が55-65℃で互いに近似したプライマーを選定する。また、PCRにおけるプライマー使用の最終濃度が約0.1〜約1μMになるよう調整する等を留意すうことも必要である。また、プライマー設計用の市販のソフトウェア、例えばOligoTM[National Bioscience Inc.(米国)製]、GENETYX[ソフトウェア開発(株)(日本)製]等を用いることもできる。例えば、マウスPGC-1v cDNAのPCRプライマーセットとしては配列番号6および7の合成オリゴヌクレオチドを例示することができる。
【0026】
発明(7)の組換えベクターは、クローニングベクターまたは発現ベクターであり、インサートしてのポリヌクレオチドの種類や、その使用目的等に応じて適宜のものを使用する。例えば、cDNAまたはそのORF領域をインサートとしてこの発明のPGC-1vタンパク質を生産する場合には、インビトロ転写用の発現ベクターや、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞のそれぞれに適した発現ベクターを使用することができる。また、前記のゲノム遺伝子DNAをインサートとする場合には、BAC(Bacterial Artificial Chromosome)ベクターやコスミドベクター等を使用することもできる。
【0027】
発明(8)の形質転換体細胞は、例えば、前記発明(7)の組換えベクターを用いてPGC-1vタンパク質を製造する場合には、大腸菌、枯草菌等の原核細胞や、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用することができる。これらの形質転換体細胞は、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など公知の方法によって組換えベクターを細胞に導入することによって調製することができる。
【0028】
発明(9)は、発明(1)のヒトPGC-1v遺伝子の発現産物であり、配列番号2のアミノ酸配列を有する精製タンパク質(ヒトPGC-1vタンパク質)である。
【0029】
発明(10)は、発明(2)のマウスPGC-1v遺伝子の発現産物であり、配列番号5のアミノ酸配列を有する精製PGC-1vタンパク質である。
【0030】
これらPGC-1vタンパク質は、抗体作製のための免疫源として、あるいは肥満や代謝異常疾患の治療薬成分として、あるいは治療薬を開発するための標的分子等として有用である。
【0031】
これらの精製PGC-1vタンパク質は、ヒトまたはマウスの細胞から単離する方法、配列番号2または5のアミノ酸配列に基づき化学合成によってペプチドを調製する方法等によって得ることができるが、好ましくは、前記発明(7)の発現ベクターおよび/または発明(8)の形質転換細胞を用いた遺伝子工学的方法(たとえば、in vitro転写系や宿主-ベクター系を用いる方法)によって大量に生産することができる。例えば、宿主-ベクター系を用いる方法の場合には、形質転換体細胞を培養し、その培養物から、例えば、尿素などの変性剤や界面活性剤による処理、超音波処理、酵素消化、塩析や溶媒沈殿法、透析、遠心分離、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGE、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等によって単離、精製することによりこの発明の精製PGC-1vタンパク質を大量に得ることができる。なお、このような遺伝子工学的手法によって得られたPGC-1vタンパク質には、他の任意のタンパク質との融合タンパク質も含まれる。例えば、グルタチン−S−トランスフェラ−ゼ(GST)や緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合蛋白質などが例示できる。さらに、細胞で発現したタンパク質は、翻訳された後、細胞内で各種修飾を受ける場合がある。したがって、修飾されたタンパク質もこの発明の範囲に含まれる。このような翻訳後修飾としては、N末端メチオニンの脱離、N末端アセチル化、糖鎖付加、細胞内プロテア−ゼによる限定分解、ミリストイル化、イソプレニル化、リン酸化などである。
【0032】
発明(11)のオリゴペプチドは、それぞれ配列番号2および5における連続5アミノ残基以上のアミノ酸配列からなるペプチドである。このペプチドは、前記発明(9)または(10)のPGC-1vタンパク質を適当な分解酵素で分解する方法や、公知の固相ペプチド合成法によって調製することができる。これらのペプチドはPGC-1vタンパク質に対する抗体作製の抗原として有用である。
【0033】
発明(12)の抗体は、それぞれ前記のPGC-1vタンパク質を認識するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、PGC-1vタンパク質のエピトープに結合することができる全体分子、およびFab、F(ab')2、Fv断片等が全て含まれる。このような抗体は、前記の精製PGC-1vタンパク質またはそれらのペプチドを抗原として用いて動物を免役した後、血清から得ることができる。あるいは、上記の真核細胞用発現ベクターを注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、血清を採取することによって作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。免疫した動物の脾臓から採取したB細胞をミエロ−マと融合させてハイブリド−マを作製すれば、モノクロ−ナル抗体を産生することができる。
【0034】
以下、実施例として、この発明のPGC-1vの機能解析の実験的データを示し、この発明についてさらに詳細かつ具体的に説明する。
【0035】
【実施例】
実施例1
PGC-1タンパク質の派生体であるPGC-1vタンパク質をコードする遺伝子をヒトおよびマウスから単離した。このゲノム遺伝子の解析から、PGC-1vタンパク質は、図1に示したように、エキソン7の3'アクセプターサイトの選択的スプライシングによって産生されることが確認された。すなわち、ヒトPGC-1v cDNAは、配列番号1の第879〜910番塩基がヒトPGC-1 cDNAに挿入された結果、フレームシフト変位を生じ、ヒトPGC-1のN末から268アミノ酸残基の領域とそのC末にLeu-Phe-Leuの3アミノ酸残基を付加した全長271アミノ酸のヒトPGC-1vタンパク質をコードしている(配列番号1)。またマウスPGC-1v cDNAは、配列番号4の第863〜904番塩基がマウスPGC-1 cDNAに挿入された結果、フレームシフト変位を生じ、マウスPGC-1のN末から267アミノ酸残基の領域とそのC末にLeu-Phe-Leuの3アミノ酸残基を付加した全長270アミノ酸のマウスPGC-1vタンパク質をコードしている(配列番号4)。
実施例2
ヒトPGC-1v遺伝子の組織特異的発現をRT-PCR法を用いて試験した。結果は図2に示したとおりである。ヒトPGC-1vは皮膚、甲状腺、腎臓で比較的多く存在するが、PGC-1の発現量を超えることはなかった。また、PGC-1が多く発現する心臓、骨格筋でもPGC-1vの若干の存在が確認された。
実施例3
ヒトPGC-1v cDNAと緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするポリヌクレオチドとの融合遺伝子をHeLa細胞、褐色脂肪前駆細胞(HiB-1B)および乳癌由来細胞(MCF-7)にトランスフェクションし、PGC-1vの細胞内局在を試験した。また、ERα共存下での局在も試験した。結果は図3に示したとおりである。HeLa細胞ではPGC-1vは細胞質に局在するのに対し、褐色脂肪前駆細胞や乳癌由来細胞では一定の割合で核に局在する。またHeLa細胞ではERαを共発現させ、E2を添加すると、PGC-1vは速やかに核に移行した。
実施例4
PGC-1vが核内に存在する条件でのコアクチベーター活性をERE(estrogen responsible element)-ルシフェラーゼアッセイによって検討した。具体的には、ERE-ルシフェラーゼ遺伝子を、PGC-1v-GFP融合遺伝子またはPGC-1-GFP融合遺伝子、さらにERα遺伝子とともにHeLa細胞にトランスフェクションし、E2存在下・非存在下で培養後細胞抽出液を調整した。また、すべてのサンプルにウミシイタケ由来ルシフェラーゼ遺伝子を共発現させ、これを遺伝子導入効率の内部標準として、ERE依存性のルシフェラーゼ活性を測定した。
【0036】
結果は図4に示したとおりであり、PGC-1v-GFP融合タンパク質はE2依存性にERαの転写活性を増加させた。この結果から、PGC-1vがE2依存性のコアクチベーターであることが確認された。
実施例5
PGC-1vのERαに対する結合部位のアミノ酸を置換した変異PGC-1vを作製し、PGC-1vの核内移行の機構を検討した。具体的にはマウスPGC-1vの142番目のアミノ酸LをAに、210番目のアミノ酸LをAに、さらに142番目と210番目のアミノ酸LをAに置換した変異PGC-1v-GFPを、HeLa細胞にERαと共発現させ、E2存在下・非存在下で各種PGC-1v-GFPタンパク質の核内移行を観察した。
【0037】
結果は図5に示したとおりであり、E2存在下においてERα依存的なPGC-1vの核内移行は、210番目のアミノ酸置換では軽度に、142番目のアミノ酸置換では高度に、また両方のアミノ酸置換ではさらに高度に阻害された。この結果から、E2存在下においてERαと結合することがPGC-1vの核内移行に必要であることが確認された。
実施例6
ERα以外の核レセプターにおいても、リガンド依存性にPGC-1v蛋白を核内移行できるかを検討した。具体的にはPPARαおよびPPARγ2を各々PGC-1v-GFPとHeLa細胞に共発現させ、リノレイン酸(LA)、オレイン酸(OA)、Ly171883、ETYAなどの各種リガンド存在下および非存在下で、PGC-1v-GFP蛋白の細胞内局在を検討した。
【0038】
結果は図6に示したとおりである。PPARαおよびPPARγ2においても、ERαと同様に、PGC-1vを核内に移行させることを確認した。また、その核内移行は各種リガンド存在下で優位に促進することを確認した。
【0039】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、各種転写因子の新規コアクチベーターPGC-1vタンパク質と、このタンパク質の遺伝子操作材料および抗体が提供される。これらの発明によって、肥満や痩身、あるいは代謝異常疾患等の診断法や治療法、あるいは診断剤や治療薬剤の開発が促進される。
【0040】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 PGC-1vおよびPGC-1遺伝子構造の一部を示した模式図である。
【図2】 PGC-1vタンパク質の発現局在を調べた結果を示す電気泳動像である。
【図3】 PGC-1vの細胞内局在を調べた結果を示す共焦点レーザー顕微鏡像である。
【図4】 PGC-1vのコアクチベーター活性を調べた結果を示すルシフェラーゼアッセイのグラフである。
【図5】 PGC-1vの核移行の機構を変異PGC-1vを用いて調べた結果を示す共焦点レーザー顕微鏡像である。
【図6】 PPARαまたはPPARγ2転写因子の共発現によるPGC-1vの核移行を調べた結果を示す共焦点レーザー顕微鏡像である。
Claims (11)
- 配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトタンパク質PGC-1vをコードするヒト遺伝子。
- 配列番号5のアミノ酸配列を有するマウスタンパク質PGC-1vをコードするマウス遺伝子。
- 請求項1のヒト遺伝子のゲノムDNA、mRNA、cDNAまたはそれらの相補配列から精製されたポリヌクレオチド。
- 請求項2のマウス遺伝子のゲノムDNA、mRNA、cDNAまたはそれらの相補配列から精製されたポリヌクレオチド。
- 請求項3または4のポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブ。
- 請求項3または4のポリヌクレオチドをPCR増幅するオリゴヌクレオチドプライマーセット。
- 請求項3または4のポリヌクレオチドを保有する組換えベクター。
- 請求項7の組換えベクターによる形質転換体細胞。
- 請求項1のヒト遺伝子の発現産物であって、配列番号2のアミノ酸配列を有するヒトタンパク質PGC-1v。
- 請求項2のマウス遺伝子の発現産物であって、配列番号5のアミノ酸配列を有するマウスタンパク質PGC-1v。
- 請求項9または10のタンパク質 PGC-1v を認識する抗体。
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