JP4134281B2 - 雌しべの各組織に特異的な活性を有するプロモーターおよびその利用 - Google Patents
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Description
本発明は、雌しべの組織に特異的な発現活性を有するプロモーターおよびその利用に関する。本発明は、特に、ペチュニア由来の新規プロモーターであるPEThyZPT2−10遺伝子のプロモーター(ZPT2−10プロモーター)、PEThyZPT3−3遺伝子のプロモーター(ZPT3−3プロモーター)、およびPEThyZPT2−11遺伝子のプロモーター(ZPT2−11プロモーター)、ならびにそれらの利用に関する。
背景技術
植物の形質、例えば、花の形態形成の制御機構を解明するために、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、キンギョソウ(Antirrhinum majus)、およびペチュニア(Petunia hybrida)を用いて、分子生物学的および分子遺伝学的に研究が行われている。特に、ペチュニアは、研究材料として好んで使用されている。その理由として、ペチュニアは、園芸植物として価値が高く多種多様な品種が存在すること、形質転換し易いこと、花が大きくて見やすいこと、および遺伝学的な知見の蓄積が豊富であることが挙げられる(高辻博志、「植物の形を決める分子機構」、細胞工学、植物細胞工学シリーズ(秀潤社)、96〜106頁(1994))。
組識特異的な発現活性を有するプロモーターを同定することは、極めて重要である。例えば、ある異種遺伝子を、組識特異的に発現させることが所望される場合、目的の組識において特異的な発現活性を有するプロモーターの下流に目的の異種遺伝子が連結された(すなわち、このプロモーターの制御下で発現されるように、目的の異種遺伝子が配置された)発現カセットを構築する。この発現カセットを植物に導入することによって、目的の組識において、目的の異種遺伝子を特異的に発現させ得る。異種遺伝子を植物の所望の組識において特異的に発現させることは、改変された形質を植物に付与し得る点において研究上および園芸上、価値が高いと考えられる。
例えば、組織特異的なプロモーター活性が、雌しべの各組識のいずれかにおいて観察される場合、ある異種遺伝子を、このプロモーターに作動可能に連結して、植物に導入することによって、その雌しべの組識に特異的に発現させ得る。雌しべの組織についての、このような発現特異性を利用して、例えば、雌性不稔形質および自家不和合性の形質を植物に付与し得ると考えられる。
受粉によって合成が誘導されるエチレンは、花の萎凋を促進し、花保ちを悪くすることが知られている。雌性不稔植物は、一般に、受粉によるエチレン合成誘導が生じないので、花保ちがよいことが知られている。園芸品種の花卉に雌性不稔形質を付与することによって、花卉の花保ちを改善し得ると考えられる。従って、雌性不稔の形質を付与する技術が、園芸産業にもたらす効果は大きい。
従来、雌性不稔形質を植物に付与する方法として、重イオンビーム照射法などの突然変異技術が試みられている。また、バイオテクノロジーによる手法として、(1)アブラナの柱頭組識に特異的なプロモーターを用いてジフテリア・トキシンを発現させたこと(Kandasamy,M,K.ら、Plant Cell,5,263−275(1993))、および(2)タバコの柱頭組識に特異的なプロモーターを用いて、barnase(細胞死を引き起こす活性を有する酵素の1つ)を発現させたこと(Goldman,M.H.ら、EMBO J.,.13,2976−2984(1994))が報告されている。
一方、自家不和合性は、交雑育種の効率の観点から、重要な形質である。タバコ(Nicotiana)においては、トマトのChi2:1(Harikrishna,K.ら、Plant Mol.Biol.,30,899−911(1996))のプロモーターを用いて、花粉を排除する機能を備える遺伝子(S−RNase遺伝子)を、雌しべの通道組織(transmitting tissue)に特異的に発現させることによって、自家不和合性を付与する技術が開発されている。
上記のように、雌しべの組織に特異的な発現活性を有するプロモーターを同定することは、学術研究のためだけでなく、実用上も重要である。このようなプロモーターを単離できれば、園芸品種のような有用植物の形質を改変するにおいて非常に有用である。
発明の開示
本発明者は、3種のジンクフィンガー型転写因子(ZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3)をコードする遺伝子の上流領域DNA(それぞれ、配列番号1の1位から2595位までのDNA配列、配列番号2の1位から2322位までのDNA配列、および配列番号3の1位から2012位までのDNA配列)を単離し、遺伝子発現制御機能を試験した。その結果、本発明者は、これら3種の上流領域DNAは、通道組織、柱頭、維管束などの雌しべの組識について、互いに異なる、それぞれ特異的なプロモーター活性を有することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
本発明は、以下の(a)または(b)のDNAを含むプロモーターに関する:
(a)配列番号1によって示される塩基配列の第1位から第2595位までの配列を有するDNA;または
(b)(a)の一部の配列であって、通道組織および胎座表層のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。
本発明はまた、以下の(c)または(d)のDNAを含むプロモーターに関する:
(c)配列番号2によって示される塩基配列の第1位から第2322位までの配列を有するDNA;または
(d)(c)の一部の配列であって、通道組織、胎座表層、柱頭分泌領域、および花托のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。
本発明はさらに、以下の(e)または(f)のDNAを含むプロモーターに関する:
(e)配列番号3によって示される塩基配列の第1位から第2012位までの配列を有するDNA;または
(f)(e)の一部の配列であって、雌しべの維管束および花托のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。
本発明はまた、上記のいずれかのプロモーターと、このプロモーターに作動可能に連結された異種遺伝子とを含む、発現カセットに関する。
本発明はさらに、上記の発現カセットを植物細胞に導入する工程、および上記の発現カセットが導入された植物細胞を植物体に再生する工程を包含する、形質が改変された植物を作出する方法に関する。
本発明はまたさらに、植物の形質を改変するための上記の発現カセットの使用に関し、この発現カセットは植物細胞に導入され、上記のプロモーターに作動可能に連結された上記の異種遺伝子が発現される。
1つの実施態様において、上記の形質は稔性であり、形質が改変された植物は、雌性不稔植物である。
1つの実施態様において、上記の形質は和合性であり、形質が改変された植物は自家不和合性植物である。
1つの実施態様において、上記の植物は双子葉植物である。好ましくは、双子葉植物はナス科植物であり、より好ましくは、ペチュニア属植物である。
1つの実施態様において、上記の異種遺伝子は植物発現用ベクターに組み込まれている。
本発明はさらに、上記のいずれかに記載の方法により作出された、植物の形質が改変された植物に関する。
発明を実施するための最良の形態
本発明について、以下に、より詳細に説明する。
本発明における、雌しべの各組織のいずれかに組織特異的な発現活性を有するプロモーターは、以下のDNAのいずれかを含み得る:
(a)配列番号1によって示される塩基配列の第1位から第2595位までの配列を有するDNA;
(b)(a)の一部の配列であって、植物において発現される場合、通道組織および胎座表層のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA;
(c)配列番号2によって示される塩基配列の第1位から第2322位までの配列を有するDNA;
(d)(c)の一部の配列であって、植物において発現される場合、通道組織、胎座表層、柱頭分泌領域、および花托のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA;
(e)配列番号3によって示される塩基配列の第1位から第2012位までの配列を有するDNA;または
(f)(e)の一部の配列であって、かつ植物において発現される場合、雌しべの維管束および花托のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。
好ましくは、本発明におけるプロモーターは、以下のDNAのいずれかを含み得る:
(a)配列番号1によって示される塩基配列の第1位から第2595位までの配列を有するDNA;
(b)’(a)の一部の配列であって、植物において発現される場合、通道組織および胎座表層に、特異的なプロモーター活性を示す、DNA;
(c)配列番号2によって示される塩基配列の第1位から第2322位までの配列を有するDNA;
(d)’(c)の一部の配列であって、植物において発現される場合、通道組織、胎座表層、柱頭分泌領域、および花托に、特異的なプロモーター活性を示す、DNA;
(e)配列番号3によって示される塩基配列の第1位から第2012位までの配列を有するDNA;または
(f)’(e)の一部の配列であって、かつ植物において発現される場合、雌しべの維管束および花托に、特異的なプロモーター活性を示す、DNA。
本発明において特に好ましいプロモーターは、ペチュニアのジンクフィンガー型転写因子をコードするZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3遺伝子のプロモーターである。このプロモーターは、それぞれ、配列番号1の1位から2595位までの配列、配列番号2の1位から2322位までの配列、および配列番号3の1位から2012位までの配列を有するDNAである。
ZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3遺伝子のプロモーター領域の、組識特異的な発現活性に必須でない配列を除去して得られる、雌しべの組織の少なくとも1つに特異的な発現活性を有する配列は、本発明の範囲内にある。このような配列は、常法に従ってプロモーターのデリーション実験を行うことによって、得ることができる。簡潔には、ZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3遺伝子のプロモーター領域の様々な欠失変異体(例えば、ZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3遺伝子のプロモーター領域を、5’上流側から種々の長さに欠失させた変異体)と、適切なレポーター遺伝子(例えば、GUS遺伝子)とを融合したプラスミドを用いて、欠失変異体の組識特異的プロモーター活性を測定することによって、その活性に必須な領域を特定し得る。
いったんプロモーター活性に必須の領域が特定されると、さらにその領域内の配列または隣接配列を改変して、プロモーターの発現活性の程度を高めたり、発現する組織についての特異性を変更させることも可能である。このようにして得られる改変体もまた、雌しべの組織の少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す限り、本発明の範囲内にある。
本明細書において、用語「組識特異的なプロモーター活性」とは、プロモーターが、天然の植物中で、または発現カセットに組み込まれて植物に導入されたときに示す、ある組識において特異的に発現する能力を意味する。ここで、発現が「特異的」であるとは、ある組識において、同じ植物体の他の組織のうちの少なくとも1つにおけるよりも、プロモーターの発現活性が高いことをいう。プロモーターの発現活性の程度は、常法に従って、所定の組識におけるプロモーターの発現レベルと、他の組識における同じプロモータの発現レベルとを比較することによって、評価され得る。プロモーターの発現レベルは、通常、そのプロモーターの制御下で発現される遺伝子産物の産生量によって決定される。プロモーターの「組織特異的な発現活性」はまた、「組織特異的なプロモーター活性」と同義であるとして本明細書中で使用される。
雌しべの組織のうちの少なくとも1つに特異的な発現活性を示すプロモーターは、本発明において意図されるプロモーターである。
雌しべの組織としては、通道組織、胎座表層、柱頭分泌領域、花托、および雌しべの維管束などが挙げられる(図8を参照)。通道組織および胎座表層は、受粉後の花粉から伸長する花粉管が、胚珠に到達する際に通過する伸長経路である。柱頭分泌領域は、花粉が接着する領域である。花托は、花柄の先端の花および葉をつける部分である。雌しべの維管束系は、柱頭分泌領域において、雌しべの機能発現に必要な物質(例えば、花粉の接着に必要な分泌物、花粉管の伸長経路において花粉管の伸長を促進する充填化合物、花柱および柱頭への栄養物)の供給などにおいて重要な役割を果たすことが推測される組識である。
本明細書において、植物の形質について使用される用語「改変」とは、形質転換後の植物が、形質転換前の植物(野生種または園芸品種)には存在しない形質を付与されること、または形質転換前の植物(野生種または園芸品種)において存在する形質の程度が増強もしくは低減されることをいう。このような形質の改変は、本発明におけるプロモーターと作動可能に連結された任意の異種遺伝子が、この遺伝子を導入された形質転換植物において、本発明におけるプロモーターの制御下で組織特異的に発現された結果として生じ得る。この形質の改変の程度は、形質転換後の植物の形質を、形質転換前の植物(野生種または園芸品種)の形質と比較することにより評価され得る。
改変される好ましい形質としては、雌性不稔、自家不和合性、および害虫抵抗性などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のプロモーターは、例えば、公知のcDNAをプローブとして用いて、植物のゲノミックライブラリーをスクリーニングし、そして対応のゲノミッククローンを単離することにより得ることができる。そのようなcDNAの例としては、ペチュニア由来のジンクフィンガー型転写因子であるZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3のcDNAが挙げられる。
ゲノムライブラリーの作製法、プローブとのハイブリダイゼーションに使用するストリンジェントな条件、および遺伝子のクローニング法は、当業者に周知である。例えば、マニアティスらのMolecular Cloning,A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York(1989)を参照のこと。
得られた遺伝子の塩基配列は、当該分野で公知のヌクレオチド配列解析法または市販されている自動シーケンサーにより決定し得る。
本発明におけるプロモーターは、天然から単離されたものに限定されず、合成ポリヌクレオチドも含み得る。合成ポリヌクレオチドは、例えば、上記のようにして配列決定されたプロモーターの配列またはその活性領域を、当業者に周知の手法によって合成または改変することにより入手し得る。
本発明におけるプロモーターは、当業者に周知の方法を用いて、所望の異種遺伝子と作動可能に連結された発現カセットとして、公知の遺伝子組換え技術を用いて、植物細胞に導入され得る。導入された発現カセットは、植物細胞中のDNAに組み込まれて存在する。なお、植物細胞中のDNAとは、染色体のみならず、植物細胞中に含まれる各種オルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)に含まれるDNAをも含む。
本明細書において、用語「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物は、双子葉植物である。双子葉植物は、離弁花亜綱および合弁花亜綱のいずれも含む。好ましい亜綱は、合弁花亜綱である。合弁花亜綱は、リンドウ目、ナス目、シソ目、アワゴケ目、オオバコ目、キキョウ目、ゴマノハグサ目、アカネ目、マツムシソウ目、およびキク目のいずれも含む。好ましい目は、ナス目である。ナス目は、ナス科、ハゼリソウ科、ハナシノブ科、ネナシカズラ科、およびヒルガオ科のいずれも含む。好ましい科は、ナス科である。ナス科は、ペチュニア属、チョウセンアサガオ属、タバコ属、ナス属、トマト属、トウガラシ属、ホオズキ属、およびタコ属などを含む。好ましい属は、ペチュニア属、チョウセンアサガオ属、およびタバコ属であり、より好ましくは、ペチュニア属である。ペチュニア属は、P.hybrida種、P.axillaris種、P.inflata種、およびP.violacea種などを含む。好ましい種は、P.hybrida種である。「植物」は、特に他で示さない限り、花を有する植物体および植物体から得られる種子を意味する。
「植物細胞」の例としては、花、葉、および根などの植物器官における各組織の細胞、カルスならびに懸濁培養細胞が挙げられる。
本明細書において、用語「発現カセット」とは、本発明におけるプロモーターと、このプロモーターに作動可能に(すなわち、インフレームに)連結された異種遺伝子とを含む、核酸配列をいう。
本明細書において、用語「異種遺伝子」とは、ZPT2−10遺伝子、ZPT2−11遺伝子、およびZPT3−3遺伝子以外のペチュニアにおける内因性遺伝子、もしくは他の植物における内因性遺伝子、または植物に対して外来の遺伝子(例えば、動物、昆虫、細菌、および真菌に由来する遺伝子)であって、その遺伝子産物の発現が雌しべの各組織のいずれかにおいて所望される任意の遺伝子をいう。
「植物発現用ベクター」は、発現カセットにおけるプロモーターに加えて、さらに種々の調節エレメントが、宿主植物の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。好適には、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子、およびエンハンサーを含み得る。植物発現用ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。本発明に用いる植物発現用ベクターは、さらにT−DNA領域を有し得る。T−DNA領域は、特にアグロバクテリウムを用いて植物を形質転換する場合に遺伝子の導入の効率を高める。
「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、およびポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に寄与し、そして遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターの例としては、CaMV35Sターミネーター、およびノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)が挙げられるが、これらに限定されない。
「薬剤耐性遺伝子」は、形質転換植物の選抜を容易にするものであることが望ましい。カナマイシン耐性を付与するためのネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPTII)遺伝子、およびハイグロマイシン耐性を付与するためのハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子などが好適に用いられ得るが、これらに限定されない。
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。エンハンサーとしては、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。エンハンサーは、1つの植物発現用ベクターあたり複数個用いられ得る。
本発明における植物発現用ベクターは、当業者に周知の遺伝子組換え技術を用いて作製され得る。植物発現用ベクターの構築には、例えば、pBI系のベクターまたはpUC系のベクターが好適に用いられるが、これらに限定されない。
植物細胞への植物発現用ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法、および直接細胞に導入する方法が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(FEMS Microbiol.Lett.,67,325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、植物発現用ベクターで(例えば、エレクトロポレーションによって)アグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをリーフディスク法などの周知の方法により植物細胞に導入する方法である。植物発現用ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガン、リン酸カルシウム法、およびポリエチレングリコール法などがある。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
植物発現用ベクターを導入された細胞は、例えば、カナマイシン耐性などの薬剤耐性を基準として選択される。選択された細胞は、常法により植物体に再生され得る。
再生した植物体において、当業者に周知の手法を用いて、目的の異種遺伝子の発現を確認し得る。この確認は、例えば、ノーザンブロット解析を用いて行い得る。具体的には、本発明におけるプロモーターが特異的に発現する組識から全RNAを抽出し、変性アガロースでの電気泳動の後、適切なメンブランにブロットする。このブロットに、目的の異種遺伝子の一部分と相補的な標識したRNAプローブをハイブリダイズさせることにより、目的の異種遺伝子のmRNAを検出し得る。異種遺伝子が、導入される植物について内因性である場合、本発明におけるプロモーターが特異的に発現する組識における目的の異種遺伝子のmRNA量と、形質転換されていないコントロールの植物の同じ組識における目的の異種遺伝子のmRNA量とを比較することによって、目的の異種遺伝子の発現量の変化を評価し得る。
本発明におけるプロモーターの組織特異的な発現活性の確認は、上記の手法を利用して行われ得る。例えば、本発明におけるプロモータと、GUS遺伝子とが作動可能に連結された発現ベクターで形質転換された植物におけるGUS活性の分布を、常法により組織化学的染色を行って調べることにより、プロモーターの組識特異的な発現活性を同定し得る。
本発明における植物は、上記の手法によって、本発明におけるプロモーターと作動可能に連結された目的の異種遺伝子によって形質転換された植物であり、目的の異種遺伝子が、植物において、本発明におけるプロモーターの制御下で組織特異的に発現する結果として、形質が改変される。改変される形質としては、稔性、和合性、および害虫抵抗性などが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明により、ペチュニアの遺伝子に由来する、雌しべの組織のいずれかにおいて特異的な発現活性を有する、実用的なプロモーターが提供される。本発明のプロモーターは、植物の形質を改変するために利用され得る。例えば、このプロモーターの制御下で、雌しべの組識(例えば、通道組織、胎座表層、柱頭分泌領域、花托、および雌しべの維管束)のいずれかにおいて、その組織に損傷を与え得る遺伝子産物(例えば、細胞死を引き起こす活性を有する酵素)を特異的に発現させることによって、これらの組識を破壊して、雌しべの生殖機能を阻害することができる。その結果、植物は雌性不稔の形質を付与され得る。あるいは、特定の遺伝子型をもつ花粉を排除する機能を備える遺伝子(例えば、S−RNase遺伝子)を、適切な組織、特に通道組織において発現させることができる。その結果、植物は自家不和合性の形質を付与され得る。あるいは、抗害虫活性を有するタンパク質を柱頭において発現させることによって、柱頭に接触する害虫を殺傷しまたは忌避し得る害虫抵抗性植物を作出し得る。
(実施例)
以下に、実施例に基づいて本発明を説明する。本発明の範囲は、実施例のみに限定されるものではない。実施例で使用される制限酵素、プラスミドなどは、商業的な供給源から入手可能である。
実施例1:ZPT2−10プロモーター領域の単離およびGUSレポーター遺伝子との連結
ZPT2−10のcDNA(Kubo,K.ら、Nucleic Acids Research,26,608−616(1998))を、通常のランダムプライム法(Sambrookら、上述)を用いて、[α−32P]dCTPで標識することによって、放射性標識プローブを作製する。この標識プローブを使用して、EMBL3ベクター(Stratagene社製)中に作製したペチュニア(Petunia hybrida var.Mitchell)のゲノムライブラリーをスクリーニングした。得られたクローンから、遺伝子上流領域を含む約3.0kbのゲノムDNA断片を、pBluescriptSKベクターのEcoRV−XbaI部位にサブクローニングし(pBS−ZPT2−10EX)、そして塩基配列を決定した(配列番号1)(図1)。次に、このプラスミドを鋳型として用い、BamHI認識配列を含むプライマー(CCGGGGATCCATCATCTTGTAGAAGATCCAT;配列番号4)および市販のM13−20プライマーを用いてPCRを行った。これによって、ZPT2−10タンパク質翻訳開始点のすぐ下流(図1の塩基配列の第2595位)にBamHI部位を導入した。PCRによって得られたDNA断片を、EcoRVおよびBamHI部位で切断し、次いで得られた制限断片をpBluescriptベクターにクローニングして、配列を確認した。その後、クローニングしたベクターを、SalIおよびBamHIで切断することにより得られたDNA断片を、市販のpUCAPGUSNTのGUSコード領域の上流に挿入した(pUCAP−ZPT2−10−GUS−NT)。これによって、ZPT2−10遺伝子のコード領域のN末端近傍の領域でインフレームにGUS領域を連結した。さらに、pUCAP−ZPT2−10−GUS−NTを、AscIおよびEcoRIで切断して得られるDNA断片(ZPT2−10のプロモーター、GUS、NOS、およびターミネーターを含む)を、pBINPLUSベクターに挿入して、pBIN−ZPT2−10−GUSを得た(図4a)。
実施例2:ZPT3−3プロモーター領域の単離およびGUSレポーター遺伝子との連結
実施例1と同様に、ZPT3−3のゲノムDNAを単離した。ZPT3−3遺伝子の上流領域を含む約2.5kbのDNA断片(KpnI−EcoRI)を、pBluescriptSKベクターにサブクローニングし(pBS−ZPT3−3−KE)、次いでこのDNA断片の塩基配列を決定した(配列番号2)(図2)。このプラスミドを鋳型として用いて、BamHI認識配列を含むプライマー(CCGGGGATCCACATGACTTGTGTTTCTCCAT;配列番号5)および市販のM13−20プライマーとともにPCRを行って、ZPT3−3タンパク質翻訳開始点のすぐ下流(図1の塩基配列の第2322位)にBamHI部位を導入した。こうして作製したDNA断片を、ZPT3−3とGUSとがインフレームになるように連結し、実施例1と同様にして、pBN−ZPT3−3−GUSを作製した(図4b)。
実施例3:ZPT2−11プロモーター領域の単離およびGUSレポーター遺伝子との連結
実施例1と同様に、ZPT2−11のゲノムDNAを単離した。ZPT2−11遺伝子の上流領域を含む約2.1kbのDNA断片(EcoRV−EcoRI)を、pBluescriptSKベクターにサブクローニングし(pBS−ZPT2−11−EE)、次いでこのDNA断片の塩基配列を決定した(配列番号3)(図3)。このプラスミドを鋳型として用い、BamHI認識配列を含むプライマー(CCGGGGATCCTTCTTGCATTTGAACTTCCAT;配列番号6)および市販のM13−20プライマーとともにPCRを行い、ZPT2−11タンパク質翻訳開始点のすぐ下流(図1の塩基配列の第2012位)にBamHI部位を導入した。こうして作製したDNA断片を、ZPT2−11とGUSとがインフレームになるように連結し、実施例1と同様にして、pBN−ZPT2−11−GUSを作製した(図4c)。
実施例4:ZPT2−10、ZPT3−3、およびZPT2−11のプロモーターとGUSとの融合遺伝子のペチュニアへの導入
(1)Agrobacterium tumefaciens LBA4404株(CLONTECH Laboratories Inc.,Palo Alto,CA)を、250μg/mlのストレプトマイシンと50μg/mlのリファンピシンを含むL培地中、28℃で培養した。Nagelら(上述)の方法に従って、細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液中でのエレクトロポレーションにより、実施例1、2、および3で構築したプラスミドベクターを、それぞれこの菌株に導入した。
(2)ZPT2−10、ZPT3−3、およびZPT2−11プロモーターとGUSとの融合遺伝子をコードするポリヌクレオチドを、以下の方法によってペチュニア細胞へ導入した:上記(1)で得られた、形質転換Agrobacterium tumefaciens LBA4404株を、YEB培地(DNA Cloning第2巻、78頁、D.M.Glover編、IRL Press、1985)で振とう培養(28℃、200rpm)した。次いで得られた培養液を、滅菌水で20倍に希釈したものを、ペチュニア(Petunia hybrida var.Mitchell)の葉片とともに共存培養した。2〜3日後、この葉片を抗生物質を含む培地で培養することによって、上記細菌を除去した。葉片を、2週間毎に選択培地で継代し、上記3種類の融合遺伝子と共に導入された、pBINPLUS由来のNPTII遺伝子の発現に起因するカナマイシン抵抗性の有無に基づいて、形質転換されたペチュニア細胞を選抜した。選抜した細胞を、常法によりカルスを誘導した後、植物体に再分化した。
実施例5:ZPT2−10プロモーター活性の組識特異性
ZPT2−10遺伝子の上流領域とGUSとの融合遺伝子を導入して得られた形質転換体の花について、X−GUSを基質として用いてGUS活性の分布を調べた(Gallagher,S.R.(編)GUS protocols:using the GUS gene as a reporter of gene expressin、Academic Press,Inc.,San Diego(1992))。その結果、GUS活性は、雌しべの花柱の通道組織および胚座の最上層(すなわち、胚座表層)の細胞層に特異的に検出された(図5および図8(a))。
実施例6:ZPT3−3プロモーター活性の組識特異性
ZPT3−3遺伝子の上流領域とGUSとの融合遺伝子を導入して得られた形質転換体の花を用い、実施例5と同様にしてGUS活性の分布を調べた。その結果、GUS活性は、雌しべの柱頭の分泌組識、花柱の通道組織、胚座表層、および花托に特異的に検出された(図6および図8(b))。
実施例7:ZPT2−11プロモーター活性の組識特異性
ZPT2−11遺伝子の上流領域とGUSとの融合遺伝子を導入して得られた形質転換体の花を用い、実施例5と同様にしてGUS活性の分布を調べた。その結果、GUS活性は、雌しべの柱頭から花柱および胚座にかけての維管束組識、ならびに花托に特異的に検出された(図7および図8(c))。
産業上の利用可能性
本発明におけるペチュニア由来のZPT2−10、ZPT2−11、およびZPT3−3プロモーターは、雌しべの組織において特異的なプロモーター活性を示す。これらのプロモーターは、雌しべの組織の遺伝子操作によって、植物の形質を改変するために有用である。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、PEThyZPT2−10(以後、ZPT2−10と称する)ゲノム遺伝子のプロモーター領域、コード領域、および3’非翻訳領域の塩基配列、ならびにコード領域の推定のアミノ酸配列を示す図である。
図2は、PEThyZPT3−3(以後、ZPT3−3と称する)ゲノム遺伝子のプロモーター領域、コード領域、および3’非翻訳領域の塩基配列、ならびにコード領域の推定のアミノ酸配列を示す図である。
図3は、PEThyZPT2−11(以後、ZPT2−11と称する)ゲノム遺伝子のプロモーター領域、コード領域、および3’非翻訳領域の塩基配列、ならびにコード領域の推定のアミノ酸配列を示す図である。
図4は、(a)ZPT2−10プロモーターを解析するための植物発現用ベクター(pBIN−ZPT2−10−GUS)、(b)ZPT3−3プロモーターを解析するための植物発現用ベクター(pBIN−ZPT3−3−GUS)、および(c)ZPT2−11プロモーターを解析するための植物発現用ベクター(pBIN−ZPT2−11−GUS)の構成をそれぞれ示す概略図である。GUSはβ−グルクロニダーゼ遺伝子を、Pnosはノパリン合成酵素プロモーターを、Tnosノパリン合成酵素ターミネーターを、NPTIIはネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を、それぞれ示す。
図5は、pBIN−ZPT2−10−GUSを導入したペチュニアのGUS染色した雌しべの(a)柱頭および花柱、(b)子房、および(c)花柱(横断面)を撮影した、生物の形態を示す写真である。
図6は、pBIN−ZPT3−3−GUSを導入したペチュニアのGUS染色した雌しべの(a)柱頭および花柱、(b)子房、および(c)花柱(横断面)を撮影した、生物の形態を示す写真である。
図7は、pBIN−ZPT2−11−GUSを導入したペチュニアのGUS染色した雌しべの(a)柱頭および花柱、(b)子房、および(c)花柱(横断面;(d)はその拡大図である)を撮影した、生物の形態を示す写真である。
図8は、(a)ZPT2−10プロモーター、(b)ZPT3−3プロモーター、および(c)ZPT2−11プロモーターの発現部位を示す模式図である。図中の符号は、それぞれ、花粉(80)、花粉管(80’)、柱頭(81)、分泌領域(82)、通道組織(83)、花柱(84)、子房(85)、胚珠(86)、胎座(87)、花托(88)、および維管束組織(89)を示す。各プロモーターの発現部位を、濃い斜線で示す。
Claims (14)
- 以下の(a)または(b)のDNAを含むプロモーター:
(a)配列番号1によって示される塩基配列の第1位から第2595位までの配列を有するDNA;または
(b)(a)の配列において1または数個の核酸の挿入、欠失、または置換を有する配列を有し、通道組織および胎座表層のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。 - 以下の(c)または(d)のDNAを含むプロモーター:
(c)配列番号2によって示される塩基配列の第1位から第2322位までの配列を有するDNA;
または
(d)(c)の配列において1または数個の核酸の挿入、欠失、または置換を有する配列を有し、通道組織、胎座表層、柱頭分泌領域、および花托のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。 - 以下の(e)または(f)のDNAを含むプロモーター:
(e)配列番号3によって示される塩基配列の第1位から第2012位までの配列を有するDNA;または
(f)(e)の配列において1または数個の核酸の挿入、欠失、または置換を有する配列を有し、雌しべの維管束および花托のうちの少なくとも1つに特異的なプロモーター活性を示す、DNA。 - 請求項1から3のいずれかに記載のプロモーターと、該プロモーターに作動可能に連結された異種遺伝子とを含む、植物発現カセット。
- 請求項4に記載の発現カセットを植物細胞に導入する工程、および該発現カセットが導入された植物細胞を植物体に再生する工程を包含する、形質が改変された植物を作出する方法。
- 前記植物が双子葉植物である、請求項5に記載の方法。
- 前記植物がナス科植物である、請求項6に記載の方法。
- 前記植物がペチュニア属植物である、請求項7に記載の方法。
- 前記発現カセットが植物発現ベクターに組み込まれている、請求項5に記載の方法。
- 植物の形質を改変するための請求項4に記載の発現カセットの使用であって、該発現カセットは植物細胞に導入され、前記プロモーターに作動可能に連結された前記異種遺伝子が、該植物細胞から再生された植物において発現される、使用。
- 前記植物が双子葉植物である、請求項10に記載の使用。
- 植物がナス科植物である、請求項11に記載の使用。
- 前記植物がペチュニア属植物である、請求項12に記載の使用。
- 前記発現カセットが植物発現ベクターに組み込まれている、請求項10に記載の使用。
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