JP4133275B2 - トルクセンサの異常検知装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、トルクを一対のコイルのインダクタンス変化に基づいて検出するトルクセンサにおける異常検知装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
斯かるトルクセンサは、コイル自体が温度特性を有するため、一対のコイルの各インダクタンスに基づく電圧も温度によって変化する。
【0003】
この各電圧からコイルの断線、ハーネスの断線、接触不良などの異常を検知する場合、温度の影響が各電圧に及んで正確な異常検出ができなくなるのを避けるために、各電圧の温度補正を必要とする。
【0004】
そこでトルクセンサにサーミスタ等の温度検出専用の温度センサを設け、検出された温度に基づいて各電圧の温度補正を行って温度の影響を除いて断線等の異常を検知できるようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−148128号公報(段落0024)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
サーミスタ等はトルクセンサの温度を検出するため、トルクセンサに温度を感度良く検知できるように取り付けなければならず、取り付けるためサーミスタを保持する基板または保持部品が必要とされ、部品点数が多くコスト高となっていた。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、温度センサを用いずにトルクセンサの断線等の異常検知が精度良くでき、少ない部品点数で低コストのトルクセンサの異常検知装置を供する点にある。
【0008】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
上記目的を達成するために、本請求項1記載の発明は、トルクに応じて互いに逆方向にインダクタンスが変化する一対のコイルと、前記一対のコイルの各インダクタンス変化に基づく両電圧からトルク検出電圧を出力するトルク検出手段とを備えたトルクセンサにおいて、前記一対のコイルの各インダクタンス変化に基づく各電圧の直流分を抽出する一対のフィルタ回路と、前記各フィルタ回路の出力直流電圧の電圧差を異常検知電圧として出力する差動手段と、初期調整時の前記差動手段の初期異常検知電圧のうち前記異常検知電圧の予め設定した初期バラツキの許容範囲内にある前記初期異常検知電圧のみを基準値として一定幅の正常許容範囲を設定する閾値設定手段と、前記差動手段により出力された異常検知電圧が前記閾値設定手段が設定した正常許容範囲内にあるか否かを判別する判別手段とを備えたトルクセンサの異常検知装置とした。
【0009】
異常検知電圧を出力する差動手段は、各フィルタ回路の出力直流電圧の電圧差を求めているので、正常ならばトルクに関係なく一定電圧を示し、断線や接触不良等の異常があると、この一定電圧が変動して正常許容範囲を越えることで異常を検知することができる。
【0010】
しかるに一対のコイルの初期インダクタンスのバラツキやその他回路素子のバラツキ等により正常であったとしても当初より差動手段の異常検知電圧にバラツキがある。
【0011】
そこで閾値設定手段が初期調整時の差動手段の初期異常検知電圧を基準値として一定幅の正常許容範囲を設定し、判別手段が異常検知電圧が閾値設定手段が設定した正常許容範囲内にあるか否かを判別して異常を精度良く検知することができる。
【0012】
差動手段により各フィルタ回路の出力直流電圧の電圧差を求めているので、各コイル自身の温度変化は相殺されてコイルの温度の影響を受けない異常検知電圧を得ることができ、温度センサーを設けることなく断線等の異常を精度良く検知することができる。
【0013】
さらに温度センサーをトルクセンサに取り付ける必要がなく、そのため特別な基板や保持部品が不要で部品点数を削減してコストの低減を図ることができる。
【0015】
組付けなどにより当初より異常検知電圧にはバラツキがあり、この初期バラツキの許容範囲を予め設定しておき、許容範囲内の初期異常検知電圧のみを正常許容範囲の基準値とし、許容範囲を越える初期異常検知電圧は、単なるバラツキではなく異常と判断してかかるトルクセンサは初期段階で排除することができる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のトルクセンサの異常検知装置において、前記差動手段が、演算増幅器であることを特徴とする。
【0017】
異常検知電圧を出力する差動手段として、汎用品である演算増幅器を使用するので、低コスト化を図ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下本発明に係る一実施の形態について図1ないし図7に基づき説明する。
本実施の形態に係るトルクセンサ1は、車両のパワーステアリング装置に適用されたもので、その概略構造を図1に示す。
【0019】
ハウジング2にベアリング5,6を介して回転自在に軸支され同軸に挿入された入力軸3と出力軸4とが、内部でトーションバー7により連結されている。
円筒状のコア8が出力軸4の大径端部4aの外周面にセレーション嵌合して出力軸4に対して軸方向にのみ摺動自在に設けられ、入力軸3より突設されたスライダピン9が大径端部4aの周方向に長尺の長孔を貫通して前記コア8のスパイラル溝8aに係合している。
【0020】
ハウジング2の内部に支持された2個のトルク検出用のコイル11,12が、軸方向に摺動する円筒状のコア8の外周に空隙を介して設けられている。
該2個のコイル11,12は、コア8の軸方向の移動中心に関して互いに反対側に配置されている。
【0021】
入力軸3に捩じり力が作用すると、トーションバー7を介して出力軸4に回転力が伝達されるが、トーションバー7は弾性変形して入力軸3と出力軸4との間に回転方向の相対的変位が生じる。
この回転方向の相対的変位は、スライダピン9とスパイラル溝8aとの係合を介してコア8を軸方向に摺動させる。
【0022】
コア8が軸方向に移動すると、コイル11,12のそれぞれコア8を囲む面積が変化し、一方の面積が増すと他方の面積が減る関係にある。
コア8を囲む面積が大きくなると、磁気損失が増えコイルのインダクタンスは減り、逆にコア8を囲む面積が小さくなると、磁気損失が減りコイルのインダクタンスは増す。
【0023】
したがってコア8がコイル11側に移動するトルクが作用したときは、コイル11のインダクタンスL1が減少し、コイル12のインダクタンスL2が増加し、逆にコア8がコイル12側に移動するトルクが作用したときは、コイル11のインダクタンスL1が増加し、コイル12のインダクタンスL2が減少する。
【0024】
このトルクセンサ1のコイル11,12のインダクタンスL1,L2の変化に基づいてトルクを検出する電気的回路を概略構成図として図2に示す。
コイル11,12は互いに一端が接続され、その接続端と各他端から信号線が延び、電子コントロールユニットECUに配設されたトルク検出回路20の接続端子に接続される。
【0025】
トルク検出回路20内では、コイル11,12の接続端は接地され、各他端はそれぞれ抵抗13,14を介してトランジスタ15のエミッタ端子に接続されている。
トランジスタ15は、コレクタ端子に定電圧が掛かり、ベース端子には交流電圧が入力される。
【0026】
コイル11と抵抗13の接続部から延出した電圧信号線16がコンデンサ21を介して平滑回路23に接続され、コイル12と抵抗14の接続部から延出した電圧信号線17がコンデンサ22を介して平滑回路24に接続されている。
【0027】
すなわちコイル11,12,抵抗13,14によりブリッジ回路が構成され、該ブリッジ回路に発振交流電圧が入力され、その出力電圧が平滑回路23,24に入力され、平滑されて第1,第2電圧V1,V2として出力される。
【0028】
第1,第2電圧V1,V2は、それぞれ抵抗25,26を介して演算増幅器である差動アンプ27の反転入力端子,非反転入力端子に入力される。
差動アンプ27には、抵抗28により負帰還がかけられて差動増幅器として機能し、その出力は、トルク検出電圧VtとしてCPU30に入力される。
なお差動アンプ27の非反転入力端子には、バイアス電圧V0が入力される。
【0029】
したがって差動アンプ27は、第1電圧V1と第2電圧V2の差を増幅度A倍し、バイアス電圧V0を加えた電圧をトルク検出電圧Vtとして出力する。
すなわちトルク検出電圧Vtは、
Vt=(V2−V1)・A+V0
である。
【0030】
なお右操舵トルク(右方向の捩じりトルク)と左操舵トルク(左方向の捩じりトルク)のいずれにも偏しない中立時のトルク検出電圧Vtを中立点電圧と称し、正常時上記バイアス電圧V0が中立点電圧となる。
【0031】
本トルクセンサー1は、以上のような概略回路構成をなし、その動作を第1,第2電圧V1,V2及びトルク検出電圧Vtの様子を示した図3に基づいて以下説明する。
図3において示された座標は、縦軸を電圧とし、横軸右方向を右操舵トルク、横軸左方向を左操舵トルクとして原点0が中立点である。
【0032】
図3は、トルクセンサ1が正常に動作したときのもので、右操舵トルクが大きくなると、入力軸3と出力軸4の相対的回転によりコア8がコイル11側に移動し、コイル12のインダクタンスL2を増加してその誘導起電力を大きくし、逆にコイル11のインダクタンスL1を減少させてその誘導起電力を小さくするので、第2電圧V2が大きくなり、第1電圧V1が小さくなる(図3▲1▼参照)。
【0033】
また左操舵トルクが大きくなる場合は、上記とは逆に第2電圧V2が小さくなり、第1電圧V1が大きくなる(図3▲1▼参照)。
したがって両者の差をA倍してバイアス電圧を加えた差動アンプ27の出力であるトルク検出電圧Vtは、図3▲2▼に示すように中立点でバイアス電圧V0を通る右上がりの傾斜線となる。
【0034】
この図3▲2▼のグラフに示すトルク検出電圧Vtの傾斜線に基づいてトルク検出電圧Vtから左右への操舵トルクを検出できる。
【0035】
CPU30は、トルク検出電圧Vtに基づきモータ制御の指示信号をモータドライバ31に出力し、モータドライバ31によりステアリングを補助するモータ32が駆動される。
したがってステアリング操作において操舵トルクに応じたモータ32の補助が得られる。
【0036】
以上のようなパワーステアリングの制御機構を有する本トルクセンサ1には、異常検知回路40が付設されている。
【0037】
図2に示すように電圧信号線16,17から分岐した電圧信号線41,42は、それぞれフィルタ回路43,44を介して接地されている。
フィルタ回路43,44は、それぞれ抵抗43a,44aとコンデンサ43b,44bを直列に接続し、各抵抗とコンデンサの接続点を出力とする回路である。
【0038】
フィルタ回路43,44の出力は、それぞれ抵抗45,46を介して演算増幅器である差動アンプ47の反転入力端子,非反転入力端子に入力される。
差動アンプ47には、抵抗48により負帰還がかけられて差動増幅器として機能し、その出力は、異常検知電圧VaとしてCPU30に入力される。
なお差動アンプ47の非反転入力端子には、バイアス電圧Vcが入力される。
【0039】
以上のような異常検知回路40に入力される発振交流電圧v1,v2は、概ねサイン曲線で示されるものとして、
v1=a1sinθ1+d1
v2=a2sinθ2+d2
と表せる。
【0040】
ここにブリッジを形成する抵抗13,14,43a,44aのうち対をなす抵抗13,14および抵抗43a,44aが互いに同じ抵抗値であり、よって振幅a1とa2および直流分d1とd2は略等しい。
【0041】
フィルタ回路43,44は、入力された発振交流電圧v1,v2から直流分d1,d2を抽出して出力するので、差動アンプ47の反転入力端子,非反転入力端子にはこの直流分d1,d2が入力される。
【0042】
したがって差動アンプ47の出力である異常検知電圧Vaは、
Va=d1−d2+Vc
である。
【0043】
コイルやハーネスの断線および接触不良などの異常がなく正常ならば理論上では直流分d1とd2は等しいので、異常検知電圧Vaはバイアス電圧Vcとなり、一定電圧を示す。
【0044】
左または右の操舵トルクがあると、発振交流電圧v1,v2は変化するが、フィルタ回路43,44の出力である直流分d1,d2は変わりなく等しく、したがって異常検知電圧Vaは、操舵トルクに関係なく一定の電圧Vcである。
【0045】
そしてトルクセンサ1のコイル11,12の断線、電圧信号線16,17等のハーネスの断線および接触不良等の異常があると、フィルタ回路43,44の2つの出力の一方が変化して直流分d1,d2は互いに異なり、差d1−d2が0でなくなり、バイアス電圧Vcで一定であった異常検知電圧Vaが大きく変化する。
【0046】
したがって、この異常検知電圧Vaがバイアス電圧Vcの上下所定幅内の正常許容範囲にあるか否かで異常を判別することができる。
【0047】
しかしバイアス電圧Vcを基準に正常許容範囲を決めるとなると、一対のコイル11,12の初期インダクタンスL1,L2のバラツキやその他回路素子のバラツキ等により正常であったとしても当初より差動手段の異常検知電圧Vaに現われる初期バラツキを含めた広範囲の正常許容範囲を設定しなければ異常を判断できない。
【0048】
したがって本来異常であるにもかかわらず初期バラツキが原因で正常と判断されることもあり、異常検知精度は必ずしも良くない。
そこで本トルクセンサ1では、異常検知精度をより高くするべくCPU30の演算処理による閾値設定手段と異常判別手段とを備えている。
【0049】
閾値設定手段による作業手順を図4のフローチャートに示す。
トルクセンサ1を組付け完成した後の出荷時や実車組立時などの際に、予め学習して調整しておくものである。
すなわち、異常検知電圧Vaを求め、初期異常検知電圧Vfとして読込む(ステップ1)。
【0050】
次いで予め設定した初期バラツキの許容範囲内(Vfl〜Vfu)に初期異常検知電圧Vfがあるか否かを判別する(ステップ2)。
図5は、操舵トルクに対する異常検知電圧Vaの関係を直角座標に示すグラフであり、初期調整時の初期バラツキの許容範囲を示す。
前記したように操舵トルクに関係なく異常検知電圧Vaは一定の電圧を示す。
【0051】
図5に示すように初期異常検知電圧Vfが許容範囲内にあれば(Vfl≦Vf≦Vfu)、組付けなどに欠陥がなく初期段階で正常と判断されてステップ3に進むが、許容範囲外であるとステップ4に飛んで異常ありと判断されて警告を表示する。
異常ありと判断されたトルクセンサ1は使用に供されない。
【0052】
ステップ2で正常と判断されてステップ3に進むと、以後異常検知電圧Vaをもとに異常を検出する正常許容範囲を、初期異常検知電圧Vfを基準値として設定する。
【0053】
すなわち初期異常検知電圧Vfの上下一定幅ΔVをとって、図6に示すように上限閾値としてVf+ΔV、下限閾値としてVf−ΔVを設定する。
【0054】
この一定幅ΔVは、初期バラツキを含まない純粋の異常検知幅であるので、初期異常検知電圧Vfを基準とする正常許容範囲(Vf−ΔV〜Vf+ΔV)の幅2ΔVは、前記バイアス電圧Vcを基準にした初期バラツキを含めた正常許容範囲の幅より狭く、よって異常検知精度がより高い。
【0055】
CPU30は、異常判別手段により差動アンプ47から出力された異常検知電圧Vaが、この正常許容範囲にあるか否かの判別を行って常時監視している。
異常判別手段による作業手順を図7にフローチャートで示す。
【0056】
差動アンプ47の出力である異常検知電圧Vaを読込むと(ステップ11)、異常検知電圧Vaが正常許容範囲内(Vf−ΔV〜Vf+ΔV)にあるか否かを判別し(ステップ12)、正常許容範囲内にあれば正常と判断され(ステップ13)、正常許容範囲外であれば異常と判断される(ステップ14)。
【0057】
以上のように予め学習して得られた初期異常検知電圧Vfをもとに初期バラツキをキャンセルした幅の狭い正常許容範囲(Vf−ΔV〜Vf+ΔV)を設定して異常検知電圧Vaを監視するので、異常検知精度を高くし、故障時のハンドル挙動を確実に抑えることが可能である。
【0058】
また、本実施の形態におけるトルクサンサ1の異常検知装置は以上のように構成され、温度センサーを必要とせず、異常検知回路40は、ECUなどに配設すればよく、トルクセンサに取り付ける必要がない。
【0059】
そのため特別な基板や保持部品が不要で部品点数を削減してコストの低減を図ることができる。
また温度検出専用のサーミスタ等の温度センサを用いないので、益々低コスト化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係るトルクセンサの機械的部分の概略構成図である。
【図2】同トルクセンサの電気的回路の概略構成図である。
【図3】正常時における第1,第2電圧及びトルク検出電圧の状態を示す図である。
【図4】閾値設定手段による作業手順を示すフローチャートである。
【図5】初期調整時の初期バラツキの許容範囲を示す図である。
【図6】正常許容範囲を示す図である。
【図7】異常判別手段による作業手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
1…トルクセンサ、2…ハウジング、3…入力軸、4…出力軸、5,6…ベアリング、7…トーションバー、8…コア、9…スライダピン、
11,12…コイル、13,14…抵抗、15…トランジスタ、16,17…電圧信号線、
20…トルク検出回路、21,22…コンデンサ、23,24…平滑回路、25,26…抵抗、27…差動アンプ、28…抵抗、
30…CPU、31…モータドライバ、32…モータ、
40…異常検知回路、41,42…電圧信号線、43,44…フィルタ回路、45,46…抵抗、47…差動アンプ、48…抵抗。
Claims (2)
- トルクに応じて互いに逆方向にインダクタンスが変化する一対のコイルと、
前記一対のコイルの各インダクタンス変化に基づく両電圧からトルク検出電圧を出力するトルク検出手段とを備えたトルクセンサにおいて、
前記一対のコイルの各インダクタンス変化に基づく各電圧の直流分を抽出する一対のフィルタ回路と、
前記各フィルタ回路の出力直流電圧の電圧差を異常検知電圧として出力する差動手段と、
初期調整時の前記差動手段の初期異常検知電圧のうち前記異常検知電圧の予め設定した初期バラツキの許容範囲内にある前記初期異常検知電圧のみを基準値として一定幅の正常許容範囲を設定する閾値設定手段と、
前記差動手段により出力された異常検知電圧が前記閾値設定手段が設定した正常許容範囲内にあるか否かを判別する判別手段とを備えたことを特徴とするトルクセンサの異常検知装置。 - 前記差動手段は、演算増幅器であることを特徴とする請求項1記載のトルクセンサの異常検知装置。
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