JP4133150B2 - ダイヤモンド膜被覆部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、切削工具、耐摩耗部品、金型、装飾品等の部材、特に機械的に大きな負担のかかる部材として用いられ、超硬合金の基材表面にダイヤモンド膜が被覆された被覆部材に関し、被覆膜と基材との密着性を向上させる方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ダイヤモンドは硬さ、熱伝導性、耐溶着性などの点で優れた性質を有しているので、これらの優れた特徴を利用すべく、超硬合金やサ−メットなどの基材の表面にダイヤモンドの被覆を行い、切削工具や耐摩耗工具等に使用されてきた。これらのダイヤモンド膜の形成方法の一つに、気相合成法があるが、基材に直接ダイヤモンドを被覆しても被覆された膜と基材との接合強度が十分でないために、使用中にダイヤモンド膜が剥がれるという問題があった。
【0003】
例えば、超硬合金の基材に直接ダイヤモンド膜を形成しようとすると、超硬合金中にバインダー相(以下、結合相とも言う)としてCoなどの遷移金属が含まれ、これらが超硬合金の界面において遊離炭素の生成を促進するため、ダイヤモンド膜が剥がれやすくなる。そのため、ダイヤモンド膜を形成する前の基材表面を前処理して膜の接合強度を改善する試みがなされてきた。
【0004】
超硬合金とダイヤモンド膜の接合強度を向上させるための前処理技術としては、様々なものが提案されている。その一つは、超硬合金の基材を塩酸や硝酸などでエッチングする方法である。これによって、ダイヤモンド膜の形成に悪影響を及ぼすCo等の遷移金属が除去される。しかし、この方法ではどんなに適切にCo等の遷移金属を除去しても接合強度の向上には限界があり、しかも十分な接合強度を得るためその除去量を多くするとダイヤモンド膜は基材に強固に密着するが、基材とダイヤモンド膜の界面付近の基材にCoなどのバインダー量が0に近いバインダレス相を形成してしまい、基材強度が低下して工具寿命が非常に短くなってしまうという問題が発生する。
【0005】
エッチングで適量の遷移金属が除去された基材上にダイヤモンドが被覆されても、十分な接合強度が得られないのは、その表面の粗さと構造が最適でないことによる。そのため、基材を予め熱処理する試みがなされてきた。熱処理を行うと超硬合金表面に存在する硬質相(例えばWC)を粒成長させることができ、その結果ダイヤモンド膜が接合しやすいよう接合面積の拡大、表面の粗面化という効果が得られる。
【0006】
しかしながら、超硬合金基材の熱処理ではその処理雰囲気により、バインダー中のC量が変わる。通常の超硬合金はそれが健全領域にあり、これよりC量が少ないものはバインダー中に脱炭相(例えばCo6W6C)を生じ、Cが多いものはバインダー中に浸炭相である遊離炭素を生じている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特開平11−216602号公報には脱炭雰囲気で処理(脱炭処理)された例が記載されている。脱炭処理の結果基材表面のWC粒子は粗大化し、バインダー中には脱炭相が形成される。しかしながら、この方法で得られた基材に直接ダイヤモンド膜を形成すると、脱炭相が影響してダイヤモンド膜形成面に多量の煤が発生し十分な接合強度が得られない。
【0008】
一方、特開平4−333577号公報には浸炭処理の例が記載されている。この方法では、浸炭処理を行った後、SiC又はSi3N4の中間層を設け、その上にダイヤモンド膜を形成したものである。この方法では、3層構造であるため、膜の形成に手間とコストがかかってしまう。また、浸炭処理の方法として、熱CVD装置を利用し、炭化水素ガスと水素の混合ガスを導入し、温度900〜1200℃で処理する方法が記載されている。しかし、この方法はプラズマによって水素と炭化水素の混合ガスを熱分解し、浸炭処理を行っている。したがって、いわゆる非平衡の状態での処理であり、このような温度領域では浸炭は進行するが、同時にダイヤモンド粒子を生成してしまうという問題が発生する。このダイヤモンド粒子は超硬合金の前処理が不十分な状態で発生するため、これらが成長すると、その上にダイヤモンド膜を形成しても十分な接合強度が得難い。しかも、このダイヤモンド粒子はその後のダイヤモンド膜形成時に成長して異常粗大粒となるためダイヤモンド膜が被覆された部材の表面に凹凸が生じ易くなる。
【0009】
また、特開平6−322543号公報や特開平10−87339号公報にも浸炭処理に関するものが開示されている。特開平6−322543号公報には、基材の表面の結合相金属を除去するために同相遷移金属の融点より十分高い温度にて、炭素を含むガス及び反応位置で解離する水素を利用して基材表面の結合相金属を気化除去するとともに、基材に含まれるWCなどの硬質相粒子を再結晶させて基材の表面を粗面化させる方法が開示されている。したがって特開平4−333577号公報に記載のものと同様に熱処理中にダイヤモンド粒子の生成しやすい非平衡の状態での処理であり、上記と同じ問題が発生し易い。
【0010】
特開平10−87339号公報には、基材表面に存在する結合相Coを付加的炭素及び/または加炭によって不活性化させ、これらのガスを利用して蒸発によって露出したWC粒子の表面からCoを除去するとともに、Coを表面のWC粒子の間に残存させる方法が開示されている。この発明では実施例の記載より、炭素の発生源であるグラファイト容器に基材を入れ、窒素や水素の雰囲気で熱処理を行い、Coをガスとして蒸発させて炉から除去する。したがってCoの融点を超える高温下で処理されるが、このような高温になるとCoの溶融により基材の形状が変形し易くなる。したがって例えば精密切削工具などには使えない場合もある。また、これらの公報に記載のようにCoを蒸発させるものでは熱処理温度が非常に高くなり、しかも超硬合金の焼結雰囲気とは異なる環境下で熱処理を行うこともあるため、基材の本来の超硬合金の組織が崩れ表層が盛り上がったり変形するという問題が発生し易い。
【0011】
本発明は、以上のような問題を解決するものであり、基材にダイヤモンド膜を直接形成でき、脱炭相などの有害な相を形成させずに基材の表面を荒らし、基材とダイヤモンド膜が優れた接合力を有するダイヤモンド膜被覆部材の製造方法を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法は、超硬合金よりなる基材を水素及び炭素を含有する混合ガス雰囲気中で該基材の結合相成分が該基材内を移動可能な温度で熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理を行った面に中間層を介さずに直接、気相合成法によりダイヤモンド膜を形成する被覆工程とを含むことである。
【0013】
熱処理工程の第一の実施形態としては、加熱によって炭素含有ガスを生じる発生源を介在させて行うものである。例えば、発生源としては、炉内のヒータをカーボンまたはカーボンを含有するものとしたり、カーボンブラック、黒鉛または炭化物のいずれかを敷き詰めた坩堝を用いることなどがある。
【0014】
第二の実施形態としては、前記熱処理工程は、封入雰囲気中で行うことである。
【0015】
第三の実施形態としては、前記熱処理工程は、炉内の混合ガス雰囲気圧力を5〜100Torrとすることである。
【0016】
本発明の第2の特徴は、前記熱処理工程と前記被覆工程との間に、イオンボンバード、酸、またはブラストのいずれかにより前記基材の表面処理を行う表面処理工程を含むことである。
【0017】
【0018】
本発明の第3の特徴は、前記熱処理工程の温度は650℃から1200℃で行うことである。より好ましくは、前記温度は850℃から1150℃で行うことである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の方法は、請求項1に記載された基本工程を含む。ダイヤモンド膜を被覆する前に基材の熱処理を水素および炭素を含有する混合ガス雰囲気中で基材の結合相成分が同基材内を移動可能な温度で行うものである。まず基材は超硬合金を使用する。これらを構成している結合相の主成分は、例えばCo、Ni、Co−Ni合金、Co−Fe合金、Ni−Fe合金、Ni−Mo合金、Co−Mo合金、Ni−Co−Mo合金、Co−Ni−Fe合金、Co−Cr合金、Ni−Cr合金、Co−Ni−Cr合金、Co−Fe−Cr合金、Ni−Fe−Cr合金、Co−V合金、Ni−V合金、Co−Ni−V合金、Co−Ni−Cr−V合金、Co−Cr−V合金、Ni−Cr−V合金、Co−W合金、Ni−Cr−Mo合金等があげられる。また、結合相以外を構成している硬質相の主成分の具体的例としては、WC、W2 C等があげられる。
【0020】
以上のような基材を雰囲気調整可能な焼成炉に入れ、炉内に炭素を含むガスが生じる発生源を介在させるか、あるいは炭素を含むガスを供給することで炉内を水素および炭素を含有する混合ガス雰囲気とし熱処理を行う。用いる焼成炉は、混合ガス中の炭素および水素の量をコントロールが容易なものが望ましく、開放型のものでも良いが、混合ガスの封入雰囲気の調整できるものが良く、特に真空炉が望ましい。炭素を含むガスは、ガス自体を炉外から供給しても良いが、炉内外にこれらのガスを生じる発生源を介在させても良い。発生源の例としては、真空炉のヒータにカーボンまたはカーボンを含有するヒータを使ったもの、あるいはカーボンブラック、黒鉛または炭化物のいずれかを敷き詰めた坩堝などが挙げられる。ガスを供給する場合、酸素原子を含まないメタン、エタン、プロパン等のパラフィン系炭化水素が好ましい。本発明の方法では、何らかの形で炉内に炭素が存在する状態で熱処理を行っている。これは、基材を脱炭させないようにするためである。
【0021】
熱処理の温度範囲は基材に含まれる結合相成分が基材内を移動可能な温度とする。具体的には、650℃から1200℃までの温度範囲で行うのが好ましい。この温度範囲とするのは、基材中の結合相成分の移動速度を適度にコントロールして硬質相の粒子サイズをコントロールするためである。650℃未満ではWC等を主成分とする硬質相での粒成長が十分起こらないためダイヤモンド膜の十分な接合強度が得られず、1200℃を超えると同相での粒成長が著しく、超硬合金のもつ基材強度が低下し易い。850℃から1150℃の温度で熱処理するとより適度に超硬合金の強度を維持させながら硬質相の粒成長を起こすことができるため、特に好ましい。
真空炉などの混合ガスが封入された雰囲気で行う場合の炉内の圧力は5〜100Torrとすることが望ましい。5Torr未満では、圧力の制御が難しい上、浸炭するためのガスの量が不足し、浸炭が不十分となる恐れがあるからであり、100Torrを超えると水素ガスの反応が強くなり脱炭が起こりやすくなるためである。
本発明の熱処理工程では従来のプラズマ処理とは異なり、基材表面のCoを選択的にエッチングする効果が小さいため、例えばアルゴンボンバードでCo等の結合相成分を予めエッチングしておいた方が膜の接合強度向上とそのバラツキを抑える効果とともに成膜速度を速める効果がある。
【0022】
【0023】
以上のように熱処理工程またはさらに表面処理工程を経て得られた基材にダイヤモンド膜を形成する。ダイヤモンド膜の形成にはCVD装置を使用し、気相合成法により行う。この方法としては、熱フィラメントCVD法、マイクロ波プラズマCVD法、RFプラズマCVD法、EA−CVD法、誘磁場マイクロ波プラズマCVD法、RF熱プラズマCVD法、DCプラズマCVD法、DCア−クCVD法、DCプラズマジェットCVD法、燃焼法など既存の手段があげられる。
【0024】
本発明のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法は、基材とダイヤモンド膜の境界部に中間層を介さず直接ダイヤモンド膜を被覆させるものであり、硬質相粒子の粒径と結合相成分の量など基材の表面を最も安定な相を保ちながら適度に凹凸を形成することにより、ダイヤモンド膜と基材の接合強度を向上させることができる。本発明の方法では、基材の熱処理を行うにあたり、プラズマなどを発生しない炉を使用し、ダイヤモンドの生成しない平衡状態にて前処理を行うことにより、基材の熱処理の際に基材の表面にダイヤモンドの種結晶が生成することなく、基材とダイヤモンド膜の接合力を向上させることができる。しかも、プラズマを使用しないことにより簡単な装置での処理が可能となる。さらに、中間層を設ける必要がないのでコスト面でも有利である。
【0025】
なお前記したように本発明の方法では、炉内の雰囲気を調整する場合、定常的に新しいガスを流しながら行うよりも、真空炉などを用い一度炉内に導入したガスを封入し、同じガス内で熱処理を行うことが好ましい。これによって、ガスの消費コストを下げるとともに、生成した炭化水素ガスが熱処理の間、炉外へ排出されないので、十分な浸炭が進み、より確実な浸炭量の基材表面状態を得ることができる。さらに、本発明では水素と炭化水素ガスがガス分子の解離によって元素化しない状態であることと、熱処理温度が650〜1200℃という比較的低い温度で行うためCo等の結合相の主成分である遷移金属の蒸発は起こらないが、基材内部で同成分原子は移動可能な状態であり、基材表面に移動する。したがって基材表面の同成分の量は熱処理前に比較して増加する。しかしながら、このような基材表面のCoは不活性化されているので、存在してもダイヤモンド膜を形成する際にダイヤモンドがグラファイト状炭素となる可能性が小さく、基材とダイヤモンド膜との接合強度が熱処理前に比べ向上する。基材表面の結合相主成分の増加量は処理時間にもよるが処理前の状態と比較して15重量%程度に増加する。さらに、結合相主成分が蒸発しない比較的低い温度で基材を加熱するので、従来の結合相主成分を除去する方法で生じる基材の表層が盛り上がるなど基材が変形するのを防止することができる。
【0026】
【実施例】
(参考例1)
ダイヤモンド膜を被覆した部材の参考例として、切削工具であるエンドミルを例にあげて説明する。WC−5質量%Coの超硬合金を基材材料とし、エンドミルの基材を製作した。刃部の径は10mmのものとした。基材の熱処理を行うため、真空炉を使用した。炉内の雰囲気は水素ガスとし、雰囲気は以下の2種類のもので行った。1つは、熱処理を行う間、常時新しい水素ガスを10cc/minで導入しながら行うもの(常時置換)であり、もう1つは、最初に設定圧力分の水素ガスを導入し炉内に封入して同じガスの雰囲気内で行うもの(封入)である。試験品は40種類製作し、その40種類の熱処理温度、炉内圧力、熱処理時間、二次処理、雰囲気ガスの状態など熱処理条件を表1に示す。なお、熱処理後の基材表面部のCo量をEDX−SEMによって定性定量分析した結果、15〜20質量%の範囲であった。
【0027】
【表1】
【0028】
表1の条件で熱処理を行った基材を熱フィラメントCVD装置を使って膜厚20μmのダイヤモンド膜を被覆し、切削試験を行った。切削試験は、各試験品を10本ずつ行い、被削材には硬質カーボン(HRc70)を使用した。切削条件は、回転数2400rpm、F=240mm/min、切込深さ30mm、Rd=4.0mm、切削距離は20mで終了とした。
【0029】
(比較例1)
第1の比較例として、参考例1と同じ基材を用意し、熱フィラメントCVD炉で熱処理を行い、脱炭処理を行った。炉内の温度は1100℃、雰囲気は水素ガスとし、100cc/minでガスを導入しながら行った。この熱処理を行った基材に、参考例1と同様にしてダイヤモンド膜を被覆したが、溝の部分はダイヤモンド膜が形成されず、剥離部分が発生した。
【0030】
(比較例2)
第2の比較例として、参考例1と同じ基材を用意し、熱フィラメントCVD炉で熱処理を行い、浸炭処理を行った。炉内の温度は1050℃、雰囲気は水素ガスとメタンガスとし、水素ガスは100cc/min、メタンガスは10cc/minでガスを導入しながら行った。次に、同じ炉でWCl6を使用し、炉内の温度900℃にてWの膜を形成した。さらに、同じ炉でSiCH3Cl3を使用し、SiCの膜を形成した。この基材に参考例1と同様にしてダイヤモンド膜を被覆し、切削試験を行った。切削条件なども参考例1と同様である。
【0031】
参考例1および比較例2の切削試験の結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
試験品の17〜20、37〜40のそれぞれ4ヶずつの試験品の結果を比較すると、熱処理の時間による差があり、熱処理時間が長い方が剥離しにくい傾向であることがわかる。しかし、その他の試験品では大きな差は見られない。また、熱処理温度の違いの影響を比較すると、1200℃を超える高温側では工具の摩耗が大きくなる。また、650℃未満の低温側ではダイヤモンド膜が剥離しやすくなることがわかる。熱処理後の二次処理(ブラスト)の有無による差は大きくは影響しないことがわかる。ただし表では分からないが、評価数を50ヶにして試料5と9の切削試験後接合部の断面を確認したところ、試料5のみ数ヶのもので接合界面に微細なヒビが見られた。試験品1と31、5と35の比較などで炉内のガスを常時置換しながら熱処理を行うか、ガスを封入した状態で熱処理を行うかの違いでは、明確な差は出ていないが、前述のようにガスのコストの面から封入した状態で行うのがよい。
【0034】
(実施例1)
次に、熱処理方法の違いによる性能差を比較するため、以下の各試験品を30ヶずつ製作し、切削試験を行った。実施例1として、基材にWC−6質量%Coの超硬合金からなる直径3mmのドリルを用い、これをグラファイト容器に入れ、真空炉にセットした。炉内の雰囲気は水素ガスとし、炉内に導入したガスを封入して、圧力50Torr、炉内温度950℃、処理時間2Hrにて熱処理を行った。この後、熱フィラメントCVD装置を使って基材の表面に膜厚20μmのダイヤモンド膜を被覆した。
【0035】
(参考例2)
参考例2として、上記実施例1のうち、炉内のガスについて、常時水素ガスを10cc/minで導入する方法に変更して熱処理を行い、その他の条件は同様の方法によって、ダイヤモンド被覆を行った。
【0036】
(比較例3)
基材は上記実施例1と同様のものを使用し、これをCVD装置にセットして、0.5%メタンと残りが水素の混合ガスを導入し、圧力10Torr、処理時間2Hrで熱処理を行った。フィラメント温度は2250℃、基材温度は900℃とした。この後、同じ熱フィラメントCVD装置を使って基材の表面に膜厚20μmのダイヤモンド膜を被覆した。
【0037】
(比較例4)
基材は上記実施例1と同様のものを使用し、これをグラファイト容器に入れ、真空炉にセットした。炉内の雰囲気は水素ガスとし、常時水素ガスを10cc/minで導入しながら圧力2Torr、炉内温度1500℃、処理時間30minで熱処理を行った。この後、熱フィラメントCVD装置を使って基材の表面に膜厚20μmのダイヤモンド膜を被覆した。
【0038】
上記の4種類のドリルを、次の条件、すなわち切削速度30m/min、送り速度318mm/min、加工穴深さ14mm、液体冷媒の使用、の条件下でAl−30%SiC合金の穴あけ試験を行った。各試験品により200穴を加工し、その結果を評価した。それぞれについて30本ずつ試験を行いダイヤモンド膜の剥離が発生した本数は、実施例1は0本、参考例2は5本、比較例3は23本、比較例4は15本であった。また、比較例3では4本、比較例4では6本に熱処理後の基材の変形が見られた。
【0039】
なお、TiC−Ni系サーメットを基材とし、参考例1に対応する熱処理条件で処理した後、参考例1と同じダイヤモンド膜をそれぞれ形成し、これらを参考例1と同じ方法で評価したところ、ほぼ参考例1のWC−Co系基材の場合と同じ結果が得られた。
【0040】
また、参考例1と同じ基材に参考例1に対応する熱処理条件で処理した後、参考例1と同じ膜厚のダイヤモンド状炭素膜を被覆した試料を作製し、参考例1と同じ方法で評価したところ、ダイヤモンド被覆の場合に比べ全体に耐摩耗性の点で相違はあったが、ほぼ本発明の効果が認められた。
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法によれば、基材の熱処理を行い直接ダイヤモンド膜を形成できるので、基材に強固に接着させることができ、膜が剥がれにくくなる。
Claims (5)
- 超硬合金よりなる基材を、真空炉を使い、前記真空炉内に炭素を含むガスが生じる発生源を介在させるか、あるいは前記真空炉内にパラフィン系炭化水素ガスを供給することにより水素及び炭素を含有する封入された混合ガス雰囲気中で、前記真空炉内の混合ガス雰囲気圧力を5〜100Torr、温度は650〜1200℃として該基材の結合相成分が該基材内を移動可能な温度でダイヤモンドを生成しない平衡状態にて熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理を行った面に中間層を介さず直接、気相合成法によりダイヤモンド膜を形成する被覆工程とを含むことを特徴とするダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
- 前記発生源が炉内のカーボンまたはカーボンを含有するヒータであることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
- 前記発生源がカーボンブラック、黒鉛または炭化物のいずれかを敷き詰めた坩堝であることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
- 前記熱処理工程と前記被覆工程との間に、イオンボンバード、酸、またはブラストのいずれかにより前記基材の表面処理を行う表面処理工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
- 前記温度は850℃から1150℃であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド膜被覆部材の製造方法。
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