JP4129680B2 - かご型ロータ用アルミニウム合金、かご型ロータおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、工作機械用高速モータに使用されるインダクションモータ用かご型ロータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、工作機械の主軸用モータ、送り用モータなどのロータ導体材料としては純アルミニウムが使用されている。モータのトルクを大きくし損失を抑えるためには導電率が大きいこと、高速回転に対しては軽いこと、さらに、製造性が容易であること、耐食性が良いことなどが選定の理由である。製造法はダイキャスト法や低圧鋳造法が一般に使用される。モータの回転数は現状毎分一万回転以下である。純アルミニウムの特性は導電率60%IACS以上、150℃での引張り強さは4kgf/mm2である。
最近、工作機械分野では、生産性向上の要求に伴い主軸用モータなどの高速化が必要になってきた。毎分四万回転以上の最高回転数が要求されている。しかも導体材料は150℃近くまで上昇するため、150℃で引張り強さ10kgf/mm2以上の高強度が求められる。従来の純アルミニウムでは、引張り強さが4kgf/mm2と強度不足なので、高速回転時の遠心力により破損する。また市販品である高い強度を持つAl−Cu−Si系のアルミニウム基合金やADC系の合金では、導電率が著しく低くなるためモータ損失が大きくなるうえに、これらの材料は150℃では強度が急減し、使用不可である。
そこで、150℃での強度と導電率のどちらも高いアルミニウム鋳物合金として、特許文献1では、引張り強さが10kgf/mm2以上、導電率50%IACS以上のAl−Zr−Si系の合金が開示されている。
【0003】
【特許文献1】
特願2001−269610号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1で示されているアルミニウム鋳物合金では、伸びが小さいため金型の拘束が厳しい場合、鋳造後や熱処理時の冷却において割れが発生しやすい.またこのような合金で鋳造したロータに衝撃が加わると亀裂が発生してしまうという問題が生じる。
本発明は、150℃での引張り強さが10kgf/mm2以上、室温での導電率が50%IACS以上で、鋳造割れや衝撃による亀裂が発生しないアルミニウム合金鋳物で構成したかご型ロータを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明はつぎの構成にしている。
請求項1に記載の発明は、Zr:0.2〜1.0wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とするものである。
また、請求項2に記載の発明は、Hf:0.2〜1.5wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とするものである。
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアルミニウム合金からなることを特徴とするものである。
また、請求項4に記載の発明は、Zr:0.2〜1.0wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金をかご型ロータの鋳型に鋳造し、その後、300〜450℃の範囲で時効処理を施すことを特徴とするものである。
また、請求項5に記載の発明は、Hf:0.2〜1.5wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金をかご型ロータの鋳型に鋳造し、その後、300〜450℃の範囲で時効処理を施すことを特徴とするものである。
また、請求項6に記載の発明は、前記時効処理をする前に、550〜640℃の範囲で溶体化後急冷処理をすることを特徴とするものである。
また、請求項7に記載の発明は、前記時効処理を施す前に、50〜150℃の範囲で低温時効処理を施すことを特徴とするものである。
本発明の高温強度と高導電率を備えた材料は、母相と整合性の析出物が高温時効(300℃以上)で形成される場合に達成できる。本発明の実施では時効処理が必要不可欠であるために、ガスの巻き込みが少ない製造法が望まれる。スクイズダイキャスト法などが望ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について述べる。
Zr及びHfはアルミニウム中での移動および拡散が遅いため、耐熱性を向上させるうえに時効処理によってアルミニウム中に微細に析出することが知られている。その結果、強度は向上する。しかし、150℃での引張り強さを10kgf/mm2以上とするためには0.2wt%以上必要である。
Siについては、時効処理時に析出物が析出する速度は熱処理温度が高いほど大きくなるが、しかし、温度が高すぎると析出よりも回復が早く進行し強度が低下してしまう。また析出物の大きさも熱処理温度が高いほど大きくなって耐熱性が低下する。したがって析出のための熱処理は低温(300℃〜450℃)で行うのが良い。しかし、Al−ZrおよびAl−Hf合金を300℃〜450℃で時効処理を行う場合、適切な時効効果を得るには100〜1000時間程度必要であり実用的でない。そこでSiを0.05wt%以上添加することで、時効処理時間を数十時間程度に短くすることができる。
このAl−Zr−Si、Al−Hf−Si合金の場合、伸びが3%以下と小さく、鋳造割れや急冷時に亀裂が生じてしまう。そこでAgを添加することで伸びが急激に大きくなる。0.1%以上のAgを添加することで20%以上の伸びが得られる。またAgはアルミニウム中に添加することで数十ナノメートルオーダの微細析出物を高密度に分散させることができ、その結果12kgf/mm2以上の150℃での引張り強さが得られる。
またいずれの添加元素も上限はモータの損失を低下させないための導電率50%IACS以上で決まる。
また前記合金を時効処理する前に550℃〜640℃で溶体化処理しその後急冷することで、合金中に含まれるZrやHfなどの溶質原子を最大限に固溶させ、時効処理により析出する析出物の量を増やすことができ、強度がより向上する。また、低圧鋳造法で製造する場合は鋳造時の冷却速度が遅いのでそのまま時効処理しても効果がない。一度溶体化急冷処理が必要となる。
また、前記合金を時効処理する前に50〜150℃の範囲で低温時効処理を施こすことで、Siを微細に析出させ、その後の時効処理でSiの析出物部分に数十ナノメートルオーダの微細析出物がより高密度に析出するためにより強度が向上する。50℃未満ではSiの析出に時間がかかりすぎ実用的でない。また、150℃を越えるとSi析出物が大きくなりすぎるために時効処理後の強度は低下する。
【0007】
(実施例1)
本実施例は、Al−Zr−Si基合金にAgを添加した合金である。表1に本実施例と比較例の組成を示す。表1の組成のアルミニウム合金を黒鉛るつぼを用いて大気溶解した後、スクイズダイキャストにより鋳込み速度0.4m/sで金型に鋳込み、かご型ロータを製造した。さらに表1で併記した350℃〜450℃の条件で時効熱処理した。
つぎに鋳造したかご型ロータから試験片を作製し、引張り強度と導電率を測定した。引張り試験片はJIS14A号とし、150℃で引張り強度を測定した。導電率は、シグマテストにより室温で測定した。割れの有無は目視および顕微鏡観察で行った。その結果を表1の右欄に示す。
表1より明らかなように、本実施例1〜8は材料成分及び時効処理条件共に本発明の範囲内の条件で行ったもので、時効処理時間はすべて20hr以下で行っている。本実施例1〜8はいずれも従来の合金に比べて、150℃での強度が大きく、同等以上の導電率が得られている。また時効処理後に割れは全く認められなかった。
また比較例の内1〜6は材料成分が本発明の成分範囲を満たしておらず、150℃での引張り強度が10kg/mm2以下あるいは導電率が50%IACS以下あるいは鋳造割れが認められたと不十分な結果であった。比較例7はSiが添加されていないが、時効処理時間を100hrと長くしたため、150℃での引張り強度が10kg/mm2以上および導電率も50%IACS以上の特性が得られた。しかし、時効処理時間が100hrでは長すぎるため実用的ではない。比較例8は材料成分は本発明の成分範囲内の条件であるが、時効処理温度が500℃と高いため析出効果が得られず、150℃での引張り強度が10kg/mm2以下と不十分であり、導電率の改善も認められなかった。なお、実施例4と比較例9を比較してわかるように銀添加により導電率向上が見られた.
【0008】
【表1】
【0009】
(実施例2)
本実施例は、Al−Hf−Si基合金にAgを添加した合金である。表2に本実施例と比較例の組成を示す。表2の組成のアルミニウム合金を黒鉛るつぼを用いて大気溶解した後、スクイズダイキャストにより鋳込み速度0.4m/sで金型に鋳込み、かご型ロータを製造した。さらに表1で併記した350℃〜450℃の条件で時効熱処理した。
つぎに、鋳造したかご型ロータから試験片を作製し、引張り強度と導電率を測定した。引張り試験片はJIS14A号とし、150℃で引張り強度を測定した。導電率は、シグマテストにより室温で測定した。割れの有無は目視および顕微鏡観察で行った。その結果を表1の右欄に示す。
表2より明らかなように、本実施例1〜8は材料成分及び時効処理条件共に本発明の範囲内の条件で行ったもので、時効処理時間はすべて20hr以下で行っている。本実施例1〜8はいずれも従来の合金に比べて、150℃での強度が大きく、同等以上の導電率が得られている。また時効処理後に割れは全く認められなかった。
また比較例の内1〜6は材料成分が本発明の成分範囲を満たしておらず、150℃での引張り強度が10kg/mm2以下あるいは導電率が50%IACS以下あるいは鋳造割れが認められたと不十分な結果であった。比較例7はSiが添加されていないが、時効処理時間を100hrと長くしたため、150℃での引張り強度が10kg/mm2以上および導電率も50%IACS以上の特性が得られた。しかし、時効処理時間が100hrでは長すぎるため実用的ではない。比較例8は材料成分は本発明の成分範囲内の条件であるが、時効処理温度が500℃と高いため析出効果が得られず、150℃での引張り強度が10kg/mm2以下と不十分であり、導電率の改善も認められなかった。
【0010】
【表2】
【0011】
(実施例3)
本実施例は、表1の実施例1の材料成分のアルミニウム合金を黒鉛るつぼを用いて大気溶解した後、低圧鋳造法により鋳込金型に鋳込み、かご型ロータを製造した。その後、550〜640℃の温度範囲で溶体化処理後水冷により急冷を行い、さらに表1の実施例1と同様の条件で時効熱処理した。
実施例1と同様に引張り強度と導電率を測定した。その結果、150℃での引張り強度 は実施例1の値の10%増し、導電率も1%IACS増しといずれも表1の実施例1より高い特性が得られた。
【0012】
(実施例4)
本実施例は、表1の実施例1の材料成分のアルミニウム合金を二つづつ黒鉛るつぼを用いて大気溶解した後、低圧鋳造法により鋳込金型に鋳込み、かご型ロータを製造した。その後各組成の試料1つについて20〜200℃の範囲で10hr、低温時効処理を施こしたのち表1と同じ条件で時効処理を行った。一方、他の試料は550〜640℃の温度範囲で溶体化処理後水冷により急冷を行ったのち同じように時効処理を行った。
溶体化処理有無の試料について、実施例1と同様に引張り強度と導電率を測定した結果、50℃未満の試料は実施例1と同じ引張り強さと導電率を示し変化は無かった。しかし、50℃〜150℃の範囲で低温時効処理した試料は実施例1で得られた引張り強さの値よりいずれも20〜30%増しであった。導電率は1〜2%IACS増しであった。
50℃未満の試料は低温時効の時間をさらに長くすれば特性向上に効果が出ると考えられる。しかし、コスト高となり実用的でなくなる。さらに、155℃以上の温度で低温時効した試料は強度が9kg/mm2以下となり、いずれも目標値以下であった。
【0013】
なお、今回の実施例では、スクイズダイキャスト法や低圧鋳造法を用いて鋳造を行ったが、他の鋳造法、たとえば普通ダイキャストや真空ダイキャスト、レオキャスト法、チクソキャスト法、重力鋳造法などを用いても良い。
【0014】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明によれば、Al−Zr−SiまたはAl−Hf−Si合金にAgを添加してかご型ロータを製造したので、高強度高導電率でしかも衝撃による亀裂が発生しない導体材料が実現できるので、工作機械用高速モータが実現できる。
Claims (7)
- Zr:0.2〜1.0wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とするかご型ロータ用アルミニウム合金。
- Hf:0.2〜1.5wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなることを特徴とするかご型ロータ用アルミニウム合金。
- 請求項1または2に記載のアルミニウム合金からなることを特徴とするかご型ロータ。
- Zr:0.2〜1.0wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金をかご型ロータの鋳型に鋳造し、
その後、300〜450℃の範囲で時効処理を施すことを特徴とするかご型ロータの製造方法。 - Hf:0.2〜1.5wt%、Si:0.05〜1.5wt%、Ag:0.1〜0.8wt%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金をかご型ロータの鋳型に鋳造し、
その後、300〜450℃の範囲で時効処理を施すことを特徴とするかご型ロータの製造方法。 - 前記時効処理をする前に、550〜640℃の範囲で溶体化後急冷処理をすることを特徴とする請求項4または5に記載のかご型ロータの製造方法。
- 前記時効処理を施す前に、50〜150℃の範囲で低温時効処理を施すことを特徴とする請求項4乃至6いずれかに記載のかご型ロータの製造方法。
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