JP4128726B2 - 溶接状態監視装置及びこれを備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接装置 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は、シールドガス雰囲気中で消耗電極を用いてアーク溶接を行う消耗電極ガスシールドアーク溶接装置およびこの装置に付設される溶接状態監視装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
消耗電極ガスシールドアーク溶接では、消耗電極ワイヤの消耗に伴いワイヤ先端部に溶滴が形成される。ワイヤの先端部に形成された溶滴は、溶滴に働く種々の作用力、例えば重力、アーク反力、電流ピンチ力、溶滴表面張力の結果として、溶滴がある一定の大きさになるとワイヤ先端部から離脱し、被処理材(母材)の溶融池に滴下される現象、いわゆる溶滴移行により母材に溶接ビードが連続的に形成され、溶接が行われる。
【0003】
ワイヤの先端部に形成された溶滴の下部はアーク放電の陽極として、溶融池は陰極として働くため、アークより反作用を受ける。アークの安定性が悪化した場合、前記溶滴は不規則で大きな影響を受け、溶滴が飛び散るいわゆるスパッタの現象を引き起こしやすい。特に、炭酸ガスまたは炭酸ガスを主成分として含む混合ガスをシールドガスとして用いる炭酸ガス系のガスシールドアーク溶接では、アークが比較的収斂しているため、溶滴に対して上向きの大きな反力が働き、溶滴が不安定な場合、この反力によって溶滴が吹き飛ばされる。また溶滴が離脱し、アークが溶融池とワイヤ先端に再点灯する場合にも、急激なアーク反力がワイヤ先端部に働き、溶滴離脱後の残り湯あるいは溶融池を吹き飛ばし、スパッタが発生しやすい。この現象はアーク電流が大きく、またアーク状態(アーク長、アーク位置)の変動が大きな場合に著しく生じる。
【0004】
アーク長さ、位置の大きな変動をもたらす要因としては、(1) 溶接ワイヤの送給速度の変動、(2) 溶滴の形態不安定による陰極点の揺動、(3) 大粒溶滴の離脱に伴うアーク再点灯、(4) 溶滴の短絡によるインピーダンス急変動、その他が考えられる。
従来、これらの不安定要因を取り除く手法として、潤滑剤の最適化によるワイヤ送給性の向上やワイヤ表面の改善によるローラー送りの安定化、あるいはワイヤの組成などの改善による溶滴形状の安定化(表面張力の増大化)、または規則的な溶滴の離脱の促進によるアーク長の不規則な変動やワイヤ溶融池短絡防止などの方法が採られている。
【0005】
これらの対策により、アークが安定化し、スパッタ発生量が低減する効果が得られるが、特に炭酸ガス系のシールドガスを用いるガスシールドアーク溶接では、比較的大きなスパッタが発生しやすく、また高速の大電流溶接、大きな前進角溶接などの極端な条件下でも効果が不十分になりやすい。
【0006】
スパッタが発生すると、飛着スパッタの除去に人手を要するという問題があるほか、アークの状態が不安定になり、ビード外観が損なわれるという問題がある。溶接状態の良否は、一般的に作業者が溶接ビードの外観や溶接状態を目視で確認し、その良否を判定していたため、定量的な判定基準を設けることが困難である。特に無人の自動溶接では、溶接状態あるいはそれを左右する原因であるスパッタ発生状態などを作業者が判定することができないので、有効な溶接状態監視技術が求められている。
【0007】
溶接状態を監視する技術としては、溶接電流あるいは溶接電圧の波形をモニタし、所定の値から外れた場合に溶接欠陥が生じたと判断する方法が特開平6−262346号公報、特開平9−253847号公報などに開示されている。また、溶接電流あるいは溶接電圧の時間変動が大きくなった場合に、規則正しい溶接状態が維持されず、溶接欠陥が発生したものと推定する方法が特開平9−253847号公報、特開平11−123547号公報、特開平11−123548号公報に開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
こられの技術は、溶接電流、溶接電圧の波形をモニタリングする比較的簡便な手法により溶接状態を検知するものであるが、実際に問題になる溶接の不安定度すなわち溶滴移行状態を定量的に把握することはできず、また溶滴移行の際に生じるスパッタの発生量を十分満足のできるレベルで検出できる技術ではなかった。
【0009】
本発明はかかる問題に鑑みなされたものであり、消耗電極ガスシールドアーク溶接において、溶接状態あるいは溶滴移行の際のスパッタ発生量を定量的に把握することができる溶接状態監視装置、およびこれを備えた溶接装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、溶滴移行の際のスパッタ発生状態と溶接状態とが密接に関係することに着目し、さらにスパッタの発生状態は溶滴移行の際の溶接電流、溶接電圧等の溶接状態信号における波形変化として現れ、これを定量的に把握することでスパッタ発生量、引いては溶接状態を定量的に把握することができるとの着想により本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の溶接状態監視装置は、消耗電極ワイヤと被溶接材との間に溶接電源を導通接続し、シールドガス雰囲気中でアーク溶接を行う消耗電極ガスシールドアーク溶接において、溶接状態を監視する溶接状態監視装置であって、溶滴の離脱が生じるものと判断される閾値に基づいて、溶接電圧、溶接電流あるいは溶接電圧/溶接電流からなる溶接状態信号を弁別する弁別手段を有し、前記溶接状態信号が前記閾値を超えたときに単一パルス状の溶滴離脱信号を出力する溶滴移行検出部と、前記溶滴移行検出部から出力された溶滴離脱信号の信号数をカウントする信号カウンタを有し、前記信号カウンタは一定時間内にカウントした溶滴離脱信号の信号数を溶滴移行状態信号として出力し、その後リセットされて再び前記溶滴移行検出部から出力される溶滴離脱信号の信号数のカウントを開始する溶滴移行状態検出部とを備えたものである。
【0012】
前記溶滴移行検出部は、溶接電圧、溶接電流あるいは溶接電圧/溶接電流に代えて溶接電圧/溶接電流の時間微分信号からなる溶接状態信号を用いることができる。
【0013】
また、本発明の溶接装置は、消耗電極ワイヤが送給されるとともにその外周部にシールドガスを供給する溶接トーチと、前記消耗電極ワイヤと被溶接材とに導通接続される溶接電源装置と、前記溶接電源装置を制御する溶接電源制御装置とを備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接装置であって、前記溶接状態監視装置を備えたものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の起因になった炭酸ガスシールドアーク溶接における溶滴移行の際の物理現象について説明する。
ソリッドワイヤを用いた炭酸ガスシールドアーク溶接を行い、高速度カメラで溶滴移行の際のスパッタ発生状況を観察した。これらのスパッタは、ワイヤ先端部に形成された溶滴の形態が不安定あるいはワイヤの送給速度の不安定などにより、ワイヤ先端部に形成された溶滴が母材の溶融池に安定して移行せずに飛散することによって生じるものである。
【0015】
図1は正常な溶滴移行における溶接電圧/溶接電流(アークインピーダンスあるいは単にインピーダンスと呼ぶ。)の時間微分信号の波形図であり、溶滴の移行に際して一つのパルス状の波形変化が観察される。一方、スパッタが発生した場合の溶接電圧の時間微分信号波形を図2に示す。図2では溶滴移行の際に複数の波形変化が観察される。また、図3はアークインピーダンスの時間微分信号波形を示すものであり、図2と同様、複数の波形変化がパルス状信号として明瞭に観察される。図4および図5は大粒のスパッタが発生したときのアークインピーダンスの時間微分信号波形を示すが、移行の際に複数の顕著なパルス状波形変化が観察される。このように、スパッタが発生する場合は、溶滴移行期間に一連のパルス状の波形変化の繰り返し(チャタリングと呼ぶ。)が観察される。このようなチャタリングは、図1に示すように、スパッタが発生しない正常な溶滴移行の場合には現れず、スパッタ発生のモニタリング手法として有効な現象であることが知見された。
【0016】
スパッタが発生する際の溶滴移行状態を高速度カメラで観察した結果を図6に示す。同図では(A)から(E)へ向かって時間の経過に伴う溶滴の変化を示している。まず溶滴がワイヤの先端部に形成され、(A)に示すように粗大化し、根元がくびれ始める。その直後に(B)に示すように粗大化した溶滴が急速に溶融池に接近し、場合によっては溶融池に接触し、短絡する。このとき、極めて大きな溶接電流がワイヤと母材間に流れ、そのために不安定な溶滴下部に大きなピンチ力が作用する。この作用により、(C)に示すように溶滴は再び母材から反発され、ほぼ同時に(D)に示すように根元のくびれがちぎれて溶滴が離脱する。この瞬間、一瞬のアーク切れが生じ、インピーダンスがジャンプし、(E)に示すように時間を置いてアークが再点弧しインピーダンスが急低下することになる。溶滴が不安定な場合、このような不規則なインピーダンスの振動が生じるためインピーダンスチャタリングが生じる。このとき、同時に発生するスパッタリングによってチャタリングがさらに顕著に現れるものと推察される。
【0017】
本発明者は、上記のような観察、波形変化の解析を重ねることによって、溶接状態あるいはスパッタ発生量とチャタリング回数に良好な相関があることを見出し本発明を完成するに至った。なお、溶滴移行の際のチャタリングは、アークインピーダンスあるいはその時間微分信号に限らず、溶接電流、溶接電圧あるいはこれらの時間微分信号にも見出されるものであり、本発明ではこれらの溶接状態を現す電気信号を溶接状態信号と呼ぶ。
【0018】
上記知見を基にしてなされた本発明の溶接状態監視装置は、好適には炭酸ガス系シールドガスを用いる消耗電極ガスシールドアーク溶接における溶接電源装置に付設されるものであって、溶接状態やスパッタの発生量を定量評価可能とするものである。
【0019】
この溶接状態監視装置101は、図7に示すように、消耗電極ワイヤの先端部からの溶滴の移行に伴う溶接状態信号のパルス状の波形変化を電気的に検出して溶滴離脱信号を出力する溶滴移行検出部102と、一つの溶滴移行における溶滴離脱信号の出力数をカウントし、そのカウント数情報からなる溶滴移行状態信号を出力する溶滴移行状態検出部103とを備えている。前記溶滴移行状態信号は、適宜の溶滴移行状態信号処理装置104、例えば表示装置によって表示され、あるいは警報装置によって異常溶接状態になったとき警報が発せたれ、あるいは溶接電源制御装置112における自動制御等に利用される。なお、溶接電源装置111は、インバータを備えており、溶接電源制御装置112によって制御され、前記溶接電源装置111の出力側は溶接トーチ、被溶接材(母材)に電気的に接続される。
【0020】
前記溶滴移行検出部102は、電圧検出器V、電流検出器Aから入力された溶接電圧、溶接電流に基づいてアークインピーダンスすなわち溶接電圧/溶接電流およびその時間微分信号を求める演算手段105と、アークインピーダンスの時間微分信号を、溶滴離脱が生じると判断される基準値を閾値として弁別する弁別手段106とを有しており、前記時間微分信号が閾値を超えるとき単一パルス状の溶滴離脱信号が出力される。
【0021】
前記移行状態検出部103は、溶滴移行の際のチャタリングが生じる時間を十分にカバーし、溶滴移行間隔に比して短い一定時間(移行検出時間と呼ぶ。)を設定する移行検出時間設定手段107と、一つの溶滴移行における前記溶滴移行検出部102からの最初の溶滴離脱信号を受けて移行経過時間を計測する計測手段108と、前記移行検出時間の間に出力された溶滴離脱信号の出力数(信号数)をカウントし、そのカウント数情報からなる溶滴移行状態信号を出力する信号カウンタ109を備える。前記信号カウンタ109は、溶滴移行状態信号を出力した後、リセットされて再び前記溶滴移行検出部102から出力される溶滴離脱信号の信号数のカウントを開始する。
【0022】
前記移行検出時間は、タイマーにより所定時間を直接的に設定してもよく、および/または移行検出時間に投入される溶接投入電力の積算値である移行積算電力を用いて間接的に設定してもよい。移行検出時間として移行積算電力を用いるときは、計測手段として溶接投入電力を時間積分する積分器を使用することができる。
【0023】
ここで、上記溶接状態監視装置101による溶滴移行状態の監視手法を、図9に示すフローチャートに従って説明する。まず、溶滴移行検出部102から溶滴離脱信号が出力されると(S1)、移行経過時間を計測する計測手段108の計測を開始するとともに、溶滴離脱信号をカウントする信号カウンタ109のカウントを開始し、カウント数を1とする(S2)。移行検出時間が経過するまで溶滴離脱信号が出力される度にカウントを行い(S3,S4,S5,S6)、移行検出時間が経過した後にカウントを終了し、この溶滴移行の際に生じたチャタリングによる溶滴離脱信号数情報からなる溶滴移行状態信号を直ちに出力し(S3,S7)、計測手段108、信号カウンタ109をリセットし(S8)、次の溶滴移行の検出に備える。
【0024】
前記溶滴移行検出部102においては、溶滴離脱信号をアークインピーダンスの時間微分信号の波形変化に基づいて生成させるようにしたが、他の溶接状態信号すなわち溶接電流、溶接電圧あるいはこれらの時間微分信号の波形変化に基づいて溶滴離脱信号を出力するようにしてもよい。もっとも、溶滴離脱信号をアークインピーダンスの時間微分信号の波形変化に基づいて生成させることで、実際の溶滴移行に伴うチャタリング時の波形変化を的確に捉えることができる。すなわち、溶滴離脱に伴うアーク状態の大きな変動は、溶接電流あるいは溶接電圧の波形変化として現れるが、アーク状態の変化をより直接的にモニタリングすることができるアークインピーダンスの時間微分を取ることにより、アーク状態の変化を大きな信号変化として見出すことができる。しかも、真にアーク変化に起因する信号を取り出すことができるため、例えば電源ノイズが付加された場合、溶接電圧の変化に比してアークインピーダンスの変化は軽減されるため、電源ノイズが付加された際のアークインピーダンスの時間微分信号と真の溶滴離脱に基づく前記時間微分信号との区 別が容易になり、前記弁別手段の閾値を調整することにより、電源ノイズが付加された際に溶滴離脱信号の出力を抑制し、真の溶滴離脱に基づく溶滴離脱信号を出力することができる。電源出力の波形を変調してアークインピーダンスを得る手法は数々考えられるが、本発明ではアークインピーダンスの直流成分すなわち溶接電圧/溶接電流をモニタリングするので、特殊なプローブ波形を用いる必要がなく、簡便に溶滴移行検出を実施することができる。
【0025】
前記アークインピーダンスの時間微分信号は、アークインピーダンス(溶接電圧/溶接電流)を演算する除算器や、アークインピーダンス信号を微分する微分器からなるアナログ回路によって得ることができる。また、適当な周期で溶接電流、溶接電圧をサンプリングし、間欠的に溶接電流/溶接電圧を求め、サンプリング間隔の前後におけるアークインピーダンス信号の差分を前記間隔で除すことによって得られる変化値をアークインピーダンスの時間微分信号とすることができる。
【0026】
図10は、定電圧制御の溶接電源装置を使用した場合のアークインピーダンス(溶接電圧/溶接電流)の時間微分信号波形を示したものであり、高速度カメラによって確認したところ、電源ノイズに起因する擬パルスが除去され、実際の溶滴離脱タイミング近傍にのみパルス状の急峻なアークインピーダンス時間微分信号が生じている。これより、電源ノイズが起因の擬パルスのほとんどは、溶接電圧/溶接電流の信号処理の過程で除去されていることがわかる。これは、アークインピーダンスの直流成分変化が電源ノイズに左右されないことに基づくものである。
【0027】
一方、溶滴の移行が生じたとき、図10から観察されるように、アークインピーダンスの微分信号波形には一回の溶滴移行に伴いチャタリング、すなわち数回のパルス状の大きな信号変化が発生している。すなわち、一回の溶滴移行において、最初の波形変化は実際の溶滴移行開始を現しており、その溶滴移行を代表させることができる。
【0028】
アークインピーダンスの時間微分信号による溶滴の移行検出の有効性を確認するため、一回の溶滴移行における最初の溶滴離脱信号が溶滴移行検出部102から出力された後、後続の溶滴離脱信号が出力されないように溶滴移行検出部102の出力側に不感手段113を設けて溶滴移行検出を行った。
最初の溶滴離脱信号のみを溶滴移行検出部102から出力させる不感手段113としては、図8に示すように、溶滴移行検出部102の出力側に設けた開閉ゲート114と、図示省略した不感時間設定器によって予め設定された不感時間の間、前記開閉ゲート114を閉鎖する開閉制御部115とによって簡単に構成することができる。前記不感時間は前記移行検出時間と同様であり、タイマーにより不感時間を直接的に設定してもよく、あるいは溶滴形成と移行までに投入される積算電力に比べて小さな一定の不感積算電力を用いて間接的に設定してもよい。なお、図8において図7と同機能の要素は同符号が付されている。
【0029】
前記不感時間を設けて溶滴移行検出を行った結果を以下に示す。図11は1.2φCuメッキソリッドワイヤを用いて炭酸ガスシールドアーク溶接を行った際のサンプリングによって得た溶接電圧/溶接電流の信号波形を示す。溶接電圧、溶接電流はAD変換器を用い、サンプリング周波数25kHzでサンプリングしたものである。前記溶接電圧/溶接電流のサンプリング間隔の前後の差分を求め、この差分をサンプリング間隔で除して得られた時間微分信号波形を図12に示す。この時間微分信号に閾値=200Ω/sec のディスクリミネートを設定し、さらに最初の溶滴離脱信号を受けてから100ジュールの積算電力に至るまでの時間を不感時間として溶滴の移行を検出した溶滴離脱信号列を図13の下段に示す。図13の上段には、前記溶接電圧/溶接電流の波形、および高速度カメラで観察された実際の溶滴の移行タイミングが縦の破線で示されている。図13より、溶滴移行検出部102により出力された溶滴離脱信号は、いくつかのエキストラパルスがなお残留しているものの、これまでの溶接電流あるいは溶接電圧を単独で微分して得られた信号に対して格段に検出精度が高まっていることがわかる。
【0030】
次に、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定的に解釈されるものではない。例えば、本発明にかかる溶滴移行検出部、溶滴移行状態検出部は、溶接電圧、溶接電流をAD変換し、得られたデジタル信号をコンピューターによって処理することで実現することができる。また、本発明は通常の定電流制御のガスシールドアーク溶接のみならず、溶接電流波形としてピーク電流とそれより低いベース電流とを周期的に繰り返すパルス溶接、あるいは溶滴の移行を検出し、移行のタイミングに合わせてピーク電流からベース電流に切り換え、再びピーク電流を付与するなどの溶接電源波形制御を行うパルス溶接においても適用することができる。
【0031】
【実施例】
図14は実施例にかかる消耗電極ガスシールドパルスアーク溶接装置の全体構成を示す機能ブロック図であり、この溶接装置はスプール122に巻き取られた消耗電極ワイヤWが送給モータ123により送給されるとともに図示省略した炭酸ガス源からシールドガスが供給される溶接トーチ121と、前記消耗電極ワイヤWと母材Mとの間に電気的に接続され、溶接電力を供給する溶接電源装置111と、前記溶接電源装置111の出力や電源波形を制御する溶接電源制御装置112とを備えている。なお、溶接電源装置、溶接電源制御装置は図1に記載のものと同機能を有するので、同符号が付されている。
【0032】
前記ワイヤWは送給モータ123で駆動されるワイヤ送給ローラによって溶接トーチ121に向けて送給され、ワイヤWと母材M間にアーク放電を発生させて溶接が行われる。送給モータ制御回路124は、溶接電源制御装置112に付設された出力設定器19が設定するワイヤ送給速度に基づき送給モータ123の回転速度を制御する。
【0033】
前記溶接電源装置111は、商用3相交流電力を溶接用電力に変換するものであり、溶接トーチ121と母材Mとの間に導通接続される。工場内に設けられた3相交流電力供給部から供給される交流電流は、第1整流回路2で直流に整流され、平滑用コンデンサ3により平滑される。この直流電流は、インバータ4によって高周波交流電流に変換され、インバータ4の出力はトランス5によって溶接用電圧に降圧される。トランス5から出力される高周波交流電流は第2整流回路6により溶接用直流電流に整流され、この溶接用電流は平滑用のリアクトル7を介して溶接ワイヤWと母材Mとに供給されて、アーク溶接が行われる。
【0034】
前記溶接電源制御装置112は、アーク電圧を検出するための電圧検出器8、溶接電流を検出するための電流検出器9を備えている。前記電圧検出器8の出力(溶接電圧)および電流検出器9の出力(溶接電流)はインバーター制御部18および溶接電圧/溶接電流を出力する除算器26、および電力乗算器29に与えられる。また、前記溶接電源制御装置112の出力制御部17は、波形設定器15により設定される溶接電流波形が溶接電源装置111から出力されるように、波形生成器16からの波形生成信号を受けて、インバータ4を制御する。
【0035】
前記溶滴移行検出部102は、前記電流検出器8と電圧検出器9の出力を入力とし、そのアークインピーダンス(溶接電圧/溶接電流)を出力する除算器26と、その出力を微分する微分器25と、微分器25からのアナログパルス状出力信号を、溶滴離脱の発生レベルに設定した閾値によって弁別し、低レベルのノイズを除去するディスクリミネーター24と、ディスクリミネーター24からの出力信号を整形し、閾値を超えたパルス状出力信号に対して溶滴離脱信号(1−0信号)を出力する波形整形器23を備える。前記ディスクリミネーター24の閥値は、検出レベル設定器14により設定される。なお、後述の溶滴移行状態調査、スパッタ発生量の測定に際しては、前記ディスクリミネーター24および波形整形器23として、汎用のシングルチャンネルパルスハイトアナライザを使用した。
【0036】
前記波形整形器23から出力された溶滴離脱信号は、Aゲート22を経てカウンタ20に入力され、またBゲート21を経てリセットトリガ27に入力される。リセットトリガ27はAゲート22およびBゲート21を通して溶滴離脱信号が入力された直後にBゲート21に閉鎖信号を出力し、最初の溶滴離脱信号の次に後続する溶滴離脱信号のリセットトリガ27への入力を遮断する。
【0037】
一方、電力乗算器29で乗算された溶接投入電力は、積分器28により積算され積算電力として出力される。積分器28の積算電力の値は、前記溶滴移行検出部102から出力される最初の溶滴離脱信号に基づいてリセットトリガ27から出力されるリセット信号によりリセットされた後、積算が開始される。積分器28からの積算電力は、比較器30によって移行検出時間を示す移行積算電力と比較され、移行積算電力に達した後、比較器30はBゲート21へゲート開放信号を出力し、次の溶滴移行における溶滴離脱信号の入力を可能にする。また、比較器30は積算電力が移行積算電力に達した後、カウンタ20にカウント出力信号を送信し、カウントを停止させるとともに計測されたカウント数情報を含む溶滴移行状態信号を溶滴移行状態信号処理装置104に出力し、その後カウンタ20をリセットする。これによって、次の溶滴移行において検出される溶滴離脱信号数の計測に備える。前記溶滴移行状態信号処理装置104は、カウント数情報に基づいて、必要に応じてカウント数を統計処理し、移行状態表示や警報を行ったり、溶滴離脱信号の出力回数を低減するように溶接電源制御装置112を介して溶接条件の最適化制御を行う。
【0038】
上記溶接状態監視装置を備えた溶接装置を使用して、消耗電極ワイヤとしてφ1.2mmCuメッキソリッドワイヤ(銘柄MIX−50S:神戸製鋼所製)を用い、シールドガスとして炭酸ガスを用いて、定電圧制御の下でガスシールドパルスアーク溶接を行い、各溶滴移行におけるアークインピーダンスの時間微分信号のチャタリング回数を、溶滴移行検出器102からの溶滴離脱信号の出力回数としてカウントし、移行状態とチャタリング回数の相関を調べた。移行状態は、溶接の際に各溶滴の移行状況を高速度カメラで観察し、スパッタ発生形態に対応させて下記のように6段階に分けて評価した。評価点が小さいほど、安定移行を示す。また、5種類の試作ソリッドワイヤを用いて、一回の溶滴移行当たりのチャタリングの平均回数とスパッタ発生量との相関を調べた。
[溶滴移行状態の評価点]
1:下方への安定移行
2:小粒スパッタ少量発生
3:中粒スパッタ少量発生、小粒スパッタ多数発生
4:下方ないし側方へ飛散する大粒スパッタ発生、小粒・中粒スパッタ多数発生
5:側方へ飛散する大粒スパッタ発生、上方へ飛散する中粒スパッタ多数発生
6:上方へ飛散する大粒スパッタ発生、全方向へ飛散する中流スパッタが爆発的に発生
【0039】
スパッタ発生量の測定は、図15に示すように、母材Mの長さ方向に沿って溶接トーチ121を移動させ、その上面にビードオンプレート溶接を行い、溶接部から全方向に飛び散ったスパッタを収集するように母材Mの溶接部を取り囲むように捕集箱131,131を付設し、捕集箱に収集されたスパッタ量を測定することにより行われた。
【0040】
溶接条件は、シールドガス流量:25リットル/分、ワイヤ送り速度:10m/min、ワイヤ突き出し長さ:20mmとした。また、溶接電圧:36V、溶接電流波形:定電流波形、定常電流値:330Aとした。また、溶滴移行検出条件については、ディスクリミネーターレベルを200Ω/sec とし、高周波ノイズの除去を目的として溶滴移行検出部のアナログ回路(除算器、微分器)のカットオフ周波数を100kHzとした。また、カウント条件については、移行検出時間として移行積算電力を100Jに設定した。
【0041】
調査によって得られたチャタリング回数と溶滴移行状態評価点との関係を整理したグラフを図16に示す。同図から、チャタリングの回数による溶滴移行状態は、実際に高速度カメラにより観察された移行状態、スパッタ発生形態と良好な相関を示すことがわかる。
【0042】
また、溶接安定性の異なる5種類の試作ソリッドワイヤを用いてアーク溶接を行った場合のスパッタ発生量と平均チャタリング回数との関係を整理したグラフを図17に示す。同図より、実測したスパッタ発生量は平均チャタリング回数に極めてよく反映されてることがわかる。なお、この溶接の際における溶滴移行周期は、各ワイヤともほぼ同様であった。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、消耗電極ガスシールドアーク溶接において、溶滴移行状態、スパッタ発生量を定量的に評価可能な溶滴移行状態信号が出力されるので、これを用いて溶接状態を的確に監視することができ、溶接品質の評価や管理、溶接条件の自動制御、溶接異常時の警報等を行うことができ、溶接品質や生産性を向上させることができる。また、溶滴移行の際の波形変化をアークインピーダンス(溶接電圧/溶接電流)の時間微分信号を用いて検出することで、電源ノイズの影響を受け難くなり、溶滴移行時の溶滴離脱信号を的確に検出することができ、これによって適正な溶滴移行状態信号を得ることができ、その信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 安定した溶滴移行状態におけるアークインピーダンスの時間微分信号の波形図である。
【図2】 スパッタ発生時の溶接電圧の波形図である。
【図3】 スパッタ発生時のアークインピーダンスの時間微分信号の波形図である。
【図4】 大粒のスパッタ発生時のアークインピーダンスの時間微分信号の波形図である。
【図5】 図4のチャタリング部の波形拡大図である。
【図6】 溶滴移行の際のチャタリングの発生機構と溶滴状態を示す説明図である。
【図7】 本発明の実施形態にかかる溶接状態監視装置および溶接電源装置等の機能ブロック図である。
【図8】 一回の溶滴移行に対して1つの溶滴離脱信号を発信するようにした不感手段を付設した溶滴移行検出部のブロック図である。
【図9】 溶滴移行の際の溶滴離脱信号出力数の計測手順を示すフローチャートである。
【図10】 アークインピーダンスの時間微分信号の波形図である。
【図11】 サンプリングによって求めたアークインピーダンス信号の波形図である。
【図12】 図11で示されたアークインピーダンスの時間微分信号の波形図である。
【図13】 アークインピーダンス信号波形図(上段)およびその時間微分信号に基づいて検出された溶滴移行信号(溶滴移行の際に生じる最初の溶滴離脱信号)の出力図(下段)である。
【図14】 実施例にかかる溶接状態監視装置を備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接装置の全体機能ブロック図である。
【図15】 実施例にかかるビードオンプレート溶接要領およびスパッタ捕集要領の説明図である。
【図16】 実施例における溶接状態評価点とチャタリング回数との関係を示すグラフである。
【図17】 実施例における一回あたりの溶滴移行における平均チャタリング回数とスパッタ発生量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
101 溶接状態監視装置
102 溶滴移行検出部
103 溶滴移行状態検出部
111 溶接電源装置
112 溶接電源制御装置
Claims (3)
- 消耗電極ワイヤと被溶接材との間に溶接電源を導通接続し、シールドガス雰囲気中でアーク溶接を行う消耗電極ガスシールドアーク溶接において、溶接状態を監視する溶接状態監視装置であって、
溶滴の離脱が生じるものと判断される閾値に基づいて、溶接電圧、溶接電流あるいは溶接電圧/溶接電流からなる溶接状態信号を弁別する弁別手段を有し、前記溶接状態信号が前記閾値を超えたときに単一パルス状の溶滴離脱信号を出力する溶滴移行検出部と、
前記溶滴移行検出部から出力された溶滴離脱信号の信号数をカウントする信号カウンタを有し、前記信号カウンタは一定時間内にカウントした溶滴離脱信号の信号数を溶滴移行状態信号として出力し、その後リセットされて再び前記溶滴移行検出部から出力される溶滴離脱信号の信号数のカウントを開始する溶滴移行状態検出部とを備えた溶接状態監視装置。 - 前記溶滴移行検出部は、溶接電圧、溶接電流あるいは溶接電圧/溶接電流に代えて溶接電圧/溶接電流の時間微分信号からなる溶接状態信号を用いる請求項1に記載した溶接状態監視装置。
- 消耗電極ワイヤが送給されるとともにその外周部にシールドガスを供給する溶接トーチと、前記消耗電極ワイヤと被溶接材とに導通接続される溶接電源装置と、前記溶接電源装置を制御する溶接電源制御装置とを備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接装置であって、
請求項1又は2に記載した溶接状態監視装置を備えた消耗電極ガスシールドアーク溶接装置。
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