JP4128297B2 - 鋼管の応力診断方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、埋設してある鋼管に地盤沈下や地層変動、等によって発生した応力を、鋼管から発生するバルクハウゼンノイズを利用して、非破壊的に診断する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ガス供給管、水道管等の鋼管は地中に埋設されているため、地盤沈下などが発生すると、沈下量の異なる鋼管部位の間に曲げ応力が発生する。その応力が鋼管に長期間に渡って作用すると応力腐食割れが発生する危険が生じ、また、その応力が過大になると鋼管が破損してしまう場合が出てくる。特に、ガス供給管でこのようなことが起こらないように、埋設管に作用している応力を監視し、安全性を確認しなければならない。
【0003】
このために、地表から鋼管表面へ細い抗を開けて、その抗に沈下棒と呼ばれる棒を差込み、その棒の沈下量から地中で生じている鋼管の変形を推定して曲げ応力を求める方法が従来から実施されている。しかしながら、この方法では鋼管の水平方向の変位を測定できないこと、沈下棒の数が制限されているために鋼管の変形量の推定精度が不十分なこと、の理由から、応力診断の精度に問題があった。そこで、磁歪を利用した磁歪センサ(磁気異方性センサ)を鋼管表面に直接あてて、その出力値から鋼管に作用している応力を求める方法が提案されている。
【0004】
この測定原理は、鉄などの鋼材では磁歪は正であるため、鋼管表面に応力が作用すると、引っ張り応力方向では透磁率が増加し、圧縮応力方向ではそれが減少することを用いたものである。例えば、鋼管周囲で測定した磁歪センサ出力をサイン曲線で近似して算出した値が保安上の基準値を越えない値、または、最小値となるように調整する応力解放方法(特開平3-176630号公報)、2ヶ所の応力中立部近傍の磁歪センサ出力の角度依存性を直線近似し、両者の傾きの平均値から曲げ応力を推定する方法(特開平3-176626号公報)、磁歪センサ出力とSINθ近似との差をSIN2θで近似し、その振幅値から偏平応力を推定する方法(特開平3-176627号公報)、電縫管を磁歪センサで測定する際に溶接部の測定値を除去してCOSθ、COS2θで補正する方法(特開平5-281058号公報)、磁歪センサ出力が最大となる位置、およびそこから90°ずれた位置の外径を実測して偏平率を求めて、軸方向最大応力値を補正する方法(特開平6-288842公報)、磁歪センサ等で部分的に測定した応力を沈下量測定によるシミュレ−ションに取り入れて埋設管全体の中の最大応力を求めて基準値を越えないようにする管理方法(特開平9-242933号公報)、等が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は全て磁歪センサを用いているために、鋼管の降伏応力以下の弾性範囲にある応力を求めるものであって、降伏応力以上の塑性領域にある応力を求めることが困難である。さらに、降伏応力に近づくにつれて、検量線の直線性が悪くなるために、補正を必要としていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上の如く、従来は、鋼管に作用している応力を精度良く求めようとする場合には、応力が降伏応力以下の弾性領域にある場合に制限されていた。しかしながら、実際に埋設されている鋼管に降伏応力以上の応力が作用している場合も多く存在すると予想され、このような塑性領域に入っている応力が本来最も注意して監視し、場合によっては、直ちに応力解放工事を実施しなければならないものである。
【0007】
本発明は、制御された圧縮応力が付与されている鋼管表面の周囲に渡る所定の測定部位のバルクハウゼンノイズの実効値電圧を測定することによって、鋼管に弾性範囲内にある応力のみならず、降伏応力を越えた応力が作用している場合においても精度良く、応力診断ができる方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、下記の通りである。
【0009】
(1)圧縮残留応力が付与されている鋼管を診断対象とし、励磁ヘッドと検出ヘッドとを備えて構成される磁気ヘッドを用いて、前記励磁ヘッドにより鋼管の測定部位を交流励磁し、前記検出ヘッドに誘起される電圧信号を周波数分離してバルクハウゼンノイズを検出する応力診断方法であって、鋼管表面の周方向に複数の所定の測定部位を設定し、鋼管の管軸中心線を含み鋼管表面の所定の測定部位と交わる平面を想定し、前記各平面のうちの一枚を基準面として、各測定部位を前記基準面と各測定部位を含む平面とのなす角度で表示し、それらの角度とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係から、互いの位置がほぼ180°の角度の間隔を保ち、且つ、バルクハウゼンノイズの実効値電圧がそれぞれ極小値又は最小値をとっている2つの測定部位を求め、それら2つの測定部位のほぼ中央の角度に位置している測定部位のバルクハウゼンノイズの実効値電圧の最大値を求め、前記実効値電圧の最大値から、同一部材を使って予め求めておいた外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係を表している検量線を用いて、軸方向の最大引っ張り応力値を求めることを特徴とする鋼管の応力診断方法。
【0010】
(2)現場設置前の鋼管表面の周囲に渡って、面内方向に圧縮残留応力を付与することによって鋼管表面の周囲に渡るバルクハウゼンノイズの実効値電圧を均一にした鋼管を用いることを特徴とする前項(1)に記載の鋼管の応力診断方法。
【0011】
(3)残留応力が測定面内において等方的に分布している鋼管を用いることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の鋼管の応力診断方法。
【0012】
(4)バルクハウゼンノイズの検出深さをdとした場合、圧縮残留応力を測定部位の表面から少なくとも0.5dの深さまで付与することを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の鋼管の応力診断方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
鋼材のバルクハウゼンノイズは、外部応力および結晶粒径、析出物や転位等の組織に応じて変化するため、外部応力を診断するためには組織を変化させないことが必須であった。すなわち、鋼材に外部応力が作用しても、それが弾性範囲内にあるときには、組織変化がないためバルクハウゼンノイズは応力のみに依存し、かつ、応力に対して可逆的に変化する。しかし、鋼材に降伏応力以上の外部応力が作用し、それが塑性領域に入ってしまうと転位の増殖や結晶回転などが起こり組織が変わってしまうため、もはや外部応力のみを診断をすることが不可能になってしまう。
【0014】
本発明者らは、外部応力の大きさが降伏応力より大きくなった場合においても組織変化をほとんど生じさせなくするように、測定部位の残留応力の初期状態を制御することを可能にし、さらに、そのような状態において、応力とバルクハウゼンノイズの関係を詳細に調べた結果、本発明に至ったものである。
【0015】
すなわち、本発明者らは、弾性領域から塑性領域に至るまで、さらに、塑性領域においては種々のひずみの大きさまで塑性変形させた場合における応力あるいはひずみとバルクハウゼンノイズの大きさの関係を詳細に測定した。その結果、一端、測定部位を塑性変形させて、その部位の面内方向に圧縮残留応力を付与した試料に引っ張り応力を新たに負荷した場合には、応力あるいはひずみとバルクハウゼンノイズの実効値電圧の直線相関が成り立つ応力あるいはひずみ範囲が、圧縮残留応力が無い場合に比べて格段に広くなることを見出した。さらに、面内方向の圧縮残留応力を鋼管の降伏応力とほぼ同じ大きさに制御した場合には、その部位に圧縮応力を外部から負荷してもバルクハウゼンノイズはほとんど変化しないか、わずかに大きくなる程度の変化を示すことを見出した。
【0016】
通常の電縫管やシ−ムレス管では鋼管表面の各部位ごとに組織や残留応力が異なるために、実際にバルクハウゼンノイズを測定してみると同じ鋼管でも測定部位が数cm異なるだけでその実効値電圧は大きく異なってしまう。したがって、各部位ごとの初期値の管理が必要になり、管理する上で煩雑になってしまう。
【0017】
本発明者らは、電縫管やシ−ムレス管表面の面内方向にほぼ同じ大きさの圧縮残留応力を付与することによって鋼管表面のどの位置でバルクハウゼンノイズを測定しても同じ大きさの実効値電圧が得られることを見出した。この圧縮残留応力を面内に等方的に付与することによって、初期値の値も等方的になって、どの方向から外部応力が負荷されても応力の診断精度の低下を防ぐことが可能になる。実際上、降伏応力に相当する圧縮残留応力を付与することが均一な残留応力を付与する点で容易である。
【0018】
さらに、降伏応力に相当する圧縮残留応力を付与することによって、その部位に外部から圧縮応力が負荷されても、バルクハウゼンノイズの実効値電圧がほとんど変化しないか、わずかに大きくなる程度の変化をすることを見出した。鋼管に曲げモ−メントが作用する場合、中立点を境としてその両側でそれぞれ管軸方向に圧縮応力と引っ張り応力が作用する。バルクハウゼンノイズの実効値電圧は、中立点では変化せず、圧縮応力側でも引っ張り応力側でも大きくなり、それらの変化は引っ張り応力側での変化が圧縮応力側での変化より大きくなるため、中立点を容易に見つけることができ、さらに、圧縮応力側と引っ張り応力側も容易に区別できる。これに対して、従来の磁歪センサでは中立点を境にして、連続的に出力値が変化するため、中立点の判断に曖昧さがあった。
【0019】
次に測定手順について図1及び図2を用いて説明する。
【0020】
図1は、応力測定を使用する磁気ヘッドを示す概略斜視図である。この磁気ヘッド1は、珪素鋼板、アモルファス等の軟質磁性材料からなるU字型コア11及びこのU字型コア11にエナメル線等の銅線が巻回されてなる励磁コイル12を備えた励磁ヘッド2と、例えば空心コイルである検出ヘッド3とから構成されている。
【0021】
このような磁気ヘッド1を用いて、制御された圧縮残留応力が付与された鋼管表面上の周方向の複数の所定の場所で、管軸方向に励磁してバルクハウゼンノイズを測定する。その際、図2(鋼管4の管軸Tに直交する断面図)に示すように、鋼管4の表面の管軸Tの中心線を含み鋼管表面の所定の測定部位Pと交わる平面を考え、各平面のうちの一枚を基準面Sとして、各測定部位をその基準面Sと各測定部位を含む平面とのなす角度θで表示する。どの面を基準面としても良い。それらの角度とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係をグラフに表し、このグラフから互いの位置が180°の角度の間隔を保ち、かつ、バルクハウゼンノイズの実効値電圧がそれぞれ極小値もしくは最小値をとっている測定部位を2ヶ所(図示の例ではPa,Pb)求める。この2ヶ所の測定部位Pa,Pbが前記した中立点である。
【0022】
図3には、このようにして表した例を示した。但し、図3は鋼管に外部から曲げ応力を加えていった場合の各応力段階におけるバルクハウゼンノイズの実効値電圧のプロファイルを示したものである。ここで、通常の測定点数は数点から数十点程度の有限数であるため、測定部位が必ずしも中立点の位置と一致するとは限らない。このような場合には、前記した最小値をとっている2ヶ所の実効値電圧は必ずしも同一値ではなく異なる値となる。中立点を決めることは測定点間を補完曲線で近似することによって容易に行うことができる。
【0023】
次に、それらの2つの測定部位のほぼ中央の角度に位置している測定部位(図示の例ではPc)におけるバルクハウゼンノイズの実効値電圧の最大値を求める。この部位は、通常、管軸方向に作用している引っ張り応力が最大となるところである。中立点が、描いたグラフの端部になって見にくい場合には、グラフの基準面を変えて見やすくすればよい。この2ヶ所の中立点での実効値電圧は元の初期値であるから、初期値がわからなくなってしまった場合でもそれを求めることが可能となる。実効値電圧の最大値から予め求めておいた検量線を用いて軸方向の最大引っ張り応力値を求めることができる。
【0024】
ここで、応力とバルクハウゼンノイズの関係を表す検量線は、ひずみゲ−ジを貼り付けた同じ鋼種の部材に応力を負荷していきながら、バルクハウゼンノイズを同時に測定することによって、容易に求めることができる。
【0025】
さらに、この最大引っ張り応力値をσmaxとすると、M=Z×σmax、(但し、Zは断面係数)から曲げモ−メントMを求めることができる。また、降伏応力に相当する圧縮残留応力を鋼管表面に付与することによって、降伏応力の約2倍に相当する外部引っ張り応力までバルクハウゼンノイズで診断が可能になる。
【0026】
電縫管では溶接部、およびその両側に熱影響部があるが、これらの部位ではバルクハゼンノイズが大きく変化してしまう場合がある。被覆や塗装が施されていない場合には目視でそれらの部位を確認できるため、予め測定部位から除くことができるが、被覆や塗装があって目視で確認できない場合には、測定値からこれらの部位に相当する値を除外すればよい。溶接部や熱影響部では,測定部位の角度とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係を表したグラフにおいて、実効値電圧が不連続的に変化するため、それらの部位を容易に見つけることができる。公知の非接触式磁気ヘッド(特開平7−174730号公報)を用いれば被覆材の上からでも測定が可能となる。
【0027】
試料のより深い部位から発生するバルクハウゼンノイズほど減衰が大きくなるため、検出コイルに発生する電圧は小さくなる。これはスキンデプス(skin depth)効果と呼ばれ、定量的に示すと次にようになる。試料表面においてバルクハウゼンノイズが1/eに減衰する発生源の深さ、即ち検出深さをdとすると、d=(ρ/πfμ)1/2 、(ρは電気抵抗、fはバルクハウゼンノイズの検出周波数、μは透磁率)で表される。残留応力を付与する深さは、少なくとも0.5d以上でなければならない。それが0.5dより少ない場合には、バルクハウゼンノイズと応力あるいはひずみとの関係において、両者の直線相関が成り立つ応力範囲が低下するからである。
【0028】
バルクハウゼンノイズの測定部位に圧縮残留応力を付与する方法は、例えば、エア−ブラスト、ショットブラストなどの小さな鋼球やセラミックス粒子を試料表面に高速で衝突させる方法、サンダ−による研磨、等があるが、試料表面に等方的に残留応力を付与するためには、エア−ブラスト、ショットブラストが適している。サンダ−による場合でも等方的に研磨することによって残留応力を等方的に付与することが可能である。
【0029】
本実施形態の測定方法を実際に使う場合には、被測定部材における外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係を示す検量線を予め測定しておき、実際に測定した実効値電圧の最大値を応力へ換算する場合に、この検量線を用いればよい。
【0030】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0031】
(実施例1)
鋼管表面に制御された残留圧縮応力がある場合と無い場合でバルクハウゼンノイズの実効値電圧の初期値、すなわち、鋼管に曲げ応力等が働いていない場合の実効値電圧、が測定部位によってどのような値をとるかについて調べた。供試鋼管は外径318mm、肉厚7.9mmのシ−ムレス鋼管である。残留圧縮応力は鋼管表面の全面にわたって均一にスチ−ル系研掃材を用いたショットブラスト処理を施すことによって付与した。
【0032】
バルクハウゼンノイズの測定は、以下のようにして行った。珪素鋼板を積層したU字型励磁コアに1000タ−ンのエナメル線を巻いた励磁ヘッド、および断面積が2mm×8mmのアクリル製ボビンに500タ−ンのエナメル線を巻いた検出ヘッドからなる磁気ヘッドを圧縮残留応力がある鋼管とそれが無い鋼管の試料表面にあててバルクハウゼンノイズの実効値電圧を測定した。各測定部位における励磁方向は鋼管の軸方向と周方向の2方向である。励磁周波数は100Hz、検出周波数は10kHz〜100kHzである。今回の試験において、制御された圧縮残留応力がない鋼管とはショットブラスト処理前の鋼管である。
【0033】
鋼管の測定部位は管軸中心線を含み鋼管表面の所定の測定部位と交わる平面を考え、その内の一枚の平面を基準面とし、測定部位をその基準面と各測定部位を含む平面とのなす角度で表示した。実際には、シ−ムレス鋼管であるため任意の面を基準面として、22.5°の間隔で16ヶ所を鋼管周囲にわたって一周分測定した。
【0034】
ショットブラスト処理後の鋼管表面の残留応力の大きさの深さ方向の分布は、表面から板厚方向へ所定厚さだけエッチングした後、X線残留応力測定法によって求めた。その結果、表面から約150μmの深さまで同じ大きさの圧縮残留応力が面内で等方的に均一に入っていることを確認した。スキンデプス(skin depth)の計算式d=(ρ/πfμ)1/2から求めたバルクハウゼンノイズの検出深さは、約160μmである。
【0035】
図6に、鋼管の軸方向と周方向に励磁して測定した場合のバルクハウゼンノイズの実効値電圧(RMS)のプロファイルを示した。制御された圧縮残留応力がない場合の比較例の結果について見ると、軸方向の実効値電圧は測定位置によって大きくばらついていることがわかる。周方向についても同様である。さらに、同じ測定部位でも軸方向の測定値と周方向の測定値が大きく異なっている。これに対して、ショットブラスト処理によって、鋼管表面に均一に圧縮残留応力を付与した本発明例では、測定部位による実効値電圧のばらつきもほとんどなくなって均一化されていることがわかる。さらに、軸方向と周方向の実効値電圧もほぼ同じ値になっている。
【0036】
以上から、鋼管表面の周囲にわたって、面内方向に圧縮残留応力を付与することによって、鋼管表面の周囲にわたるバルクハウゼンノイズの実効値電圧を均一にすることができる。
【0037】
(実施例2)
降伏応力が24kgf/mm2 の電縫管を用いてバルクハウゼンノイズと外部応力との関係を調べた。測定試料は外径318mm、肉厚6.9mm、長さ6000mmの鋼管である。ただし、鋼管表面にショットブラスト処理で圧縮残留応力を付与したものとしないものを用いた。それぞれの鋼管に曲げ試験を実施しながらバルクハウゼンノイズを測定し、両者の関係を調べた。曲げ試験は、200トン試験機を用いて2点載荷で行った。載荷点間隔は700mm、支点間隔は4800mmである。
【0038】
それぞれの鋼管の測定部位は周囲にわたって22.5°間隔で、合計16ヶ所である。なお、337.5°の測定部位が溶接部になるように基準面を選んだ。測定部位に負荷される外部応力はその部位に隣接して貼り付けた塑性領域まで測定可能な3軸型ひずみゲ−ジから求めた。
バルクハウゼンノイズの測定は、実施例1と同様である。ただし、励磁方向は管軸方向である。
【0039】
ショットブラスト処理後の鋼管表面の残留応力の大きさの深さ方向の分布は、表面から板厚方向へ所定厚さだけエッチングした後、X線残留応力測定法によって求めた。その結果、表面から約200μmの深さまで降伏応力と同じ大きさの圧縮残留応力(−24kgf/mm2 )が面内で等方的に入っていることを確認した。skin depthの計算式d=(ρ/πfμ)1/2から求めたバルクハウゼンノイズの検出深さは、約160μmである。
【0040】
図7は、ショットブラスト処理材において2点載荷の合計荷重を増加させていった場合の各測定部位における軸方向のひずみのプロファイルを示した。図中で合計荷重の単位をkNで表したが、1kgf=9.8Nである。合計荷重が増加するにつれて90°と270°の間の部位では引っ張りひずみが増加し、その両側の部位では圧縮ひずみが増加している。90°と270°の部位が中立点である。図7の結果はショットブラスト処理無し材でも同様であった。
【0041】
図7の測定点に隣接した場所で測定したバルクハウゼンノイズの実効値電圧(RMS)のプロファイルを図3に示した。図3からわかるように、無負荷の時の実効値電圧は溶接部を除いて均一な値になっている。実効値電圧は中立点である90°と270°の部位ではほとんど変化せず、軸方向に引っ張り応力が負荷される中立点の間で大きく増加しているのがわかる。中立点の両側の圧縮応力が負荷されている部位では実効値電圧の増加はわずかである。337.5°の部位は溶接部であるが、この部位の実効値電圧は不連続的に変化しているのがわかる。2つの中立点は低荷重の時は最小値を示しているが(溶接部を除いて)、高荷重になると極小値となることがわかる。最大の引っ張り応力は中立点の2点間のほぼ中央の角度に位置している。
【0042】
図4は、今回の実験で求めた検量線であり、実効値電圧の最大値を示す180°の位置におけるひずみゲ−ジの値から求めた軸方向の引っ張り応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係を示したものである。なお、90°〜270°の間に位置する測定部位でも同じ相関関係であった。両者の直線相関は降伏応力の約2倍に相当する約47kgf/mm2 の応力範囲まで成り立っていることがわかる。通常は、塑性領域ではヤング率Eが変化するために、そのEを一定としてひずみから応力を計算することはできないが、本発明例の場合のように圧縮降伏応力状態から引っ張り降伏応力状態に変化する間では、ヤング率E=σ/ε=21000kg/mm2 (応力σ、ひずみε)がほぼ可逆的に成り立つことから、ひずみから応力への計算が可能になる。ただし、それ以上の応力範囲ではE=σ/εの関係が成り立たなくなるため、ひずみから応力を求めることはできなくなる。
【0043】
図4の横軸ではそれを( )付きで示した。図4を検量線として用いることによって、実効値電圧から応力を求めることが可能となる。
【0044】
比較として、ショットブラスト処理を施さなかった鋼管に対して、同様な実験を行った。最大引っ張り応力が負荷される測定点、すなわち、図3の180°に相当する部位での応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を図5に示した。両者の直線関係はほとんどなく、また、実効値電圧の応力依存性も小さいことがわかる。
【0045】
(実施例3)
バルクハウゼンノイズの検出深さをd、圧縮残留応力の存在深さをDとした場合、D/dが変化した時に外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の直線相関が成り立つ範囲を調べた。実際には、バルクハウゼンノイズの検出深さdを一定として、ショットブラスト条件を変えることによって、Dを変えた。バルクハウゼンノイズの測定法および残留応力の測定法は実施例1と同様である。なお、ショットブラスト条件を変えると残留応力の存在深さDとともに圧縮残留応力の大きさ−σrも同時に変わってしまうため、直線相関が成り立つ応力範囲の評価は、実測した直線相関範囲をσlinerとした場合、σliner/(σr+σy)、σyは降伏応力、で評価した。これは、直線相関が成り立つ範囲σlinerは最大で(σr+σy)であり、このσliner/(σr+σy)が大きい方が、直線相関が成り立つ範囲が広いことを意味する。
測定結果を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
以上からわかるように、バルクハウゼンノイズの検出深さをdとした場合、残留応力を測定部位の表面から少なくとも0.5dの深さまで付与することによって、外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の直線相関がより広い応力範囲まで成り立つことがわかる。
【0048】
(実施例4)
実施例2で使用した鋼管と同じ鋼管にショットブラスト処理を施して圧縮残留応力を付与した。残留応力の大きさは実施例2の場合と同じであった。次に、この鋼管を曲げて任意量の外部応力を負荷した状態で、本発明によって外部応力が診断できるか否かを調べた。鋼管周囲の測定点数、およびバルクハウゼンノイズの測定方法は実施例2と同様である。実測したバルクハウゼンノイズの実効値電圧の最大値を図4の検量線を用いて応力に換算した値は32kgf/mm2 であった。この値は、曲げた鋼管の曲率を精度良く測定して計算によって求めたひずみの値を応力に換算した値とほぼ一致した。
【0049】
したがって、本発明によって、降伏応力以上の応力の診断が可能であることがわかる。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、表面に圧縮残留応力が付与された鋼管のバルクハウゼンノイズを鋼管の周囲にわたって、所定の部位で測定することによって、鋼管に作用している応力が弾性領域のみならず、降伏応力を越えた塑性領域にある応力までも精度良く診断することが可能となる。本発明を用いることによって、埋設してある鋼管に対して、本来最も注意して監視し、場合によっては直ちに応力解放工事を実施しなければならないような塑性領域にある応力の診断精度が格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】応力測定に用いられる磁気ヘッドを示す概略斜視図である。
【図2】応力測定方法を簡易に示す模式図である。
【図3】バルクハウゼンノイズの実効値電圧プロファイルの変化を表す特性図である。
【図4】応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を表す検量線を表す特性図である。
【図5】応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を表す検量線を表す特性図である。
【図6】バルクハウゼンノイズの実効値電圧のプロファイルを表す特性図である。
【図7】鋼管のひずみプロファイルの変化を表す特性図である。
【符号の説明】
1 磁気ヘッド
2 励磁ヘッド
3 検出ヘッド
4 鋼管
11 U字型コア
12 励磁コイル
Claims (4)
- 圧縮残留応力が付与されている鋼管を診断対象とし、励磁ヘッドと検出ヘッドとを備えて構成される磁気ヘッドを用いて、前記励磁ヘッドにより鋼管の測定部位を交流励磁し、前記検出ヘッドに誘起される電圧信号を周波数分離してバルクハウゼンノイズを検出する応力診断方法であって、
鋼管表面の周方向に複数の所定の測定部位を設定し、鋼管の管軸中心線を含み鋼管表面の所定の測定部位と交わる平面を想定し、前記各平面のうちの一枚を基準面として、各測定部位を前記基準面と各測定部位を含む平面とのなす角度で表示し、それらの角度とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係から、互いの位置がほぼ180°の角度の間隔を保ち、且つ、バルクハウゼンノイズの実効値電圧がそれぞれ極小値又は最小値をとっている2つの測定部位を求め、それら2つの測定部位のほぼ中央の角度に位置している測定部位のバルクハウゼンノイズの実効値電圧の最大値を求め、前記実効値電圧の最大値から、同一部材を使って予め求めておいた外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係を表している検量線を用いて、軸方向の最大引っ張り応力値を求めることを特徴とする鋼管の応力診断方法。 - 現場設置前の鋼管表面の周囲に渡って、面内方向に圧縮残留応力を付与することによって鋼管表面の周囲に渡るバルクハウゼンノイズの実効値電圧を均一にした鋼管を用いることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の応力診断方法。
- 残留応力が測定面内において等方的に分布している鋼管を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管の応力診断方法。
- バルクハウゼンノイズの検出深さをdとした場合、圧縮残留応力を測定部位の表面から少なくとも0.5dの深さまで付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管の応力診断方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP04181099A JP4128297B2 (ja) | 1999-02-19 | 1999-02-19 | 鋼管の応力診断方法 |
Applications Claiming Priority (1)
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