JP4128294B2 - 応力診断方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼材などの強磁性体から発生するバルクハウゼンノイズを利用して、鋼材に作用している外部応力を非破壊的に診断する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビル、橋梁などの建築物の部材、また、クレ―ンなどの機器の部材に作用している応力は通常、絶えず変化しており、安全上それらの応力変化を測定する必要が生じる場合がある。通常、前記した部材は強磁性体である鋼材であることから、その鋼材の磁気的性質から応力を診断する技術が従来から提案されている。
【0003】
例えば、測定領域の直交する方向の透磁率を電圧信号として検出して応力値に換算する方法(特開昭48-33885号公報、特開昭49-25994号公報)、また、磁気回路を工夫して直交する透磁率の差を直接に電圧信号として検出し、その信号の大きさから応力を求める方法(特開昭60-17330号公報、特開昭60-243526号公報)、応力が負荷されたときの保磁力の変化を検出する方法(特開昭50-159787号公報)、バルクハウゼンノイズとアコ−スティックエミッションの両方を用いて応力または疲労変形を検査する方法(特開昭59-112257号公報)、被測定物の上に種類の異なる強磁性層を2層形成し、各層で生じる大バルクハウゼンノイズの発生時間差を検出して応力、温度を検知する方法(特開昭61-258161号公報)、渦電流から応力と欠陥の二次元分布を測定する方法(特開昭63-81262号公報)、保磁力とバルクハウゼンノイズを同時に測定して硬度と応力を検出する方法(特開昭63-279185号公報)、レ−ルを局部的に熱処理して球状化セメンタイト組織にした部位、または、それと同じ組織を有する小片をレ−ルに貼り付けた部位からの磁気信号を検出して応力を求める方法(特開平7-280669号公報)、等が開示されている。
【0004】
これらは全て鋼材の磁気的性質が、結晶粒径や析出物などの組織や応力に応じて変化することを利用したものである。応力に関して見れば、全てに共通している検出対象の応力範囲は弾性領域内のものである。このことは、前記明細書中には”弾性領域内の応力”という限定された記述はほとんど無いが、実施例の応力範囲が弾性領域であること、また、実施例の対象物がレ−ル等の実際の使用状態では弾性領域内にあるもの、さらに、明細書中に塑性領域でも測定できるとの明記が全くないことからも明らかである。また、疲労診断では、鋼材は塑性領域に入っているが、この場合の検出対象は応力ではなく、組織の損傷度合いである。
【0005】
鋼材を使った建築物などは、特殊な場合を除き、弾性範囲内で設計される。従って、それらの部材に降伏応力以上の応力が作用して、塑性領域に入ってしまっているならば、大変危険な状態にあることになる。しかしながら従来では、バルクハウゼンノイズなどの磁気信号を使って、降伏応力以上の応力を診断する方法は世の中にはなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上の如く、従来は、鋼材などに作用している応力を磁気信号を用いて診断する場合、降伏応力以上の応力範囲まで測定できる方法はなかった。
【0007】
本発明は、鋼材のバルクハウゼンノイズの測定部位の残留応力状態を予め制御することによって、弾性領域のみならず、降伏点を越えた塑性領域にある応力の測定までも可能にする方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨とするところは、下記の通りである。
【0009】
(1)励磁ヘッドと検出ヘッドから構成される磁気ヘッドを用いて鋼材を交流励磁し、検出ヘッドに誘起される電圧信号を周波数分離してバルクハウゼンノイズを検出し、このバルクハウゼンノイズの電圧値から鋼材に負荷されている外部応力を診断する方法であって、前記鋼材のバルクハウゼンノイズ検出部位の一部を塑性変形させて残留応力を付与し、前記残留応力が付与された領域を含む部位から発生する、外部応力に依存したバルクハウゼンノイズを検出することによって、応力又は歪みとバルクハウゼンノイズの直線相関が成り立つ応力範囲を広げ、診断可能な外部応力範囲を増大させることを特徴とする応力診断方法。
【0010】
(2)引っ張り降伏応力がσtyである鋼材のバルクハウゼンノイズ測定部位に−σr(σr>0)の圧縮残留応力を測定面内方向に付与させることによって、0≦F≦σr+σtyの範囲の外部応力Fの診断を可能にすることを特徴とする前項1記載の応力診断方法。
【0011】
(3)圧縮降伏応力が−σcy(σcy>0)である鋼材のバルクハウゼンノイズ測定部位にσr(>0)の引っ張り残留応力を測定面内方向に付与させることによって、−(σr+σcy)≦F≦0の範囲の外部応力Fの診断を可能にすることを特徴とする前項1記載の応力診断方法。
【0012】
(4)残留応力が測定面内において等方的に分布していることを特徴とする前項1〜3のいずれか1項に記載の応力診断方法。
【0013】
(5)バルクハウゼンノイズの検出深さをdとした場合、圧縮残留応力あるいは引っ張り残留応力を測定部位の表面から少なくとも0.5dの深さまで付与することを特徴とする前項1〜3のいずれか1項に記載の応力診断方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
鋼材のバルクハウゼンノイズは、外部応力および結晶粒径、析出物や転位等の組織に応じて変化するため、外部応力を診断するためには組織を変化させないことが必須であった。すなわち、鋼材に外部応力が作用しても、それが弾性範囲内にあるときには、組織変化がないためバルクハウゼンノイズは応力のみに依存し、かつ、応力に対して可逆的に変化する。しかし、鋼材に降伏応力以上の外部応力が作用し、それが塑性領域に入ってしまうと転位の増殖や結晶回転などが起こり組織が変わってしまうため、もはや外部応力のみを診断をすることが不可能になってしまう。
【0015】
本発明者らは、測定部位の残留応力の初期状態を制御することによって、外部応力の大きさが降伏応力より大きくなった場合においても組織変化をほとんど生じさせなくすることを可能にし、さらに、そのような状態において、応力とバルクハウゼンノイズの関係を詳細に調べた結果、本発明に至ったものである。
【0016】
図1(a)、(b)、(c)は通常の鋼材における応力(σ)対歪み(ε)曲線である。(a)は外部応力が降伏応力以下の弾性領域の場合であり、応力対歪み曲線上ではほとんど可逆的に変化する。σ/εがヤング率Eである。(b)は引っ張り降伏応力σty以上の大きさの外部引っ張り応力が負荷された場合、(c)は圧縮降伏応力−σcy以上の大きさの外部圧縮応力が負荷された場合である。(b)および(c)では塑性領域に入っている。通常、σtyとσcy、および、εtyとεcyはほぼ同じ値である。
【0017】
本発明者らは、弾性領域から塑性領域に至るまで、さらに、塑性領域においては種々の歪みの大きさまで塑性変形させた場合における応力あるいは歪みとバルクハウゼンノイズの大きさの関係を詳細に測定した。その結果、一端、圧縮側あるいは引っ張り側まで塑性変形させて、残留応力を付与させた状態の試料に引っ張り応力あるいは圧縮応力を新たに負荷した場合には、応力あるいは歪みとバルクハウゼンノイズの直線相関が成り立つ応力範囲が残留応力が無い場合に比べて格段に向上することを見出した。
【0018】
以下、具体的に図を用いて説明する。図2(a)は原点Oにある試料に降伏点Fを越える圧縮応力を加えて点Gに達した後に除荷し、点Hの状態にある場合、すなわち、−σrの圧縮残留応力の状態にある場合を示している。これに引っ張り応力を負荷し、応力と歪みの関係が点Iから点Jを通っていく場合におけるバルクハウゼンノイズの変化率の典型的な例を図3(a)および(b)に示す。
【0019】
ここで、バルクハウゼンノイズの大きさは実効値電圧で評価し、その変化率は、点Hにある場合のバルクハウゼンノイズの実効値電圧を基準にした。図3(a)からわかるようにバルクハウゼンノイズはσr+σty'の範囲で直線相関を示した。実際には、σty'≒σtyであった。したがって、この関係を検量線として用いることによって、引っ張り応力Fを0≦F≦σr+σtyの範囲で診断することができる。図3(b)には横軸に歪みをとった場合である。この関係から歪みεも0≦ε≦εIH+εty'の範囲で診断することができる。
【0020】
ここで、εty'≒εtyである。この直線相関の範囲ではバルクハウゼンノイズは、応力あるいは歪みに対して可逆的に変化する。これは、試料が塑性領域にある場合でも、図2(a)に示すように点Gと点Jの間ではσ/ε=Eがほぼ成り立つからである。図2(a)において、点Hが点Gの状態になるように残留応力を制御することによって、すなわち、残留応力−σrをほぼ−σcyに制御することによって、図3(a)および(b)に示した検量線の直線相関の範囲をさらに広げることが可能になる。
【0021】
図2(b)は、(a)の場合と同様に試料に圧縮応力を加えていった場合の応力と歪みの変化を示している。両者の相異点は、点G'の最大圧縮歪みを(a)の点Gよりも小さくしたことであるが、点H'における圧縮残留応力は点Hと同じ値になるように制御した。点H'から点I'、さらに点J'を越えるところまで引っ張り応力を負荷していった場合のバルクハウゼンノイズの変化率を測定したが、図3(a)および(b)に示した場合と同様であった。図2および図3は、与える歪み量が異なっても同じ大きさの圧縮残留応力を付与さえすれば、同じ検量線が得られることを示している。このことは、実際に圧縮残留応力を付与する場合、歪みの制御範囲に裕度ができることを示しており、その制御が容易であることがわかる。
【0022】
残留応力が制御されていない通常の試料に引っ張り応力を負荷していった場合のバルクハウゼンノイズの変化率を調べたが、その変化率が応力あるいは歪みと直線相関を示す範囲、および、直線の傾きで表される感度は圧縮残留応力がある場合に比べて著しく低くなることが明らかになった。この場合の典型的な例を図4に示した。
【0023】
図5(a)は原点Oにある試料に降伏点Aを越える引っ張り応力を加えて点Bに達した後に除荷し、点Cの状態にある場合、すなわち、σrの引っ張り残留応力の状態にある場合を示している。これに圧縮応力を負荷し、応力と歪みの関係が点Dから点Eを通っていく場合におけるバルクハウゼンノイズの変化率の典型的な例を図6(a)および(b)に示す。ここで、バルクハウゼンノイズの大きさは図3の場合と同様に評価した。ただし、点Cにある場合のバルクハウゼンノイズの実効値電圧を基準にした。図6(a)からわかるようにバルクハウゼンノイズは−(σr+σcy')の範囲で直線相関を示した。実際には、σcy'≒σcyであった。したがって、この関係を検量線として用いることによって、圧縮応力Fを−(σr+σcy)≦F≦0の範囲で診断することができる。
【0024】
図6(b)は横軸に歪みをとった場合である。この関係から歪みεも−(εCD+εcy')≦ε≦0の範囲で診断することができる。ここで、εcy'≒εcyである。この直線相関の範囲ではバルクハウゼンノイズは、応力あるいは歪みに対して可逆的に変化する。これは、試料が塑性領域にある場合でも、図5(a)に示すように点Bと点Eの間ではσ/ε=Eがほぼ成り立つからである。図5(a)において、点Cが点Bの状態になるように残留応力を制御することによって、すなわち、残留応力σrをほぼσtyに制御することによって、図6(a)および(b)に示した検量線の直線相関の範囲をさらに広げることが可能になる。
【0025】
図5(b)は、(a)の場合と同様に試料に引っ張り応力を加えていった場合の応力と歪みの変化を示している。両者の相異点は、点B'の最大引っ張り歪みを(a)の点Bよりも小さくしたことであるが、点C'における残留引っ張り応力は点Cと同じ値になるように制御した。点C'から点D'、さらに点E'を越えるところまで圧縮応力を負荷していった場合のバルクハウゼンノイズの変化率を測定したが、図6(a)および(b)に示した場合と同様であった。図5および図6は、図2および図3の場合と同様に引っ張り残留応力を付与する場合の歪みの制御も容易であることを示している。
【0026】
残留応力が制御されていない通常の試料に圧縮応力を負荷していった場合のバルクハウゼンノイズの変化率を調べたが、その変化率が応力あるいは歪みと直線相関を示す範囲、および、直線の傾きで表される感度は引っ張り残留応力がある場合に比べて著しく低くなることが明らかになった。この場合の典型的な例を図7に示した。
【0027】
通常、励磁ヘッドと検出ヘッドから構成される磁気ヘッドを試料表面の測定部位にあてて、その部位のバルクハウゼンノイズを検出するが、制御された残留応力を与える部位は、少なくともこのバルクハウゼンノイズの検出領域に入っていればよい。バルクハウゼンノイズを測定する試料表面近傍においては、試料に負荷される引っ張りまたは圧縮の外部応力はほぼ試料表面の面内方向であるため、制御された残留応力は試料表面の面内方向に付与することが好ましい。さらに、どの方向から外部応力が負荷されても応力の診断精度が低下しないように、残留応力が面内において等方的に分布していることがより好ましい。
【0028】
以上の結果から、引っ張り降伏応力がσtyである鋼材のバルクハウゼンノイズの測定部位に−σr(σr>0)の圧縮残留応力を測定面内方向に付与させることによって、0≦F≦σr+σtyの範囲の外部応力Fの診断が可能になり、また、圧縮降伏応力が−σcy(σcy>0)である鋼材のバルクハウゼンノイズの測定部位にσr(>0)の引っ張り残留応力を測定面内方向に付与させることによって、−(σr+σcy)≦F≦0の範囲の外部応力Fの診断が可能になる。σrが大きい方が検量線の直線相関範囲が広くなってより大きな外部応力までの診断が可能になる。通常、σrは降伏応力に相当する大きさが上限になるが、転位のすべりを抑制した方法で行えば降伏応力より大きな残留応力の制御も可能になる。
【0029】
試料のより深い部位から発生するバルクハウゼンノイズほど減衰が大きくなるため、検出コイルに発生する電圧は小さくなる。試料表面を基準としてバルクハウゼンノイズが1/eに減衰する深さdをスキンデプス(skin depth)とよび、d=(ρ/πfμ)1/2、ρは電気抵抗、fはバルクハウゼンノイズの検出周波数、μは透磁率で表される。残留応力を付与する深さは、検出深さをdとした場合、少なくとも0.5d以上でなければならない。それが0.5dより浅い場合には、バルクハウゼンノイズと応力あるいは歪みとの関係において、両者の直線相関が成り立つ範囲が低下するからである。
【0030】
残留応力をバルクハウゼンノイズの測定部位に付与する方法は、例えば、エア−ブラスト、ショットブラストなどの小さな鋼球やセラミックス粒子を試料表面に高速で衝突させる方法、スキンパス圧延、サンダ−による研磨、局部的な加熱冷却による方法、等があるが、試料表面に等方的に残留応力を付与するためには、エア−ブラスト、ショットブラストや局部的な加熱冷却が適している。サンダ−による場合でも等方的に研磨することによって残留応力を等方的に付与することが可能である。
【0031】
これらの方法を使った残留応力付与は、被測定物を実際に設置する前、すなわち、外部応力が負荷されていない段階で実施するのが望ましい。この段階で処理すれば設置後の外部応力の絶対値を測定できる。既に設置してあるもので、それに負荷されている外部応力が不明の状態で残留応力を付与すれば、その時点からの外部応力の相対変化がわかる。付与する残留応力を降伏応力に相当する大きさにするのが均一な残留応力を付与し易い点から好ましい。
【0032】
本発明を実際に使う場合には、被測定部材における外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧との関係を示す検量線を予め測定しておき、実際に測定した実効値電圧を応力へ換算する場合に、この検量線を用いればよい。
【0033】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0034】
(実施例1)
降伏応力σtyが24kgf/mm2 の鋼種を用いてバルクハウゼンノイズと外部応力との関係を調べた。測定試料は外径318mm、肉厚6.9mm、長さ6mの鋼管である。ただし、鋼管表面にショットブラスト処理で圧縮残留応力を付与したものと付与しないものを用いた。それぞれの鋼管に曲げ応力を負荷しながらバルクハウゼンノイズを測定し、両者の関係を調べた。なお、鋼管上でのバルクハウゼンノイズの測定は軸方向に最大引っ張り応力が生じる部位で実施した。測定部位に負荷される応力はバルクハウゼンノイズ測定部位に隣接して貼り付けた歪みゲージから求めた。
【0035】
バルクハウゼンノイズの測定は、以下のようにして行った。珪素鋼板を積層したU字型励磁コアに1000タ−ンのエナメル線を巻いた励磁ヘッド、および断面積が2mm×8mmのアクリル製ボビンに500タ−ンのエナメル線を巻いた検出ヘッドからなる磁気ヘッドを各曲げ応力を負荷している状態で試料表面にあててバルクハウゼンノイズの実効値電圧を測定した。励磁方向は鋼管の長手方向である。励磁周波数は100Hz、検出周波数は10kHz〜100kHzである。
【0036】
ショットブラスト処理後の鋼管表面の残留応力の大きさの深さ方向の分布は、表面から板厚方向へ所定厚さだけエッチングした後、X線残留応力測定法によって求めた。その結果、表面から約200μmの深さまで降伏応力と同じ大きさの圧縮残留応力(−σr=−24kgf/mm2 )が面内で等方的に入っていることを確認した。スキンデプス(skin depth)の計算式d=(ρ/πfμ)1/2から求めたバルクハウゼンノイズの検出深さは、約160μmである。
【0037】
図8に測定部位における長手方向の外部引っ張り応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の変化率の関係を示した。ただし、図2に示したように点Gと点Jの間ではσ/ε=Eが成り立つため、歪みから応力を計算できるが、点Jよりも大きな応力範囲ではσ/ε=Eが成り立たないため、歪みから応力を求めることはできない。図8は便宜上、σ/ε=Eの関係を使って計算した値を横軸に使ったが、歪みから応力を計算できない応力範囲を( )付きで示した。図8からわかるように、直線相関が成り立つ範囲は、図中に矢印で示したように、47kgf/mm2 であり、ほぼσr+σty=24+24=48kgf/mm2 の範囲まで応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧は直線相関を示しているのがわかる。この関係を検量線として用いる用いることによって、バルクハウゼンノイズの実効値電圧から外部応力を診断することが可能になる。
【0038】
図9は、ショットブラスト処理なしのものであり、バルクハウゼンノイズの応力依存性が小さく、両者の直線相関もほとんどないことがわかる。
【0039】
以上から、測定面内方向に圧縮残留応力を付与することによって、弾性領域の外部応力みならず、降伏応力以上の外部応力までもが診断可能となる。
【0040】
(実施例2)
降伏応力σtyが45kg/mm2 の鋼種を用いてバルクハウゼンノイズと外部応力との関係を実施例1と同様に調べた。ただし、試料は外径318mm、肉厚7.9mmの鋼管から管軸方向に長さ500mm、管周方向に幅100mmの大きさに切り出した樋状試験材である。鋼管表面にショットブラスト処理で圧縮残留応力を付与したものと付与しないものを用いた。ショットブラスト処理材の圧縮残留応力(−σr)は−34kgf/mm2 であり、測定面内で等方的に、表面から約120μm深さまで入っていた。
【0041】
樋状試験材の外側が張り出すように曲げ応力を負荷した場合における外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を図10に示した。励磁は樋状試験材の長手方向である。図中に矢印で示したように、直線相関が成り立つ範囲は77kgf/mm2 であり、ほぼσr+σty=34+45=79kgf/mm2 の範囲まで外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧は直線相関を示しているのがわかる。この関係を検量線として用いる用いることによって、バルクハウゼンノイズの実効値電圧から外部応力を診断することが可能になる。
【0042】
図11は、ショットブラスト処理なしのものであり、バルクハウゼンノイズの応力依存性が小さく、両者の直線相関もほとんどないことがわかる。
【0043】
以上から、測定面内方向に圧縮残留応力を付与することによって、弾性領域の外部応力みならず、降伏応力以上の外部応力までもが診断可能となる。
【0044】
(実施例3)
断面が10mm×10mmの中炭素鋼(圧縮降伏応力σcy=−30kgf/mm2 )の角棒に表面から約300μmの深さまで脱炭処理を施した後、800℃から水中に焼き入れ処理を行った。この処理によって、角棒内部はマルテンサイトに変態し体積が膨張するが、脱炭した表面はα−Fe単相状態に近いため変態は起こらない。従って、脱炭層には引っ張り残留応力が発生する。実測の結果、角棒試験材の軸方向に15kgf/mm2 の引っ張り残留応力が脱炭層全体にわたって生じていた。軸方向に外部圧縮応力を負荷して、実施例1と同様な測定を行った。
【0045】
その結果、ほぼ−(σr+σcy)=−(15+30)=45kgf/mm2 の範囲まで外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧は直線相関を示しており、この関係を検量線として用いる用いることによって、バルクハウゼンノイズの実効値電圧から外部応力を診断することが可能になる。
【0046】
比較例として、脱炭処理のみを施した試験材、すなわち、残留応力がほとんど生じていないものでは、外部応力とバルクハウゼンノイズの直線相関が成り立つ応力範囲が、引っ張り残留応力がある場合に比べて半分以下であった。
【0047】
(実施例4)
バルクハウゼンノイズの検出深さをd、残留応力の存在深さをDとした場合、D/dが変化した時に外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の直線相関が成り立つ範囲を調べた。実際には、バルクハウゼンノイズの検出深さdを一定として、ショットブラスト条件を変えることによって、Dを変えた。バルクハウゼンノイズの測定法および残留応力の測定法は実施例1と同様である。なお、ショットブラスト条件を変えると残留応力の存在深さDとともに残留応力の大きさσrも同時に変わってしまうため、直線相関が成り立つ応力範囲の評価は、実測した直線相関範囲をσlinerとした場合、σliner/(σr+σty)で評価した。これは、直線相関が成り立つ応力範囲は最大で(σr+σty)であり、このσliner/(σr+σty)が大きい方が直線相関が成り立つ範囲が広いことを意味する。
結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
以上からわかるように、バルクハウゼンノイズの検出深さをdとした場合、残留応力を測定部位の表面から少なくとも0.5dの深さまで付与することによって、外部応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の直線相関がより広い応力範囲まで成り立つことがわかる。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼材のバルクハウゼンノイズの測定部位の残留応力状態を予め制御することによって、弾性範囲の応力のみならず、降伏応力を越えた塑性範囲にある応力の診断までもが可能になる。本発明を用いて、ビル、橋梁、鋼管などの応力診断を実施することによって、従来は診断できなかった高い応力範囲まで診断可能となり、管理精度が向上する。
【0051】
【図面の簡単な説明】
【図1】一般鋼材の応力と歪みの関係を表す特性図である。
【図2】本発明によるバルクハウゼンノイズ測定部位の応力と歪みの関係を表す特性図である。
【図3】圧縮残留応力を付与した場合における応力又は歪みとバルクハウゼンノイズの実効値電圧の変化率を表す特性図である。
【図4】残留応力を付与しない場合における応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の変化率を表す特性図である(比較例)。
【図5】本発明によるバルクハウゼンノイズ測定部位の応力と歪みの関係を表す特性図である。
【図6】引っ張り残留応力を付与した場合における応力あるいは歪みとバルクハウゼンノイズの実効値電圧の変化率を表す特性図である。
【図7】残留応力を付与しない場合における応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の変化率を表す特性図である(比較例)。
【図8】外部引っ張り応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を表す特性図である。
【図9】外部引っ張り応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を表す特性図である(比較例)。
【図10】外部引っ張り応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を表す特性図である。
【図11】外部引っ張り応力とバルクハウゼンノイズの実効値電圧の関係を表す特性図である(比較例)。
Claims (5)
- 励磁ヘッドと検出ヘッドから構成される磁気ヘッドを用いて鋼材を交流励磁し、検出ヘッドに誘起される電圧信号を周波数分離してバルクハウゼンノイズを検出し、このバルクハウゼンノイズの電圧値から鋼材に負荷されている外部応力を診断する方法であって、
前記鋼材のバルクハウゼンノイズ検出部位の一部を塑性変形させて残留応力を付与し、前記残留応力が付与された領域を含む部位から発生する、外部応力に依存したバルクハウゼンノイズを検出することによって、応力又は歪みとバルクハウゼンノイズの直線相関が成り立つ応力範囲を広げ、診断可能な外部応力範囲を増大させることを特徴とする応力診断方法。 - 引っ張り降伏応力がσtyである鋼材のバルクハウゼンノイズ測定部位に−σr(σr>0)の圧縮残留応力を測定面内方向に付与させることによって、0≦F≦σr+σtyの範囲の外部応力Fの診断を可能にすることを特徴とする請求項1に記載の応力診断方法。
- 圧縮降伏応力が−σcy(σcy>0)である鋼材のバルクハウゼンノイズ測定部位にσr(>0)の引っ張り残留応力を測定面内方向に付与させることによって、−(σr+σcy)≦F≦0の範囲の外部応力Fの診断を可能にすることを特徴とする請求項1に記載の応力診断方法。
- 残留応力が測定面内において等方的に分布していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の応力診断方法。
- バルクハウゼンノイズの検出深さをdとした場合、圧縮残留応力又は引っ張り残留応力を測定部位の表面から少なくとも0.5dの深さまで付与することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の応力診断方法。
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JP02293099A JP4128294B2 (ja) | 1999-01-29 | 1999-01-29 | 応力診断方法 |
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Publications (2)
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