本発明は、希土類金属合金層と、遷移金属合金層と、反強磁性合金層から構成され、高飽和磁束密度で常温(25℃)で使用するのには問題ない高さのキュリー温度を有する、軟磁性的強磁性積層薄膜の構造に関する。
現在、希土類金属合金は永久磁石(硬磁性材料)として実用化されており、例えば、Nd2Fe14B1組成のいわゆるネオジ鉄永久磁石と、Sm2Co17組成のいわゆるサマコバ永久磁石は、モータ等用の永久磁石としてもっともよく使われている。一方、飽和磁束密度が最も大きい軟強磁性的希土類金属合金では、その代表としてGd金属とGdZn合金が上げられる。ここで、表1に、バルク材における、Gd金属と、GdZn合金と、パーマロイ組成のNi80Fe20合金と、Co金属の格子定数と、磁性原子の1原子当たりの平均磁気モーメントと、キュリー温度を示す。なお、それぞれは六方最蜜構造、CsCl型の体心立方格子、面心立方格子、六方最蜜構造の結晶構造を有する。
表1により、前記Gd金属とGdZn合金のキュリー温度は、それぞれ、289K(16℃)、270K(−3℃)であり、Gd原子1個当たりの磁気モーメントは、それぞれ、7.55MB(MBはボーア磁子)、6.7MBであって、一方、高透磁率を有する軟強磁性遷移金属合金であるNi元素が80%のパーマロイ組成のNi80Fe20合金は、モータ等のヨーク材や巨大磁気抵抗効果(giant magnetoresistance effect GMR)素子やトンネル接合による磁気抵抗効果(tunnel magnetoresistance effect TMR)素子を構成する磁性層薄膜に多用され、また、適度な大きさの磁気異方性を有するCo金属は、トンネルによる磁気抵抗効果素子の磁性層に使われており、それぞれの1原子当たりの平均磁気モーメントは0.92MBと1.7MBであって、前記Gd金属とGdZn合金の1原子当たりの磁気モーメント7.55MB、6.7MBにくらべて、それぞれ、約1/8〜1/7と1/5〜1/4とかなり小さいが、一方、キュリー温度では、例えば、パーマロイ組成のFe80Ni20合金では733K(460℃)と前記Gd金属とGdZn合金のキュリー温度289K、270Kにくらべて444K、463Kも高くなっている。
図8は従来の金属積層薄膜断面構成図であって、特許文献1に示すように、金属積層薄膜80は、Fe金属層811(層厚15Å)とGd金属層812(層厚5Å)を交互に12層(層厚125Å)積層した遷移金属層81と、Gd金属層821(層厚15Å)とFe金属層822(層厚5Å)を交互に12層(層厚125Å)積層した希土類金属層82(層厚125Å)から構成される長周期層800(層厚250Å)を12層(3000Å)積層した金属積層薄膜である。該Fe金属層811とGd金属層812はその界面8112を介して反強磁性的に交換相互作用し、また、同様に、Gd金属層821とFe金属層822はその界面8212を介して反強磁性的に交換相互作用し、Fe金属層811とGd金属層812はその界面8112を介してフェリ磁性的に磁気結合し、同様に、Gd金属層821とFe金属層822はその界面8212を介してフェリ磁性的に磁気結合して、金属積層薄膜80は、各金属層のGd原子の磁気モーメントとFe原子の磁気モーメントが1/3ほどに相殺するフェリ磁性になっている。
図9は従来のGMRヘッド用のスピンバルブ膜の主要膜断面構成図であって、非特許文献6に示すように、該スピンバルブ膜の主要膜90は、基板900の平面方向901に垂直な方向902に沿ってPtMn合金層91、Co90Fe10合金層92、Ru金属層93、Co90Fe10合金層94、Ni80Fe20合金層95、Cu金属層96、Ni80Fe20合金層97、Ta金属層98が形成され、自由磁性層には、パーマロイ組成のパーマロイ(Ni80Fe20合金)層97が使われ、固定磁性層には、Cu金属の導体層96を挟んで、パーマロイ組成のパーマロイ(Ni80Fe2095合金)層と、Ru金属層93を挟んでCo90Fe10合金層92、94と反強磁性PtMn合金層91が使われている。
図10は従来のTMR膜の断面構成図であって、非特許文献7に示すように、該TMR膜100は、基板1000の基板面内方向1001に垂直な方向1002に沿ってNiFe合金層111、Al2O3層112、Cu金属層113、Co金属層114が形成され、磁性層にパーマロイ組成のNiFe合金層111とCo金属層114が使われている。
特公平7−93467
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前述のように、Gd金属、GdZn合金の1原子当たりの磁気モーメントはNi80Fe20合金やCo金属のそれの約7〜8倍あるいは4〜5倍になるにもかかわらず、そのキュリー温度はそれぞれ、16℃、−3℃と常温(25℃)にも達せず、それを電子機器に組み込めたとしても、われわれが通常の生活で電子機器を使用する温度範囲では、高飽和磁束密度という、その優れた磁気特性を使うことができないという問題があった。前記パーマロイと同等の高透磁率を有し、または、前記Co金属と同等の磁気異方性を有し、より高い飽和磁束密度で常温(25℃)で使用するのには問題ない高さのキュリー温度を有する強磁性金属合金の探索は行われているが、まだ見つかっていないという現状にある。次に、Gd金属層とFe金属層を積層した図8の従来の金属積層薄膜80について説明する。
特許文献1が示すように、金属積層薄膜80のGd金属層812あるいは821のキュリー温度は、該金属積層薄膜80の磁化の補償温度が330Kになることから330K(57℃)と求められ、常温での使用において問題とならないキュリー温度にはもう少し届かないという現状にあり、また、その飽和磁化はフェリ磁性のために大きくならないという問題がある。そこで、その問題を解決すべく、以下に示す手段によって高飽和磁束密度で常温(25℃)で使用するのには問題ない高さのキュリー温度を有する軟磁性的強磁性積層薄膜を発明した。
巨大磁気抵抗効果を有する金属積層薄膜の自由磁性層または固定磁性層あるいはトンネル接合による磁気抵抗効果を有する金属絶縁体積層薄膜の磁性層に使用する希土類金属合金層を有する強磁性積層薄膜において、
第1の強磁性積層薄膜は、
Ni元素が80%付近からなる組成のパーマロイ合金層の強磁性遷移金属合金層と、該強磁性遷移金属合金層との界面で強磁性的に交換相互作用する、Mn元素を主成分とする反強磁性合金層と、該反強磁性合金層との界面で反強磁性的に交換相互作用する、キュリー温度が室温(25℃)より低いGdZn合金層の強磁性希土類金属合金層と、該強磁性希土類金属合金層との界面で反強磁性的に交換相互作用する、Mn元素を主成分とする反強磁性合金層と、該反強磁性合金層との界面で強磁性的に交換相互作用する、Ni元素が80%付近からなる組成のパーマロイ合金層の強磁性遷移金属合金層が順次積層した薄膜または前者4層からなる1周期の積層を単位積層として該単位積層を多層に積層し、最後に前記強磁性遷移金属合金層を積層した、キュリー温度が室温(25℃)より高い薄膜であって、
第2の強磁性積層薄膜は、
Co元素が70%以上からなる組成のコバルト合金層の強磁性遷移金属合金層と、該強磁性遷移金属合金層との界面で強磁性的に交換相互作用する、Mn元素を主成分とする反強磁性合金層と、該反強磁性合金層との界面で反強磁性的に交換相互作用する、キュリー温度が室温(25℃)より低いGd金属層の強磁性希土類金属層と、該強磁性希土類金属層との界面で反強磁性的に交換相互作用する、Mn元素を主成分とする反強磁性合金層と、該反強磁性合金層との界面で強磁性的に交換相互作用する、Co元素が70%以上からなる組成のコバルト合金層の強磁性遷移金属合金層が順次積層した薄膜または前者4層からなる1周期の積層を単位積層として該単位積層を多層に積層し、最後に前記強磁性遷移金属合金層を積層した、キュリー温度が室温(25℃)より高い薄膜であって、
第1の強磁性積層薄膜を、第1の強磁性積層薄膜層として、
第2の強磁性積層薄膜を、第2の強磁性積層薄膜層として使用し、
前記自由磁性層に第1の強磁性積層薄膜層が形成され、
前記固定磁性層に第1の強磁性積層薄膜層あるいは第2の強磁性積層薄膜層が積層され、
前記磁性層に第1の強磁性積層薄膜層あるいは第2の強磁性積層薄膜層が形成される。
前記強磁性遷移金属合金層は3原子層、前記、Mn元素を主成分とする反強磁性合金層は2原子層、
前記強磁性希土類金属合金層あるいは強磁性希土類金属層は7原子層からなる。
現在ある巨大磁気抵抗効果素子あるいはトンネル接合による磁気抵抗効果素子の磁場に対する磁気抵抗変化と同等レベルの高性能な巨大磁気抵抗効果素子あるいはトンネル接合による磁気抵抗効果素子を提供できる効果がある。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳述する。
図1に本発明の第1の強磁性積層薄膜の断面構成図を示す。該強磁性積層薄膜10は、パーマロイ(Ni80Fe20合金)層1と、該パーマロイ層1と界面12を介して積層する反強磁性合金(Mn82Ni18合金)層2と、該反強磁性合金層2と界面23を介して積層するGdZn合金層3と、該GdZn合金層3と界面34を介して積層する反強磁性合金(Mn82Ni18合金)層4の1周期の積層101を単位積層として、基板(基板省略)面内方向102に垂直な方向103に沿ってその単位積層を多層に積層し、最後にパーマロイ層5を積層した薄膜であって、図1では1周期の積層101とそれに積層するパーマロイ層5のみを拡大して示しており、その各層は、図2の本発明の第1の強磁性積層薄膜の原子配置の断面構成図で示すように、原子レベルで積層を制御できる分子ビームエピタキシ(MBE)法を用いて、パーマロイ層1から順に、3原子層(1.5格子分とする)、2原子層(1格子分とする)、7原子層(3.5格子分とする)、2原子層(1格子分とする)、3原子層(1.5格子分とする)積層し形成される。
非特許文献2で発表されている実験結果に基づいて、前記パーマロイ層1、5と、前記反強磁性合金層2と4はその界面12、45で強磁性的に交換相互作用し、一方、非特許文献3によると、GdZn合金中の不純物Mn、Ni原子の磁気モーメントは−3.25MB、0MB(温度が4.2Kでの数値であるが、0Kでもほぼ同じ数値となる)であることから、前記反強磁性合金層2と4と、GdZn合金層3はその界面23、34においても反強磁性的に交換相互作用し、その結果、前記パーマロイ層1、5とGdZn合金層3は、前記反強磁性合金層2と4を介して強磁性的に交換相互作用する。以下、図1と図2を使って、まず、前記パーマロイ層1と前記反強磁性合金層2の界面12を介する強磁性的交換相互作用をさらに詳しく説明する。なお、図2で各層を構成する原子は基板面内方向102と垂直な方向103の両方向に等間隔で整然と配置され、また、各層の界面を境にして隣の層に入り込んでいないが、現実の積層薄膜は、その結晶方位によって原子の配置は等間隔からはずれ、また、その界面の各層の原子はお互いに隣の層に1〜2原子層ほど入り込んでいる。しかしながら、図2は図が見易いよう描いてあるだけで、以下の説明の本質において問題とはならない。
前記パーマロイ層1内では、1層目の原子1a、2層目の原子1b、3層目の原子1cは、お互いに強磁性的に交換相互作用し、各原子は方向102を有する磁気モーメント1mを持ち、一方、反強磁性合金層2内では、Mn原子またはNi原子からなる1層目の原子2aはお互いに強磁性的に交換相互作用し、2層目の原子2bはお互いに強磁性的に交換相互作用し、1層目の原子2aと2層目の原子2bは反強磁性的に交換相互作用して、1層目の原子2aは方向102を有する磁気モーメント2maを持ち、2層目の原子2bは方向102と反対方向を有する磁気モーメント2mbを持ち、さらに、界面12を介して、パーマロイ層1内の3層目の原子1cは、反強磁性合金層2内の1層目の原子2aと強磁性的に交換相互作用するので、パーマロイ層1の方向102を有する磁気モーメント1mは、反強磁性合金層2内の磁気モーメント2maと平行に、磁気モーメント2mbと反平行になる。
次に、前記反強磁性合金層2とGdZn合金層3の界面23を介する反強磁性的交換相互作用を説明する。まず、GdZn合金層3のGd原子はお互いに強磁性的に交換相互作用し、図2に示すGdZn合金層3の界面23から順にGd原子3aから3dは、方向102を有する磁気モーメント3maから3md(磁気モーメントの大きさは、3maから3mdに向かって小さくなる)を持ち、非特許文献3によると、GdZn合金に固溶したMn、Ni原子の磁気モーメントは、Gd原子の磁気モーメント方向に対する符号を含めて、それぞれ、−3.25MB、約0MBであることから、反強磁性合金層2の2層目の原子2bはGdZn合金層3の1層目のGd原子3aあるいは2層目のGd原子3bと界面23を介して反強磁性的に交換相互作用し、前記磁気モーメント3maから3mdは、反強磁性合金層2内の磁気モーメント2maと平行に、磁気モーメント2mbと反平行になる。
次に、GdZn合金層3と反強磁性合金層4との界面34を介する反強磁性的交換相互作用を説明する。該反強磁性的交換相互作用は、前述のGdZn合金層3と反強磁性合金層2との界面23を介する反強磁性的交換相互作用と同様であって、図2に示すGdZn合金層3の界面34から順にGd原子3aから3dは、方向102を有する磁気モーメント3maから3md(磁気モーメントの大きさは、3maから3mdに向かって小さくなる)を持ち、該磁気モーメント3maから3mdは、反強磁性合金層4の方向102を有する磁気モーメント4maと平行に、方向102と反対方向を有する磁気モーメント4mbと反平行になる。
さらに、反強磁性合金層4とパーマロイ層5の界面45を介する強磁性的交換相互作用は、前述の前記反強磁性合金層2とパーマロイ層1の界面12を介する強磁性的交換相互作用と同様であって、パーマロイ層5の方向102を有する磁気モーメント5mは反強磁性合金層4の磁気モーメント4maと平行に、磁気モーメント4mbと反平行になる。
本発明の第1の強磁性積層薄膜10は、前記パーマロイ層1と、GdZn合金層3が前記反強磁性合金層2と4を介して強磁性的に交換相互作用するので、該強磁性積層薄膜10を構成するGdZn合金層3が3.5格子(1原子当たりの平均磁気モーメントは3.35MB(温度が0Kでの数値)で、1格子につき2原子持つ)を持ち、パーマロイ層1と5はそれぞれ、1.5格子(1原子当たりの平均磁気モーメントは0.92MB(温度が0Kでの数値)で、1格子につき4原子持つ)を持ち、前記反強磁性合金層2と4は全体で2格子(平均磁気モーメントは0MBとする)持つとすると、GdZn合金層3と、パーマロイ層1と、反強磁性合金層2と4からなる積層が強磁性積層薄膜10の1周期の積層101、つまり、単位積層となり、この単位積層で平均磁気モーメントをとると、それは1格子当たり4.14MBとなって、パーマロイの1格子当たりの磁気モーメント3.68MBの1.13倍になる。
ここで、GdZn合金層3から構成される強磁性積層薄膜10のキュリー温度がGdZn合金層単体のそれに比べて高くなることを説明する。以下に示す数1は、強磁性体のキュリー温度Tcと該強磁性体を構成する磁性原子間の交換相互作用積分の和の分子場理論による関係式(非特許文献1による)である。そこで、Sは磁性原子のスピンの大きさ、Jijはi番目の磁性原子とj番目の磁性原子間の交換相互作用積分で、kBはボルツマン定数である。
該数1から磁性原子間の交換相互作用積分Jijが大きくなれば、該強磁性体のキュリー温度Tcは上がることがわかる。さらに、該数1を反強磁性層2、4とその界面23、34を介して反強磁性的に交換相互作用もする強磁性GdZn合金層3にも拡張して適用すると、反強磁性層2と4との反強磁性的交換相互作用積分Jijの絶対値は、以下で説明するように、GdZn合金層3内の強磁性的交換相互作用積分Jijに比べて大きくなるから、反強磁性層2と4との反強磁性的交換相互作用積分Jijを含めたJijの和(反強磁性層2と4との反強磁性的交換相互作用積分Jijの和をとるときは符号を逆にとる)は、反強磁性層2と4との反強磁性的交換相互作用積分Jijを含めないJijの和より大きくなるので、該GdZn合金層3のキュリー温度TcをGdZn合金層単体のキュリー温度に比べ大きくできることがわかる。
次に、本発明の第1の強磁性積層薄膜10の磁化とキュリー温度の関係を図3に示す自発磁化の温度変化の理論グラフ(非特許文献1による)を使って説明する。まず、表1により、パーマロイ(Ni80Fe20合金)とGdZn合金の格子定数はそれぞれ、3.55Å、3.60Åなので、1格子当たりの体積はほぼ等しくなり、単位体積当たりの磁気モーメントである磁化と1格子当たりの磁気モーメントは比例する。図3において、横軸の変数は温度T(K)とキュリー温度Tc(K)の比で、縦軸の変数は磁化Mと飽和磁化M0(絶対零度での磁化M)の比であり、カーブ31はGdZn合金に適用でき、カーブ32はパーマロイに適用でき、次に、前記強磁性積層薄膜10が、常温でパーマロイの該磁化の75%と同じ大きさの磁化を持つために必要な、GdZn合金層3のキュリー温度Tcをカーブ31から求める。
パーマロイのキュリー温度Tcは733Kであるから、常温(298K)では、T/Tcは約0.4となって、パーマロイの磁化は、カーブ32からT/Tcが零に比べて、1格子当たりの平均磁気モーメントの比、3.6MB/3.68MBとわずかに小さくなる。強磁性積層薄膜10の1格子当たりの平均磁気モーメントが4.14MBからパーマロイの常温における1格子当たりの平均磁気モーメント、3.6MBの75%、2.7MBになるときの、GdZn合金層3の1原子当たりの磁気モーメントは、3.35MBから1.93MBとなり(なお、説明を分かり易くするために、GdZn合金層3の第1層目から第4層目までそのキュリー温度は等しいとして、各層のGd原子の磁気モーメントはすべて等しいとした)、キュリー温度Tcは、カーブ31でM/Msが1.93MB/3.35MB(=0.58)の時のT/Tcが0.81と求まり、そのTに常温の298Kを代入して、368K(95℃)と求まる。
ここで、図11はFe金属/Gd金属積層薄膜のGd金属層のGd原子の磁気モーメントのGd原子層pに対する変化を示す図であって、非特許文献5による、Fe金属/Gd金属積層薄膜、[Fe(35Å)/Gd(54Å)]15(これは、35Åの厚さのFe金属層と54Åの厚さのGd金属層を積層し、これを積層単位として15層積層した薄膜)の、温度140KにおけるFe金属層とGd金属層の積層界面からのGd原子層p番目(pが1と20がその界面に接するGd原子層を示す)を横軸に、縦軸を各Gd原子層のGd原子の磁気モーメントを示している。同様に、図12は、非特許文献5によって作成した、Fe金属/Gd金属積層薄膜における積層界面付近のGd原子層(p=1〜6)のGd原子の磁気モーメントの温度変化図であって、Gd原子層p6におけるGd原子の磁気モーメントμの温度変化をみると、300K付近でほぼその磁気モーメントは消失することから、そのキュリー温度は約300Kであることがわかり、Gd原子層p1からp5のキュリー温度はさらに高いことが読み取れる。また、図11に示すGd原子層10付近ではGd原子の磁気モーメントの変化はなく、このGd原子層のGd原子はFe金属層の反強磁性的交換相互作用の影響を受けていないことがわかる。非特許文献5によると、Gd原子層p10付近ではそのキュリー温度は、表1に示すバルク材におけるGd金属のキュリー温度272Kより58K低い214Kであって、図12に示すGd原子層p4のキュリー温度は400Kであるとすると、Fe金属層の反強磁性的交換相互作用の影響で186K高くなっていることがわかる。
また、非特許文献4によると、Gd金属中の不純物Fe原子の核の位置での内部磁場とGdZn合金中の不純物Fe原子のそれはほぼ等しく、Gd金属とGdZn合金で、Gd原子とFe原子の交換相互作用は変わらないと考えられるので、Gd金属層とFe金属層の界面におけるGd原子とFe原子の反強磁性的交換相互作用積分J2GdFeは、GdZn合金層とFe金属層の界面におけるGd原子とFe原子の反強磁性的交換相互作用積分J1GdFeにも適用できる。
次に、非特許文献1により、金属中の不純物原子の磁気モーメントを説明するアンダーゾン理論を使ってGd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分J1GdFeとGd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分J1GdMnの相対的大きさの評価を行う。バーチャルバウンドステートのアンダーソン理論により、GdZn合金の不純物Fe原子に対して、バーチャルバウンドステートのエネルギー幅w1Feを表す数2と電子間の交換相互作用エネルギーU1Feを表す数3が得られる。そこで、n1Fe+はプラススピンの電子数、n1Fe−はマイナススピンの電子数、EdはFe原子の3d軌道のエネルギー、eFはフェルミエネルギー、Hsd1Feは伝導電子の軌道であるs軌道と3d軌道間の非対角項、gは伝導電子の状態密度である。
同様に、GdZn合金の不純物Mn原子に対してバーチャルバウンドステートのエネルギー幅w1Mnを表す数4と電子間の交換相互作用エネルギーU1Mnを表す数5が得られる。そこで、n1Mn+はプラススピンの電子数、n1Mn−はマイナススピンの電子数、Edは前記3d軌道のエネルギーEdと同じと近似し、eFは前記フェルミエネルギーeFと同じと近似し、w1Mnはバーチャルバウンドステートのエネルギー幅、Hsd1Mnは伝導電子の軌道であるs軌道と3d軌道間の非対角項、gは前記伝導電子の状態密度gと同じと近似する。
Gd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分を評価するため、数2において、非特許文献3によると、GdZn合金中の不純物Fe原子の磁気モーメントは−1.2MBであるので、3d電子の個数が6個であることを考慮して、n1Fe+に0.6、n1Fe−に0.4を代入して、エネルギー幅w1Feが0.6(eF−Ed)と得られ、数3から、電子間の交換相互作用エネルギーU1Feが、2.0(eF−Ed)と得られる。
同様に、Gd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分を評価するため、数4において、非特許文献3によると、GdZn合金中の不純物Mn原子の磁気モーメントは−3.25MBであるので、3d電子の個数が5個であることを考慮して、n1Mn+に0.825、n1Mn−に0.175を代入して、エネルギー幅w1Mnが0.4(eF−Ed)と得られ、数5から、電子間の交換相互作用エネルギーU1Mnが、2.0(eF−Ed)と得られる。
ここで、Gd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J1GdFe|はHsd12 Fe/U1Feに比例し、Gd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J1GdMn|はHsd12 Mn/U1Mnに比例するとし、Fe原子とMn原子で、伝導電子の状態密度gが等しいと近似するので、|J1GdFe|はw1Fe/U1Feに比例し、|J1GdMn|はw1Mn/U1Mnに比例する。ただし、Gd原子の伝導電子を介する反強磁性的交換積分への寄与は、Fe原子とMn原子で等しいと近似している。
ここで、GdZn合金層3のキュリー温度の増加の見積もりに、数1に示す、強磁性体のキュリー温度Tcと磁性原子間の交換相互作用積分Jijの和の関係を拡張して適用する。前記Gd原子層p4のキュリー温度の増加温度、186KはGd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J1GdFe|に比例し、同様に、GdZn金属層3の、反強磁性金属Mn82Ni182、4の界面23または34からの4層目の原子層のキュリー温度の増加温度はGd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J1GdMn|に比例するとすれば、|J1GdMn|/|J1GdFe|=0.67にMn原子の割合0.82を考慮して、それを前記186Kに掛けることによって102Kと求まり、そのキュリー温度は図11に示す前記Gd原子層p10付近のキュリー温度214Kに加えて316K(43℃)と求まる。
前述のGdZn合金層3の4層目の原子層のキュリー温度の見積もりはMn原子とFe原子の磁気モーメントがそれぞれ−3.25MB、−1.2MBのときの見積もりであるが、界面のFe原子と反強磁性金属Mn82Ni182、4の界面23または34のMn原子の磁気モーメントは共に−2.2MBに近いことを考慮すると、Mn原子では磁気モーメントが減小することによって、U1Mnは2.0(eF−Ed)で変わらず、W1Mnが0.53(eF−Ed)と増大して、|J1GdMn|は増大し、一方、Fe原子では磁気モーメントが増大することによって、U1Feは2.0(eF−Ed)で変わらず、W1Feが0.55(eF−Ed)と減小して、|J1GdFe|は減小するので、結果的に、|J1GdMn|/|J1GdFe|は0.96とほぼ1になるので、Mn原子の割合0.82のみを考慮するとGdZn合金層3の4層目の原子層のキュリー温度の増加温度は186Kに0.82を掛けて153Kとなり、そのキュリー温度は図11に示す前記Gd原子層p10付近のキュリー温度214Kに加えて367K(94℃)と求まるが、GdZn合金層3の4層目の原子層のキュリー温度はこの367K(94℃)に近いと考えられる。
この4層目の原子層のキュリー温度、367K(94℃)は、強磁性積層薄膜10の磁化がパーマロイの常温での磁化の75%を超えるためにGdZn合金層3に要求される先に求めたキュリー温度368Kとほぼ同じであり、1層目から3層目の原子層のキュリー温度は十分このキュリー温度368Kを超えられるので、常温において、強磁性積層薄膜10の磁化はパーマロイの磁化レベルにはなると考えられる。
上記の実施例1において、GdZn合金層3の原子層の層数を7層にとったのは、8以上の層数であると、一番内部の原子層のキュリー温度が常温で問題となる温度に下がってしまうおそれがあり、一方、6層以下では、磁気抵抗効果の大きさに関係する、強磁性積層薄膜10の磁化の大きさが小さくなってしまうためであり、同様に、パーマロイ層1と5の原子層の層数を3にとったのは、4以上であると強磁性積層薄膜10の磁化の大きさが小さくなってしまい、2以下ではパーマロイ層1と5の面心立方格子からなる結晶構造が成り立たないためであり、同様に、反強磁性層2と4の原子層の層数を2にとったのは、4(3ではパーマロイ層1、5とGdZn合金層3の磁気モーメントがお互いに反平行になってしまうため)以上では、強磁性積層薄膜10の磁化の大きさが小さくなってしまい、1では、反強磁性層2と4の磁気モーメント2maと2mb、また、4maと4mbにからなる反強磁性の磁気構造が成り立たないためである。
図4に本発明の第2の強磁性積層薄膜の断面構成図を示す。該強磁性積層薄膜40は、Co90Fe10合金層41と、該Co90Fe10合金層41と界面412を介して積層する反強磁性合金(Mn75Ir25合金)層42と、該反強磁性合金層42と界面423を介して積層するGd金属層43と、該Gd金属43と界面434を介して積層する反強磁性合金(Mn75Ir25合金)層44の1周期の積層401を単位積層として、基板(基板省略)面内方向402に垂直な方向403に沿ってその単位積層を多層に積層し、最後にCo90Fe10合金層45を積層した薄膜であって、図4では1周期の積層401とそれに積層するCo90Fe10合金層45のみを拡大して示しており、その各層は、図5の本発明の第2の強磁性積層薄膜の原子配置の断面構成図で示すように、原子レベルで積層を制御できる分子ビームエピタキシ(MBE)法を用いて、Co90Fe10合金層41から順に、3原子層(1.5格子分とする)、2原子層(1格子分とする)、7原子層(3.5格子分とする)、2原子層(1格子分とする)、3原子層(1.5格子とする)積層し形成される。
非特許文献8で発表されている実験結果に基づいて、前記Co90Fe10合金層41と、前記反強磁性合金層42と44はその界面412、445で強磁性的に交換相互作用し、一方、非特許文献3と4によると、Gd金属中の不純物Mn、Ir原子の磁気モーメントは−3.27MB、−0.34MB(温度が4.2Kでの数値であるが、0Kでもほぼ同じ数値となる)であることから、前記反強磁性合金層42と44と、Gd金属層43はその界面423、434においても反強磁性的に交換相互作用し、その結果、前記Co90Fe10合金層41と、Gd金属層43は、前記反強磁性合金層42と44を介して強磁性的に交換相互作用する。以下、図4と図5を使って、まず、前記Co90Fe10合金層41と前記反強磁性合金層42の界面412を介する強磁性的交換相互作用をさらに詳しく説明する。なお、図5で各層を構成する原子は基板面内方向402と垂直な方向403の両方向に等間隔で整然と配置され、また、各層の界面を境にして隣の層に入り込んでいないが、現実の積層薄膜は、その結晶方位によって原子の配置は等間隔からはずれ、また、その界面の各層の原子はお互いに隣の層に1〜2原子層ほど入り込んでいる。しかしながら、図5は図が見易いよう描いてあるだけで、以下の説明の本質において問題とはならない。
前記Co90Fe10合金41内では、1層目の原子41a、2層目の原子41b3層目の原子41cは、お互いに強磁性的に交換相互作用し、各原子は方向402を有する磁気モーメント41mを持ち、一方、反強磁性合金層42内では、Mn原子またはIr原子からなる1層目の原子42aはお互いに強磁性的に交換相互作用し、2層目の原子42bはお互いに強磁性的に交換相互作用し、1層目の原子42aと2層目の原子42bは反強磁性的に交換相互作用して、1層目の原子42aは方向402を有する磁気モーメント42maを持ち、2層目の原子2bは方向402と反対方向を有する磁気モーメント42mbを持ち、さらに、界面412を介して、Co90Fe10合金層41内の3層目の原子41cは、反強磁性合金層42内の1層目の原子42aと強磁性的に交換相互作用するので、Co90Fe10合金層1の方向402を有する磁気モーメント41mは、反強磁性合金層42内の磁気モーメント42maと平行に、磁気モーメント42mbと反平行になる。
次に、前記反強磁性合金層42とGd金属層43の界面423を介する反強磁性的交換相互作用を説明する。まず、Gd金属層43のGd原子はお互いに強磁性的に交換相互作用し、図5に示すGd金属層43の界面423から順にGd原子43aから43dは、方向402を有する磁気モーメント43maから43md(磁気モーメントの大きさは、43maから43mdに向かって小さくなる)を持ち、非特許文献3、4によると、Gd金属に固溶したMn、Ir原子の磁気モーメントは、Gd原子の磁気モーメント方向に対する符号を含めて、それぞれ、−3.27MB、−0.34MBであることから、反強磁性合金層42の2層目の原子42bはGd金属層43の1層目の原子43aと界面423を介して反強磁性的に交換相互作用し、前記磁気モーメント43maから43mdは、反強磁性合金層42内の磁気モーメント42maと平行に、磁気モーメント42mbと反平行になる。
次に、Gd金属層43と反強磁性合金層44との界面434を介する反強磁性的交換相互作用を説明する。該反強磁性的交換相互作用は、前述のGd金属層43と反強磁性合金層42との界面423を介する反強磁性的交換相互作用と同様であって、図5に示すGd金属層43の界面434から順にGd原子43aから43dは、方向102を有する磁気モーメント43maから43md(磁気モーメントの大きさは、43maから43mdに向かって小さくなる)を持ち、該磁気モーメント43maから43mdは、反強磁性合金層44の磁気モーメント44maと平行に、磁気モーメント44mbと反平行になる。
さらに、反強磁性合金層44とCo90Fe10合金層41の界面445を介する強磁性的交換相互作用は、前述の前記反強磁性合金層42とCo90Fe10合金層41の界面412を介する強磁性的交換相互作用と同様であって、Co90Fe10合金層45の方向402を有する磁気モーメント45mは反強磁性合金層44の磁気モーメント44maと平行に、磁気モーメント44mbと反平行になる。
本発明の第2の強磁性積層薄膜40は、前記Co90Fe10合金層41、45と、Gd金属層43が前記反強磁性合金層42と44を介して強磁性的に交換相互作用するので、該強磁性積層薄膜40を構成するGd金属層43が3.5格子(1原子当たりの平均磁気モーメントは7.55MB(温度が0Kでの数値)で、1格子につき2原子持つ)を持ち、Co90Fe10合金層41と45はそれぞれ、1.5格子(1原子当たりの平均磁気モーメントは1.75MB(温度が0Kでの数値)で、1格子につき2原子持つ)を持ち、前記反強磁性合金層42と44は全体で2格子(平均磁気モーメントは0MBとする)持つとすると、Gd金属層43と、Co90Fe10合金層41と、反強磁性合金層42と44からなる積層が強磁性積層薄膜40の1周期の積層401として、この1周期の積層401、つまり、単位積層で平均磁気モーメントをとると、それは1格子当たり8.3MBとなり、Co90Fe10合金層単体の1格子当たりの磁気モーメント3.5MBの2.37倍になるが、表1により、Co金属(Co90Fe10合金の代わりにCo金属のデータを代用する)とGd金属の格子定数a、cはそれぞれ、2.51Å、4.07Åと3.63Å、5.78Åなので、1格子当たりの体積比は1/2.97となり、強磁性積層薄膜40とCo90Fe10合金層単体の単位体積当たりの磁気モーメントである磁化の比は、その1格子当たりの体積を考慮すると、2.37/2.97(=80%)となり、強磁性積層薄膜40の磁化はCo90Fe10合金層単体の磁化より20%ほど小さくなるが、この程度の磁化の減小は問題となるほどではない。
次に、非特許文献1により、金属中の不純物原子の磁気モーメントを説明するアンダーゾン理論を使ってGd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分J2GdFeとGd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分J2GdMnの相対的大きさの評価を行う。バーチャルバウンドステートのアンダーソン理論により、Gd金属中の不純物Fe原子に対して、バーチャルバウンドステートのエネルギー幅w2Feを表す数6と電子間の交換相互作用エネルギーU2Feを表す数7が得られる。そこで、n2Fe+はプラススピンの電子数、n2Fe−はマイナススピンの電子数、Edは3d軌道のエネルギー、eFはフェルミエネルギー、w2Feはバーチャルバウンドステートのエネルギー幅、Hsd2Feは伝導電子の軌道であるs軌道と3d軌道間の非対角項、gは伝導電子の状態密度である。
同様に、Gd金属中の不純物Mn原子に対してバーチャルバウンドステートのエネルギー幅w2Mnを表す数8と電子間の交換相互作用エネルギーU2Mnを表す数9が得られる。そこで、n2Mn+はプラススピンの電子数、n2Mn−はマイナススピンの電子数、Edは前記3d軌道のエネルギーEdと同じと近似し、eFは前記フェルミエネルギーeFと同じと近似し、w2Mnはバーチャルバウンドステートのエネルギー幅、Hsd2Mnは伝導電子の軌道であるs軌道と3d軌道間の非対角項、gは前記伝導電子の状態密度gと同じと近似する。
Gd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分を評価するため、数6において、非特許文献3によると、Gd金属中の不純物Fe原子の磁気モーメントは−0.91MBであるので、3d電子の個数が6個であることを考慮して、n2Fe+に0.58、n2Fe−に0.42を代入して、エネルギー幅w2Feが0.6(eF−Ed)と得られ、数7から、電子間の交換相互作用エネルギーU2Feが、2.0(eF−Ed)と得られる。
同様に、Gd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分を評価するため、数8において、非特許文献3によると、Gd金属中の不純物Mn原子の磁気モーメントは−3.27MBであるので、3d電子の個数が5個であることを考慮して、n2Mn+に0.827、n2Mn−に0.173を代入して、エネルギー幅w2Mnが0.4(eF−Ed)と得られ、数9から、電子間の交換相互作用エネルギーU2Mnが、2.0(eF−Ed)と得られる。
ここで、Gd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J2GdFe|はHsd22 Fe/U2Feに比例し、Gd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J2GdMn|はHsd22 Mn/U2Mnに比例するとし、Fe原子とMn原子で、伝導電子の状態密度gが等しいと近似するので、|J2GdFe|はw2Fe/U2Feに比例し、|J2GdMn|はw2Mn/U2Mnに比例する。ただし、Gd原子の伝導電子を介する反強磁性的交換積分への寄与は、Fe原子とMn原子で等しいと近似している。
ここで、Gd金属層43のキュリー温度の増加の見積もりに、数1に示す、強磁性体のキュリー温度Tcと磁性原子間の交換相互作用積分Jijの和の関係を拡張して適用する。前記Gd原子層p4のキュリー温度の増加温度、186KはGd原子とFe原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J2GdFe|に比例し、同様に、Gd金属層43の、反強磁性金属Mn75Ir2542、44の界面423または434からの4層目の原子層のキュリー温度の増加温度はGd原子とMn原子間の反強磁性的交換積分の絶対値、|J2GdMn|に比例するとすれば、|J2GdMn|/|J2GdFe|=0.67にMn原子の割合0.75を考慮して、それを前記186Kに掛けることによって93Kと求まり、そのキュリー温度は図11に示す前記Gd原子層p10付近のキュリー温度214Kに加えて307K(34℃)と求まる。
前述のGd金属層43の4層目の原子層のキュリー温度の見積もりはMn原子とFe原子の磁気モーメントがそれぞれ−3.27MB、−0.91MBのときの見積もりであるが、界面のFe原子と反強磁性合金Mn75Ir2542、44の界面423または434のMn原子の磁気モーメントは共に−2.2MBに近いことを考慮すると、Mn原子では磁気モーメントが減小することによって、U2Mnは2.0(eF−Ed)と変わらず、W2Mnは0.53(eF−Ed)と増大して、|J2GdMn|は増大し、一方、Fe原子では磁気モーメントが増大することによって、U2Feは2.0(eF−Ed)と変わらず、W2Feは0.55(eF−Ed)と減小して、|J2GdFe|は減小するので、結果的に、|J2GdMn|/|J2GdFe|は0.96とほぼ1になるので、Mn原子の割合0.75のみを考慮するとGd金属層43の4層目の原子層のキュリー温度の増加温度は186Kに0.75を掛けて140Kとなり、そのキュリー温度は図11に示す前記Gd原子層p10付近のキュリー温度214Kに加えて354K(81℃)と求まり、Gd金属層43の4層目の原子層のキュリー温度はこの354K(81℃)に近いと考えられ、Gd金属層43の1層目から3層目の原子層のキュリー温度はこのキュリー温度354K(81℃)にくらべ高くなるので常温(25℃)で使用するには問題ない高さのキュリー温度である。
上記の実施例2において、Gd金属層43の原子層の層数を7層にとったのは、8以上の層数であると、一番内部の原子層のキュリー温度が常温で問題となる温度に下がってしまうおそれがあり、一方、6層以下では、磁気抵抗効果の大きさに関係する、強磁性積層薄膜10の磁化の大きさが小さくなってしまうためであり、同様に、Co90Fe10合金層41と45の原子層の層数を3にとったのは、4以上であると強磁性積層薄膜10の磁化の大きさが小さくなってしまい、2以下ではCo90Fe10合金層41と45の六方最密構造が成り立たないためであり、同様に、反強磁性合金層42と44の原子層の層数を2にとったのは、4(3ではCo90Fe10合金層41、45とGd金属層43の磁気モーメントがお互いに反平行になってしまうため)以上では、強磁性積層薄膜10の磁化の大きさが小さくなってしまい、1では、反強磁性合金層42と44の磁気モーメント42maと42mb、また、44maと44mbによる反強磁性の磁気構造が成り立たないためである。
次に、本発明の強磁性積層薄膜を利用した、
GMRヘッド用のスピンバルブ膜を説明する。図6は本発明の強磁性積層薄膜を利用した、GMRヘッド用のスピンバルブ膜の主要膜断面構成図であって、図9に示す従来のGMRヘッド用のスピンバルブ膜の主要膜断面構成図のCo90Fe10合金層92、パーマロイ層95、パーマロイ層97の代わりに、それぞれ実施例1と2で説明した図1に示す本発明の第1の強磁性積層薄膜10と図4に示す本発明の第2の強磁性積層薄膜40をそれぞれほぼ同じ膜厚になる第1の強磁性積層薄膜層と第2の強磁性積層薄膜層として使用することによって、該スピンバルブ膜の主要膜60は、基板600の平面方向601に垂直方向602に沿って、PtMn合金層61、本発明の第2の強磁性積層薄膜層62、Ru金属層63、Co90Fe10合金層64、本発明の第1の強磁性積層薄膜層65、Cu金属層66、本発明の第1の強磁性積層薄膜層67、Ta金属層68であって、自由磁性層に、本発明の第1の強磁性積層薄膜層67が形成され、Cu金属の導体層66を挟んで、固定磁性層に、本発明の第1の強磁性積層薄膜層65とRu金属層63を挟んで、本発明の第2の強磁性積層薄膜層62と、Co90Fe10合金層64と反強磁性層PtMn合金層61が積層されている。なお、パーマロイ層95、パーマロイ層97のみを本発明の第1の強磁性積層薄膜層65、67に、あるいは、Co90Fe10合金層92のみを本発明の第2の強磁性積層薄膜層62に代えることも可能である。
強磁性合金膜の磁気抵抗は一般的に該強磁性合金膜の磁化の2乗に比例して変化するので、図9に示す従来のGMR膜のパーマロイ層97と同じレベルの大きさの飽和磁化の本発明の第1の強磁性積層薄膜層67に代えた前記スピンバルブ膜の主要膜60は巨大磁気抵抗効果素子に使用できる効果がある。
次に、本発明の強磁性積層薄膜を利用したTMR膜を説明する。図7は本発明の強磁性積層薄膜を利用したTMR膜の断面構成図であり、該TMR用膜70は、図10に示す従来のTMR膜に代えて、基板700の基板面方向701に垂直な方向702に本発明の第1の強磁性積層薄膜層71、Al2O3層72、Cu金属層73、本発明の第2の強磁性積層薄膜層74が積層されている。磁性層に本発明の第1の強磁性積層薄膜層71と本発明の第2の強磁性積層薄膜層74が形成されている。なお、NiFe合金層111のみを本発明の第1の強磁性積層薄膜層71に、あるいは、Co金属層114のみを本発明の第2の強磁性積層薄膜層74に代えることも可能である。
強磁性合金膜の磁気抵抗変化は一般的に強磁性合金膜の磁化の2乗に比例して変化するので、図10に示す従来のTMR膜のNiFe合金層111と同じレベルの大きさの飽和磁化の本発明の第1の強磁性積層薄膜の第1の強磁性積層薄膜層71に代えた前記TMR用膜70はトンネルによる磁気抵抗効果素子に使用できる効果がある。
実施例1あるいは2において、反強磁性合金層には、それぞれ、Mn82Ni18合金とMn75Ir25合金を使用したが、Mn元素とNi元素あるいはIr元素の組成はこれに限るものではなく、また、MnNi合金あるいはMnIr合金以外でも、Mn元素を主成分とする反強磁性合金も使用することができる。
以上の詳細な説明により示されたように、本発明の希土類金属合金層を有する強磁性積層薄膜は、高飽和磁束密度と常温(25℃)で使用するのには問題ない高さのキュリー温度を有するので、該強磁性積層薄膜の強磁性積層薄膜層を高性能な巨大磁気抵抗効果素子の自由磁性層または固定磁性層あるいはトンネル接合による磁気抵抗効果素子の磁性層に提供できる。
本発明の第1の強磁性積層薄膜の断面構成図である。
本発明の第1の強磁性積層薄膜の原子配置の断面構成図である。
自発磁化の温度変化の理論グラフである。
本発明の第2の強磁性積層薄膜の断面構成図である。
本発明の第2の強磁性積層薄膜の原子配置の断面構成図である。
本発明の強磁性積層薄膜を利用した、GMRヘッド用のスピンバルブ膜の主要膜断面構成図である。
本発明の強磁性積層薄膜を利用したTMR膜の断面構成図である。
従来の金属積層薄膜断面構成図である。
従来のGMRヘッド用のスピンバルブ膜の主要膜断面構成図である。
従来のTMR膜の断面構成図である。
Fe金属/Gd金属積層薄膜におけるGd金属層のGd原子の磁気モーメントのGd原子層pに対する変化を示す図である。
Fe金属/Gd金属積層薄膜における積層界面付近のGd原子の磁気モーメントの温度変化図である。
符号の説明
10、40 強磁性積層薄膜
1、5、95、97パーマロイ層
2、4、42、44 反強磁性合金層
3 GdZn合金層
12、23、34、45、412、423、434、445 界面
41、45、64、92、94 Co90Fe10合金層
43 Gd金属層
1m、2ma、2mb、3ma、3md、4ma、4mb、5m 1原子当たりの磁気モーメント
41m、42ma、42mb、43ma、43md、44ma、44mb、45m 1原子当たりの磁気モーメント
3a 43a 1層目の原子
3b 43b 2層目の原子
3c 43c 3層目の原子
3d 43d 4層目の原子
65 67 71 本発明の第1の強磁性積層薄膜層
62 74 本発明の第2の強磁性積層薄膜層