JP4124493B2 - 無血清培地 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、組換えの方法によりえられるタンパク質のような哺乳動物細胞産物の生産を支持することができる無血清培地に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
今日、細胞培養は種々の生物学的に活性な産物、たとえばウイルスワクチン、モノクローナル抗体、無抗体免疫調節剤、ポリペプチド成長因子、ホルモン、酵素、腫瘍特異的抗原などの生産のために広く用いられている。これらの生産物は、正常細胞、形質転換細胞まおよび遺伝的に処理された細胞によって生産される。
【0003】
細胞を培養するためには、培養培地に血清を添加することが必要である。血清は、たいていの生物学的に活性な産物の生産のためだけでなく、すべての細胞系の生長のための全般な栄養物として働く。血清には、ホルモン、成長因子、キャリアータンパク質、接着および伸展因子、栄養物、微量元素などが含まれている。培養培地には、通常約10%以下の動物血清、たとえば牛胎児血清(FBS)が含まれる。
【0004】
広く使われてはいるが、血清には多くの制約がある。血清には高濃度でおびただしいタンパク質が含まれており、それによって、細胞の生産する少量の所望のタンパク質が劇的に妨げられる。工程の後の方でこれらの血清タンパク質を生産物から分けることが必要で、このことが工程を複雑にし、コストを増加させる。別の制約は、バッチ間での血清の不一致のために生産物中の種々の血清タンパク質汚染について重大な制約の懸念が生じることである。
【0005】
近年、牛の潜状期間の長い、感染性の神経病変であるBSE(牛海綿状脳症)の出現によって、生物学的に活性な産物の生産に動物由来の血清を用いることについて、さらに制約への関心が高まってきた。
【0006】
FBSなどの動物の血清を用いることのさらなる欠点は、需要の増加により供給が不安定となり、価格の上昇変動が起こることである。
【0007】
したがって、細胞の生長および生物学的に活性な産物の生産を支持するための代替の培地補助剤の開発が強く望まれている。
【0008】
哺乳動物からの組換えバイオ医薬の製造のための無血清培地の長所および欠点は、徹底的に見直された(バーンズ(Barnes)、1987;バーンズおよびサトー(Sato)、1980;ブロード(Broad)ら、1991;ジェイム(Jayme)、1991)。無血清培地に対する補助剤として用いられる主な添加物のリストがバーンズ(1987)ならびにバーンズおよびサトー(1980)にまとめられている。
【0009】
広い範囲の細胞の種類および培養条件に用いることができる血清添加培地とは異なり、無血清の処方では一般に特定の範囲に限られる(バーンズら、1984、サトーら、1982、トーブ(Taub)、1985、ウェイズ(Weiss)ら、1980)。
【0010】
たいていの市販の無血清培地には、アルブミンのようなキャリアータンパク質が含まれている。キャリアータンパク質の存在は、細胞のバイアビリティーの保護のために必要であるが、前述のような、精製工程のためには不利である。
【0011】
CHO細胞は、トランスフェクションならびに可能な診断および治療応用のための種々の外来遺伝子産物の発現を行なう、適切な哺乳動物宿主として出現した(ファミレッチ(Familletti)とフレデリックス(Fredericks)、1988、マリノ(Marino)、1989)。
【0012】
いくつかの市販の無血清培地はCHO細胞の培養にも用いることができる。しかしながら、これらには複数の不利益がある。たいていのものは小規模の実験室での使用に適するものであり、大規模のバイオリアクターには高価すぎる。いくつかのものは細胞の生長には適するが、生産培地としての役割はほとんど果さない。これらの培地はそれぞれその開発の目的であった特定の系には適するであろうが、他の系には用いられないのである。非接着性の哺乳動物細胞のためのある既知の無血清培地(米国特許第5,063,157号明細書)は、基本培地に加えて、トランスフェリン、インスリン、ペプトン、β−D−キシロピラノース誘導体、セレナイトおよび生物学的ポリアミンを含んでなる。前記の生産に関する特許における開示は、単に特定のマウスハイブリドーマ細胞を培地、すなわち基本培地に加えて6種の成分を含む培地中で培養することに関するものである。いかなる他の哺乳動物細胞におけるFSH抗体以外の生物学的に活性な産物の生産も教示されていない。
【0013】
また別の哺乳動物細胞のための無血清細胞生長培地が、米国特許第4,443,546号明細書に開示されている。この生長培地は、基本培地に加えて7種の成分を含んでいる。
【0014】
ヨーロッパ特許明細書第481,791号には、水、浸透圧調整剤、緩衝剤、エネルギー源、アミノ酸、鉄源、生長因子およびその他の任意の成分を含んでなるCHO細胞用培養培地が開示されている。例示された2つの培地はそれぞれ19および17種の成分を含んでいる。
【0015】
大規模な生産のための無血清培地の開発における主な目的物は、無血清、無タンパク質(または低タンパク質)、最少の添加物で定義されるためコストの低い培地、培養/生産/精製の工程手順を複雑にするおそれのある成分を含まない有効な培地である。
【0016】
それでもなおタンパク質が培地に存在するのであれば、それらの動物源から直接に単離されるのではなく、組換えの方法によりえられたものであるのが好ましい。
【0017】
既知の無血清培地への可能な添加物のリストは非常に長いが、多くのばあいにおいて、まだ正しい組合せは見つけられていない。実際に、その必要が知られるようになって10年以上がたつのにもかかわらず、約40の無血清培地しか市販されていない。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によって、哺乳動物細胞のための生産支持能を有する無血清培地は、基本培地に最少量の添加物を含むだけでよいということが今や明らかになった。
【0019】
本発明により、基本培地ならびに(a)細胞バイアビリティー保護剤、(b)インスリンおよび(c)トロンビンもしくはトロンビンレセプター活性化因子のいずれかを含んでなる哺乳動物細胞用無血清培地が提供される。
【0020】
トロンビンレセプター活性化因子(以下、「TRA」という)は、トロンビンがレセプターの元のN末端の近辺を切断することによりレセプターを活性化したのちにN末端になるレセプターの領域を含むペプチドである。
【0021】
本発明の無血清培地は、哺乳動物細胞の生物学的に活性な産物の生産を血清入りのものに匹敵する程度に支持する。
【0022】
基本培地は、いかなる既知の培地、たとえばDMEM、F12、RPMI 1640またはそれらの混合物からなっていてよい。それらはすべて、たとえばギブコ(Gibco)社、米国、またはベーリンガーマンハイム(Boehringer Mannheim)社、ドイツなどから市販されている。
【0023】
細胞バイアビリティー保護剤は、ADC−1(バイオロジカル インダストリーズ(Biological Industries)社、ベイト ヘメク(Beit Haemek)、イスラエル国)、タンパク質加水分解物またはメチルセルロースなどを含んでいてよい。
【0024】
用いられるインスリンおよびトロンビンは、好ましくは組換えの方法によって調製されたものである。
【0025】
タンパク質加水分解物:哺乳動物細胞培養において生長因子としてペプチドを用いることがルツキー(Rutsky)の総説(1981)に記載されている。他の加水分解物としては、たとえばラクトアルブミン加水分解物も、培地補助剤として用いられている(グレース(Grace)、1962)。
【0026】
メチルセルロースは非栄養補助剤として培養培地に加えられる。これは、培養細胞にとって有利であることが知られている(ヒンク(Himk)、1991)。
【0027】
インスリンはすべての種類の細胞に対して成長因子として働くことが知られており、いくつかの無血清培地において添加剤として用いられている。
【0028】
トロンビンおよびトロンビンレセプター活性化因子:血液凝固の役割に加えて、トロンビンは種々の細胞と特異的なレセプターをとおして結合し、シグナルを生ずることがわかった。血小板上には、少なくとも2つのトロンビン結合サイトがある(ワークマン(Workman)、1977)。血小板の刺激は、凝固プロセスの一部として働く。しかしながら、トロンビンは内皮細胞にも高および低新和力でもって結合し(アウブレイ(Awbrey)、1979、マコビッチ(Machovich)、1982;バウエル(Baver)、1983)、その結果、プロスタサイクリンが遊離され(ウエクスラー(Weksler)、1978)、プロテインキナーゼが活性化され(オーエン(Owen)、1981)、プラスミノーゲン活性化因子の活性が阻害される(ルスクトフ(Luskutoff)、1979)。
【0029】
綿維芽細胞においては、トロンビンはDNA合成および細胞分裂を刺激する(ゼッター(Zetter)ら、1977、グレン(Glenn)ら、1980、チェン(Chen)1981;クニングハム(Cunningham)ら1979)。トロンビンのヒト線維芽細胞への結合は、表面結合糖タンパク質、フィブロネクチンの生産および放出も刺激する(モシャー(Mosher)とバヘリ(Vaheri)、1978)。
【0030】
トロンビンは血小板のような細胞を、特異的なレセプターをとおして活性化することが知られている。最近、ブー(Vu)ら(1991)によって、その活性化の機作にはレセプターの切断が含まれることが示唆され、新たに生じたレセプターのN末端領域がつながれたリガンドとして働くということが提案された。その新たなN末端領域に対応する配列の合成ペプチドは、血小板活性化におけるトロンビンにとって代わることができる。
【0031】
【実施例】
本発明により、最少量の添加物を含み、従来法によっても従来法と組換えの方法の組合せによっても簡単に調製するのに役立つ、哺乳動物細胞産物の生産に用いるのに適した無血清培地が提供される。
【0032】
前述のとおり、本発明の無血清培地の成分はすべて、それ自体既知であり、市販されているので、簡単に手に入れることができる。
【0033】
本発明の1つの実施態様としては、基本培地に異なる成分を単に混合することによって従来法で無血清培地が調製される。すなわち、たとえば20mlのADC−1(1×50濃縮)を980mlの基本培地に加える。これに対して0.1μg/mlから2μg/mlの間のインスリンと0.01μg/mlから2μg/mlの間のトロンビンを加える。
【0034】
インスリンおよびトロンビンは通常の組換えの方法、たとえばcDNAのクローニング、成熟プロセス化タンパク質をコードするDNA断片の単離、E.coliにおいて発現するのに適した発現ベクターの構築および発現によって、生産してもよい。
【0035】
前述のように、ADC−1はタンパク質加水分解物のような異なる細胞バイアビリティー保護剤で置き換えることができる。適切な加水分解物は、たとえばラクトアルブミン加水分解物、コーングルテン加水分解物などである。本発明のまた別の実施態様では、無血清培地には基本培地900mlに対して加えられる10%のラクトアルブミン加水分解物10mlまたは5%のコーングルテン加水分解物10mlを含む。さらに、0.1μg/mlから2μg/mlの間のインスリンおよび0.01μg/mlから2μg/mlの間のトロンビンが添加される。コーングルテン加水分解物は、動物由来でないため、制御の理由から好ましい。
【0036】
本発明のさらに別の実施態様では、インスリンおよびトロンビンの発現のための遺伝子を、生物学的に活性な細胞産物の組換え生産のために用いられる哺乳動物細胞中へ挿入する。トロンビンとインスリンをコードする遺伝子とともにこれらのタンパク質の発現を司令する適切なプロモーターを、それらが分泌されることが可能な適切な構築でもってトランスフェクトさせる。用いられた細胞はSV40早期プロモーターに連結された種々の遺伝子で形質転換されたCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞である。(チャルナジョブスキー(Chernajovsky)、1984)。
【0037】
遺伝子はIL−6、TBP−IおよびrIFN−β(組換えインターフェロンβ)をコードするものであったが、哺乳動物細胞系における発現に好適な遺伝子であればいかなるものを用いてもよい。トランスフェクションを行なうための特定のCHO変異体はプロリン依存性であるので、用いる基本培地にプロリンを添加することが必要である。
【0038】
前記したように、トロンビンはそのレセプターをアミノ末端細胞外ドメインで切断して新規のN末端をさらし出させることにより活性化させると信じられている。切断を受けたのちの新たなトロンビンレセプターのN末端配列に対応する、相異なる長さのペプチドが、本発明の無血清培地での使用に好適であることが見い出された。短いペプチド配列は、化学的もしくは組換えの方法により容易に合成できるので、これを利用することで無血清培地の調製が簡素化できる。また、これを利用することで市販のトロンビンそのものを用いなくてよくなる。市販のトロンビンは哺乳類由来であるので制御の点で問題を引き起こすかもしれない。
【0039】
本発明は、下記の実施例により示されるがこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1:細胞成長および生産
細胞生長および生産は下記の系で行なわれた。
【0041】
実験系:
A)24ウェルプレート中、10%FBS添加培地1mlに細胞を0.25×106 細胞/ウェルとなるよう播種した。37℃で一晩インキュベートしたのち、培地をとり除き単層の細胞を無血清培地(SFM)で2度すすいだ。そののち細胞生長または生産のレベルを種々の培地組成で24時間ごとに培地変換を行ないながら3〜5日以上のあいだモニターした。
【0042】
B)25cm2 の組織培養フラスコ中10%FBS添加培地に0.5×106 細胞/フラスコとなるよう播種し、生長培地を生産培地に置き換えるまで3日間インキュベートした。
【0043】
C)スピナー(spinner)を用いて生産を100mlおよび1リットルスピナー(ベルコ(Bellco)社製)中でモニターした。細胞はマイクロキャリアに付着させた。ほとんどの実験はディスクキャリア(6mmディスク、ポリエステルの不織布をポリプロピレンスクリーンに重ね合わせて構成されたもの(ステリリン(Sterilin)社、米国)を用いて行なった。いくつかの実験においては、キャリアとしてバイオシロン(Biosilon)(ヌンク(Nunc)社、ロスキルデ(Roskilde)、デンマーク)を用いた。細胞を10%FBS添加培地中に播種し、2〜3日間の生長期間ののち、培地を無血清の生産培地に変えた。生産期間の初期には24時間ごとに培地交換を行ない、数日ののちには12時間ごとに培地交換を行なった。
【0044】
実施例2:基本無血清培地(SFM)の処方
IL−6生産組換えCHO細胞は、プロリンおよび2%FBSを添加したDMEM中で生存し、よく増殖する。培地から血清を除去すると、血清を適切な補助剤に置換しない限り細胞死が起こる。
【0045】
表1は、細胞生長およびIL−6生産に対する培地成分の効果を示す。IL−6生産CHO細胞は、10%FBS培地で0.5×106 細胞/フラスコとなるよう25cm2 フラスコ中に播種し、培地を生産培地に変えるまで3日間インキュベートした。
【0046】
細胞数およびIL−6レベルは、生産培地を毎日交換して5日間ののち、測定した。細胞数には、培地交換により洗い去られた非付着細胞は含まれていない。
【0047】
表1に要約したように、細胞バイアビリティー保護剤、たとえばADC−1(バイオロジカル インダストリーズ(Biological Industries)社、バイトハエメク(Beit Haemek)、イスラエル)は、(FBSまたはフィブロネクチンの存在下で細胞が初期付着したのち)細胞増殖をほとんど伴わずに細胞のバイアビリティーを維持した。細胞分裂はインスリンによって刺激されうるので、ADC−1とインスリンの両方を添加した培地中では細胞はFBS添加培地と同様によく生長する。しかしながら、無血清下では、細胞のIL−6生産能が経時的に減少し、無血清培地中5日後には、細胞の特定生産能(μg IL−6/106 細胞)は半分にまで減じられた。
【0048】
細胞の生産能の減少を組織培養(TC)フラスコ(表1)およびディスクキャリアを用いたスピナーにおいて証明した(図1)。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例3:生産に対するトロンビンの効果。
【0051】
ウシトロンビン(シグマ社製)を基本SFM(DMEM+ADC−1+インスリン)に添加すると、IL−6生産は大きく増強された(図2)。プロトロンビンは生産に影響を及ぼさなかった。しかしプロトロンビンを活性因子Xaにより切断してトロンビンを遊離させると、生産が刺激された。生産刺激活性は、トロンビン阻害剤である血清タンパク質抗トロンビンIVにより阻害される(図2)。
【0052】
実施例4:生長因子の機能的寄与
インスリンもトロンビンもいずれもCHO細胞の生長を刺激する。いずれもどちらかをADC−1含有培地に添加すると細胞生長は同程度となる(図3A)。しかしながら、インスリンのみ存在下でのIL−6生産はきわめて低く、一方トロンビンは有意に生産レベルを刺激した(図3B)。ウェル中での短期間の実験においては(図3)、トロンビンのみを用いた生産能は、インスリンとトロンビンの両方をADCに添加したばあいにごくわずか増大したにすぎなかった。しかしながらスピナー(100ml)中で生産をモニターすると、初期にインスリン添加でも無添加でも同等であったIL−6レベルが、インスリン非存在下では9日ののちに明らかに減少した(図4)。これらの結果よりインスリンが最適な長期間の生産に必須であることが示唆された。
【0053】
図5に示されるように最高の生産能をうるためにはインスリンに加えてトロンビンおよびADC−1が必要である。ADC−1またはトロンビンを除くと、生産の4〜5日のちにIL−6レベルが減少してしまう。
【0054】
実施例5:生産のための無血清培地
組換えCHO細胞によるIL−6生産を高レベルに保つべく見い出された培地組成物は、基本培地(DMEM+プロリン)に3つの添加物を含む:
1.ADC−1;
2.インスリン 0.2μg/ml;
3.トロンビン 0.02μg/ml。
【0055】
各成分の最適なソースおよび可能な代替物を知るべく分析を行なった。
【0056】
インスリン
ほとんどの実験は、シグマ社製のウシインスリンを用いて行なった。さらに別の調製物を種々のソースからえて、それらの潜在能力を測定するためにADC−1とともに基本培地に添加した。ウシおよびヒトのいずれのインスリンも調べた。ヒトに注射するのに用いられる組換えヒトインスリン(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk)社、デンマーク、およびイーライ リリイ(EliLilly)社、SA、スイス)は、制御上の理由のためとくに興味の対象となるものであった。
【0057】
表2は細胞増殖およびIL−6生産におよぼす異なるソースからのインスリンの効果を示す。IL−6生産CHO細胞は、24ウェルプレートに1×106 細胞/ウェルとなるよう播種した。3日後、培地をインスリン添加または無添加のSFMに変えた。さらに4日間インキュベートしたのち細胞を計数し、IL−6レベルを測定した。表2に要約したように、検査したインスリン群はすべてCHO細胞の生長因子として同等の活性を有していた。同等のIL−6生産レベルも観察された。
【0058】
【表2】
【0059】
トロンビン
最初の実験に用いた市販のトロンビンはシグマ社製の非常に比活性が低い(50〜100IU/mgタンパク)ウシトロンビンであった。ブルーセファロースカラムに結合させて、この製剤からトロンビンを精製した。
【0060】
図6に要約したように、活性のほとんどは1Mチオシアネートで溶出されたが、タンパク質の大部分は結合しないかまたは0.3Mの塩で洗い出された。
【0061】
SDS−PAGEの結果を図7に示す。レーン1はマーカー、レーン2はトロンビン100IU/mg(シグマ社製)レーン3はトロンビンのブルーセファロース活性画分、レーン4はトロンビン2000IU/mg(シグマ社製)である。活性画分のSDS−PAGE(図7、レーン3)で見かけの分子量37Kの主たるタンパク質のバンドが見られた。これは比活性2000IU/mgタンパクの市販(シグマ社製)精製ウシトロンビンのタンパク質のバンドと類似していた(図7、レーン4)。
【0062】
シグマ社のウシトロンビンのブルーセファロースの活性画分(1.0Mチオシアネート)を生産のために1リットルスピナー中のSFMへの添加物として用いた。トロンビンは培地中0.02μg/mlの最終濃度となるようにして用い、培地にはADC−1およびインスリン(0.2μg/ml)も添加した。4週間以上にわたる生産のあいだ、一貫して高レベルの生産が観察された(図8)。
【0063】
ADC−1
市販のタンパク非含有補助剤(ADC−1)はバイオロジカルインダストリーズよりえられ、これの代わりにたとえばラクトアルブミンの加水分解物(図9)もしくはコーングルテンの加水分解物(CG)(図8)のようなタンパク質加水分解物またはメチルセルロース(MC)(図9)を用いることができる。
【0064】
前記成分を基本培地(DMEM+プロリン)にインスリンおよび精製トロンビンとともに添加した(図8)。3つの成分を培地に加える限りにおいてすべての組合せで生産レベルは同等であった。
【0065】
ADC−1および種々の代替物はすべてオートクレーブ可能であり、制御という点から有利である。
【0066】
実施例6:無血清培地の多様性
ほとんどの実験はIL−6生産CHO細胞を用いて行なった。しかしながら、ほかの組換え産物の生産も3成分すなわちADC−1(または同等のもの)、インスリンおよびトロンビン添加の培地で証明された。CHO細胞による組換え腫瘍壊死因子結合タンパク質(TBP)の生産を100mlスピナー中で調べた(図11)。3成分すなわちADC−1、インスリンおよびトロンビン存在下では生産レベルは2%FBS中で生産している細胞のものと同程度であった。トロンビンを添加しないと、生産は5日後に減少した。
【0067】
組換えINF−βを100mlスピナー中バイオシロンマイクロキャリア上のCHO細胞により生産した。生産レベルは2%FBS添加培地中でもADC、インスリンおよびトロンビンを添加した無血清培地中でも同じであった(図12)。
【0068】
実施例7:
トロンビンレセプターの新たなアミノ酸末端を模倣した14残基のアミノ酸ペプチドについて、IL−6生産を刺激する活性においてトロンビンと置き換えることができるか否かを調べた。ペプチド(H−Ser−Phe−Leu−Leu−Arg−Asn−Pro−Asn−Asp−Lys−Tyr−Glu−Pro−Phe−OH)は、2つのソースよりえた。高度に精製したペプチド(トロンビンレセプターアクチベーター)はバケム(Bachem)社(スイス)より購入し、粗調製物はワイツマン インスチチュート オブ サイエンス(Weizmann Institute of Science)(イスラエル)で合成した。
【0069】
IL−6生産CHO細胞を用いて24ウェルプレート中、SFMの成分として、両者をトロンビンと比較した。
【0070】
表3はIL−6生産に対するトロンビンレセプターアクチベーターの効果を示す。
【0071】
表3Aに要約したように、IL−6生産は前記ペプチドによりトロンビンによると同程度にまで刺激された。しかしながら、ペプチドを用いたばあい、1000倍高い濃度が必要であった。期待したように精製ペプチドは粗調製物に比して、より低い濃度で有効であった。
【0072】
【表3】
【0073】
表4に示されるように、下記ペプチドを用いても同様の結果がえられた。
【0074】
A−トロンビンレセプター(42〜55)、ヒト
Ser−Phe−Leu−Leu−Arg−Asn−Pro−Asn−Asp−Lys−Tyr−Glu−Pro−Phe
B−トロンビンレセプター(42〜47)、ヒト
Ser−Phe−Leu−Leu−Arg−Asn
C−トロンビンレセプター(42〜55)、ハムスター
Ser−Phe−Phe−Leu−Arg−Asn−Pro−Gly−Glu−Asn−Thr−Phe−Glu−Leu
D−トロンビンレセプター(42〜47)、ハムスター
Ser−Phe−Phe−Leu−Arg−Asn
すべてネオシステム(Neosystem)社、フランスより入手。
【0075】
【表4】
【0076】
実施例8
生産条件下でのペプチドの活性を調べるために、ディスクキャリアを用いた1リットルスピナーをセリゲン(CelliGen、商標)(ニュー ブルンスウィック サイオンティフィック(New Brunswick Sientific)社、ニュージャージ州、米国)バイオリアクターコントロールに接続した。TBPクローン108−1−22−12/4の細胞を播種し、生長期間ののち、2%FBSで生産を開始した。
【0077】
10日後、血清添加生産培地をコーングルテン加水分解物、インスリンおよびTRA(トロンビン レセプター アクチベーター)を含むSFMに置き換えた。生産は40日間継続した。生産中の一定期間TRAをトロンビンに置き換えた。トロンビンをTRAに置き換えても、生産レベルに影響はなかった(図10)。図10には、SFM中でのTBP生産、トロンビンレセプターアクチベーターの効果を示した。
【0078】
実施例9:CHO細胞でのトロンビンおよびインスリンのクローニングと発現
はじめに通常の方法でトロンビンおよびインスリンをコードするcDNAをクローニングしたのち、シグナルペプチドと連結した成熟タンパク質をコードする配列を含むDNA断片を単離した。シグナルペプチドはそれら自身のものでもよいしCHO細胞において適正に分泌されるシグナルペプチドでもよい。そののち、CHO細胞内での発現のためにたとえばSV40またはCMVのようなプロモーターに連結したこれらのDNA断片を含む発現ベクターを構築した。
【0079】
発現ベクターを所望のタンパク質の組換え生産するのに用いられるCHOクローンの1つにトランスフェクトし、第2のタイプの選択すなわちゲンタマイシン(G418)を用いる。インスリンとトロンビンは無血清培地中に分泌され、CHOクローンによる異種のタンパクの生産や分泌を支持する。
【0080】
【発明の効果】
本発明により、哺乳動物細胞による生物学的に活性な産物の生産を支持することができる無血清培地が提供される。本発明の無血清培地は、最少量の添加物を含んでなるため低価格で容易に調整でき、活性産物の生産に有用である。
【0081】
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【図面の簡単な説明】
【図1】スピナー中でのIL−6生産に対する培地成分の効果を示すグラフである。IL−6生産CHO細胞は、ディスクキャリアを用いた100mlスピナーに播種した。10%FBS中で7日間生長させたのち、培地を2%FBS添加の生産培地またはADC−1 20%(v/v)+インスリン0.2μg/ml添加無血清培地(SFM)に置き換えて、IL−6生産を24時間ごとに測定した。結果は、2つのスピナーでの平均を示した。
【図2】SFM中でIL−6生産刺激におよぼすトロンビンの効果を示すグラフである。種々の成分をSFMに添加し、24ウェルプレート中のIL−6生産CHO細胞に加えた。
【図3】インスリンとトロンビンの細胞生長およびIL−6生産におよぼす効果を示すグラフである。
【図4】100mlスピナー中でIL−6生産におよぼすインスリンの効果を示すグラフである。
【図5】100mlスピナー中でIL−6生産におよぼすADC−1およびインスリンの効果を示すグラフである。
【図6】比活性が低い(50〜100IU/mg)市販のトロンビン(シグマ社製)を付したブルーセファロースカラムからのトロンビンの溶出パターンを示すグラフである。
【図7】種々のトロンビン調製物のSDS−PAGE分析を示す。
【図8】1リットルスピナー中でのTBPの生産を示すグラフである。
【図9】インスリンとトロンビンを含有する無血清培地への種々の細胞バイアビリティ保護剤の効果を比較するために100mlスピナー中でのTBP生産を示したグラフである。
【図10】1リットルバイオリアクター中でのTBP生産を示すグラフである。
【図11】100mlスピナー中でのTBP生産に対する培地成分の効果を示すグラフである。
【図12】100mlスピナー中でのCHO細胞によるrIFN−βの生産を示すグラフである。
Claims (10)
- 基本培地ならびに
(a)ADC−1(商標)、タンパク質加水分解物またはメチルセルロース、
(b)インスリンおよび
(c)Ser-Phe-Leu-Leu-Arg-Asn-Pro-Asn-Asp-Lys-Tyr-Glu-Pro-Phe、
Ser-Phe-Leu-Leu-Arg-Asn、
Ser-Phe-Phe-Leu-Arg-Asn-Pro-Gly-Glu-Asn-Thr-Phe-Glu-Leuまたは
Ser-Phe-Phe-Leu-Arg-Asnのアミノ酸配列からなるトロンビンレセプター活性化因子
を含んでなる無血清培地中で哺乳動物細胞系を培養する工程を含む、インターロイキン−6の生産方法。 - 基本培地がDMEM、F12、RPMI 1640またはそれらの混合物である請求項1記載のインターロイキン−6の生産方法。
- タンパク質加水分解物がラクトアルブミン加水分解物である請求項1または2記載のインターロイキン−6の生産方法。
- タンパク質加水分解物がコーングルテン加水分解物である請求項1または2記載のインターロイキン−6の生産方法。
- 用いられるインスリンおよび/またはトロンビンレセプター活性化因子が組換えの方法でつくられたものである請求項1、2、3または4記載のインターロイキン−6の生産方法。
- インスリンおよび/またはトロンビンレセプター活性化因子が哺乳動物細胞においてインターロイキン−6とともに発現されるものである請求項5記載のインターロイキン−6の生産方法。
- 0.1μg/mlから2μg/mlの間のインスリンを含んでなる請求項1、2、3、4、5または6記載のインターロイキン−6の生産方法。
- 1μg/mlから20μg/mlのトロンビンレセプター活性化因子を含んでなる請求項1、2、3、4、5、6または7記載のインターロイキン−6の生産方法。
- 細胞系がCHO細胞系である請求項1記載のインターロイキン−6の生産方法。
- 細胞系が、インターロイキン−6をコードする遺伝子でトランスフェクトされたCHO細胞系である請求項1または9記載のインターロイキン−6の生産方法。
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