JP4123956B2 - 車両用舵角制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前輪への操舵入力時等に前輪及び後輪に補助舵角を与える前後輪操舵制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えば特開平5−105102号公報に開示された前後輪共に補助操舵を行う技術が提案されている。この従来技術では、検出されたハンドル操舵角に基づくフィードフォワード項と検出されたヨーレイトに基づくフィードバック項との加算値により前後輪に補助舵角を与えるよう構成されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の前後輪操舵制御装置にあっては、通常は前輪操舵と後輪操舵を用いることで、目標値としてヨーレイトと横速度を取ることが可能であるが、後輪操舵補助舵角付与手段が失陥した場合は、制御対象が1つしかなく、目標値として2つを制御することができないため、目標挙動を達成できないという問題があった。
【0004】
本発明は、上述の課題に鑑み、前輪補助舵角付与手段及び後輪補助舵角付与手段を備えた車両用舵角制御装置において、後輪補助舵角付与手段が失陥したとしても、運転者に違和感を与えることなく車両の挙動を安定に制御可能な車両用舵角制御装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、ハンドル操舵角を検出するハンドル操舵角検出手段と、車速を検出する車速検出手段と、前輪に補助舵角を付与する前輪補助舵角付与手段と、後輪に補助舵角を付与する後輪補助舵角付与手段と、検出されたハンドル操舵角及び車速に基づいて車両モデルから前輪補助舵角及び後輪補助舵角を算出し、前記前輪補助舵角付与手段及び前記後輪補助舵角付与手段に指令信号を出力する前後輪補助舵角制御手段と、を備えた車両用舵角制御装置において、前記前後輪補助舵角制御手段は、後輪補助舵角付与手段が失陥しているかどうかを検出する失陥判断部を有し、前記後輪補助舵角付与手段が失陥していない時は、検出されたハンドル操舵角及び車速に基づいて目標ヨーレイト及び目標横速度を算出し、算出された目標ヨーレイト及び目標横速度となるように目標前輪舵角及び目標後輪舵角を演算し、演算された目標前後輪舵角となるように前記前輪補助舵角付与手段及び後輪補助舵角付与手段に指令信号を出力し、前記後輪補助舵角付与手段が失陥していると判断されたときは、検出されたハンドル操舵角及び車速に基づいて目標ヨーレイト及び目標横加速度を算出し、前記目標ヨーレイトとなるように、前記目標横速度及び失陥時の後輪操舵角に基づいて目標前輪舵角を演算し、演算された目標前輪舵角となるように前記前輪補助舵角付与手段に指令信号を出力することで、上記課題を解決するに至った。
【0006】
【発明の作用】
本願発明にあっては、後輪補助舵角付与手段の失陥時には、失陥時の実後輪舵角に基づき、ヨーレイト・横速度制御から前輪補助舵角付与手段を用いたヨーレイト制御に切り換えることで、車両の挙動制御を実行することが可能となり、車両挙動の安定性を高めることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明における車両用操舵制御装置の実施形態について実施例をもとに説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0008】
(第1実施例)
図1は本発明の第1実施例における基本構成を示す全体システム図である。
実施例の車両用操舵制御装置が適用される車両の前輪1L,1Rには、ハンドル2への操舵入力に基づき左右の前輪操舵機構3L,3Rを介して前輪1L,1Rを操舵するステアリングユニット4が設けられている。更に、前輪操舵アクチュエータ37としてステアリングユニット4のラックチューブ(車体5に弾性体6を介して支持)をストロークさせることで前輪1L,1Rに補助舵角を与える前輪側油圧シリンダ7が設けられている。また、後輪操舵アクチュエータ38として、後輪8L,8Rには、左右の後輪操舵機構9L,9Rを介して後輪8L,8Rに補助舵角を与える後輪側油圧シリンダ10が設けられている。
【0009】
前輪側油圧シリンダ7及び後輪側油圧シリンダ10は、共通の油圧源ユニット11を油圧源としている。この油圧源ユニット11から前輪側フェールセーフバルブ12及び前輪側サーボバルブ13を介して制御圧を与えることで前輪側油圧シリンダ7が駆動する。また、油圧源ユニット11から後輪側フェールセーフバルブ14及び後輪側サーボバルブ15を介して制御圧を与えることで後輪側油圧シリンダ10が駆動する。尚、油圧源ユニット11には、エンジン16により駆動される油圧ポンプ11a,アンロードバルブ11b,圧力スイッチ11c,アキュムレータ11d,リザーバ11eから構成され、一定圧の作動油を供給する。
【0010】
前輪側フェールセーフバルブ12及び後輪側フェールセーフバルブ14は、操舵制御コントローラ30の指令に基づいてON/OFFの2位置が切り換えられる。また、前輪側サーボバルブ13及び後輪側サーボバルブ15は、操舵制御コントローラ30からサーボアンプ18,19を介した指令に基づいて右操舵,保持,左操舵の3位置が切り換え制御される。
【0011】
操舵制御コントローラ30には、車両の実車速Vを検出する車速センサ20(車速検出手段に相当),パルスエンコーダ等を用いて運転者の操舵角度θを検出する操舵角センサ21(ハンドル操舵角検出手段に相当),エンジン回転数センサ23,前輪側変位センサ24,後輪側変位センサ25(後輪側舵角検出手段に相当),ニュートラルスイッチ26,クラッチスイッチ27,ストップランプスイッチ28からの検出信号が入力される。
【0012】
図2は操舵制御コントローラ30の構成を表すブロック図である。操舵制御コントローラ30は、目標値生成部31、目標出力値生成部32、後輪操舵装置失陥判断部33、前輪操舵コントローラ34及び後輪操舵コントローラ35から構成されている。
【0013】
目標値生成部31は、図3の目標値生成部31の構成を表すブロック図に示すように、車両モデル演算部311と目標値演算部312から構成されている。
車両モデル演算部311は、操舵角度θと車体速Vから2輪モデルを用いて車両パラメータを演算する。車両パラメータの演算については後で詳細に説明する。
目標値演算部312は、車体速V、操舵角度θ、車両パラメータから車両の目標ヨーレイトψ'*、及び目標横速度V*yを演算する。
【0014】
目標出力値生成部32は、図4の目標出力値生成部32の構成を表すブロック図に示すように、目標後輪舵角演算部321,目標前輪舵角演算部322から構成されている。
【0015】
目標後輪舵角演算部321は、車両の目標ヨーレイトψ'*,目標横速度V*y,失陥判断フラグ値Ffailから目標後輪舵角δ*を決定する。
目標前輪舵角演算部322は、車両の目標ヨーレイトψ'*,目標横速度V*y,失陥判断フラグ値Ffail,及び後輪側変位センサ25から検出される後輪操舵アクチュエータ出力角とから目標前輪舵角θ*を決定する。
【0016】
後輪操舵装置失陥判断部33は、後輪操舵アクチュエータ38のフェールに応じて失陥判断フラグ値Ffail(正常時:0,失陥時:1)を目標出力値生成部32に出力する。
【0017】
前輪操舵コントローラ34は、前輪の実舵角が目標前輪舵角θ*と一致するように前輪操舵アクチュエータ37を制御する。
【0018】
後輪操舵コントローラ35は、後輪の実舵角が補正後目標前輪舵角δ*と一致するように後輪操舵アクチュエータ38を制御する。
【0019】
〔車両モデル演算部311における車両モデル演算〕
車両モデル演算部311は、以下に示す車両モデルから、車両パラメータを演算する。
一般に、2輪モデルを仮定すると、車両のヨーレイトと横速度は、下記式1で表せる。
(式1)
ここで、
(式2)
である。
【0020】
状態方程式より前輪操舵に対するヨーレイト、横速度の伝達関数を求めると、下記式(3)及び式(4)で表される。
(式3)
(式4)
となる。
【0021】
ヨーレイト伝達関数は、式3より下記式(5)と表される。
(式5)
ここで、
(式6)
【0022】
同様に横速度伝達関数は、式(4)より下記式(7)と表される。
(式7)
ここで、
(式8)
【0023】
以上から、車両パラメータ
が求められる。
【0024】
〔目標値演算部312における目標値演算〕
目標値演算部312における車速、車両パラメータと後述する目標値パラメータから目標ヨーレイトと目標横速度を求める。
【0025】
目標ヨーレイトは、式5から下記式9により表される。
(式9)
【0026】
目標横速度は、式7から下記式10により表される。
(式10)
【0027】
ここで、目標ヨーレイトのパラメータは、下記式11で表される。
(式11)
ただし、yrate_gain_map,yrate_omegn_map,yrate_zeta_map,yrate_zero_mapはそれぞれ図5,図6,図7及び図8に示す車速に応じて設定されたマップから算出されるチューニングパラメータである。
【0028】
また、目標横速度のパラメータは、下記式12で表される。
(式12)
ただし、vy_gain_map,vy_omegn_map,vy_zeta_map,vy_zero_mapはそれぞれ図9,図10,図11及び図12に示す車速に応じて設定されたマップから算出されるチューニングパラメータである。
【0029】
(目標出力値生成部32における目標前輪舵角及び目標後輪舵角演算)
〔目標後輪舵角演算部321における目標後輪舵角演算〕
図13は目標後輪舵角演算部321の制御構成を表すブロック図である。失陥判断フラグ値Ffailが1のときは、後輪操舵アクチュエータが失陥しているため、前輪操舵のみとなり、目標後輪舵角演算は行わない。一方、失陥判断フラグ値Ffailが0のときは目標ヨーレイトψ'*(s),目標横速度V*yから目標後輪舵角δ*を算出する。
式(13)
から、
式(14)
よって、目標後輪舵角δ*は
式(15)
となる。
【0030】
〔目標前輪舵角演算部322における目標前輪舵角演算〕
図14は目標前輪舵角演算部322の構成を表すブロック図である。失陥判断フラグ値Ffailが0のときは、目標ヨーレイトψ'*(s),目標横速度V*yから目標前輪舵角θ*を算出すると下記式(16)で表される。
式(16)
【0031】
一方、失陥判断フラグ値Ffailが1のときは、前輪操舵のみとなり制御可能な目標値が1つになるため、目標値をヨーレイトとするヨーレイト制御に変更する。
このとき、実後輪操舵角を後輪側変位センサ25の出力値δrから算出すると、下記式(17)で表される。
式(17)
ここで、Nrは変位量に対する後輪実舵角比である。
【0032】
後輪操舵アクチュエータ失陥時の目標前輪舵角はヨーレイト制御時の状態方程式から下記式(18)により表される。
式(18)
【0033】
(後輪操舵装置失陥判断)
次に、後輪操舵装置失陥判断部33について説明する。目標後輪舵角と後輪操舵アクチュエータの実舵角との乖離Δfが閾値Sfを一定時間Tf以上越えた場合は、後輪操舵アクチュエータ失陥と判断し、失陥判断フラグFfailを決定する。
乖離Δfは下記式(19)により表される
式(19)
【0034】
ここで乖離Δfが閾値Sfを越えた時間をカウントするカウンタCfは、操舵制御コントローラ30の計算周期をΔTとすると、下記式(20),(21)で表される。
式(20)
式(21)
【0035】
このとき、失陥判断フラグは、
Cf≧Tfのとき、後輪操舵アクチュエータ失陥と判断し、下記式(22)となる。
Cf<Tfのとき、正常と判断し、下記式(23)となる。
【0036】
図15は従来技術に基づいたシミュレーション結果を表す図であり、図16は上記構成に基づいたシミュレーション結果を表す図である。
圧雪路にて、車速60km/h、レーンチェンジを想定した走行条件である。運転者操舵角計算は、ドライバモデルとして広く知られている、横変位及びヨーレイトをフィードバックし目標軌跡を追従するように運転者が操舵を行う前方注視点ドライバモデルを使用した。
【0037】
このシミュレーションにおいて、図15(a),図16(b)は運転者操舵角と前輪制御操舵角を表す。また、図15(b),図16(b)は実後輪舵角を表す。また、図15(c),図16(c)は目標ヨーレイトと発生ヨーレイトの関係を表す。また、図15(d),図16(d)は車両重心点軌跡を表す。
【0038】
図15(b),図16(b)に示すように時刻t1において、後輪操舵アクチュエータが失陥し、後輪舵角δにおいて固定された場合を比較する。
図15に示す従来技術では、後輪舵角がδにおいて固定されると、目標ヨーレイトに対する発生ヨーレイトが大きく離れ、運転者の操舵角も不安定で、車両の安定性が損なわれてしまう。
【0039】
これに対し、本願発明では、後輪操舵アクチュエータが失陥した場合には、ヨーレイト,横速度制御からヨーレイト制御に切り換え、実後輪舵角を考慮した制御を実行することが可能になり、目標ヨーレイトに対する発生ヨーレイトが追従可能となり、車両の安定性を保つことが可能となる。
【0040】
なお、本実施の形態では、前後輪の操舵アクチュエータとして油圧式のものを用いているが、例えば特開平11−91609号公報に開示されるような電動式のアクチュエータを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例における基本構成を示す概略図である。
【図2】第1実施例における、操舵制御コントローラの構成を表すブロック図である。
【図3】第1実施例における、目標値生成部の構成を表すブロック図である。
【図4】第1実施例における、目標出力値生成部の構成を表すブロック図である。
【図5】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図6】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図7】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図8】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図9】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図10】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図11】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図12】第1実施例におけるヨーレイトパラメータを表すマップである。
【図13】第1実施例における、目標後輪舵角演算部の構成を表すブロック図である。
【図14】第1実施例における、目標前輪舵角演算部の構成を表すブロック図である。
【図15】従来技術におけるシミュレーション結果を表すタイムチャートである。
【図16】本願発明におけるシミュレーション結果を表すタイムチャートである。
【符号の説明】
1L,1R 前輪
2 ハンドル
3L,3R 前輪操舵機構
4 ステアリングユニット
5 車体
6 弾性体
7 前輪側油圧シリンダ
8L,8R 後輪
9L,9R 後輪操舵機構
10 後輪側油圧シリンダ
11 油圧源ユニット
12 前輪側フェールセーフバルブ
13 前輪側サーボバルブ
14 後輪側フェールセーフバルブ
15 後輪側サーボバルブ
16 エンジン
18,19 サーボアンプ
20 車速センサ
21 操舵角センサ
23 エンジン回転数センサ
24 前輪側変位センサ
25 後輪側変位センサ
26 ニュートラルスイッチ
27 クラッチスイッチ
28 ストップランプスイッチ
30 操舵制御コントローラ
31 目標値生成部
32 目標出力値生成部
33 後輪操舵装置失陥判断部
34 前輪操舵コントローラ
35 後輪操舵コントローラ
37 前輪操舵アクチュエータ
38 後輪操舵アクチュエータ
311 車両モデル演算部
312 目標値演算部
321 目標後輪舵角演算部
322 目標前輪舵角演算部
Claims (1)
- ハンドル操舵角を検出するハンドル操舵角検出手段と、
車速を検出する車速検出手段と、
前輪に補助舵角を付与する前輪補助舵角付与手段と、
後輪に補助舵角を付与する後輪補助舵角付与手段と、
検出されたハンドル操舵角及び車速に基づいて車両モデルから前輪補助舵角及び後輪補助舵角を算出し、前記前輪補助舵角付与手段及び前記後輪補助舵角付与手段に指令信号を出力する前後輪補助舵角制御手段と、
を備えた車両用舵角制御装置において、
前記前後輪補助舵角制御手段は、後輪補助舵角付与手段が失陥しているかどうかを検出する失陥判断部を有し、
前記後輪補助舵角付与手段が失陥していない時は、検出されたハンドル操舵角及び車速に基づいて目標ヨーレイト及び目標横速度を算出し、算出された目標ヨーレイト及び目標横速度となるように目標前輪舵角及び目標後輪舵角を演算し、演算された目標前後輪舵角となるように前記前輪補助舵角付与手段及び後輪補助舵角付与手段に指令信号を出力し、
前記後輪補助舵角付与手段が失陥していると判断されたときは、検出されたハンドル操舵角及び車速に基づいて目標ヨーレイト及び目標横速度を算出し、前記目標ヨーレイトとなるように、前記目標横速度及び失陥時の後輪操舵角に基づいて目標前輪舵角を演算し、演算された目標前輪舵角となるように前記前輪補助舵角付与手段に指令信号を出力することを特徴とする車両用舵角制御装置。
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