JP4120052B2 - 衝突エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衝突エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材に関する。特に自動車のフロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、シル、クロスメンバーなどに使用される、軸方向の衝突エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の安全性向上、特に衝突時の乗員の安全性向上が要請されており、この観点から自動車の衝突エネルギー吸収能力と剛性の向上が重要とされている。自動車が前面衝突した場合に受ける衝突荷重は、バンパーがこれを車体の骨格部材に分散して伝達し、車体の局部的な変形を防止する。バンパーの曲げ強度を高めることにより車体の変形が防止され、車体への衝撃が緩和される効果があるが、バンパーの主要な目的は車体の変形防止にあり、バンパー自体でのエネルギー吸収能は小さい。
【0003】
衝突エネルギーは、バンパーを介して客室前方の車体前後方向に向けて配設されるフロントサイドメンバーに伝達され、フロントサイドメンバーが軸方向に圧縮されて圧壊する際の塑性変形エネルギーとして吸収される。衝突時の客室の変形を少なくするにはフロントサイドメンバー等で大きなエネルギーを吸収する必要がある。客室周辺に配設されるシルやクロスメンバー等の部材は設計上エネルギー吸収を意図していないが、これらの部材においてもエネルギー吸収能が大きいほど衝突時の変形量が小さくなるので好ましいとされている。
【0004】
自動車の車体を構成する鋼構造体は、薄鋼板から成形した部品を接合して組み立てられる。これらの構造体は、剛性向上と軽量化を両立させるために、複数の薄鋼板製の部品を溶接組み立てした閉断面構造のビーム状の部材とされることが多い。閉断面構造の外殻を構成する部品を、以下では単に「外殻部品」と記す。
【0005】
ビーム状の鋼構造部材のエネルギー吸収能を向上させるには、外殻部品の厚さを増したり補強板を追設するなどの方法があるが、これらの方法は製造コストが増すうえ、車体重量が増し、燃費が低下し、CO2 排出量が増して環境を損なうなどの問題がある。
【0006】
車体重量を増加させずに耐衝突性能を向上させる手段としては、鋼板の高強度化や部材の断面形状の改善による断面2次モ−メントの増加などの方法がある。
【0007】
自動車技術会、学術講演会前刷集(934号、1993−10、頁169〜172)には、超高張力鋼板を閉断面構造のバンパービームに適用し、アルミニウム合金製や樹脂製のバンパーなみの優れたエネルギー吸収能を有する軽量なバンパーが開示されている。しかしながら、超高張力鋼板は成形性が乏しく、バンパービームのような単純形状の部材への加工は可能であるが、フロントサイドメンバーのように複雑な形状の構造部材には成形困難である。また、ここに開示されているのは曲げ強度の改善に関するものであり、ビーム状部材が軸方向に圧縮変形された際のエネルギー吸収性に関しては何ら開示されていない。また、高価な高張力鋼板を多用すると経済性が損なわれるという問題もある
古河電工時報(第92号、1993、頁50〜55)には、内部に補強用の柱を設けた閉断面構造のアルミニウム合金押し出し材を用いて、衝突特性と軽量化を両立させる技術が開示されている。しかし、押し出し材の成形加工には専用の設備を必要とするうえ、鋼板と比較してアルミニウムは素材コストが高く、鋼板との接合、接触腐食などの問題があるので適用先が制約される問題がある。
【0008】
自動車技術(49巻6号、1995、頁39〜60)には、閉断面構造部材の内部に発泡性の樹脂板を貼りつけ、塗装焼き付け時に発泡させて部材中空部を樹脂で充填したフレームが開示されている。樹脂充填によって、部材剛性と軸圧壊の吸収エネルギーが向上しているが、樹脂を充填することによる重量増があるために軽量化を阻害するうえ、樹脂を充填する際の作業性が良くなく、高価な樹脂を多用するために経済性も損なわれるという問題がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたように、従来の衝撃エネルギー吸収方法はその性能や経済性において種々の問題がある。また、鋼構造部材の曲げ強度の改善技術は種々開示されているが、閉断面構造を有する鋼構造部材が軸方向に圧縮さる変形様式でのエネルギー吸収能の改善については必ずしも十分ではない。例えば、フロントサイドメンバーのようなビーム形状の鋼構造部材が長手方向に衝撃荷重を受けて軸圧壊する過程では、長手方向の中間部分で部材が折れ曲がる現象が生じやすいが、このような変形で吸収される衝撃エネルギー量は極めて僅かである。このため、良好な形態の座屈変形が安定して発生し、良好な吸収能が安定して得られる鋼構造部材が求められている。
【0010】
本発明の目的は、上記のような課題を解決し、衝撃エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材を提供することにある。特に単位重量当たりの衝撃エネルギー吸収性にすぐれ、効率よく製造可能な、軸方向への圧壊時の衝撃エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、閉断面を有する鋼構造部材が軸方向に衝撃荷重が付加された場合の座屈現象について種々研究をおこない、安定して良好な座屈変形を得る方法について種々検討した。
【0012】
図1(A)は、上記検討に使用した閉断面構造を有する鋼構造部材の内部に仕切り板を有するビーム状の試験体6の断面図であり、図1(B)は、その側面図である。試験体6は、薄鋼板をプレス成形した2個の外殻部品1と仕切り板2を有し、フランジ部分をスポット溶接4により仕切り板2と共に接合している。試験体6の両端には衝突荷重を受けるためのプレート3がアーク溶接により固定されている。試験体の長さSは、衝突エネルギー吸収性を評価する場合には400mm、曲げ性を評価する場合には800mmとした。
【0013】
図2は、試験体6の3点曲げ試験方法を示す概念図である。長さ800mmの試験体6を、間隔が600mmである支点上に仕切り板が水平になるように置き、ロードセルを組み込んだ半径200mmの半円筒型の合計重量50kgの衝撃曲げ試験用重錘9を、衝突速度が時速50kmになる高さから試験体の支点間中央部に落下させ、重錘の移動量を非接触変位計で測定し、ロードセルからの荷重出力と対応させて記録し、荷重−変位曲線を得た。
【0014】
図3は、上述の方法で測定した3点曲げ試験時の荷重−変位曲線の例を概念的に示すグラフである。図3に示されているように、曲げ試験における荷重は最大荷重を記録した後急速に減少する。後述する軸圧壊変形で示されるような複数の荷重ピークは観察されない。最大荷重も軸圧壊時のそれに比べると小さい。この事からわかるように、曲げ変形でのエネルギー吸収能は軸圧壊変形でのエネルギー吸収能に比べるとかなり小さいものである。
【0015】
図4は、試験体6の軸方向に衝撃荷重を作用させて軸方向に圧壊させた場合の試験体に作用する荷重と変位との関係を調査する試験方法(以下、この試験方法を単に「軸圧壊試験」と記す)の概念図である。長さ400mmの試験体6の軸心を鉛直にしてロードセルを組み込んだ台座8の上に置き、重さが600kgの重錘5を、衝突速度が時速50kmになる高さから、上部のプレート3に落下させて試験体6を軸方向に圧壊させる。重錘5は試験体6を250mm押しつぶした後ストッパー7にあたって停止する。重錘5の移動量を非接触変位計(図示せず)で測定し、ロードセルからの荷重出力と対応させて記録し、荷重−変位曲線を得た。
【0016】
図5は上述の方法で測定した、衝撃荷重が部材の軸方向に平行に作用する変形様式による軸圧壊試験で得られる荷重−変位曲線の例を概念的に示すグラフである。この場合、試験体6は長手方向の複数の個所で座屈が発生して蛇腹状に圧壊する。座屈に対応して、複数の極大値が周期的に発生する荷重−変動曲線が得られる。荷重曲線と任意の変位量とで囲まれる面積が、それまでの変形で吸収されたエネルギーである。このように複数の座屈変形が生じる場合には、曲げ変形に比較して大きいエネルギー吸収量が得られる。
【0017】
他方、部材の中心軸から大きくずれた位置に、または軸方向からずれた方向に衝撃荷重が作用する場合(以下、単に「偏荷重」と記す)には、長手方向の中で最も弱い部分で折れ曲がり変形が発生し、以後はその部分に変形が集中するために他の部分では塑性変形せず、蛇腹状の変形が生じることなく変形が終了する。このような変形様式(以下、単に「偏荷重軸圧壊変形」とも記す)の場合に吸収されるエネルギーは、図3に示した曲げ変形の場合と同様に、荷重ピークが1個であり、ピークを過ぎた後は急速に荷重レベルが低下するために、極めて僅かな吸収エネルギーしか得られない。
【0018】
以上述べたように衝撃吸収エネルギーを高めるには、衝撃圧縮荷重が作用した時に長手方向の多数の部分で座屈が生じ、長手方向で均等に塑性変形させるのが重要である。しかしながら現実には部材の中心軸に平行に衝撃荷重が作用することはまれであり、偏荷重が作用する場合が多い。衝突安全性を高めるには、このような偏荷重が作用した場合でも安定して蛇腹状の変形挙動が得られることが望ましい。
【0019】
軸圧壊変形の初期には、閉断面を構成する外殻部材の相対する面の間隔が接近し(内側に凹み)、他の相対する面の間隔が広くなる(外側に広がる)変形(以下、このような変形を「偏平変形」と記す)が生じる。通常、フランジで接合されている面は外側に広がり、フランジのない面は内側に凹む傾向がある。
【0020】
相対するフランジ接合部間を仕切り板で連結することにより、フランジ接合部が外側に開こうとした場合には内向きの張力が作用するようにしておけば、フランジで接合されている面が外側に広がるのを抑制することができる。この作用により、断面形状が初期の形状を保ったまま安定した軸圧壊変形を生じさせることができる。
【0021】
仕切り板を使用することにより鋼構造部材の重量は増加するが、その単位重量当たりのエネルギー吸収能力は、仕切り板が無い場合に比較して大幅に向上させることが可能である。
【0022】
また、仕切り板の任意の場所に適度の大きさの開口部を設けることにより、仕切り板が鋼構造部材の側壁部に及ぼす張力の大きさを任意に変更することができる。これにより、鋼構造部材の長手方向で座屈抵抗を任意に調節できるので、所望の部分で座屈を生じさせ、蛇腹状の良好な座屈状態を安定して発生させることができる。開口部を設ければ仕切り板の重量が軽減されるので、座屈形状を損なうことなく軽量化も達成できる。このようにすることにより、理想的な圧壊挙動が安定して得られるうえ、単位重量当たりの吸収エネルギーを更に向上させることができる。
【0023】
本発明は、上記のような新たに得られた知見を基にして完成されたもので、その要旨は、下記の衝突エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材にある。
【0024】
2個の外殻部品を接合して構成した閉断面内に仕切り板を配設したビーム状の鋼構造部材であって、仕切り板は上記閉断面の中心軸を隔てて相対する接合部間を連結し、閉断面内の仕切り板の線長Lが、接合部間の最短距離L0以上、1.10L0以下であり、該閉断面が仕切り板で仕切られて生じる2個の空間の断面積A1およびA2がA2≦A1≦2A2で表される関係を満足するように仕切り板が配設されており、かつ、仕切り板の引張強さTS(N/mm2)とその厚さt(mm)は、外殻部品の引張強さTS0(N/mm2)とその厚さt0(mm)に対して下記(1)式および(2)式に記載の関係を満たす範囲のものであることを特徴とする衝突エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材。
【0025】
0.3≦t≦0.6* to ・・・・(1)
0.1≦TS* t/(TSo * to )≦0.3・・・・(2)
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に述べる。
本発明の鋼構造部材は、鋼板を成形して得られる外殻部品を2個または2個以上を接合して閉断面を形成し、その内部に仕切り板を有するビーム状の鋼構造部材であって、仕切り板は断面の中心軸を隔てて相対する外殻部品の接合部間を連結している。
【0027】
図1は、本発明の鋼構造部材の例を示す断面図であり、2個の外殻部品1と仕切り板2がフランジ部でスポット溶接されている。鋼構造部材の断面形状は、図1に例示したような矩形断面に限定する必要はなく、外殻部品の形状は、例えば円弧状などの任意の曲面を持ったものでもよい。鋼構造部材の断面形状は長手方向にそって変化してもよく、また、その軸心も長手方向に真直である必要はなく、曲がり部を有していても構わない。
【0028】
仕切り板2は、断面内で中心軸を隔てて相対する接合部間を連結する。この仕切り板は、鋼構造部材に軸方向の衝撃荷重が作用した際に接合部が外側に広がる偏平変形が生じるのを防止する作用をする。偏平変形を防止することにより折れ曲がり現象が発生せず、良好な蛇腹状の圧壊挙動が得られる。なお、両端部のプレート3は、衝撃試験の際に荷重を受けるためのものであって、実際上は必要としない。
【0029】
図7は、仕切り板の断面形状の例を示す概念図である。図7の実線で示すように、仕切り板は接合部間を最短距離Lo で連結するように配設するのが最も好ましいが、成形上の問題や、内部構造上の問題などのために最短距離で連結することが困難である場合には、仕切り板の閉断面内の線長LがLo の1.10倍以下であれば本発明の効果は発揮できる。線長LがLo の1.10倍を超えると、軸圧壊変形時または曲げ変形時に偏平変形が発生し、初期の断面形状の維持が困難になり、軸圧壊吸収エネルギーが低下するのでよくない。
【0030】
仕切り板の配設位置は、外殻部品が形成する閉断面が仕切り板で仕切られて生じる2個の空間の断面積A1 およびA2 が、A2 ≦A1 ≦2A2 で表される関係を満たすように配設される。これは、仕切り板が外殻部品の一方の面に近接し過ぎるのを避けるために規定するものである。仕切り板が一方の面に近接しすぎると、軸圧壊力が作用した場合に、良好な蛇腹状の変形が生じにくくなるためエネルギー吸収能が低下するので良くない。
【0031】
仕切り板は、一枚の鋼板であってもよいし、鋼構造部材の長手方向に複数個に分割した鋼板であっても構わない。さらに、仕切り板は必ずしも鋼構造部材の長手方向全長にわたって備える必要はなく、軸圧壊や曲げ変形が起きやすい部位等、特定の部位にのみ備えてもよい。長手方向に引張強さや厚さが異なるものであっても構わない。
【0032】
仕切り板2の引張強さTS(N/mm2 )とその厚さt(mm)は、外殻部品1の引張強さTS0 (N/mm2 )とその厚さt0 (mm)に対して下記(1)式および(2)式に記載の関係を満たす範囲のものとする。
【0033】
0.3≦t≦0.6* to ・・・・(1)
0.1≦TS* t/(TSo * to )≦0.3・・・・(2)
外郭部品が異なった引張強さまたは異なった厚さの部品から構成される場合は、それぞれの外殻部品毎に計算した引張り強さとその厚さの積の算術平均値を外郭部品の代表値として用いる。
【0034】
仕切り板の厚さが薄すぎる場合には仕切り板が溶接部で容易に破断し、偏平変形を防止する効果が不足する。これを避けるために仕切り板の厚さは0.3mm以上とする。仕切り板の厚さが外殻部品の厚さの0.6倍を超えると偏平変形を防止する効果が飽和する。このため、0.6倍を超えた厚さにするのは、鋼構造部材としての重量が増して単位重量当たりの吸収エネルギーが低下するので好ましくない。
【0035】
鋼構造部材の端部に軸方向の衝撃圧縮力が作用すると、仕切り板には外郭部品の強度に応じた張力が作用する。従って、仕切り板の強度は外殻部品の強度との関連で決定するのがよい。単位線長あたりの仕切り板の強度(TS *t)の外殻部品の強度(TS0 * t0 )に対する比が0.1未満では、仕切り板が破断して偏平変形を抑制する効果が小さくなるので好ましくない。上記の比が0.3を超えると接合部の口開きに対する仕切り板の効果が飽和する。このため0.3を超えて大きくするのはコストが高くなるので好ましくない。
【0036】
仕切り板に開口部を設けてその部分の偏平変形に対する拘束力を調整することにより、座屈の発生状況を調整することができる。仕切り板に座屈変形の安定化を目的とした上記の開口部を設けることにより、仕切り板の重量が軽減されて単位重量当たりの吸収エネルギーが更に向上するという効果も付随的に得られるので好都合である。
【0037】
図9は、仕切り板2に設ける開口部10の配置例を示す平面図である。開口部10の形状は矩形や楕円など任意でよく、その面積は所望の座屈間隔や吸収エネルギーレベルなどに応じて適宜決定すればよい。
【0038】
仕切り板は、外郭部材のフランジの間に挟まれて接合される。接合方法は、スポット溶接、アーク溶接、レーザー溶接など公知の溶接方法が適用できる。接着剤を併用するウエルドボンド法によって接合してもよい。
【0039】
【実施例】
(実施例1)
図8(A)〜(D)に示す4種類の寸法形状で、長さが400mmおよび800mmである試験体6を作製した。外殻部品1はいずれもプレス曲げ加工で成形した。フランジ部には仕切り板を挟み込み、50mm間隔でスポット溶接した。スポット溶接条件は溶接部の溶融凝固部の直径が、5√t(但し、t:溶接部の板厚の最大値)となるように調整した。試験体の両端部には厚さが6mmの鋼板をアーク溶接して接合した。長さが400mmの試験体は、図4に示した軸方向に衝撃荷重を作用させる方法で前述の条件による軸圧壊試験に供し、軸方向の変形量が200mmに達するまでに吸収したエネルギーを測定した。長さが800mmの試験体は、図2に示した方法で前述の条件による3点曲げ試験をおこない、曲げ最大荷重を測定した。
【0040】
他の長さ400mmの試験体を用いて、偏荷重軸圧壊変形時の座屈変形の発生状況を調査した。
【0041】
図6は、偏荷重軸圧壊変形を再現する偏荷重軸圧壊試験方法を示す概念図である。長さ400mmの試験体6の軸心を鉛直にして台座8の上に置き、重さが600kgの重錘5を、重錘の重心の位置を試験体の軸心からずらせた位置で衝突速度が時速50kmになる高さから上部のプレート3に落下させ、重錘の端部で試験体6を圧壊させる。試験体6には軸心に対して斜め方向から衝撃荷重が作用することになる。重錘5は試験体6を250mm押しつぶした後ストッパー7にあたって停止する。
【0042】
圧壊した試験体を軸方向から観察し、上部プレートの中心の投影点が下部プレート内にある場合を良好(○)、下部プレートの外側になる場合を不良(×)と判断し蛇腹状の座屈発生の安定性を評価した。
【0043】
表1の試験番号1〜16に、これらの試験体の形状、外殻部品と仕切り板の引張強さと厚さ、部材重量及び各種の性能評価結果を示した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示されているように、本発明の規定する条件を満足する仕切り板を設けた試験番号1は、仕切り板を設けなかった試験番号2に比較して、軸圧壊吸収エネルギーが単位重量あたりで19%、3点曲げ最大荷重が単位重量当たりで26%向上した。仕切り板の線長比L/L0 が本発明の規定する範囲を超えた試験番号4は、特性値の絶対値が、線長比が本発明の規定範囲内である試験番号1、3または5に比較して劣っていた。仕切り板の配設位置が片方の外殻部品の天井側に近づきすぎて、分割する領域の面積比が本発明が規定する範囲から外れた試験番号6では、仕切り板を設けなかった試験番号2よりわずかに特性が向上するのみであり、単位重量あたりで評価した特性値はよくなかった。仕切り板の厚さが薄かった試験番号7では、部材の変形中に仕切り板が破損したために特性は向上しなかった。
【0046】
試験番号9〜14は、外郭に引張強さが620N/mm2 の高張力鋼板を適用した場合の例である。本発明が規定する条件を満たす試験番号9および10は良好な性能を示した。試験番号11は高強度の鋼板を仕切り板に用いたが、その性能は試験番号10と大差なく、高強度鋼板を使用したために材料コストが高くなって経済性が損なわれた。仕切り板の厚さ比と強度比が本発明の規定する範囲を超えた試験番号12では、本発明が規定する条件を満たす仕切り板を使用した試験番号10に比較して、単位重量あたりの性能が良くなかった。試験番号14は、仕切り板の強度比が低く評価結果が良くなかった。試験番号16は、外殻部品の底面に対して仕切り板を斜めに配設したものであるが、このような形状でも仕切り板が無い試験番号15に比較して単位重量あたりの性能が良かった。
【0047】
以上の結果から明らかなように、本発明の規定する条件を満足する仕切り板を配設した鋼構造部材の単位重量あたりの吸収エネルギーおよび曲げ最大荷重は、仕切り板を有しない場合より10〜25%向上した。
【0048】
偏荷重軸圧壊試験では、強度比が本発明の規定する下限以上でありその配置が適切であった試験番号1、3、5、8〜12、16では、部材が途中で折れる現象が無く、良好な蛇腹状の座屈変形が生じたことが確認された。
【0049】
(実施例2)
仕切り板に開口部を設けた以外は試験番号9と同じ条件で試験体を作製した。仕切り板に設けた開口部の形状、寸法は図9に示した。この試験体に対して、実施例1に記載したのと同様の性能評価をおこなった。この評価結果を、表1に試験番号17として記載した。表1からわかるように、試験番号17では試験番号9に比較して部材重量が軽量であるうえ、軸圧壊荷重吸収エネルギーが高く優れた性能を有していた。偏荷重軸圧壊試験結果は良好であった。
【0050】
【発明の効果】
本発明の仕切り板を有する薄鋼板部材は、大幅な重量増を伴うことなく、軸圧壊吸収エネルギーや最大曲げ荷重を大幅に向上させることができ、自動車の衝突安全性を高めることができる。また本発明の鋼構造部材は、安価な低強度鋼を使用し、従来の製造設備を使用して容易に製造することができるので産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(A)は、本発明の閉断面構造を有する鋼構造部材の一例の形態を模擬した、断面内部に仕切り板を有するビーム状の試験体6の断面図である。図1(B)は、その側面図である。
【図2】3点曲げ試験方法を示す概念図である。
【図3】3点曲げ試験時の荷重−変位曲線を概念的に示すグラフである。
【図4】軸方向の圧壊を再現する軸圧壊試験方法を示す概念図である。
【図5】軸圧壊試験時の荷重−変位曲線を概念的に示すグラフである。
【図6】偏荷重軸圧壊変形を再現する偏荷重軸圧壊試験方法を示す概念図である。
【図7】仕切り板の断面形状の例を示す概念図である。
【図8】図8(A)〜(D)は実施例に用いた部材の断面図である。
【図9】仕切り板に設ける開口部の配置例を示す平面図である。
【符号の説明】
1・・・外殻部品、2・・・仕切り板、3・・・プレート、
4・・・スポット溶接部、5・・・重錘、6・・・試験体、
7・・・ストッパー、8・・・台座、9・・・衝撃曲げ試験用重錘、
10・・・開口部。
Claims (1)
- 2個の外殻部品を接合して構成した閉断面内に仕切り板を配設したビーム状の鋼構造部材であって、仕切り板は上記閉断面の中心軸を隔てて相対する接合部間を連結し、閉断面内の仕切り板の線長Lが、接合部間の最短距離L0以上、1.10L0以下であり、該閉断面が仕切り板で仕切られて生じる2個の空間の断面積A1およびA2がA2≦A1≦2A2で表される関係を満足するように仕切り板が配設されており、かつ、仕切り板の引張強さTS(N/mm2)とその厚さt(mm)は、外殻部品の引張強さTS0(N/mm2)とその厚さt0(mm)に対して下記(1)式および(2)式に記載の関係を満たす範囲のものであることを特徴とする衝突エネルギー吸収性に優れた鋼構造部材。
0.3≦t≦0.6*t0・・・・(1)
0.1≦TS*t/(TS0*t0)≦0.3・・・・(2)
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