JP4114854B2 - 高速断続切削で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、特に鋼や鋳鉄などの切削加工を高い機械的熱的衝撃を伴う高速断続切削条件で行なった場合にも、硬質被覆層にチッピング(微小欠け)の発生なく、すぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ(以下、被覆切削チップという)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金で構成された基体(以下、超硬基体という)の表面に、
(a)化学蒸着形成されたTiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上の積層からなり、かつ0.5〜10μmの平均層厚を有するるTi化合物層からなる下部層、
(b)0.3〜10μmの平均層厚を有し、かつ結晶構造がα型やκ型、さらにγ型の化学蒸着形成された酸化アルミニウム(以下、Al2O3で示す)層からなる上部層、
以上(a)の下部層と(b)の上部層で構成された硬質被覆層を化学蒸着形成してなる被覆切削チップが知られており、この被覆切削チップが、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一方、近年の切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は切削機械の高性能化とも相俟って高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆切削チップの場合、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工に用いた場合には問題はないが、これを高い機械的熱的衝撃を伴う高速断続切削に用いると、特に硬質被覆層を構成するAl2O3層が、硬質被覆層内で下部層であるTi化合物層に対して上部位置にあるため、切削時に前記Ti化合物層に比して被削材に優先的に当接することから、Al2O3層自体が直接的に大きな機械的熱的衝撃を受けることになり、Al2O3層はすぐれた高温硬さと耐熱性を有するが、靭性の劣るものであるために、これにチッピングが発生し、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【0004】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高速断続切削条件での切削加工でも硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆切削チップを開発すべく研究を行った結果、
(a)被覆切削チップの硬質被覆層を、TiN層と結晶構造がκ型のAl 2 O 3 (以下、κ−Al 2 O 3 で示す)層の構成層に特定した上で、これらTiN層とκ−Al 2 O 3 層の交互多重積層とすると共に、これらの個々の層厚を平均層厚で0.05〜0.2μmのきわめて薄い薄層とし、かつ全体平均層厚を1〜10μmとすると、この結果の硬質被覆層は薄膜化交互多重積層構造をもつことから、切削時に前記TiN薄層とκ−Al2O3薄層が同時に被削材の切削に直接的に関与し、それぞれのもつ特性、すなわち前記TiN薄層のもつすぐれた強度と靭性、および前記κ−Al2O3薄層のもつすぐれた高温硬さと耐熱性が同時に、かつ均等に、経時的変化なく発揮され、したがって、この結果の被覆切削チップは、これを特に鋼や鋳鉄などの高い機械的熱的衝撃を伴う高速断続切削に用いても、硬質被覆層にチッピングの発生がなく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するようになること。
(b)上記(a)の交互多重積層からなる硬質被覆層の表面に、硫化モリブデン(以下、MoS 2 で示す)層を最表面層として蒸着形成すると、前記MoS 2 層には、切粉の切刃表面に対する抵抗を著しく減少させて、切粉の滑りを円滑にさせ、もってスムースな切粉の流れを形成する作用があるので、高速断続切削加工時の機械的衝撃が上記交互多重積層からなる硬質被覆層との共存において、一段と緩和されるようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
【0005】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、超硬基体の表面に、個々の平均層厚が0.05〜0.2μmのTiN薄層とκ−Al 2 O 3 薄層の交互多重積層からなる硬質被覆層を、前記TiN薄層と前記κ−Al 2 O 3 薄層の形成の間に水素ガス導入による反応雰囲気の入れ替えを行ないながら、1〜10μmの全体平均層厚で化学蒸着形成し、さらに0.05〜1μmの平均層厚を有するMoS 2 層からなる最表面切粉滑り層を化学蒸着形成してなる、高速断続切削で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆切削チップに特徴を有するものである。
【0006】
なお、この発明の被覆切削チップにおいて、硬質被覆層の交互多重積層を構成するTiN薄層およびκ−Al 2 O 3 薄層の個々の平均層厚をそれぞれ0.05〜0.2μmとしたのは、いずれの薄層においても、その平均層厚が0.05μm未満になると、それぞれの薄層のもつ特性、すなわちTiN薄層によるすぐれた強度と靭性、およびκ−Al 2 O 3 薄層によるすぐれた高温硬さと耐熱性を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚がそれぞれ0.2μmを越えると、それぞれの薄層のもつ問題点、すなわちTiN薄層による耐摩耗性低下およびκ−Al 2 O 3 薄層による耐チッピング性低下が硬質被覆層に現われるようになるという理由によるものである。
また、同じく最表面切粉滑り層の平均層厚を0.05〜1μmとしたのは、その平均層厚が0.05μm未満では、所望のすぐれた切粉滑り性を確保することができず、一方その平均層厚が1μmを越えると、これが原因で硬質被覆層にチッピングが発生し易くなる、という理由からである。
さらに、硬質被覆層の全体平均層厚を1〜10μmとしたのは、その層厚が1μmでは所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その層厚が10μmを越えると、硬質被覆層にチッピングが発生し易くなるという理由によるものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
つぎに、この発明の被覆超硬工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもった超硬基体A,Gをそれぞれ製造した。
【0008】
ついで、これらの超硬基体A,Gのそれぞれを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、通常の化学蒸着装置に装入し、いずれも通常の形成条件として知られている、TiN薄層の形成条件を、
反応ガス組成−容量%で、TiCl4:4.2%、N2:30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:980℃、
反応雰囲気圧力:7kPa、
とし、また、κ−Al 2 O 3 薄層の形成条件を、
反応ガス組成−容量%で、AlCl3:3.3%、CO2:4.0%、HCl:2.2%、H2S:0.3%、H2:残り、
反応雰囲気温度:980℃、
反応雰囲気圧力:7kPa、
とし、それぞれ表2に示される目標層厚のTiN薄層とκ−Al 2 O 3 薄層を交互に、かつTiN薄層とκ−Al 2 O 3 薄層の形成の間には30秒間のH2ガス導入による反応雰囲気の入れ替えを行ないながら、同じく表2に示される積層数および全体目標層厚の硬質被覆層を上記超硬基体A,Gのそれぞれの表面に蒸着形成し、
さらに、上記硬質被覆層の表面に、同じく通常の化学蒸着装置を用いて、MoS2層の形成条件を、
反応ガス組成−容量%で、MoCl5:0.2%、H2S:0.3%、H2:残り、
反応雰囲気温度:980℃、
反応雰囲気圧力:7kPa、
として、同じく表2に示される目標層厚のMoS 2 層からなる最表面切粉滑り層を蒸着形成することにより本発明被覆切削チップ1,2をそれぞれ製造した。
【0009】
また、比較の目的で、原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr 3 C 2 粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもった超硬基体A〜Jをそれぞれ製造し、ついで、これら超硬基体A〜Jのそれぞれの表面に、同じ条件で超音波洗浄し、乾燥した状態で、同じ化学蒸着装置にて、表3に示される条件で、表4に示される組成および目標層厚の硬質被覆層を蒸着形成することにより従来被覆切削チップ1〜10をそれぞれ製造した。
【0010】
この結果得られた各種の被覆切削チップについて、これを構成する各種硬質被覆層および最表面切粉滑り層の組成および層厚を、オージェ分光分析装置、さらに走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、表2、4の目標組成および目標層厚と実質的に同じ組成および平均層厚(任意5ヶ所測定の平均値との比較)を示した。
【0011】
つぎに、上記本発明被覆切削チップ1,2および従来被覆切削チップ1〜10について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM415の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:350m/min、
切込み:2mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:3分、
の条件での合金鋼の乾式高速断続切削試験、および、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:400m/min、
切り込み:3mm、
送り:0.2mm/rev、
切削時間:3分、
の条件での鋳鉄の乾式高速断続切削試験を行い、いずれの切削試験でも切刃部の逃げ面摩耗幅を測定した。これらの試験結果を表5に示した。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】
【表4】
【0016】
【表5】
【0017】
【発明の効果】
表2〜5に示される結果から、TiN薄層とκ−Al 2 O 3 薄層の交互多重積層からなる硬質被覆層と、MoS 2 層からなる最表面切粉滑り層を形成してなる本発明被覆切削チップ1〜10は、いずれも鋼および鋳鉄の切削加工を高い機械的熱的衝撃を伴う高速断続切削条件で行っても、硬質被覆層が前記交互多重積層のTiN薄層による高強度と高靭性およびκ−Al 2 O 3 薄層によるすぐれた高温硬さと耐熱性を層全体に亘って均等的に具備するようになることから、前記最表面切粉滑り層による一段の切粉滑り性の向上と相俟って、硬質被覆層にチッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するのに対して、従来被覆切削チップ1〜10においては、いずれも特に上部層のAl2O3層が直接、かつ優先的に切削に関与し、主に前記上部層による切削態様となることから、高速断続切削条件での切削加工では、前記上部層の強度および靭性不足が原因でチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆切削チップは、各種の鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特にこれの断続切削を高速で行なった場合においてもすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金基体の表面に、個々の平均層厚が0.05〜0.2μmの窒化チタン薄層と結晶構造がκ型の酸化アルミニウム薄層の交互多重積層からなる硬質被覆層を、前記窒化チタン薄層と前記酸化アルミニウム薄層の形成の間に水素ガス導入による反応雰囲気の入れ替えを行ないながら、1〜10μmの全体平均層厚で化学蒸着形成し、さらに0.05〜1μmの平均層厚を有する硫化モリブデン層からなる最表面切粉滑り層を化学蒸着形成してなる、高速断続切削で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製スローアウエイチップ。
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