JP4114003B2 - 水性顔料分散体及び水性顔料記録液 - Google Patents

水性顔料分散体及び水性顔料記録液 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性顔料分散体及び水性顔料記録液に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、高精細度を要求される水性記録液には染料が用いられてきた。染料を用いた記録液は、高透明度、高精細度や優れた演色性などの特徴を有しているが、耐光性及び耐水性等の問題を有する。
【0003】
近年、耐光性及び耐水性の問題を解決するために、染料に代えて有機顔料やカーボンブラック等の顔料を用いた記録液が製造されている。
【0004】
しかしながら、顔料を用いた記録液の場合、普通紙印刷において、紙の繊維間に水性記録液が浸透するため、色材である顔料が紙面上に残らず、十分な印字濃度が得られないという問題点があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、たとえば、特開平11−80636号公報、特開平11−92686号公報のように、顔料表面にカルボキシル基、水酸基等の親水基を化学的に結合させた自己分散型カーボンブラックを用いる方法が開示されている。
しかしながら、自己分散型カーボンブラックを含む水性顔料分散体から調製される水性顔料記録液は、依然、耐水性や耐擦過性に問題があり、また粒子が大きすぎると保存安定性が、小さすぎると印字濃度が低いといった問題点を有している。
【0006】
また、水性顔料分散体中に糖類を添加して水性顔料記録液とすることにより、印字濃度を高める方法も提案されているが、この場合、記録液の粘度が大きく増加し、例えば、インクジェット記録装置のノズルに目詰まりして、記録液がノズルから適切に吐出されなくなる等の問題があった。
【0007】
さらに特開2001−49154号公報には、側鎖に糖類を有し、かつその側鎖にはエステル結合、エーテル結合、アミド結合を含むアクリル系樹脂の様な有機高分子化合物を水性記録液の一成分に含める方法も提案されている。これらから調製した記録液は粘度上昇が抑えられているものの、顔料の紙面への定着が不充分で、やはり耐擦過性に問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来の樹脂組成を変更することにより、普通紙への印字において、高い印字濃度を実現し、耐擦過性の優れた印字が可能な水性顔料記録液が調製できる水性顔料分散体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、側鎖に糖類とエステル結合やアミド結合の構造を有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有する従来のアニオン性基含有有機高分子化合物に代えて、ひとつの側鎖に同時に糖類とウレタン結合の構造を有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物を用いることにより、紙との親和性がより向上し、普通紙印刷における印字濃度の向上と耐擦過性の向上を実現するに至った。
【0010】
即ち、本発明は上記課題を解決するために、顔料と、側鎖に糖類の構造を有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物とを含有する水性顔料分散体において、前記高分子化合物が、一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有する高分子化合物であることを特徴とする水性顔料分散体、及びこの水性顔料分散体を用い質量換算による分散粒子含有率1〜8%に調製した水性顔料記録液を提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の水性顔料分散体は、顔料と、少なくとも一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物とを含有する。ここで水性媒体とは、水のみまたは水と水溶性有機溶剤との混合物で質量換算で60%以上の水を含んでいるものを言う。
【0012】
本発明の水性顔料分散体の調製に用いる顔料は、有機顔料或いは無機顔料であり、公知慣用のものがいずれも挙げられる。
【0013】
本発明の水性顔料分散体において、その水性媒体に分散している粒子(分散粒子)は、顔料粒子と前記アニオン性基含有有機高分子化合物粒子であっても良いが、顔料が前記アニオン性基含有有機高分子化合物で被覆された粒子である、マイクロカプセル型複合粒子であっても良い。そして水性顔料分散体には、前記分散粒子が、平均粒子径が50〜200nmとなる様に分散している。
【0014】
一方、顔料と共に用いるアニオン性基含有有機高分子化合物は、少なくとも一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するアニオン性基含有高分子化合物である。この様な高分子化合物としては、次の重合単位を有する重合体が挙げられる。アニオン性基含有有機高分子化合物に含まれる次の重合単位は、その他の単量体の重合単位との関係において、ランダムであっても、ブロックであってもよい。
【0015】
【化2】
Figure 0004114003
【0016】
(ただし、上記式中R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素原子数1〜3のアルキレン基、Sは糖類からひとつの活性水素原子を除いた残基である。)
【0017】
本発明におけるアニオン性基含有有機高分子化合物は、例えば、アニオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と、下記の様な単量体(以下、糖類含有単量体という)を必須成分として重合することにより得ることが出来る。この単量体は、糖類の構造とウレタン結合とを同時に有する。
【0018】
【化3】
Figure 0004114003
【0019】
(ただし、式中R1,R2及びSは上記と同義である。)
【0020】
上記有機高分子化合物における重合単位又は糖類含有単量体における式中Sに相当する糖類としては、水酸基を有する糖類、例えば、グルコース、フルクトース、等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース、等の二糖類;デンプン、セルロース誘導体等の多糖類が挙げられる。
【0021】
さらにセルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、ブチルセルロース、イソブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0022】
上記糖類含有単量体は、糖類に含まれる活性水素原子と、活性水素原子と反応し得る官能基を有する不飽和脂肪酸エステル類とを反応させて合成することが出来る。具体的には、この糖類含有単量体は、例えば、非水系において、イソシアネートアルキル(メタ)アクリレートと、水酸基を有する糖類とを付加反応させることにより得ることが出来る。
【0023】
この反応の際には、必要に応じて、活性水素原子を有さない各種の有機溶剤、ウレタン化触媒等を適宜用いることができる。この際の反応温度及び反応時間は、通常、5〜80℃で15分〜8時間である。反応の終点は、例えば仕込み時から水酸基価を追跡し、水酸基価がゼロまたはそれが一定となり変化しなくなった時点とすることが出来る。
【0024】
アニオン性基含有有機高分子化合物は、アニオン性基を有していれば特に限定されるものではなく、例えばカルボキシル基、スルホン基、ホスホ基、チオカルボキシル基等のアニオン性基を含有するエチレン性不飽和単量体の一種以上と、これらアニオン性基含有エチレン性不飽和単量体と、必要に応じてそれらと共重合し得るその他のエチレン性不飽和単量体とを共重合させて得られるアニオン性基含有有機高分子化合物が挙げられる。
【0025】
原料モノマーの入手のしやすさ、価格等を考慮すると、カルボキシル基またはスルホン基を含有するアニオン性基含有有機高分子化合物が好ましく、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できる点でカルボキシル基を含有するアニオン性基含有有機高分子化合物がさらに好ましい。
【0026】
このアニオン性基含有有機高分子化合物は、例えば、架橋部分を有していてもいなくとも良い。
【0027】
本発明において使用できるアニオン性基含有有機高分子化合物の代表例としては、架橋部分を有するアクリル酸エステル系重合体、架橋部分を有さないアクリル酸エステル系重合体、架橋部分を有するメタクリル酸エステル系重合体、架橋部分を有さないメタクリル酸エステル系重合体を挙げることができる。本発明においては、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの両方を包含して(メタ)アクリル酸エステルと呼ぶものとする。また、(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として重合した重合体を意味する。
【0028】
最適なアニオン性基含有有機高分子化合物は、アニオン性基がカルボキシル基およびカルボキシラート基の両方を含有するアニオン性基含有有機高分子化合物である。
【0029】
カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、4−ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸類;コハク酸ビニル、マレイン酸アリル、テレフタル酸ビニル、トリメトリット酸アリル等の多塩基酸不飽和エステル類が挙げられる。またスルホン酸基を含有するモノマーの例としてはアクリル酸2−スルホエチル、メタクリル酸4−スルホフェニル等の不飽和カルボン酸スルホ置換アルキルまたはアリールエステル類:スルホコハク酸ビニル等のスルホカルボン酸不飽和エステル類;スチレン−4−スルホン酸等のスルホスチレン類を挙げることができる。
【0030】
上記と共重合し得るその他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2,3−エポキシプロピル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エーテル類;スチレン、α―メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン、等スチレン類;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン、等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3−クロロプロピレン、等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン、等のビニル置換複素環化合物類;上記例示単量体中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、等活性水素を有する置換基を含有する単量体とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等、エポキシド類との反応生成物;上記例示単量体中の水酸基、アミノ基等を有する置換基を含有する単量体と酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等のカルボン酸類との反応生成物等を挙げることができる。
【0031】
前記アニオン性基含有有機高分子化合物を、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体から選択する場合には、少なくとも(メタ)アクリル酸の炭素原子数3〜5のアルキルエステルからなる群から選ばれる1以上の単量体を構成要素とし、その他の単量体と重合した共重合体を選択するか、または、少なくとも(メタ)アクリル酸の炭素数3〜5のアルキルエステルからなる群から選ばれる1以上の化合物を構成要素とすると共に、スチレンをも構成要素として含有する共重合体を選択するのが性能上も好ましい。
【0032】
尚、上記した糖類含有単量体は、質量換算で、アニオン性基含有有機高分子化合物を得るのに用いる全単量体を100%としたとき3〜10%、好ましくは3〜6%に相当する量を用いることが好ましい。こうすることで、糖類含有単量体に基づく重合単位が、質量換算で、3〜10%、好ましくは3〜6%であるアニオン性基含有有機高分子化合物が得られる
【0033】
かかるアニオン性基含有有機高分子化合物は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等の従来より公知の種々の反応方法によって合成することができる。
【0034】
本発明に用いられるアニオン性基含有有機高分子化合物の重量平均分子量は、分散体の粘度が低く、分散安定性も良好で、インクジェットプリンタ用インクに適用した場合に長期間安定した印字を行わせることが容易な点で、2,000〜100,000の範囲にあることが好ましく、5,000〜50,000の範囲にあることが特に好ましい。
【0035】
また本発明に用いられるアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価およびガラス転移点はそれぞれ30〜220mgKOH/gおよび−20〜60℃の範囲にあることが、分散体の分散性や分散安定性が良好で、またインクジェットプリンタ用インクに適用した場合の印字安定性が良く、画像の耐水性も良好な上、耐摩擦性、耐棒積み性等の画像保存性も良好となるので好ましい。
【0036】
本発明の水性顔料分散体中におけるアニオン性基含有有機高分子化合物は、アニオン性基の少なくとも一部が塩基性物質によってイオン化された形態をとっていることが分散性、分散安定性の発現のうえで好ましい。アニオン性基のうちイオン化された基の最適割合は、通常30〜100%、特に70〜100%の範囲に設定されることが好ましい。このイオン化された基の割合はアニオン性基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の割合は100%未満であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0037】
このように、アニオン性基含有有機高分子化合物の、アニオン性基の少なくとも一部をイオン化するために用いられる塩基性物質としては、公知慣用のものが挙げられるが、例えばアンモニア、第一級、第二級もしくは第三級の有機アミン(塩基性含窒素複素環化合物を含む)、水酸化アルカリ金属からなる群から選ばれる化合物が好適には挙げられる。これらの例示した好適な塩基性物質でアニオン性基の少なくとも一部をイオン化することにより、カルボキシラート基の対イオンは、アンモニウムイオン(塩基性含窒素複素環化合物のプロトン化カチオンを含む)アルカリ金属イオンからなる群から選ばれるカチオンが挙げられる。
【0038】
本発明の水性顔料分散体は、例えば下記する様な1)〜4)の方法で製造することが出来る。
1)上記アニオン性基含有有機高分子化合物を含む水性エマルジョンに顔料を機械的に強制分散する水性顔料分散体の製造方法。
2)顔料の存在下の水中で分散剤を用いて上記した各単量体を重合させ必要に応じて会合させる水性顔料分散体の製造方法。
3)顔料と上記アニオン性基含有有機高分子化合物と有機溶剤の混合物を、水と塩基性物質を用いて徐徐に油相から水相に転相させてから脱溶剤して、顔料が上記アニオン性基含有有機高分子化合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子とする、同複合粒子を含む水性顔料分散体の製造方法。
4)顔料と上記アニオン性基含有有機高分子化合物と塩基性物質と有機溶剤と水との均一混合物から脱溶剤を行い、酸を加えて酸析し析出物を洗浄後、この析出物を塩基性物質と共に水性媒体に分散させる、顔料が上記アニオン性基含有有機高分子化合物で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子とする、同複合粒子を含む水性顔料分散体の製造方法。
【0039】
本発明では、上記いずれの製造方法をとるにせよ、顔料、アニオン性基含有有機高分子化合物、塩基性物質および水からなる混合物を分散する工程を必須として含ませることが好ましい。この混合物には水溶性有機溶剤を含めるのが好ましい。より具体的には、少なくとも顔料、アニオン性基含有有機高分子化合物、塩基性物質、水溶性有機溶剤および水からなる混合物を分散する工程(分散工程)を含ませることが好ましい。
【0040】
また、分散工程において水溶性有機溶剤を併用することができ、それにより分散工程における液粘度を低下させることができる場合がある。水溶性有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトンおよび炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。これらの水溶性有機溶剤はアニオン性基含有有機高分子化合物溶液として用いられても良く、別途独立に分散混合物中に加えられても良い。
【0041】
本発明の水性顔料分散体は、質量換算で顔料100部当たり、上記有機高分子化合物不揮発分25〜75部、水性媒体825〜875部となる様に、上記した原料を用いて製造することが出来る。
【0042】
分散工程において用いることのできる分散装置として、既に公知の種々の方式による装置が使用でき、特に限定されるものではないが、例えば、スチール、ステンレス、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、ガラス等でできた直径0.1〜10mm程度の球状分散媒体の運動エネルギーを利用する方式、機械的攪拌による剪断力を利用する方式、高速で供給された被分散物流束の圧力変化、流路変化あるいは衝突に伴って発生する力を利用する方式、等の分散方式を採ることができる。
【0043】
本発明の水性分散体としては、分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性の全ての面で、より優れた特性を発揮させるに当たっては、顔料が一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆された粒子(即ち前記したマイクロカプセル型複合粒子)という形態で水性媒体中に分散していることが好ましい。
【0044】
このような状態を形成するため、顔料がアニオン性基含有有機高分子化合物を含有する液媒体中に分散している状態において、前記の分散工程の後工程として、溶解状態にあるアニオン性基含有有機高分子化合物で顔料表面を被覆する工程を組み込むことが好ましい。
【0045】
溶解状態にあるアニオン性基含有有機高分子化合物を顔料表面に被覆させる工程としては、アルカリ性水溶液に溶解しているアニオン性基含有有機高分子化合物を、溶液を酸性化することにより析出させる工程(酸析工程)が好ましい。
【0046】
蒸留工程の例には、分散工程において有機溶剤を使用した場合に、これを除去する工程、所望の固形分濃度にするため余剰の水を除去する工程等がある。
【0047】
酸析工程の例には、分散工程で得られた水性分散体に塩酸、硫酸、酢酸等の酸を加えて酸性化し、塩基と塩を形成することによって溶解状態にあるアニオン性基含有有機高分子化合物を顔料粒子表面に析出させる工程等がある。この工程により、顔料とアニオン性基含有有機高分子化合物との相互作用を高めることができる。その結果、前記した様なマイイクロカプセル型複合粒子が水性分散媒中に分散している形態を取らせることができ、水性分散体として、分散到達レベルや分散安定性等の物性面や耐溶剤性等の使用適性の面で、より優れた特性を発揮させることができる。
【0048】
濾過工程の例には、前述した酸析工程後の固形分をフィルタープレス、ヌッチェ式濾過装置、加圧濾過装置等により濾過する工程等がある。再分散工程の例には、酸析工程、濾過工程によって得られた固形分に塩基性物質および必要により水や添加物を加えて再び分散液とする工程がある。それによりアニオン性基含有有機高分子化合物中のイオン化したアニオン性基の対イオンを分散工程で用いたものから変更することができる。
【0049】
こうして得られた本発明の水性顔料分散体は、例えば、水性インク、水性塗料等の各種着色用途において、着色濃度が高く、耐擦過性に優れた着色物を得ることが出来る。
【0050】
本発明の水性顔料分散体は、質量換算による分散粒子含有率1〜8%となる様に調製し水性顔料記録液とする。この際には、上記したより濃厚な水性顔料分散体に対して必要に応じて水や水溶性有機溶剤加えて必要な分散粒子含有率となる様に希釈したり、湿潤剤、防かび剤、pH調節剤等の水性インクの調製に必要な各種添加剤を併用することが出来る。また得られた水性顔料記録液は、必要に応じてミクロフィルターにより濾過をすることにより、インクジェット記録用に適したノズル目詰まり等の極めて少ない水性記録液とすることが出来る。
【0051】
また、吐出方式に応じた組成に適宜調製することにより、ピエゾ方式でもサーマル方式でもいずれの方式にも対応できる水性顔料記録液を得ることが出来る。
【0052】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を具体的に説明するものであり、実施の態様がこれにより限定されるものではない。
【0053】
【実施例】
以下の実施例および比較例において、「部」および「%」は、いずれも質量換算である。
【0054】
<合成例1>(糖類の構造とウレタン結合とを同時に有する単量体の合成)
エチルセルロース25部をメチルエチルケトン500部に室温で攪拌しながら溶解させ、「カレンズMOI」(メタクリル酸エチルイソシアナート、昭和電工(株)製)を8.35部添加し、4時間攪拌して、糖類の構造とウレタン結合とを同時に有する単量体(上記一般式においてR1がメチル基、R2がエチレン基、Sがエチルセルロースの一つの活性水素原子を除いた残基である。)を得た。
【0055】
<合成例2>(糖類の構造とエステル結合とを同時に有する単量体の合成)
エチルセルロース25部をメチルエチルケトン500部に室温で攪拌しながら溶解させ、塩化メタクリロイルを5.63部添加し、4時間攪拌して、糖類の構造とエステル結合とを同時に有する単量体を得た。
【0056】
<合成例3>(一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを有するアニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器に、合成例1の単量体溶液313部(不揮発分8%)を仕込み、メチルエチルケトンを237部追加して攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸n−ブチル150部、アクリル酸n−ブチル30部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル50部、メタクリル酸80部、メタクリル酸メチル40部、スチレン125部、および「パーブチルO」(有効成分:ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)50部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で6時間反応を継続させて、酸価104、重量平均分子量19,000の、一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを有するアニオン性基含有有機高分子化合物溶液(A−1)を得た。反応終了後、樹脂溶液の不揮発分を48%に調製した。
【0057】
<合成例4>(一つの側鎖に糖類の構造とエステル結合とを有するアニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
合成例3と同様の反応容器に、合成例2の単量体溶液285部(不揮発分8.8%)を仕込み、メチルエチルケトンを265部追加して攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。合成例3と同様の単量体およびその数量を滴下して重合させ、酸価104、重量平均分子量20,000の、一つの側鎖に糖類の構造とエステル結合とを有するアニオン性基含有有機高分子化合物溶液(A−2)を得た。反応終了後、樹脂溶液の不揮発分を52%に調製した。
【0058】
<合成例5>(アニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
合成例3の反応容器に、メチルエチルケトンを500部追加して攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、メタクリル酸n−ブチル175部とした以外は、合成例3と同様の単量体およびその数量を滴下して重合させ、酸価104、重量平均分子量20,500のアニオン性基含有有機高分子化合物溶液(A−3)を得た。反応終了後、樹脂溶液の不揮発分を48%に調製した。
【0059】
<実施例1>
カーボンブラック#960(中性カーボン、三菱化学(株)製)16部、A−1を16.7部、A−1中に含まれる高分子化合物の酸価相当量の5%水酸化カリウム水溶液16.6部を混合し、水を56.7部追加した。さらに、ジルコニアビーズ400部を投入して、ペイントシェーカーを用いて2時間混練した。得られたカーボンブラック分散液から、濾過によりジルコニアビーズを除去した後、蒸留工程にて含有するメチルエチルケトンを除去した。次の酸析工程において、このカーボンブラック分散液に2%塩酸をpH4〜5になるように加え、アニオン性基含有有機高分子化合物をカーボンブラック粒子表面上に析出させて、これを濾過してウエットケーキとした。次の再中和工程で、酸価相当量の5%水酸化カリウム水溶液と、顔料分を10%とするのに必要な量の水を添加して、ディスパーを用いて、水性顔料記録液用のマイクロカプセル型複合粒子が分散した水性顔料分散体(B−1)を調製した。
【0060】
<比較例1>
カーボンブラック#960の16部、A−2を15.4部、A−2中に含まれる高分子化合物の酸価相当量5%水酸化カリウム水溶液16.6部を混合し、水を58.0部追加した以外は、合成例6と同様の方法で、顔料分10%の水性顔料記録液用のマイクロカプセル型複合粒子が分散した水性顔料分散体(B−2)を調製した。
【0061】
<比較例2>
カーボンブラック#960の16部、A−3を16.7部、A−3中に含まれる高分子化合物中の酸価相当量の5%水酸化カリウム水溶液16.6部を混合し、水を56.7部追加した以外は合成例6と同様の方法で、顔料分10%の水性顔料記録液用のマイクロカプセル型複合粒子が分散した水性顔料分散体(B−3)を調製した。
【0062】
<実施例2>
合成例6で得られた水性顔料分散体(B−1)を用い、特開平7−228808号公報記載の実施例1を参考にしてインクジェットプリンタ用インクを調製した。インク組成を以下に示す。
【0063】
水性分散体(B−1) 25部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5部
ジエチレングリコール 7.5部
サーフィノール465(エアクロダクツ社製) 0.4部
水 12.1部
【0064】
<比較例3>
水性顔料分散体(B−1)に代えて合成例7で得られた水性顔料分散体(B−2)を用い、実施例1のインク組成により、インクジェットプリンタ用インクを調製した。
【0065】
<比較例4>
水性顔料分散体(B−1)に代えて合成例8で得られた水性顔料分散体(B−3)を用い、実施例1のインク組成により、インクジェットプリンタ用インクを調製した。
【0066】
(印字濃度評価)
上記のように調製した各インクを用い、ピエゾ方式のインクジェットプリンタ(STYLUS C80 セイコーエプソン(株)製)で二種類の普通紙(キャノン製 Canon PB Paper、富士ゼロックス製 PPC用紙)にベタ印字したものを、GRETAGマクベス反射濃度計D196でOD値を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(耐擦過性評価)
上記のインクジェットプリンタを用いてCanon PB Paperに印字し、1時間放置後消しゴムで5回強く擦り、非印字部の汚れを目視で判定した。
全く汚れなし…○
やや汚れた……△
かなり汚れた…×
【0068】
【表1】
表 1
Figure 0004114003
【0069】
表1より、一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するアニオン性有機高分子化合物を含有する水性顔料分散体を用いた実施例2は、高分子化合物中の前記ウレタン結合がエステル結合である以外は同様の比較例3と比較して、普通紙各種への印字濃度がより向上し、ウレタン結合のより優れた接着性により耐擦過性に優れている。また、糖類の構造を有さない同様の高分子化合物を含有する水性分散体を用いた比較例4に比べても、普通紙各種への印字濃度が高く、耐擦過性に優れていることが明らかである。
【0070】
【発明の効果】
本発明の水性顔料分散体は、一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するアニオン性基含有有機高分子化合物を含有するので、従来のエステル結合等を有する同様の高分子化合物を含有する水性顔料分散液に比べて、着色濃度が高く、耐擦過性に優れた着色物を得ることが出来る。この様な水性顔料分散体から調製した水性顔料記録液は、普通紙への印字において従来よりも高い印字濃度と、優れた耐擦過性を実現することができる。

Claims (4)

  1. 顔料と、側鎖に糖類の構造を有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物とを含有する水性顔料分散体において、前記高分子化合物が、少なくともひとつの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に含む重合体であることを特徴とする水性顔料分散体。
  2. 前記高分子化合物が、次の重合単位を有する重合体である請求項1記載の水性顔料分散体。
    Figure 0004114003
    (ただし、上記式中R1は水素原子またはメチル基、R2は炭素原子数1〜3のアルキレン基、Sは糖類からひとつの活性水素原子を除いた残基である。)
  3. 顔料と、少なくとも一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物とが、顔料が一つの側鎖に糖類の構造とウレタン結合とを同時に有するエチレン性不飽和単量体の重合単位を有するアニオン性基含有有機高分子化合物で被覆された粒子として含まれる請求項1または2記載の水性顔料分散体。
  4. 請求項1、2または3に記載の水性顔料分散体を用い、質量換算による分散粒子含有率1〜8%に調製した水性顔料記録液。
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