JP4113359B2 - アルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、アーク溶接によってアルミニウム溶接部に形成された窪み部を補正するためのアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、例えば、ステンレス鋼、耐熱合金、銅合金、アルミニウム合金等に対して高品質の溶接を得ることが可能なミグ溶接(MIG WELDING)が知られている。このミグ溶接とは、シールドガスの雰囲気中でワイヤと被溶接物との間にアークを発生させ、前記発生したアークによってワイヤが溶融するにしたがって順次ワイヤを送給することによりアルミニウム合金を溶接する、ガスシールド消耗電極式アーク溶接方法をいう。
【0003】
例えば、シールドガスとしてアルゴンを用い、アルミニウム合金に対してミグ溶接を施した場合、アークによるクリーニング作用下に溶接部表面に形成された酸化皮膜を除去するためにその表面温度が高温となり、溶接ビードの終端では、熱の集中による溶け落ちが生じやすくなって後述するクレータ状の窪み部が発生する。
【0004】
ここで、前記クレータ状の窪み部の発生原因について詳説する。
【0005】
アルミニウムそのものは、約660℃の温度で溶融するが、その表面に酸化皮膜が形成されている。その酸化皮膜を形成している主成分はアルミナであり、このアルミナを溶融させるためには、約2000℃まで加熱温度を上げないと酸化皮膜を除去することができず、該酸化皮膜によって被覆された母材(アルミニウム)を溶融させることができない。
【0006】
そこで、ミグ溶接時において、酸化皮膜を除去するためには、アークをシールドガスとして吐出されるアルゴンガスに引火させて加熱温度を上昇させている。なお、その際、溶接トーチの姿勢は、溶接指示箇所に沿って前進方向にトーチ角度を保持する必要がある。
【0007】
そこで、図4Aに示されるように、溶接開始点P1から溶接終了点P2に向かって溶接作業を開始させると、アーク発生後の狙い位置より前進方向で母材が溶融し、狙い位置より後方で溶接ビード1を形成しながら進行方向(溶接終了点P2の方向)に沿って進ませることにより母材が溶融する(図4B参照)。
【0008】
前記溶接ビードの終端位置、すなわち溶接作業が溶接終了点P2まで進行してその位置で溶接作業を終了した際、前記溶接終了点P2にはクレータ状の窪み部2がそのまま残存する(図4C参照)。
【0009】
従来技術では、このようにして発生したクレータ状の窪み部2が、例えば、溶接割れ、クラック等の原因となるため、溶接作業が終了した後、作業者の人力によって前記クレータ状の窪み部2を埋め込んで肉盛りする溶接作業が遂行されるとともに、研磨加工等によって平面状とする補正作業を行っている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来技術に係るクレータ状の窪み部の補正方法では、肉盛り作業を行う際、前記クレータ状の窪み部を被覆する酸化皮膜を除去する必要があるため、肉盛りされたクレータ状の窪み部が高温(約2000℃)となり、溶接ビードのさらなる溶け落ちが発生しやすいという不具合がある。
【0011】
また、従来技術に係るクレータ状の窪み部の補正方法では、肉盛り作業が作業者による人力作業であるため、その仕上がりにバラツキが生ずるとともに、盛り過ぎ等が発生する不具合がある。
【0012】
本発明は、前記の種々の不具合を考慮してなされたものであり、溶接終了後の補正工数を軽減するとともに、安定した品質を有する溶接ビードを形成することが可能なアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、シールドガスを吐出させながら電極と母材との間にアークを発生させ、前記母材に対して溶融するワイヤを介してMIG溶接を行った際、前記母材の溶接部位の終端部に形成された窪み部を処理するための方法であり、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材の溶接部位に対する溶接終了後、前記シールドガスの吐出状態を保持したまま前記電極に対する通電を一時的に停止してアークの発生を阻止し、アルミニウム溶接部に形成された窪み部に対して冷却作用を施す。
【0014】
従って、電極に対する通電を一時的に停止することによりアークの発生が阻止されているため、アルミニウム溶接部位の終端部に形成された窪み部に酸化皮膜が形成されることがなく、しかも、前記窪み部を冷却することにより酸化速度を遅延させることができる。
【0015】
続いて、前記電極に対する通電停止状態を解除して再度通電することによりアークを発生させ、溶融するワイヤを介して前記窪み部を埋め込む溶接を遂行する。
【0016】
本発明によれば、窪み部を埋め込んで肉盛りする溶接を行う際、前記窪み部に酸化皮膜が形成されていないため、前記酸化皮膜を除去するために高温に加熱する必要がなく、溶接ビードの溶け落ちを防止することができる。
【0017】
また、本発明によれば、溶接用ロボットのアームに溶接用ノズルを保持させ、前記溶接用ロボットに入力されたティーチングデータに基づいて前記溶接用ロボットを制御することにより、仕上がりにバラツキがなく安定した品質を有する溶接ビードが形成される。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明に係るアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法について、これを実施する溶接用ノズルとの関連において好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0019】
図1において、参照数字10は、本発明の実施の形態に係るアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法を実施する溶接用ノズルを示す。
【0020】
この溶接用ノズル10は、MIG溶接に適用されるものであり、XYZの3軸を含む多軸方向に変位自在に設けられた溶接用ロボット12のアーム14に保持される(図2参照)。前記溶接用ノズル10の一端側の開口部16からは図示しない不活性ガス供給手段を介してシールドガスが吐出されるとともに、一対の送給ローラ18a、18bを介してワイヤ20が前記開口部16から母材側に向かって送給される。
【0021】
前記溶接用ノズル10の内部には、前記ワイヤ20を被覆する電極チップ22が設けられ、前記電極チップ22には、図示しない電源によって所定の電圧が印加される。この場合、前記電極チップ22を通じてワイヤ20に通電され、溶接用ノズル10から所定長だけ突出するワイヤ20の先端部と母材(アルミニウム)との間でアークが発生する。従って、発生したアークが、例えば、アルゴンまたはヘリウム等のシールドガスを引火させ、母材の表面を溶融させるとともに、溶接用ノズル10から突出するワイヤ20の所定部分を溶融させるように設けられている。
【0022】
次に、前記溶接用ノズル10を用いて、MIG溶接を行う工程について以下に説明する。なお、本実施の形態では、母材としてアルミニウムを用い、シールドガスとしてアルゴンガスを用いた。また、上述した従来技術と同様の工程については、同一の参照数字を用いて説明する。
【0023】
この場合、図2に示されるように、前記溶接用ロボット12のアーム14に対して溶接用ノズル10を所定のトーチ角度となるように保持させ、予め入力されたティーチングブログラムに基づいて溶接用ロボット12のアーム14を自在に制御する。
【0024】
図4Aに示されるように、溶接用ロボット12のアーム14の制御作用下に溶接用ノズル10を被溶接物の溶接開始点P1から溶接終了点P2に向かって進行させ、溶接作業を開始させる。その際、図示しないガス供給手段を介して溶接用ノズル10の一端部側の開口部16から母材に向かってアルゴンガスが突出されるとともに、電極チップ22を介してワイヤ20に通電され、ワイヤ20の先端部と母材との間に発生するアークを介して前記アルゴンガスが点火される。
【0025】
従って、アーク発生後の狙い位置より前進方向で母材が溶融し、狙い位置より後方で溶接ビード1を形成しながら進行方向(溶接終了点P2の方向)に沿って溶接用ノズル10を進行させることにより母材が溶融する(図4B参照)。
【0026】
前記溶接ビード1の終端位置、すなわち溶接作業が溶接終了点P2まで進行してその位置で溶接作業を終了した際、アルゴンガスの吐出をそのまま保持した状態で電極チップ22に対する通電を所定時間(例えば、約1〜2sec)だけ停止させる(図3A参照)。
【0027】
この場合、前記溶接終了点P2にはクレータ状の窪み部2がそのまま残存するが、電極チップ22に対する通電が停止されアークの発生が阻止されているために、クレータ状の窪み部2の表面に酸化皮膜が形成されることがない。しかも、溶接用ノズル10の一端側の開口部16から吐出されるアルゴンガスによってクレータ状の窪み部2が冷却されるため(例えば、表面温度を約2000℃から約600℃に低下させる)、クレータ状の窪み部2の表面が酸化される速度を遅延させることができる。
【0028】
なお、電極チップ22に対する通電を停止したとき、毎分約1リットルの流量からなるアルゴンガスが吐出され、電極チップ22に対する通電および通電停止、並びにアルゴンガスの供給および供給停止、アルゴンガスの吐出流量等は、全て溶接用ロボット12に予め入力されたティーチングプログラムによって制御される。
【0029】
続いて、クレータ状の窪み部2の表面に酸化皮膜が形成されることがない前記の状態において、図3Bに示されるように、電極チップ22に再び通電してアークを発生させ、溶融するワイヤ20によって前記クレータ状の窪み部2を埋め込む溶接作業が行われる。このクレータ状の窪み部2に対する溶接時間は、約1.5〜2secの範囲内で行われ、前記溶接作業中において毎分約1リットルの流量からなるアルゴンガスが吐出される。
【0030】
従って、クレータ状の窪み部2に対して溶融したワイヤ20によって所定量の肉盛りがされた後、前記肉盛りした部分を図示しない研磨手段または切削手段によって平面状にカットすることにより、溶接部位に対する補正作業が終了する(図3C参照)。
【0031】
このように、本実施の形態に係るアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法では、溶接ビード1の終端位置(溶接終了点P2)において一時的に電極チップ22に対する通電を停止させてアルゴンガスを吐出した状態に保持することによりアークの発生を阻止し、クレータ状の窪み部2の表面に酸化皮膜が形成されることを防止する。
【0032】
従って、一時的に電極チップ22に対する通電停止状態を解除してクレータ状の窪み部2に対して肉盛りの溶接を施す補正作業では、前記クレータ状の窪み部2に対して酸化皮膜を除去するために高温(約2000℃)に加熱する必要がなく、溶接ビード1の溶け落ちを防止することができる。
【0033】
また、従来技術では前記補正作業を作業者の人力によって行っていたが、本実施の形態に係るアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法では、溶接用ロボット12に予め入力されたティーチングプログラムに基づいて遂行することにより、仕上がりにバラツキがなく、盛り過ぎ等を防止することができる。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0035】
すなわち、窪み部を埋め込んで肉盛りする溶接を行う際、前記窪み部に酸化皮膜が形成されていないため、前記酸化皮膜を除去するために高温に加熱する必要がなく、溶接ビードの溶け落ちを防止して、溶接終了後の補正工数を軽減するとともに、安定した品質を有する溶接ビードを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法を実施する溶接用ノズルの軸線方向に沿った縦断面図である。
【図2】図1に示す溶接用ノズルが溶接用ロボットのアームに保持されて溶接を行っている状態の斜視図である。
【図3】図3A乃至図3Cは、それぞれ、図2の溶接用ノズルを用いてアルミニウム溶接部に形成された窪み部を処理するための工程を示す説明図である。
【図4】図4A乃至図4Cは、それぞれ、従来技術に係るMIG溶接工程を示す説明図である。
【符号の説明】
1…溶接ビード 2…クレータ状の窪み部
10…溶接用ノズル 12…溶接用ロボット
14…アーム 16…開口部
20…ワイヤ 22…電極チップ
Claims (2)
- シールドガスを吐出させながら電極と母材との間にアークを発生させ、前記母材に対して溶融するワイヤを介してMIG溶接を行った際、前記母材の溶接部位の終端部に形成された窪み部を処理するための方法において、
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる母材の溶接部位に対する溶接終了後、前記シールドガスの吐出状態を保持したまま前記電極に対する通電を一時的に停止してアークの発生を阻止し、アルミニウム溶接部に形成された窪み部に対して冷却作用を施す工程と、
前記電極に対する通電停止状態を解除して再度通電することによりアークを発生させ、溶融するワイヤを介して前記窪み部を埋め込む溶接がなされる工程と、を有することを特徴とするアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法。 - 請求項1記載の方法において、
溶接用ロボットのアームに溶接用ノズルを保持させ、前記溶接用ロボットに入力されたティーチングデータに基づいて前記溶接用ロボットが制御されることを特徴とするアルミニウム溶接部に形成された窪み部の処理方法。
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