JP4110780B2 - 高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法、特に、線型状態観測器を用いた推定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、高炉炉熱を推定して高炉を制御する方法として、例えば特開平1−201404号公報、特開平5−156327号公報等に開示されているものがある。この特開平1−201404号公報等においては次にようにして炉熱レベル等を求めてアクション量を決定している。
【0003】
高炉に設置された各種のセンサからデータを所定のタイミングで取り込み、センサからのデータに基づいて、羽口埋込み温度、荷下り速度、圧力損失、炉頂温度、ガス利用率、ソリューションロス量等、高炉の状況を示す各種データを作成すると共に、各種データをその基準データと比較して、その差データを作成した後に、その加工データ(各種データ、各種データと基準データとの差データ)と知識ベース格納手段に格納された知識ベースとに基づいて人工知能としての推論演算を行い、高炉に対するアクション量を決定する。その推論演算に際しては、炉熱レベル判定知識ベースを用いて炉熱レベルが推定され、炉熱推移判定知識ベースを用いて炉熱推移が推定される。これらの炉熱レベル及び炉熱推移を推論する際には、確信度関数とその適用方法を決定するルール群とが用いられ、推論結果に対する確信度を得る。次に、アクション判定知識ベースに上記の炉熱レベル及び炉熱推移を適用してアクション量を決定する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術においては、加工データを炉熱レベル判定知識ベース及び炉熱推移判定知識ベースにそれぞれ適用して炉熱レベル及び炉熱推移を推論している。これらの炉熱レベル判定知識ベース及び炉熱推移判定知識ベースには、メンバーシップ関数が用いられており、そのメンバーシップ関数は数百個からなるが、メンバーシップ関数の設定は実績データ(例えば3ヶ月間以上)に基づいて、センサデータと溶銑温度間の関係を統計的に処理して決定している。しかし、実際には、炉内状況変化に応じた外乱が常に発生しており、メバーシップ関数で推定される平均的な炉熱レベルと実測される炉内溶銑温度とは異なるという問題点がある。
【0005】
外乱の例とした以下のようなものが考えられる。
▲1▼炉心活性状況が悪くなると炉内のガス流れが不安定となり、溶融還元される溶銑の量及び温度も不安定となる。
▲2▼スラグ比が高くなるとスラグ昇温に熱が奪われ、溶銑温度は低下する。
▲3▼スリップが発生すると未還元鉱石が下部に降下してくるため、炉内溶銑温度が低下する。
従って、変動している外乱に対応してメンバーシップ関数を常に調整しなければならずメンテナンス負荷が高く、適正パラメータの維持が困難であるため、推論精度も低くなるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、外乱が発生しても制御モデルのパラメータを調整する必要がなく、高精度な推論を可能にした高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の一つの態様に係る高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法は、推定温度である羽口本体温度を出力とし、高炉炉熱操作量、及び実際の測定値である羽口本体実績温度と前記出力との差分を入力とし、炉内溶銑温度及び外乱を状態量とし、該状態量と前記出力との関係を線型回帰式で、前記入力と前記状態量との関係を状態方程式で表す線形状態観測器を用いて、高炉の実績に基づいて線形状態観測器の制御モデルの係数を同定して、溶銑温度及び外乱を連続的に推定する推定方法であって、タップ最高溶銑温度を炉内溶銑実績温度と同等であると仮定し、タップ最高溶銑温度と羽口本体温度との関係を線形回帰式で長期間の実績データから又はタップ最高溶銑温度が判明する毎に同定して、前記線型回帰式の係数を求める工程と、外乱が発生していないと判断されるときに、前記高炉炉熱操作量をステップ状での操作を行い、該操作量を入力、羽口本体実績温度を出力として動特性を求めたのち、該動特性と前記係数を求めた線形回帰式とに基づいて前記炉熱操作量と前記炉内溶銑温度との関係を表す状態方程式を求めて、該状態方程式の係数を求める工程と、該状態方程式の係数を求める工程において求めた係数を、前記線形状態観測器の状態方程式の係数として、該状態方程式の特性方程式を計算し、該特性方程式を解くことによって、炉内溶銑温度と外乱を連続に推定する工程とを有する。
【0008】
本発明の他の態様に係る高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法は、前記高炉炉熱操作量に、各操作に対応して予め実績に基づいて求められた変換係数を乗じることによって、前記高炉炉熱操作量を送風湿分の熱量に換算し、その熱量を線型状態観測器の入力とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係る高炉炉熱推論方法が適用された装置の概念図である。高炉10及び線型状態観測器20は図1に示される制御モデルによりそれぞれ表現されるものとする。高炉10の実績に基づいて線型状態観測器20の制御モデルの係数を同定して、炉内溶銑温度及び外乱を連続的に推定する。線型状態観測器20は、羽口本体温度を出力yとし、高炉炉熱操作量u、及び羽口本体実績温度yと前記出力(y)との差分を入力とし、炉内溶銑温度x及び外乱vを状態量としており、状態量と出力との関係は線型回帰式で表され、入力と状態量との関係は状態方程式で表されるものとし、高炉10の実績に基づいて線型状態観測器20の制御モデル(線型回帰式、状態方程式)の係数を同定して、溶銑温度及び外乱を連続的に推定する。以下のその詳細を説明する。
【0012】
▲1▼タップ最高溶銑温度を炉内溶銑温度とが同等と仮定し、タップ最高溶銑温度と羽口本体温度との関係を線形回帰式(ダイミクスは無いと仮定)で長期間の実績データから又はタップ最高溶銑温度が判明する毎に同定し、下記の(1)式の係数Cを求める。ここで、炉況安定時のタップ最高溶銑温度及び外乱と羽口本体温度の関係は下記の(1)式の線形回帰式で記述されるものとする。
【0013】
【数1】
【0014】
x:状態量(炉内溶銑温度、外乱)
y:出力(羽口本体温度)
C:出力係数
【0015】
▲2▼高炉の操業が安定しているときに、即ち外乱が発生していないと判断されるときに、オペレータ判断による炉熱調整(ステップ状操作)を行い、このときの操作量と羽口本体温度間から動特性(一次遅れ)を同定し、この式と(1)式から溶銑温度の動特性を求める。ここで、炉熱操作量と炉内溶銑温度との関係は下記の状態方程式(2)で表されるものとし、A及びBの係数を求める。なお、炉熱操作量とは、送風湿分、送風温度、送風流量、コークス比、微粉炭比などを送風湿分の熱量に換算し、コークス比など上部から操作するものについては炉下部到達までの無駄時間を考慮した操作量をいい、本実施形態においては操作量変換器30により自動的に変換される。なお、操作量変換器30による熱量変換においては、各操作の対応した変換係数を実績等に基づいて予め求めて設定しておき、その変換係数に操作量を乗算して送風湿分の熱量に換算するものとする。
【0016】
【数2】
【0017】
x:状態量(炉内溶銑温度)
u:操作量(Moi 換算操作量)
A:モデル係数(−1/T)
B:モデル係数(G/T、G:ゲイン)
【0018】
▲3▼外乱をステップ状外乱と仮定して次の(3)式を得る。
【0019】
【数3】
【0020】
(4)炉熱操作量を入力、羽口本体温度を出力、炉内溶銑温度と外乱を状態量として、線型状態観測器20により溶銑温度を推定する。具体的には、外乱も状態量として炉熱操作量から炉内溶銑温度までの特性を状態方程式で表すと次の(4)式が得られる。
【0021】
【数4】
【0022】
ここで、線型状態観測器20の制御モデルと高炉10の制御モデルとが全く一致していると、線型状態観測器20の制御モデルは次の(5)式で表される。
【0023】
【数5】
【0024】
外乱vは測定できないので、溶銑温度xだけを出力にとれば、
【0025】
【数6】
【0026】
なお、上記のCは説明を簡単にするためにC=[1 0]と仮定したが、実際には小数点以下の値が設定される。
【0027】
入力u(スカラ)と外乱v(スカラ)の両者を合わせると、fの次元は2次の列ベクトルとなるが、yがスカラだからゲイン行列Kはk1,k2よりなる列ベクトルである。従って、
【0028】
【数7】
【0029】
(4)式から(5)式を引き、更に(8)式を用いると、
【数8】
【0030】
となる。(4)式の係数Aと(7)式とを(9)式に適用してその特性方程式を計算すると、
【0031】
【数9】
【0032】
上記の(9)式の2固有値を任意に小さく指定するとa1,a2が決定され、(10)式、(11)式からk1,k2が求められる。外乱を計測できないのでプラントの初期状態は分からない。そこで、モデルは初期状態を0にとってスタートする。(9)式において(A−KC)が漸近的に安定でしかも収束の速い固有応答を持つようにKを設計することにより、
【0033】
【数10】
【0034】
により外乱及び溶銑温度を連続的にオンラインで観測できる。なお、炉況が大きく変化した場合には、上述の▲2▼の炉熱調整を行って線型状態観測器20の各係数を求めて設定すればよく、この係数は上述のように簡単に求めることができるので、各係数の適正な維持を簡単に行うことができる。
【0035】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、高炉の操業に応じて線型状態観測器の係数を求めて、その係数が設定された線型状態観測器により炉内溶銑温度及び外乱をそれぞれ推定するようにしたので、外乱が発生しても、従来の炉熱制御システムのように数百ヶからなるメンバーシップ関数を最新の炉内状況・出銑状況(炉心活性状況、出銑速度、スラグ比等)に応じて各係数(パラメータ)を調整し直す必要がない。また、炉内溶銑温度と外乱とをそれぞれ推定するので、炉内溶銑温度の推論に際しては外乱の影響を受けず、炉内溶銑温度を高精度に推論することができる。また、炉熱制御に必要な炉内溶銑温度と外乱とをオンラインで連続的に推定することができるので、外乱発生による制御性の悪化を防止することができる。また、線型状態観測器の各係数の調整負荷が少なくて済むので、線型状態観測器の各係数を適正に維持することができ、この点からも高精度な推論が可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係る高炉炉熱推論方法が適用された装置の概念図である。
【符号の説明】
10 高炉
20 線型状態観測器
30 操作量変換器
Claims (2)
- 推定温度である羽口本体温度を出力とし、高炉炉熱操作量、及び実際の測定値である羽口本体実績温度と前記出力との差分を入力とし、炉内溶銑温度及び外乱を状態量とし、該状態量と前記出力との関係を線型回帰式で、前記入力と前記状態量との関係を状態方程式で表す線形状態観測器を用いて、高炉の実績に基づいて線形状態観測器の制御モデルの係数を同定して、溶銑温度及び外乱を連続的に推定する推定方法であって、
タップ最高溶銑温度を炉内溶銑実績温度と同等であると仮定し、タップ最高溶銑温度と羽口本体温度との関係を線形回帰式で長期間の実績データから又はタップ最高溶銑温度が判明する毎に同定して、前記線型回帰式の係数を求める工程と、
外乱が発生していないと判断されるときに、前記高炉炉熱操作量をステップ状での操作を行い、該操作量を入力、羽口本体実績温度を出力として動特性を求めたのち、該動特性と前記係数を求めた線形回帰式とに基づいて前記炉熱操作量と前記炉内溶銑温度との関係を表す状態方程式を求めて、該状態方程式の係数を求める工程と、
該状態方程式の係数を求める工程において求めた係数を、前記線形状態観測器の状態方程式の係数として、該状態方程式の特性方程式を計算し、該特性方程式を解くことによって、炉内溶銑温度と外乱を連続に推定する工程と
を有することを特徴とする高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法。 - 前記高炉炉熱操作量に、各操作に対応して予め実績に基づいて求められた変換係数を乗じることによって、前記高炉炉熱操作量を送風湿分の熱量に換算し、その熱量を線型状態観測器の入力とすることを特徴とする請求項1記載の高炉炉内溶銑温度及び外乱の推定方法。
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