JP4107022B2 - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置、特に機関始動時にインジェクタの昇圧駆動制御を実施する内燃機関に適用される燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題への対応として、ガソリン等の従来燃料に代えて、大気汚染物質の排出のより少ない圧縮天然ガス(CNG)を燃料として使用する内燃機関、すなわちCNG機関の採用が、車両等の様々な分野で進められている。
【0003】
こうしたCNG機関は、燃料タンクや燃料配管、インジェクタ等の燃料供給系を除いては、ガソリン機関と概ね共通した構成で構築することが可能である。そこで、既存のガソリン機関の構成部品の多くを流用することで、低コストでCNG機関を開発することが広く行われている。さらに、ベースとなった既存のガソリン機関用の電子制御装置についても、その多くの部分を、CNG機関に流用することがなされてもいる。
【0004】
ここで、ガソリン機関では、機関制御用の電子制御ユニット(ECU)が、各種センサ類の検出信号に基づいて、内燃機関の運転状態に応じたインジェクタ駆動制御用の指令信号を生成し、それをインジェクタ駆動回路に出力するようにしている。そしてインジェクタ駆動回路が、その指令に基づいて、必要量の燃料を噴射できるようにインジェクタの電磁ソレノイドへ通電してノズルを開弁させることで燃料噴射制御が実施されている。
【0005】
こうしたガソリン機関用のECUをCNG機関に流用した場合、ガソリン噴射を想定したECUの指令信号に基づいて、CNG噴射をする必要がある。そのため、指令信号により指示されるガソリン噴射と同等のCNG噴射が行えるように、燃料噴射時間を換算する機能をインジェクタ駆動回路に持たせる必要がある。
【0006】
ところでCNG機関では、CNG自体に含まれる、或いは燃料タンクへのガス充填時にCNG中に混入されたコンプレッサの機械オイル等に含まれるタール成分によって、低温時にインジェクタのニードル弁が固着してしまうことがある。また、CNGの主成分であるメタンガス中に含まれる水分、或いはCNGの燃焼により生じた水分などが凍結することによっても、ニードル弁が固着してしまうことがある。
【0007】
そこで従来、そうしたCNG機関の燃料噴射制御装置として、そうしたニードル弁の固着、すなわちノズル固着を解消すべく、機関始動時にインジェクタの昇圧駆動制御を実施するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。昇圧駆動制御は、低温となる機関始動時に、電磁ソレノイドに対して通常よりも高い電圧を印加してインジェクタを駆動させることで、ニードル弁の開弁駆動力を増加させて、上記固着の解消を図るものである。こうした昇圧駆動制御は、ガソリン機関では実施されない制御であるため、ガソリン機関用に設計されたECUでは、それについての対応はなされていない。
【0008】
ただし、インジェクタ駆動回路のみで独自に昇圧駆動制御を実施できるようにすれば、ガソリン機関用のECUを流用して構成されたCNG機関の燃料噴射制御装置でも、その実施は可能である。そのためには、インジェクタの駆動電圧を昇圧させる昇圧回路をインジェクタ駆動回路に組み込む必要がある。またインジェクタ駆動回路にも、始動判定に必要なセンサ類の検出信号を入力し、昇圧駆動制御の実行期間を決めるべく、機関始動時であるか否かをインジェクタ駆動回路に独自に判定させる必要もある。
【0009】
このように構成された燃料噴射制御装置では、機関始動時の燃料噴射制御は以下の態様で行われる。
機関始動が開始されるとECUは、機関始動に対応した始動制御を実施する。このときECUは、機関始動に応じた燃料噴射、すなわち始動噴射を実行すべく指令信号を生成し、インジェクタ駆動回路に出力する。またインジェクタ駆動回路は、入力された指令信号に基づき駆動信号を生成してインジェクタに出力する。このときのインジェクタ駆動回路から出力される駆動信号は、昇圧回路によって通常よりも駆動電圧が昇圧されている。
【0010】
電子制御装置は、各種センサ類の検出信号に基づいて内燃機関の始動判定を行っており、機関始動が完了したと判定されると、始動噴射から通常噴射へと燃料噴射制御を切り替える。これにより、インジェクタ駆動回路に出力される指令信号も、始動噴射に応じた指令信号から、内燃機関運転状況に応じて噴射量等が設定される通常噴射に応じた指令信号へと切り替わる。一方、インジェクタ駆動回路でも、各種センサ類の検出信号に基づいて内燃機関の始動判定が行われ、機関始動が完了したと判定されると、昇圧回路による駆動信号の昇圧を停止して、インジェクタの昇圧駆動制御を終了する。
【0011】
【特許文献1】
特開平2000−282905号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような燃料噴射制御装置では、ECUとインジェクタ駆動回路とが、それぞれ独自に内燃機関の始動判定を行っている。しかしながら、そうした場合に、例えばセンサ類の検出信号にノイズが混入したり、或いは電気回路上で信号伝達が遅延したりすると、ECUとインジェクタ駆動回路との間で、機関始動の完了の判定がなされる時期にずれが生じる虞がある。そしてこうした判定時期のずれは、次のような不具合をもたらすことがある。
【0013】
ECU側では機関始動完了の判定が既になされているにも拘わらず、インジェクタ駆動回路側ではその判定が未了の場合、インジェクタ駆動回路は、通常噴射に応じた指令信号が入力されているにも拘わらず、昇圧駆動制御を実施することとなる。通常噴射においては、機関運転状況に応じて噴射量等が設定されるため、1噴射あたりの燃料の噴射要求期間が、始動噴射時よりも長期となることがある。その場合、本来想定されているよりも長期間に亘って継続してインジェクタの昇圧駆動が行われることとなり、昇圧回路やインジェクタの電磁ソレノイド等に想定外の回路発熱を招いてしまうこととなる。
【0014】
この点、上記従来の燃料噴射装置では、機関始動時の冷却水温度や燃料圧力の状態に基づいて、インジェクタの昇圧駆動を行う燃料噴射の回数を予め設定するようにしている。このようにすれば、機関始動が長期化した場合にも、それに合わせて昇圧駆動制御の実施期間が長期化されてしまうことは回避されるため、昇圧駆動制御の長期実施に起因する回路発熱等の発生は低減される。
【0015】
ただし、こうした回数の設定だけでは、上記のような判定時期のずれに起因して発生する回路発熱の問題を抜本的に解決することはできない。すなわち、上記の如く昇圧駆動を行う燃料噴射の回数を予め設定しておいても、その設定された回数の噴射が完了する前に、ECUにて機関始動完了の判定がなされ、通常噴射に切り替えられてしまえば、やはり上記のような回路発熱の発生を招いてしまう。
【0016】
もっとも、機関始動の完了前に昇圧駆動制御が確実に終了されるように、昇圧駆動を行う燃料噴射の回数を少なく設定すれば、そうした回路発熱の発生は確かに回避できる。しかしながら、その場合には、十分な昇温がなされる前の機関始動中に昇圧駆動制御が打ち切られてしまうため、一旦はノズルの固着を剥離できたとしても、再び凍結が生じてノズルが再固着してしまうといった別の問題の発生を招いてしまうこととなる。
【0017】
ちなみにこうした問題は、上記のようなガソリン機関をベースに開発されたCNG機関の場合に限らず、機関始動時のインジェクタ昇圧駆動をインジェクタ駆動回路が独自に行うように燃料噴射制御装置が構成されていれば、内燃機関の如何を問わず、同様に発生することがある。
【0018】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、インジェクタのノズル固着を好適に抑制しながらも、回路発熱の発生を回避することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、機関運転状態に基づきインジェクタの駆動制御にかかる指令信号を出力する噴射指令手段と、その指令信号に基づき前記インジェクタを駆動するインジェクタ駆動回路とを備えて前記インジェクタからの燃料噴射を制御する内燃機関の燃料噴射制御装置において、機関始動時に、前記インジェクタの駆動電圧を昇圧させる昇圧回路と、前記指令信号のパターンの変化に基づいて前記昇圧回路による前記駆動電圧の昇圧を中止させる昇圧駆動中止手段と、を備えることを特徴とする。
【0020】
上記構成では、噴射指令手段によって、機関運転状態に基づいたインジェクタの駆動制御にかかる指令信号が出力される。こうした指令信号には、機関始動状態にあるか、機関始動の完了後の通常運転状態にあるかの機関運転状態の違いも反映される。そのため、指令信号のパターンは、機関始動が完了したと噴射指令手段が判定したことに応じて変化する。
【0021】
そこで、上記構成では、そうした指令信号のパターンの変化に基づいて、昇圧回路による駆動電圧の昇圧を中止させるようにしている。これにより、駆動電圧の昇圧を、噴射指令手段の始動判定の結果と連動して中止させることができる。従って、インジェクタのノズル固着を好適に抑制しながらも、回路発熱の発生を回避することができる。
【0022】
なお、昇圧回路やインジェクタの電磁ソレノイド等の回路発熱は、昇圧した駆動電圧により長時間連続してインジェクタを駆動すること、すなわち駆動電圧の昇圧中に1噴射あたりの燃料噴射期間が長期化することに応じて発生する。その点、上記構成では、燃料の噴射要求期間を指示する指令信号のパターンに基づいて駆動電圧の昇圧中止の可否を判定しているため、的確に回路発熱の発生を回避できるようにもなる。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記昇圧駆動中止手段は、前記指令信号のパターンが、機関始動時に前記噴射指令手段の出力する指令信号のパターンと異なるパターンに変化したときに、前記駆動電圧の昇圧を中止させることを特徴とする。
【0024】
上記構成では、噴射指令手段の出力する指令信号のパターンが、機関始動時に出力される指令信号のパターンとは異なるパターンに変化したときに、駆動電圧の昇圧が中止される。そのため、機関始動の完了に応じて駆動電圧の昇圧をより的確に中止させることができる。
【0025】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記昇圧駆動中止手段は、燃料の噴射要求期間を指示する前記指令信号の変化に基づいて前記駆動電圧の昇圧を中止させることを特徴とする。
【0026】
機関始動が完了して通常運転状態となると、それまでの機関始動中とは異なった量の燃料噴射が要求され、指令信号により指示される燃料の噴射要求期間に変化が生じることがある。上記構成では、そうした指令信号により指示される燃料の噴射要求期間の変化に着目して、駆動電圧昇圧の中止判定を行うようにしているため、駆動電圧の中止判定を、より容易且つ適切に行うことができる。
【0027】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記昇圧駆動中止手段は、前記指令信号により指示される燃料の噴射要求期間が所定値以上に変化したときに前記駆動電圧の昇圧を中止させることを特徴とする。
【0028】
上記のように昇圧回路やインジェクタの電磁ソレノイド等の回路発熱は、駆動電圧の昇圧中に1噴射あたりの燃料噴射期間が長期化することに応じて発生する。そのため、上記のように、指令信号により指示される燃料の噴射要求期間が所定値以上に変化したことを条件に駆動電圧の昇圧を中止するようにすれば、回路発熱の発生をより的確に回避することができる。
【0029】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記昇圧駆動中止手段は更に、機関運転状態を検出するセンサ類の検出信号に基づいて前記内燃機関の始動判定を行い、機関始動が完了したと判定されたときにも前記駆動電圧の昇圧を中止させることを特徴とする。
【0030】
上記構成では、指令信号のパターンの変化に基づく中止判定と、内燃機関の始動判定に基づく中止判定の双方により、駆動電圧昇圧の中止判定が行われる。そのため、駆動電圧昇圧の中止判定を、より容易且つ適切に行うことができる。
【0031】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記噴射指令手段は、前記インジェクタから実際に噴射される燃料とは異なった燃料を噴射するインジェクタを対象とした指令信号を出力するものであって、前記インジェクタ駆動回路は、その指令信号を前記インジェクタから実際に噴射される燃料用に変換して前記インジェクタを駆動するものであることを特徴とする。
【0032】
既存の内燃機関をベースとして、それとは異なる燃料を使用する内燃機関を開発した場合に、上記構成となることがある。このような構成では、ベースとなった既存の内燃機関では、インジェクタの駆動電圧の昇圧について対応していないことも多く、駆動電圧の昇圧に伴う回路発熱の発生を招きやすい。そのため、上記各請求項に記載の内燃機関の燃料噴射装置を適用することで、より顕著な効果を奏することができる。また、上記のような構成においても、インジェクタの駆動電圧の昇圧を適切に行うことができるようにもなる。
【0033】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、当該内燃機関は、燃料として気体燃料を使用することを特徴とする。
【0034】
気体燃料を使用する内燃機関では、インジェクタからの燃料噴射に伴う燃料の気化熱による冷却により、インジェクタのノズル固着が生じやすいため、上記各請求項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置を適用することで、より顕著な効果を奏することができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をCNG機関用の燃料噴射制御装置として具体化した一実施形態について図1を参照して詳細に説明する。本実施の形態にかかる燃料噴射制御装置の適用されるCNG機関は、ガソリン機関を基に開発されており、その構成要素の多くはベースとなったガソリン機関のものが流用されている。
【0036】
はじめに、図1を参照して、この実施の形態の燃料噴射制御装置で制御対象となるインジェクタ10の構造を説明する。
インジェクタ10は、燃料室11、噴射口12、ニードル弁13、及び電磁ソレノイド15を備えて構成されている。燃料室11は、インジェクタ10の内部に形成されており、外部より加圧された燃料が流入されるようになっている。この燃料室11は、ノズル14を介して、インジェクタ10の先端に形成された噴射口12と連通可能となっている。
【0037】
燃料室11と噴射口12との連通は、ニードル弁13の駆動に応じて、許容・遮断されるようになっている。ニードル弁13は、スプリング16によって、燃料室11と噴射口12との連通を遮断する側に付勢されている。一方、電磁ソレノイド15は、電圧の印加に応じて、上記スプリング16の付勢力に抗して燃料室11と噴射口12との連通を許容させる側へとニードル弁13を駆動させる電磁吸引力を発生する。
【0038】
よってこのインジェクタ10では、電磁ソレノイド15に電圧を印加させると、ニードル弁13が駆動されて、燃料室11に流入された燃料がノズル14を通って噴射口12より噴射されるようになる。ここでは、インジェクタ10の開弁駆動に際して電磁ソレノイド15に印加される電圧を「駆動電圧」という。ちなみに、ニードル弁13の開弁駆動力は、電磁ソレノイド15に印加される駆動電圧が高くなるほど大きくなるようになっている。
【0039】
続いて、図2を参照して、本実施の形態にかかる燃料噴射制御装置の構成を説明する。同図2に示されるように、この実施の形態の燃料噴射制御装置は、内燃機関の各種制御を実行する電子制御ユニット(ECU)20と、そのECU20から出力される指令信号に基づいてインジェクタ10を駆動するインジェクタ駆動回路30とを備えて構成されている。ちなみに、この燃料噴射制御装置では、ECU20は、上記ベースとなったガソリン機関のものが流用されている。
【0040】
ECU20には、例えばスタータモータの作動の有無を検出するスタータスイッチ21や機関回転速度を検出する回転速度センサ22などのような機関運転状態を検出する各種センサ類の検出信号が入力されている。またECU20は、回転速度センサ22の検出信号を基に、機関出力軸が所定角回転する毎にパルスを出力するNE信号を生成している。そしてECU20は、このNE信号を自身の行う機関制御に用いるとともに、インジェクタ駆動回路30にも出力している。なお、スタータスイッチ21の検出信号、すなわちスタータ信号は、インジェクタ駆動回路30にも入力されるようになっている。
【0041】
ECU20は、上記センサ類の検出信号に基づいて、機関運転状態に応じた燃料の噴射開始時期及び要求噴射量を算出している。そしてECU20は、その算出結果に基づき指令信号を生成し、その指令信号をインジェクタ駆動回路30に出力する。よって本実施の形態では、ECU20が上記噴射指令手段に相当する構成となっている。
【0042】
この指令信号は、インジェクタから燃料噴射を開始させる時点に「オン」とされ、その後、要求噴射量分の燃料をインジェクタから噴射可能な期間、「オン」のまま保持されるように設定されている。すなわち、指令信号が「オン」となっている期間は、要求噴射量を満たせるように設定された燃料の噴射要求期間となっている。
【0043】
一方、インジェクタ駆動回路30は、インジェクタ10の駆動にかかる各種処理を実施する中央演算処理装置(CPU)31と、インジェクタ10に印加される駆動電圧を昇圧させる昇圧回路32とを備えて構成されている。またインジェクタ駆動回路30は、各気筒のインジェクタ10に電力供給線を介してそれぞれ接続されている。
【0044】
こうしたインジェクタ駆動回路30のCPU31は、ECU20から入力された指令信号に基づいて、インジェクタ10の駆動信号を生成する。ただし、ECU20の生成する指令信号は、ベースとなったガソリン機関を想定したものとなっている。そこでCPU31は、駆動信号の生成に際して、噴射する燃料の単位質量当たりの発熱量や、噴射特性などが異なるCNG機関のインジェクタ10に併せ、燃料の噴射要求期間の調整を行っている。すなわちCPU31は、インジェクタ10の駆動信号の生成に際して、ECU20の指令信号により指示される噴射要求期間のガソリン噴射と同等のCNG噴射が可能なように噴射要求期間を調整している。
【0045】
ここでCPU31により生成された駆動信号は、インジェクタ10から実際に燃料を噴射させる期間、バッテリ40の供給電圧Eに保持されるようになっている。この駆動信号は、昇圧回路32を通じて対応するインジェクタ10に出力される。昇圧回路32は、必要に応じて、駆動信号の電圧レベルを、すなわちインジェクタ10の駆動電圧を昇圧させている。
【0046】
以上のようなECU20及びインジェクタ駆動回路30の処理を通じて、各インジェクタ10の電磁ソレノイド15に、必要な時期に、必要な期間、駆動電圧が印加され、燃料噴射が行われる。
【0047】
こうした本実施の形態の燃料噴射制御装置では、上述したようなノズル固着を解消するために、機関始動時にインジェクタ10を昇圧駆動させている。この昇圧駆動は、インジェクタ駆動回路30のCPU31により生成された駆動信号の電圧レベルを、昇圧回路32にて所定値Δ分昇圧してインジェクタ10に出力することで行われる。
【0048】
昇圧駆動時のインジェクタ10への駆動信号は、図3に例示されるような過程を経て形成されている。すなわち、例えば同図(a)に示されるような指令信号がECU20から入力されると、インジェクタ駆動回路30のCPU31は、その指令信号によって指示される燃料の噴射要求期間をCNG噴射用に調整した駆動信号(同図(b)参照)を生成する。この例では、ECU20の指令信号により指示される期間よりも、噴射要求期間が長くなるように駆動信号が設定されている。
【0049】
こうしてCPU31により生成された駆動信号は、昇圧回路32に入力され、そこで昇圧された後、インジェクタ10に出力される。これにより、インジェクタ10には、同図(c)に示されるような駆動電圧の高められた駆動信号が入力されるようになる。そのため、電磁ソレノイド15の発生する電磁吸引力が大きくなり、燃料噴射に際してのニードル弁13の開弁駆動力が増大される。
【0050】
なお、昇圧駆動時以外であれば、昇圧回路32での駆動信号の昇圧は行われず、同図(b)に示されるようなCPU31によって生成された駆動信号がそのままインジェクタ10に出力される。
【0051】
一方、こうしたインジェクタ10の昇圧駆動が行われる機関始動時には、ECU20は、次のような態様で、燃料噴射にかかる処理を実施する。図4には、機関始動の開始からその終了に至るまでのECU20の燃料噴射にかかる処理の流れが示されている。
【0052】
スタータスイッチ21がオン操作されて機関始動が開始された後、ECU20は、機関回転速度が所定値αよりも高められると(S100:YES)、「始動モード」での燃料噴射を開始する(S110)。始動モードでは、要求噴射量は、基本的に機関冷却水の温度のみに基づいて算出される。詳しくは、ECU20は、機関冷却水の温度が低いほど要求噴射量を多く、機関冷却水の温度が高いほど要求噴射量を少なく設定するようにしている。
【0053】
こうした始動モードでの燃料噴射の実行中、ECU20は、スタータ信号及び機関回転速度に基づいて、始動判定を行っている(S120)。具体的には、下記の(条件A)及び(条件B)が共に成立しているときには、機関始動中であると判定し、それら(条件A)及び(条件B)の少なくとも一方が不成立となったときには、機関始動が完了したと判定する。
(条件A)スタータスイッチ21がオン操作されている。
(条件B)機関回転速度が所定の回転速度β(例えば400rpm)未満である。
【0054】
なお、ここでの機関始動の完了には、内燃機関が完爆状態に移行して自立運転可能となった場合と、完爆状態に至る前に機関始動が中断された場合とが含まれる。
【0055】
ECU20は、上記始動判定の条件が満たされ、機関始動中であると判定されている限りは(S120:YES)、始動モードでの燃料噴射を継続する。そして、上記始動判定の条件が満たされなくなり、機関始動中でないと判定されると(S120:NO)、ECU20は、始動モードでの燃料噴射を中止し、「通常モード」での燃料噴射に移行する(S130)。通常モードでは、機関回転速度やアクセルペダルの踏込み量などの機関運転状態にかかる数多くのパラメータに基づいて、要求噴射量が算出される。以上により、ECU20は、始動時の燃料噴射制御を終了し、通常の燃料噴射制御に移行する。
【0056】
このようにECU20は、機関始動中には始動モードで、始動完了後は通常モードで、燃料噴射を実行させている。またそれらの両モードでは、要求噴射量の算出が、上記のように大きく異なった態様で行われている。そのため、ECU20が未だ機関始動中であると判定しているときと、機関始動が完了されたと判定した後とでは、そのECU20から出力される指令信号のパターンに変化が生じる。
【0057】
図5には、そうした始動モード及び通常モードでの指令信号パターンの例が示されている。始動モードでは、機関冷却水の温度のみに基づいて要求噴射量が算出されるため、要求噴射量の変化は小さい。また機関始動にはあまり多くの燃料は必要ないため、始動モードでの要求噴射量は比較的少なく設定されている。これに対して、始動完了後には、運転状況に応じて要求噴射量を大きく変化させる必要がある。そのため、同図(a)に例示されるような始動モード中の指令信号に比して、同図(b)に示されるような噴射要求期間の短い指令信号が出力されたり、同図(c)に示されるような噴射要求期間の長い指令信号が出力されたりすることがある。
【0058】
一方、そうしたECU20の始動時燃料噴射制御と並行して、インジェクタ駆動回路30のCPU31は、昇圧駆動制御を実施している。この昇圧駆動制御は、以下の態様で行われる。
【0059】
CPU31は、機関始動の開始からインジェクタ10を昇圧駆動させている。そしてCPU31は、スタータ信号及び機関回転速度に基づき、上記ECU20と同様の始動判定を自身で行い、その判定結果によって機関始動が完了したと判定された時点で、昇圧駆動を中止させている。
【0060】
更に本実施の形態では、CPU31は、上記のようなECU20から入力される指令信号の機関始動中と機関始動の完了後とのパターンの変化に基づいても、昇圧駆動を継続させるか、中止させるかの判定を行っている。詳しくは、CPU31は、始動モードにおける燃料噴射期間の設定範囲の上限を超えるような噴射要求期間を指示する指令信号がECU20から入力されたときにも、インジェクタ10の昇圧駆動を中止させている。
【0061】
より具体的には、CPU31は、ECU20から入力された指令信号により指示される燃料の噴射要求期間が、図5に示される限界期間γ以上となったとき、インジェクタ10の昇圧駆動を中止させている。この限界期間γは、始動モードにおける噴射要求期間の設定範囲の上限よりも長く、且つ上述したような回路発熱の発生を招かないような期間、すなわち回路発熱発生の虞のある噴射要求期間の下限よりも短い期間に設定されている。よって、ECU20からの指令信号によって指示される噴射要求期間が上記限界期間γ以上となっていれば、始動モードから通常モードへの燃料噴射制御の移行が既になされており、ECU20では機関始動が完了したと判定されていると判断できる。
【0062】
こうした本実施の形態では、たとえECU20とインジェクタ駆動回路30との間で始動判定の結果に食い違いが生じたとしても、インジェクタ駆動回路30は、ECU20からの指令信号に基づいてECU20の始動判定の結果を把握して、昇圧駆動を中止させることができる。またECU20から回路発熱の発生を招くような長い噴射要求期間を指示する指令信号が入力されたときには、昇圧駆動が中止されるようにもなる。そのため、回路発熱の発生は確実に回避されるようになっている。
【0063】
図6には、こうしたCPU31の機関始動の開始から昇圧駆動を中止させるまでの処理の流れが示されている。同図6に示されるように、CPU31は、機関始動の開始から、昇圧回路32に対して駆動信号の昇圧を指示し(S200)、インジェクタ10を昇圧駆動させている。
【0064】
こうした昇圧駆動の実施中、CPU31は、スタータ信号及び機関回転速度に基づいて、ECU20と同様の始動判定を実施する(S210)。すなわち、CPU31は、上記(条件A)(条件B)が共に成立していれば、機関始動中と判定している。そして、その結果、機関始動が完了したと判定したときには(S210:NO)、昇圧駆動を中止させる(S230)。
【0065】
更にCPU31は、ここで機関始動中であると判定されたときには(S210:YES)、ECU20より入力された指令信号により指示される燃料の噴射要求期間が限界期間γ以上であるか否かの判定を行う(S220)。ここで噴射要求期間が限界期間γ未満であると判定されたときには(S220:NO)、CPU31はそのまま昇圧駆動を継続させる。
【0066】
一方、上記判定の結果、噴射要求期間が限界期間γ以上であると判定されたときには(S220:YES)、機関始動が完了されたと判定されていなくても、昇圧駆動を強制的に中止させる(S230)。なお、本実施の形態では、CPU31によるステップS210〜S230の各処理が昇圧駆動中止手段の処理に対応している。
【0067】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)本実施の形態では、インジェクタ駆動回路30のCPU31は、ECU20より出力される指令信号により指示される燃料の噴射要求期間が限界期間γ以上となったときに、機関始動が完了したとして昇圧駆動を中止させている。そのため、ECU20とCPU31との間で機関始動完了の判定がなされる時期にずれが生じる場合でも、回路発熱を好適に抑制することができる。従って、インジェクタのノズル固着を好適に抑制しながらも、回路発熱の発生を回避することができる。
【0068】
(2)本実施の形態では、インジェクタ駆動回路30のCPU31は、スタータ信号及び機関回転速度に基づいて始動判定を行い、その判定結果によって機関始動が完了したと判定されたときにも昇圧駆動を中止させている。そのため、機関始動の完了後、より的確に昇圧駆動を中止させることができる。
【0069】
(3)本実施の形態では、ガソリン機関用のECU20を流用して構築されたCNG機関用の燃料噴射制御装置において、上記のような昇圧駆動の中止判定を実施している。これにより、インジェクタ10の昇圧駆動について対応がなされていないガソリン機関用のECU20を流用した場合にも、回路発熱の発生を回避可能な好適な燃料噴射制御装置の実現が可能となる。
【0070】
なお、上記実施の形態は、次のように変更して実施することもできる。
・ 上記実施の形態では、ECU20及びCPU31は、スタータ信号及び機関回転速度に基づいて始動判定を行っているが、そうした始動判定の態様は適宜変更しても良い。
【0071】
・ 上記実施の形態では、ECU20の指令信号の指示する噴射要求期間が限界期間γ以上となったことを条件に、インジェクタ10の昇圧駆動を中止させているが、そうした噴射要求期間に基づく昇圧駆動の中止条件を、次のように変更しても良い。例えば、始動モードで指示される噴射要求期間の範囲に下限が存在する場合、ECU20からの指令信号により指示される噴射要求期間がその下限よりも短くなったときにも、ECU20では機関始動が完了したとの判定が既になされていると判断することができる。よって、そうしたときにも、昇圧駆動を中止させるようにしても良い。この場合にも、上記実施の形態と同様に回路発熱を回避しつつ、好適に昇圧駆動を中止させることができる。
【0072】
・ また噴射要求期間以外にも、機関始動中と判定されているときと機関始動が完了されたと判定された後とで、ECU20の指令信号のパターンに変化が生じるのであれば、そうした噴射要求期間以外のパターンの変化に応じて昇圧駆動を中止させるようにしても良い。例えば、内燃機関によっては、機関始動中は分割噴射を行い、機関始動の完了後は一括噴射を行うといったような、機関始動中と機関始動完了後とで噴射パターンを変更するものもある。そうした場合には、指令信号によって指示される噴射パターンの変化に基づいて昇圧駆動の中止判定を行うようにしても、上記実施の形態と同様に回路発熱を回避しつつ、好適に昇圧駆動を中止させることができる。
【0073】
・ 上記実施の形態では、CPU31は、ECU20と同様の始動判定を行い、その結果、機関始動が完了したと判定されたときにも、インジェクタ10の昇圧駆動を中止させるようにしているが、こうした判定は任意である。すなわち、上記のようなECU20から出力される指令信号のパターンのみに基づいてインジェクタ10の昇圧駆動を中止させるようにして良い。この場合にも、ECU20で機関始動の完了の判定がなされ、指令信号のパターンに変化が生じれば、昇圧駆動が中止されるため、回路発熱の抑制は十分に可能である。
【0074】
・ 上記実施形態では、インジェクタ駆動回路30とECU20とを別体に構成するようにしているが、インジェクタ駆動回路30をECU20内に組み込むようにしても良い。
【0075】
・ 上記実施形態では、ガソリン機関をベースとして開発されたCNG機関への適用例を説明したが、本発明は、機関始動時のインジェクタ昇圧駆動をインジェクタ駆動回路が独自に行う構成であれば、任意の内燃機関に適用することができる。ちなみに、燃料として気体燃料を使用する内燃機関では、低温時にインジェクタのノズル固着が発生しやすいため、本発明は、そうした気体燃料を使用する内燃機関への適用が特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に用いられるインジェクタの断面図。
【図2】同実施形態の概略構成を示すブロック図。
【図3】同実施形態での昇圧駆動時の各種信号の出力態様例を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態の始動時燃料噴射制御のフローチャート。
【図5】同実施形態の指令信号の出力態様例を示すタイムチャート。
【図6】同実施形態の昇圧駆動制御のフローチャート。
【符号の説明】
10…インジェクタ、11…燃料室、12…噴射口、13…ニードル弁、14…ノズル、15…電磁ソレノイド、16・・・スプリング、20…電子制御ユニット(ECU)、21…スタータスイッチ、22…回転速度センサ、30…インジェクタ駆動回路、31…中央演算処理装置(CPU)、32…昇圧回路。
Claims (7)
- 機関運転状態に基づきインジェクタの駆動制御にかかる指令信号を出力する噴射指令手段と、その指令信号に基づき前記インジェクタを駆動するインジェクタ駆動回路とを備えて前記インジェクタからの燃料噴射を制御する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
機関始動時に前記インジェクタの駆動電圧を昇圧させる昇圧回路と、
前記指令信号のパターンの変化に基づいて前記昇圧回路による前記駆動電圧の昇圧を中止させる昇圧駆動中止手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 前記昇圧駆動中止手段は、前記指令信号のパターンが、機関始動時に前記噴射指令手段の出力する指令信号のパターンと異なるパターンに変化したときに、前記駆動電圧の昇圧を中止させる請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記昇圧駆動中止手段は、燃料の噴射要求期間を指示する前記指令信号の変化に基づいて前記駆動電圧の昇圧を中止させる請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記昇圧駆動中止手段は、前記指令信号により指示される燃料の噴射要求期間が所定値以上に変化したときに前記駆動電圧の昇圧を中止させる請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記昇圧駆動中止手段は更に、機関運転状態を検出するセンサ類の検出信号に基づいて前記内燃機関の始動判定を行い、機関始動が完了したと判定されたときにも前記駆動電圧の昇圧を中止させる請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記噴射指令手段は、前記インジェクタから実際に噴射される燃料とは異なった燃料を噴射するインジェクタを対象とした指令信号を出力するものであって、前記インジェクタ駆動回路は、その指令信号を前記インジェクタから実際に噴射される燃料用に変換して前記インジェクタを駆動するものである請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 当該内燃機関は、燃料として気体燃料を使用する請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
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