JP4103393B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として大型の発電機やトランスの鉄心材料として用いられる、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜(グラス被膜)を有しない、磁束密度が高くかつ鉄損の低い方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
大型の発電機やトランスの鉄心材料としては、鉄損によるエネルギー損失を重視して、方向性電磁鋼板が用いられている。
方向性電磁鋼板を積層して使用する大型発電機の鉄心(固定子)は、扇型形状のセグメントを多数打ち抜き、これらを積層して組み立てる方法が用いられている。
【0003】
このような積層方式を用いる場合、ティース部を中心として複雑な形状に打ち抜く必要があることの他、数トン以上もの鉄心材料を処理するため打ち抜き回数が膨大な数となることから、打ち抜きに際し、金型の磨耗の少ない打ち抜き加工性の良好な方向性電磁鋼板が求められている。
【0004】
方向性電磁鋼板の表面には、通常、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とした下地被膜(グラス被膜)が被覆されているが、このフォルステライト被膜は、無方向性電磁鋼板に被覆されている有機樹脂系の被膜に比べると著しく硬質なため、打ち抜き金型の磨耗が大きい。そのため、金型の再研磨または交換が必要となり、需要家における鉄心加工時の作業効率の低下およびコストアップを招くことになる。また、スリット性や切断性も同様に、フォルステライト被膜の存在により劣化する。
【0005】
方向性電磁鋼板の打ち抜き加工性を改善する方法として、フォルステライト被膜を酸洗や機械的手法で除去することも可能であるが、コスト高となるだけでなく、表面性状が悪化し、磁気特性も劣化するという大きな問題がある。
また、特公平6−49948 号公報および特公平6−49949 号公報には、仕上焼鈍時に適用する MgOを主体とする焼鈍分離剤中に薬剤を配合することによってフォルステライト被膜の形成を抑制する技術が、また特開平8−134542号公報には、Mnを含有する素材にシリカ、アルミナを主体とする焼鈍分離剤を適用する技術が、それぞれ提案されている。
しかしながら、これらの方法では、コイルの層間における仕上焼鈍雰囲気の変動によってフォルステライトが部分的に形成されることが多く、完全にフォルステライトの生成を抑制した製品板を得ることは極めて困難であった。
【0006】
この点、発明者らは、先に、インヒビタ成分を含有しない高純度素材において、固溶窒素の粒界移動抑制効果を利用して二次再結晶を発現させる技術を、特開2000−129356号公報において提案し、さらにCを低減した成分を用い、再結晶焼鈍における雰囲気を低酸化性とすることによって酸化被膜の生成を抑制する技術を、特開2001−32021 号公報において提案した。
これらの技術により、フォルステライトを形成しない方向性電磁鋼板を安価に製造することができるようになった。そして、このような方向性電磁鋼板は、表面に硬質なフォルステライト被膜を有しないので、打ち抜き加工性を重視する大型発電機用として有利に適合する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、インヒビタを使用せずに製造した場合、インヒビタを使用して製造した場合に比べると、得られる磁束密度が低いというところに問題を残していた。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、インヒビタを使用せずに製造する場合に、磁束密度が十分に高くかつ鉄損の低い方向性電磁鋼板を有利に製造することができる新規な製造法を提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、インヒビタ成分を含有しない素材を用いて、フォルステライト被膜を有しない方向性電磁鋼板を製造する場合、二次再結晶焼鈍をCがある程度残存する状態で実施することによって磁束密度が向上し、ついで脱炭焼鈍後、さらに追加して非酸化性または低酸化性雰囲気中にて高温連続焼鈍または高温バッチ焼鈍を施すことにより、磁気特性が大幅に向上するとの新規な知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、C:0.08%以下、Si: 2.0〜8.0%およびMn:0.005〜3.0 %を含み、かつ Al を 100ppm 以下、N,S, Se をそれぞれ 50ppm 以下に低減し、残部は Fe および不可避的不純物からなる溶鋼を用いて製造したスラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気中にて再結晶焼鈍を行い、再結晶焼鈍後のC量を0.005〜0.025%の範囲として、焼鈍分離剤を適用しないかまたは Mg O以外の焼鈍分離剤を適用して二次再結晶焼鈍を行い、その後湿潤雰囲気中にて脱炭焼鈍を施したのち、酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気下で 800℃以上の温度域に少なくとも10秒間滞留する連続焼鈍を施すことを特徴とする、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜を有しない方向性電磁鋼板の製造方法。
【0010】
2.質量%で、C:0.08%以下、Si: 2.0〜8.0%およびMn:0.005〜3.0 %を含み、かつ Al を 100ppm 以下、N,S, Se をそれぞれ 50ppm 以下に低減し、残部は Fe および不可避的不純物からなる溶鋼を用いて製造したスラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気中にて再結晶焼鈍を行い、再結晶焼鈍後のC量を0.005〜0.025%の範囲として、焼鈍分離剤を適用しないかまたは Mg O以外の焼鈍分離剤を適用して二次再結晶焼鈍を行い、その後湿潤雰囲気中にて脱炭焼鈍を施したのち、酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気下で 800〜1050℃の温度域に少なくとも5時間保持するバッチ焼鈍を施すことを特徴とする、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜を有しない方向性電磁鋼板の製造方法。
【0012】
3.前記溶鋼中に、さらに質量%で、Ni:0.01〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、P:0.005〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種を含有させることを特徴とする上記1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を由来するに至った実験について説明する。
質量%で、C:0.015 %、Si:3.2 %およびMn:0.05%を含み、A1を 25ppm、Nを 10ppm、その他の成分を 30ppm以下に低減したインヒビタ成分を含まない鋼A、および脱ガス処理によりCを大きく低減したC:0.002 %、Si 3.2%およびMn:0.05%を含み、Alを 30ppm、Nを 15ppm、その他の成分を 30ppm以下に低減したインヒビタ成分を含まない鋼Bの各スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1100℃に加熱後、熱間圧延により 2.6mm厚の熱延板としたのち窒素雰囲気中にて 900℃で30秒均熱の熱延板焼鈍後、急冷し、冷間圧延により最終板厚:0.34mmの冷延板とした。ついで、水素:30 vol%、窒素:70 vol%、露点:−20℃の雰囲気中にて 920℃で均熱20秒の再結晶焼鈍を行ったのち、焼鈍分離剤を適用せずに二次再結晶焼鈍を施した。二次再結晶焼鈍は、露点:−20℃の窒素雰囲気中にて常温から 900℃まで50℃/hの速度で昇温し、この温度に75時間保定する条件で行った。引き続き、水素:30 vol%、窒素:70 vol%、露点:40℃の雰囲気中にて 850℃で60秒間の脱炭焼鈍を行った。
その後、水素:30 vol%、窒素:70 vol%、露点:−20℃の雰囲気中にて種々の温度で20秒間均熱する追加の連続焼鈍を行った。
【0014】
上記の連続焼鈍前後における磁気特性の変化を、図1に示す。
同図に示したとおり、鋼Aにおいては、連続焼鈍を 800℃以上、特に好ましくは 900℃以上の高温度域で行った場合に、磁気特性の著しい改善が見られた。ただし、この改善効果は1050℃程度でほぼ飽和に達した。
これに対して、鋼Bでは、連続焼鈍温度の如何に係わらず磁束密度が低く、また連続焼鈍による鉄損の向上はほとんど認められなかった。
【0015】
以上の実験により、Cを一定量以上含有する素材を用いて、二次再結晶焼鈍を行った後に脱炭焼鈍を行い、さらに非酸化雰囲気下で追加の高温連続焼鈍を施すことにより、磁束密度および鉄損が併せて改善されることが判明した。
【0016】
次に、上記の脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤を適用せずに、50℃/hの速度で種々の温度まで昇温し、該温度に20時間保持する追加のバッチ焼鈍を、露点:−20℃の水素雰囲気中で行う実験を行った。
【0017】
上記のバッチ焼鈍前後における磁気特性の変化を、図2に示す。
同図に示したとおり、鋼Aにおいては、バッチ焼鈍温度が 800℃以上、特に好ましくは 900℃以上の高温度域で、磁気特性の改善効果が著しい。
また、図1と比較すると、追加の連続焼鈍よりも追加のバッチ焼鈍を行った場合の方が鉄損の改善効果が大きい。ただし、1050℃程度以上で磁気特性の改善効果はほぼ飽和に達した。
これに対して、鋼Bでは、磁束密度が低く、またバッチ焼鈍による鉄損の向上量も小さかった。
【0018】
従来、MgOを主体とする焼鈍分離剤を適用して、最終仕上焼鈍によりガラス被膜を形成させる方向性電磁鋼板の製造方法において、脱炭焼鈍後に30〜200ppmのCを含有させて磁束密度の向上を図る技術が、特開昭58−11738 号公報にて開示されている。
しかしながら、この技術の場合、磁気時効現象で鉄損が劣化するのを防止するために、仕上焼鈍時に形成されたガラス被膜を、仕上焼鈍後、酸洗により除去したのち、再度脱炭焼鈍か真空焼鈍で炭素を減少させるという、極めてコスト高な製造工程を必要とする。また、ガラス被膜を酸洗で除去する方法では、表面の平滑性が損なわれるため、鉄損の劣化が余儀なくされる。さらに、脱炭焼鈍は酸化性雰囲気で行われるため表面に酸化膜が形成されて鉄損が一層劣化する。
【0019】
これに対し、本発明は、二次再結晶時にフォルステライト被膜を形成しない方法であるため、二次再結晶焼鈍後の湿潤雰囲気による連続焼鈍によって容易に脱炭することが可能であり、また平滑な表面は維持されているので、鉄損の劣化が生じることはない。
【0020】
本発明に従い、二次再結晶焼鈍をCが 0.005〜0.025 %残存する状態で施すことにより、高い磁束密度が得られる理由については、必ずしも明らかではないが、Nと同様に侵入型元素であるCの固溶状態での存在が、二次再結晶における粒界移動の選択性を高めることによるものと推定される。
【0021】
また、二次再結晶焼鈍後に脱炭焼鈍を行い、さらに追加して低酸化性または非酸化性の雰囲気下で 800℃以上の高温連続焼鈍あるいは高温バッチ焼鈍を施すことによって、格段に優れた磁気特性が得られる理由については、必ずしも明らかではないが、二次再結晶後の脱炭焼鈍の際に、何らかの理由で二次再結晶粒内に生じた内部歪が緩和されたことによるものと推定している。なお、バッチ焼鈍では、上記の内部歪の緩和効果に加え、サーマルエッチ効果で表面が平滑化すること、また窒素を含有しない雰囲気で行うことにより、窒素を低減することにより、大幅な鉄損改善効果が得られるものと推定される。
【0022】
次に、本発明において、素材であるスラブの成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%(mass%)を意味する。
C:0.08%以下
C量が0.08%を超えると、再結晶焼鈍時にCを 0.025%以下まで低減するのが困難となるので、Cは0.08%以下に制限した。なお、C量があまりに少ないと再結晶焼鈍後に最低必要なC:0.005 %が得られず、磁束密度の低下を招くので、C量の下限は 0.005%程度とするのが好ましい。
【0023】
Si:2.0 〜8.0 %
Siは、鋼の電気抵抗を増大し鉄損を低減するのに有用な元素であるので、2.0%以上含有させる。しかしながら、含有量が 8.0%を超えると加工性が著しく低下して冷間圧延が困難となる。そこでSi量は 2.0〜8.0 %の範囲に限定した。
【0024】
Mn:0.005 〜3.0 %
Mnは、熱間加工性を改善するために有用な元素であるが、含有量が 0.005%未満ではその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超えると磁束密度の低下を招くので、Mn量は 0.005〜3.0 %の範囲とする。
【0025】
本発明では、従来知られているAlN,MnSe, MnS等のインヒビタを使用せずに二次再結晶を発現させる方法を適用する。それにより、インヒビタ固溶のための高温スラブ加熱や、インヒビタ除去のための高温純化焼鈍を省略して簡略な製造工程で低鉄損を得ることができる。
ここに、インヒビタ形成元素であるAlは 100 ppm以下、またNは 50ppm以下好ましくは30ppm以下まで低減しておくことが、良好な二次再結晶を発現させるために必要である。
また、その他のインヒビタ形成元素であるS, Seについても 50ppm以下、好ましくは30ppm以下に低減する必要がある。その他、窒化物形成元素であるTi, Nb, B, Ta, V等についても、それぞれ 50ppm以下に低減することが鉄損の劣化を防止する上で有効である。
【0026】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.01〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005 〜0.50%、Cu:0.01〜0.50%、P:0.005 〜0.50%、Cr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させる有用元素である。しかしながら、含有量が0.01%未満では磁気特性の向上量が小さく、一方1.50%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化するので、Ni量は0.01〜1.50%とした。
また、Sn,Sb,Cu, P, Crはそれぞれ、鉄損の向上に有用な元素であるが、いずれも上記範囲の下限値に満たないと鉄損の向上効果が小さく、一方上限量を超えると二次再結晶粒の発達が阻害されるので、それぞれSn:0.01〜0.50%,Sb:0.005 〜0.50%,Cu:0.01〜0.50%,P:0.005 〜0.50%,Cr:0.01〜1.5 %の範囲で含有させる必要がある。
【0027】
そして、鋼板表面にはフォルステライト(Mg2SiO4) を主体とした下地被膜を有しないことが、良好な打ち抜き性を確保するための大前提である。
【0028】
次に、本発明の製造工程について説明する。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要があれば真空処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。
【0029】
ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度は 800〜1100℃の範囲が好適である。
熱延板焼鈍後、必要に応じて中間焼鈍を挟む1回以上の冷間圧延を施したのち、再結晶焼鈍行う。
上記の冷間圧延において、圧延温度を 100〜250 ℃に上昇させて圧延を行うことや、冷間圧延の途中で 100〜250 ℃の範囲での時効処理を1回または複数回行うことが、ゴス組織を発達させる上で有効である。
【0030】
最終冷延後の再結晶焼鈍は、低酸化性または非酸化性雰囲気中、すなわち酸素を含有しない露点: 40 ℃以下、好ましくは露点:0℃以下の雰囲気中で行う必要がある。焼鈍温度については 800〜1000℃の範囲で行うことが好適である。かような低酸化性または非酸化性雰囲気としては、窒素、Ar、水素およびそれらの混合雰囲気が工業的に使用し易い。
【0031】
上記の再結晶焼鈍後にC量を 0.005〜0.025 %に調整することが高い磁束密度を確保する上で最も肝要な点である。
すなわち、再結晶焼鈍後のC量が 0.005%未満の場合には、固溶Cによる磁束密度向上効果が得られず、一方 0.025%を超えた場合はγ変態により二次再結晶粒が発達しないので、いずれも磁気特性は大幅に劣化する。
【0032】
C量を制御する方法としては、製鋼段階でC量をこの範囲に制御し、その後の焼鈍工程をすべて非脱炭雰囲気で行う方法が最も簡便であるが、製鋼段階での低減が困難な場合には、再結晶焼鈍あるいは熱延板焼鈍、中間焼鈍雰囲気を湿潤水素雰囲気とし、適切な時間だけ焼鈍することにより、二次再結晶焼鈍までに適正量まで脱炭する方法を用いても良い。
【0033】
その後、低酸化性または非酸化性雰囲気中にて二次再結晶焼鈍を施すが、焼鈍分離剤を適用せずに二次再結晶焼鈍を施すことが、(Mg2SiO4)を主体とする下地被膜(グラス被膜)を有しない均一な表面を得るために特に好ましい。二次再結晶発現のために高温を要する場合には、焼鈍分離剤を適用するが、その際にはフォルステライトを形成するMgOは使用せず、シリカやアルミナ等を用いる。また、塗布を行う際にも、水分を持ち込まず酸化物生成を抑制する目的で静電塗布を行うことなどが有効である。さらに、耐熱無機材料シート(シリカ、アルミナ、マイカ)を用いてもよい。
二次再結晶焼鈍は、二次再結晶発現のために 800℃以上で行う必要があるが、800 ℃までの加熱速度は磁気特性に大きな影響を与えないので任意の条件でよい。最高到達温度はインヒビタ成分を含有しない場合には1000℃以下で十分である。
【0034】
上記の二次再結晶焼鈍後に、C量を磁気時効の起こらない 50ppm以下まで低減するために、湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍を行う。この脱炭を効率良く進行させるためには 750〜950 ℃の温度域が好適である。なお、脱炭焼鈍後に浸珪法によってSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0035】
続いて、高温連続焼鈍または高温バッチ焼鈍を施して、磁気特性の一層の向上を図る。ここに、連続焼鈍を行う場合には 800℃以上好ましくは 900℃以上の温度とすることが磁気特性を改善する上で必要である。この高温連続焼鈍の場合には、上限温度は特に設けないが、1050℃を超えると磁気特性の改善が飽和してしまうので、1050℃以下とすることが経済的に有利である。また、連続焼鈍における 800℃以上での滞留時間は10秒以上確保することが、残留歪を除去して磁気特性を改善するために必要である。さらに、連続焼鈍の雰囲気は、低酸化性または非酸化性雰囲気、すなわち前述したところと同じく、酸素を含有しない露点: 40 ℃以下、好ましくは露点:0℃以下の雰囲気を用いることが、表面酸化を抑制して良好な鉄損を保つために必要である。
なお、脱炭焼鈍後の連続焼鈍は平坦化焼鈍を兼ねて別ラインで行っても良いが、同一ラインにて、前半は湿潤雰囲気による脱炭焼鈍、後半は低酸化性または非酸化性雰囲気による高温焼鈍すると、同時に張力を付与して形状矯正して平坦化することができ、能率的である。
【0036】
一方、脱炭焼鈍後に高温バッチ焼鈍を行う場合にも、 800℃以上の温度することが良好な鉄損を得るために必要である。また、このバッチ焼鈍では5時間以上の焼鈍が必要であるため、焼鈍温度の上限が1050℃を超えると表面酸化物の生成が避けられず、打ち抜き加工性が損なわれるため1050℃以下とする必要がある。また1050℃を超えると鉄損改善効果が飽和するので、1050℃以下とすることが経済的にも有利である。さらに、バッチ焼鈍の 800℃以上での滞留時間は少なくとも5時間確保することが、良好な鉄損を確保する上で必要である。
バッチ焼鈍後は連続焼鈍による平坦化焼鈍を行い形状を矯正する。
【0037】
上記の平坦化焼鈍後に表面に絶縁コーティングを施す。ここに、良好な打ち抜き性を確保するためには、樹脂を含有する有機系または半有機系コーティングとするのが望ましいが、溶接性を重視する場合には無機系コーティングを適用しても良い。
【0038】
本発明によるフォルステライト下地被膜を有さない方向性電磁鋼板の用途は、打ち抜き加工性を重視する大型発電機用として最適であるが、圧延方向の磁束密度が高いので、方向性電磁鋼板の用途すべてに用いることができる。特に脱炭焼鈍後に、バッチ焼鈍を追加で行う方法では極めて低鉄損が得られるので特に有利である。
また、素材としてインヒビタを使用しない場合には、スラブの高温加熱、高温純化焼鈍を施す必要がないので、低コストにて大量生産が可能であるという製造上大きな利点がある。
【0039】
【実施例】
実施例1
表1に示す素材成分になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。なお、表1に示していない成分についてはすべて 50ppm以下に低減した。これらのスラブを、1050℃, 60分間のスラブ加熱後、熱間圧延により 2.8mm厚の熱延板とした。ついで、 900℃, 20秒均熱の熱延板焼鈍後、常温での冷間圧延により0.34mmの最終板厚に仕上げた。
【0040】
ついで、水素:35 vol%、窒素:65 vol%、露点:−40℃の雰囲気中にて 950℃, 均熱5秒の再結晶焼鈍を施した。ついで、焼鈍分離剤を適用せずに、窒素雰囲気中にて 800℃まで50℃/hの速度で昇温し、 800℃以上を10℃/hの速度で 900℃まで昇温し、この温度に50時間保持する、二次再結晶焼鈍を行った。
この二次再結晶焼鈍後、露点:40℃の湿潤水素雰囲気中にて 835℃, 60秒間の脱炭焼鈍を施し、鋼中C量を0.0030%以下まで低減した。
【0041】
ついで、平坦化焼鈍を兼ねる連続焼鈍を 980℃で10秒間行った。
この平坦化焼鈍後、重クロムアルミニウム、エマルジョン樹脂、エチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し、 300℃で焼き付けて製品とした。
かくして得られた製品板について、圧延方向の磁束密度(B8 )と鉄損(W17/50 )を測定した。
得られた結果を表1に併記する。
【0042】
【表1】
【0043】
同表に示したとおり、C量を 0.005〜0.025 %残存させたままで二次再結晶焼鈍を施し、ついで脱炭焼鈍後、追加して低酸化性または非酸化性の雰囲気中にて800 ℃以上の高温で連続焼鈍を施すことにより、圧延方向の磁束密度および鉄損に優れた、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜(グラス被膜)を有しない製品板を得ることができた。
【0044】
実施例2
実施例1と同じ条件で脱炭焼鈍まで行ったのち、焼鈍分離剤を適用せずに、水素雰囲気中にて1050℃まで50℃/hの速度で昇温し、この温度に5時間保持する、バッチ焼鈍を行った。
その後、平坦化焼鈍を兼ねる連続焼鈍を、露点:−30℃の水素雰囲気中にて 900℃, 10秒間の条件で行った。平坦化焼鈍後、重クロム酸アルミニウム、エマルジョン樹脂、エチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し、 300℃で焼き付けて製品とした。
かくして得られた製品板の圧延方向の磁束密度(B8 )および鉄損(W17/50)について調べた結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
同表に示したとおり、C量を0.0050〜0.025 %残存させたままで二次再結晶焼鈍を施し、さらに脱炭焼鈍後、追加して低酸化性または非酸化性の雰囲気中にて 800℃以上の高温でバッチ焼鈍を施すことにより、圧延方向の磁束密度および鉄損に優れた、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜(グラス被膜)を有しない製品板を得ることができた。
【0047】
実施例3
実施例1と同じ条件で脱炭焼鈍まで行った後、焼鈍分離剤としてシリカを適用し、水素雰囲気中にて 875℃まで50℃/hの速度で昇温し、この温度に8時間保持する、バッチ焼鈍を行った。
その後、燐酸アルミニウムにコロイダルシリカを混合したコーティング液を塗布したのち、露点:−30℃の水素雰囲気中にて、平坦化焼鈍を兼ねる連続焼鈍を 900℃, 10秒間の条件で行い、製品とした。
かくして得られた製品板の圧延方向の磁束密度(B8 )および鉄損(W17/50)について調べた結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
同表に示したとおり、C量を0.0050〜0.025 %残存させたままで二次再結晶焼鈍を施し、さらに脱炭焼鈍後、焼鈍分離剤としてシリカを塗布したのち、低酸化性または非酸化性の雰囲気中にて 800℃以上での高温バッチ焼鈍を施すことにより、圧延方向の磁束密度および鉄損に優れた、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜(グラス被膜)を有しない製品板が得られている。
【0050】
実施例4
表4に示す素材成分になる鋼スラブを、1175℃に加熱後、熱間圧延により 2.7mm厚の熱延板とした。なお、表4に示していない成分についてはすべて 50ppm以下に低減した。ついで、 850℃, 均熱60秒の熱延板焼鈍後、冷間圧延により最終板厚:0.29mmの冷延板に仕上げた。ついで、水素:50 vol%、窒素:50 vol%、露点:−40℃の雰囲気中にて 920℃で均熱10秒の再結晶焼鈍を行った。ついで、焼鈍分離剤を適用せずに、 875℃まで10℃/hの速度で昇温し、この温度に50時間保持する二次再結晶焼鈍を、露点:−40℃の窒素雰囲気中で行った。
【0051】
上記の二次再結晶焼鈍後、前段処理として、露点:35℃の湿潤水素雰囲気にて 875℃,60秒間の脱炭焼鈍を行ってC量を0.0030%以下まで低減したのち、後段処理として、露点:−10℃の水素雰囲気中にて1020℃で20秒間の平坦化焼鈍を兼ねる高温連続焼鈍を行った。
その後、燐酸塩を主体とする無機系コーティング液を塗布し、 300℃で焼き付けて製品とした。
かくして得られた製品板の圧延方向の磁束密度(B8 )および鉄損(W17/50)について調べた結果を表4に併記する。
【0052】
【表4】
【0053】
同表に示したとおり、本発明で規定される成分の素材を用いて、C量を 0.005〜0.025 %残存させたままで二次再結晶焼鈍を施すことにより、圧延方向の磁束密度に優れた、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜(グラス被膜)を有しない製品板を得ることができた。
【0058】
【発明の効果】
かくして、本発明に従い、冷間圧延後の再結晶焼鈍を非酸化性または低酸化性雰囲気で行い、C量を 0.005〜 0.025%残存させたままで二次再結晶焼鈍を施し、さらに脱炭焼鈍後、追加して 800℃以上の高温連続焼鈍またはバッチ焼鈍を施すことにより、圧延方向の磁束密度および鉄損が優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 連続焼鈍前後における磁気特性の変化を示したグラフである。
【図2】 バッチ焼鈍前後における磁気特性の変化を示したグラフである。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.08%以下、Si: 2.0〜8.0%およびMn:0.005〜3.0 %を含み、かつ Al を 100ppm 以下、N,S, Se をそれぞれ 50ppm 以下に低減し、残部は Fe および不可避的不純物からなる溶鋼を用いて製造したスラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気中にて再結晶焼鈍を行い、再結晶焼鈍後のC量を0.005〜0.025%の範囲として、焼鈍分離剤を適用しないかまたは Mg O以外の焼鈍分離剤を適用して二次再結晶焼鈍を行い、その後湿潤雰囲気中にて脱炭焼鈍を施したのち、酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気下で 800℃以上の温度域に少なくとも10秒間滞留する連続焼鈍を施すことを特徴とする、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜を有しない方向性電磁鋼板の製造方法。
- 質量%で、C:0.08%以下、Si: 2.0〜8.0%およびMn:0.005〜3.0 %を含み、かつ Al を 100ppm 以下、N,S, Se をそれぞれ 50ppm 以下に低減し、残部は Fe および不可避的不純物からなる溶鋼を用いて製造したスラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気中にて再結晶焼鈍を行い、再結晶焼鈍後のC量を0.005〜0.025%の範囲として、焼鈍分離剤を適用しないかまたは Mg O以外の焼鈍分離剤を適用して二次再結晶焼鈍を行い、その後湿潤雰囲気中にて脱炭焼鈍を施したのち、酸素を含有しない露点: 40 ℃以下の雰囲気下で 800〜1050℃の温度域に少なくとも5時間保持するバッチ焼鈍を施すことを特徴とする、フォルステライト(Mg2SiO4) を主体とする下地被膜を有しない方向性電磁鋼板の製造方法。
- 前記溶鋼中に、さらに質量%で、Ni:0.01〜1.50%、Sn:0.01〜0.50%、Sb:0.005〜 0.50%、Cu:0.01〜0.50%、P:0.005〜0.50%およびCr:0.01〜1.50%のうちから選んだ少なくとも1種を含有させることを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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