JP4095358B2 - ホーリー導波路型光回路及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホーリー導波路型光回路及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、超小型光回路を実現する技術として、フォトニック結晶を用いた光回路の研究が盛んに行われるようになってきた。フォトニック結晶とは、ある波長の光を全く通さなかったり、わずかな波長の変化で光の屈折率が大きく変化したりするというユニークな光学特性を示す人工材料と言われている。
【0003】
図7(a)〜(f)はフォトニック結晶の概念図を示す図である。
【0004】
同図(a)はエアギャップ型構造を示し、ウェットエッチングにより形成され、同図(b)は深い回折格子構造を示し、ドライエッチングにより形成される。同図(a)、(b)は共に1次元フォトニック結晶である。
【0005】
同図(c)は垂直孔型構造を示し、ドライエッチング陽極化成により形成され、同図(d)はピラー型構造を示し、ドライエッチング選択成長により形成される。同図(c)、(d)は共に2次元フォトニック結晶である。
【0006】
同図(e)は斜め孔型構造を示し、ドライエッチングにより形成され、同図(f)は積み木型構造を示し、貼り付けにより形成される。同図(e)、(f)は共に3次元フォトニック結晶である。尚、図中矢印は光の進行方向を示す。
【0007】
これらのフォトニック結晶の中で、同図(c)、(d)に示す2次元フォトニック結晶は、基板上に空孔や柱を形成したものが典型的な例である。同図(e)、(f)に示す3次元フォトニック結晶は、立体的なモザイク構造からなり、角材状の結晶を積み重ねたものや小さな球を重ねたものなどがある。すなわち、2種類の媒質の屈折率の差が大きくて周期構造がある条件を満たすと、特定の波長の光が全く伝搬しなくなり、外部からの光は結晶に進入できずに反射されてしまう。この波長の範囲がフォトニックバンドギャップと言われている。
【0008】
図8はフォトニック結晶の他の従来例を示す図である。
【0009】
これはSi基板50上に形成した石英ガラス膜51中に複数の屈折率変化領域52を所定の間隔を隔てて面方向に形成し、その屈折率変化領域52の中に屈折率変化領域52の存在しない領域(以下「欠落領域」という。)53を設けることにより、光ファイバ54−1からの光信号55−1を欠落領域53の一方の端面(図では下側)からその欠落領域53内を通して他方の端面(図では上側)から光ファイバ54−2を通して光信号55−2を取り出すようにしたフォトニック結晶導波路である。
【0010】
この他、光インターコネクション技術の進展により、装置間を光ファイバで並列光伝送する方式が実用段階に入ってきた。
【0011】
次世代の方式として、ボード内やLSIチップ間を光信号により並列伝送する方式が本格的に検討されるようになってきた。この方式を実現するためには、伝送路として、光ファイバの代わりに導波路が用いる必要がある。この導波路として、ポリマ材料を用いたものが有力視されている。
【0012】
ポリマ材料を用いた導波路は、低温プロセスで簡単に作製することができるので、ガラス材料を用いた導波路に比して、低コスト化、大型サイズ化の点で優位性が期待できると考えられている。すなわち、種々の基板の上に、有機溶媒に溶けたポリマ溶液をスピンコーティング法、押出コーティング法等で塗布し、その後、低温(≦300℃)で加熱してポリマ膜とする。次いでフォトリソグラフィやエッチングプロセスを用いて略矩形断面形状の高屈折率のコア層用ポリマパターンを形成した後、そのコア層用ポリマパターンを覆うように低屈折率のポリマ膜を形成する方法である。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した従来のフォトニック結晶を用いた光回路はまだ研究の初についた段階であり、多くの解決しなければならない課題がある。また、ポリマ導波路にも実用化に対して多くの課題がある。これらの課題を以下に示す。
【0014】
(1)フォトニック結晶を容易に製造することができる構造及びその製造方法がまだ見出されていない。
【0015】
(2)低損失なフォトニック結晶型光回路が見出されていない。
【0016】
(3)フォトニック結晶構造で種々の光信号処理回路を実現しようとすると、それぞれの光信号処理回路に応じた複数のフォトマスクが必要となり、かつこのフォトマスクは極めて高寸法精度で作製しなければならず、非常に高価なものになってしまう。
【0017】
(4)(1)〜(3)の対策として、超短パルスレーザビーム照射でフォトニック結晶構造を実現する試みが研究されているが寸法精度に問題があり、所望の光学特性がまだ得られていない。
【0018】
(5)ポリマ導波路の損失のトップデータとして、今までに0.1dB/cmが報告されているが、この数値はガラス導波路に比してまだ損失が大きく、ガラス導波路の代替え候補にはならない。従来のポリマ導波路構造及びその製造方法は0.1dB/cm以下に低損失化することは難しい。
【0019】
その第1の理由として、まず、ポリマ導波路の損失の中で、コア層側面の荒れによる散乱損失が極めて大きいことが挙げられる。この散乱損失対策として、フォトレジスト膜のパターニングに、フォトマスクを用いないでフォトレジスト膜の上に紫外線レーザビームを直接照射してフォトレジスト膜を所望パターンに露光する方法を応用することが考えられる。
【0020】
しかし、その後にその所望パターンをマスクにしてエッチングしなければならないために、エッチングによる側面荒れが必然的に生じてしまい、結果的に低損失化は難しい。
【0021】
第2の理由として、ポリマ材料固有の吸収基(CH基、OH基)に依存する吸収損失が存在していることが挙げられる。この吸収損失対策として、ポリマのフッ素化、あるいは重水素化を図る試みが行われているが、耐熱性の劣化、成膜の難しさ等の課題があり、まだ実用的なものは得られていない。
【0022】
(6)導波路の表面、裏面、若しくは内部に電子部品、電子回路、光部品、光回路等をハイブリッド実装する際には半田が用いられる。しかし、現状である程度の低損失特性(0.2dB/cm程度)を期待できるポリマ材料を用いた導波路は耐熱性が悪く、半田リフロー温度(Au/Sn半田のリフロー温度:>280℃)に耐えることが難しい。また、280℃より高い温度で実装、処理されると、導波路に用いられるポリマの屈折率が変化してしまい、導波路の光学特性が大幅に変わって使用不可になってしまう。これとは逆に、耐熱性を期待できるポリマ材料を用いた導波路では損失が大きかったり、偏波依存性があったりして実用上問題がある。
【0023】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、小型で低損失なホーリー導波路型光回路及びその製造方法を提供することにある。
【0024】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、光信号が伝搬するコア層と、該コア層より屈折率が低く、該コア層を覆うクラッド層とを有し、上記コア層が曲線部を有し、該曲線部の外周のみに少なくとも4本の空孔を有するホーリー導波路型光回路である。
【0025】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成に加え、上記コア層内に基底モードの光信号を伝搬させるようにしてもよい。
【0026】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加え、上記空孔の断面積は上記コア層の断面積より小さくしてもよい。
【0027】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構成に加え、上記クラッド層は、上記クラッド層より屈折率の低い低屈折率層で挟まれていてもよい。
【0028】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の構成に加え、上記コア層は、光が二次元方向、あるいは三次元方向に伝搬するように形成されていてもよい。
【0029】
請求項6の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の構成に加え、上記コア層は曲線、若しくは直線と曲線の組合せからなってもよい。
【0030】
請求項7の発明は、請求項1から6のいずれかに記載の構成に加え、上記クラッド層は、基板上に形成されていてもよい。
【0031】
請求項8の発明は、請求項1から7のいずれかに記載の構成に加え、上記コア層は、中心の屈折率が周囲の屈折率より高くてもよい。
【0032】
請求項9の発明は、光信号が伝搬可能な透明層の光伝搬層となる領域の周囲に、300フェムト秒以下30フェムト秒以上のパルス幅を有し、上記透明層を透過できる波長帯の超短パルスレーザビームを照射しながら上記超短パルスレーザビーム若しくは上記透明層のいずれかを相対的に移動させることにより少なくとも4本の空孔を形成することを特徴とするホーリー導波路型光回路の製造方法である。
【0034】
本発明のホーリー導波路型光回路の最大の特徴は、フォトニック結晶導波路のように高寸法精度の空孔を所定の間隔でマトリクス状に構成する必要が無いことである。すなわち、光伝搬層となる領域の周囲に少なくとも4本の空孔を領域に沿って連続的に所望の長さ形成するだけでよく、しかもフォトニック結晶導波路のような規則的で寸法精度の高い空孔配列を必要としない。そのため、光回路の作製が容易であり、空孔の周期構造の乱れによる損失増加が極めて少なく、低損失特性を期待できる。また、光伝搬層となる領域の周囲に空孔を少なくとも4本光伝搬方向に連続的に所望長さ形成することにより、大きな屈折率を得ることができるので、従来の埋め込み型導波路構造よりも大幅に小型化することができる。
【0035】
本発明のホーリー導波路型光回路は、光伝搬層の一端から入力した光信号の基底モードは光伝搬層内に略完全に閉じ込められたまま、空孔の影響を受けることなく、光伝搬層内を伝搬し他端から出力する。
【0036】
さらに、本発明のホーリー導波路型光回路の特徴は、それぞれの空孔内は空気層であるので、光伝搬層と空孔との比屈折率差Δは極めて大きくなり(Δ≒30)、高次モードが4本の空孔によって透明層に閉じ込められるため、透明層の厚さは薄くてよい。すなわち、透明層の厚さが薄くても透明層の上部の空気層及び下部のクラッド層が光学特性に影響を及ぼしにくくなる。
【0037】
これに対して、従来の埋め込み型ガラス導波路の上部クラッド層及び下部クラッド層は厚い層(20μm以上)にしておかないと、光学特性に影響を及ぼしていた。
【0038】
さらに、本発明のホーリー導波路型光回路は、曲線部での散乱損失を大幅に小さくすることができ、これにより曲線部の曲率半径を小さくすることができる。
【0039】
さらに、本発明のホーリー導波路型光回路の特徴は、空孔の数が極めて少なくてよい点である。この空孔の数が少なくてよい点は、ホーリー導波路型光回路を作製する上で大きなメリットとなる。光伝搬方向に連続した空孔は、超短パルスレーザビームを光伝搬層となる領域の周囲に集光、照射すると共に、レーザビームか透明層のいずれかを相対移動させることにより、容易に作製ができる。また、曲率半径の小さい曲線部の空孔を連続的に形成することができるので、この曲線部での低損失特性を実現することが可能である。このため、さらなる小型化、低損失化が可能となり、二次元構造以外に三次元構造も容易に構成することができる。この結果、透明層の上面、下面、あるいは上下両面に半導体光素子や受動光部品等を実装した小型の光・電子複合デバイスを構成することができる。
【0040】
さらに、光伝搬層内の屈折率を透明層の屈折率よりも高くすることにより、光信号を光伝搬層内により一層強く閉じ込めることができ、より小さい曲率半径で構成した低損失光回路を実現することができる。
【0041】
また、本発明の応用として、従来の埋め込み型導波路で構成した光回路のコア層の周囲に空孔を少なくとも4本コア層に沿って形成することにより、光回路をさらに小型化することができ、種々の光信号処理回路が実現可能となる。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0043】
図1(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の参考例を示す側面図、図1(b)は図1(a)に示したホーリー導波路型光回路の製造方法の説明図、図1(c)は図1(a)に示したホーリー導波路型光回路の1c−1c線上の屈折率を示す図である。図1(c)において、横軸は屈折率を示し、縦軸は厚さ方向の位置を示す。
【0044】
このホーリー導波路型光回路は、基板1上に、光信号が伝搬可能な透明部材からなる透明層2を形成し、この透明層2内の(光伝搬層となる)領域4の周囲に4本の空孔3−1、3−2、3−3、3−4を領域4に沿って連続して形成した構造を有している。
【0045】
ホーリー導波路型光回路の一端(図1(b)では左側)から矢印5−1方向に入射した光信号の基底モードは、光伝搬層4内に略完全に閉じ込められて伝搬し、空孔3−1〜3−4の影響を受けることなく、矢印5−2方向にホーリー導波路型光回路の他端(この場合右側)から出射するようになっている。
【0046】
このホーリー導波路型光回路の特徴は、空孔3−1〜3−4内が空気層であるので、光伝搬層4と空孔3−1〜3−4との比屈折率差Δは極めて大きくなり(Δ≒30)、高次モードが4本の空孔3−1〜3−4によって透明層2内に閉じ込められるため、透明層2の厚さは薄くてよい。すなわち、透明層2が薄くてもその透明層2の上部の空気層及び下部のクラッド層(この場合は基板1)が光学特性にほとんど影響を及ぼすことはない。
【0047】
ここで、従来の埋め込み型ガラス導波路は、その上部クラッド層及び下部クラッド層が厚い層(20μm以上)でないと、光学特性に影響が及ぼされていた。
【0048】
これに対して、本発明のホーリー導波路型光回路は、曲線部での散乱損失を大幅に減少させることができ、曲線部の曲率半径を小さくすることができる(図6参照)。
【0049】
また、本ホーリー導波路型光回路は、ゼロ分散波長を短波長側にシフトすることができるので、分散制御用光回路を構成する上で有利な光回路である。所望波長での基底モード伝搬を行わせるようにする条件は、光伝搬層4の断面積Sc及び空孔3−1〜3−4の断面積Shに依存する。例えば、基板1に石英ガラスを用い、透明層2にSiO2を用いると図1(c)に示すような屈折率分布となり、光伝搬層4の断面積Scの直径を約8μm、空孔3−1〜3−4の内径を約4μmにすることにより、従来の埋め込み型ガラス導波路と同程度の構造を実現することができる。波長1.55μm帯で種々の光信号処理回路を構成することができる。
【0050】
空孔3−1〜3−4を透明層2内に形成する方法としては、図1(b)に示すようにパルス幅が30〜300fsでその繰り返し周波数が数kHz〜250kHzの超短パルスレーザビーム9−1を、レンズ10で集光し、集光したレーザビーム9−2を透明層2内にビームスポット径4μm以下で照射し、基板1若しくはレーザビーム9−2のいずれかの相対的な移動(例えば基板1の矢印11方向への移動)を行うことにより形成することができる。レーザビーム9−2の照射は透明層2の上面方向か透明層2の側面方向のいずれかからでもよい。
【0051】
超短パルスレーザビーム9−1、9−2のエネルギーは数百μJで空孔3−1〜3−4を形成することができ、それ以下の値のエネルギーで透明層2を高屈折率化させることができる。
【0052】
図2(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の参考例を示す側面図、図2(b)は図2(a)に示したホーリー導波路型光回路の2b−2b線上の屈折率を示す図で、図2(c)は図2(a)の2b、2b線上の屈折率を示す。図2(c)において、横軸は屈折率を示し、縦軸は厚さ方向の位置を示す。
【0053】
図1(a)〜(c)に示したホーリー導波路型光回路との相違点は、透明層2の屈折率よりも高い屈折率の光伝搬層6を用いた点である。
【0054】
このように構成したことにより、基底モードは、より一層光伝搬層6内に閉じ込められて伝搬させることができる。光伝搬層6の屈折率nwと透明層2の屈折率ncとの比屈折率差Δは0.1%〜3%の範囲が好ましい。光伝搬層6にはGe、P、Ti、Ta、Sn等の屈折率制御用添加物が少なくとも1種類添加されたSiO2を用いるか、透明層2内にFを添加したSiO2を用いることにより、上記比屈折率差Δを得ることができる。
【0055】
透明層2より屈折率の高い光伝搬層6を得る他の方法としては、屈折率制御用添加物が添加された光伝搬層内に超短パルスレーザビーム9−2を集光、照射することにより高密度化させて高屈折率化を図ることが挙げられる。
【0056】
図3は本発明のホーリー導波路型光回路の他の実施の形態を示す側面図である。
【0057】
このホーリー導波路型光回路は、光伝搬層4を囲むように光伝搬層4に沿って複数(図では8本であるが限定されない。)の空孔3−1〜3−8を形成したものである。
【0058】
このように構成したことにより、高次モードを一層透明層2に閉じ込めて伝搬させることができるようになるので、透明層2を薄く形成することができる。
【0059】
図4は本発明のホーリー導波路型光回路の参考例を示す側面図である。
【0060】
このホーリー導波路型光回路は、中央光伝搬層6及び外周光伝搬層7からなる二重構造の光伝搬層6、7を用い、光伝搬層7の外周に光伝搬層7に沿って複数(図では12本であるが限定されない。)の空孔3−1〜3−12を形成したものである。中央光伝搬層6は高屈折率層(屈折率nw)であり、外周光伝搬層7は、中央光伝搬層6より屈折率の低い低屈折率層(屈折率nl)である。屈折率nlは、透明層2の屈折率ncよりも低いのが好ましい。中央光伝搬層6の屈折率は、屈折率制御用添加物が添加された透明層2に超短パルスレーザビームを集光、照射することにより高くすることができる。
【0061】
このように構成したことにより、高次モードを一層光伝搬層6、7内に閉じ込めて伝搬させることができるようになり、透明層2を薄く形成することができる。
【0062】
図5(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の参考例を示す側面図であり、図5(b)は図5(a)の5b−5b線断面図であり、図5(c)は図5(b)の上面図である。
【0063】
このホーリー導波路型光回路は、光伝搬層4をほぼ直角に折り曲げて矢印5−1方向から入射した信号光を矢印5−3方向に出射させるようにしたものである。
【0064】
このように構成したことにより、高次モードを光伝搬層4に閉じ込めて伝搬させることができる。
【0065】
図6(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の一実施の形態を示す側面図であり、図6(b)は図6(a)の6b−6b線断面図であり、図6(c)は図6(b)の上面図である。
【0066】
このホーリー導波路型光回路は、光信号が伝搬するコア層12と、コア層12より屈折率が低く、コア層12を覆うクラッド層13と、コア層12の曲線部の周囲にコア層12に沿って形成された少なくとも4本の空孔3a、3b、3c、3dとで構成されたものである。
【0067】
すなわち、このホーリー導波路型光回路は、クラッド層13で覆われた光伝搬層としてのコア層12の曲線部の外周だけに空孔3a〜3dを形成したものであり、コア層12の曲線部での急激な光信号の散乱損失を低減するためと、直角の曲げを実現するためのものである。尚、空孔3a〜3dの入、出力端側はテーパ状に先細りするように形成してもよい。また、矢印5−1側に図示しない光ファイバを接続し、矢印5−3側に図示しない受光素子を接続してアクティブな光受信用デバイスを構成してもよく、矢印5−3側に図示しない発光素子を接続した送信用デバイスを構成してもよい。
【0068】
以上のように、透明層の上面、基板の下面、あるいは上下両面に半導体レーザや受光素子等の半導体光素子やレンズ、フィルタ等の受動光部品、LSIや電子部品等を実装した小型光・電子複合デバイスを構成することができる。
【0069】
本発明は上記実施の形態に限定されない。まず、光伝搬層4,6,12の断面形状は円形以外に、疑似円形、多角形、楕円、長円のいずれでもよい。空孔3−1〜3−12、3a〜3dの数も少なくとも4本あればよい。空孔3−1〜3−12、3a〜3dの断面形状も円形以外に、疑似円形、楕円、多角形のいずれでもよい。基板1にはガラス基板以外に、半導体基板(Si、GaAs、InP)、強誘電体基板(LiNbO3、LiTaO5)、セラミックス基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0070】
特に本発明のホーリー導波路型光回路は、高次モードが光伝搬層4,6,12内に閉じ込められるため、透明層2,13を薄くすることができ、透明層2,13の上層や下層の光学特性に影響されないので、上記のような種々の基板を用いることができる。また、透明層2,13は必ずしも基板1上に形成されていなくてもよい。すなわち、フィルム状の透明な層であってもよい。
【0071】
透明層2,13には、ガラス以外にポリマを用いてもよい。例えば、ポリイミド、シリコーン、エポキシ樹脂、フォトブリーチング用ポリマ等を用いることができる。
【0072】
上記フォトブリーチング用ポリマ材料としては、ポリシラン化合物、ポリシラン化合物にシリコーン化合物、あるいはシリコーン化合物に光酸発生剤を添加したもの、ニトロンを添加したシリコーン化合物等を用いることができる。
【0073】
ここで、まず、本発明に適用できるポリシラン化合物について述べる。
【0074】
本発明のホーリー導波路型光回路に用いられるポリシラン化合物としては、直鎖型及び分岐型を用いることができる。分岐型と直鎖型とはポリシラン中に含まれるSi原子の結合状態によって区別される。すなわち、分岐型ポリシランとは、隣接するSi原子と結合している数(結合数)が3または4であるSi原子を含むポリシランである。
【0075】
これに対して、直鎖型のポリシランは、Si原子の、隣接するSi原子との結合数は2である。通常、Si原子以外に、炭化水素基、アルコキシ基または水素原子と結合している。このような炭化水素基としては、炭化数1〜10のハロゲンで置換されていてもよい脂肪族炭化水素基、炭化数6〜14の芳香族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基の具体例として、メチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、トリフルオロプロピル基及びノナフルオロヘキシル基等の鎖状の官能基やシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基等の脂環式の官能基が挙げられる。また、芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、p−トリル基、ビフェニル基及びアントラシル基が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1〜8の官能基が挙げられる。具体例としては、メトキシ基、フェノキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。合成の容易さを考慮すると、これらの中でメチル基及びフェニル基が特に好ましい。
【0076】
分岐型ポリシランの場合には、隣接するSi原子との結合数が3または4であるSi原子の数は、分岐型ポリシラン中の全体のSi原子の数の2%以上であることが好ましい。上記Si原子の数が2%未満のものや直鎖型のポリシランは結晶性が高く、膜中で微結晶が生成しやすいことにより、光散乱の原因となり、光透明性が低下しやすい。
【0077】
本発明のホーリー導波路型光回路に用いられるポリシランは、ハロゲン化シラン化合物をナトリウムのようなアルカリ金属の存在下、n−デカンやトルエンのような有機溶媒中において80℃以上に加熱することによる重縮合反応によって製造することができる。また、電解重合法や金属マグネシウムと金属塩化物を用いた方法でも合成可能である。
【0078】
分岐型ポリシランの場合には、オルガノトリハロシラン化合物、テトラハロシラン化合物及びジオルガノジハロシラン化合物からなり、オルガノトリハロシラン化合物及びテトラハロシラン化合物が全体量の2モル%以上であるハロシラン混合物を加熱して重縮合することにより、目的とする分岐型ポリシランが得られる。
【0079】
ここで、オルガノトリハロシラン化合物は、隣接するSi原子との結合数が3であるSi原子源となり、一方のテトラハロシラン化合物は、隣接するSi原子との結合数が4であるSi原子源となる。
【0080】
なお、ネットワーク構造の確認は、紫外線吸収スペクトルや珪素の核磁気共鳴スペクトルの測定により確認することができる。
【0081】
ポリシランの原料として用いられるオルガノトリハロシラン化合物、テトラハロシラン化合物及びジオルガノジハロシラン化合物がそれぞれ有するハロゲン原子は、塩素原子であることが好ましい。オルガノトリハロシラン化合物が有するハロゲン原子以外の置換基としては、上記炭化水素、アルコキシ基または水素原子が挙げられる。
【0082】
次に本発明のホーリー導波路型光回路のポリシラン化合物に添加されるシリコーン化合物としては化1式で示される。
【0083】
【化1】
【0084】
次に基板上へのポリマ層の成膜方法について説明する。
【0085】
上記ポリマ化合物を有機溶媒に溶かしてポリマ溶液とし、そのポリマ溶液を上記基板上へスピンコーティング法、押し出しコーティング法等で塗布する。次いで80℃〜150℃の温度範囲で20分〜40分程度プリベークする。その後、200℃〜300℃の温度範囲で20分〜60分程度のポストベークを行い、ポリマ層とする。なお、上記プリベーク及びポストベークはプログラム式温度制御型電気炉内で昇温工程、定温保持工程、昇温工程、定温保持工程、降温工程を連続的に行うようにしてもよい。
【0086】
ここで、本実施の形態に用いる有機溶媒には、炭素数5〜12の炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系及びエーテル系等である。炭化水素の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、n−デカン、n−ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン等を用いることができる。ハロゲン化炭化水素系の例としては、四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロベンゼン等を用いることができる。エーテル系の例としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラハイドロフラン等を用いることができる。また、フォトブリーチング用ポリマ材料として、ニトロン化合物を含んだシリコーン化合物の有機溶媒として、ペグミアを用いてもよい。フォトブリーチング用ポリマ材料としては、上記有機溶媒に溶ける材料でなければならない。
【0087】
以上において、本発明は下記のような効果を有する。
【0088】
(1)フォトニック結晶導波路のように高寸法精度の空孔を所定の間隔を隔ててマトリクス状に構成する必要が無い。すなわち、光伝搬層の外周に光伝搬層に沿って少なくとも4本の空孔を形成するだけでよい。しかもフォトニック結晶導波路のような規則的で寸法精度のよい空孔配列を必要としないので、作製が容易であり、空孔の間隔の乱れによる損失増加が極めて少なく、低損失特性を実現することができる。光伝搬層の外周に少なくとも4本の空孔を形成することにより大きな屈折率差を得ることができるので、従来の埋め込み型導波路構造よりも大幅に小型化することができる。
【0089】
(2)空孔の数が極めて少なくてすむので、ホーリー導波路型光回路を作製する上で大きなメリットとなる。光伝搬方向に連続して空孔は超短パルスレーザビームを光伝搬層の外周に集光、照射することにより、レーザビームか透明材料のいずれかを相対移動させることにより、容易に作製することができる。また、曲率半径の小さい曲線部の空孔を連続的に形成することができるので、この曲線部での低損失特性を実現することができ、結果的にさらなる小型化と低損失化した光回路を実現することができ、二次元構造以外に三次元構造も容易に構成することができる。すなわち、透明層の上面、下面、あるいはその上下両面に半導体レーザや受光素子等の半導体光素子やレンズ、フィルタ等の受動光部品、LSIや電子部品等を実装した小型光・電子複合デバイスを構成することができる。
【0090】
(3)ホーリー導波路型光回路の一端から入射した光信号の基底モードは光伝搬層内に略完全に閉じ込められて伝搬し、空孔の影響を受けることなく、光伝搬層内に閉じ込められて伝搬してホーリー導波路型光回路の他端から出射する。この導波路構造の特徴は、それぞれの空孔内は空気層であるので、光伝搬層と空孔との比屈折率差Δは極めて大きくなり(Δ≒30)、高次モードが4本の空孔によって透明層内に閉じ込められるため、透明層は薄くてよい。
【0091】
すなわち、透明層の厚さが薄くてもその層の上部の空気層及び下部のクラッド層が光学特性にほとんど影響を及ぼさない。
【0092】
これに対して従来の埋め込み型ガラス導波路の上部及び下部クラッド層は厚い層(20μm以上)にしておかないと、光学特性に影響を及ぼしていた。
【0093】
(4)導波路の曲線部での散乱損失を大幅に小さくすることができ、これにより曲線部の曲率半径を小さくすることができる。
【0094】
(5)光伝搬層の屈折率を透明層の屈折率よりも高くすることにより、光信号を光伝搬層内にさらに強く閉じ込めることができ、より小さい曲率半径で構成した低損失光回路を構成することができる。
【0095】
(6)従来の埋め込み型導波路で構成した光回路のコア層の外周に伝搬方向に連続した空孔を少なくとも4箇所所望の長さに形成することにより、光回路をさらに小型化することができると共に、種々の光信号処理回路を実現することができる。例えば、Y分岐光回路、光方向性結合器、T型光分岐回路、X交差型光回路、L字型曲線導波路、リング光共振回路等である。
【0096】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、小型で低損失なホーリー導波路型光回路及びその製造方法の提供を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の一実施の形態を示す側面図、(b)は(a)に示したホーリー導波路型光回路の製造方法の説明図、(c)は図1(a)に示したホーリー導波路型光回路の1c−1c線上の屈折率を示す図である。
【図2】(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の他の実施の形態を示す側面図、(b)は(a)に示したホーリー導波路型光回路の2b−2b線上の屈折率を示す図、(c)は(a)の2b−2b線上の屈折率を示す図である。
【図3】本発明のホーリー導波路型光回路の他の実施の形態を示す側面図である。
【図4】本発明のホーリー導波路型光回路の他の実施の形態を示す側面図である。
【図5】(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の他の実施の形態を示す側面図であり、(b)は(a)の5b−5b線断面図であり、(c)は(b)の上面図である。
【図6】(a)は本発明のホーリー導波路型光回路の他の実施の形態を示す側面図であり、(b)は(a)の6b−6b線断面図であり、(c)は(b)の上面図である。
【図7】(a)〜(f)はフォトニック結晶の概念図を示す図である。
【図8】フォトニック結晶の他の従来例を示す図である。
【符号の説明】
1 基板
2 透明層
3−1〜3−4 空孔
4 領域(光伝搬層)
Claims (9)
- 光信号が伝搬するコア層と、該コア層より屈折率が低く、該コア層を覆うクラッド層とを有し、上記コア層が曲線部を有し、該曲線部の外周のみに少なくとも4本の空孔を有することを特徴とするホーリー導波路型光回路。
- 上記コア層内に基底モードの光信号を伝搬させるようにした請求項1に記載のホーリー導波路型光回路。
- 上記空孔の断面積は上記コア層の断面積より小さい請求項1又は2に記載のホーリー導波路型光回路。
- 上記クラッド層は、上記クラッド層より屈折率の低い低屈折率層で挟まれている請求項1から3のいずれかに記載のホーリー導波路型光回路。
- 上記コア層は、光が二次元方向、あるいは三次元方向に伝搬するように形成されている請求項1から4のいずれかに記載のホーリー導波路型光回路。
- 上記コア層は曲線、若しくは直線と曲線の組合せからなる請求項1から5のいずれかに記載のホーリー導波路型光回路。
- 上記クラッド層は、基板上に形成されている請求項1から6のいずれかに記載のホーリー導波路型光回路。
- 上記コア層は、中心の屈折率が周囲の屈折率より高い請求項1から7のいずれかに記載のホーリー導波路型光回路。
- 光信号が伝搬可能な透明層の光伝搬層となる領域の周囲に、300フェムト秒以下30フェムト秒以上のパルス幅を有し、上記透明層を透過できる波長帯の超短パルスレーザビームを照射しながら上記超短パルスレーザビーム若しくは上記透明層のいずれかを相対的に移動させることにより少なくとも4本の空孔を形成することを特徴とするホーリー導波路型光回路の製造方法。
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