JP4093291B2 - スチレン類の重合抑制方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スチレン類の製造あるいは精製工程において、スチレン類あるいはこれを含有するプロセス流体の重合を抑制する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スチレン類、特にスチレンはポリスチレン、合成ゴム、ABS樹脂などの製造原料として産業上非常に重要な化合物であり、工業的に多量に生産されている。
【0003】
スチレン類は極めて重合しやすく、その製造あるいは精製工程において、熱が加わるなどの要因により重合物を生じ、目的物であるスチレン類モノマーの収率を低下させ、さらに関連設備の中にファウリング(汚れ)を生じ設備の運転上支障を来すなどの問題がある。その対策として、重合抑制剤をプロセス流中に添加する方法が提案され、実用に供されているが、このような重合抑制剤としては、例えばフェノール類、ニトロソフェノール類、ニトロフェノール類(例えば、特開昭63−316745号公報)、ピペリジン−1−オキシル類(例えば、特開平1−165534号公報)、ピペリジン−1−オキシル類とニトロフェノール類との組み合わせ(例えば、特開平6−166636号公報)などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、スチレン類の製造工程、精製工程は一般に温度が高く(80〜130℃)、また溶存酸素の少ない条件で運転されており、そのような条件下ではフェノール類、ニトロソフェノール類、ニトロフェノール類は重合を充分に抑えられないのが実情であった。
【0005】
その改良として、ピペリジン−1−オキシル類が提案されたが、この重合抑制剤においては、重合の開始に誘導期間をもち、初期の重合抑制効果は高いが、その誘導期間は短く、誘導期間が過ぎると急激に重合生成物が生ずるといった欠点を有していた。
【0006】
そこで本発明は、かかるスチレン類の製造あるいは精製工程における酸素希薄な高温条件下においても優れた重合抑制効果を有し、且つその効果が長く持続し、関連装置の安全運転を容易にする方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、スチレン類の重合特性を詳しく調査、研究を行った結果、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を用いることにより極めて効果的にスチレン類の重合が抑制されることを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本請求項1の発明は、スチレン類の製造あるいは精製工程において、一般式(I)〔式中、R1はOH基、OR2基(R2は炭素数1〜3のアルキル基を示す)、COOR3基(R3は水素原子、あるいは炭素数1〜3のアルキル基を示す)、
【化4】
(R4とR5はそれぞれ独立して水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基を示す)、
【化5】
(R6とR7はそれぞれ独立して水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基を示す)を示す〕で示される3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を添加することを特徴とするスチレン類の重合抑制方法であり、請求項2の発明は、請求項1に記載の3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を添加する際に、さらにニトロフェノール類を添加することを特徴とするスチレン類の重合抑制方法であり、
【化6】
請求項3の発明は、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類が、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチル−ピロリジン−1−オキシル、3−カルボキサミド−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシルである請求項1又は2記載のスチレン類の重合抑制方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明におけるスチレン類は、スチレン、置換スチレン(例えばメチルスチレン、エチルスチレンなど)、ジビニルベンゼンなど芳香族ビニル化合物である。
【0011】
本発明においてスチレン類の重合抑制剤として用いる3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類は一般式(I)で示されるものである。一般式(I)におけるR1はOH基、OR2基(R2は炭素数1〜3のアルキル基)、COOR3基(R3は水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基)
【化7】
(R4とR5はそれぞれ独立して水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基)、
【化8】
(R6とR7はそれぞれ独立して水素原子あるいは炭素数1〜3のアルキル基)である。
【0012】
3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類の具体的な例を挙げると、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−カルボキサミド−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−ヒドロキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−アミノ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−エチルアミノ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−メトキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−エトキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−カルボメトキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル等がある。これらのうち、特に好ましい化合物は、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル及び3−カルボキサミド−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシルである。
【0013】
本発明においてピペリジン−1−オキシル類と組み合わせて用いられるニトロフェノール類の具体的な例を挙げると、o−ニトロフェノール、m−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、3−ニトロ−o−クレゾール、5−ニトロ−o−クレゾール、2−ニトロ−m−クレゾール、4−ニトロ−m−クレゾール、2−ニトロ−p−クレゾール、3−ニトロ−p−クレゾール、4−ニトロ−レゾルシノール、1−ニトロ−2−ナフトール、2−ニトロ−1−ナフトール、2,4−ジニトロフェノール、2,5−ジニトロフェノール、2,6−ジニトロ−4−t−ブチルフェノール、2,6−ジニトロ−p−クレゾール、4,6−ジニトロ−o−クレゾール、2,4−ジニトロ−1−ナフトール、1,5−ジニトロ−2−ナフトール、ニトロクレゾール等である。
【0014】
3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類のスチレン類の製造工程あるいは精製工程への添加量は、対象とする工程の条件、重合抑制の必要度などにより異なり、一律に決められるものではないが、一般的には対象とするスチレン類に対し、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を1〜500ppm、好ましくは10〜200ppm、さらに好ましくは20〜100ppmである。この添加量は、対象とするスチレン類の重合抑止効果を発揮する上で適当な範囲として見いだされたものであり、この範囲より小さいと重合抑止効果が充分でなく、またこの範囲より多いと効果は充分にあるが、添加量の割に効果は大きくならず、経済的見地から好ましくなくなる。
【0015】
本発明は3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類、あるいは該オキシル類とニトロフェノール類を組み合わせて適用される。3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類とニトロフェノール類を組み合わせて添加する場合、これらはともに重合抑制能力をもった化合物であり、如何なる混合割合でもそれなりの効果が発揮されるが、組み合わせによる相乗効果を発揮するには、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類とニトロフェノール類の混合比は、好ましくは1:5〜1:20(重量比)、さらに好ましくは1:10〜1:15(重量比)である。
【0016】
本発明における3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類、あるいは該オキシル類とニトロフェノール類を組み合わせの添加場所は、スチレン類が重合しファウリングとして問題化する箇所よりプロセスの上流部に添加する。例えばスチレンは一般にエチルベンゼンの脱水素反応によって製造され、生成したスチレンと未反応エチルベンゼンを連続的に蒸留分離しており、そのエチルベンゼン脱水素後の蒸留塔群に供給する。3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を単独で、あるいは3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類とニトロフェノール類を別々に、あるいは両者を適正な混合比でそのプロセス流体と同じ液体、例えばスチレンの場合にはエチルベンゼンや粗スチレンに溶解して添加するのが実際上便利である。
【0017】
添加に際して、ある箇所に一括添加するか、あるいはいくつかの箇所に分けて分散添加するなどの方法が適宜とられる。
【0018】
本発明において、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類とニトロフェノール類以外に、本発明の効果を損なわない範囲において公知の他の重合抑制剤を併せて用いることになんら制限を加えるものではない。
【0019】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
なお、実施例において3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類、 ニトロフェノール類などに用いた化合物は、東京化成(株)試薬を使用した。
【0021】
1.スチレンの重合抑制効果
還流冷却器を備えた4っ口セパラブルフラスコにスチレンモノマー100g、及び本発明の、あるいは比較の重合抑制剤を所定量入れ、高純度窒素ガスを液中に吹込みながら110℃に保持し、一定時間毎に内容物の一部を取り出し、液中のポリマー生成量を測定した。
【0022】
尚、スチレンモノマーは実験を始める前に、アルカリ洗浄しモノマー中に含まれる重合抑制剤を除き、水洗、乾燥したものを用いた。また、ポリマー生成量は、サンプリングした液の9倍量のメタノールを加えると、ポリマーが液中に懸濁状態に析出してくるのでこれを濾過してその重量を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0023】
表1から、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を単独で、あるいは該オキシル類とニトロフェノール類とを組み合わせて添加することによって、スチレンの重合が効率よく抑制されていることがわかる。特に、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類は、初期の重合をよく抑制し、またニトロフェノール類は、初期の重合抑制効果は3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類に比べて小さいが、長時間に亙って効果が持続することが認められる。3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類とニトロフェノール類との組み合わせは、それぞれの長所が生かされ、かつ相乗効果が発揮されている。
【0024】
【表1】
【0025】
【発明の効果】
スチレン類の製造あるいは精製工程において、3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を、あるいは該オキシル類とニトロフェノール類とを組み合わせて添加することによって、スチレン類あるいはこれを含有するプロセス流体の重合を効率よく抑制し、且つその効果が長く持続し、関連装置の安全運転を容易にすることを可能にした。
Claims (3)
- 請求項1記載の3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類を添加する際に、さらにニトロフェノール類を添加することを特徴とするスチレン類の重合抑制方法。
- 3−置換−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル類が、3−カルボキシ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシル、3−カルボキサミド−2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−1−オキシルである請求項1又は2記載のスチレン類の重合抑制方法。
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