JP4089281B2 - 磁気冷凍作業物質および蓄冷式熱交換器ならびに磁気冷凍装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気冷凍作業物質、特に室温付近で大きな磁気熱量効果を示す磁気冷凍作業物質、およびそれを用いた蓄冷式熱交換器ならびに磁気冷凍装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
冷凍技術には主として気体の断熱膨張あるいはジュール・トムソン効果を用いた技術が用いられてきたが、代表的な冷凍作業気体であるフロンガスがオゾン層を破壊するという環境問題の他、効率の低さが省エネルギー化を阻んでいるという本質的問題点がある。
【0003】
一方、固体の磁気相転移(「磁気変態」ともいう。)に伴うエントロピー変化を利用した方法が高効率冷凍技術として研究されてきた。磁気冷凍技術は、キュリー温度付近で磁性体に磁界を印加することによって得られる磁気的配列度の高い低磁気エントロピー状態と、磁界を解除することによって得られる磁気配列度が低い(例えばランダムな)高磁気エントロピー状態とのエントロピー差を利用して、磁性体のエントロピー変化に伴う温度変化により冷却作業を行うものである。このような特性は「磁気熱量効果」と呼ばれ、磁気熱量効果を有する材料を磁気冷凍作業物質または蓄冷作業物質として用いた磁気冷凍装置が研究されている。
【0004】
これまでに知られている磁気熱量効果を示す物質(例えば、金属Gd)は二次相転移を示すものであり、比較的広い温度範囲で磁気熱量効果を有する反面、磁気熱量効果が比較的小さく、実用的な冷凍能力を実現するためには、超電導磁石などでしか実現できない5T(テスラ)以上の強磁界を印加する必要がある。このため、磁界印加に多大のエネルギーを消費することになり、省エネルギーという大きな特長を生かすことができない。
【0005】
これに対して、キュリー温度で強磁性相から常磁性相に一次相転移する物質は、磁気熱量効果を示す温度範囲が比較的狭い反面、磁気熱量効果が比較的大きく、永久磁石による磁界で動作する蓄冷式熱交換器および磁気冷凍装置が実現できる可能性が高く、注目されている(例えば、和田裕文、志賀正幸、「一次相転移を示す化合物の磁気熱量効果―高効率磁気冷凍を目指して−」、まてりあ、第39巻、第11号、909頁)。特に、最近になって、金属間化合物Gd5(SixGe1-x)4(x≦0.5)が室温付近で一次磁気相転移を示すことが発見され、室温で動作する蓄冷式熱交換器および磁気冷凍装置が実現できる可能性が示された(V.K.Pecharsky et al.,Appl.Phys.Lett.,70,3299−3301(1997))。
【0006】
また、従来から知れているMnAsは、キュリー温度318Kにおいて、NiAs型の六方晶構造からMnP型の斜方晶構造への構造変態を伴いながら強磁性相から常磁性相へとメタ磁性的に磁気相転移する。すなわち、MnAsの磁気相転移は一次相転移であり、非常に大きな磁気熱量効果を示す。しかしながら、MnAsの磁気相転移が構造変態を伴うことに起因して、磁化(M)−温度(T)曲線がヒステリシスを示す。従って、MnAsを磁気冷凍作業物質として利用することが難しい。
【0007】
本発明者の内の一人である和田のグループは、NiAs型六方晶構造を有するMnAsのAsの一部をSbで置換した材料が、磁界の印加よって、実質的な構造変態を伴わずに常磁性相から強磁性相に磁気相転移することを見出した(例えば、日本金属学会春季大会講演概要(2001)、p.371)。しかも、この磁気相転移は二次相転移であるにも関わらず、MnAsとほぼ同等の磁気熱量効果を示す。すなわち、MnAsのAsをSbで置換したMn(As1-xSbx)は、磁気相転移に伴う温度ヒステリシスを示さないので、磁気冷凍作業物質として好適に用いることができる。さらに、Asの一部と置換するSbの量(0<x≦0.25)を調節することによって、キュリー温度を230K以上318K未満の範囲内で制御することができる。従って、キュリー温度の異なる複数の磁気冷凍作業物質を調製し、これらを組み合わせることによって、室温付近を含む広い温度範囲で動作可能な蓄冷式熱交換器および磁気冷凍装置を実現することができる(特願2001−215503号参照)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者がMn(As1-xSbx)の組成および組織と磁気冷凍作業物質としての特性との関係をさらに詳細に検討した結果、特性の再現性に乏しいという問題があることが分かった。
【0009】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、Mn(As1-xSbx)の上記問題を解決し、室温付近で大きな磁気熱量効果を呈する磁気冷凍作業物質およびそれを用いた蓄冷式熱交換器ならびに冷凍装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気冷凍作業物質は、実質的にNiAs型六方晶構造を有し、組成式Mn 1+y (As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)で表され、215K以上318K未満の温度範囲において、常磁性相で磁界が印加されると、強磁性相に磁気相転移することを特徴とする。
【0013】
好ましい実施形態において、前記組成式のAはMnである。
【0014】
ある実施形態の磁気冷凍作業物質は、前記温度範囲において外部磁界を0Tから5Tまで変化させたときの磁気エントロピー変化(−ΔSmag)が10JK-1kg-1以上である。
【0015】
前記磁気相転移が4T(テスラ)以下の外部磁界の印加で起こることが好ましい。
【0016】
ある実施形態の磁気冷凍作業物質は、NiAs型六方晶構造の格子間にMnが存在する結晶を含む組織から構成される。
【0017】
本発明の蓄冷式熱交換器は、それぞれが上記のいずれかの磁気冷凍作業物質を含む第1蓄冷部材および第2蓄冷部材と、前記第1蓄冷部材と、前記第2蓄冷部材とに異なる磁界を印加する機構とを備えることを特徴とする。
【0018】
前記第1蓄冷部材および前記第2蓄冷部材は、前記磁気相転移温度が互いに異なる複数の磁気冷凍作業物質を含むことが好ましい。
【0019】
前記複数の磁気冷凍作業物質は、それぞれが層状であって、互いに積層されていることが好ましい。
【0020】
前記第1蓄冷部材および前記第2蓄冷部材は、前記磁気冷凍作業物質と結合材とを含み、前記結合材は、Al、CuおよびTiからなる群から選択される1種、または、2種以上を含む混合物または合金であることが好ましい。
【0021】
前記磁界を印加する機構は、永久磁石を有する磁気回路を含むことが好ましい。
【0022】
前記磁気回路は、前記第1蓄冷部材と前記第2蓄冷部材に印加される前記磁界の強さを可変に制御できることが好ましい。
【0023】
前記第1および第2蓄冷部材を、前記永久磁石によって生成される磁界中の第1の位置と、前記磁界外の第2の位置との間を交互に相対移動させる機構を更に備え、それによって前記第1蓄冷部材と前記第2蓄冷部材とに異なる磁界を印加する構成としても良い。
【0024】
本発明の他の蓄冷式熱交換器は、円筒状空間の中心部に強さが可変な磁界を発生させる磁気回路と、前記円筒状空間の中心部に固定配置され、上記のいずれかの磁気冷凍作業物質を含む蓄冷部材とを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の磁気冷凍装置は、上記のいずれかの蓄冷式熱交換器と、それぞれが前記蓄冷式熱交換器に熱的に接続された低温側熱交換素子および高温側熱交換素子とを備えることを特徴とする。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明は、上述したMn(As1-xSbx)の組成および組織と磁気冷凍作業物質としての特性との関係を詳細に検討した結果得られたものであり、特性の再現性に乏しいことの原因が、Mn(As1-xSbx)において六方晶構造のMnAsのAsの一部と置換すべく添加されたSbが全てAsと置換せず、六方晶構造以外の構造を有する第2相(Sb相)が形成されることにあるという知見に基づいている。
【0027】
図1(a)〜(c)を参照しながら、Mn(As1-xSbx)の組織について説明する。
【0028】
図1(a)は、MnAs六方晶構造をc軸方向から見たときの模式図である。MnおよびAsが結晶格子の各サイトに位置し、NiAs型六方晶構造を形成している。一方、Mn(As1-xSbx)は、図1(b)に示すように、NiAs型六方晶構造の格子点に位置するAsの一部がSbに置換された構造を有していると考えられていた。
【0029】
しかしながら、本発明者の検討によると、後に実験結果を示して説明するように、図1(c)に示すように、Asの一部がSbによって置換された六方晶構造を安定化するために、Mnの一部がサイト間(MnAs六方晶構造のMnおよびAsのサイトからずれた場所)に位置し、その結果、六方晶構造を形成する化合物全体としては、Mnが不足した状態となり、余分のSbがMnAs六方晶構造を有する結晶相(第1相)と相分離したSb相(「第2相」あるいは「不純物相」ということもある)を形成していることがわかった。
【0030】
このように、Sbが全てAsと置換されずSb相を形成すると、配合組成をMn(As1-xSbx)が得られるように調整しても、MnAs六方晶構造を有する結晶相は配合組成からずれた組成になってしまう。そのため、キュリー温度を精密に制御することができない。また、蓄冷部材として用いる場合、第2相(Sb相)の存在によって熱が散乱され、磁気冷凍作業物質の熱伝導率が低下する。その結果、外部との熱交換効率が低下することになる。この問題は、Asと置換すべく添加される第3元素がSb元素の場合に限られず、他の元素についても起こる。
【0031】
本発明の磁気冷凍作業物質は、実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織から構成され、Mnを必ず含む第1元素と、第2元素としてのAsと、第2元素と置換可能な第3元素とを含み、215K以上318K未満の温度範囲で磁気相転移を起こすことを特徴とする。本発明の磁気冷凍作業物質は、実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織から構成されるので、第2相が形成され、第1相が配合組成からずれることによるキュリー点制御の問題、あるいは、熱散乱による熱交換効率低下の問題が抑制される。勿論、本発明の磁気冷凍作業物質は、Mn(As1-xSbx)が有する他の特徴を損なうことはなく、室温付近に大きな磁気エントロピー変化を呈する。
【0032】
Asを置換すべく添加されたSbがAsと完全に置換された構造は、例えば、組成式(Mn、A)1+y(As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27、Aは、Mn、Ti、V、Cr、Fe、Co、NiおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種の元素)で表される化合物を調製することによって得られることを実験によって知見した。すなわち、Mnおよび/またはMnと置換可能な元素Aを化学量論量よりも過剰(0<y)に添加することによって、第2相を形成することなくNiAs型六方晶構造が安定化されることを知見した。
【0033】
組成式(Mn、A)1+y(As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)で表される化合物は、図1(d)に示す構造を有している。化学量論組成よりも過剰に添加されたMnおよび/またはA元素(図1(d)ではMnと異なる表記をしているがMnであってもよい。)は、六方晶構造の格子間に侵入し、原子半径の大きなSbがAsの位置に置換した(Mn、A)1+y(As1-xSbx)の六方晶構造を安定化すると考えられる。すなわち、化学量論組成より過剰に添加されたMnおよび/またはA元素は、図1(c)に示した格子点をはずれて存在するMnを補うように作用すると考えられる。なお、Mn以外の元素Aを添加した場合、元素Aが六方晶構造の格子点のMnの位置に入る場合もあり得る。このように、過剰のMnおよび/またはA元素によってNiAs型六方晶構造が安定化され、その結果、第2相が形成されることが抑制される。
【0034】
化学量論組成よりも過剰に含まれる第1元素は、典型的にはMnであるが、原子半径がMnと同程度の遷移金属元素(Ti、V、Cr、Fe、Co、NiおよびCu)を1種または2種以上混合して用いても同様の作用効果が得られる。また、第3元素はSbであることが好ましく、さらに第4元素を含んでもよい。
【0035】
(Mn、A)1+y(As1-xSbx)を0<x≦0.4、0<y≦0.27の組成範囲に調節すると、上述のようにSbがAsと完全に置換したNiAs型六方晶構造が安定化され、実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織が構成される。この化合物は、上記特願2001−215503号に開示されているMn(As1-xSbx)と同様に、室温付近で大きな磁気エントロピー変化を呈するという特徴を有する上に、第2相が実質的に形成されないので、熱散乱による熱交換効率の低下が抑制され、また、NiAs型六方晶構造のAsを置換するSbを所望の量に調整できるので、キュリー温度を精密に制御できるという利点が得られる。さらに、過剰に添加するMnおよび/またはA元素の量によってもキュリー温度を制御することがきるので、磁気冷凍装置の作業温度域に応じた磁気冷凍作業物質の多様性が広まる。
【0036】
0<x≦0.4の範囲に制御することによって、キュリー温度を215K以上318K未満の範囲に設定することができる。この温度範囲外では、磁気エントロピー変化が小さくなり、磁気冷凍作業物質としてこの物質を利用する利点が小さくなる。なお、構造変態に伴う磁化(M)−温度(T)曲線のヒステリシスを実質的になくすためには、0.015≦xであることが好ましく、0.05≦xであることがさらに好ましい。また、0<y≦0.27の範囲に設定することによって、実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織からなる磁気冷凍作業物質が得られる。特に優れた磁気熱量効果を得るために、0.05x≦y≦0.3xの範囲内にあることがさらに好ましい。例えば、外部磁界を0Tから5Tまで変化させたときの磁気エントロピー変化(−ΔSmag)が10JK-1kg-1以上を得ることができる。
【0037】
実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織を有する磁気冷凍作業物質を調製する方法は、上記の組成を調整する方法に限られない。但し、上記の組成を調整する方法は、ほぼ熱平衡を保った状態で、固相(あるいは液相)/気相反応を利用して、所望の組織を得ることができるので、再現性が高いという利点がある。例えば、(Mn、A)およびSbの原料粉末(但しSbは液相であってもよい)にAsを気相反応させる製造方法を好適に用いることができる。
【0038】
組成を調整する以外の方法としては、非平衡組織を形成する方法、例えば、気相/気相反応を利用するCVDや、固相/固相反応を利用するメカニカルアロイ法などを挙げることができる。これらの方法を利用する場合は、(Mn、A)1+ y(As1-xSbx)の組成範囲は、0<x≦0.4、0<y≦0.27に限られない。
【0039】
本発明による磁気冷凍作業物質の磁気相転移は、4T(テスラ)以下の磁界の印加でも起こる。従って、従来のように強磁界を必要とせず、永久磁石の磁界で動作する蓄冷式熱交換器を構成することができる。これらの蓄冷式熱交換器および磁気冷凍装置は、磁界の発生に電力を必要としないので、省エネルギー性に優れる。
【0040】
また、本発明による磁気冷凍作業物質は、希土類元素を必要としないので、比較的安価であるとともに、熱交換用液体として水系の流体を用いても、腐食が起きる心配が少ないという利点も得られる。
【0041】
本発明による磁気冷凍作業物質は、例えば、以下のようにして製造することができる。MnAsの一部のAsを置換する第3元素としてSbを用いる場合の製造方法の一例を説明する。
【0042】
(Mn、A)1+y(As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)の所定の組成が得られるように、各構成元素原料を反応容器(例えば石英管)に入れて、その内部を真空(<1Pa)に排気し密閉する。原料は粉末状のものが、均質な組成を得る上では望ましい。
【0043】
この反応容器を室温付近から徐々に加熱(1〜10℃min-1)する。急激に加熱するとAsの蒸気圧が上昇し、容器が壊れてAs蒸気が外に漏れる惧れがある。加熱後600℃〜1000℃の温度に保持し、24時間〜500時間焼成する。焼成時間(反応時間)が24時間より短いと反応が十分に進行していない惧れがあり、500時間を超えると生産性の低下を招く。
【0044】
焼成工程の後、反応容器を室温まで冷却して焼成体(反応生成物)を取り出す。この後、焼成体を粉砕して、600℃〜1000℃で再度焼成工程を繰り返すことが好ましい。再焼成工程を繰り返すことにより、(Mn、A)1+y(As1-xSbx)の組成分布が均一となり、磁気相転移の生じる温度域を狭くすることができる。すなわち、再焼成を繰り返すことによって、より大きな磁気熱量効果を有する(Mn、A)1+y(As1-xSbx)を合成することができる。
【0045】
このようにして得られた(Mn、A)1+y(As1-xSbx)の焼成体(ケーキ)を所望の形態に加工し、蓄冷部材を作製する。例えば、フィルム状(板状または層状)に加工してもよいし、必要に応じて粉砕され、(Mn、A)1+y(As1-xSbx)粉末としてもよい。例えば、蓄冷部材内部の作業ベッド内に熱交換用液体を通過させる目的のためには、平均粒径が50μm〜300μmの球状に近い粉末が好ましい。また、(Mn、A)1+y(As1-xSbx)を他の材料と複合化して用いてもよい。外部と効率よく熱交換できるような形態を適宜選択すればよい。
【0046】
本発明による蓄冷式熱交換器は、それぞれが上記のいずれかの磁気冷凍作業物質を含む第1蓄冷部材および第2蓄冷部材と、第1蓄冷部材と第2蓄冷部材とに異なる磁界を印加する機構とを備える。従って、室温付近で動作し、且つ省エネルギー性に優れた蓄冷式熱交換器が提供される。2つの蓄冷部材を用いることによって、蓄冷式熱交換器の動作の効率を向上することができる。なお、蓄冷部材とは、蓄冷式熱交換器において、磁気冷凍作業物質が充填され、その磁気熱量効果によって蓄冷する部材を指すことにする。磁気冷凍作業物質が物質そのものを指すのに対し、蓄冷部材は蓄冷式熱交換器の構成要素を指す。
【0047】
第1蓄冷部材および第2蓄冷部材が、キュリー温度(磁気相転移温度)が互いに異なる複数の磁気冷凍作業物質を含む構成とすることによって、動作温度範囲を広げることができる。それぞれの蓄冷部材は、キュリー温度が互いに異なる複数の磁気冷凍作業物質をそれぞれ層状に加工し、それらを互いに積層した構成としてもよい。磁気冷凍作業物質のみをフィルム状に加工してもよいし、延性の高い金属材料(例えば、Al、CuおよびTiやこれらを2種以上含む混合物または合金)を結合材として用いて、磁気冷凍作業物質の粉末と結合材とを一体に成形してもよい。アルミニウムは低温で押し出し加工が可能であり、かつ熱伝導度が高いので、延性が高い金属として特に適している。なお、磁気冷凍作業物質と結合材などとを複合化した材料を「複合化磁気冷凍作業材料」と呼ぶこともある。
【0048】
成形は、例えば、冷間または温間の押し出し法または圧延法によって実行できる。成形体の形態は、熱交換に適した形態であればよく、フィルム状だけでなく、例えば、フィンを有する表面積の高い形態または管状であってもよい。押し出し法は、複雑な断面形状を有する形に高効率で加工できるので、特に適している。
【0049】
勿論、磁気冷凍作業物質の粉末そのものを容器に充填することによって蓄冷部材を構成することも出来る。磁気冷凍作業物質を層状に積層した蓄冷部材を用いる場合、蓄冷部材の内部を熱交換用液体(水または水系不凍液などの比熱の大きな液体が好ましい。)を積層方向と平行(層面に垂直)方向に流すことによって、磁気冷凍作業物質との熱交換を行うので、蓄冷部材内の粉末は流体が通過できる程度に隙間を空けて充填積層されることが好ましい。従って、蓄冷部材内の組成が異なる磁気冷凍作業物質を含む各層の粒子が熱交換用液体と共に移動してしまうのを防止するために、各層の間を粒子の大きさに対して小さな開口を有するメッシュで仕切ることが好ましく、蓄冷部材の全体に対する液体の入り口および出口にもメッシュ状のフィルターを配置することが好ましい。
【0050】
磁気冷凍作業物質(または複合化磁気冷凍作業材料)は磁界が変化する空間中に置かれるので、磁界と直角方向には電気伝導しないことが好ましい。磁界と直角方向に電気伝導性を有すると、渦電流によるジュール熱が発生し、冷凍効率が大幅に悪化する。従って、磁気冷凍作業物質(または複合化磁気冷凍作業材料)を格納する容器は絶縁体、例えばポリエチレン、PET、エポキシ樹脂等の樹脂材料を用いることが好ましい。また、磁気冷凍作業物質の粉末を単純に容器内に充填することによって蓄冷部材を構成する場合には、粉末が熱交換用液体とともに移動することを防止するための隔壁となるメッシュも絶縁体で形成することが好ましい。
【0051】
本発明による蓄冷式熱交換器の第1蓄冷部材および第2蓄冷部材に磁界を印加する機構は、永久磁石を有する磁気回路であることが好ましい。永久磁石を用いることによって、超伝導磁石を用いる場合よりも省エネルギー性を向上することができるとともに、小型化できる。
【0052】
第1蓄冷部材および第2蓄冷部材に印加する磁界を発生する磁気回路として、例えば、2つのHalbach磁気回路を用いることによって、第1蓄冷部材および第2蓄冷部材を移動させること無く、これらに異なる強度の磁界を印加することができる。さらに、2つのHalbach磁気回路を用いると、静磁エネルギーが一定のままで磁界強度を増減できるので、エネルギーロスが極めて少ない蓄冷式熱交換器を提供することが出来る。なお、異なる強度の磁界は、実質的なゼロ磁界を含み得ることとする。
【0053】
あるいは、第1蓄冷部材および第2蓄冷部材を、永久磁石によって生成される磁界中の第1の位置と、磁界外の第2の位置との間を交互に相対移動させる機構を更に備え、それによって、第1蓄冷部材と第2蓄冷部材とに異なる磁界を印加する構成としてもよい。このような構成としては、例えば、米国特許5,934,078号に開示されている構成を用いることができる。磁界生成のために永久磁石を用いると、超伝導磁石よりも急峻な磁界勾配が形成され得るので、第1蓄冷部材および第2蓄冷部材の移動距離を短くしても十分な強度差の磁界を印加することができ、その結果、装置を小型化できるという利点が得られる。
【0054】
本発明による上記のいずれかの蓄冷式熱交換器と、それぞれが蓄冷式熱交換器に熱的に接続された低温側熱交換素子および高温側熱交換素子とを設けることによって、室温付近で動作する、効率の高い磁気冷凍装置が得られる。蓄冷式熱交換器から熱を取り出すための構成には、公知の構成を用いることができる(例えば米国特許5,934,078号参照)。
【0055】
以下、さらに詳細に本発明の実施形態を説明する。
【0056】
〔磁気冷凍作業物質〕
上述した製造方法に従って、目的組成が(Mn、A)1+y(As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)で表される化合物のうち、表1に示す実施例の試料(a)〜(i)および比較例の試料(j)、(k)作製した。
【0057】
MnおよびSbの原料としては、150m以下の粉末を用い、Asは塊状のものを使用した。これらを石英管に真空(10-2Pa)封入した。これを室温から10℃/minで600℃まで昇温し、3日間この温度に保持した。その後、10℃/minで800℃まで昇温し、4日間この温度に保持した。この後、室温まで徐冷した後、得られた焼成体を石英管から取り出し150μm以下に粉砕した。この粉体を石英管に真空(10-2Pa)封入し、10℃/minで800℃まで昇温し、7日間この温度に保持し、室温まで徐冷することによって、再焼成した。
【0058】
【表1】
【0059】
得られた磁気冷凍作業物質の組織を電子線プローブアナライザ(EPMA)で評価した。その結果の一例を図2に示す。図2の上段は、実施例の試料No.(b)についての観察結果であり、下段は比較例の試料No.(j)についての観察結果である。それぞれ、反射電子像、As組成像、Mn組成像およびSb組成像を示している。
【0060】
EPMA観察用の試料は次のようにして作製した。それぞれの磁気冷凍作業物質をエポキシ樹脂に含浸し表面を研磨した後、厚さ約20nmのAu蒸着を施したものをEPMA用試料とした。EPMAの加速電圧は15kVとした。照射電流はB.E.I.(反射電子像)で1.0nAとし、X.R.I.(組成像)で20nAとした。
【0061】
図2から明らかなように、実施例の試料No.(b)は、As、MnおよびSbが均一に分布していることが分かる。すなわち、試料No.(b)は単相組織から構成されていることが分かる。これに対し、比較例の試料No.(j)は、As、MnおよびSbが共存する領域が存在するものの、Sbの強度が非常に強い領域が存在することが分かる。すなわち、比較例の試料No.(j)は、少なくとも2つの異なる相から構成されていることが分かる。
【0062】
それぞれの相の構造を同定するために、X線回折(XRD)測定を行った。それぞれの磁気冷凍作業物質を150m以下に粉砕した粉末をXRD用試料とした。ターゲットにはFeを用いた。発散スリットは1.0deg、散乱スリットは1.0deg、受光スリットは1.0mm、スキャンスピードは2.0°/min、サンプリング幅は0.01°、測定範囲は20°〜140°とした。
【0063】
図3に、実施例の試料No.(b)および比較例の試料No.(j)についての測定結果を示す。
【0064】
実施例の試料No.(b)は、図3の上段に示すように、NiAs型六方晶構造を示すピークだけが観察され、NiAs型六方晶構造の単相組織から構成されていることが確認された。一方、比較例の試料No.(j)は、図3の下段に示すように、NiAs型六方晶構造を示すピークとともに、Sb結晶のピークも観察された。このことから、試料No.(j)は、Sb相が不純物相として形成されていることが分かった。
【0065】
このように、本発明の実施例によると、(Mn、A)を化学量論組成よりも過剰に配合することによって、実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織から構成される磁気冷凍作業物質が得られることが分かる。本明細書においては、上述した条件で、EPMAおよびXRD測定を行って、NiAs型六方晶構造以外の構造を有する第2相(Sb相)の存在を確認できない場合を、「実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織からなる」と呼ぶ。
【0066】
次に、SQUID磁化測定装置を用いて0T(テスラ)から5T(テスラ)まで、0.1Tの間隔で設定した一定強度の印加磁界下で磁化(M)−温度曲線(T)を測定した。測定結果から下記式(1)の関係を用いて印加磁界0とHとの間の磁気エントロピー変化(ΔSmag)を算出した。
【0067】
ΔSmag = ∫0 H(∂M/∂T)HdH ・・・・(1)
(ここで、ΔSmagは磁気エントロピー変化、Hは磁界、Mは磁化、Tは絶対温度である。)
【0068】
実施例の試料(a)、(b)、(c)および(d)、比較例(j)および(k)について得られた磁気エントロピー変化(ΔSmag)を図4に示す。実施例の試料は、比較例に比べ同等の磁気熱量効果を呈することが分かる。例えば、試料(a)について外部磁界を0Tから1Tまで変化させたとき−ΔSmag=15Jkg-1K-1であった。
【0069】
また、種々の実験から、本実施例によるとキュリー温度のばらつきが少なく、組成を調整することによって、所望のキュリー温度を有する磁気冷凍作業物質を再現性良く調製できることが確認された。さらに、(Mn、A)の過剰配合量(0<y)を設定することで、キュリー点を制御できることがわかった。
【0070】
次に、本発明による磁気冷凍作業物質を用いた蓄冷式熱交換器を備える磁気冷凍装置について説明する。
【0071】
図5に本発明による磁気冷凍装置100の構成を模式的に示す。
【0072】
磁気冷凍装置100は、蓄冷式熱交換器50と、それぞれが蓄冷式熱交換器50に熱的に接続された低温側熱交換素子(冷凍部)60および高温側熱交換素子(排熱部)70とを有している。
【0073】
蓄冷式熱交換器50は、上述した磁気冷凍作業物質を含む第1蓄冷部材10Aおよび第2蓄冷部材10Bと、第1蓄冷部材10Aと第2蓄冷部材10Bとに異なる磁界を印加する機構20とを備えている。低温側熱交換素子60および高温側熱交換素子70と第1蓄冷部材10Aおよび第2蓄冷部材10Bとの熱的な接続は、熱交換用液体がその中を流れる熱交換チューブ32および34によって行われている。熱交換用液体の流れは、ポンプ40によって生成され、流路切替機30によってその流れの方向が切替えられる。
【0074】
磁界を印加する機構20は、永久磁石を有する磁気回路22と、第1蓄冷部材10Aおよび第2蓄冷部材10Bを磁気回路22によって生成された磁界中と磁界外との間を交互に相対移動させる可動機構24とを有している。磁気回路22が有する永久磁石(例えばネオジム磁石)は、例えば、図5中に矢印で示した方向に1Tから4Tの強度の静磁界を発生させる。可動機構24は不図示のリニアモータで駆動され、流路切替機30の動作と同期して制御される。
【0075】
流路切り替え機30は、磁界中にある蓄冷部材(図5中の10A)から高温側熱交換素子70に向かって熱交換用液体が移動し、磁界外にある蓄冷部材(図5中の10B)からは低温側熱交換素子60に向かって熱交換用液体が流れるように、流路を切替える。可動機構24の動作によって、第2蓄冷部材10Bが下降して磁界中に位置し、第1蓄冷部材10Aが上昇して磁界外に位置する状態では、図5に示した矢印と逆方向に熱交換用液体の流動方向が切替えられる。このような磁気冷凍装置100は、例えば、上述の米国特許5,934,078号に開示されている構成を用いて実現することが出来る。
【0076】
第1蓄冷部材10Aおよび第2蓄冷部材10Bを構成する磁気冷凍作業物質として上述した(Mn、A)1+y(As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)を直径が約0.5mmの粉末に粉砕したものを用いる。熱交換用液体としては、例えば、純水とエタノールの4:1の混合液を用いる。熱交換チューブ32および34および可動機構24の材料には、FRPなどの強化複合プラスチック材料を用いた。
【0077】
本発明による実施形態の磁気冷凍装置100の蓄冷式熱交換器50は、磁気冷凍作業物質として上述した(Mn、A)1+y(As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)を用いているので、室温付近で動作し、且つ、エネルギー効率が高い。さらに、永久磁石を有する磁気回路22を用いて磁界を発生させているので、超伝導磁石を用いた従来の磁気冷凍装置に比べて、省エネルギー性が高く、且つ、小型化できる。
【0078】
次に、図6を参照しながら、本発明による磁気冷凍作業物質を含む蓄冷部材10の例を説明する。この蓄冷部材10は、磁気冷凍装置100の蓄冷部材10Aおよび10Bとして好適に用いることができる。
【0079】
蓄冷部材10は、容器(例えば円筒状)12と、容器12内に収容された複数の磁気冷凍作業物質層16と、容器12と磁気冷凍作業物質層16との間および互いに隣接する磁気冷凍作業物質層16の間に設けられたメッシュ14とを有している。容器12は、例えば、図5に示した熱交換用チューブ32または34に接続される熱交換用液体出入り口18aおよび18bを有している。容器12としては、断熱性の高い材料、例えば、多孔性樹脂を用いて形成されたものが好ましい。
【0080】
磁気冷凍作業物質層16は、例えば以下のようにして作製される。まず、上述した方法で、キュリー温度が互いに異なる例えば14種類の焼成体を作製する。それぞれの焼成体を粉砕することによって、直径0.3mmの粉末(14種類)を調製する。
【0081】
この磁気冷凍作業物質の粉末を、例えば内径25mm、内法の深さ70mmの容器12に、それぞれの層16の厚さが5mmとなるように充填する。磁気冷凍作業物質を充填する順序、すなわち磁気冷凍作業物質層16の積層順序は、xの値が大きくなる順(キュリー温度が低くなる順)で行う。また、各層16の間には、ナイロン製のメッシュを挟む。このようにして、キュリー温度が互いに異なる14の磁気冷凍作業物質層16をキュリー温度の順に従って積層する。磁気冷凍作業物質層16の全体の厚さは約70mmとなる。この積層方向は、容器12中を流れる熱交換用液体の流れの方向と平行または反平行となるように設定されている。図5に示した磁気冷凍装置100の蓄冷部材10Aおよび10Bのそれぞれに蓄冷部材10を用いる場合、蓄冷部材10Aおよび10B内の磁気冷凍作業物質層16の積層順序(xの値の大きさの順、すなわち、キュリー温度の順)が磁界に対して同じになるように配置する必要がある。
【0082】
また、磁気冷凍装置100の蓄冷部材10Aおよび10Bを含む熱交換部分は、蓄冷部材10を用いて、例えば図7に示すよう構成される。図7に示した容器80は、それぞれが蓄冷部材10で構成される2つの蓄冷部材10A'と10B'とを熱的に断絶した状態で収容するセル82Aと82Bとを有している。セル82Aと82Bとは、隔壁83で分離されている。セル82Aおよび82Bにそれぞれ収容された蓄冷部材10A'と10B'の周辺には、熱交換用液体出入り口84aおよび84b間を流れる熱交換用液体が満たされているように構成されている。蓄冷部材10A'と10B'とは、それぞれの磁気冷凍作業物質層16のキュリー温度の変化が同じ方向に変化するように配置されている。蓄冷部材10A'および10B'の外壁は断熱構造とし、熱交換が蓄冷部材10A'および10B'の内部を流れる熱交換用液体との間でのみ起こるように構成されている。
【0083】
容器80のセル82A内に収容された蓄冷部材10A'の熱交換用液体出入り口18a'から蓄冷部材10A'内に流れ込んだ液体は蓄冷部材10A'内を通過しながら熱交換した後、熱交換用液体出入り口18b'からセル82B内に流れ、容器80の熱交換用液体出入り口84bから出て行くように構成されている。同様に、容器80のセル82B内に収容された蓄冷部材10B'の熱交換用液体出入り口18b''から蓄冷部材10B'内に流れ込んだ液体は蓄冷部材10B'内を通過しながら熱交換した後、熱交換用液体出入り口18a''からセル82A内に流れ、容器80の熱交換用液体出入り口84aから出て行くように構成されている。
【0084】
このように構成することによって、容器80の外径を小さく、すなわち、磁気回路の円形空隙を小さくすることができる。従って、磁気回路全体を小型・軽量化できるという利点が得られる。
【0085】
図5の磁気冷凍装置100の蓄冷部材10Aおよび10Bとして、図7に示したような容器80内に収容された構成を採用して、磁気回路22として後述するHalbach型磁気回路(磁界強度2T)を用い、可動機構24でストローク180mmの往復動作(上下動作)を例えば0.5Hzで40分間継続することによって、低温側熱交換素子60側の温度を25℃から−2℃まで冷却することができる。
【0086】
磁気冷凍装置100の磁気回路22として公知の磁気回路を用いることができる。例えば、図8に示す、2つのHalbach型磁気回路122aおよび122bを有する磁気回路122を用いることができる。
【0087】
Halbach型磁気回路122aまたは122bは、円筒の壁を複数の永久磁石124aまたは124bで構成し、個々の永久磁石の磁化方向(図8中の矢印)が円筒の中心軸上に形成する磁界方向となす角度が、円筒壁内部の磁石位置を表す円筒座標の緯度角αの2倍(2α)となるように構成されたものである。この構成により円筒磁石122aまたは122bの内部に理論的には無制限に強い均質磁界を円筒の中心軸と垂直方向に発生させることが出来る。ただし、実際には永久磁石材料の固有保磁力により実現可能な最大磁界強度が制限される他、強磁界を得るには円筒の外径が磁界強度の指数関数的に増加するので、実用的には数テスラ(1〜4テスラ)が利用できる。
【0088】
Halbach磁気回路122aまたは122bの外部(円筒の外部)では磁界が存在しないので、Halbach磁気回路122aの内部にもう1つのHalbach磁気回路122bを同軸に配置すると、2つのHalbach磁気回路122aおよび122bは自由に回転でき、しかも内側のHalbach磁気回路122bの円筒状空間125の磁界の強度を可変に制御できる。
【0089】
従って、磁気回路122を用いると、内側のHalbach磁気回路122bの円筒状空間125内に蓄冷部材10Aまたは10Bを配置したままで、これらを移動することなく、異なる磁界を印加することができる。その結果、図5に示した磁気冷凍装置100における可動機構24を省略することができるので、効率を更に高めることができる利点が得られる。この場合、円筒状空間125内に配置される蓄冷部材は単数であっても複数であってもよい。
【0090】
【発明の効果】
本発明によると、従来のMn(As1-xSbx)において生じる不純物相の形成が抑制され、室温付近で大きな磁気熱量効果を呈する磁気冷凍作業物質が提供される。この磁気冷凍作業物質は、従来のMn(As1-xSbx)と同様に、構造変態を伴わない磁気相転移を示すため磁化(M)−温度(T)曲線のヒステリシスを有しないので、磁気冷凍作業物質として好適であり、さらに、実質的にNiAs型六方晶構造の単相組織から構成されるので、第2相が形成されることによる組成のずれ、あるいは、熱散乱による熱交換効率の低下の問題の発生が抑制される。
【0091】
また、(Mn、A)1+y(As1-xSbx)中のAsの一部を置換する第3元素(Sb)の量やA元素の量を調整することによって、キュリー温度を215K以上318K未満の範囲で精密に制御することができる。従って、キュリー温度の異なる複数の磁気冷凍作業物質を組み合わせることによって、室温付近を含む広い温度範囲で動作可能な蓄冷式熱交換器および磁気冷凍装置が提供される。
【0092】
さらに、本発明による磁気冷凍作業物質は、4T以下の比較的低い磁界で十分に大きな磁気熱量効果を示すので、永久磁石を用いた蓄冷式熱交換器ならびに磁気冷凍装置を提供することができる。これらの装置は、磁界の発生に電力を必要としないので、省エネルギー性に優れるとともに、小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、MnAs六方晶構造を示す模式図であり、(b)および(c)は従来のMn(As1-xSbx)の構造を説明するための模式図であり、(d)は本発明による(Mn、A)1+y(As1-xSbx)の構造を説明するための模式図である。
【図2】本発明の実施例および比較例の磁気冷凍作業物質の組織をEPMAで評価した結果を示す写真である。
【図3】本発明の実施例および比較例の磁気冷凍作業物質の組織をXRDで評価した結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例および比較例の磁気冷凍作業物質のΔSmag(磁気エントロピー変化)を示すグラフである。
【図5】本発明による実施形態の磁気冷凍装置100の構成を示す模式図である。
【図6】磁気冷凍装置100で用いられる蓄冷部材の構成を示す模式図である。
【図7】磁気冷凍装置100で用いられる2つの蓄冷部材の配列の例を示す模式図である。
【図8】磁気冷凍装置100で用いられる磁界回路の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
10、10A、10B 蓄冷部材
20 磁界を印加する機構
22 磁気回路
24 可動機構
30 流路切替機
32、34 熱交換チューブ
40 ポンプ
50 蓄冷式熱交換器
60 低温側熱交換素子(冷凍部)
70 高温側熱交換素子(排熱部)
100 磁気冷凍装置
Claims (13)
- 実質的にNiAs型六方晶構造を有し、組成式Mn 1+y (As1-xSbx)(0<x≦0.4、0<y≦0.27)で表され、215K以上318K未満の温度範囲において、常磁性相で磁界が印加されると、強磁性相に磁気相転移する、磁気冷凍作業物質。
- 前記温度範囲において外部磁界を0Tから5Tまで変化させたときの磁気エントロピー変化(−ΔSmag)が10JK-1kg-1以上である、請求項1に記載の磁気冷凍作業物質。
- 前記磁気相転移が4T(テスラ)以下の外部磁界の印加で起こる、請求項1または2に記載の磁気冷凍作業物質。
- NiAs型六方晶構造の格子間にMnが存在する結晶を含む組織から構成される、請求項1から3のいずれかに記載の磁気冷凍作業物質。
- それぞれが請求項1から4のいずれかに記載の磁気冷凍作業物質を含む第1蓄冷部材および第2蓄冷部材と、
前記第1蓄冷部材と、前記第2蓄冷部材とに異なる磁界を印加する機構と、
を備える蓄冷式熱交換器。 - 前記第1蓄冷部材および前記第2蓄冷部材は、前記磁気相転移温度が互いに異なる複数の磁気冷凍作業物質を含む、請求項5に記載の蓄冷式熱交換器。
- 前記複数の磁気冷凍作業物質は、それぞれが層状であって、互いに積層されている、請求項6に記載の蓄冷式熱交換器。
- 前記第1蓄冷部材および前記第2蓄冷部材は、前記磁気冷凍作業物質と結合材とを含み、前記結合材は、Al、CuおよびTiからなる群から選択される1種、または、2種以上を含む混合物または合金である、請求項5から7のいずれかに記載の蓄冷式熱交換器。
- 前記磁界を印加する機構は、永久磁石を有する磁気回路を含む、請求項5から8のいずれかに記載の蓄冷式熱交換器。
- 前記磁気回路は、前記第1蓄冷部材と前記第2蓄冷部材に印加される前記磁界の強さを可変に制御できる、請求項9に記載の蓄冷式熱交換器。
- 前記第1および第2蓄冷部材を、前記永久磁石によって生成される磁界中の第1の位置と、前記磁界外の第2の位置との間を交互に相対移動させる機構を更に備え、それによって前記第1蓄冷部材と前記第2蓄冷部材とに異なる磁界を印加する、請求項9に記載の蓄冷式熱交換器。
- 円筒状空間の中心部に強さが可変な磁界を発生させる磁気回路と、
前記円筒状空間の中心部に固定配置され、請求項1から4のいずれかに記載の磁気冷凍作業物質を含む蓄冷部材と、
を備える、蓄冷式熱交換器。 - 請求項5から12のいずれかに記載の蓄冷式熱交換器と、
それぞれが前記蓄冷式熱交換器に熱的に接続された低温側熱交換素子および高温側熱交換素子と、
を備える磁気冷凍装置。
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