JP4088694B2 - 造血器腫瘍の検査方法およびキット - Google Patents

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Description

本発明は、造血器腫瘍の検査方法およびキットに関し、詳しくは、検体中の少なくとも2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子の発現制御レベルを調べることにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供する、造血器腫瘍の検査方法およびキットに関する。
造血器腫瘍の遺伝子診断技術の開発研究が近年、急速に進展している(非特許文献1参照)。これは、造血器腫瘍およびこれに関係する遺伝子に関する医学的理解が深化するとともに、ゲノム研究ならびに遺伝子取り扱い技術の発展と相俟って、両者を結合する形で研究が進められていることによるものである。遺伝子診断の対象と内容も多岐にわたるが、(i)遺伝子異常を指標とした癌細胞の有無、(ii)癌の悪性度または薬剤、放射線へ
の感受性の癌細胞の性質、(iii)癌発症前の診断および発症リスク推定などに大別され
る。
造血器腫瘍を対象とする遺伝子診断のために、遺伝子発現を制御するプロモーター領域に存在するCpG島(CpG island)のメチル化を検出して造血細胞の増殖異常を識別する試みにおいて、造血細胞増殖の異常に関わると想定される遺伝子、約80種についてメチル化の探索が行なわれた(特許文献1参照)。
本発明者らは、一つの遺伝情報について造血器腫瘍細胞の有無を最大4ステップで確認するという特異性の高い方式をこれまでに提案してきた(特許文献2参照)。すなわち、造血器細胞を含む検体中に含まれる、造血器細胞に特異的なプロテインチロシンホスファターゼSHP1タンパク質またはmRNAを定量するとともに、検体から得られるSHP1遺伝子の塩基配列中に含まれるCpG島のDNAメチル化を同定し、さらに対立遺伝子の喪失を検出する方法である。
さらに本発明者は、検体中の細胞から核酸を抽出する工程を省くとともに、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる工程を含めることにより、微量の細胞検体からメチル化されたDNAを検出することができる方法を開発した(特許文献3参照)。
遺伝子診断に供するデータには、対象とする造血器腫瘍に関わる遺伝子の発現変化と同定された病態とを、データに基づく統計的な裏づけのもとに結び付ける指標の提示が臨床現場サイドからは期待される。さらに、癌進行の予測、発症に至るリスクの推定に資することができるデータも望まれる。しかしながらそうしたデータを提供する検査方法の開発は、未だ造血器腫瘍については見当たらない。
特表2004-528837号公報 特開2004−128号公報 特開2005−58217号公報 Harris NL, et al.,Hematology . 2001;1:194-220.,Staudt LM, Dave S. Adv Immunol. 2005;87:163-208
本発明者は、上記状況に鑑み、これまでに開発したDNAメチル化検出方法を利用する遺伝子診断を確立するために臨床検体を用いてさらに研究を進めた。その結果、造血器腫
瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供する、造血器腫瘍の検査方法およびキットに関する本発明を完成した。
本発明は、造血器腫瘍、特に成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)の診断、具体的には病型の特定または病型の進展の予測に利用できる遺伝子診断データを提供する、造血器腫瘍の検査方法およびキットを提供することを目的とする。そのため調査の対象とする遺伝子とその組み合わせ、遺伝子発現の検出の方法を提供することを課題とする。本発明に基づいて特定遺伝子の発現制御レベルを調べることにより、多段階発癌過程を辿るATLLにおける病型を特定し、進展予測を可能とする解析意義がもたらされる。
本発明である造血器腫瘍の検査方法は、検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその発現制御レベルを調べることにより、造血器腫瘍の診断のためのデータあるいは、該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を高感度・高精度に早期に評価するためのデータを提供する検査方法である。
本発明の造血器腫瘍の検査方法は、検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子
、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD(CDH13またはHカドヘリンともいう)遺伝子よりなる遺伝子群から2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子の発現制御レベルを検出することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性、または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を高感度・高精度に早期に評価するためのデータを提供する検査方法であってもよい。
前記の選択された遺伝子の一つがSHP1遺伝子であることが望ましい。
前記造血器腫瘍が好ましくは成人T細胞白血病・リンパ腫である。
本発明の検査方法は、成人T細胞白血病・リンパ腫の病型を高感度に早期検出し、診断するためのデータを提供することを特徴としている。
特に前記の成人T細胞白血病・リンパ腫の病型がくすぶり型、慢性型、リンパ腫型または急性型である。
選択した遺伝子の発現制御レベルをmRNAで検出するか、あるいは
選択した遺伝子の発現制御レベルを、その遺伝子がコードするタンパクで検出することを特徴としている。
前記検体が、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることを特徴としている。
本発明の造血器腫瘍の検査方法は、別の態様として、検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供することを特徴としている。
検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、M
GMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群から、少なくとも2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島の
メチル化頻度を測定することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供することを特徴とする造血器腫瘍の検査方法であってもよい。
特に前記の選択された遺伝子の一つがSHP1遺伝子であることが望ましい。
前記造血器腫瘍が好ましくは成人T細胞白血病・リンパ腫である。
特に、成人T細胞白血病・リンパ腫の病型を検出し、診断するためのデータを提供することを特徴としている。
特に、前記の成人T細胞白血病・リンパ腫の病型がくすぶり型、慢性型、リンパ腫型および急性型である。
前記メチル化頻度の検出にメチル化感受性制限酵素を用いてもよい。
あるいは前記メチル化頻度の検出を、検体を溶解して得た細胞溶解液を重亜硫酸塩で処理した後に行なってもよい。
前記メチル化頻度の検出を、検体を溶解して得た細胞溶解液を直接に重亜硫酸塩で処理し、検体から遺伝子を抽出せずに行なうことを特徴としている。
前記検体が、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることが望ましい。
本発明のキットは、検体を溶解するための溶解液、重亜硫酸塩含有試薬、メチル化検出増幅試薬を少なくとも含み、2種以上の選択された癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化プロファイルを作製するためのキットである。
前記検体が、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることが望ましい。
本発明の方法には、検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその発現制御レベルを測定し、得られた結果を統計解析して造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供する、造血器腫瘍の検査方法も含まれる。
本発明は、検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH
遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群から、少なくとも2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより、成人T細胞白血病・リンパ腫の診断のためのデータ、あるいは前臨床期の状態にある可能性、発症する可能性または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を評価するためのデータを提供することを特徴とする造血器腫瘍の検査方法である。
前記の選択された遺伝子に少なくともSHP1遺伝子が含まれることが望ましい。
前記の診断のためのデータ、あるいは前臨床期の状態にある可能性、発症する可能性、または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を評価するためのデータには、成人T細胞白血病・リンパ腫の病型を検出するためのデータが含まれる。
本発明の造血器腫瘍の検査方法は、発癌および癌の進展に関わるか、またはそれに密接な関係を有する複数の遺伝子群の発現制御レベルでの変化を検出することにより、造血器腫瘍の早期診断、予後予測、発症のリスク評価などに使用されるデータを提供する検査方法である。したがって本発明の検査方法は、多段階発癌過程をとる造血器腫瘍の遺伝子診断用のデータを提供する検査方法として有用である。
特に成人T細胞白血病・リンパ腫では、本発明の検査方法により得られるデータに基づいて、HTLV−Iキャリアーから既知病型の前臨床期の状態に進展している可能性を推
測することができる。あるいは発症を早期に高精度・高感度に特定することができ、さらに次の病型に進展する可能性についても推測することができる。
[発明の具体的な説明]
本明細書において「癌」とは、悪性腫瘍を指し、単に「腫瘍」ということもある。また「遺伝子(gene)」とは、何らかの機能を発現する遺伝情報を担うゲノムDNAをいうが、単に化学的実体であるDNAの形でいうこともある。「癌抑制遺伝子」とは、癌の発症を抑制する遺伝子を意味し、「癌関連遺伝子」は、癌の発症に関与する遺伝子を意味する。なお本明細書において「発症」とは、疾患特異的臨床症状、検査データなどをもとに総合的判断により特定疾患と診断された時点をもって発症とよぶ。「前臨床期」とは、疾患特異的な臨床症状がでてくる前の発症前状態であって、既に微量の悪性腫瘍細胞が存在している早期の状態を指す。DNAのメチル化とは、DNA塩基配列におけるCpG島での5−メチルシトシンを指す。
以下、本発明を検査方法、その方法を実施するためのキットの順で説明する。
癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子の発現変化を調べる検査方法
本発明の方法は、
検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその発現制御レベルを調べることにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、または該腫瘍に前臨床期の状態にある可能性を発症以前に高感度・高精度に評価するためのデータを提供する、造血器腫瘍の検査方法である。
「診断」とは、医師の行なう医療行為のうち、患者の症状、各種の検査結果に基づいて、疾患を発症しているか判断し、さらに治療のために患者の病態、病型、病期を決定することである。
「造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性を評価する」とは、超微量の造血器腫瘍細胞は既に存在しているが、明確な自覚症状として表れていないか、それに近い状態であって、遺伝子レベルを含む代謝的、生理的な変化が潜在的に生じているか、それが進行しており、いずれ造血器腫瘍細胞が増殖し発症に至ることを予見するか、望ましくはその可能性を確率的に見積もることである。このような疾患の前臨床期の状態にある可能性、発症可能性、さらには造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性についての評価は予防医学上また治療後に寛解状態にある患者のモニタリング・再発防止にも極めて意義がある。例えば、成人T細胞白血病・リンパ腫の原因ウイルス、HTLV-Iのキャリアーの成人T細胞白血病・リンパ腫の発症予防がこれに相当する。
「癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子」は、細胞の癌化に関わり、癌発症に関係する遺伝子である。とりわけ癌抑制遺伝子の発現異常は、発癌と癌の進展(progression)に直結し
ていると考えられる。そうした癌抑制遺伝子は、特に限定されないが、例えば、プロテインチロシンホスファターゼSHP1遺伝子・p16Ink4a遺伝子・p15Ink4b遺伝子・CDH1遺伝子・HDAC遺伝子、p14ARF,DAPK、p73,APC,GSTP1、アントロゲン受容体、エストロゲン受容体、TGF−β1、TGF−β2、p130、BRCA、NF1、NF2、TSG101、MDG1、GST−pi、カルト
ニン、HIC−1、エンドセリンB受容体、TIMP−2、TIMP−3、O6−MGMT、hMLH、MSH2およびGFAPなどの遺伝子が挙げられる。
「遺伝子の発現制御レベルを検出する」とは、その遺伝子が担う遺伝情報が、通常、細胞の転写機構によりmRNAに転写されるが、その転写産物である細胞中のmRNA量を測定するか、あるいはさらにそのmRNAがポリペプチドのアミノ酸配列の形に翻訳された、そのポリペプチドまたはタンパク質のレベルを測定するという「遺伝子の発現レベルを検出する」ことを含む、より広い意味に解されるべきである。すなわち、遺伝子の発現ではこのように遺伝情報がタンパク質のアミノ酸配列としてコードされることのみならず、転写から翻訳に至るまでの過程の制御を含むものである。特に遺伝子発現の調節は、遺伝子のコード領域より上流側にあるプロモーター、エンハンサーなどの領域で行なわれている。したがって、遺伝子の発現制御レベルを検出することには、遺伝子の発現レベルを検出することのみならず、これらの調節領域における変化を調べることも含まれる。
2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択するのは、次に理由による。癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子についてもそのメチル化が、加齢に伴い一般に進展・拡大する傾向にある。一つの遺伝子のメチル化に関する変動は、一つ以上の疾患と結びついていることも想定される。さらに造血器腫瘍に分類される各腫瘍において発現制御レベルは、示差的様相で変化するが、なかには同時的に変化している複数の遺伝子もあり、かつ、その個別の腫瘍の種類により主導的に関わっている遺伝子もまた異なっていると想定される。検体の測定により複数の遺伝子の同時性メチル化を検出し、得られたデータから遺伝子診断をするための際の精度を向上させることができる。
本発明が適用可能な造血器腫瘍として、具体的には、例えば、慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体ポジティブ(t(9;22)(q34;q11),BCR/ABL)慢性骨髄性白血病、慢性好中球白血病、慢性好酸球白血病/高好酸球症候群、慢性突発性骨髄繊維症、真性多血症、本態性血小板増加症、その他分類できない骨髄増殖性疾患等の各種骨髄増殖性疾患;慢性骨髄性単球白血病、非定型慢性骨髄性白血病、幼年性骨髄性単球白血病等の骨髄異型性/骨髄増殖性疾患;環状鉄芽球を伴う難治性貧血、環状鉄芽球を伴わない難治性貧血、多系列異形成を伴う難治性血球減少症(骨髄異型性症候群)、過剰芽球5q−症候群を伴う難治性貧血(骨髄異型性症候群)、その他分類できない骨髄異型性症候群等の骨髄異型性症候群;再発性細胞遺伝学的転座を伴う急性骨髄性白血病(AML)(例えば、t(8;21)(q22;q22)を伴うAML、AML1(CBF−α)/ETO、急性前骨髄性白血病(t(15;17)(q22;q11−12)を伴うAMLおよびその変形、PML/RAR−α))、異常な骨髄好酸球(inv(16)(p13q22)あるいはt(16;16)(p13;q11)、CBFβ/MYH11X)を伴うAML、11q23(MLL)異常を伴うAML、前骨髄異型性症候群を伴いかつ多系列異形成を伴うAML、前骨髄異型性症候群を伴いかつ多系列異形成を伴わないAML、治療に関係するAMLおよび骨髄異型性症候群(アルキル化剤に関係する治療、エピポドフィロトキシンに関係する治療、あるいはその他のタイプの治療)、他に部門に属さないAML(低分化型、成熟を伴わないもの、成熟を伴うもの、急性骨髄性単球白血病、急性単球白血病、急性赤芽球白血病、急性巨核球白血病、急性好塩基球白血病、骨髄繊維症を伴う急性汎骨髄過剰増殖症)、急性二形質性白血病等の急性骨髄性白血病(AML);前駆体B細胞性腫瘍(前駆体B−リンパ芽球性白血病/リンパ腫(前駆体B細胞急性リンパ芽球性白血病)、成熟(末梢)B細胞性腫瘍(B細胞慢性リンパ球性白血病/小リンパ球性リンパ腫、B細胞前リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾辺縁領域B細胞リンパ腫(+/−絨毛リンパ球)、毛状細胞白血病、形質細胞性骨髄腫(形質細胞腫)、MALT型節外辺縁型B細胞リンパ腫、節性辺縁型B細胞リンパ腫(+/− 単球型B細胞)、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大型B細胞リンパ腫(縦隔大細胞B細胞リンパ腫、原発性滲出リンパ腫)、Burkitt リンパ腫/Burki
tt細胞白血病)等のB細胞性腫瘍;前駆体T細胞性腫瘍(前駆体T−リンパ芽球性白血病/リンパ腫(前駆体T細胞急性リンパ芽球性白血病)、成熟(末梢)T細胞性腫瘍(T細胞前リンパ球性白血病、T細胞顆粒リンパ球白血病、侵攻型NK細胞白血病、成人T細胞リンパ腫・白血病(HTLV1+)、鼻型節外性NK/T細胞リンパ腫、腸管症型T細胞リンパ腫、肝脾型γ−δT細胞リンパ腫、皮下蜂窩織炎様T細胞リンパ腫、菌状息肉腫/Sezary症候群、退形成性大型細胞リンパ腫(T/ヌル細胞、原発性皮膚未分化型)、他に部門に属さない末梢T細胞リンパ腫、血管免疫芽球T細胞リンパ腫)等のT細胞およびNK細胞性腫瘍;節性リンパ球優勢ホジキンリンパ腫、古典的ホジキンリンパ腫(結節硬化ホジキンリンパ腫(等級1および2)、リンパ球リッチ古典的ホジキンリンパ腫、混合細胞型ホジキンリンパ腫、リンパ球枯渇ホジキンリンパ腫)等のホジキンリンパ腫(ホジキン病);
などを挙げることができるが、特に限定されるものではない。
また「検体」は、患者などから分離された、造血器腫瘍を検出できるいかなる器官、組織、細胞または細胞抽出物であり得る。そのようなサンプルは、造血器腫瘍の前臨床期の状態にあるか発症したヒトもしくは哺乳類動物から分離されるか、あるいは造血器腫瘍または腫瘍を有しないヒトもしくは哺乳類動物から分離されるサンプルである。サンプルとしては限定されないが、例えば患者(ヒトまたは哺乳類動物)、被検患者または実験動物から得られた組織、具体的には骨髄組織(例えば生検または剖検から)、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚、末梢血液、全血、細胞溶解物、哺乳類細胞培養物、または他の任意の細胞検体、それからの抽出物などが挙げられる。好ましくは検体が、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体である。
したがって、本発明である造血器腫瘍検査方法の好ましい態様の一つとして、選択した遺伝子の発現制御レベルを、その遺伝子産物を定量することによって検査する方法がある。さらにその定量結果に基づいて当該遺伝子群の示差的な発現プロファイルを作成することが望ましい。遺伝子産物の測定は、検体中の選択された遺伝子の転写産物、mRNAおよびその翻訳産物のタンパク質の少なくとも一方を定量する方法であれば特に限定されるものではない。
一つの方法として、遺伝子発現制御レベルをmRNAで検出することを特徴とする検査方法がある。mRNAの抽出、定量方法などについては従来技術を利用して行なうことができる。具体的には当該遺伝子のcDNAの塩基配列、全長またはその一部と相同性を有するポリヌクレオチドを用いて、ノーザンブロッティング法、RT−PCR法、リアルタイムRT−PCR、cDNAマイクロアレイまたはRNA in situ ハイブリダイゼーシ
ョンなどが例示される。
他方、別のアプローチとして、選択した遺伝子の発現制御レベルを、その遺伝子がコードするタンパク質で検出することを特徴とする造血器腫瘍の検査方法であってもよい。その翻訳産物であるタンパク質の定量も各種の従来技術を利用することができる。具体的手法として、そのタンパク質に特異的な抗体を利用する方法が好適である。
上記の遺伝子産物の測定方法については知られており、公知の文献、例えば特許文献2にも詳しい記載がある。
・8種の遺伝子
本発明の造血器腫瘍の検査方法として、好ましい検査方法は、
検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、M
GMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群から2種以上の遺
伝子を選択し、その選択した遺伝子の発現制御レベルを検出することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供する検査方法である。
これらの8種の遺伝子は、それぞれDNA修復(repair DNA)、アポトーシス(apoptosis)、細胞接着(cell adherence)、癌抑制(tumor suppression)、情報伝達制御(signal transduction regulation)といった生物機能のいずれかを細胞内で発揮しているが(図3)
、造血器腫瘍の前臨床期の状態、発症に対する関与が遺伝子発現の制御を通じて相互に相関しており、しかも造血器腫瘍、とりわけ成人T細胞白血病・リンパ腫の病型の進展に対して特異性が高いことを本発明者は見出した。その関与の程度、様式は様々であるが、造血器腫瘍の診断のためのデータ、該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、あるいは発症する可能性を評価するための包括的なデータを得るためには、極めて有用な遺伝子群である。すなわち遺伝子スクリーニングにより選び出された、特異的な遺伝子セットともいうべき組み合わせである。これら8種の遺伝子群から2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子の発現制御レベルを検出することが望ましい。すなわち8種の遺伝子すべてについて調べてもよく、あるいは病型などに応じて8種の遺伝子の中から2種以上を任意の組み合せで適宜選択してもよい。上記8種の遺伝子群を「コア標的遺伝子」として、これらから2種以上の遺伝子を選択し、さらにコア遺伝子群以外の別に選択された遺伝子をも含めてそれらの選択した遺伝子の発現制御レベルを検出する態様であってもよい。その場合、コア標的遺伝子群以外の候補遺伝子の選択は、コア標的遺伝子についての測定に、補強的または補充的なデータを与える遺伝子が望ましい。
なお、遺伝子のメチル化と細胞の悪性腫瘍化(癌化)を調べる遺伝子診断では、生物機能を考慮しない遺伝子セットよりも、対象とする悪性腫瘍に緊密に、かつ、特異的に関わり、さらにメチル化多発傾向にあり、メチル化同時性も期待できる組み合わせが、探索効率上からは望ましい。これらの意味からも造血器腫瘍では上記8種の遺伝子が有用であり、これらの遺伝子群が遺伝子発現プロファイルを作製するための遺伝子セットとして特に好適であると本発明者は認めた。つまり上記8種の遺伝子それぞれの細胞内活動は次のように知られている。
SHP1遺伝子については、DNAマイクロアレイ解析から造血器腫瘍の中で大きく発現が低下する遺伝子に含まれていた。そのほかの遺伝子についても造血器腫瘍において発現が低下している遺伝子群からメチル化が予想されるものである。
ヒトの造血器腫瘍、例えば悪性リンパ腫や白血病では、多くの種類で90%以上の高い頻度でSHP1タンパク質の強い発現抑制が見られた(例えば、American Journal of Pathology, Vol.159, No.4, October 2001:1495−1505等参照)。このように悪性の造血器腫瘍細胞では、上記SHP1タンパク質の発現抑制が極めて高頻度で見られるのに対し、正常な血液細胞にはこの現象が見られない。造血器腫瘍の患者、特に、悪性リンパ腫や白血病患者では、上記遺伝子の中でも、SHP1遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域がメチル化されてしまうため、細胞の情報伝達機構の中で負の制御を行っているプロテインチロシンホスファターゼSHP1タンパク質の発現抑制が極めて高頻度で見られ、細胞増殖の抑制的制御が効かなくなるというメカニズムが知られている。したがってSHP1タンパク質の発現抑制は、SHP1遺伝子のメチル化によるものである。さらに、DNAメチル化によるSHP1遺伝子の転写抑制の前後には、SHP1遺伝子の一つの対立遺伝子が喪失している。
以上より、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータを提供する検査方法において、選
択された遺伝子の一つに、悪性リンパ腫や白血病の発症に深く関与しているSHP1遺伝子が含まれることが望ましい。
p15、p16およびp73は癌抑制遺伝子として知られている。
hMLH,MGMTは、DNA修復酵素関連遺伝子である。
HCADは、細胞接着(カドヘリン)関連遺伝子である。カドヘリンは、分子量120kDaの細胞間接着に関連した糖タンパク質であり、胎性期の組織構築、器官形成に重要な役割を演じている。癌細胞においてもEカドヘリン(上皮由来)(CDH1)が癌細胞間の接着を司っていることが知られており、脈管内に浸潤した癌細胞が解離し標的臓器に漂着する癌転移の過程に関与していると考えられている。Eカドヘリンは、急性骨髄性白血病あるいはHodgkinリンパ腫の腫瘍細胞において発現が消失することが知られており、
発症との関連が示唆されている。またHCAD(またはCDH13、あるいはHカドヘリンとも呼ばれる)遺伝子については、細胞内ドメインを欠き、細胞間接着のみならず細胞内シグナリングにも関連していることが知られている。また異常なDNAメチル化あるいは遺伝子欠失により、卵巣癌、乳癌、肺癌、大腸癌など様々な癌においてHカドヘリンの発現が消失していることが報告されている。最近、本発明者らのグループの研究を始めとするいくつかの研究により、早期慢性骨髄性白血病またはインターフェロン治療低応答性慢性骨髄性白血病においてHCAD・プロモーターの強いメチル化が観察されること、並びにびまん性大細胞型B細胞リンパ腫においてHCAD遺伝子DNAの異常メチル化および対立遺伝子欠失により、遺伝子発現の低下・消失が観られることが知られている。
DAPK(Death-associated protein kinase)は、アポトーシス関連遺伝子であり、
種々の病態に伴う生体内アポトーシスとの関連が想定されている。
・成人T細胞白血病・リンパ腫
本発明の検査方法において、対象となる造血器腫瘍は特に限定されない。しかし上記造血器腫瘍の中でも成人T細胞白血病・リンパ腫は好適であり、その病型を検出し、診断するためのデータを提供することが可能である。
成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma;ATLL)は、大部分の場合幼少時に母乳を介し母親から垂直感染したヒトT細胞白血病ウイルスI型(human T‐lymphotropic virus type I;HTLV‐I)キャリアーから発症する造血器腫瘍である。そのほかのHTLV−Iの主な感染経路は性交渉、輸血である。ATLLはHTLV−Iキャリアーから1000人に0.5から1.0人毎年発症がみられ生涯のATLL発症リスクは5〜10%の頻度である。通常40から50年の潜伏期を経て発症し、急性型ATLLの場合1年以内にほとんど死亡し、きわめて予後不良である。全国のキャリアー(carrier)数は約100 万から200万人と推定され、ATLL発症数は年間約700 例といわれ
る。
このようなATLLの病型は、くすぶり型(smoldering type)、慢性型(chronic type)、リンパ腫型(lymphoma type)、急性(急性転化)型と4つの病型に分類されている。これらの病型は、臨床的にはすべてATLLを発症している。ATLLの進展スキームと病型を図1に示す。ATLL病型の臨床判定基準が図2に表されている。くすぶり型の場合には末梢血あるいは肺や皮膚においてATLL細胞の単クローン性増殖が証明される状態で、発症の初期段階と考えられている。末梢血に異型細胞は認めるものの無症状であり肺病変あるいは皮膚病変も進行することなく自然寛解もしばしば認められる。慢性型は末梢血に10%以上の異型細胞を認めるが、臨床経過は安定しており無治療でも10年近く生存する例がある。リンパ節・肝臓・脾臓の腫大をみることはあってもその他の臓器浸潤は認められず高カルシウム血症を伴うこともない。治療を要する病型は、急性型およびリンパ腫型である。前駆病変と理解されている慢性型、くすぶり型の場合には長い期間その状態が維持され、臨床的には経過観察が主眼となるが、急性型(acute type)に転化してゆく
場合がしばしばみられる。またそれらの前に前白血病状態(臨床的に特記すべき所見を示さない、すなわちATLLを発症していない状態)としてHTLV−Iキャリアーがある。
「ATLLの病型を検出」とは、ATLLを発症している状態である、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型、急性(急性転化)型を検出することである。くすぶり型では、白血球数は正常であるが、血液中に異型ATLL腫瘍細胞が末梢血中に3%以下存在するという特徴があり、症状がほとんど自覚されない。慢性型においては、血液中の白血球数が増加し、10%以上の異型ATLL腫瘍細胞が末梢血に出現するが、急激な異型ATLL腫瘍細胞の増多はなく、臨床経過は安定している。したがって、臨床診断的には、緊急の治療を要する急性型、リンパ腫型の診断は当然のこと、治療を当面必要とされない慢性型またはくすぶり型であっても、それらを検出することは予後の予測と経過観察からは特に意義がある。
成人T細胞白血病・リンパ腫の病型のうち、本発明の検査方法によって特に検出することが好ましいのは、HTLV−Iキャリアーからくすぶり型に進展する場合、くすぶり型または慢性型から急性転化する場合とHTLV−Iキャリアーからリンパ腫型あるいは急性型ATLLの発症を早期検出・診断することである。すなわちHTLV−Iキャリアー、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型、急性型ATLLを区別して精度高く検出することは、予後の悪いリンパ腫型、急性型ATLL発症に対し適切な早期治療を開始し、薬剤耐性が獲得される前に腫瘍細胞の増殖を抑えるなど効果的な治療を行う上で、あるいは急性転化を防ぐための予防的治療法を開発するためにもきわめて重要である。
そこで検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその発現制御レベルを調べることにより、リンパ腫型あるいは急性型ATLLを特定するデータを得ることが望ましい。具体的にはその遺伝子産物を定量し、その定量結果に基づいて当該遺伝子群の発現プロファイルを作成するか、あるいは発現の調節をメチル化頻度の検出により調べることに基づいて高感度・高精度な早期検出・診断を行う。このようにしてATLLの病型診断のための、また治療を要する病型に進展する可能性を評価するためのデータ、さらに予後不良病型への進展を早期検出するデータを得ることができる。
特に、上記8遺伝子よりなる遺伝子群から2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子の発現制御レベルを検出することにより、リンパ腫型または急性型ATLLを検出し特定することが可能となる。遺伝子の発現制御レベルを調べることについては上記したとおりである。それに基づき、患者に病型に関する必要な情報を提供し、経過観察の際に適切に指導して自己管理に役立てることとなる。
遺伝子メチル化の検出による検査方法
本発明である造血器腫瘍の検査方法のもう一つの局面は、
検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、発症する可能性、または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を評価するためのデータを提供することを特徴としている。
本検査方法は、検体中に含まれる癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を2種以上選択し、それらの遺伝子発現を調節の面から調べることである。調節の面から調べるとは、その選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することに基づく。
・CpG島のメチル化(methylation)
遺伝子のプロモーター領域にCpG配列に富む領域、すなわちCpG島が存在する場合
、そのCpG島におけるシトシンのメチル化は、その遺伝子の転写制御に関連する。したがって、遺伝子のプロモーター領域におけるシトシンのメチル化を検出することにより、当該遺伝子の発現異常(例えば、転写が活性化されているのか抑制されているのか)を検出することができる。さらに上記遺伝子が癌抑制遺伝子である場合、癌抑制遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のシトシンのメチル化を検出することにより、上記細胞検体に含まれる細胞が癌細胞の可能性があるか否かを検出することができる。
遺伝子の転写制御に関係する遺伝子プロモーター領域のCpG島におけるシトシンのメチル化の実態を知るためには、例えばメチル化頻度を測定すればよい。そのために細胞検体の細胞から核酸を抽出する工程を省き、容易にかつ微量の細胞検体からメチル化されたDNAを検出することができる方法(特許文献3)が好適である。すなわち、
細胞検体を溶解液により溶解させて細胞検体溶解液を調製する工程、
この工程により得られる細胞検体溶解液を、直接、重亜硫酸塩含有試薬で処理し、当該細胞検体溶解液に含まれるCpG含有DNAの塩基配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換する工程、
得られたCpG含有DNAを、所定のメチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーおよび非メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅させる工程、
次いで上記CpG含有DNAが増幅されたか否かを検出する工程
とを含む方法に基づくならば、簡便かつ迅速にDNAのメチル化を検出することができる。これらの処理では、検体DNA内の非メチル化シトシンがウラシルを経由してチミンに変換され、一方、5−メチル化シトシンは最終的にシトシンであることによりメチル化シトシンと非メチル化シトシンの判別を行なうことができる。
「検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択」は、既に述べたとおりであり、メチル化を測定する標的遺伝子とするものである。2種以上の標的遺伝子についてそれらのメチル化状態を測定すれば、相互に比較することによりメチル化の多寡、メチル化の遅速、同時的メチル化などの知見が得られ、さらに病型、病期と関連づけることによって多くの有益な情報が得られる。
上記検査方法の好ましい態様の一つとして、検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCA
D遺伝子よりなる遺伝子群から、少なくとも2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、発症する可能性、または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性などを評価するためのデータを提供することを特徴とする検査方法である。
これらの遺伝子群の意義、特異性などについては既に述べたとおりであり、図3には、測定された8種の遺伝子の細胞内機能とメチル化との関連性が示されている。後述するように本発明者の研究結果から、P値統計解析により特にCpG island methylator phenotype(CIMP:いろいろな特異的標的遺伝子群のプロモーター領域のCpG島が高頻度にメチル化され、それにより、当該標的遺伝子群の発現が次々に消失する表現型)と関連している標
的遺伝子は、SHP1、p15、p16、p73、DAPK、MGMTであることが判明した。こ
れらの遺伝子は、CIMPの面から着目されるべきであることが結論された。また造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのデータなどを提供する本発明検査方法において、選択された遺伝子の一つに少なくともSHP1遺伝子が含まれることが望ましい。
・メチル化頻度の測定
本発明の検査方法は、選択された遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル
化頻度を測定する方法であり、前記メチル化頻度の検出を、検体を溶解して得た細胞溶解液を重亜硫酸塩で処理した後に行なうことを特徴としている。
具体的には、上記方法は次の工程を含む。
(1)細胞を含む検体を溶解液により溶解させて細胞検体溶解液を調製する細胞溶解工程と、
(2)上記細胞溶解工程により得られる細胞検体溶解液を、重亜硫酸塩含有試薬で直接処理し、当該細胞検体溶解液に含まれるCpG含有DNAの塩基配列中の非メチル化シトシンをウラシルへと変換するDNA変換工程と、
(3)上記DNA変換工程により得られるCpG含有DNAを、所定のメチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーおよび非メチル化特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させるDNA増幅工程と、
(4) 上記DNA増幅工程によって、上記CpG含有DNAが増幅されたか否かを検出
するメチル化検出工程と
を含む方法である。
図4に示すように、DNAを重亜硫酸塩(Bisulfite)で処理すると、シトシンはウラ
シルに変換される。具体的には、シトシンが重亜硫酸塩によりスルホン化(Sulphonation)され、さらに加水分解により脱アミノ化(Hydrolytic deamination)され、さらに、アルカリ存在下での脱スルホン化(Alkaline desulphonation)により、ウラシルに変換さ
れる。これに対して、メチル化されたシトシンは、重亜硫酸塩処理してもウラシルに変換されない。図4では、同一の塩基配列を有するDNAについて、その塩基配列中のCpGがメチル化されている、またはメチル化されていない場合の重亜硫酸塩処理を表わしている。
同図に示すように、メチル化されていないDNAでは、上述のように重亜硫酸塩処理によりすべてのシトシンがウラシルに変換される。これに対して、メチル化されたDNAでは、重亜硫酸塩処理により、図中のメチル化されたシトシンはウラシルに変換されず、それ以外のメチル化されていないシトシンのみがウラシルに変換される。すなわち、同一の塩基配列を有するDNAであっても、メチル化されているか否かで重亜硫酸塩処理後の塩基配列に違いがみられる。この塩基配列の違いを検出することにより、CpG含有DNAのメチル化の有無を検出することができる。
「CpG含有DNA」は、上記細胞検体中に含まれるDNAであって、CpG配列を含む塩基配列を有するDNA検体であれば、特に限定されるものではない。ここでいうDNA検体は、通常、ゲノムDNA、すなわち遺伝子である。さらにその遺伝子が、癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子であることがより好ましい。この「CpG含有DNA」は、遺伝子のプロモーター領域に存在することが好ましい。プロモーター領域のメチル化を特異的に検出するには、当該遺伝子のプロモーター領域のCpG配列を含む塩基配列について設計されたプライマーを用いることによる。
DNA増幅方法としては、PCR増幅法またはその変法が使用されるが、最近開発されたICAN(Isothermal chimera primer initiated nucleic acid amplification)などの増幅法であってもよい。
さらに上記のメチル化頻度の検出方法は、検体を溶解して得た細胞溶解液を直接に重亜硫酸塩で処理し、検体から遺伝子を抽出せずに行なうことを特徴としている。細胞溶解液からDNAを抽出し、分離してメチル化を検出してもよい。しかしながら本発明者は、検体から遺伝子DNAを抽出することなく、直接に細胞溶解液に直接重亜硫酸塩による処理が行えることを既に提案した(特許文献3)。検体からDNAを抽出する操作は煩雑であ
り、微量の遺伝子しか含まれない検体は検査できないという事態から本発明の検査方法では免れることができる。
「検体」は、患者から分離された、造血器腫瘍を検出できるいかなる器官、組織、細胞または細胞抽出物であり得る。そのような検体は、限定されないが、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることが望ましい。
上記「溶解液」としては、上記細胞検体を溶解し、膜を開裂させることができるものであれば、特に限定されないが、タンパク質の変性を引き起こす試薬が好ましい。具体的な溶解液としては、例えば、グアニジンチオシアネート、ヨウ化ナトリウム、尿素、SDSなどのこれまで公知のタンパク質変性剤を含む溶液が挙げられる。さらに、これらにβ−メルカプトエタノールなどの従来公知の架橋開裂剤が含まれていてもよい。
上記「重亜硫酸塩含有試薬」としては、従来公知の重亜硫酸塩を含有する試薬であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重亜硫酸ナトリウム(Na225、メ
タ重亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムまたはピロ亜硫酸ナトリウムともいう)を好適に用いることができる。さらに、重亜硫酸化合物と尿素とを併用してもよい。
本発明の検査方法は、検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子
、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群から、少なくとも2種以上の遺伝子を選択し、その選択した遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは造血器腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、発症する可能性、または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を評価するためのデータを得る方法であるが、その造血器腫瘍として、成人T細胞白血病・リンパ腫である場合に好適に用いられる。上記8種の遺伝子群は、特に成人T細胞白血病・リンパ腫においては、コア標的遺伝子としてもよい。成人T細胞白血病・リンパ腫の病型を検出し、診断するためのデータを提供する目的には、特異的な遺伝子セットとして有用であるためである。とりわけ成人T細胞白血病・リンパ腫の病型のうち、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型、急性型を特定する場合に有用である。
なお、前記メチル化頻度の検出にメチル化感受性制限酵素を用いることを特徴とする、造血器腫瘍の検査方法であってもよい。その基となる方法として、遺伝子切断段階と、遺伝子増幅段階と、遺伝子増幅確認段階とを含むメチル化感受性制限酵素を利用した方法が、特許文献2に記載されている。メチル化感受性制限酵素とは、二本鎖DNAにおいて認識対象となる塩基配列にシトシンを含んでおり、かつ、この塩基配列中のシトシンがメチル化された場合には、該塩基配列の二本鎖DNAを切断できない制限酵素であれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、HpaII、EagIまたはNaeIなどを挙げることができる。
・データの形態
検体中の2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を選択してその発現制御レベルを測定し、得られた結果は、適切に統計解析を行なって、造血器腫瘍の診断のためのデータ、あるいは該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、発症する可能性、または造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を評価するためのデータとすることが望ましい。統計解析は、当業界で利用されている各種の統計手法、検定法の中から適する方法を選択しておこなうことができる。
上記の方法によって得られたデータを基に、エピジェネテイクス関連疾患のモニタリング、診断の他に、発症可能性の予測・推定、あるいは臨床症状は出現していないものの微
量の腫瘍細胞が既に存在し該腫瘍の前臨床期の状態にある可能性、または発症している可能性を発症以前に高感度・高精度に評価するためのデータ、あるいは造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を評価するためのデータを提供する。その場合に用いられるデータは、上記のいずれか1つの方法を用いて得たデータであってもよいし、何通りかの方法を併用して得られたデータであってもよい。また、選択された2種以上の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子の示差的発現プロファイルの形態であってもよい。例えば、遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化プロファイルが該当する。そうしたプロファイルから造血器腫瘍に関与する遺伝子群のパターン、その関わりの程度が判る。
さらにデータの提示方法として、遺伝子の発現変化と同定された病態とを統計的なデータの裏づけのもとに結び付ける指標を示す方式であってもよい。一つの例として、CIMP(CpG Island Methylator Phenotype)が挙げられ、ある遺伝子のプロモーター領域のCpG島がメチル化されることにより、その遺伝子の発現が消失する現象(表現型)に関連する指標である。これはDNAが高頻度にメチル化され(hypermethylation)、“gene silencing”が起きていることを示すパラメーターである。そのカットオフレベルを高くすることにより、正常、キャリアーまたはATLLの前臨床期の状態にあるかの推定、および病型間における判別の精度が高くなる。
発症リスクの推定および特異的臨床症状がでる以前の前臨床期の状態にある可能性の推定、あるいは発症の早期検出・診断は、実際には医師により本発明の検査方法により提供されたデータに加えて、他の臨床データ、被験者個々の事情(年齢、性別、既往歴、生活習慣など)を総合的に勘案してなされる。そうした判断に基づく予測は、一層信頼度を増すこととなる。
キット
本発明のキットは、上記検査方法を実施するためのキットである。具体的には、検体を溶解するための溶解液、重亜硫酸塩含有試薬、メチル化検出増幅試薬を少なくとも含み、2種以上の選択された癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化プロファイルを作製するためのキットである。
前記検体は、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることが好ましい。
本発明に係るキットは、本発明の検査方法を実施するために必要とされる各種器材または資材、試薬および/または遺伝子増幅を実施するためのプライマー類、試薬を含むものである。これらの試薬の中には、各種酵素類、緩衝液、洗浄液、溶解液なども含まれる。具体的には検体を溶解するための溶解液、重亜硫酸塩含有試薬、メチル化検出増幅試薬を少なくとも含み、さらに癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子のプロモーター領域変異型を検出するための、PCR用プライマーを含む。キット要素として、さらに多数検体の同時処理ができるマイクロタイタープレート、DNA増幅用具などの必要な器材一式などを含んでもよい。
本発明による検査方法のハイスループットな態様は、上記キットの中に、マイクロリアクタ形態のもの、具体的にはチップ形状の器材を含んでもよい。このような構成では、チップから得られる信号についての数値化されたものを取り込み、ファイルを作成し、コンピュータ上の所定のディレクトリに保存する形態を採用するシステムが好ましい。数値データを統計的に処理し、2以上、好ましくは8種の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子の発現調節能力を調べ、造血器腫瘍の発病、発症可能性を推定することができる。データ処理は、必要な補正、正規化を経て、統計的解析を可能とする好適なソフトウェアを使用して行われる。このようなデータ処理のためのシステム構築は、当業者であれば既存の技術、
方式、手順を利用して行うことができる。
[実施例]
以下の実施例中で用いる装置名、使用材料の濃度、使用量、処理時間、処理温度などの数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にすぎない。また、以下の説明をいくつかの図を参照して行なうが、これらの図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあることもある。
ATLL病型の判別
造血器腫瘍疾患の一つである成人T細胞白血病・リンパ腫(ATLL)において、8種の遺伝子群から選択された2種以上の遺伝子プロモーター領域におけるメチル化の有無、メチル化頻度をメチル化特異的PCR法(methylation specific PCR(MSP))を用いて確認し、その臨床的意義を調べた。
・対象および検体
総数78人から測定のための臨床検体を採取した。内訳は、ボランティアの健常者13名、HTLV-Iウイルス感染者(キャリアー)の10名、成人T細胞白血病・リンパ腫の慢性型
の患者5名、くすぶり型の患者15名、リンパ腫型の患者20名、急性型の患者15名について
、末梢血単核細胞(PBMC)もしくはリンパ節組織細胞を採取した。検体としての末梢血は、耳朶、上腕静脈などより採血し、単核細胞(PBMC)を常法により調製した。
・検索した遺伝子(造血器腫瘍用遺伝子セット)
造血器腫瘍用遺伝子セットとして次の8種類の癌抑制遺伝子または癌関連遺伝子を対象とし、そのプロモーター領域のメチル化を調べた:
SHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝
子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子。
・メチル化の検出
続いて検体からゲノムDNAを得るために、検体と細胞溶解液とを混合した後、一定時間、混合溶液を加熱した。この処理により検体中の細胞を溶解液によって破壊し、その細胞中のゲノムDNAを抽出した。なお、細胞溶解工程での溶解液の組成、濃度、反応温度、および反応時間等の反応条件は、特許文献3に記載された条件によった。
臨床検体から抽出したDNAに既報のごとく、重亜硫酸塩(亜硫酸水素塩、二亜硫酸塩)による処理を行なった。
上記DNA変換工程後の修飾DNA溶液を用いて、遺伝子群(SHP1、p16,p15,p73,hMLH,MGMH,DAPK,HCAD)のプロモーター領域に存在するCpG島のメチル化の有無、メチル化の程度について、MSP(methylation specific PCR)法を用いるCpG島アッセイ(メチル化アッセイ)を実施した。この方法によれば、メチル化特異的プライマーおよび非メチル化特異的プライマーを用いて、DNA変換工程後におけるCpG含有DNAをPCR増幅するために、より高精度でメチル化されたDNAを検出することができる。
アッセイに使用したメチル化特異的プライマーMSP、非メチル化特異的プライマーUMSPは、検索した上記8種遺伝子それぞれのプロモーター領域のCpG配列を含む塩基配列に対して設計されたプライマーであり、それらプライマーの塩基配列(primer sequences)を表1に示した。プライマーの作製およびMSPの詳細については特許文献3に記載されている。
なお、MSPにおいて擬陽性、偽陰性による測定ミスを排除するために、検体とともにポジティブコントロール(positive control)およびネガティブコントロール(negative
control)を同時に処理を行った。ポジティブコントロールには、健常者の末梢血単核球細胞から得たDNAをSssIメチラーゼ(New England BioLabs Inc.,Beverly,MA)で処理したもの(PBMC (SssI))を用いた。またネガティブコントロールは、健常者のDNA試料を用いてMSPを行なった。
Figure 0004088694
Figure 0004088694
Figure 0004088694
下記アッセイ条件を使用し、各DNA検体について反応を実施した。
反応溶液:(10pmolプライマー:2μl重亜硫酸塩修飾DNA:10×PCR緩衝液:2mMdNTP:25mM塩化マグネシウム:AmpliTaqGold DNAポ
リメラーゼ0.25単位;最終反応容量20μl中)
反応条件:(95℃で10分間):[(94℃で15秒間):(AT(アニーリング温度
)で1分間):(72℃で1分間)]35から40サイクル:(72℃で7分間)
増幅後のPCR産物の検出を3%アガロースゲルで電気泳動してメチル化の有無を検出した。またPCR産物のサイズに相当するバンドの有無およびその産物サイズ(product size)をマーカー(50塩基対ladder)で検出した。
・各病型における遺伝子のメチル化
電気泳動の結果を図5〜図9に示すとともに、図10-1、-2および-3には各病型に
おける遺伝子メチル化の結果がまとめられている。
図5は、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールについて、MSPを行い、そのPCR増幅産物の電気泳動による解析結果を示す。右側に増幅されたPCR産物
のサイズを示す。
図6は、健常者PBMC(末梢血単核球)について、p15、HCADおよびSHP1各遺伝子のメチル化状況を示す、PCR増幅産物の電気泳動による解析結果である。各泳動図の右側には、増幅されたPCR産物のサイズを示す。
図7は、HTLV-Iキャリアーについて、SHP1、p16およびMGMT各遺伝子のメチル化状況を示す、PCR増幅産物の電気泳動による解析結果である。各泳動図の右側には、増幅されたPCR産物のサイズを示す。
図8は、くすぶり型ATLL(smoldering ATLL)について、同様にSHP1、p16およびMGMT各遺伝子のメチル化状況を示す電気泳動図である。各泳動図の右側には、増幅されたPCR産物のサイズを示す。
図9は、急性型およびリンパ腫型ATLLについて、同様にSHP1、p16およびMGMT各遺伝子のメチル化状況を示す電気泳動図である。35名のデータのうち、8名の結果が図に表されている。各泳動図の右側には、増幅されたPCR産物のサイズを示す。
図10-1は、今回測定した13名の健常者PBMCにおいて、SHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子のプロモーター領域がメチル化されているか否かを示す。図6に表されるように健常者DNA(normal PBMC)を増幅させた場合は、p15とHCADにおいて遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG島のメチル化が少数ではあるが確認され、そのメチル化率はp15が15%(2/13)、HCADが30%(4/13)であった。いずれの健常者DNAでもp15、HCADを除く6種の遺伝子ではメチル化が生じてい
ないことが判った。
図10-2、図10-3には、さらにHTLV-Iキャリアー、くすぶり型ATLL、慢性型、急性型およびリンパ腫型ATLLからの検体におけるSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16
遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子のプロモーター領域におけるメチル化の状況も示す。
HTLV-Iキャリアー(ウイルス感染者)DNAを増幅させた場合の各遺伝子のメチル化率は、SHP1が30%(3/10)、p15が20%(2/10)、p73が30%(3/10)、hMLHが10%(1/10)、MGMTが20%(2/10)、DAPKが20%(2/10),そしてHCADが30%(3/10)であった。なお、p16ではメチル化が確認されなかった。
くすぶり型DNAを増幅させた場合は、p15、p16、MGMT、DAPKおよびHCADにおいてメチル化が確認された。p15、p16、MGMTで確認されたメチル化は少数であるが、一方でHCADにおけるメチル化率は100%(15/15)であり、DAPKにおけるメチル化率は47%(7/15)あった。その他のSHP1、p73、hMLHは、くすぶり型DNAにおけるメチル化は確認されなかった。
慢性型DNAを増幅させた場合、SHP1、DAPKおよびHCADにおいて高いメチル化率を示す傾向が認められた。
急性型(acute ATLL)DNAを増幅させた場合は、p15、hMLHにおいて、いずれも20%(3/15)とメチル化が少数確認された。ここで高いメチル化率を示したのはSHP1,DAPKおよびHCADであり、その値はそれぞれSHP1が80%(12/15)、DAPKが53%(8/15)、HCADが87%(13/15)で
あった。
リンパ腫型(lymphomatous ATLL)DNAを増幅させた場合は、SHP1,p15,p
16,MGMT,DAPK,HCADにおいて高いメチル化率を示し、その値はそれぞれSHP1が90%(18/20)、p15が20%(4/20)、p16が40%(8/20)、MGMTが45%(9/20)、DAPKが80%(16/20)、HCADが90%(18/20)であった。
これらの結果より、今回評価を行なった成人T細胞白血病・リンパ腫の数種の病型(HTLV-Iキャリアー、くすぶり型、慢性型、急性型およびリンパ腫型)によってメチル化される遺伝子の種類と頻度に特徴的な傾向があることが判明した。また図11からは、ATLLの進展に伴い、平均メチル化遺伝子数の増加が明らかである。8個の遺伝子において7〜8個の遺伝子が同時にメチル化されることはないが、これらの特徴的な傾向を捉えることによって、次に示すように病型の判別を行なうこと、さらには造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性を予見することができる。
HTLV-Iキャリアーとくすぶり型または慢性型との判別、あるいはHTLV-Iキャリアーと急性型ATLLとの判別においては、例えば標的遺伝子としてHCADが有効である。HCADのメチル化は、HTLV−Iキャリアーとくすぶり型または慢性型との間あるいはHTLV-Iキャリアーと急性型またはリンパ腫型ATLLとの間に有意の差があるため、キャリアーからくすぶり型、慢性型、急性型またはリンパ腫型のATLL発症マーカーとして有用である。HCADが高いメチル化頻度を示せば、くすぶり型もしくは慢性型、急性型またはリンパ腫型ATLLへと病型が進行した可能性を、微量な検体から高感度にしかも容易に検出できることが判る。
SHP1、p16、DAPK、HCADのメチル化は、リンパ腫型ATLLとHTLV-Iキャリアーとの間で有意な差があるため、HTLV-Iキャリアーからリンパ腫型ATLL発症のマーカーとして有用である。
また、くすぶり型とリンパ腫型の判別において、例えば標的遺伝子をSHP1、MGMT、DAPKから少なくとも2種を選択することが有効である。選択した2種の遺伝子がともに高いメチル化頻度を示した場合は病型がくすぶり型からリンパ腫型へと進展した可能性が高く、さらに、標的遺伝子をくすぶり型ではほとんどメチル化されていないp73、p16を加えた3種以上に増やすことで検出精度あるいは信頼度が向上する。
くすぶり型と急性型の判別において、たとえば標的遺伝子としてSHP1を用いるとくすぶり型と急性型の間に有意な差があるため、くすぶり型から急性型ATLLへの進展のマーカーとして有用である。くすぶり型と慢性型の判別において、たとえば標的遺伝子としてSHP1を選択することが有用である。
また急性型とリンパ腫型の判別においては、標的遺伝子としてp16、MGMTが有用である。p16遺伝子が高いメチル化頻度を示した場合は病型がリンパ腫型である可能性が高い。
健常者とキャリアーの判別にはSHP1またはp73が有用である。さらに健常者とくすぶり型ATLLとの判別において、たとえば標的遺伝子をDAPK,HCADを用いると健常者とくすぶり型の間に有意な差があるため、健常者からくすぶり型ATLLへ発症のマーカーとして有用である。また健常者と急性型ATLLとの判別において、たとえば標的遺伝子をSHP1、DAPK、HCADを用いると健常者と急性型の間に有意な差があるため、健常者から急性型ATLLへの発症マーカーとして有用である。健常者とリン
パ腫型ATLLとの判別において、たとえば標的遺伝子をSHP1、p16、DAPK、MGMT、HCADを用いると健常者とリンパ腫型の間に有意な差があるため、健常者からリンパ腫型ATLLへの発症マーカーとして有用である。さらに健常者と慢性型ATLLとの間では、SHP1、DAPK、HCADが良好な判別マーカーとなり得る。
健常者DNA、およびATLL患者DNAでは、上記8種の遺伝子群における平均メチル化遺伝子数、すなわち平均MSP(+)遺伝子数が、健常者DNA:0.5個、HTLV−IキャリアーDNA:1.6個、くすぶり型DNA:1.9個、慢性型DNA:3.2個、急性型DNA:2.5個、リンパ腫型DNA:3.4個であり、病期の進展に伴ってATLL患者においてメチル化を示す遺伝子数は、増加傾向にある(図11、図12)。よって、今回評価を行なった8種の遺伝子群のメチル化遺伝子数も病型の進展の判断指標となり得ることが、これらの結果から判る。なお、評価対象とする遺伝子群の種類・個数は、本実施例記載の条件に限定されない。
統計解析
図10-1〜3に示される測定結果から、上記8個の遺伝子で、明らかにATLL病型で
メチル化の様相が異なることが明らかとなった。このことから測定した8個の遺伝子のメチル化を調べることが、ATLLの病型を特定することが可能であり、病型の進展と関係があることが示唆された。
(遺伝子メチル化の同時性)
造血器腫瘍用遺伝子セットである8種の遺伝子間において、ATLLで同時にメチル化される遺伝子間の相関関係を表2にまとめた。同時にメチル化される遺伝子間の相関性は、フィッシャーの直接確率検定(Fisher's exact test)(片側)により調べた。特にDAP
K遺伝子とMGMT遺伝子の間、SHP1遺伝子とDAPK遺伝子の間及びHCAD遺伝子とDAPK遺伝子の間に関連性が示された。なお、表2では、HTLV-Iキャリアー10名、成人T細胞白血病・リンパ腫の例数として、くすぶり型の患者15名(図10-2の“smoldering type”で、1〜15の患者)、慢性型の患者5名(図10-2の“chronic type”で、1〜5の患者)、リンパ腫型の患者20名、急性型の患者15名(図10-3の“acute type”
で、1〜15の患者)である場合の結果である。
Figure 0004088694
表2.ATLの段階と遺伝子のメチル化との関連
また、これら相関関係を、8種の遺伝子の細胞内機能とメチル化を基準とした関連性を図3にまとめた。このようにATLLにおいて癌抑制遺伝子、アポトーシス、DNA修復酵素、細胞接着、情報伝達調節因子などの細胞活動局面で機能する遺伝子が同時的にメチル化されて発現が抑制されていることはATLLの発症と進展に関係していることを示す。また同一の生理的意義に括られる遺伝子群であっても、メチル化されにくいものもあり、遺伝子の示差的発現に対応するものである。
(ATLL病型の進展とメチル化の相関性)
図12に、「平均MSP(+)遺伝子数」について健常者、ATLLの各病型の間における有意差があるか調べた結果を示す。「平均MSP(+)遺伝子数」とは、MSPでポジティブの結果を与えた、すなわちMSPでメチル化が認められた平均遺伝子数である。これらの結果から以下のことが導き出せた。
図5〜9に示した結果をもとに、病型の進展とメチル化が確認される遺伝子との相関性を統計解析により評価した(図12)。評価は、判別をする二つの病型、例えばHTLV-Iキャリアーとくすぶり型の群を、さらにそれぞれ対象である遺伝子のプロモーター領域がメチル化されている遺伝子数の平均値の有意差を評価する統計解析をStudentのt検定
(両側確率)(SPSS: SPSS Japan Inc. 社)により行なった。p=0.05を有意水準と
した。健常者の平均MSP(+)遺伝子数とHTLV−Iキャリアー、くすぶり型、慢性型、急性型、リンパ腫型ATLLの各病型の平均MSP(+)遺伝子数との間に有意な差が認められ、健常者からHTLV−Iキャリアー、健常者から各病型のATLLを判別するマーカーとして「平均MSP(+)遺伝子数」は有用である。さらにHTLV−I キャリアーの「平均MSP(+)遺伝子数」と慢性型、急性型またはリンパ腫型ATLLの「平均MSP(+)遺伝子数」の間、またはくすぶり型ATLLの「平均MSP(+)遺伝子数」と慢性型またはリンパ腫型ATLLの「平均MSP(+)遺伝子数」との間にも有意な差が認められ、「平均MSP(+)遺伝子数」は」HTLV−Iキャリアーから慢性型、急性型またはリンパ腫型のATLLの発症、あるいはくすぶり型ATLLから慢性型またはリンパ腫型ATLLへの病型の進展のマーカーとして有用である。また「平均MSP(+)遺伝子数」は、急性型ATLLとリンパ腫型ATLLとの判別にも適用可能である。HTLV−Iキャリアーと慢性型間でも「平均MSP(+)遺伝子数」は、有意差がある。
表3は、ATLL病型の進展と遺伝子メチル化との相関性を示す。HTLV-Iキャリアーからくすぶり型、急性型およびリンパ腫型への病型の進展と8種の遺伝子(SHP1、p16,p15,p73,hMLH,MGMH,DAPK,HCAD)のメチル化との間の有意な相関性を解析し、得られた結果を示した。さらに、くすぶり型から急性型またはリンパ腫型への進展、HTLV-Iキャリアーから急性型またはリンパ腫型への進展、健常者からくすぶり型、急性型、リンパ腫型の発症についても同様の解析を行ない、その結果を同表中に示した。なお、表3では、健常人13名、HTLV−Iキャリアー10名、成人T細胞白血病・リンパ腫の症例として、くすぶり型の患者15名(図10-2の“smoldering type”で、1〜15の患者)、慢性型の患者5名(図10-2の“chronic type”で、1〜5の患者)、リンパ腫型の患者20名、急性型の患者15名(図10-3の“acute type”で、1
〜15の患者)である場合の結果である。
Figure 0004088694
表3に示したように、HTLV-Iキャリアーとくすぶり型の判別ではHCAD及びSHP1のメチル化の有無が有効な指標であり、くすぶり型と急性型の判別ではSHP1のメチル化が有効な指標であることが判る。HTLV-Iキャリアーと急性型の判別ではHCADとSHP1、HTLV-Iキャリアーとリンパ腫型の判別ではSHP1,DAPK,HCADのメチル化が極めて有効な指標であり、p16を指標に加えることで検出精度が向上することが、P値(P value)を用いた統計解析を行なうことで定量的に評価できることが判る。さらに健常者とくすぶり型ATLLとの判別において、たとえば標的遺伝子をDAPK,HCADを用いると健常者とくすぶり型の間に有意な差があるため、健常者からくすぶり型ATLLへ発症のマーカーとして有用である。また健常者と急性型ATLLとの判
別において、たとえば標的遺伝子をSHP1,DAPK,HCADを用いると健常者と急性型の間に有意な差があるため、健常者から急性型ATLLへ発症のマーカーとして有用である。健常者とリンパ腫型ATLLとの判別において、たとえば標的遺伝子をSHP1,p16,DAPK,MGMT,HCADを用いると健常者とリンパ腫型の間に有意な差があるため、健常者からリンパ腫型ATLLへ発症のマーカーとして有用である。
また、くすぶり型とリンパ腫型の判別において、例えば標的遺伝子をSHP1、DAPK、MGMTから少なくとも2種を選択することが有効である。選択した2種の遺伝子が
ともに高いメチル化頻度を示した場合は病型がくすぶり型からリンパ腫型へ進展した可能性が高く、さらに、標的遺伝子をくすぶり型ではメチル化されていないp73、hMLH、SHP1を加えた3種以上に増やすことで検出精度あるいは信頼度が向上する。
くすぶり型と急性型の判別において、たとえば標的遺伝子にSHP1を用いるとくすぶり型と急性型の間に有意な差があるため、くすぶり型から急性型ATLLへの進展のマーカーとして有用である。
また急性型とリンパ腫型の判別においては、たとえば標的遺伝子をp16及びMGMTが有用である。p16及びMGMT遺伝子が高いメチル化頻度を示した場合は病型が急性型である可能性が高い。
(指標CIMP(+)に基づく解析)
ここでは、ATLLの各病型とDNAメチル化とを対応させる指標として、CIMPをもとに統計解析を行なった。一般的に、CIMP(CpG Island Methylator Phenotype)とは、いろいろな特異的標的遺伝子群のプロモーター領域のCpG島が高頻度にメチル化され、それにより、当該標的遺伝子群の発現が次々に消失する表現型のことを指す。ここでは8種の遺伝子群(SHP1、p15、p16、p73、hMLH、MGMH、DAPK、HCAD)のうち、4つ以上の遺伝子がCIMPにある場合をCIMP(+):Positiveと表することとした。 図10−1,図10−2,図10−3,図13のデータをもとに、病型の進展とCIMPとの相関性をフィッシャーの直接確率検定(片側)で評価し、結果を表4に示した。 p=0.05を有意
水準とした。
Figure 0004088694
表4に示したように、くすぶり型とリンパ腫型の判別、HTLV-Iキャリアーとリンパ腫型の判別、くすぶり型と慢性型の判別、急性型とリンパ腫型の判別において、CIMPが統計的に有意の差異を示すことが認められ、CIMPを指標とする分析が有効であることが示された。特に、CIMPはくすぶり型からリンパ腫型への進展を高精度かつ定量的に判別できる、優れた指標となり得ることが判った。成人T細胞白血病・リンパ腫は、病型が急性型またはリンパ腫型へ完全に転化すれば標準的な治療法は確立しておらず、ほとんどの患者が一年以内に死亡するのが現状である。ゆえに、治療可能なくすぶり型にあるときにリンパ腫型への進展の兆候を早期にかつ高感度に検出できるCIMPを用いた本発明は医療上、非常に有利である。
また、表5には、CIMPと各遺伝子との関係が示されている。これは、HTLV−Iキャリアー10名、成人T細胞白血病・リンパ腫の症例として、くすぶり型の患者15名(図10-2の“smoldering type”で、1〜15の患者)、慢性型の患者5名(図10-2の“chronic type”で、1〜5の患者)、リンパ腫型の患者20名、急性型の患者15名(図10-3
の“acute type”で、1〜15の患者)である場合の結果である。hMLH及びp73以外の遺伝子において、CIMPの有無と関連性が認められた。
キャリアーから慢性型、急性型およびリンパ腫型との間で標的遺伝子のメチル化が起こっている遺伝子数が有意に異なっている(図12)。さらに病型の進展にともなってその数が増加し、CIMP(+)の症例が増加することから(表4)、ATLLの病型の進展についても、標的遺伝子のメチル化遺伝子数及びCIMPをモニタリング・マーカーとして採用することが可能である。
Figure 0004088694
急性型ATLLとリンパ腫型ATLLの比較
ここでは、急性型ATLLとリンパ腫型ATLLを対象に上記遺伝子セットのメチル化の有無を評価した。急性型では血液中に異型リンパ球が確認されるが、リンパ腫型では血液中の異型リンパ球は見られないなどの違いはあるものの、LDHが上昇するものがほとんどで、細胞性免疫低下や高Ca血症などの症状を呈する。このほか高尿酸血症、高ビリルビン血症(肝浸潤)、アルカリフォスファターゼ上昇(骨破壊)、PTHrP上昇(骨破壊)がみられる。リンパ腫型は他の悪性リンパ腫と比べ特に治療抵抗性で、経過中に全身のリンパ節、臓器への浸潤が起こりリンパ腫を形成する。急性型は通常異型を示すATLL腫瘍細胞が末梢血に多数認められ典型的な白血病の症状を呈する。さらにリンパ節腫脹、肝機能障害、および浮腫がみられATLL細胞は骨髄や中枢神経系など多くの臓器に浸潤する(図2)。
急性型ATLLが15名、リンパ腫型20名について、実施例1と同様の手法により8種の遺伝子群(SHP1、p16,p15,p73,hMLH,MGMH,DAPK,HCAD)のメチル化を評価した。その結果を図13に示した。
両病型間では、図13に示されるようにメチル化されている遺伝子が異なる。急性型ATLL患者のDNAでは、p16、p73、MGMTにおいてメチル化が全く確認されな
かったのに対して、リンパ腫型のDNAではp16が40%(8/20)、p73が15%(3/20)、MGMTが45%(9/20)のメチル化率を示した。また、hMLHは急性型では20%(3/15)のメチル化率であるのに、リンパ腫型では5%(1/20)と、メチル化の頻度が小さいという特徴的な結果も得られた。そうしたメチル化のパターンの相違は、両病型の間で、病態の発生機序の違いを反映していると考えられる。
CIMP陽性率は、急性型よりもリンパ腫型の方が高い。すなわち、急性型では、20%(3/15)であるのに対し、リンパ腫型では55%(11/20)である。
これらの結果より、8種の遺伝子群のメチル化の有無を検出することによって、急性型ATLLとリンパ腫型との間に差が認められることが判明した。
臨床因子として遺伝子メチル化の利用
実際はATLL病型の進展の検出を、次のように行なうことができる。まず、一次スクリーニングとして、上記の実施例1に示したように8種遺伝子のセットのうち、どの遺伝子がメチル化され、メチル化されていないかという視点からデータを分析して、HTLV-Iキャリアー、くすぶり型、慢性型、急性型およびリンパ腫型などの病型の判別を行なう。その後、HTLV−Iキャリアー、くすぶり型または慢性型と判定された患者については定期的な検査を行なう中で、CIMP及び8種の遺伝子群の指標に基づき経過観察を続ける。CIMPがポジティブであり、かつ8種の遺伝子群のうちメチル化された遺伝子の個数が増加傾向を示した場合には、病型の進展を疑い、精密な検査をさらに行なうことが肝要である。また病型判別において、急性型およびリンパ腫型と判定された患者は、さらに詳細な判別を行ない、一刻も早く適切な治療をすることが必要である。
本発明は、治療効果の確認とその予後の追跡にも利用できる。例えば同一患者にて追跡した結果が、図10-3に含まれている。急性型の患者番号12と13、6と7は、それぞ
れ同一人である。12は、治療前のデータ、13は、再発し増悪した際のデータを表し、いずれの病態においてもメチル化している遺伝子の種類および数(3個)は同一であった。このことは治療により減少した白血病細胞と同一のクローンが再び増加し再発したものと考えられ、本方法が治療後の病態を高感度・高精度にモニターし経過観察するためにきわめて有用であることを示している。6は、完全寛解(CR)してメチル化がまったくないことを示し、7では、移植治療後に再発したが、部分寛解(PR)中はSHP1のみがメチル化していた。このことからPRとCRとの境界にSHP1のメチル化が関与している可能性も考えられ、特定遺伝子のメチル化を探る意義を示している。以上より本発明が提供するデータに基づいて造血器腫瘍の別の病型へと進展しつつある可能性をも予見できる。
以上の研究成果をまとめる。
ATLLの進展に伴い、
(1)メチル化を示す遺伝子数の増加、
(2)特定の遺伝子のメチル化、
(3)CIMPの頻度の増加を認める。
HTLV-I感染からATLLの発症までには、特定の遺伝子のメチル化が関与していることが示唆された。急性型とリンパ腫型はCIMPを示す割合が高いことから、初めてATLLにおいてCIMPの存在が示唆された。よってCIMPがATLL進行のバイオマーカーになり得ると考えられる。急性型とリンパ腫型はともに予後不良であるが、メチル化される遺伝子が異なっていた。これは病型の発生機序の違いを反映していると考えられる。
したがって、遺伝子メチル化の有無や、それらのデータの統計解析に基づくCIMP指標を用いて、造血器腫瘍疾患の病型判別を可能とし、ならびに病型の進展のわずかな兆候
を捉えることを可能とし、さらには検出した徴候から病型の進展を予見可能とした本発明は、患者に対し個別に適切な治療・投薬計画を立てる上で極めて有用な技術である。
図1は、ATLLの進展スキームと病型を示す。 図2は、ATLLにおける各病型の臨床判定基準を表わす。 図3は、測定された8種の遺伝子の細胞内機能とメチル化との関連性を示す。 図4は、重亜硫酸塩(bisulfite)処理による塩基配列の塩基変換の有様と、特異的プライマーについて説明する図である。 図5は、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールについて、MSPを行ない、そのPCR増幅産物の電気泳動による解析結果を示す。U, メチル化されていないDNA(unmethylated DNA); M, メチル化DNA( methylated DNA); 右側にPCR産物のサイズが示されている。M,Uの上の数字は検体番号を示す。 図6は、健常者PBMC(末梢血単核球)について、p15、HCADおよびSHP1各遺伝子のメチル化状況を示す、PCR増幅産物の電気泳動による解析結果である。M,Uの上の数字は、各健常者の検体番号を示す。他は図5と同様である。 図7は、HTLV−Iキャリアーについて、SHP1、p16およびMGMT各遺伝子のメチル化状況を示す、PCR増幅産物の電気泳動による解析結果である。M,Uの上の数字は、各キャリアーの検体番号を示す。他は図5と同様である。 図8は、くすぶり型ATLLについて、同様にSHP1、p16およびMGMT各遺伝子のメチル化状況を示す電気泳動図である。M,Uの上の数字は、それぞれの患者の検体番号を示す。他は図5と同様である。 図9は、急性型ATLLについて、同様にSHP1、p16およびMGMT各遺伝子のメチル化状況を示す電気泳動図である。M,Uの上の数字は、それぞれの患者の検体番号を示す。他は図5と同様である。 図10-1は、健常者PBMCからの検体におけるSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子のプロモーター領域がメチル化の状況を示す。 図10-2は、HTLV-Iキャリアー、くすぶり型ATLL、および慢性型ATLLからの検体におけるSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子のプロモーター領域がメチル化の状況を示す。 図10-3は、急性型およびリンパ腫型ATLLからの検体におけるSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子のプロモーター領域がメチル化の状況を示す。 図11は、ATLL進展に伴う平均メチル化遺伝子数の増加を示すグラフである。 図12は、「平均MSP(+)遺伝子数」について健常者、ATLLの各病型の間における有意差があるか調べた結果を示す。 図13は、急性型ATLLに分類される白血病タイプとリンパ腫タイプを対象に、上記遺伝子セットのメチル化の評価を示す。

Claims (13)

  1. 検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、M
    GMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群の遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより、SHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子
    およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子セットのメチル化状態を成人T細胞白血病・リンパ腫の発症または進展を示すマーカーとして、成人T細胞白血病・リンパ腫の病型もしくは前臨床期状態を検出する検査方法。
  2. 検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、M
    GMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群について、それらの遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することによりCIMPを算出し、指標であるCIMPがポジティブであるか否かにより成人T細胞白血病・リンパ腫の病型もしくは前臨床期状態を検出する、請求項1に記載の検査方法。
  3. 検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、M
    GMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群について、それらの遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することにより平均MSP(+)遺伝子数を算出し、指標である平均MSP(+)遺伝子数が0.5を超える場
    合の数値に基づいて成人T細胞白血病・リンパ腫の病型もしくは前臨床期状態を検出する、請求項1に記載の検査方法。
  4. 前記成人T細胞白血病・リンパ腫の病型もしくは前臨床期状態は、HTLV−Iキャリアー、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型または急性型のいずれかである、請求項1〜3のいずれかに記載の検査方法。
  5. 成人T細胞白血病・リンパ腫の診断のためのデータ、あるいは前臨床期の状態にある可能性、または発症する可能性を評価するためのCIMPまたは平均MSP(+)遺伝子数を提供することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の検査方法。
  6. 前記遺伝子セットにおいて、HTLV−Iキャリアーまたは前臨床期状態を検出するデータを提供するために、SHP1遺伝子、p73遺伝子およびHCAD遺伝子を判別マーカ
    ーとすることを特徴とする請求項1に記載の検査方法。
  7. 検体中のSHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、M
    GMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子群について、それらの遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島のメチル化頻度を測定することによりCIMPを算出し、指標であるCIMPの変化により、造血器腫瘍(成人T細胞白血病・リンパ腫を除く)の病型もしくは前臨床期状態の検出に適用される検査方法。
  8. 前記メチル化頻度の測定にメチル化感受性制限酵素を用いることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の検査方法。
  9. 前記メチル化頻度の測定を、検体を溶解して得た細胞溶解液を重亜硫酸塩で処理した後に行なうことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の検査方法。
  10. 前記メチル化頻度の測定を、検体を溶解して得た細胞溶解液を直接に重亜硫酸塩で処理し、検体から遺伝子を抽出せずに行なうことを特徴とする、請求項9に記載の検査方法。
  11. 前記検体が、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の検査方法。
  12. SHP1遺伝子、p15遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺
    伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子のメチル化検出用の増幅試薬、検体を溶解するための溶解液、重亜硫酸塩含有試薬を少なくとも含み、検体中のSHP1遺伝子、p15
    遺伝子、p16遺伝子、p73遺伝子、hMLH遺伝子、MGMT遺伝子、DAPK遺伝子およびHCAD遺伝子よりなる遺伝子セットのプロモーター領域におけるCpG島のメチル化プロファイルを作製し、成人T細胞白血病・リンパ腫のHTLV−Iキャリアー、くすぶり型、慢性型、リンパ腫型または急性型のいずれであるかを検出するためのキット。
  13. 前記検体が、扁桃、骨髄、リンパ節、消化器、呼吸器、脾臓、肝臓、感覚器、中枢神経系、運動器、皮膚および末梢血よりなる群から選択された器官、組織から採取された細胞含有検体であることを特徴とする、請求項12に記載のキット。
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