以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明による透過型電子顕微鏡の一例の概略機能ブロック図である。なお、電子線偏向コイルの段数は問わないが、ここでは試料上部に2段、試料下部に2段、計4段の電子線偏向コイルを用いた場合を例にとって述べる。また、以下に説明する実施の形態は、全て図1に示した透過型電子顕微鏡を用いるものとして説明する。
電子銃1から放出されて加速された電子線73は、第一照射レンズコイル2と第二照射レンズコイル3及び対物レンズコイル4の前磁場を通って、試料ステージ13に保持された試料14に照射される。試料14を透過した電子線73は、第一中間レンズコイル5及び第二中間レンズコイル6によって拡大された後、第一投射レンズコイル7及び第二投射レンズコイル8によってさらに拡大され、シンチレータ16上に試料の透過拡大像59が形成される。ここでは、電子線の偏向及び試料透過像の拡大レンズとして電磁場力を応用したコイルを用いているが、電子線偏向及び試料透過像の拡大には静電力を利用した静電偏向、静電レンズを用いてもよい。
シンチレータ16で光像に変換された試料の透過拡大像59は撮像装置、例えばTVカメラ17によって撮像される。TVカメラからの映像信号は、TVカメラ制御部33及び画像取り込みインターフェース34を介してマイクロプロセッサ46に取り込まれて処理された後、CRTコントローラ49で制御されるCRT50に画像として表示される。ここでは、透過拡大像をマイクロプロセッサ46に取り込む際、シンチレータ16とTVカメラを用いているが、電子線を直接電気信号に変換することができるMCP(マイクロチャネルプレート)などの検出素子を用いてもよい。
マイクロプロセッサ46はDAC(ディジタル−アナログ変換器)35,36,37,38,39,40,41を介して、電子顕微鏡の第一照射レンズコイル2、第二照射レンズコイル3、対物レンズコイル4、第一中間レンズコイル5、第二中間レンズコイル6、第一投射レンズコイル7、第二投射レンズコイル8に給電する励磁電源18,19,20,21,22,23,24を制御する。試料上部第一偏向コイル9、第二偏向コイル10、試料下部第一偏向コイル11、第二偏向コイル12の励磁電源25,26,27,28も、マイクロプロセッサ46によりDAC42,43,44,45を介して同様に制御される。
また、マイクロプロセッサ46には、バスを介してハードディスク等の外部記憶装置47、演算装置48、倍率切替え用ロータリーエンコーダ53、キーボード55、RAM57、ROM58等が接続されている。倍率切替え用ロータリーエンコーダ53はI/F(インターフェース)51を介してバスに接続されている。試料ステージ13は、マイクロプロセッサ46にモータ・ドライバ30を介して接続されたステージ駆動用の微動モータ29により駆動されている。
次に、本発明における画像演算の一例として、位相限定相関法によって2つの画像間の一致度を求める原理及び自動焦点補正を行う原理について説明する。図3(A)に示すような基準となる試料透過拡大像である透過像1をM×Nの画素数で記憶装置にf1(m,n)として記録する。次に、2個の上部電子線偏向コイルに電流を与えて、試料に照射する電子線に適当な傾斜偏向角αを与えて撮像した試料透過拡大像を透過像2としてM×Nの画素数で記憶装置にf2(m,n)として記録する。ここで、m=0,1,2,…,M−1;n=0,1,2,…,N−1である。
透過像f1(m,n)、f2(m,n)の離散フーリエ画像F1(u,v)、F2(u,v)はそれぞれ次の〔数1〕、〔数2〕で定義される。ここで、u=0,1,2,…,M−1;v=0,1,2,…,N−1であり、A(u,v)、B(u,v)は振幅スペクトル、α(u,v)、β(u,v)は位相スペクトルである。
位相限定相関では、2つの画像間で像の平行移動があった場合には、相関ピークの位置が移動量だけずれる。以下に移動量の導出方法を説明する。まず、透過像f2(m,n)がm方向にr’だけ移動したとして、f3(m,n)=f2(m+r’,n)とする。f3(m,n)の離散フーリエ画像F3(u,v)は、前記〔数2〕から〔数3〕のように得られる。
振幅スペクトルB(u,v)を定数とおくと、画像のコントラスト、明度に依存しない位相画像となる。f3の位相画像F3’(u,v)は次の〔数4〕になる。同様にf1の位相画像F1’(u,v)は次の〔数5〕になる。
位相画像F1’(u,v)にF3’(u,v)の複素共役を乗ずることによって、次の〔数6〕で表される合成位相画像H13(u,v)を得ることができる。相関強度画像すなわち相関指数(2画像間の一致度)g13(r,s)は、合成画像H13(u,v)を逆フーリエ変換することによって次の〔数7〕になる。
〔数7〕で求められた相関強度画像を規格化すると、得られた値が0であれば2画像間は全く異なる画像と認識でき、一方100であれば2画像は全く同一の画像であると認識できる。
上記〔数7〕により2つの画像間でm方向に位置ずれ量r’が存在する場合には、相関強度画像の相関ピーク位置は−r’だけずれる。このように、位相限定相関法を用いることで、画像のコントラストや明るさに依存せずに透過像1と透過像2の2画像間における画像の一致度と、2画像間の画像のずれを求めることができる。
2つの試料透過像間で、以上の〔数1〕から〔数7〕の計算処理の結果、相関強度画像においてΔG[pixel]ずれた位置にピークが発生した場合、このΔG[pixel]は、TVカメラなどの検出器の受光面での移動量に相当し、ΔGを試料面上の移動量Δxに変換する。検出する受光面の径をL[m]、受光面上での電子顕微鏡の倍率をM、検出器の画素数をLd[pixel]とすると、2つの画像間の試料面上での移動量Δxは次の〔数8〕で計算される。ただし、〔数8〕には電子レンズの球面収差による像の移動量δが含まれており、視野ずれの真の移動量Δxtは、Δxからδを差し引いたものである。試料面上でのδは、球面収差Csと電子線偏向角αにより〔数9〕のように表される。以上から、2つの試料透過拡大像間に生じた像の移動量Δxtは〔数10〕で表される。
像の移動量Δxtと焦点ずれ量Δfとの間には、次の〔数11〕の関係がある。この関係を用いることにより、像の移動量Δxtから焦点ずれ量Δfを計算することができる。
〔数11〕で計算された焦点ずれ量Δfから対物電流補正値を計算する。電子レンズの焦点距離fと対物レンズ電流Iとの間には、〔数12〕の関係がある。ここにNは電子レンズコイル巻数、E*は相対論補正した加速電圧、Iは対物レンズ電流値である。従って、〔数12〕の関係から求められる対物電流補正値を対物電流値に加算することで、焦点を合わせることができる。
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
〔実施の形態1〕
第1の実施の形態として、図4のフローチャートを参照し、図1に示した透過型電子顕微鏡を用いて、自動的に視野を移動、選択し、その視野が観察あるいは検索に不適切な明るさ(階調)であるか判定し、適切な視野のみを効率的に観察あるいは検索する方法を説明する。
図4のステップ11で、透過型電子顕微鏡を用いて任意の試料透過像を得るために拡大倍率の設定を行う。試料透過像の倍率入力は倍率切り替え用ロータリーエンコーダ53を用いて行う。ロータリーエンコーダ53で発生したパルス波はI/F51でデジタル信号に変換される。マイクロプロセッサ46は、I/F51から入力されたデジタル信号をもとに、ROM58に予め設定されている倍率表示データを参照し、該当する倍率をCRT50に表示させる。同時に、ROM58に予め記憶している第一照射レンズコイル2、第二照射レンズコイル3、対物レンズコイル4、第一中間レンズコイル5、第二中間レンズコイル6、第一投射レンズコイル7、第二投射レンズコイル8の各レンズのデータをDAC35,36,37,38,39,40,41に出力して、レンズ系機構のデータをアナログ信号に変換する。上記DACは励磁電源18,19,20,21,22,23,24にアナログ信号を出力して、各レンズ系機構のレンズコイルに電流を出力させる。
次にステップ12で、自動的に視野を移動させるための条件設定を行う。視野移動速度、検索範囲の設定をキーボード55あるいはマウス56を用いて入力し、マイクロプロセッサで処理し記憶装置に保存する。
ステップ13では視野移動の原点を設定する。視野移動の原点64は、例えば図2に示すように、表示装置(CRT)50に表示された視野の角をマウス等の入力デバイスを用いて決定する。マイクロプロセッサ46で処理され、原点として決定された座標位置は、記憶装置47に保存される。
ステップ14では、ステップ12、ステップ13で設定した視野の移動条件に従って、視野の移動を例えば図2の(1)→(2)→(3)→・・・→(9)のように行う。ただし、観察視野62の移動は、図2に示したような視野(1)から視野(9)へと順に行う方法に限らず、無作為に抽出された視野へ移動するようにしてもよい。視野移動は、試料上部及び試料下部に配置した電子線偏向コイルを用いて電磁的に行う方法、試料ステージ駆動装置を用いて機械的に行う方法、あるいはピエゾ素子のような圧電素子を用いたステージ駆動機構などによって行うことができる。
図5(a)は、電磁的に視野移動を行う方法の概略説明図である。マイクロプロセッサ46の指令のもとに、ステップ12で設定された視野移動の条件に従って試料上部に配置した2個の電子線偏向コイル(試料上部第一偏向コイル9及び試料上部第二偏向コイル10)により、電子線73を試料中心の視野70を通る電子線光軸72から偏向時電子線67のように平行移動させて試料14に照射する。偏向時電子線67は、試料中心から距離d離れた視野71を照射する。試料透過後の電子線は、試料下部に配置した電子線偏向コイル、すなわち試料下部第一偏向コイル11及び試料下部第二偏向コイル12によって電子線光軸72に戻される。その結果、視野移動した後の試料透過拡大像が得られる。
また、図5(b)は、機械的に視野移動を行う方法の概略説明図である。この場合には、マイクロプロセッサ46は、ステップ12で設定された視野移動の条件に従ってモータドライバ30を制御してステージ駆動モータ29によって試料ステージの微動機構13を駆動し、試料微動を行う。圧電素子を用いた視野移動方法は、ステージ駆動モータを圧電素子に置き換えて試料微動を行う。
図4のステップ15では、視野移動を停止させる動作を行う。視野移動を停止させる条件は、ステップ12で設定された視野移動条件と、ステップ11で入力した拡大倍率により定まる1視野あたりのサイズにより決まり、次に観察する視野との間で像の重なりが生じないように移動、停止を行う。
ステップ16では、視野が停止している状態で試料透過像を撮像する。試料14を透過した電子線は、対物レンズ4、第一、第二中間レンズ5,6、第一、第二投射レンズ7,8を経て、シンチレータ16上で試料透過拡大像59として結像する。シンチレータ16に投影された像をTVカメラ17で撮像し、画像取り込みインターフェース34により、記憶装置に拡大像を透過像1として登録する。
ステップ17では、ステップ16で撮像した透過像1が観察に適しているか否かを判定する。透過像1の視野が観察に適する明るさ(階調)か否かの判定は、撮像した視野のラインプロファイルを作成し明るさ(階調)を測定する方法、電子光学的条件を変えて撮影した同一視野の2枚の透過像の相互相関を求め、この一致度(相関関数)により判定する方法、また、条件を変えて撮影した2枚の透過像の位相限定相関を求め、その一致度により判定する方法等によって行うことができる。これらの判定手法に従って視野が観察に適するか否かを判定した結果、不適であると判断されればステップ14に戻る。一方、観察に適していると判断されれば、ステップ18に移る。
図6は、撮像した視野のラインプロファイルによって視野状態を判定する方法の説明図である。図6R>6(A)のように、x,y座標を定め、x方向及び/又はy方向に図示のような測定ライン74を描かせ、ラインプロファイルとしてそれぞれの測定ライン上の輝度の変化を計測する。図6(B)、(C)、(D)は、それぞれx方向に関しての計測結果の例を示している。256階調の白黒画像の場合、この計測により、図6(B)、(D)のように、ラインプロファイルが全画素にわたって階調256あるいは0を示した場合、それぞれメッシュの拡大像か、あるいは無試料の領域を撮像した視野であり、観察不適当な視野である。図6(C)は観察に適する視野のラインプロファイルの例である。図6R>6(A)のように視野62に形態61が存在すれば、電子線が試料を透過する際に形態がコントラストの変化となって現れるので図6(C)のようなラインプロファイルが描かれる。なお、図6(A)には測定ライン74がx方向に1本しか描かれていないが、測定ラインの数は任意であり、全体スキャンでもよい。また、x方向だけでなくy方向にも複数本の測定ラインを描かせ、その測定ライン上のラインプロファイルを調べるのが好ましい。
図7は、位相限定相関法により視野状態を判定する方法を説明するフローチャートである。ステップ15までの一連の動作は図4によって説明した通りである。ステップ16’に進み、シンチレータ16に投影された透過拡大像をTVカメラ17を用いて撮像する。この透過拡大像を透過像1として記憶装置に保存する。次にステップ17’で試料に照射する電子線を偏向角αだけ傾斜させて入射させ、続くステップ18’でシンチレータ16に投影された透過拡大像を透過像2として記憶装置に保存する。
ステップ19’では、透過像1と透過像2を記憶装置から呼び出し、演算装置48によりそれぞれの画像の離散フーリエ変換データを作成し、上記〔数1〕から〔数7〕で説明した位相限定相関法によって透過像1と透過像2の一致度を計算する。
ステップ20’では、ステップ19’で求めた透過像1と透過像2の画像の一致度から、現在の視野がメッシュ上を撮影し視野観察や検索には不適切な視野であるのか、あるいは適切な視野であるのか判定する。透過像1と透過像2の一致度が0であれば、その視野は計測不可能としてステップ14に戻り次の視野を検索する。透過像1と透過像2の一致度が0でも100でもなければ、計測可能な適切領域としてステップ21’(図4のステップ18に対応)に進む。透過像1と透過像2の一致度が100であれば、現在の視野はメッシュ上を撮像したもの(図2(A))かあるいは、試料の破けなどにより視野中に形態が存在しないか(図2(C))のいずれかであると判断され、ステップ14に戻る。理論的には一致度100で2つの画像間が完全に等しいとされるが、実験の結果、一致度100となる2つの画像は図2(A)に示すような真っ黒の画像、あるいは図2(C)に示すような真っ白の画像であることがわかっている。つまり、視野が真っ黒になる画像は、試料保持メッシュ6のメッシュ上を撮像していることを示し、視野が真っ白になる画像は、試料の破れにより視野中に形態が存在しないことを示している。なお、1視野を上記の位相限定相関法に基づき計算、判断させるのに要する時間は、現状の装置でおよそ0.9〜1秒である。
ここで、画素数M×Nの全画素に渡って一様な階調を示す2つの画像間の一致度が0又は100となることを説明する。画像1の関数がf1(m,n)、画像2の関数はf2(m,n)と定義する。画像1及び画像2は全画素に渡り明るさ(階調)が一定である。また、m=0,1,2,…,M−1;n=0,1,2,…,N−1である。以上の条件より、f2(m,n)は〔数13〕となる。従って、〔数1〕、〔数2〕より〔数14〕、〔数15〕が得られる。
位相限定相関を考えると、〔数14〕、〔数15〕は振幅成分A(u,v)を1と定数化してそれぞれF1’(u,v)、F2’(u,v)とすれば、〔数16〕、〔数17〕となる。
〔数16〕に〔数17〕の複素共役を乗じて得られる合成位相画像H(u,v)は、〔数18〕となる。
次に、相関指数(相関強度画像)g(r,s)は〔数18〕を逆フーリエ変換して〔数19〕が得られる。
得られた値MNを規格化すれば、相関指数は100又は0と得られる。
視野状態を判断する方法の例として、相互相関を用いることも可能である。動作フローは位相限定相関法を用いた図7のステップ16’からステップ20’と同一であるが、計算原理が異なる。相互相関を用いた画像一致度の計算手法について以下に説明する。
試料透過拡大像を透過像1として、M×Nの画素数で記憶装置にf1(m,n)として記録する。次に、2個の上部電子線偏向コイル9,10に電流を与えて、試料14に照射する電子線73にある傾斜偏向角αを与えて撮像した透過像1と同一視野の試料透過拡大像を透過像2としてM×Nの画素数で記憶装置にf2(m,n)として記録する。ここで、m=0,1,2,…,M−1;n=0,1,2,…,N−1である。
透過像f1(m,n)、f2(m,n)の離散フーリエ画像F1(u,v)、F2(u,v)はそれぞれ前述の〔数1〕、〔数2〕で定義される。透過像1の離散フーリエ変換像F1(u,v)に透過像2の離散フーリエ変換像F2(u,v)の複素共役を乗ずることによって、次の〔数20〕で表される合成画像H12(u,v)を得ることができる。相関強度画像すなわち相関指数(2画像間の一致度)g12(r,s)は、合成画像H12(u,v)を逆フーリエ変換することによって次の〔数21〕になる。
〔数21〕で求められた相関強度画像を規格化すると、得られた値が0であれば2画像間は全く異なる画像と認識でき、一方、100であれば2画像は全く同一の画像であると認識できる。相互相関を用いた手法においても、一致度が0又は100と得られれば、現在の視野が観察、検索に不適当であると判断してステップ14に戻る。
図4に戻って、ステップ18(図7のステップ21’)では、観察、検索に適していると判断された場合にシンチレータ16上に投影された試料透過拡大像59をTVカメラ17を用いて撮像し、記憶装置47に画像データとして保存し、CRTドライバ49を介して、CRT50に表示させるか、あるいは組成分析などを行う。また、選択された視野の座標を記録装置47に保存する。
最後に図4のステップ19(図7のステップ22’)でステップ12で設定した視野移動条件に基づきフローを終了させるか判断させ、終了させなければ再び次の視野を検索させるためにステップ14に戻る。
以上の動作によって、視野を自動的に移動選択し、選択された視野が観察に適するか否かを判定し、観察に適する視野のみを効率的に観察することが可能となる。
実際の測定例として、試料サイズが直径2mmであるとして、この試料を透過像拡大倍率10000倍で直径100mmに拡大して検索を行うものとする。このとき、1視野当たりの大きさは試料面上で約10μmに相当する。全領域の観察を行うと、40000件の撮像が必要である。しかし、実際に試料は試料保持メッシュに支持されているので、図2に示したようにメッシュを撮影して何も写らない視野や、試料の存在しない視野がある。直径2mmの全検索領域中におけるメッシュの領域は約1/2、また試料が存在する視野は全領域の1/10と見積もることができる。従って、全検索領域において観察に適する視野は、40000件の撮影視野のうちの1/20程度である。本実施の形態によると、観察に適する視野のみを自動的に選択して、撮像件数を1/20にし、結果的に検索に要する時間を1/20程度に短縮することが可能になる。
〔実施の形態2〕
第2の実施の形態として、図8のフローチャートを参照し、自動的に視野を移動、選択し、その視野が観察あるいは検索に適切な視野であるかどうか判定し、適切な視野のみを効率的に観察あるいは検索し、観察に不適切な視野であると判定された場合には電子光学的条件を自動調整する方法を説明する。
図8において、ステップ21の倍率入力、ステップ22の視野移動条件設定、ステップ23の移動原点設定、ステップ24の視野移動、ステップ25の視野移動停止は、図4のステップ11〜15と同様であるので重複する説明を省略する。
ステップ26では、シンチレータ16に投影された試料透過拡大像59をTVカメラ17などを用いて撮像し、既に述べたラインプロファイルによる方法や、位相限定相関法、相互相関法を用いて、現在の視野が観察、計測に適しているか否かを判断する。ステップ26において、現在の視野が観測に適していると判断された場合、ステップ28に進み、試料透過拡大像の計測、観測、分析を行うが、現在の視野が観測に不適であると判断された場合には、ステップ27に移る。
ステップ27では、視野が観測に不適である原因として考えられる項目に関して自動的に調査し、電子光学的条件の調整を行う。ここでは、以下の4項目に関して調査、調整を行う。(1)電子線の調査・調整。(2)照射レンズのレンズ条件の調査・調整。(3)電子線電流の調査・調整。(4)対物可動絞りの穴径、あるいは位置の調査・調整。(1)は、視野全体が黒くなっているような場合に、電子線が放射されていない可能性を調査する。(2)は、試料照射電子線密度が非常に低くなるような照射レンズ条件によって、透過拡大像がTVカメラ感度では検出不可能となる可能性などを調査する。(3)は、エミッション電流あるいはフィラメント電流が不足していないか等を調査する。(4)は、対物可動絞りの穴径が必要以上に小さいものが選択され視野が暗くなり、TVカメラで検出不可能になっている可能性や、可動絞りの穴位置と電子線光軸とがずれている可能性などを調査する。
これら4項目について、予め設定されている値と比較し、設定値を満足していないと判断された場合には各項目毎に設定値を満たすように調整を行う。上記の各項目に従った条件を満足しているにも関わらず、再度撮像し判定した結果、現在の視野が観察には適さないと判断された場合、ステップ24に戻り次の視野検索をする。一方、調整を行った結果、現在の視野が設定値を満足し且つ撮像に適していると判断された場合には、ステップ28に移り、現在の視野の透過像の観察保存、計測、分析を行う。また、選択された視野の座標を記録装置47に保存する。最後にステップ29に移り、ステップ22からステップ23で設定した視野の移動条件から終了するか否か決定し、再度同じフローに基づき計測を行う場合、ステップ24に戻る。
以上の動作によって、自動的に視野を移動選択し、選択された視野が観察に適するか否か判定し、不適切な視野において電子光学条件を調整して再度判定を行うことにより、洩れの無い自動観察が可能となる。本実施の形態によると、電子光学条件の調整不十分による検索洩れを最小限に抑えたり、電子線が放出されていなかったといった人為的ミスを防ぐことができる。
〔実施の形態3〕
第3の実施の形態として、図9のフローチャートを参照し、自動的に視野を移動、選択し、予め検索目的とする形態と同等の任意の検査対象パターンを設定し、その視野が観察あるいは検索に不適切な明るさ(階調)であるか判定し、適切な視野のみを効率的に検索し、不適切であると判定されたら装置の電子光学的条件を自動調整し、視野中に検査対象パターンと等しいパターンを持つ形態を検索し、検索された形態の数を計測し、表示・保存する方法を説明する。
本実施の形態では、例えば、図10(A)に示した三角形をした形態を検索対象パターンとして設定し、自動的に視野移動を行った結果、撮影した視野が図10(B)のように得られたとする。検索対象パターンとして選んだ三角形と同一パターンを持つ形態は自動的に認識され、マーキングされると共に該視野中における検索対象形態の数を出力し、表示する。
図9のステップ31で試料透過像を得るための拡大倍率の設定を行う。試料透過像の倍率を設定し、各レンズコイルにその倍率に対応するレンズ電流を出力する。ステップ32では、検索対象とする形態と同一の形状となるパターン(検索対象パターン)をキーボード55あるいはマウス56などを用いて設定する。検索対象パターンは、例えば辺のなす角度範囲、楕円率、長軸と短軸の長さの比などの条件によって設定することができる。検索対象パターンは予め記憶装置に保存しておいた形状を呼び出して設定してもよい。
ステップ33の視野移動条件設定、ステップ34の視野移動原点設定、ステップ35の視野移動、ステップ36の視野移動停止、ステップ37の試料透過拡大像の撮像は、図4のステップ12〜16と同様であり、重複する説明を省略する。ステップ38では、現在の視野が観察、検索に適しているか否かを判定する。判定は、既に述べたラインプロファイルによる方法や、位相限定相関法、相互相関法で行うことができる。観察に適する視野であると判定されれば、ステップ40に移る。観察に適せずと判定された場合には、ステップ39に移る。
ステップ39では、図8のステップ27と同様にして、視野が観測に適しないと判断された原因を自動的に調査し、電子光学的条件の調整を行う。前述のように、各調査項目に従った条件を満足しているにも関わらず、再度撮像し判定した結果、現在の視野が観察には適さないと判断された場合、ステップ35に戻り次の視野を検索する。一方、調整を行った結果、現在の視野が設定値を満足し且つ撮像に適していると判断された場合には、ステップ40に移る。
ステップ40では、計測、観察に適切だと判断された視野について、ステップ32で設定された検索対象パターンと同一であると判断された形態61を抽出する。次にステップ41に移り、ステップ37で撮影した視野中に存在する抽出された検索対象形態の数をマイクロプロセッサ46により計測し、計測結果を記憶装置47に保存する、またはその視野像を記憶装置に保存する、あるいは検出対象形態の分析、写真撮影を行う。また、選択された視野の座標を記録装置47に保存する。
さらに、検索対象の形態が検出された視野は、検索対象形態が検出されなかった視野と差別化されて表示装置50に表示される。例えば、検索対象形態が存在した視野は赤色で表示され、検索対象形態が存在しなかった視野は灰色で表示される。
図16は表示装置50の表示例を示す模式図である。この例では表示装置50の表示画面80に、動作状態表示部81と現在の観察視野の拡大像を表示する視野表示部82を並べて設けている。動作状態表示部81には、試料保持メッシュ6の模式図83を表示するともに、試料保持メッシュに対する個々の観察視野の位置関係を模式的に表示している。また、動作状態表示部81に配置される視野の表示は、上述のように検索対象形態が存在した視野と検索対象形態が存在しなかった視野とを色分け等によって区別して表示している。
図9に戻り、最後にステップ33及びステップ34で設定した視野の移動条件に従って自動検索動作を繰り返すか、あるいは終了するか判定する(ステップ42)。自動検索動作を繰り返す場合は、ステップ35に戻りこれまでの一連の動作を行う。
以上の動作によって自動的に視野を移動し、選択する電子顕微鏡で、観察に適した視野のみを検索して、視野の明るさが不十分であるような不適切な視野については自動的に電子光学条件を調整し、観察に供せられるようにし、検索対象の形態の自動検索を行うことが可能となる。また、明らかに視野中に試料が発見できないメッシュ上や試料破れの部分での検索は行わない。
本実施の形態によると、前述の実施の形態と同様に、従来、作業員の手で写真撮影後に行われてきた目的形態の検索作業を、撮像と同時に瞬時に行うことが可能となる。また、視野観察に適する視野のみを自動抽出するので、試料の全ての領域を撮像し目的形態を検索する方法に比べて効率がよい。
直径2mmの試料を透過像拡大倍率10000倍で直径100mmに拡大して検索を行うとき、仮に試料保持メッシュ上の全ての視野を撮影し、撮影した写真の中から目的の形態の検索作業を人力で行うとすると、1枚の写真の形態検索に要する時間を1分として全部で40000枚の撮像が必要となるので約670時間を要する計算になる。本実施の形態によると、試料の破れやメッシュ上でないような、試料の観察可能な視野のみを自動抽出して目的の構造形態を検索することができる。観察に適した視野は全領域の1/20程度であり、1つの視野における形態の検索時間は現在の装置でおよそ1秒であるので形態の検索時間は劇的に短縮される。
また、電子光学条件の調整を行うことで、電子光学条件の調整不十分による検索洩れを最小限に抑えたり、電子線が放出されていなかったといった人為的ミスを防ぐことができ、また長時間にわたる自動観察動作によって発生する恐れのある経時的な電子光学条件の変化を抑制して観察条件を安定に保つことができる。さらに目的の形態が存在する視野を色別して明確にし、座標を保存することで、検索動作完了後に再度の観察や分析作業を容易にする。再観察を行う場合には、表示された視野を選択することで、その視野に関連して保存された座標をもとに試料ステージ13を駆動するかあるいは電子線偏向器を用いて目的の視野を移動し、所望の視野の透過拡大像を瞬時に得ることが可能となる。
〔実施の形態4〕
第4の実施の形態として、図11のフローチャートを参照し、自動的に視野を移動、選択し、現在の視野が観察、検索に適するか判断し、且つ自動焦点補正を行い、予め設定した検索目的となる任意形状の形態パターンを自動検索する方法について示す。
図11において、ステップ51の拡大倍率の設定、ステップ52の検索対象パターンの設定、ステップ53の自動的に視野を移動させるための条件設定、ステップ54の視野移動の原点設定し、ステップ55での視野移動、ステップ56の視野移動停止は、図9のステップ31からステップ36と同様であるので重複する説明を省略する。
ステップ57からステップ60において、二つの画像の位相成分のみの離散フーリエ変換による相関を演算する。まず、ステップ57で電子線光軸72に沿って試料に垂直に入射する電子線73による試料透過拡大像59をシンチレータ16に投影し、TVカメラ17などを用いて撮像する。この透過像を透過像1とする。次にステップ58にて、試料上部2個の電子線偏向コイルを用いて試料に入射する電子線を電子線光軸に対して任意の傾斜偏向角を与えて入射し、この傾斜電子線によってもたらされたシンチレータ上の透過像1と同一視野の試料透過拡大像をTVカメラなどを用いて透過像2として撮像する。これら透過像1と透過像2について、ステップ60で位相成分のみの離散フーリエ変換の相関指数(一致度)を求める。計算の原理は〔数1〕から〔数7〕で示した通りである。
ステップ60で計算された相関指数に基づき、ステップ61に移り現在の視野が検索に適する明るさか不適な明るさかを判定する。この判定結果は、相関指数の値によって4つの分岐が与えられる。
(1)相関指数が0である場合、現在の視野は検索、計測することが不可能であるとして、ステップ55に戻り別の視野を検索する。
(2)相関指数が100である場合、現在の視野は試料保持メッシュのメッシュ上を撮影、または試料の破れなどで試料が無い視野など、適切に試料透過拡大像を得ることができないものと判断し、ステップ55に戻り別の視野を検索する。
(3)相関指数が予め設定された基準値値以上であり且つ100でない場合には、現在の視野が計測、検索に適する視野であると判断し、次のステップ62に移る。相関指数の基準値は、試料透過拡大像の自動焦点補正が十分満足に動作するのに必要な閾値として予め設定しておく。相関指数は2つの透過像のずれ量の大きさや透過像の形態と背景とのコントラスト、画像のS/Nなどによって変化する。図11のフローチャートで閾値は、実験的に得た値から5とした。ステップ62では、〔数8〕から〔数12〕に示した方法に従って自動的焦点補正を行う。自動焦点補正の完了後、ステップ63に移る。
(4)相関指数が基準値未満であり且つ0でない場合には、現在の視野は計測、検索には適している視野ではあるが、自動焦点補正の完全動作は保証できないと判断して、ステップ63に移る。ステップ63では、ステップ52で設定された任意形状の検索対象パターンを記憶装置より呼び出し、現在の視野中に所望の形態パターンが存在するかマイクロプロセッサにより検索する。ステップ64では、検索の結果、同一の形態パターンであると判定された形態の個数計測、画像登録、表示、分析等を行う。また、選択された視野の座標を記録装置47に保存する。
さらに検索目的とした形態が検出された視野は、検索対象の形態が検索されなかった視野と差別化されて表示装置に表示される。例えば、検索対象形態が存在した視野は赤色に表示され、検索対象形態が存在しない視野は、灰色に表示される。また、検索対象形態が存在した視野の各々の座標を表示装置に表示させ、同時に記録装置に保存する。最後に、ステップ65において、引き続き自動視野検索を行うか否かを判定し、再度検索を実行する場合にはステップ55に戻り、一連の動作を繰り返す。再度検索を実行しない場合には終了となる。
本実施の形態によると、自動的に視野を移動し目的構造物の検索を行う電子顕微鏡で実施の形態3と同様に観察に適した視野のみを検索することができる。従来の自動検索では観察に適した視野と適しない視野とを分離することはできなかったが、本実施の形態のように観察に適した視野のみについて目的構造物の検索作業を行うことで、大幅な時間短縮が図れる。また、試料の破れや反りなどにより各々の視野においてレンズ焦点距離が変化する恐れがあるが、視野移動時に自動焦点補正が行われるので焦点ずれに伴う像のぼけによるパターンマッチング精度の低下を防ぐことができる。さらに、一度検索を行って、再度目的構造物が存在した視野の観察を行う場合には、保存された座標を選択することで試料ステージ13を駆動するかあるいは電子線偏向器を用いて目的の視野の透過拡大像を瞬時に得ることも可能となる。
〔実施の形態5〕
第5の実施の形態として、図12のフローチャートを参照し、自動的に視野を移動、選択し、任意形状の検索対象パターンと一致する形態を自動的に検索する電子顕微鏡において、自動検索の検索精度を高め信頼性を向上させる方法を示す。
図12において、ステップ71の拡大倍率の設定、ステップ72の検索対象パターンの設定、ステップ73の自動的に視野を移動させるための条件設定、ステップ74の視野移動の原点設定し、ステップ75の視野移動、ステップ76の視野移動を停止は図9のステップ31からステップ36、あるいは図11のステップ51からステップ56と同様であるので重複する説明を省略する。
ステップ77では、選択された視野のシンチレータ16に投影された試料透過拡大像59をTVカメラ17などを用いて撮影する。撮影された透過像は記憶装置に保存される。ステップ78のコントラスト測定では、撮影された像を記憶装置から呼び出し、マイクロプロセッサによって信号強度(明るさ)のラインプロファイルを作成する。試料透過像と対応するラインプロファイルを図13に示す。
図13の試料透過像(左側)で、バックグラウンド65と試料中の形態61の信号強度(明るさ)の比はコントラストCとして表わされる。視野中の形態をよぎるような測定ライン74を引き、この測定ライン上での信号強度分布をグラフ化すると、図13の右側に示したようなラインプロファイルが描かれる(横軸は画素[pixel]、縦軸は信号強度(輝度)[arb.u])。バックグラウンドの信号強度をI0、形態の信号強度をI1とすると、コントラストCは次の〔数22〕で定義される。
図13は実験的にコントラストを変化させた試料透過像の例であり、検索目的の形態は合計34個存在する。透過像に記された数値は検索の結果、検索対象パターンと同一であると判定された形態75を示している。図13(1)はコントラストC=1.1の場合で、形態は全く検出できない。図13(2)はコントラストC=1.2の場合で、形態は34個中25個検出できた。図13(3)はコントラストC=1.6の場合で、形態は34個全て検出できた。このように、試料透過像のコントラストによって検索可能な形態の数が変化する。この検出数を表1にまとめる。
各々のコントラストで、全形態数34個に対する検出数の百分率を検出精度と定義し、グラフ化すると図14のように表わされる。図14からわかるように、コントラストが大きくなるに従って、検出精度が高まることがわかる。コントラストが小さい画像では、背景信号中のノイズ及び統計的変動と形態の信号強度との差が小さく分離不可能なために検索精度が低下する。
そこで、検出精度を高め、計測の信頼性を向上させるためにステップ78からステップ80を行う。図14のような実験結果に基づいたコントラストと検出精度の関係を予めROMに保存しておき、ステップ79で、測定されたコントラストが検出精度を100にならしめるコントラストであるか否かを判定する。図12R>2のフローチャートでは、C>1.4を判定の基準としている。ステップ79において、C>1.4であれば検出精度が100%確保できるとしてステップ81に進む。C≦1.4であれば、検出精度が不十分であるとしてステップ80のコントラスト調整に進む。
ステップ80では、コントラストを高めるための電子光学的条件の調整を行う。透過型電子顕微鏡では、コントラストを高める方法として次の(1)〜(4)の4種類の方法がある。(1)対物可動絞りの穴径を小さくする。(2)適当な不足焦点量を与える。(3)マイクロプロセッサを用いて撮影像の画像処理を行う。(4)加速電圧を低くする。ここでは、(1)と(2)の方法について説明し、(3)、(4)の方法の詳細説明は割愛する。
まず、(1)の方法は、対物可動絞りの穴径を小さくして不要な電子線の散乱を防ぐと、試料の純粋な情報の結像となり、コントラストが高まる原理を利用したものである。マイクロプロセッサ46から駆動機構ドライバ32を介して、対物可動絞り15と接続された可動絞り駆動機構31を動作させ、現在の穴径よりも小さな穴径に変更しコントラストを高める。
(2)の方法は、Fresnel回折の原理を利用したものである。電子顕微鏡像では焦点のずれが存在したときにFresnel回折による縞(Fresnel縞)が発生する。Fresnel縞によって、形態とバックグラウンドとのコントラストが高くなる。適度に不足焦点にした像は電子顕微鏡写真撮影のテクニックとして一般的に用いられている。
ステップ80では上記(1)〜(4)のいずれかの方法によるコントラスト改善処理を行う。例えば倍率に応じた適切な不足焦点量を与えてコントラストを高める。ステップ80でコントラストの調整が行われると、ステップ77に戻り再度コントラストが適正か否かを判定する。
ステップ79でコントラストが適正であると判定された透過像は、予めステップ72で設定した検索対象パターンと一致するパターンの形態が視野中に存在するか検索する。次いで、ステップ82で同一のパターンであると判定された形態の個数計測、画像登録、表示、分析などを行う。また、選択された視野の座標を記録装置47に保存する。最後に、ステップ83で引き続き自動視野検索を行うか否かを判定する。再度検索動作を実行する場合にはステップ75に戻り一連の動作を繰り返す。検索を再度実行しない場合には終了となる。
自動的に視野を移動、選択する電子顕微鏡で、目的の構造パターンが存在する視野を検索するパターンマッチングの検索精度は、図13で説明したように試料透過拡大像のコントラストに依存する。本実施の形態のように、透過像のコントラストを測定し自動調整することによって、目的構造物の検索精度を高めることが可能となる。同一試料中であっても、試料作成時の染色の不均一によって全ての視野でコントラストが一定であるとは限らない。従って、各視野でコントラストを測定し自動的に調整を行うことで検索精度を高めることができる。
〔実施の形態6〕
第6の実施の形態として、図15のフローチャートを参照し、自動的に視野を移動、選択し任意形状の検索対象パターンと一致する形態を自動的に検索する電子顕微鏡において、自動焦点補正及び試料透過像の自動コントラスト調整を行って、高い検出効率で高精度に所望の形態を検索する方法を説明する。本実施の形態の画像演算は、透過像の離散フーリエ変換から位相成分に限定した相互相関を求める演算方法を用いる。図15において、ステップ91からステップ96までの動作は、図9に示したステップ31からステップ36までの動作と同様であるので詳細な説明を省略する。
次に、ステップ97からステップ101において、図11のステップ57からステップ61までと同様の動作を行う。ステップ97で電子線光軸に沿って試料に垂直に入射する電子線による試料透過拡大像を透過像1として撮像、記録する。ステップ98で、試料上部の2個の電子線偏向コイルにより試料に入射する電子線を電子線光軸に対してある傾斜偏向角を与えて入射し、この偏向電子線によってもたらされた透過像1と同一視野の試料透過拡大像を透過像2として撮像、記録する。これら透過像1と透過像2についてステップ100で位相成分のみの離散フーリエ変換の相関指数(一致度)を求める。計算の原理は〔数1〕から〔数7〕で示した通りである。ステップ100の演算結果を用いて、ステップ101で現在の視野が検索に適する視野か適しない視野か判定する。判定結果は相関指数の値に従って3つの分岐が与えられる。
(1)相関指数が0かあるいは所定の閾値を満足しない場合。この場合には、ステップ102に進む。なお、本実施の形態では、実験的に得た閾値として5とする。
(2)相関指数が100である場合。この場合、現在の視野が試料保持メッシュのメッシュ部分を撮像したか、または試料の破れなどによって試料がない視野を撮像したかのいずれかであると判断し、ステップ95に戻り別の視野を検索する。
(3)相関指数が任意に設定した閾値以上で且つ100でない場合にはステップ104に移る。
ステップ102で、視野が不適と判定された原因について自動的に調査、電子光学的条件の調整を行う。実施の形態2で説明した図8のフローチャートのステップ27と同様、(1)電子線放出の調査・調整、(2)照射レンズのレンズ条件の調査・調整、(3)電子線電流調査・調整、(4)対物可動絞り穴径及び穴位置の調査・調整を行う。その後、ステップ103に移り、透過像の撮像及び、離散フーリエ画像の位相成分から求めた画像の一致度をステップ97からステップ100と同様に計算させる。ここで、一致度が0である場合には視野が観察には適しないと判断してステップ95に戻り、一致度が0でない場合には視野が観察可能と判断してステップ104に移る。
ステップ104では、画像演算に伴う位置ずれ量計算の結果から対物レンズ電流の調整あるいは、試料ステージの高さ調整によって自動的に焦点補正を行い、ステップ105で透過像3として、シンチレータ16に投影された試料透過拡大像59をTVカメラ17などを用いて撮像し、記憶装置47に保存する。この透過像3は焦点補正され正焦点の試料透過像である。
図13、図14で説明したように、自動的に形態を検索するには、試料透過拡大像のコントラストが十分確保されないと検索精度が低下する。そこで、ステップ106からステップ108の動作によって、ステップ105で撮影した透過像3が、検索精度を満足するコントラストを有するかどうか測定、判断し、コントラストの自動調整を行う。ステップ106では、透過像3を記憶装置から呼び出し、マイクロプロセッサ46によって信号強度(明るさ)のラインプロファイルを作成する。ラインプロファイルからコントラストを計算する。次に予めROM58に保有する実験結果に基づいて作成された図14のコントラストと検出精度の関係から、検出精度が100になるコントラストであるか否かを判定する。本実施の形態では、コントラストが1.4以上あれば検出精度が100に達することから、判定の閾値を1.4とする。ステップ107でコントラストが1.4以上あれば、ステップ109に移る。一方、1.4に達していなければステップ108に移る。
ステップ108では、図12のステップ80と同様にコントラストの調整を行う。コントラストを高める方法には、(1)対物可動絞りの穴径を小さくする方法、(2)適当な不足焦点を与える方法、(3)マイクロプロセッサを用いて撮影像の画像処理による方法、(4)加速電圧を低くする方法の4種類がある。ここでは、ステップ104にて自動的に焦点補正された正焦点状態に対して、観察倍率に応じた適切な不足焦点量を与えコントラストを高くする方法をとる。ステップ108で、予め観察倍率に応じて設定されROM58に保存された不足焦点データを呼び出し、対物レンズコイル4に与えるレンズデータをDAC37に出力し、レンズ励磁電源20にアナログ信号を与え、レンズ電流を出力させる。ステップ108において適切な不足焦点量を与え、再度ステップ105に戻り、コントラストが高くなった試料透過拡大像を撮像し記憶装置に保存する。
透過像3の背景と形態との信号強度のコントラストが1.4以上の条件を満足していると判定されると、ステップ109に移り、視野中にステップ92で設定した検索対象パターンと一致するパターンの形態が存在するか自動的に検索する。検索対象パターンは記憶装置から呼び出され、マイクロプロセッサによって視野中に同一パターンの形態があるか検索動作を行う。同一パターンであると判断された形態はマーキングが施され、その形態の個数を計測し、画像を記憶装置に登録し、表示装置に透過像が表示される。また、必要に応じて検索対象の形態は、その組成分析が行われる(ステップ110)。また、選択された視野の座標を記録装置47に保存する。
最後にステップ111において、引き続き自動視野検索を行うか否かを判定する。再度検索動作を実行し、次の視野検索を行う場合には、ステップ95に戻りステップ95以下の一連のフローを繰り返す。検索を再度実行しない場合には終了となる。
自動的に視野を移動し選択する電子顕微鏡で、一つの試料に存在する目的構造物を検索するために要する時間は、観察する電子顕微鏡の倍率にも依存するが数時間以上要する。この数時間、無人で検索作業を行うと、例えば電子銃のフィラメントの寿命や異常電流によって透過拡大像の明るさが満足に得られなくなる可能性が考えられる。また、無人化と高速化を図るために、自動検索作業途中で作業員の手を介した調整を行う事は不可能である。
そこで、本実施の形態では、実施の形態1〜5の特徴を全ての取り入れ組み合わせた。従来の自動的に視野を移動し選択する電子顕微鏡では、構造物の明らかに存在しない試料の破れやメッシュ上の視野を撮影し、目的構造物のパターン検索動作を行うが、本実施の形態の電子顕微鏡は構造物が存在し得ないか或いは観察できない視野の構造パターン検索動作は省かれるので、従来の1/20程度の時間で完了することが可能となる。さらに、長時間検索動作を繰り返すことに伴う、電子光学条件の経時変化を自動的に調整することが可能となる。また、自動的な視野検索を行う本電子顕微鏡では、試料の一部分の破れや反りに伴う対物レンズ焦点距離の変化を自動的に補正することができ、試料染色の不均一によるコントラストの変化を自動的に補正することができるので、目的の構造物の検索を高精度に高効率に行える。加えて、目的の構造物が存在した座標や画像を記録装置に記録保存しているので、試料の検索作業が終了した後に再度、試料透過拡大像の観察や写真撮影、分析を行いたい場合には、その目的の試料位置に瞬時に得ることが可能となる。
1:電子銃、2:第一照射レンズコイル、3:第二照射レンズコイル、4:対物レンズコイル、5:第一中間レンズコイル、6:第二中間レンズコイル、7:第一投射レンズコイル、8:第二投射レンズコイル、9:試料上部第一偏向コイル、10:試料上部第二偏向コイル、11:試料下部第一偏向コイル、12:試料下部第二偏向コイル、13:試料ステージ、14:試料、15:対物可動絞り、16:シンチレータ、17:TVカメラ、18,19,20,21,22,23,24:レンズコイル励磁電源、25,26,27,28:電子線偏向コイル励磁電源、29:微動モータ、30:モータドライバ、31:可動絞り駆動機構、32:駆動機構ドライバ、33:TVカメラ制御部、34:画像取込インターフェース、35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45:D/Aコンバータ(DAC)、46:マイクロプロセッサ、47:記憶装置、48:演算装置、49:ディスプレードライバ、50:表示装置、51、52:インタフェース、53,54:ロータリーエンコーダ、55:キーボード、56:マウス、57:RAM、58:ROM、59:試料透過拡大像、60:試料保持メッシュ、61:形態、62:観察視野、63:メッシュ部、64:原点、65:バックグラウンド、66:偏向前電子線、67:偏向時電子線、68:視野移動前試料透過電子線、69:視野移動後試料透過電子線、70:試料中心の視野、71:試料中心から距離d離れた視野、72:電子線光軸、73:電子線、74:測定ライン、75:検出された形態、76:検出されていない形態