JP4081498B2 - 遺体の体液漏出防止剤 - Google Patents

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Description

本発明は、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣などの体腔に装填して封止することにより、遺体からの体液漏出を防止するためのオイルゼリー状の体液漏出防止剤に関する。
一般に、ヒトや動物の死亡後には体腔各部の筋肉が弛緩し、胃液、肺液、腹水、排泄物などの体液が漏出することが多く、悪臭や、病原菌による感染の原因ともなっている。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣等の体腔に多量のガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれており、また、事故や手術後の遺体の開口部にも同様な処置がとられている。しかしながら、体腔へのガーゼ、脱脂綿等の装填作業の多くは、従業者や看護師等の手によって行われることが多く、その作業の煩雑さや不衛生さと同時に、ガーゼ、脱脂綿等は吸水能力が低いため、作業中もしくは作業後にしばしば体液が漏出してしまうという問題や、作業従事中にこの漏出物質による死後感染の可能性もあり、その解決が強く求められていた。
このようなことから、ガーゼ、脱脂綿等に代えて高吸水性樹脂粉末を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られており、例えば、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填する方法や(特許文献1参照)、安定化二酸化塩素を含む吸水性樹脂粉末を、咽喉には粉末のまま、耳孔、鼻孔には水溶性シートに包んで使用する方法(特許文献2参照)などが知られている。ところが、このような高吸水性樹脂粉末を装填しようとしても、流動性が悪いため、狭い体腔、例えば咽喉部、肛門等には装填することが困難である。また、鼻孔や耳孔の入口部分だけであれば、このような微粉末を注射器のような注入器で充填できるが、奥までは充填できない。また、奥まで充填するために注入器を動かしながら充填しようとすると、先端から出る微粉末が飛び散り、かえって遺体周辺を汚すだけである。
このような高吸水性樹脂粉末の充填性や作業性の悪さや、飛散等の問題を解決するために、近年、粉体でなく、ゼリーを用いることが提案されており、例えば、消臭剤入りの粉末ポリマーを適当量の水で溶かし適当に混合してゼリー状にしたものを用いる方法(特許文献3参照)や、ジメチルアクリルアミドを主成分とする両親媒性ゲルを用いる方法(特許文献4参照)、アルコールを主成分とするゼリーの中に高吸水性ポリマー粉体を多数分散させたものを用いる方法(特許文献5参照)が知られている。
このようなゼリー状の体液漏出防止剤を、例えば鼻孔奥の咽喉部に充填する場合の充填方法について図1を参照しながら説明すると、特許文献5に記載のように、ゼリー状の体液漏出防止剤2が収容されている注入器1は、後端部からピストン3が摺動自在に挿入されていると共に、その先端に保護キャップ5を被せた注入口4を備え、フイルムパック(図示せず)で包んでシールした状態にされている。咽喉部B等の体腔に挿入される挿入管6は、一端に注入器1の注入口4に接続される接続部7を有し、他端に鼻孔Aに挿入される開口部8を有する。
次に、このようにして用意された遺体処置装置を使用する方法を説明する。図1において、Aは鼻孔、Bは咽喉部、Cは舌、Dは気管、Eは食道である。使用時には、フイルムパックから注入器1を取り出し、注入器1の注入口4の保護キャップ5を取り外し、挿入管6の接続部7を注入口4に嵌め合わせて挿入管6を接続する。次いで、挿入管6の開口部8を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管6のストッパ部9が鼻先Bに当たった時点で挿入を停止する。そして、注入器1のピストン3を押圧し、注入器1内のゼリー状の体液漏出防止剤2を挿入管6を経由して咽喉部Bに注入する。注入器1内の体液漏出防止剤2を押出し、充填した後は、注入器1と挿入管6を鼻孔Aから取り除く。
前記したようなゼリー状の体液漏出防止剤は、流動性が高く、鼻孔、耳穴等の狭い体腔であっても充填され易く、注入器で圧入しても飛散することがないという利点を有する。特に、高吸水性ポリマー粉体を多数分散させたゼリーの場合、吸水性能が高く、このポリマーが体腔から漏出する体液を吸収し、外部へ漏出することを防止することが可能となる。しかしながら、従来のゼリー状体液漏出防止剤は、水やアルコールにゲル化剤を添加してゼリー状化したものであるため、注入器具で体腔に注入・装填した後の吸液速度が遅く、そのため、死後の体腔各部の筋肉の弛緩により体液が漏出し易いという問題がある。また、体腔への注入・装填直後の吸液能力の点でも充分とは言えず、またゼリー状を長期間に亘って安定して保持する安定性の点でも改善の余地がある。
特開平10−298001号公報(特許請求の範囲) 特開平7−265367号公報(特許請求の範囲) 特開平8−133901号公報(特許請求の範囲) 特開2001−288002号公報(特許請求の範囲) 特許第3586207号公報(特許請求の範囲)
従って、本発明の基本的な目的は、注入器具で遺体の体腔に注入・装填し、体腔内で体液と接触すると、速やかに体液を吸収・膨潤して固まり、体液漏出を効果的に防止できる遺体の体液漏出防止剤を提供することにある。
さらに本発明の目的は、遺体の体腔に作業性良く注入・装填できる適度の流動性及び粘弾性を持ったゼリー状に容易に調製でき、またその状態を安定に保持できる遺体の体液漏出防止剤を提供することにある。
前記目的を達成するために、本発明によれば、ポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶剤(A)と、ポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマー、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマーアルカリ、及び親油性スメクタイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種の分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)とを含有する粘稠液基剤に、高吸水性樹脂粉末(D)(但し、上記(B)成分として用いたポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂以外の高吸水性樹脂粉末)が分散していることを特徴とする遺体の体液漏出防止剤が提供される。
適な態様においては、前記分散安定剤(B)は、ポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂である。
さらに別の好適な態様においては、前記増粘剤(C)は、ウレタン樹脂、ポリビニルエーテル、エチルセルロース及びポリエチレンオキサイドよりなる群から選ばれた少なくとも1種である。
特に好適な態様においては、前記分散安定剤(B)としてのポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂と、ウレタン樹脂、ポリビニルメチルエーテル、エトキシ基を45〜50%含有するエチルセルロース及びポリエチレンオキサイドの少なくとも1種の増粘剤(C)との混合系が用いられる。
また、本発明の体液漏出防止剤は、さらにポリエチレングリコール及びノニオン性界面活性剤よりなる群から選ばれた水と混和すると発熱する液状の補助溶剤(E)及び水に可溶なアルコール系有機溶剤(F)よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することができ、さらに、殺菌剤、防カビ・防腐剤、消臭剤及び香料よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することもできる。
本発明の遺体の体液漏出防止剤は、ポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶剤(A)と、ポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂(以下、ポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂という)、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマー、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマーアルカリ、及び親油性スメクタイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種の分散安定剤(B)及び/又はウレタン樹脂、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、ポリエチレンオキサイド等の増粘剤(C)とを含有する粘稠液基剤に、高吸水性樹脂粉末(D)が分散しているオイルゼリー状物であるため、注入器具で遺体の体腔に注入・装填し、体腔内で体液と接触すると、速やかに体液を吸収・膨潤して流動性の無い固いゼリー状(固形状のゲル)に固化してしまい、それにより体液漏出防止を効果的に行うことができる。
また、本発明の体液漏出防止剤によれば、前記溶剤(A)は、ポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種であるため、遺体の体腔に作業性良く注入・装填できる適度の流動性及び粘弾性を持ったゼリー状に容易に調製でき、また、前記分散安定剤(B)としてのポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂と、前記増粘剤(C)としてのウレタン樹脂、ポリビニルエーテル、エチルセルロース及びポリエチレンオキサイドよりなる群から選ばれた少なくとも1種との混合系であるため、体液と接触したときの上記高吸水性樹脂粉末(D)の均一な分散状態をより確実に維持できる。従って、前記のような溶剤(A)と分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)を組み合わせて含有する粘稠液基剤に高吸水性樹脂粉末(D)が分散している体液漏出防止剤は、遺体の体腔に作業性良く注入・装填できる適度の流動性及び粘弾性を持ったゼリー状の状態を安定に保持できると共に、遺体の体腔に注入・装填した時、全体的に速やかに体液を吸収・膨潤して流動性の無い固いゼリー状に固化し、体液漏出防止をより効果的に行うことができる。
また、本発明の体液漏出防止剤は、さらに補助溶剤として、ポリエチレングリコール及びノニオン性界面活性剤よりなる群から選ばれた水と混和すると発熱する液状の補助溶剤(E)及び水に可溶なアルコール系有機溶剤(F)の少なくとも1種を含有することにより、粘度調整が容易となり、流動性を向上させることができ、咽喉部等の狭い体腔でも、よりスムーズに注入・装填することが可能となる。特に、水と混和すると発熱し、速やかに水に可溶な液状の補助溶剤(E)を含有する場合、体液と接触した時の上記補助溶剤(E)の発熱作用により、上記高吸水性樹脂粉末(D)の吸液速度を高めることができる。さらに、殺菌剤、防カビ・防腐剤、消臭剤及び香料よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することにより、これらの所望の効果も併せて発揮することができる。
本発明者は、前記した従来の問題を解決するために鋭意研究した結果、ポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶剤(A)と、これに溶解した前記特定の分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)とを含有する粘稠液基剤に、高吸水性樹脂粉末(D)を分散させてなるオイルゼリー状の体液漏出防止剤は、遺体の体腔に注入・装填したときに、速やかに体液を吸収・膨潤して流動性の無い固いゼリー状に固化してしまう、ということを見出し、本発明を完成するに至ったものである。何故にこのような効果が得られるかは必ずしも明確とは言えないが、ポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶剤(A)は、洗浄剤用溶剤としても使用されているように、親水性であると共に、油脂類の溶解性にも優れているため、水分だけでなく油脂分も含まれている遺体の体液との親和性に優れるためと考えられる。また、親油性でもあるため、高吸水性樹脂粉末(D)を比較的多量に分散させることが可能であり、またこのような溶剤(A)に前記特定の分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)を溶解した粘稠液基剤に高吸水性樹脂粉末(D)を分散させてなる本発明のオイルゼリー状の体液漏出防止剤は、安定性にも優れている。
以下、本発明の体液漏出防止剤の各成分について説明する。
まず、溶剤(A)としては、エーテル及びエステルのうち、親水性を示す室温(20±5℃)で液状の化合物であれば使用できるが、特にポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種を好適に用いることができる。ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルは、一般式RCOO(CHCHO)CORで表わされるが、アルキル基Rとしては炭素数17以下が好ましく、例えばジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンジメチルエーテルが特に好ましい。また、これらの溶剤の重合度も、室温(20±5℃)で液状となる重合度であればよく、特に限定されるものではない。
但し、これらの溶剤(A)は、室温でさらさらの液状であるため、前記分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)を溶解して組成物の粘性を上昇させる必要がある。分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)を添加しない場合には、得られた体液漏出防止剤を注入器により体腔内に圧入するときに、注入器先端から溶剤が先に出て、固形分が注入器先端部に詰まり易く、注入し難くなる。
上記溶剤(A)の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約30〜85質量%が好ましく、より好ましくは約40〜80質量%、さらに好ましくは約50〜70質量%である。溶剤(A)の含有量が85質量%を越えて多量に配合されると、高吸水性樹脂粉末の分散性には問題ないが、ゼリー状になり難く、溶液に近い状態となるので好ましくない。一方、溶剤(A)の含有量が低すぎると、良好なゼリー状態とすることが困難になるので好ましくない。
本発明に用いる分散安定剤(B)は、高吸水性樹脂粉末の均一な分散状態を保持させるためのものであり、各種電解質水溶液の吸収が可能で、電解質濃度の影響を殆ど受けないポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマー、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマーアルカリ、及び親油性スメクタイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種が用いられる。これらの分散安定剤(B)の中でも、ポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂が好ましく、この樹脂は、各種電解質水溶液の吸収が可能で、電解質濃度の影響を殆ど受けず、酸やアルカリ水溶液の吸収が可能である。但し、分散安定剤としてこの樹脂のみを使用した場合、得られるゼリー状物がやや硬いという傾向があり、注入時の滑り性の点でやや難点があるので、分散安定剤(B)としてのポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂と、ウレタン樹脂、ポリビニルメチルエーテル、エトキシ基を45〜50%含有するエチルセルロース及びポリエチレンオキサイドから選ばれた少なくとも1種の増粘剤(C)との混合系とすることが好ましい。
分散安定剤(B)の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約0.5〜40質量%が好ましく、より好ましくは約1〜30質量%である。分散安定剤(B)の含有量が低すぎると、高吸水性樹脂粉末の均一な分散性を保持し難くなり、一方、40質量%を越えて多量に配合してもそれ以上の効果の改善は見られず、経済性の点から好ましくない。
前記増粘剤(C)は、組成物の粘性を上げ、安定したオイルゼリー状物とするために添加されるものである。増粘剤(C)としては、特定のものに限定されないが、ウレタン樹脂、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ソラガム、及びアルギン酸ナトリウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種の増粘剤を好適に用いることができる。これらの中でも、ウレタン樹脂、ポリビニルエーテル、エチルセルロース、ポリエチレンオキサイドが好ましい。増粘剤の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは約0.2〜7質量%である。
本発明に用いる高吸水性樹脂粉末(D)としては、従来知られている各種高吸水性樹脂の粉末を用いることができ、特定のものに限定されないが、それらの中でも、ポリビニルアクリレート、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩、アクリル酸グラフト共重合体架橋物、ビニルアルコールとポリアクリル酸の共重合物、ポリエチレングリコール系ポリマー、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアクリル酸マレイン酸の共重合物、ポリエチレンオキサイド系ポリマー、及びポリアルギン酸塩系ポリマーよりなる群から選ばれた少なくとも1種を好適に用いることができる。
前記高吸水性樹脂粉末(D)は、平均粒度が約18メッシュ〜160メッシュ(Tyler表示による)の粉体が好ましく、より好ましくは約30メッシュ〜140メッシュである。
また、高吸水性樹脂粉末(D)の含有量は、遺体内の体液を体腔から漏出することなく直ちに吸収・膨脹して流動性のないゲルを作成する必要な量でなければならない。高吸水性樹脂粉末の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約5〜50質量%が好ましく、より好ましくは約15〜35質量%である。
本発明の体液漏出防止剤は、前記した各成分に加えて、必要に応じて、補助溶剤として、水と混和すると発熱する、室温で液状の補助溶剤(E)及び/又は水に可溶なアルコール系有機溶剤(F)を含有することもできる。
本発明に用いる水と混和すると発熱する、室温で液状の補助溶剤(E)としては、ポリエチレングリコール(重合度の平均分子量が600以下)や、ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド1:1型、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド1:2型、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチールエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポリプロピレングリコールにエチレンオキシドを付加したプルロニック型非イオン界面活性剤)、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数12〜14)エーテル(エチレンオキサイドの付加モル数:7〜12モル)等のポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系などの界面活性剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの補助溶剤(E)の中でも、液状のポリエチレングリコール(重合度の平均分子量が約200〜600)が好ましい。
これらの液状の補助溶剤(E)、特に液状のポリエチレングリコール(重合度の平均分子量が約200〜600)は、溶剤の一部として用いることができ、前記した分散安定剤(B)、特にポリアルキレンオキサイド系の熱可塑性ノニオン型吸水性樹脂粉末を、低温(約30℃〜50℃)で容易に溶解することができ、また、水との混和時、後述する試験例2から明らかなように、水に接触すると発熱して水温が上昇し(10℃〜12℃程度上昇)、さらに、水との相性が良く、水と容易に混和、溶解し、前記したように高吸水性樹脂の吸水速度を高め、速やかに流動性の無い固いゼリー状に固化して体液漏出防止をすることができる。
すなわち、一般に高吸水性樹脂粉末(D)の吸水速度は、温度が上昇するほど高くなる傾向があるため、体液と接触した時の上記補助溶剤(E)の発熱作用により、上記高吸水性樹脂粉末(D)の吸液速度を高め、速やかに体液を吸収・膨潤して流動性の無い固いゼリー状に固化することができる。しかしながら、吸液速度が高くなるほど、注入されたゼリー状物の体液と接触する表面部が速やかに流動性の無い固いゼリー状に固化するため、高吸水性樹脂粉末(D)の均一な分散性が崩れてしまい易い。また、得られたゼリー状の体液漏出防止剤を長時間放置すると分離し易くなる。本発明の体液漏出防止剤では、粘稠液基剤にさらに、各種電解質水溶液の吸収が可能で、電解質濃度の影響を殆ど受けない前記した特定の分散安定剤(B)を溶解させ、高吸水性樹脂粉末(D)の均一な分散性を保持しているが、上記の点から、上記補助溶剤(E)の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約50質量%以下が好ましく、より好ましくは約3〜40質量%、さらに好ましくは約5〜20質量%である。
本発明の体液漏出防止剤は、前記した補助溶剤(E)の他に、本発明の効果を損わない量的割合で必要に応じてアニオン性界面活性剤を含有することもできる。
アニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩系、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキル(アルキル基の炭素数11〜15)エーテル硫酸ナトリウム(エチレンオキサイドの付加モル数:3)アルキル(アルキル基の炭素数11、13、15)トリエタノールアミン、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン、高級アルコール硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸系;ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、スルホン酸ラウリル二ナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウリルエタノールアミド二ナトリウム等のスルホサクシネート系;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸系などの界面活性剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルコール系有機溶剤(F)としては、前記補助溶剤又は極性溶剤の水に可溶な溶剤は全て使用でき、特定のものに限定されないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、メチルアルコール、エチルアルコール、及びイソプロピルアルコールよりなる群から選ばれた少なくとも1種のアルコール系有機溶剤を好適に使用することができる。これらのアルコール系有溶剤の中でも、グリセリンが好ましい。グリセリンは、水と容易に混和し、僅かではあるが混和時に水温が少し上昇する(約3℃)。そのため、高吸水性樹脂の吸水速度を大きくし、また、調製した体液漏出防止剤の粘性を上げ、流動性を良くし、低温時、オイルゼリーの凝固を防止するのに寄与できる。
アルコール系有機溶剤の含有量は、体液漏出防止剤全体量の約20質量%以下が好ましく、より好ましくは約1〜10質量%である。
本発明の体液漏出防止剤は、必要に応じて、さらに殺菌剤、防カビ・防腐剤、消臭剤、香料等の他の添加剤の少なくとも1種を含有することができる。
殺菌剤としては、イソプロピルメチルフェノール、グルコン酸クロルヘキシジン、チモール、o−フェニルフェノール、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、トリクロサン、ε−ポリリシン、塩化リゾチーム、ヒノキチオール、グレープフルーツ種子抽出物、カラシ抽出物「ワサオーロ」などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
防カビ・防腐剤としては、パラオキシ安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸イソブチル、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、チアベンダゾール、イソチアゾロンなどが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
消臭剤としては、モウソウチク抽出物、緑茶抽出エキス、長鎖ベタイン化合物、柿抽出液の総称型タンニンを主成分とした消臭剤、数種の植物エキスを混合した植物系特殊消臭剤などが挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、香料としては、フローラル調、シトラス調、フルーティー調、ウディー調、フレッシュノート調、ミックスフレーバー調、グリーン調、ミント調等の各種天然及び人工香料が挙げられる。
前記したような殺菌剤、防カビ・防腐剤、消臭剤及び香料の含有量は、各成分の所望の効果を維持し、安全性及び良好な経済性を得る観点から、粘性・流動性を有する体液漏出防止剤全体に占める割合は、殺菌剤及び防カビ防腐剤はそれぞれ約0.001〜15質量%が好ましく、より好ましくは約0.003〜8質量%である。同様に、消臭剤は約0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは約0.1〜10質量%である。また、香料は約0.001〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜5質量%である。その他、色素を添加含有することも可能であり、その配合量、色調の選択など特に限定されるものではなく、任意に設定できる。
以上のような各成分を含有する本発明の体液漏出防止剤の粘度は、良好な流動性を持つためには、約6,000〜50,000cPsが好ましく、より好ましくは約10,000〜40,000cPsである。
なお、ここでいう粘度は、粘度計(米国ブルックフィールド社製、「デジタル粘度計」型式:DV−1+)を用い、スピンドルNo.07、回転数:20rpm、使用体液漏出防止剤温度:20℃の測定条件で測定した値であるが、これに限定されるものではなく、同様な条件で測定した測定値であればよい。
なお、前記溶剤(A)や補助溶剤(E)の含有量が低くなるほど、従って高吸水性樹脂粉末(D)の含有量が高くなるほど、体液漏出防止剤がゼリー状になる時間は短くなり、また液の粘度は上昇するので、これらの配合量を調節することにより、ゼリー状になる時間や所望の用途(施用部位)に応じた液粘度となるように調節することができる。
本発明の体液漏出防止剤を体腔に注入して充填する量は、施用部位に応じて適宜設定でき、特に限定されるものではない。また、オイルゼリー状の体液漏出防止剤中に含有されている高吸水性樹脂の吸水性能にもよるが、水3,000mlをゲル状に固め、体腔内から体液の漏出を防止する吸水能力がある程度であればよく、一般に5〜60gが好ましく、より好ましくは10〜40gである。例えば、遺体の鼻孔から咽喉部に注入する体液漏出防止剤(高吸水性樹脂5〜50質量%含有)の充填量は約8〜40gが好ましく、より好ましくは10〜25g程度である。オイルゼリー状の体液漏出防止剤の注入量が多すぎると、注入器具が大きくなるので取り扱いが難しく、コストアップになる。一方、注入量が少なすぎると、体液をゲル状に固めることが困難になり、体液が漏出する危険性があるので好ましくない。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の体液漏出防止剤の注入に好適な遺体処置装置の各態様の具体例について説明する。
図2〜図5は、鼻孔から挿入して咽喉部に前記体液漏出防止剤を注入・装填するための処置装置を示しており、図2〜図4はその注入器10を、図5は挿入管40を示しており、符号Xは注入器10内に収容された本発明の体液漏出防止剤を示している。
図2〜図4は注入器10を示しているが、図4は図2に示す状態から中心線のまわりに90°回転した状態の断面図を示している。図2〜図4に示されるように、注入器10は、いずれも高密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等のプラスチックから作製された筒状本体20とピストン30とから構成されている。筒状本体20は、先端に吐出口部として機能する吐出筒部22を有する円筒状部材21と、その外周に被冠されたカバー部材25とからなる。
カバー部材25は、図2から明らかなように断面八角形の筒体であり、病院で看護師が一般の注射器と間違えずに容易に判別できるように構成されていると共に、先端側がやや先細のテーパ状に形成され、円筒状部材21を嵌入したときに容易に脱落しないように構成されている。なお、カバー部材を着色したり、あるいはその色を他の部材の色と異なるように着色してカラフルな注入器とすることにより、施用場所を鮮明に把握できるようにすることも可能である。図4に明瞭に示されているように、カバー部材25は、その後端部に指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した一対の鍔部26を有する。鍔部26の先端部分は、吐出筒部22の方向に湾曲しており、指が容易に引っ掛かり易いようになっている。さらに、円筒状部材21の後端には一対の凸状の係止部23が形成されており、鍔部26がこの係止部23に当接することによって、鍔部26に指を引っ掛けて注入操作をした時に、カバー部材25が円筒状部材21の後端より後方向に移動しないように構成されている。また、吐出筒部22の先端開口部には、注入器10内に本発明の体液漏出防止剤が充填された後に保護キャップ29が取り外し可能に被冠される。なお、本実施態様においては、円筒状部材21とカバー部材25は別体に形成されているが、一体成形してもよい。
一方、ピストン30は、上記筒状本体20の円筒状部材21に、後端部側から摺動自在に挿入されている。ピストン30の長さは、内容物の体液漏出防止剤Xを全て押し出せるように、円筒状部材21の長さよりも長くなるように設計されている。ピストン30は、断面十字形のピストンロッド31を有し、その先端部には該ピストンロッドの断面寸法よりも若干大きな直径の円形フランジ部32が形成されている。該円形フランジ部32から突出して形成されたフランジ部33周囲には、合成樹脂やゴム等から作製されたガスケット34が被冠されている。また、ピストンロッド31の後端には、ピストンロッド31を指で押圧し易いように、指を当てる円板状部35が形成されている。ピストン30は、筒状本体20の円筒状部材21に後端部側から挿入したときに、上記ガスケット34が注入器10の円筒状部材21内周面に接触した状態で円筒状部材21内を摺動するように構成されている。さらに、円筒状部材21の後端部近傍の内周面には僅かに内方に突出したリング状の突条部24が形成されており、この突条部24にピストンロッド31の円形フランジ部32が当たることによって、ピストン30が筒状本体20から容易に抜け出ないように構成されている。なお、本実施態様ではピストンロッド31は断面十字形であるが、断面円形等の棒状であってもよい。
挿入管40は、鼻孔に挿入した際、鼻腔形状に沿って撓む柔軟性を有するポリエステルエラストマー、軟質塩化ビニル樹脂、ゴム等の可撓性の合成樹脂から作製されている。図5に示されるように、挿入管40の先端部41は鼻孔から挿入し易いように略半球状に形成されて閉鎖されており、且つその側面に、位置をずらした2ヶ所に、互いに直行する方向のそれぞれ一対の開孔部42を有すると共に、後端部には、前記注入器10の吐出筒部22に接続するための後側にやや拡開したテーパ状の接続部43を有する。また、挿入管40の後端から所定距離の位置(好ましくは接続部43の先端位置)には、外周を囲繞するように半径方向外側に突出した断面円形のストッパ部44を有している。
上記挿入管40の先端部の開孔部42は、円形、楕円形等の所望の形状をした孔とすることができ、その位置は挿入管先端から約5〜30mmの距離が好ましい。また、開孔部42の数は、本実施態様では4個であるが、1〜6個程度の任意の数でよい。また、上記ストッパ部44は、挿入管本体を鼻孔から通して咽頭部に挿入する際の開孔部42の到達する長さ(注入位置)を決めるが、挿入管40の先端からストッパ部44までの長さは約100〜140mmが好ましく、また、挿入管本体の外径は約3.5〜7mm、内径は約2〜5mmであることが好ましい。
なお、上記実施態様では挿入管40の後端部に接続部43が一体成形されているが、接続部43を別体としてもよい。この場合、接続部は剛性な合成樹脂で形成することが好ましく、この接続部と挿入管本体は接着剤、溶着等の適当な手段により接合する。また、ストッパ部44は接続部の先端に形成してもよく、あるいは挿入管の後端に形成してもよい。さらに、挿入管本体を先端部から所定位置で湾曲させ、鼻孔から咽頭部奥まで挿入する際、抵抗なくスムーズに挿入できるようにすることもできる。この場合、湾曲させる位置は、挿入管本体の先端から約22〜45mm、より好ましくは約20〜30mmの距離の任意の部分が好ましく、また、湾曲角度は0度〜95°が好ましく、より好ましくは30〜70°である。
上記遺体処置装置の使用に際しては、まず、注入器10の吐出筒部22の保護キャップ29を取り外し、挿入管40の接続部43に吐出筒部22を嵌め合わせて挿入管40と注入器10を接続する。次いで、挿入管40を鼻孔A(図1参照)から咽喉部Bに向けて挿入し、挿入管40のストッパ部44が鼻先に当たった時点で挿入を停止する。この際、挿入抵抗を軽減するために、挿入管40に潤滑剤を塗布してもよい。そして、注入器10のピストン30を押圧し、注入器10内のゼリー状の体液漏出防止剤Xを挿入管40を経由して咽喉部Bに注入する。注入器10内の体液漏出防止剤Xを押出し、充填した後は、注入器10と挿入管40を鼻孔Aから抜き出す。
なお、上記操作方法では、挿入管40を注入器10に接続した状態で鼻孔Aに挿入したが、挿入管40を先に鼻孔Aに挿入し、次いで挿入管40に注入器10を接続してもよい。また、注入器10と挿入管40は接続した状態で容器に収納してもよく、その場合には容器から取り出して直ちに処置作業を行うことが可能になる。あるいはまた、前記実施態様では注入器10と挿入管40は別体であるが、これらを一体に作製したものでもよい。さらに、挿入管40に形成されたストッパ部44の代わりに、マークを付与したものでも、挿入位置のばらつきをある程度防止できる。
次に、肛門及び/又は膣に前記体液漏出防止剤を注入・装填するための処置装置の好適な実施態様について、図6〜図8を参照しながら説明する。
図6〜図8は注入器10aを示しているが、図8は図6に示す状態から中心線のまわりに90°回転した状態の断面図を示している。図6〜図8に示されるように、この実施態様においても、前記実施態様と同様に、注入器10aは、いずれも高密度ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等のプラスチックから作製された筒状本体20aとピストン30とから構成されている。但し、前記した実施態様と異なり、注入器10a内には、ゼリー状の体液漏出防止剤Xと共に、繊維状充填材(栓部材)Yが収容されている。この繊維状充填材Yは、肛門や膣の体腔内でゼリー状の体液漏出防止剤Xが固形状のゲルになった後、体腔各部の筋肉が死後弛緩して固形状ゲルとの間に隙間が生じても、確実に体液漏出の防止を図るためのものであるが、収容物はゼリー状の体液漏出防止剤Xのみとすることもできる。一つの装置に収容される体液漏出防止剤X(高吸水性樹脂5〜50質量%含有)の量は約1〜10g、より好ましくは約1〜5g、繊維状充填材Yの長さは約10〜30mm、直径は約8〜23mmの範囲内に設定することが好ましい。
筒状本体20aは、先端に吐出口部22aを有する円筒状部材21aと、その外周に被冠されたカバー部材25aとからなる。円筒状部材21a先端の吐出口部22aは、半径方向中心へ向けて外側に湾曲して延在する複数の舌片28により略半球状に形成されていると共に、該複数の舌片28の先端部の開口と舌片間のスリットから開口部が形成されている。各舌片28は、外側に曲げることができるような柔軟性を有する。なお、死後、硬直するまでに肛門や膣に外径の大きな筒状注入器(シリンジ)を挿入すると、肛門管や膣口が大きく開き、収縮するまでに時間を要するので体液の漏出の原因になる。また、円筒状部材21aの外径は細いほど挿入し易く、使用が簡便である。従って、円筒状部材21aの外径は約10〜25mm、より好ましくは約10〜15mm、内径は約8〜23mmの範囲内に設定することが好ましい。
カバー部材25aは、図6から明らかなように断面八角形の筒体であり、病院で看護師が一般の注射器と容易に判別できるように構成されている。なお、カバー部材を着色したり、あるいはその色を他の部材の色と異なるように着色してカラフルな注入器とすることにより、施用場所を鮮明に把握できるようにすることも可能である。図8に明瞭に示されているように、上記円筒状部材21aの後端部には指を引っ掛けるための半径方向外側に突出した一対の鍔部26が設けられており、一方、カバー部材25aは、その先端部に後方に拡開する笠状のストッパ部27を有する。円筒状部材21aの先端からストッパ部27までの距離は約15〜50mmの範囲内に設定することが好ましく、ストッパ部27の円筒状部材21aの外周面からの高さは、容易に肛門や膣口で止まるように約5〜30mmの範囲内に設定することが好ましい。なお、ストッパ部27は、必ずしも本実施態様のように笠状にする必要はなく、注入器10を肛門や膣へ所定長さだけ挿入した位置でそれ以上の挿入を行わないことを確保できる部材もしくはマークであればよく、例えば円板状であってもよく、あるいは視覚的に容易に確認できるマークでもよい。また、鍔部26の先端部分は、吐出口部22aの方向に湾曲しており、指が容易に引っ掛かり易いようになっている。鍔部26の円筒状部材21aの外周面からの高さは約5〜18mm、先端部の湾曲の程度は0〜50°の範囲内に設定することが好ましい。なお、このようなカバー部材を用いる場合、前記した鍔部とストッパ部はカバー部材の所定位置に設ければよく、好ましくは本実施態様のように、ストッパ部はカバー部材の先端部又はカバー部材が円筒状部材と同じような長さの場合には略中間部に、鍔部は円筒状部材の後端部に設けることが望ましい。
さらに、円筒状部材21aの後端には、前記一対の鍔部26に連続し、側方に突出した一対の凸状の係止部23aが形成されており、カバー部材25aがこの係止部23a及び鍔部26に当接することによって、鍔部26に指を引っ掛けて注入操作をした時に、カバー部材25aが円筒状部材21aの後端より後方向に移動しないように構成されている。また、円筒状部材21aの先端部には、注入器10内に本発明の体液漏出防止剤が充填された後に保護キャップ29aが取り外し可能に被冠される。なお、本実施態様においても、円筒状部材21aとカバー部材25aは別体に形成されているが、一体成形してもよい。
一方、ピストン30の構造は前記した実施態様と同様であり、上記筒状本体20aの円筒状部材21aに、後端部側から摺動自在に挿入されている。ピストン30の長さは、内容物の体液漏出防止剤X及び繊維状充填材Yを全て押し出せるように、円筒状部材21aの長さよりも長くなるように設計されている。ピストン30は、断面十字形のピストンロッド31を有し、その先端部には該ピストンロッドの断面寸法よりも若干大きな直径の円形フランジ部32が形成されている。該円形フランジ部32から突出して形成されたフランジ部33周囲には、合成樹脂やゴム等から作製されたガスケット34が被冠されている。また、ピストンロッド31の後端には、ピストンロッド31を指で押圧し易いように、指を当てる円板状部35が形成されている。
ピストン30は、筒状本体20の円筒状部材21aに後端部側から挿入したときに、上記ガスケット34が注入器10の円筒状部材21a内周面に接触した状態で円筒状部材21a内を摺動するように構成されている。さらに、円筒状部材21aの後端部近傍の内周面には僅かに内方に突出したリング状の突条部24が形成されており、この突条部24にピストンロッド31の円形フランジ部32が当たることによって、ピストン30が筒状本体20から容易に抜け出ないように構成されている。なお、本実施態様でもピストンロッド31は断面十字形であるが、断面円形等の棒状であってもよい。
上記肛門及び/又は膣に前記体液漏出防止剤X及び繊維状充填材Yを注入・装填するための処置装置の使用に際しては、まず、注入器10aの吐出口部22aの保護キャップ29aを取り外さずに、そのまま例えば肛門や膣に挿入し、ストッパ部27が肛門や膣の外部に当たった時点で挿入を停止する。この際、挿入抵抗を軽減するために、保護キャップ29aに潤滑剤を塗布してもよい。そして、注入器10aのピストン30を押圧し、注入器10a内のゼリー状の体液漏出防止剤X及び繊維状充填材Yを保護キャップ29aと共に注入する。そのとき、体液及び汚物中の液を吸収した体液漏出防止剤X中の高吸水性樹脂粉末は膨脹すると共に、その一部は繊維状充填材Yに浸透して、固形状のゲルになるので、効果的に体液及び汚物の漏出を防止することができる。その後、注入器10aを肛門や膣から抜き出す。
上記繊維状充填材Yは、高吸水性樹脂繊維の不織物、圧縮パルプ紙、綿、綿と高吸水性樹脂繊維混紡、高吸水性樹脂繊維等の成形物、合成繊維の不織布、布などで形成できるが、特に水膨潤性繊維、例えばアクリル繊維の内層と吸水性樹脂からなる外層とで構成された東洋紡績株式会社製のランシール(登録商標)F又はランシール(登録商標)Kを円柱状に成形したもの、又はパルプを円柱形状に圧縮成形したもの(例:女性用タンポンタイプ)を用いることが好ましい。
前記したような鼻孔から挿入して咽喉部に体液漏出防止剤を注入・装填するための処置装置、及び肛門及び/又は膣に体液漏出防止剤を注入・装填するための処置装置は、耳孔及び/又は鼻孔から体液の漏出を防ぐための繊維製封止材、あるいはさらに口中装填用の繊維製封止材と共に、一つの容器内に収納して、遺体処置装置ユニットとして構成することが好ましく、それによって携帯に便利となり、迅速に遺体の処置を行うことができる。
耳孔及び鼻孔から体液の漏出を防ぐための繊維製封止材としては、綿、高吸水性樹脂繊維、綿と高吸水性樹脂繊維の混紡及び不織物からなり、球状、柱状、立方体等の所望の形状に成形したものを好適に用いることができる。耳栓用2個及び鼻栓用2個の封止材を備えていることが好ましい。
また、口中装填用の繊維製封止材は、頬内に入れ、体液の漏出防止及び頬の膨らみを自然の膨らみに近い方で形成することを目的とするものであり、前記したような綿、綿と高吸水性樹脂繊維混紡、高吸水性樹脂繊維等の布もしくは不織物、又は綿と高吸水性樹脂繊維の不織物の単品部材や、これらの単品部材を任意の層構成でサンドイッチ状に積層した部材からなる封止材を好適に用いることができる。
以上、本発明の体液漏出防止剤の注入に好適な遺体処置装置の各態様を添付図面を参照しながら説明したが、本発明のオイルゼリー状の体液漏出防止剤は、従来公知の注入器により遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣などの体腔に注入・装填して液封止することもでき、前記した各態様に限定されるものでないことは言うまでもない。
以下に本発明の体液漏出防止剤の効果を具体的に確認した実施例及び試験例を示すが、本発明が以下の実施例に限定されるものでないことは勿論である。
実施例1〜5及び比較例1
表1に示す処方及び配合割合で、高吸水性樹脂粉末を均一に分散させたオイルゼリー状の体液漏出防止剤を調製した(実施例1〜5)。また、比較のために、アルコール系溶剤であるエチレングリコールにゲル化剤としてのアクリル酸重合体(カルボキシビニルポリマーアルカリ)を溶解した液に、高吸水性樹脂粉末を均一に分散させて体液漏出防止剤を調製した(比較例1)。
このように調製した体液漏出防止剤の吸水速度を、以下のような試験方法により比較した。
試験例1(供試サンプルの吸水速度試験)
試験方法:
100mlのビーカーに供試サンプル1gを秤量して入れ、次にイオン交換水(20℃)80mlを穏やかに注入し、全てのイオン交換水がゼリー状になるまでの時間を測定した。
試験結果を表1に併せて示す。
Figure 0004081498
上記表1に示す結果から明らかなように、アルコール系の基剤を用いた比較例1の場合、体液漏出防止剤の調製にも長時間を要し、作業性が悪いことがわかる。これに対して、本発明の実施例1〜5では、高吸水剤樹脂粉末の添加量を多くしても長時間放置したときの分散安定性に優れ、また、比較例1に比べて僅かに高吸水剤樹脂粉末の添加量を多くしたにも拘らず、イオン交換水全体をゼリー状にするまでの時間を大幅に短縮することができた。このことから、本発明の体液漏出防止剤は、速やかに流動性の無い固いゼリー状に固化して体液漏出防止を図る体液漏出防止剤として最適であることがわかる。
なお、前記各実施例で用いたポリオキシエチレンジメチルエーテル(サンファインDM−200)は粘度がなく、さらさらの液状のため、水と容易に混合し、高吸水性樹脂粉末が水を吸水し易くするものと思われる。但し、注入器により圧入するときに溶剤が先に出て、注入し難くなり易い傾向があるので、組成物に粘性を持たせるために、実施例2、3のようにPEG−200、サンノニックSS−120を添加したり、実施例4、5のようにエチルセルロースなどの増粘剤を添加することが好ましい。
サンノニックSS−120(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)はエチルセルロース(約49%エトキシ基)を溶解して、増粘する。エチルセルロースはエトキシ基の置換度が増すと無極性の溶媒に溶け、極性の溶媒には溶け難くなる。通常、エトキシ基が43〜50%置換しているものが無極性の溶媒に溶ける。上記実施例4のように、エチルセルロースを1%添加すると、吸水速度は早く、安定性も良好であり、長時間放置しても分離もない理想的なオイルゼリー状の体液漏出防止剤を調製できる。但し、エチルセルロースを多量に添加すると、吸水速度が悪くなる傾向があるので、前記各実施例のような処方の場合、エチルセルロースの添加量は0.2〜5%が好ましく、特に0.5〜1.5%が望ましい。なお、エチルセルロースをサンノニックSS−120に溶解させて増粘した溶液の場合、極性を有する溶剤を添加すると分離してゼリー状に成り難いので、このような組合せの場合には極性溶剤の添加は避けた方が好ましい。また、実施例5のように、エチルセルロースをサンノニックSS−120に溶解させ増粘した溶液にノニオン界面活性剤を添加すると、吸水速度は少し遅くなるが、ゼリー状物の滑りが良くなり、体腔への注入・充填がスムーズになる。
実施例6〜10
表2に示す処方及び配合割合で、高吸水性樹脂粉末を均一に分散させたオイルゼリー状の体液漏出防止剤を調製した。
このように調製した体液漏出防止剤の吸水速度を、前記試験例1と同様にして試験した。試験結果を表2に併せて示す。
Figure 0004081498
前記実施例6〜10において、増粘剤として添加したビスコスター50K(粉末)は、エーテル系溶剤(サンファインDM−200)に溶解して増粘し、粘稠な液となる。また、ビスコスター50K(粉末)は水にも容易に溶解し、粘稠な液となる。従って、ビスコスター50K(粉末)はエーテル系溶剤の増粘剤としては大変優れた原料である。但し、オイルゼリー状物の処方に多量に添加すると、凝集状態になり易い傾向があり、注入器での注入が難しくなり易いので、前記実施例のような処方の場合、ビスコスター50K(粉末)の添加量は0.1〜6%が好ましく、特に0.1〜2%が望ましい。また、実施例8、9のように熱加塑性ノニオン型吸水性樹脂の添加量を増すと、オイルゼリー状物の粘性は良くなり、注入器への充填性も良くなる。但し、熱加塑性ノニオン型吸水性樹脂を多量に添加すると、オイルゼリー状物の粘性は増大するが、吸水速度は少しずつ悪くなる傾向があるので、多量に添加することは好ましくない。また、実施例9のように、PEG−200を少量添加すると、オイルゼリー状物が柔らかくなり、充填がスムーズになる。しかし、粘稠液になるために吸水速度が悪くなる傾向があるので、多量に添加することは好ましくない。同様に、実施例10のように、ノニオン界面活性剤(サンノニックSS−120)を添加すると吸水速度が悪くなる傾向があるので、多量に添加することは好ましくない。
実施例11〜17
表3に示す処方及び配合割合で、高吸水性樹脂粉末を均一に分散させたオイルゼリー状の体液漏出防止剤を調製した。得られたオイルゼリー状の体液漏出防止剤は、吸水速度に優れていた。
Figure 0004081498
試験例2(供試原料の発熱温度測定試験)
試験方法:
30mlのビーカーに表4に示す各原料10gを秤量して入れ、次にイオン交換水8gを注入したときの混合液の発熱温度を、以下の条件で測定した。
測定器:安立計器(株)製DATA COLLECTORの液体用温度センサー。
測定時の室温:22.3℃。
試験結果を表4に併せて示す。
Figure 0004081498
上記表4に示すように、液状のPEG200の場合、水と混和すると直ちに発熱し、速やかに水に可溶となり、またその温度レベルをある程度の時間維持できた。これに対して、アルコール系溶剤である無水グリセリン、エチレングリコール、エチルアルコールの場合、水と混和した後に僅かに発熱するが、その温度レベルがかなり低く、またその温度レベルも維持できない。このことから、液状のPEG200は、高吸水性樹脂の吸液速度を高めるのに好適であることがわかる。
従来の遺体処置装置の使用状態を示す概略断面図である。 本発明の体液漏出防止剤の注入に好適な遺体処置装置の一実施態様を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。 図2に示す遺体処置装置の中心軸線に沿った縦断面図である。 図2に示す遺体処置装置の中心軸線に沿った横断面図である。 本発明の体液漏出防止剤の注入に好適な遺体処置装置の挿入管を示す縦断面図である。 本発明の体液漏出防止剤の注入に好適な遺体処置装置の他の実施態様を示し、(A)は正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。 図6に示す遺体処置装置の中心軸線に沿った縦断面図である。 図6に示す遺体処置装置の中心軸線に沿った横断面図である。
符号の説明
1,10,10a 注入器
20,20a 筒状本体
21,21a 円筒状部材
22,22a 吐出口部(吐出筒部)
23 係止部
24 突条部
25,25a カバー部材
26 鍔部
27,44 ストッパ部
28 舌片
29,29a 保護キャップ
30 ピストン
31 ピストンロッド
32 円形フランジ部
33 フランジ部
34 ガスケット
35 円板状部
40 挿入管
42 開孔部
43 接続部
X 体液漏出防止剤
Y 繊維状充填材
A 鼻孔
B 咽喉部
C 舌
D 気管
E 食道

Claims (4)

  1. ポリオキシエチレンジメチルエーテル及びポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶剤(A)と、ポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマー、アクリル酸の重合体のカルボキシビニルポリマーアルカリ、及び親油性スメクタイトよりなる群から選ばれた少なくとも1種の分散安定剤(B)及び/又は増粘剤(C)とを含有する粘稠液基剤に、高吸水性樹脂粉末(D)(但し、上記(B)成分として用いたポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂以外の高吸水性樹脂粉末)が分散していることを特徴とする遺体の体液漏出防止剤。
  2. 前記分散安定剤(B)が、ポリアルキレンオキサイド基を有するノニオン性の熱可塑性かつ吸水性樹脂であることを特徴とする請求項に記載の体液漏出防止剤。
  3. 前記増粘剤(C)が、ウレタン樹脂、ポリビニルエーテル、エチルセルロース及びポリエチレンオキサイドよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の体液漏出防止剤。
  4. さらにポリエチレングリコール及びノニオン性界面活性剤よりなる群から選ばれた水と混和すると発熱する液状の補助溶剤(E)及び水に可溶なアルコール系有機溶剤(F)よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の体液漏出防止剤。
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