JP4073224B2 - 回転物保持体の心出し装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、チャックやコレット等の回転物保持体において、保持した回転物の中心軸を所定の位置と方向に調整して心出しを行う回転物保持体の心出し装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の回転物保持体の心出し装置としては、特開平6−47607号公報に記載された技術が知られている。図11〜図13は、この公報に開示された装置を示し、図11は回転物保持体の心出し装置の斜視図、図12、図13はそれぞれ図11のL−L線断面図、M−M線断面図である。
【0003】
回転物保持体の心出し装置101は、基板102と、板部材103及び104と、作動体105及び106(不図示)から構成されている。さらに、心出し装置101には、ホルダー107と、ベース108と、6個のスペーサ109からなる回転物保持体の傾きを調節する手段が設けられている。基板102と板部材103の間には、図13に示すように、クロスローラガイド110及び111が介在され、これにより板部材103は基板102に対して、心出しすべき回転物保持体の軸線と直交する方向である矢印X方向にスライド可能となっている。
【0004】
基板102には、心出しすべき回転物保持体の軸線と直交し且つ矢印X方向にも直交する方向である矢印Y方向に延びる凹部112及びこの凹部112に連通するメネジ孔113が形成されている。板部材103には、図12に示すように、凹部112の対向部に矢印Y方向と3°の角度を有して伸びる溝部114が形成されている。
【0005】
作動体105は、凹部112及び溝部114に係合し矢印Y方向にネジ送りされるように基板102と板部材103の間に介在されている。この作動体105は、凹部112に嵌合し矢印Y方向にスライド可能な基部115と、溝部114に嵌合し矢印Y方向に対し3°の角度の方向にスライド可能な凸部116からなり、基部115にはメネジ孔113に螺合するネジ送り部材117が挿通係止する図示しない通孔が形成されている。
【0006】
従って、ネジ送り部材117を操作して作動体105を矢印Yの方向にネジ送りすると、その送りの量とtan3°との積だけ、基板102と板部材103が矢印X方向に相対的にスライドする。ネジ送り部材117のピッチが0.5mmの場合に、殆どの作業者が手動で確実に回転できる最小の角度を5°とすると、基板102に対して板部材103を矢印X方向に、以下に示す最小距離を単位としてスライドさせることができる。
0.5mm×(5°÷360°)×tan3°≒0.36μm
【0007】
なお、基板102と板部材103の間にはクランプ手段が介在され、ネジ送り部材117の操作によって板部材103の基板102に対する矢印X方向の位置が得られると、すなわち矢印X方向の心出しが得られると、クランプ手段によりその位置を保持する。クランプ手段は、板部材103にネジ止め固定されるブロック119と、基板102に形成され、ブロック119を収納する凹部120と、基板102に形成したメネジ孔121に螺合し、ブロック119に当接してブロック119の位置を規制するオネジ棒122から主に構成されている。
【0008】
板部材103と板部材104の間には、クロスローラガイド123及び124が介在され、板部材104は板部材103に対して、心出しすべき回転物保持体の軸線と直交し且つ矢印X方向とも直交する方向である矢印Y方向にスライド可能となっている。板部材103と板部材104とのスライド機構及びクランプ機構は、基板102と板部材103とのそれと同様であるため説明は省略する。
【0009】
一方、回転物保持体の傾きを調節する手段において、チャックやコレット等回転物保持体を保持するホルダー107は、ドーナツ板の外周に軸方向に伸びるフランジ部135が形成されたベース108と共に、板部材104にビス止め固定されている。ベース108の板部材104側の面は平らな面になっており、板部材104側と逆の面(ホルダー107と対向する面)は、軸線を中心として凹面136に形成されている。
【0010】
互いに対向するホルダー107とベース108の間には、6個のスペーサ109が介在されている。スペーサ109は、同一円周上の定位置に配置したときに、ベース108と対向する面が、ベース108の凹面136と対応する凸面137となるように形成されている。ホルダー107とスペーサ109の対向する面は、共に平らに形成されている。スペーサ109は、以下のようにして、それぞれ互に独立して半径方向へのネジ送りが可能となっている。
【0011】
すなわち、各スペーサ109には、軸線に対し半径方向に進むメネジ部138が形成されると共に、ベース108のフランジ部135に形成した孔139を挿通した送りネジ140がメネジ部138に螺合されている。従って、送りネジ140を回転操作すると、スペーサ109はベース108の半径方向にネジ送りされて、スペーサ109がベース108の凹部に沿って移動し、ベース108とホルダー107との距離が変化する。よって、スペーサ109が介在されている6箇所でベース108とホルダー107との距離が調節でき、結果的にベース108に対するホルダー107の傾きを調節することができる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の回転物保持体の心出し装置では、基板102と板部材103との間及び板部材103と板部材104との間で、ネジ送り部材117の軸に対してわずかな角度だけ傾けた凸部116により、ネジ送り部材の軸に直交する方向に微小な相対変位を生じさせ、その後、クランプ手段によって固定しているが、凸部とこれに嵌合する溝部とのクリアランスや弾性変形により、上記分解能(0.36μm)を上回るずれが発生し、一度で正確な心出し調整をすることはほとんど不可能である。
【0013】
また、基板102と板部材103との間及び板部材103と板部材104との間にそれぞれ2個ずつ計4個のクロスローラガイドを設けているため、心出し装置が大きくかつ重くなり、回転物保持体の回転による遠心力等の慣性力の影響を受けやすくなる。
【0014】
さらに、回転物保持体の傾きを調節する場合においても、複数のスペーサの位置関係によって傾きを調整するが、正確に望ましい角度だけ傾けるのが困難である上、クランプにより発生する上述した不具合もある。
【0015】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みなされたもので、迅速かつ正確な心出し調整を行うことができるとともに、回転に伴う遠心力等の慣性力の影響を受けにくい回転物保持体の心出し装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明の回転物保持体の心出し装置は、基板と、基板に対して、心出しすべき回転物保持体の軸と平行な第一の軸の回りに回動可能に保持された第一の板部材と、第一の板部材に対して、心出しすべき回転物保持体の軸と平行で、かつ心出しすべき回転物保持体の軸から見て前記第一の軸のある方向とほぼ直角をなす方向に位置する第二の軸の回りに回動可能に保持された第二の板部材と、前記第一の板部材を第一の軸を中心として基板に対して回動させるように、前記基板に取り付けた第一の固定アームとの対向位置に、前記第一の板部材に取り付けた第一の可動アームを配置し、前記第一の固定アームに取り付けたオネジと第一の可動アームに取り付けたオネジとに螺合するメネジを備えた第一の駆動手段と、前記第二の板部材を第二の軸を中心として第一の板部材に対して回動させるように、前記第一の板部材に取り付けた第二の固定アームとの対向位置に、前記第二の板部材に取り付けた第二の可動アームを配置し、前記第二の固定アームに取り付けたオネジと第二の可動アームに取り付けたオネジとに螺合するメネジを備えた第二の駆動手段と、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項1の発明では、自由度が干渉することなく、一方向に調整する際に、直交方向のズレが生じにくく、薄型で軽量とすることができる。
【0018】
請求項2の発明は、請求項1記載の回転物保持体の心出し装置であって、前記基板、第一の板部材、第二の板部材がいずれも磁性体によって形成されていると共に、このうち少なくとも一つに磁石が配設されていることを特徴とする。
【0019】
請求項2の発明では、従来のようなクランプ手段が不要となり、クランプ手段によるズレがなくなる。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の回転物保持体の心出し装置であって、前記基板と第一の板部材との間及び第一の板部材と第二の板部材との間がそれぞれ弾性体により保持されていることを特徴とする。
【0021】
請求項3の発明では、第一の板部材と第二の板部材との間にクリアランスがないため、自由度の干渉を確実に回避することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示する実施の形態により、具体的に説明する。なお、各実施の形態において、同一の部材には同一の符号を付して対応させてある。
【0023】
(実施の形態1)
図1〜図5は本発明の実施の形態1を示し、図1及び図2は、心出し装置全体の平面図及び側面図である。
【0024】
基板1は円盤形状の磁性体からなり、回転軸(図示省略)の軸端に垂直となるように同軸的に取り付けられる。基板1には第一の板部材2が対向している。第一の板部材2は円盤形状の磁性体からなり、基板1と同軸となるように重ね合わせられており、外周に近い1箇所に第一の軸としてのピン3が貫通しており、このピン3が基板1に圧入されることにより、第一の板部材2が基板1に対して回動可能に取り付けられている。
【0025】
第一の板部材2における基板1との反対側には、第二の板部材4が同軸となるように重ね合わせられている。第二の板部材4は円盤形状の磁性体からなり、
外周に近い1箇所に第二の軸としてのピン5が貫通しており、このピン5が第一の板部材2に圧入されることにより、第二の板部材4が第1の板部材2に対して回動可能に取り付けられている。なお、ピン3及びピン5は上述した回転軸(図示省略)に関して直角をなす位置に配置される。
【0026】
第一の板部材2の表裏には、多数の浅い凹部2aが形成され、その内部に円盤形状の小型で強力な複数の磁石6が落とし込まれてそれぞれ凹部2aの底面に吸着する。凹部2aの深さは磁石6の厚さを0.05〜0.5mmの範囲で上回るように形成されている。磁石6はその数と配置を後述の作用に合わせて適当に選択して配設される。
【0027】
図示を省略した回転軸を中心としたピン3と反対の位置には、第一の固定アーム7が基板1の外周から突き出すようにビス等によって取り付けられている。第一の固定アーム7の先端には、ピン9が圧入され、圧入されたピン9を介してオネジ8が回動可能に取り付けられている。この第一の固定アーム7には、第一の可動アーム10が対向するように配置される。
【0028】
第一の可動アーム10は、第一の固定アーム7との対向位置に、第一の板部材2の外周から突き出すようにビス等によって取り付けられている。第一の可動アーム10の先端には、ピン12が圧入され、圧入されたピン12を介してオネジ11が回動可能に取り付けられている。
【0029】
第一の固定アーム7と第一の可動アーム10は、オネジ8とオネジ11の中心軸が正確に平行で基板1と第一の板部材2との接触面に近く位置するように配置されている。また、オネジ8とオネジ11は、ネジ切り方向が同一でそのピッチがわずかに異なるようになっている。
【0030】
オネジ8には、オネジ8と等しいピッチのメネジ13,14が互いに接近する方向にねじ込まれている。これらのメネジ13,14は、軽く押し合うようにバックラッシュがなくなる位置で2〜4ケのビス15によりノブ16に軸方向に挟み付けられている。
【0031】
オネジ11には、オネジ11と等しいピッチのメネジ17,18が互いに接近する方向にねじ込まれている。これらのメネジ17,18は、軽く押し合うようにバックラッシュがなくなる位置で2〜4ケのビス19によりノブ16に軸方向に挟み付けられている。なお、ノブ16は第一の駆動手段となるものである。
【0032】
図示を省略した回転軸を中心としたピン5と反対の位置には、第二の固定アーム20が第一の板部材2の外周から突き出すようにビス等によって取り付けられている。第二の固定アーム20の先端には、ピン22が圧入され、圧入されたピン22を介してオネジ21が回動可能に取り付けられている。この第二の固定アーム20には、第二の可動アーム23が対向するように配置される。
【0033】
第二の可動アーム23は、第二の固定アーム20との対向位置に、第二の板部材4の外周から突き出すようにビス等によって取り付けられている。第二の可動アーム23の先端には、ピン25が圧入され、圧入されたピン25を介してオネジ24が回動可能に取り付けられている。
【0034】
第二の固定アーム20と第二の可動アーム23は、オネジ21とオネジ24の中心軸が正確に平行で第一の板部材2と第二の板部材4との接触面に近く位置するように配置されている。また、オネジ21とオネジ24は、ネジ切り方向が同一でそのピッチがわずかに異なるようになっている。
【0035】
オネジ21には、オネジ21と等しいピッチのメネジ26,27が互いに接近する方向にねじ込まれている。これらのメネジ26,27は、軽く押し合うようにバックラッシュがなくなる位置で2〜4ケのビス28によりノブ29に軸方向に挟み付けられている。
【0036】
オネジ24には、オネジ24と等しいピッチのメネジ30,31が互いに接近する方向にねじ込まれている。これらのメネジ30,31は、軽く押し合うようにバックラッシュがなくなる位置で2〜4ケのビス32によりノブ29に軸方向に挟み付けられている。ノブ29は、第二の駆動手段となるものである。
【0037】
第二の板部材4における第一の板部材2との接触面と反対側の1箇所には、第一のすり鉢状の凹部33aを有する位置決め部材33がビス等で固定されて(図4参照)、また2個のおおむね扇形の第一及び第二の板状弾性部材34、35がそれぞれ一端を複数のビス等によって固定されている(図3及び図5参照)。
【0038】
これら第一及び第二の板状弾性部材34、35には、上記の固定部付近を除いてそれぞれ1個の補強板36、37がロウ付け等により貼り合わせられている。第一及び第二の補強板36、37には、それぞれ1箇所に第二及び第三のすり鉢状の凹部36a、37aが、第一のすり鉢状の凹部33aを中心に互いに直角の方向に位置するように形成されている。また板状弾性部材34、35における固定部分の反対側には、それぞれ1箇所にメネジ36b、37bが形成され、その軸線上で板状弾性部材34、35には逃げ穴が形成される。
【0039】
第二の板部材4における第一の板部材2との反対側には、軽合金等によって円盤形状に形成された第三の板部材38が配置されている。第三の板部材38の片面における第一のすり鉢状の凹部33aに対向する位置には、第四のすり鉢状の凹部を有する第二の位置決め部材39がビス等で固定されると共に、第二及び第三のすり鉢状の凹部36a、37aに対向する位置には、それぞれ第四のすり鉢状の凹部39aに向かって互いに直交する方向のV溝40a、41aを有する焼き入れ研削した第三及び第四の位置決め部材40、41がビス等で固定されている。
【0040】
第一及び第四のすり鉢状の凹部33a、39a、第二のすり鉢状の凹部36aと第一のV溝40a、第三のすり鉢状の凹部37aと第二のV溝41aの間には、グリス等の潤滑剤が施された軸受け用鋼球42,43,44が挟み込まれることにより、第二の板部材4に対する第三の板部材38の位置を拘束している。
【0041】
第二の板部材4の外周における均等の3〜6箇所には、ビス等によって凸字型のメネジ部材45が取り付けられている。凸字型のメネジ部材45のそれぞれには、図示を省略した回転軸と平行に第三の板部材38の位置する方に向かう段付ボルトに類する形状のバネ軸46がねじこまれている。
【0042】
第三の板部材38の外周のメネジ部材45に対向する位置には、ビス等によって複数のバネホルダ47が取り付けられている。バネホルダ47は、バネ軸46と逆向きにメネジ部材45に向かって垂下するL字形状となっており、L字形の底部47aにバネ軸46が貫通する逃げ穴を有している。
【0043】
バネホルダ47の底部47aとバネ軸46の大径の頭部の間には、それぞれ強めの圧縮コイルバネ48が挟み込まれている。圧縮コイルバネ48は、第三の板部材38を第二の板部材4に接近する方向に強めの力で付勢している。
【0044】
2個の調整オネジ49,50は頭部が大径のノブに形成されており、第三の板部材38に形成された逃げ穴を貫通して補強板36、37のメネジ36b、37bにねじこまれている。調整オネジ49,50の先端の中心部は球面に形成されて、第二の板部材4に接し板状弾性部材34、35を介して第二及び第三の軸受け用鋼球43,44をそれぞれ独立に、第二の板部材4に対してコイルバネ48による付勢と逆の方向に突っ張るようになっている。
【0045】
この突っ張りによって板状弾性部材34、35がわずかな角度に曲げられたとき、3個の軸受け用鋼球42〜44の中心を結ぶ直角三角形を含む面と第三の板部材38とがそれぞれ第二の板部材4とほぼ平行で極力近い距離になるように、第一〜第四の位置決め部材33、39、40、41と第一及び第二の補強板36、37の第一〜第四のすり鉢状の凹部33a、36a、37a、39aと第一及び第二のV溝40a、41aの深さが配設される。また、すり鉢状の凹部33a,36a、37a、39aとV溝40a,41aの角度はそれぞれ片側30〜45°程度の鋭角に形成され、板状弾性部材34、35はその扇形の半径方向に幅広くかつ補強板36、37と貼り合わされた補強部を固定部分に接近させて半径方向へのねじれが生じにくくなるようになっている。
【0046】
第三の板部材38には、心出しすべき回転物保持体(図示省略)を取り付けるようにメネジ38aが配置されている。また、回転軸の軸端に基板1を取り付けられるようボルト穴1aが形成されている。さらに、装置の全体には、大径のボルト穴、1b、2b、4a、38bが貫通しており、回転物の正しい中心軸の位置と方向を検出する物理的手段(図示省略)の取り付けが可能となっている。
【0047】
さらに図示を省略するが、基板1、第一の板部材2、第二の板部材4、第三の板部材38の外周面には、放射状の複数のメネジが、バランス調整のために長短のビスまたこれらを介して若干のオモリを取り付けることができるようになっている。
【0048】
以上の構成において、第一の板部材2は磁石6から発する磁力線の作用で基板1と広範囲にわたり接触面の両側から互いに常時、吸着されることにより、基板1に圧接しながら、1点の位置をピン3でクリアランスなく拘束されている。同様に、第二の板部材4も第一の板部材2と広範囲にわたり接触面の両側から互いに常時、吸着されることにより、第一の板部材2に圧接しながら、1点の位置をピン5でクリアランスなく拘束されている。
【0049】
ノブ16を回転させると、いわゆる差動ネジの作用で、ピン9、12がノブ16の1回転に対しオネジ8とオネジ11のピッチの差だけ引き寄せまたは遠ざけられ、第一の固定アーム7、第一の可動アーム10を介して第一の板部材2が上記基板lとの圧接による静止摩擦力に抗して基板1に対しピン3を中心にスイングする。
【0050】
ノブ16を逆転させるときにはバックラッシュが発生するが、上述したようにメネジ13と14がオネジ8に対し、メネジ17と18がオネジ11に対してそれぞれバックラッシュがほとんどなくなるようにノブ16と一体化されているため、全体としてのバックラッシュを小さく抑えることができる。
【0051】
ノブ29を正逆転させるときも同様の作用で、第二の板部材4が第一の板部材2との圧接による静止摩擦力に抗して第一の板部材2に対しピン5を中心に小さなバックラッシュでスイングする。
【0052】
すなわちノブ16及び29の回転により、第二の板部材4の中心点を、この中心点で接線が直交する円弧上を移動させることができる。なお、上記の接線同士の厳密な直角度や上記の円弧の曲率は問題となるものではなく、不規則なあるいは急激な変動や往復での位置ズレがなく、滑らかな軌跡で動かせることが重要となるものである。
【0053】
ここで関連する各部の寸法比率とネジのピッチを適当に選ぶことにより、中心部で例えばノブ16、29の1/300回転当たり0.3μm内外の割合の微動が可能となる。
【0054】
コイルバネ48の作用により、第一〜第三の鋼球42、43、44を介して第三の板部材38は第二の板部材4に対し回転軸に平行な軸回りの角度と回転軸に垂直な面内での位置が拘束されている。
【0055】
調整オネジ49をねじこむ方向に回転させると、メネジ36bの作用で板状弾性部材34が、第二の板部材4に結合された固定部と補強板36と貼り合わされた補強部との中間で曲げ変形され、凹部36aに拘束された第二の鋼球43がコイルバネ48による付勢に逆らって押し上げられ、V溝40aに沿ってわずかに滑りながら位置決め部材40を押し上げる。この作用によって、第三の板部材38は第一と第三の鋼球42、44の中心を結ぶ軸を中心に傾けることができる。ねじもどすときも板状弾性部材34の変形が緩和されながら、第三の板部材38が逆方向に同様に追従してその傾き角を変えることができる。
【0056】
調整オネジ50を回転させるときも同様で、上述した傾斜の軸と垂直な第一と第二の鋼球42、43の中心を結ぶ軸を中心に第三の板部材38の傾き角を変えることができる。
【0057】
すなわち調整オネジ49及び50の回転により、第三の板部材38を直交する2方向を軸として第二の板部材4に対して傾けることができる。
【0058】
ここで、3個の鋼球の配置と板状弾性部材34、35の固定部とメネジ36b、37bの配置の寸法比率とネジのピッチを適当に選ぶことにより、例えば調整オネジ49、50の1/300回転当たり0.0007度内外の割合の角度の微動が可能となる。
【0059】
回転物保持体の心出しは、次のようにして行われる。
あらかじめメネジ38aを介して第三の板部材38に心出しすべき回転物保持体を取り付け、基板1、第一の板部材2、第二の板部材4、第三の板部材38の外周面に配設された複数のメネジに適宜長短のビスまたこれらを介して若干のオモリを取り付けてバランス調整を行う。すなわち研削加工用の砥石の調整に使用される周知の装置等を使用して重心を回転の中心軸に一致させる。
【0060】
その上で、まず調整オネジ49と50を少しずつ回転させて回転物保持体の中心軸の方向を、別途の物理的手段によって検出される正しい方向になるように傾ける。この際、第二の鋼球43と第三の鋼球44の第二の板部材4との距離、ひいては傾きの軸の方向がわずかながら変わることにより厳密には自由度の干渉があるので、これによるズレに対する修正も含めて調整する。
【0061】
前述の圧縮コイルバネ48による強めの付勢、3箇所のすり鉢状の凹部と2箇所のV溝の鋭角の形状、板状弾性部材34、35の高いねじり剛性、そして最終的には調整オネジ49、50とメネジ36b、37bとのかみ合いの静止摩擦力の作用により、調整後に加わる外力に対しても強い拘束により正しい方向と位置が維持される。
【0062】
次に、ノブ16と29を少しずつ回転させて上記の角度調整により正しい方向となった回転物保持体の中心軸の位置を、別途の物理的手段によって検出される正しい位置になるように調整する。
【0063】
上記の角度調整部を含めて薄型軽量となっており、また前述のバランス調整の作用により回転時のアンバランスな遠心力等の慣性力の作用が小さくなっており、さらには、磁石6による前述の静止摩擦力が常時作用していることにより、調整後に加わる外力によって容易に位置がずれることがなくなる。
【0064】
このような実施の形態では、角度、位置共に自由度の干渉が抑えられて2方向順次に正確な調整がし易く、ズレの原因になるクランプが完全に排除されて操作が簡略迅速となる。また、薄型軽量となるため、遠心力等の慣性力に起因するズレが生じにくいので、秒単位の角度調整と0.1μm単位の位置調整が可能となる。
【0065】
(実施の形態2)
図6〜図10は、本発明の実施の形態2を示す。
【0066】
基板51と第一の板部材52、第一の板部材52と第二の板部材53とは、それぞれ図9に示す局部的にくびれた形状を有する弾性部材54、55によりビス等を介して結合される。
【0067】
第一の固定アーム56とオネジ57、第一の可動アーム58とオネジ59、第二の固定アーム60とオネジ61、第二の可動アーム62とオネジ63もオネジ側にロウ付けされた板状弾性部材64、65とビス等を介して結合される。
【0068】
第二及び第三の軸受け用鋼球43,44は板状弾性部材を介することなく、実施の形態1の補強板36、37のすり鉢状凹部36a、37aに相当する位置で、第一の軸受け用鋼球42と同様に位置決め部材33と同一形状の位置決め部材66、67により第二の板部材53に位置決めされる。
【0069】
実施の形態1における40、41に相当する位置決め部材68、69は、弾性のある材質からなり、V溝68a、69aの方向の全長の大部分にわたってV溝68a、69aの底部においてスリワリ68b、69bにより分離されてV溝68a、69aと第二及び第三の軸受け用鋼球43,44とが接する付近が弾性的に間隔が変わり得るように形成されている。分離されない一端では、複数のビス等によりV溝68a、69aの方向が位置決め部材39のすり鉢状凹部39aに向けて互いに直交するように第三の板部材70に結合されている。上記の結合部と反対側の端では、分離された片側にメネジ68c、69cが、これと対向する他の側にバカ穴68d、69dが形成される。
【0070】
実施の形態1の49、50に相当する調整オネジ71、72は、第三の板部材70と平行となって、先端を位置決め部材68、69のバカ穴68d、69dを貫通し中間の段付部端面が位置決め部材68、69の側面に接するまでメネジ68c、69cにねじこまれ、しめこんだとき位置決め部材68、69のV溝68a、69aを狭めることができるように配設される。
【0071】
さらにコイルバネ73が調整オネジ71、72を軸として、調整オネジ71、72をねじもどすとき、位置決め部材68、69のV溝68a、69aを拡げられるように位置決め部材68、69のスリワリ68b、69bの内部に挟み込まれて配設される。
【0072】
この実施の形態では、実施の形態1とほぼ同様に、第一の板部材52と第二の板部材53とはそれぞれ基板51と第一の板部材52に対し、互いに接触面両側から吸着圧接して、弾性部材54、55のくびれた部分の弾性曲げ変形によるスイングの方向の自由度のみに拘束されている。そして、ノブ16を回転させると、差動ネジの作用で、オネジ57とオネジ59、オネジ61とオネジ63とがそれぞれそのピッチの差だけ引き寄せまたは遠ざけられ、板状弾性部材64、65の弾性曲げ変形を経て第一の固定アーム56と第一の可動アーム58、第二の固定アーム60と第二の可動アーム62を介して第一の板部材52と第二の板部材53とが上記の圧接による静止摩擦力に抗して弾性部材54、55のくびれた部分を中心にスイングする。
【0073】
コイルバネ48と3対の位置決め部材のすり鉢状凹部とV溝の作用により、第一〜第三の鋼球42、43、44を介して、第三の板部材70は実施の形態1とほぼ同様に第二の板部材53に対し回転軸に平行な軸回りの角度と回転軸に垂直な面内での位置が拘束されている。従って、調整オネジ71、72を回転させるとき、第一〜第三の鋼球42、43、44はいずれもその位置を全く変えることなく、位置決め部材68、69の弾性変形によるV溝68a、69aの幅の変化に追従して第三の板部材70が第一〜第三の鋼球42、43、44の中心を結ぶ直角三角形の直交2辺を軸として傾けられる。
【0074】
この実施の形態では、以下のように心出しが行なわれる。
あらかじめ行うバランス調整は実施の形態lと同様である。その上で、まず調整オネジ71と72を少しずつ回転させて回転物保持体の中心軸の方向を実施の形態1と同じく検出される正しい方向になるように傾ける。この際、第一〜第三の鋼球42、43、44の位置、ひいては傾きの軸の方向は全く変わることなく、厳密に自由度の干渉がないのでこれによるズレが生じることがない。
【0075】
圧縮コイルバネ48による強めの付勢、3箇所のすり鉢状の凹部と2箇所のV溝の鋭角の形状、位置決め部材33、66、67による剛体的な鋼球42、43、44の位置決め、そして最終的には調整オネジ71、72とメネジ68c、69cとのかみ合いの静止摩擦力の作用により、調整後に加わる外力に対しても強い拘束により正しい方向と位置が維持される。
【0076】
次に、ノブ16と29を少しずつ回転させて上記の角度調整により正しい方向となった回転物保持体の中心軸の位置を実施の形態1と同じく検出される正しい位置になるように調整する。この際、第一の板部材52と第二の板部材53は、弾性部材54、55の弾性曲げ変形によりくびれた部分を中心にスイングするため、原理的にクリアランスが全くなく自由度の分離が完全になる。位置調整に関する調整後の維持の作用は実施の形態1におけると同様である。
【0077】
このような実施の形態では、実施の形態1と同様な効果を有しているのに加えて、次のような固有の効果を有している。
【0078】
第一の固定アーム56とオネジ57、第一の可動アーム58とオネジ59、第二の固定アーム60とオネジ61、第二の可動アーム62とオネジ63がオネジ側にロウ付けされた板状弾性部材64、65を介してビス等で結合されるため、オネジ57とオネジ59、オネジ61とオネジ63の平行度や高さのズレによる余分な拘束が防止でき、ノブ16とノブ29の回転が円滑になり迅速、且つ正確に調整できる。
【0079】
第一の板部材52と第二の枚部材53とが弾性変形によりスイングするため、原理的にクリアランスが全くなく自由度の干渉がない、すなわちX(Y)方向の調整の過程でY(X)方向にズレが生じないため、一度で正確な調整が可能となる。
【0080】
角度調整の際も傾きの軸の方向が全く変わることなく厳密に自由度の干渉がないため、一度で正確な調整ができる。さらに鋼球の位置決めの剛性が高いため、外力によるズレが生じにくい。
【0081】
以上のことから、例えば20s−1(1200rpm)程度の速度の回転と若干の切削抵抗等の外力にも耐える装置とすることができる。
【0082】
以上の説明から、本発明は、次の発明を包含するものである。
(付記項1) 基板と、
基板に対して、心出しすべき回転物保持体の軸と平行な第一の軸の回りに回動可能に保持された第一の板部材と、
第一の板部材に対して、心出しすべき回転物保持体の軸と平行で、かつ心出しすべき回転物保持体の軸から見て前記第一の軸のある方向とほぼ直角をなす方向に位置する第二の軸の回りに回動可能に保持された第二の板部材と、
第二の板部材に接近する方向に付勢され、心出しすべき回転物保持体が取り付けられる第三の板部材と、
前記第一の板部材を第一の軸を中心として回動させる第一の駆動手段と、
前記第二の板部材を第二の軸を中心として回動させる第二の駆動手段と、を有し、
前記第三の板部材は第二の板部材との間に設けられた複数の弾性部材によって第二の板部材の方向に付勢され、第二の板部材及び第三の板部材の対向面に、すり鉢状の凹部が複数対向するように形成されると共に、対向状態のすり鉢状の凹部に鋼球が挟まれていることを特徴とする回転物保持体の心出し装置。
【0083】
この付記項1の発明では、遠心力等の慣性力によるずれが生じることなく、回転物保持体の心出しを正確に行うことができる。
【0084】
【発明の効果】
請求項1及び請求項3の発明によれば、2方向順次各一度で正確な調整ができ易く、遠心力等の慣性力が小さくなり、慣性力によるズレが生じにくくなる。
【0085】
請求項2の発明によれば、正確で迅速に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1の回転軸方向からの平面図である。
【図2】実施の形態1の側面図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】図2のB−B線断面図である。
【図5】図2のC−C線断面図である。
【図6】実施の形態2の回転軸方向からの平面図である。
【図7】実施の形態2の側面図である。
【図8】図7のD−D線断面図である。
【図9】実施の形態2における弾性部材の形状を示す斜視図である。
【図10】図7のE−E線断面図である。
【図11】従来装置の斜視図である。
【図12】図11のL−L線断面図である。
【図13】図11のM−M線断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2,52 第一の板部材
3,5 ピン
4,53 第二の板部材
6 磁石
16,29 ノブ

Claims (3)

  1. 基板と、
    基板に対して、心出しすべき回転物保持体の軸と平行な第一の軸の回りに回動可能に保持された第一の板部材と、
    第一の板部材に対して、心出しすべき回転物保持体の軸と平行で、かつ心出しすべき回転物保持体の軸から見て前記第一の軸のある方向とほぼ直角をなす方向に位置する第二の軸の回りに回動可能に保持された第二の板部材と、
    前記第一の板部材を第一の軸を中心として基板に対して回動させるように、前記基板に取り付けた第一の固定アームとの対向位置に、前記第一の板部材に取り付けた第一の可動アームを配置し、前記第一の固定アームに取り付けたオネジと第一の可動アームに取り付けたオネジとに螺合するメネジを備えた第一の駆動手段と、
    前記第二の板部材を第二の軸を中心として第一の板部材に対して回動させるように、前記第一の板部材に取り付けた第二の固定アームとの対向位置に、前記第二の板部材に取り付けた第二の可動アームを配置し、前記第二の固定アームに取り付けたオネジと第二の可動アームに取り付けたオネジとに螺合するメネジを備えた第二の駆動手段と、
    を有することを特徴とする回転物保持体の心出し装置。
  2. 前記基板、第一の板部材、第二の板部材がいずれも磁性体によって形成されていると共に、このうち少なくとも一つに磁石が配設されていることを特徴とする請求項1記載の回転物保持体の心出し装置。
  3. 前記基板と第一の板部材との間及び第一の板部材と第二の板部材との間がそれぞれ弾性体により保持されていることを特徴とする請求項1または2記載の回転物保持体の心出し装置。
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