JP4069198B2 - α−SiCのヘテロエピタキシャル薄膜の作製方法及び同方法で作製した薄膜 - Google Patents
α−SiCのヘテロエピタキシャル薄膜の作製方法及び同方法で作製した薄膜 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温型(α)炭化ケイ素(α−SiC)ターゲットを用いたパルスレーザアブレーションによるα−SiCのヘテロエピタキシャル等の薄膜作製方法及び同方法で作製した薄膜に関するものであり、更に詳しくは、高電圧、高出力、高温及び耐放射線性等のワイドバンドギャップ半導体のエレクトロニクスやオプトニクスの分野におけるα−SiCの積層薄膜素子と、その素子のウェハー(基板) とも成り得るα−SiCの結晶性薄膜の作製技術に係わるものであり、PLAD方法によりα−SiC及びケイ素以外の無機の単結晶基板上にα−SiC及び半導体化α−SiCのヘテロエピタキシャル薄膜と、それらの積層薄膜及び他の半導体との多層積層薄膜を作製する方法と、それにより得られる同薄膜と同多層積層薄膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭化ケイ素(SiC)は、大別して、立方晶系結晶構造を持つ低温型(β)と六方晶系構造を持つ高温型(α)があり、また、α型には、SiとCの層状配列の繰り返し周期の違いにより6H、4H、2H等の多種類の結晶構造異性体がある。β−SiCとα−SiCは、それぞれ2.2eVと2.9−3.3eVのバンド間エネルギー分離幅(Eg)を持つので、次世代のワイドバンドギャップ半導体として期待されている。βからαへの転移温度は1600℃であるが、β、α共に融点(明確な融点と言うより次第に分解する温度)は2000−3000℃以上である。そのために、これらの炭化ケイ素は、シリコン(Si)半導体産業の基盤であるSiウェハーと異なり、単結晶の作製が容易でなく、両基板は極めて高価(25mm直径x0.3mm厚さの円盤状基板一枚で実に20万円以上)であり、それが研究開発の一つの大きな障害となっている。従って、SiCの単結晶性薄膜を作製し、それをSiC単結晶基板の代わりに用いる等の目的のために、他の安価な単結晶基板上にそれらの単結晶性薄膜を成長させるヘテロエピタキシャル薄膜の作製が試みられてきた。
【0003】
これまでに、分子ビームエピタキシー(MBE)法、プラズマCVD法、及びPLAD法等により、SiCの成膜研究が行われている(文献:「MBE法」:S. Kaneda, Y. Sakamoto, C. Nishi, M. Kanaya, and S. Hannai, Jpn. J. Appl. Phys., Vol. 25 (1986) 1307. 等; 「CVD法」:H. Matsunami, T. Ueda, and H. Nishino, Mat. Res. Soc. Symp. Proc., Vol. 162 (1990) 397. 等; 「PLAD法」:Jamey S. Pelt, Matthew E. Ramsey, Steven M. Durbin, Thin Solid Films, Vol. 371 (2000) 72; T. Zehnder, A. Blatter and A. Bachli, Thin Solid Films, Vol. 141 (1994) 138.等)。これまで、MBE法によるβ−SiCのエピタキシャル薄膜の生成、及びCVD法とPLAD法によるβ−SiC多結晶薄膜やβ−SiCと炭素の混合した薄膜の生成は知られているが、α−SiCのエピタキシャル等の結晶性薄膜の成功例はない。
【0004】
MBE法を以てしても高温型SiC(α−SiC) 薄膜は作製されていないのに加えて、MBE装置は、成膜速度が遅く、かつ極めて高価であるので、β−SiCに関しても、研究開発的な目的のための作製のみならず、産業的作製に対しても用い難い。更に、α型は、β型のバンドギャップが2.2eVであるのに較べて2.9−3.4eVという大きな値を有するので、より短波長の発光ダイオード(LED)や短波長レーザ及び高出力、高温等のワイドバンドギャップ半導体等への発展が期待される。しかしながら、α−SiCは、極めて高融点のためにそのヘテロ薄膜の作製は困難であり、そのための同薄膜等の作製技術が強く望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、前記の従来のβ−SiC薄膜ではなく、α−SiCのヘテロエピタキシャル等の結晶性薄膜の作製方法を開発することを目的として、創意工夫と研究を積み重ねた結果、α−SiCのターゲットを用いると共に、格子整合した特定の基板の選択と高温加熱等を行うPLAD方法を用いることにより所期の目的を達成し得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明の目的は、前記の従来の問題点を解決し、SiC及びケイ素以外の無機の単結晶基板上へのα−SiC及び半導体化α−SiCのヘテロエピタキシャル薄膜と、それら及び他の半導体等との多層積層薄膜を作製する方法と、本方法により得られるヘテロなα−SiC薄膜及び積層薄膜を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の方法及び手段からなる。
(1)パルスレーザをターゲット物質に照射してその物質を瞬間・パルス的に微粒子に分解・剥離(アブレーション)させ、それを高温に温度制御した炭化ケイ素(SiC)及びケイ素以外の無機の単結晶基板に当てて堆積させ、その基板上にターゲット物質の薄膜を作製する方法であって、1)高温型(α)炭化ケイ素(α−SiC)のターゲットないし他の元素の微量添加によりp型及びn型に半導体化させたα−SiCのターゲットを用いる、2)レーザとしてSiCの結合エネルギーより僅かに高いエネルギーを持つYAGレーザの4倍波(波長:266nm)か、又はそれ以下の光エネルギーの高調波を用いて、α−SiCを過度に微細化させることなくアブレーションさせる、3)六回回転対称要素(C 6 )を有する結晶面を持つ基板上にα−SiC結晶を再構築する、4)それにより、六方晶系構造を有するα−SiCの単結晶性(エピタキシャル)薄膜(ヘテロ結晶性薄膜)を作製することを特徴とする薄膜の作製方法。
(2)基板として、1350℃までSiCと反応しない、酸化マグネシウム、又はサファイアを使用することを特徴とする前記(1)に記載の薄膜の作製方法。
(3)前記(1)に記載の薄膜の作製方法により、C 6 を有する結晶面を持つ基板上にα−SiCないし半導体化α−SiCの単結晶性薄膜を作製し、それらにガリウム(Ga) 、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)又は亜鉛(Zn)の燐化物、燐化物、ヒ素化物又は硫化物の半導体の薄膜を積層することを特徴とする多層積層薄膜の作製方法。
(4)前記(1)に記載の薄膜の作製方法により作製してなる、1350℃までSiCと反応しない、酸化マグネシウム、又はサファイアの基板上に作製したα−SiCないし半導体化α−SiCの単結晶性薄膜。
(5)前記(3)に記載の多層積層薄膜の作製方法により作製してなる、1350℃までSiCと反応しない、酸化マグネシウム、又はサファイアの基板上に形成したα−SiCないし半導体化α−SiCの単結晶性薄膜と、他の半導体の薄膜とからなる多層積層薄膜。
【0007】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明においては、SiC以外の基板面上にα−SiC及び半導体化α−SiCの単結晶性薄膜と、それら及び他の半導体との多層積層薄膜を作製する。即ち、これらは、以下のようにα−SiC及び半導体化α−SiCターゲットないしα−SiCの半導体化に要する元素ないし化合物のターゲットと高温ヒータを用いるPLAD薄膜作製方法と基板の選択により成膜することにより達成される。これを図1に示す成膜装置に基づいて説明する。この装置は、真空ポンプを備えた真空チャンバー(容器)、α−SiCや半導体化α−SiC等のターゲット(A,B,C等)を保持するターゲットホルダー、ターゲット位置移動機構、ターゲット自転機構、基板を加熱し、保持するヒータ付き基板ホルダー、ヒータ電源、レーザ照射手段等から構成される。
【0008】
PLAD法では、図1に示すように、膜を作製しようとする物質自身のターゲットを真空チャンバー(容器)中にセットしておき、外部から光学窓を通してパルスレーザ光(例えば、YAGパルスレーザ第4高調波)をそれに集光照射してターゲット物質を爆発的に分解剥離させて、高エネルギーを持ったイオン及びクラスター等の微粒子に分解させる。そのプラズマ状(アブレーションプルーム:炎)になった微粒子を対向する位置にあり電気ヒータ等の加熱機構により一定温度に制御された基板ホルダーにセットした基板に衝突させて、その基板上にターゲット物質の結晶を再構築させてその結晶性薄膜を作製する。本発明者らの研究から、PLAD成膜の際、基板に衝突した微粒子系の運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて、それが基板の持つ熱容量と相まって結晶格子一層程をちょうど融解させ得る程度の温度となるような条件を構成できれば、結晶性薄膜が作製できると推論するに到った。しかし、α−SiCは極めて高い融点を有するので、できる限り高温まで加熱できるヒータを作製し、使用すると共に、高エネルギーのアブレーション炎が生じるPLAD条件を選択できれば、α−SiCの結晶薄膜の作製が可能となる。
【0009】
そのために、高融点を有し超高真空や真空中でも蒸発しない高温ヒータとしてBNコートした炭素ヒータや白金−ロジウムヒータないしタングステンないしモリブデンのヒータを作製し、使用した。タンタルないしシリコンカーバイトのヒータでも可能である。また、SiCの結合エネルギーは、104±5Kcal/molであり、光子エネルギーに換算すると、波長は約274nmになる。本発明者らの研究によれば、イオン結合性の高い金属酸化物等の高品質単結晶薄膜をPLAD法で作製するにはターゲット物質の結合エネルギーより高い光子エネルギーを持つ光を用いる必要がある。それに対して、共有結合性のSiCでは、YAGレーザの5倍波(波長:213nm)のような短波長のレーザを用いて余りに原子サイズまで微細分解し過ぎると、高融点を持つためにSiCとして再結合し再結晶化され難くなることが分かった。そこで、レーザとしてSiCの結合エネルギーより僅かに高いエネルギーを持つYAGレーザの4倍波(波長:266nm)か、又はそれ以下の光エネルギーの高調波を用いた。これにより、α−SiCを過度に細分化させることなくアブレートさせ、比較的高温に保持した基板上で、本来の純粋のSiCなら有する絶縁体性能を示し、結晶性も良好な高品質のα−SiC結晶を再構築できることができる。なお、YAGレーザの5倍波でも結晶性や電気特性が低いがα−SiC薄膜が作製できたので、レーザの種類を限定するものではなく、ArF、KrF、XeCl等のエキシマーガスレーザでもα−SiCの成膜が可能である。
【0010】
更に、高温でもSiCと反応しない耐高温特性を持つ基板を選択すると共に、六方晶系構造を有するα−SiCの単結晶性薄膜を作製するためには、基板面を選択する必要がある。種々の基板を試したところ、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3 )、酸化チタン(TiO2 )やLSAT:(LaAlO3 )0.3 (La2 TaAlO6 )0.35結晶等は、SiCと1100℃以下の温度で反応したので基板として使用できないが、1350℃までSiCと反応しない基板として、酸化マグネシウム(MgO)、サファイア、シリコン(Si)等が使用可能であることが分かった。更に、α−SiCの薄膜でも単に多結晶性薄膜ならばこれらの基板等を使い、800〜1000℃域のような低温においても作製できる。
しかし、良質なエピタキシャル薄膜や一軸配向性薄膜を作製するには、1100−1300℃程の高温域において、六方晶系であるα−SiCと同様に6回回転対称要素(C6 )を持つサファイアの(0001)面又はSiの(111)面等の基板の結晶面を用いてはじめてα−SiC(0001)面を持つエピタキシャル薄膜が作製できる。
【0011】
以下に、α−SiC薄膜の作製方法を図面(図1)により詳細に説明する。
α−SiC薄膜の作製方法として、α−SiCターゲットと高温ヒータを用いるYAGパルスレーザアブレーション堆積方法を用いて、Siの(111)単結晶基板上にα−SiC(0001)エピタキシャル薄膜を、SiC(110)と(100)単結晶基板上にα−SiCの多結晶薄膜の作製を行う例を示す。なお、PLAD法では、図1のように、膜を作ろうとする物質のターゲットを真空チャンバー中のターゲットホルダーにセットしておき、外部からパルスレーザ光をそれに集光照射してターゲット物質を爆発的に分解剥離させて、それを対向する位置にあり電気ヒータ等により一定温度に制御された基板ホールダー上の基板に衝突させて、その物質の薄膜を作製する。
【0012】
ここでは、レーザ光として、Nd:YAGパルスレーザの第4高調波(波長266nm)を使用した。PLAD成膜実験を行い、次のような最適成膜条件を得た。出力エネルギー50mJ/パルスのレーザ光をチャンバー中にセットした6Hの六方晶系結晶構造を持つα−SiCターゲットにレンズで集光照射して、約2.0J/cm2 /パルスのフルーエンスを加えた。真空度は1x10-7Torr、基板温度は800−1300℃である。6回回転対称性を持つSi(111)基板を用いると、1100℃以下の低温域ではα−SiCの多結晶性の薄膜が生成したが、基板温度を1100−1300℃程の高温にすれば良質のα−SiC(0001)エピタキシャル薄膜が作製できた。他方、同じSiでも6回回転対称性を持たない(110)や(100)基板を用いると、1100−1300℃の高温域でもエピタキシャル薄膜は作製されない。しかし、α−SiCの多結晶薄膜は作製できる。
【0013】
なお、図1中に示すように、α−SiCや半導体化したα−SiC及び他の半導体等のターゲットをチャンバー内のターゲットホルダーにセットしておき、ターゲット交換機構でそれらのターゲットを順次にレーザ照射位置へ移動させて、PLAD成膜法により基板(サファイア、MgO等)上に順次に成膜することにより、電子素子に係わるそれらのエピタキシャル多層積層薄膜を作製できる。あるいはα−SiCターゲットとその半導体化に要するAl、Ga等の元素ないしSi3N4、Al4Si3等の化合物のターゲットをターゲットホルダーにセットしておき、交互にないし二つのレーザビームにより同時にアブレーションさせて半導体α−SiC薄膜を作製できる。
すなわち、α−SiCや半導体化SiC及び他の半導体等の複数のターゲット(A,B,C等)をチャンバー中のターゲットホルダーにセットしておき、SiCや基板ホルダーと反応しないサファイア、MgO等の単結晶基板を、高温加熱機構付きの基板ホルダーにセットしてパルスレーザアブレーションを行えば、同基板上にα−SiCの単結晶等の薄膜やそれらのA/B/Cなどの多層積層薄膜を作製できる。
【0014】
【実施例】
次に、実施例として、サファイア(0001)単結晶基板上に基板温度1200℃でPLAD法により作製したα−SiC(0001)エピタキシャル薄膜に関する結果を説明するが、本発明は当該実施例によってなんら制限されるものではない。
また、比較のために、同一PLAD条件を用いてSi(111)、Si(110)及びSi(100)の各単結晶基板上に作製したα−SiC薄膜についても併せて説明する。
図2の(a),(b),(c)は、それぞれSi(111)、Si(100)、Si(110)単結晶基板上に作製した薄膜について測定した赤外線吸収スペクトルを示す。いずれの膜についてもα−SiCのSi−C結合による基準伸縮振動(波数:約795cm−1)のみが観測され、C−CやC=C振動及びO−Si−C等の不純物信号は検出されない。従って、この吸収スペクトルは、いずれの膜でもSiC薄膜が生成していることを示している。
【0015】
次に、図3(a),(b),(c)は、それぞれ上記の三つのSi単結晶基板上に作製した膜について、θ−2θ掃引により測定したX線回折パターンを示す。(a)のみがα−SiCのc軸配向薄膜;(0001)配向薄膜;であることを示している。Si(111)上の膜は、基板であるSiの(hhh);h=1−3のX線回折(XRD)線の外にα−SiCの(000I);I=6,12(6H六方晶系)のXRD線のみが観測されている。これは、基板面垂直方向にc軸が配向したα−SiCの(0001)配向膜が作製されていることを示している。なお、後述の反射型高速電子線回折(RHEED)測定によって、この膜は基板面内でも結晶のa,b軸方向が単結晶的に特定の方向へ配向した(0001)エピタキシャル薄膜であることを確認した。以上より、Si(111)単結晶基板上ではα−SiC(0001)ヘテロエピタキシャル薄膜が作製されることが分かる。
【0016】
他方、Si(110)とSi(100)単結晶基板を用いて作製した膜では、赤外線吸収スペクトルの結果からは明らかにSiC薄膜が生成しているのに、XRD測定では、それぞれの基板のXRD信号Si(hh0);h=1−2とSi(00I);I=1−3のみが観測されており、如何なるSiCのXRD信号も検出されなかった。後記のRHEED測定の結果、多結晶の場合は薄膜ではXRD信号が極めて弱くなるためにXRD線が観測されないだけであり、この両者の膜は共に多結晶α−SiC薄膜であることが分かった。
【0017】
次に、反射型高速電子線回折(RHEED)測定から分かった薄膜の面内配向や結晶性に関する実験結果を図4,5,6に示し、それらについて説明する。
RHEED法とは、結晶性薄膜の膜面に対して2−3°の低角度で10−30KeVの高速電子線を照射することにより膜の表面に近い低角度での電子線回折0を測定して、それより膜面の結晶構造や平滑度を知る方法である。ナノメータ10-9m)次元の表面平滑度を持つ良質な薄膜結晶について、結晶の対称性を有する方向へ電子線を照射してRHEEDを測定すると、回折点が結晶膜面垂直(ここで紙面垂直)方向に立ったストリークと呼ばれる縦棒状の輝線が何本か対称的に並んだパターンが観測される。これらの輝線の間隔は結晶格子の間隔に逆比例する(逆格子の間隔に比例する)ので単結晶性の膜をその膜面内で回転するとパターンが変わる。即ち、結晶が膜面内でC6 、C4 、C3 等の回転対称性を有する場合には、それを反映して30,45°,60°毎に二つの異なる対称的ストリークパターンが観測されると共に、両パターンは60°,90°,120°周期をもって観測される。
【0018】
Si(111)基板上に作製したα−SiC膜では、図4の(a)と(b)に示す二つのストリークパターンが観測された。各々、単一成分のパターンからなっており、両者は30°異なる方向で検出された。また、それぞれ六方晶系の持つ60°周期(C6 対称性)を持って観測された。薄膜面内でX線入射方向を変えると30゜だけ異なる二つの方向:(a)と(b)で対称的な輝線(ストリ−ク) パターンが60゜周期をもって観測された。(a)は<100>,(b)は<210>方向に同定され、α−SiCのエピタキシャル薄膜であると確認された。これらは、α−SiC薄膜のC6 対称性を持つ(0001)面が基板上に生成していることを明確に示している。更に、輝線の間隔から図4の(a)と(b)の方向での結晶の面間隔を算出した結果、各々はα−SiCの<100>と<210>方向の格子間隔と一致したので、基板面平行にa、b面がある単結晶性薄膜であると同定された。以上の赤外線吸収スペクトル、XRD及びRHEED観察から、Si(111)基板上に基板温度1200℃域で作製したSiC膜は、良質な単結晶に近いα−SiC(0001)配向エピタキシャル薄膜であることが明らかになった。
【0019】
他方、Si(110)基板上に作製したSiC膜では、図5に示すように、リング状のDebye−Sherrerパターンと呼ばれるRHEED像が観測された。これは何ら配向性を持たない多結晶からなる試料に特徴的な信号である。リング状のDebye−Sherrer像が観測されていることからα−SiCの多結晶薄膜であることが分かる。Si(100)基板上に作製した膜でも同一のRHEED像が観測された。以上の赤外線吸収、XRD,RHEEDの各実験の結果、Si(110)と(100)基板上ではα−SiCの多結晶薄膜が生成することが分かった。
【0020】
次に、本発明の実施例である、サファイアの(0001)単結晶基板上では、図6のXRDスペクトルに示すように、Si(111)基板上と類似のα−SiC(0001)エピタキシャル薄膜が作製されることが分かった。これらの結果により、α−SiCと同じ六方晶系構造を持つサファイアの(0001)面のように、六回回転対称要素(C6)を持つ面を用いれば、α−SiCのエピタキシャル薄膜を作製できることが示された。また、高温でα−SiCと反応しない基板さえ用いれば、α−SiCの多結晶薄膜が作製可能であることも分かった。
【0021】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、α−SiCや半導体化α−SiCのターゲットないしα−SiCとその半導体化に要する元素ないし化合物のターゲットを交互にないし同時に用い、かつ800−1300℃程の高温に基板を温度制御できるヒータを用いるパルスレーザアブレーション方法であって、SiCと反応しないサファイア、MgO等の無機の単結晶基板を用い、更に、六方晶系であるサファイアの(0001)や立方晶系であるMgOの(111)面等のように6回対称軸を有する結晶面を選択することにより、α−SiCのエピタキシャル薄膜を作製することを可能とし、また、他の元素の微量添加によりp型及びn型に半導体化させたα−SiCのヘテロエピタキシャル薄膜と、それらにGa、Al、In、GeやZn等の窒化物、燐化物、ヒ素化物、硫化物等の半導体の薄膜を積層した多層積層薄膜を作製することを可能とするものである。
【0022】
また、本発明のα−SiCの種々の結晶性薄膜の作製方法により、α−SiC薄膜や半導体化したα−SiC及び他の半導体との多層積層薄膜を提供できるので、これまでのα−SiC半導体や素子の作製や開発において使用できる基板が単結晶α−SiC基板に限定されるという問題をブレークスルーできる。更に、これにより、種々のα−SiCの結晶性薄膜と積層薄膜を提供できるので、エレクトロニクス、オプトニクス等の分野におけるα−SiCの多層積層薄膜による電子・磁気・光学等の諸物性を有する素子化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】単結晶基板上にα−SiCの単結晶等の薄膜や多層積層薄膜を作製するためのPLAD成膜の一手段を示す概略図である。
【図2】Si(111)、Si(100)、Si(110)単結晶基板上にPLAD法により作製したα−SiC薄膜について測定した赤外線吸収スペクトルを示す。
【図3】Si(111)、Si(100)、Si(110)単結晶基板上に作製したα−SiC薄膜について、θ−2θ掃引により測定したX線回折パターンを示す。
【図4】Si(111)単結晶基板上にPLAD法により作製したα−SiC薄膜について測定した反射型高速電子線回折(RHEED)を示す。
【図5】Si(110)単結晶基板上にPLAD法により作製したα−SiC薄膜のRHEEDを示す。
【図6】サファイア(0001)単結晶基板上に作製したα−SiC薄膜について、θ−2θ掃引により測定したX線回折パターンを示す。
Claims (5)
- パルスレーザをターゲット物質に照射してその物質を瞬間・パルス的に微粒子に分解・剥離(アブレーション)させ、それを高温に温度制御した炭化ケイ素(SiC)及びケイ素以外の無機の単結晶基板に当てて堆積させ、その基板上にターゲット物質の薄膜を作製する方法であって、(1)高温型(α)炭化ケイ素(α−SiC)のターゲットないし他の元素の微量添加によりp型及びn型に半導体化させたα−SiCのターゲットを用いる、(2)レーザとしてSiCの結合エネルギーより僅かに高いエネルギーを持つYAGレーザの4倍波(波長:266nm)か、又はそれ以下の光エネルギーの高調波を用いて、α−SiCを過度に微細化させることなくアブレーションさせる、(3)六回回転対称要素(C 6 )を有する結晶面を持つ基板上にα−SiC結晶を再構築する、(4)それにより、六方晶系構造を有するα−SiCの単結晶性(エピタキシャル)薄膜(ヘテロ結晶性薄膜)を作製することを特徴とする薄膜の作製方法。
- 基板として、1350℃までSiCと反応しない、酸化マグネシウム、又はサファイアを使用することを特徴とする請求項1に記載の薄膜の作製方法。
- 請求項1に記載の薄膜の作製方法により、C 6 を有する結晶面を持つ基板上にα−SiCないし半導体化α−SiCの単結晶性薄膜を作製し、それらにガリウム(Ga) 、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)又は亜鉛(Zn)の燐化物、燐化物、ヒ素化物又は硫化物の半導体の薄膜を積層することを特徴とする多層積層薄膜の作製方法。
- 請求項1に記載の薄膜の作製方法により作製してなる、1350℃までSiCと反応しない、酸化マグネシウム、又はサファイアの基板上に作製したα−SiCないし半導体化α−SiCの単結晶性薄膜。
- 請求項3に記載の多層積層薄膜の作製方法により作製してなる、1350℃までSiCと反応しない、酸化マグネシウム、又はサファイアの基板上に形成したα−SiCないし半導体化α−SiCの単結晶性薄膜と、他の半導体の薄膜とからなる多層積層薄膜。
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