JP4064717B2 - 核酸塩基配列の解析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬品や検査薬、診断薬等の分野において利用し得る、DNAやRNAなどの核酸の配列情報を解析するための試薬及び解析方法に関する。より詳しくは、疾病や病変の原因を突き止め、その修復処置を講じるための、例えば、検体核酸の一塩基変異、一塩基挿入、一塩基欠損等の微少の核酸配列の違いを検出するための試薬及び方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ヒトゲノムプロジェクトを代表とする研究の遂行により、多数の遺伝子の塩基配列情報が明らかにされてきた。なかでも将来可能とされているテーラーメイド医療(患者の体質に応じて薬を使い分ける医療)と関連して、ゲノムレベルでの個体差の代表である一塩基多型(SNPs)の解読とその応用が注目されている。ヒトゲノムDNAの一塩基変異配列を効率よく識別・検出する手法の開拓は、疾患の診断・予防・治療のみならず、望みのテーラーメイド医療の実現に向けて極めて重要な研究課題である。
蛍光性化合物をプローブとなる核酸鎖にラベルし、検体核酸鎖とのハイブリダイゼーション過程を利用して、検体核酸鎖とプローブ核酸鎖との核酸塩基配列の相同性を検出する手法は、従来から知られている。しかしながら、それらの手法は、何れも、検体核酸鎖と結合したプローブ核酸鎖と、結合していないプローブ核酸鎖を、蛍光測定前に分離するいわゆるB/F分離過程が必要とされ、そのため測定過程が複雑化されるか、或いは特殊な装置の利用が不可欠であった。一方、プローブ核酸及び検体核酸がいずれも単鎖核酸である場合には、一塩基変異、一塩基挿入、一塩基欠損などの微少な核酸配列の違いを充分に検出できない欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、検体核酸鎖と結合したプローブ核酸鎖と、結合していないプローブ核酸鎖を蛍光測定前に分離するいわゆるB/F分離過程を必要とせず、連続的にプローブ核酸・検体核酸間の反応をモニターして、プローブ核酸と検体核酸の反応速度の検出を容易にすることにより、相補性の違いをより厳密に検出する方法とそのための試薬を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖と、単鎖の検体核酸鎖との結合、又は該プローブ核酸単鎖と2重鎖の検体核酸との鎖の交換、に伴う蛍光物質の蛍光挙動の変化を測定することにより、検体核酸鎖とプローブ核酸鎖との相同性を検出する方法に関する。
【0005】
また、本発明は、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖と任意の核酸単鎖とからなる2重鎖と、単鎖の検体核酸鎖との鎖の交換に伴う蛍光物質の蛍光挙動の変化を測定することにより、検体核酸鎖とプローブ核酸鎖との相同性を検出する方法に関する。
【0006】
更に、本発明は、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖、又はエキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖と任意の核酸単鎖とからなる2重鎖と、カチオン性化合物とを含んでなる、検体核酸鎖とプローブ核酸鎖との相同性を検出するための試薬に関する。
【0007】
更にまた、本発明は、下記一般式[1]
【化7】
(式中、nは自然数を表す。)
で示される化合物に関する。
【0008】
本発明者らは、これまで蛍光性化合物と核酸との相互作用について種々研究を重ねてきたが、その過程において、核酸のハイブリダイゼーションに依存して蛍光挙動が変化するプローブ核酸の設計法について知見を得、プローブ核酸鎖と検体核酸鎖との結合に依存して蛍光発光効率が著しく変化する蛍光プローブ核酸の調製を行ない、先に文献発表している[Tetrahedron 53,4265-4270(1997).; Nucleic Acids Res., 27, 2387-2392(1999).; Angew. Chem. Int. Ed., 40, 1104-1106(2001)]。
今回、本発明者らは、更に研究を重ねた結果、プローブ核酸鎖と検体核酸鎖との結合に依存して蛍光化合物のエキサイマー発光が著しく変化する新規な蛍光核酸プローブの調製に成功した。また、一方で、核酸間の結合及び鎖交換を促進する化合物について研究を行った結果、カチオン性イオンを生成する化合物(以下、カチオン性化合物と呼ぶ。)とりわけ親水性基を持つポリカチオン誘導体が極めて有用であることを見出し、更に、カチオン性化合物存在下での2重鎖核酸と単鎖核酸間の鎖交換過程がプローブ核酸と検体核酸間の相同性を厳密に検出する上で有用であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖と、単鎖の検体核酸鎖との結合、又は該プローブ核酸単鎖と、2重鎖の検体核酸との鎖の交換、に伴う蛍光物質の蛍光挙動の変化を測定する場合、或いはエキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖と任意の核酸単鎖とからなる2重鎖と、単鎖の検体核酸鎖との鎖交換過程に伴う蛍光物質の蛍光挙動の変化を測定する場合の蛍光物質の蛍光挙動の変化としては、蛍光物質間のエキサイマー形成に原理を置くものであることが望ましい。
【0010】
本発明において用いられるエキサイマー蛍光を発する蛍光物質としては、エキサイマー蛍光を発する化合物であればどのような化合物でもよいが、好ましくはピレン等の多環芳香族化合物に由来するエキサイマー、例えばビスピレン誘導体等が代表的なものとして挙げられる。
【0011】
本発明において、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質として用いられるビスピレン誘導体としては、例えば下記一般式[1]
【化8】
(式中、nは自然数を表す。)で示される化合物が挙げられる。
【0012】
上記一般式[1]で示されるビスピレン誘導体の中で代表的なものとしては、例えば下式[2]
【化9】
で示される2,2−ビス[(4−ピレニルブチルアミド)メチル]−1,3−プロパンジオールが挙げられる。
【0013】
本発明で用いられるエキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸、例えば上記式[2]で示されるビスピレン誘導体でラベルしたプローブ核酸を調製するために用いられるビスピレン修飾ホスホロアミダイトは、例えば下記の合成スキームに従って合成される。
【化10】
上記スキーム中の(1)〜(7)はそれぞれ以下の通りである。
(1)p−トルエンスルホン酸一水和物,アセトン中
(2)フタルイミドK塩,DMF中
(3)ヒドラジン一水和物,EtOH中
(4)1−ピレン酪酸、N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド,1−ヒドロキシ ベンゾトリアゾール,DMF中
(5)0.1N HCl,THF中
(6)4,4'−ジメトキシトリチルクロライド,4−ジメチルアミノピリジン,ピリ ジン中
(7)2−シアノエチル−N,N,N',N'−テトライソプロピルホスホロジアミダイト,テトラゾール,CH2Cl2中
【0014】
即ち、2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオールを出発原料として、水酸基をイソプロピリデン化により保護して化合物Iを得る。次いで、Gabriel合成法により化合物IIを得、二段階目の加水分解反応においてジアミン体IIIを得る。このジアミン体IIIと1−ピレン酪酸とをDCC脱水縮合させることにより化合物IVが得られる。次に、縮合体IVのイソプロピリデン基を酸により脱保護すれば上記式[2]で示される本発明のビスピレン誘導体Vを得る。DMTr(ジメトキシトリチル)化は、反応部位である一級の水酸基が2個所あるので、常法とは違いジメチルアミノピリジンを触媒として用いて1時間程度で反応を停止させ、できるだけ二置換体の生成を押さえる。これにより得られた化合物VIのもう一方の水酸基をリン酸化することにより、DNA自動合成機に適用可能なビスピレン修飾ホスホロアミダイトユニットを得ることが出来る。
各段階の生成物は1H NMRにより構造確認を行えばよい。
【0015】
本発明で用いられる、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖、例えばビスピレン修飾DNAは、オリゴヌクレオチドの5'−末端にビスピレンアミダイトユニットを導入したものであるが、その合成法としては、例えば、上で得られたビスピレン修飾ホスホロアミダイトユニットを使用し、市販のDNA自動合成機を用いて常法に従って合成を行う方法等が挙げられる。合成後はアンモニア水によって塩基部の脱保護を行い、次いで、逆相高速液体クロマトグラフィー等により精製を行えばよい。
【0016】
本発明の検出方法は、核酸鎖と核酸鎖の結合又は核酸鎖と核酸鎖の交換に伴う蛍光物質の蛍光挙動の変化を測定することにより行うものであるが、該結合反応及び交換反応に際しては、カチオン性化合物の共存下にこれを行うことが好ましい。カチオン性化合物を共存させることにより、該結合反応及び交換反応が促進されるからである。
【0017】
本発明において用いられるカチオン性化合物としては、例えば金属イオンやアンモニウムイオン等のカチオン性イオンを生成し得る化合物が挙げられる。金属イオンとしてはどのような金属イオンでも良いが、特にナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属イオンが好ましい。これらカチオン性イオンを生成する化合物の使用量としては、反応系内において金属イオンの濃度が300mM以上の濃度になるような量を用いることが好ましい。
また、本発明に係るカチオン性化合物としては、多価のカチオン性化合物が好ましいものとして挙げられ、例えば親水性基を有するポリカチオン性化合物等が好ましいが、より好ましいものとしては、親水性側鎖を配したポリカチオン性化合物が挙げられる。これらポリカチオン性化合物の使用量としては、プローブ核酸のアニオン量に対し0.01〜1000倍当量の広い範囲が挙げられる。
【0018】
親水性側鎖を配したポリカチオン性化合物としては、例えば、カチオン性基を形成し得るモノマーから構成されるポリマーを主鎖とし、親水性高分子を側鎖とするグラフト共重合体を例示することができる。
カチオン性基を形成し得るモノマーとしては、リジン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸、グルコサミン、ガラクトサミン等のアミノ糖、アリルアミン、エチレンイミン、ジエチルアミノエチルメタクリート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性合成モノマー等を例示することができる。また、カチオン性基を形成し得るモノマーから構成されるポリマーとしては、これらのカチオン性基を形成し得るモノマーから構成されるポリマーは全て挙げられるが、例えばポリリジン、ポリアリルアミンなどが代表的なものとして挙げられる。
親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の水溶性ポリアルキレングリコール、デキストラン、プルラン、アミロース、アラビノガラクタン等の水溶性多糖類、セリン、アスパラギン、グルタミン、スレオニン等の親水性アミノ酸を含む水溶性ポリアミノ酸、アクリルアミド又はその誘導体をモノマーとして用いて合成される水溶性高分子、メタクリル酸又はアクリル酸或いはこれらの誘導体(例えばヒドロキシエチルメタクリレート等)をモノマーとして用いて合成される水溶性高分子、ポリビニルアルコール及びその誘導体などを例示することができる。
【0019】
より好ましいポリカチオン性化合物としては、例えば、Bioconjugate Chem.,9, 292-299(1998)に記載されているデキストラン側鎖修飾α−ポリ(L−リジン)[以下、「α−PLL−g−Dex」と略記する。]、デキストラン側鎖修飾ε−ポリ(L−リジン)[以下、「ε−PLL−g−Dex」と略記する。]、デキストラン側鎖修飾ポリアリルアミン[以下、「PAA−g−Dex」と略記する。]等を挙げることができる。α−PLL−g−Dex、ε−PLL−g−Dex、PAA−g−Dexの構造式をそれぞれ以下に示す。
【0020】
【化11】
【0021】
【化12】
【0022】
【化13】
【0023】
このようなポリカチオン性化合物の分子量、側鎖及び主鎖の長さ、グラフトの程度などは特に限定されず、具体的な使用目的に応じて決めればよい。また、このようなポリカチオン性化合物の製造法としては、例えば、特開平10−45630号公報に記載されている方法等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る検体核酸鎖としては、単鎖でも2重鎖でもどちらでも良く、また、DNAでもRNAでもオリゴヌクレオチドでも良い。
【0025】
かくして、エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸(エキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖、又はエキサイマー蛍光を発する蛍光物質でラベルしたプローブ核酸単鎖と任意の核酸単鎖とからなる2重鎖)とカチオン性化合物を共に含む試薬を用いて検体核酸の塩基配列を解析することにより、検体核酸鎖とプローブ核酸鎖との相同性、例えばミスマッチの有無等を容易に検出することが出来、核酸配列を厳密に且つ迅速、簡便に精査できる。
また、同試薬を用いる本発明の検出方法によれば、検体核酸の一塩基変異、一塩基挿入、一塩基欠損等の微少の核酸配列の違いを容易に検出することが出来る。
従って、本発明の方法は、DNA一塩基変異の配列解析等に特に有用である。
【0026】
従来の鎖交換反応の追跡は、ラベルしたDNAをプローブとしてゲル電気泳動を利用して行ってきた。この方法は、確実ではあるが操作が煩雑で時間を要すると言う欠点があった。これに対して、本発明の方法ではハイブリダイゼーションに伴って蛍光特性が変化する蛍光プローブを利用するため、溶液中における鎖交換反応を直接モニターすることが可能である。
例えば、ビスピレンでラベルした本発明のプローブ核酸(本発明のビスピレンプローブ)とカチオン性化合物を用いる、本発明に係る鎖交換反応の概念を図1に示す。ターゲットDNAにビスピレンプローブを導入すると、カチオン性化合物によって鎖交換反応が促進されピレンエキサイマー蛍光が発生する。ターゲットDNAに対して完全に相補鎖の関係にあるとき、鎖交換の反応速度は遅く、エキサイマー蛍光が小さくなる。一方、一塩基のミスマッチが存在すると、2本鎖DNAが不安定なため鎖交換反応の速度が速く、それに伴ってエキサイマー蛍光が著しく増大すると考えられる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】
実施例1 ビスピレン修飾ホスホロアミダイトの合成
(1)2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−(O−イソプロピリデン)−1,3−プロパンジオール(化合物I)の合成
フラスコに2,2−ビス(ブロモメチル)−1,3−プロパンジオール 5.0g(19.1mmol)を量り入れ、五酸化二リン上で一晩減圧乾燥させた。これにドライアセトン 50mlを加えて溶解させ、p−トルエンスルホン酸一水和物1.3g(7.07mmol)を加えて室温で一晩撹拌した。その後、10%NaHCO3水溶液 30mlを加えて20分間撹拌した。これを濃縮してアセトンを完全に留去し、析出した結晶をろ取し、水で洗浄した後、五酸化二リン上で減圧乾燥した。 収量:4.8g(収率:83%)、Rf値(CH2Cl2:MeOH=30:1)=0.84。
【0029】
(2)2,2−ビス(フタルイミドメチル)−1,3−(O−イソプロピリデン)−1,3−プロパンジオール(化合物II)の合成
フラスコに化合物I 2.5g(8.33mmol)を量り入れ、五酸化二リン上で一晩減圧乾燥させた。これにドライDMF 15mlを加えて溶解させ、フタル酸イミドのカリウム塩 3.1g(16.6mmol)を加えた。3時間還流した後放冷し、クロロホルムを加えて希釈した。これを水洗し、有機層を無水硫酸ナトリウムで一晩乾燥させた。ろ過後、ろ液を濃縮してクロロホルムを留去し、これにジエチルエーテルを加えて析出した結晶をろ取し、洗浄した後、五酸化二リン上で一晩減圧乾燥した。 収量:2.4g(収率:65%)、Rf値(CH2Cl2:MeOH=50:1)=0.46。
【0030】
(3)2,2−ビス(アミノメチル)−1,3−(O−イソプロピリデン)−1,3−プロパンジオール(化合物III)の合成
化合物II 2.0g(4.60mmol)をエタノール25mlに懸濁させ、ヒドラジン一水和物 2.4ml(46.3mmol)を加えて3時間還流させた。析出した沈殿をろ別し、塩化メチレンで洗浄してろ液を濃縮した。残渣にメタノールを加えて発泡させ、析出した結晶をろ取し、減圧乾燥した。 収量:1.0g(収率:100%)。
【0031】
(4)2,2−ビス[(4−ピレニルブチルアミド)メチル]−1,3−(O−イソプロピリデン)−1,3−プロパンジオール(化合物IV)の合成
フラスコに化合物III 0.32g(1.83mmol)、1−ピレン酪酸 1.0g(3.47mmol)、DCC(N,N'−ジシクロヘキシルカルボジイミド)0.75g(3.66mmol)、HOBT(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)0.49g(3.66mmol)を入れて減圧乾燥させた。それをドライDMF 14mlに溶解させて氷浴上で3時間、次いで室温で一晩撹拌した。析出した尿素をろ別し、DMFで洗浄した。ろ液を濃縮して残渣を塩化メチレンで希釈し、水洗後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、ろ液を濃縮し、残渣にメタノールを加えて析出した結晶をろ別し、ろ液を濃縮してCH2Cl2:MeOH=9:1に溶かした後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:MeOH=9:1)で精製し、目的のフラクションを集めて濃縮した。 収量:0.73g(収率:56%)、Rf値(CH2Cl2:MeOH=9:1)=0.74。
【0032】
(5)2,2−ビス[(4−ピレニルブチルアミド)メチル]−1,3−プロパンジオール(化合物V)の合成
化合物IV 0.70g(0.98mmol)をTHF 63mlに溶解させ、0.1N HCl 7.0mlを加えて70℃、30分間加熱した。水を加えて懸濁させた後、濃縮してTHFを留去した。析出した結晶をろ取し、減圧乾燥した後、更に、結晶を塩化メチレンで洗浄し、減圧乾燥した。 収量:0.40g(収率:59%)、Rf値(CH2Cl2:MeOH=9:1)=0.50。
【0033】
(6)2,2−ビス[(4−ピレニルブチルアミド)メチル]−1−O−(ジメトキシトリチル)−1,3−プロパンジオール(化合物VI)の合成
化合物V 0.60g(0.89mmol)をドライピリジン6mlで3回共沸乾燥し、18.4mlのドライピリジンに懸濁させ、4,4’−ジメトキシトリチルクロライド 0.27g(0.80mmol)、4−ジメチルアミノピリジン0.022g(0.18mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。メタノール10mlを加えて反応の進行を止め、濃縮してメタノールを留去した。酢酸エチルを加えて水洗し、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、ろ過してろ液を濃縮し、酢酸エチルを留去した。塩化メチレンを加えて析出した不純物をろ別し、ろ液を再び濃縮して塩化メチレンを加えた。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:MeOH=15:1)で精製し、濃縮して数mlになったところで、これを冷ヘキサンに滴下し、析出した結晶をろ取して、減圧乾燥した。
収量:0.51g(収率:59%)、Rf値(CH2Cl2:MeOH=15:1)=0.80。
【0034】
(7)2,2−ビス[(4−ピレニルブチルアミド)メチル]−1−O−(ジメトキシトリチル)−1,3−プロパンジオールホスホロアミダイト(化合物VII)の合成
バイアル瓶に化合物VI 0.48g(0.50mmol)、テトラゾール 0.035g(0.50mmol)及び撹拌子を入れ、一晩減圧乾燥した。ドライ塩化メチレン 2.3mlを加えて溶解させ、リン酸化試薬(2−シアノエチル−N,N,N',N'−テトライソプロピルホスホロジアミダイト)0.23ml(0.75mmol)を加えて室温下で2.5時間撹拌した。酢酸エチル:TEA(トリエチルアミン)=20:1の溶液で1.5倍に希釈し、10% NaHCO3水溶液で抽出、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、ろ液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2:酢酸エチル:TEA=6:3:1)で精製し、目的のフラクションを集めて濃縮した後、バイアル瓶に移して真空ポンプで減圧にし、凍結乾燥した。 収量:0.24g(収率:41%)、Rf値(CH2Cl2:酢酸エチル:TEA=6:3:1)=0.84。
【0035】
実施例2 DNAオリゴマーの合成
下記の表1に示すDNAオリゴマーの合成を、ABI社製のDNA自動合成機を用いて1.0μmolスケールで行った。表中のBPyrは、5'−末端にビスピレンアミダイトユニット(前記化合物VII)を導入したビスピレン修飾DNAオリゴマーである。なお、ビスピレンアミダイトユニットはドライ塩化メチレンに0.11Mの濃度になるように溶解させて用いた。コントロールとしては、野生型(コントロール1)と一塩基のミスマッチが存在するもの(コントロール2〜4)を合成した。
合成したDNAオリゴマーは、28%アンモニア水中55℃で11時間処理することにより塩基部の脱保護を行った。その後、ビスピレン修飾DNAオリゴマーは逆相高速液体クロマトグラフィー[カラム:逆相コスモシール5C18 AR300(4.6×150mm2)、溶出液:50mMトリエチルアンモニウム−酢酸緩衝液(TEAA、pH=7.0)及びCH3CN、グラジエントは初期濃度TEAA:CH3CN=95:5で、CH3CNの濃度を0.5%/minの割合で上昇、流速:1.0ml/min]を用いて精製した。未修飾のDNAオリゴマーは20%変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した後、ウォーターズ SEP−PAK C18カートリッジにより脱塩処理(サンプル回収は40%アセトニトリル/水(V/V)で行った。)し、目的のDNAオリゴマーを得た。各DNAオリゴマーのシークエンスを表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例3 各DNAオリゴマーの相補鎖DNAとの相互作用及び諸性質の比較
(1)UV融解測定
合成した各オリゴマーの相補鎖DNAとの2本鎖に関して、260nmにおける温度に対する相対吸光度をプロットしたUV融解曲線を作成した(全DNA鎖濃度:2.15μmol)。結果を図2に示す。図2中、■はBPyr、●はコントロール1(野生型)、◇はコントロール2(T→G)、△はコントロール3(T→A)、×はコントロール4(T→C)についてのUV融解曲線をそれぞれ示す。
図2から明らかなように、ビスピレン修飾DNAとその相補鎖DNAとの2本鎖は、典型的なシグモイドカーブを示し、未修飾DNAの2本鎖と同様に、低温側では2本鎖を形成し温度が上昇するにつれて1本鎖に解離していることが判る。
【0038】
(2)熱安定性
(1)のUV融解測定の値からそれぞれの半解離温度を求めた。表2にそれぞれの半解離温度を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなように、ビスピレン修飾DNAと野生型(コントロール1)は高い熱安定性を示した。一方、一塩基のミスマッチが存在するもの(コントロール2〜4)は、ビスピレン修飾DNAより半解離温度が低くなり、熱安定性の低下が観測された。
【0041】
(3)ビスピレン修飾DNAの蛍光スペクトル
【0042】
ビスピレン修飾DNAの1本鎖と2本鎖のそれぞれについて蛍光測定した結果を図3に示す。測定は励起波長334nm、励起側バンド幅5.0nm、蛍光側バンド幅5.0nmでスキャンスピード60nm/minで行った。グラフは1本鎖の480nmの蛍光強度を1として相対的にプロットした。
図3中、実線は1本鎖の場合、波線は2本鎖の場合の測定結果をそれぞれ示す。
図3から明らかなように、ハイブリダイゼーションに伴って480nmのピレンエキサイマー蛍光が35倍に増加することが判った。
【0043】
実施例4 鎖交換反応に関する実験
鎖交換反応におけるピレンエキサイマー蛍光の変化を下記の操作手順により測定した。
各コントロールの2本鎖(5μmol,1ml)に、ビスピレン修飾DNA(2.5μmol,5μl)を加え、それにPLL−g−Dex(10μmol,10μl)を加えた後、時間毎の蛍光強度を13℃で測定した。測定は励起波長334nm、励起側バンド幅5.0nm、蛍光側バンド幅5.0nmで、スキャンスピード1500nm/min、30秒間隔で20分間繰り返し行った。
結果を図4に示す。グラフは横軸を時間、縦軸を鎖交換反応率としてプロットしたものである。鎖交換反応率は同濃度のビスピレン修飾DNAの480nmでの蛍光強度を0%、2本鎖を組んだときの蛍光強度を100%として算出した。図4から明らかなように、半解離温度が低い順に鎖交換反応率が高くなることが判った。
【0044】
これらの事実から、結論として言えることは、
(1)一塩基のミスマッチをもつDNAは、野生型より鎖交換反応が速く進み、蛍光強度が大きくなる。
(2)ビスピレンプローブとカチオン性化合物を併用した鎖交換反応は、DNA一塩基変異の配列解析に特に有用である。
(3)一塩基のミスマッチをもつDNAの中でも、その塩基の種類によって差がみられることから、本発明の方法によれば、塩基判別が出来る可能性があると考えられる。
等々である。
【0045】
【発明の効果】
核酸配列の微細な変化が遺伝子機能に強く影響を及ぼすことが知られている。とりわけ遺伝子内の一塩基多型は、疾病に対する罹患率、医薬作用および副作用の個人差に関連し、この解析がテーラーメード医療(患者の体質に応じて薬を使い分ける医療)の実現に不可欠である。微細な核酸配列の違いを検出する手法は、これまでにも種々検討されているが、これまでのものは何れも時間やコスト面で充分な性能を持たず、且つ操作が複雑であるなどの欠点を有している。一塩基多型などの微細な遺伝子配列の変化は、その総数が極めて多く、迅速、安価、簡便な検査手法が強く求められている。斯かる現状において、蛍光物質でラベルしたプローブ核酸とカチオン性化合物とを含んでなる試薬を用いる本発明の検出方法によれば、検体核酸の一塩基変異、一塩基挿入、一塩基欠損等の微少の核酸配列の違いを容易に検出することが出来、且つ核酸配列を厳密に克つ迅速、簡便に精査できると言うことは、単なる疾患の診断・予防・治療のみならず、テーラーメード医療の実現に向けて、極めて重要且つ意義のあることである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る鎖交換反応の概念を図式化したものである。
【図2】図2は、合成した各オリゴマーの相補鎖DNAとの2本鎖に関して、260nmにおける温度に対する相対吸光度をプロットしたUV融解曲線である。
【図3】図3は、本発明に係るビスピレン修飾DNAの1本鎖と2本鎖のそれぞれについて蛍光測定した結果を示す。
【図4】図4は、コントロールの2本鎖と、本発明に係るビスピレン修飾DNAとの鎖交換反応におけるピレンエキサイマー蛍光の変化を示す。
Claims (19)
- 鎖の交換反応をカチオン性イオンを生成する化合物(以下、カチオン性化合物と呼ぶ。)の共存下に行う請求項1又は2に記載の方法。
- カチオン性イオンが金属イオン又はアンモニウムイオンである請求項3に記載の方法。
- 金属イオンがアルカリ金属イオンである請求項4に記載の方法。
- カチオン性イオンの濃度が300mM以上である請求項4又は5に記載の方法。
- カチオン性化合物が多価のカチオン性化合物である請求項3に記載の方法。
- カチオン性化合物が親水性基をもつポリカチオン性化合物である請求項3に記載の方法。
- カチオン性化合物が親水性側鎖を配したポリカチオン性化合物である請求項3に記載の方法。
- 検体核酸の一塩基変異配列が、検体核酸の一塩基置換、一塩基挿入 又は一塩基欠損である、請求項1〜9の何れかに記載の方法。
- カチオン性イオンが金属イオン又はアンモニウムイオンである請求項11又は12に記載の試薬。
- 金属イオンがアルカリ金属イオンである請求項13に記載の試薬。
- カチオン性イオンの濃度が反応系内で300mM以上の濃度になるような量である請求項13又は14に記載の試薬。
- カチオン性化合物が多価のカチオン性化合物である請求項11又は12に記載の試薬。
- カチオン性化合物が親水性基をもつポリカチオン性化合物である請求項11又は12に記載の試薬。
- カチオン性化合物が親水性側鎖を配したポリカチオン性化合物である請求項11又は12に記載の試薬。
- 検体核酸の一塩基変異配列が、検体核酸の一塩基置換、一塩基挿入又は一塩基欠損である、請求項11〜18の何れかに記載の試薬。
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