JP4060100B2 - 遮水・導水用シート状積層構造物並びに地下水保全方法及びシステム。 - Google Patents
遮水・導水用シート状積層構造物並びに地下水保全方法及びシステム。 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は土壌に浸透した水を遮水・導水するためのシート状構造物に関するものであり、さらにはこれを利用した地下水保全方法及びシステムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、世界各国で土壌汚染に伴う地下水汚染が深刻化してきている。地下水汚染の原因としては、産業廃棄物によるものの他、農薬や肥料による農業汚染が注目されている。中でも、過剰な窒素肥料の投与や家畜の糞尿を垂れ流しなどが原因である硝酸性窒素の汚染が広がってきており、特に我が国や欧米でその対策が急務となっている。
【0003】
これらの農業汚染に対しては、これまでにいくつかの対策が提案されている。例えば、施肥量を減少させ農作物の生長に伴い施肥量を調整する方法が検討されている。これは最も抜本的な対策ともいえるが、全ての農地で施肥量の調整を行うのは実際上困難であるばかりか、多肥集約農業の妨げになり、農産物生産コストの大幅上昇に繋がるという問題がある。
【0004】
また、汚染された地下水を帯水層から揚水し、浄化施設で浄化処理を行なった後に農業用水として再利用したり帯水層に還元するという揚水処理法が提案されている。しかし、この方法は汚染を防止するものでなく事後的に処理するにすぎないものであって、部分的な水質浄化にとどまり、また、地下水系が複雑な箇所での応用が困難であり、地下水の汲み上げによる地盤沈下の懸念もある。
【0005】
一方、特開平11−128905号公報には汚染土壌下に設けた横穴に浄化用担体を充填した汚染浄化ユニットを配置して、汚染物質が帯水層に漏洩することを防ぐ「地中遮断処理システム」を構築する方法が開示されている。しかし、このシステムでは、除去する汚染物質の種類や目的とする汚染物質の浄化態様に応じて浄化用担体を選択しなければならず、新たな汚染物質の発生した場合その除去には対応しにくい。また、浄化用担体の浄化能力についてモニタリングしにくいうえ、浄化用担体の能力が飽和した際には再度の設置(交換)を要するという問題があり、さらには、汚染水を帯水層に到達させないためには相当数のユニットを縦横に設置する必要があり、実際上完全に漏洩を防ぐのは困難であると思われる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記のような現状を見るにつけ、土壌中に浸透した浸透水が帯水層に到達する前に面で捕らえて、帯水層以外の場所へ導水できれば上記の問題を解決できると考え、さらには、汚染防止に限らず、浸透水を利用するような他の用途へも応用が可能であると考えた。
そこで、本発明の課題は、土壌に浸透した浸透水を遮断・導水できるシート状構造物並びにびこれを利用した地下水保全方法及びシステムを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を達成するものであり、第一に、少なくとも3層からなるシート状積層構造物であって、遮水層の上には導水層が配され、導水層の上には導水層への土砂等の侵入を防ぐ濾過層が配されてなり、該導水層は、5kg/cm 2 載荷時において、導水層の勾配3%のときの面内透水係数が0.1cm/sec以上であり、導水層の端部において水を排出すべき箇所を除いて導水経路が封止されている
ことを特徴とする遮水・導水用シート状積層構造物を要旨とするものである。第二に、上記の遮水・導水用シート状積層構造物を汚染土壌と該土壌下の帯水層との間に設置して、土壌に浸透した汚染水を集めることを特徴とする地下水保全方法を要旨とするものである。第三に、汚染土壌と該土壌下の帯水層との間に設置された上記の遮水・導水用シート状積層構造物と、該遮水・導水用シートにより集められた水を入れるための水槽とを有して構成されることを特徴とする地下水保全システムを要旨とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の遮水・導水用シート状積層構造物(以下、本積層構造物と略記することがある。)について説明する。本積層構造物は、図1に示すように、遮水層4と、その上に配された導水層3と、さらにその上に配された濾過層2との少なくとも3層からなるシート状構造物である。本積層構造物は、土中に設置されて、土中に浸透して降下して来た水を、濾過層で土砂等を濾過し、導水層により導水でき、また、遮水層により本積層物直下へは浸透してきた水を降下させないという機能を有する。
【0009】
本積層物を構成する各層について説明する。
濾過層としては、導水層への土砂等の侵入を防ぐことを目的に配されるものであり、当該目的を達成できるものであれば特に限定されるものではないが、不織布が好ましい。不織布としては、長繊維不織布、短繊維不織布のどちらでもよいが、厚み2mm以上、さらには2〜10mmの不織布が好ましい。濾過層として厚み2mm以上の不織布を用いることは、濾過効果が十分に得られることに加えて、また導水層や遮水層に対してのクッション効果が得られる点で好ましい。不織布の材質としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の合成繊維が好ましく用いられ、使用環境に応じた耐性(耐薬品性等)を有するものを適宜選択することができる。
【0010】
また、土砂等の粒子が細かい場合には、濾過層として織物を不織布と共に用いることが、濾過性能を向上できるので好ましい。この場合の織物としては、下記式で示されるカバーファクター(CF)が1000〜2000である織物が好ましい。
【0011】
【数1】
ただし、CF:カバーファクター値
N1:経糸の織り密度(本/2.54cm)
N2:緯糸の織り密度(本/2.54cm)
D1:経糸の繊度(デシテックス)
D2:緯糸の繊度(デシテックス)
ρ1:経糸の素材の密度(g/cm3)
ρ2:緯糸の素材の密度(g/cm3)
【0012】
次に、導水層について説明する。導水層としては、上部から浸透した水を面方向に流すことのできる溝や連続空隙等の導水経路を有する層であれば、特に限定されるものではない。具体的には、プラスチック等の波板や、硬質スポンジ、樹脂粒子同士を接着させた多孔質成形体等を利用することができるが、施工性等の観点から、繊維材料からなる繊維構造物が好ましい。
【0013】
そのような繊維構造物としては、合成繊維からなる織編物を用いることができるが、上下の地組織を連結糸条で連結した立体編物が特に好ましく、導水層として十分な厚みと空隙を容易に確保することができる。導水層として用いる繊維構造物の厚みは2〜50mmが好ましく、5〜30mmがより好ましい。厚みが2mm未満では導水性能が不足する傾向にあり、一方、50mmを超えるものは製造が困難になり、またそれ以上厚くしても実用性能の向上に寄与し難く、敷設時の作業性も悪くなるので好ましくない。
【0014】
また、繊維構造物には、単糸径が0.1mm以上、特に単糸径が0.2〜0.5mmのモノフィラメントを30質量%以上含んでいることが、上方からの荷重に抗して空隙を保持できる点で好ましい。立体編物においては、そのようなモノフィラメントを連結糸状に用いるとより効果的である。また、十分な導水性能を確保するために、導水層としての繊維構造物における無載荷時の単位体積あたりの繊維充填率としては、1〜40%が好ましく、5〜20%がより好ましい。繊維充填率が1%未満では、上からの荷重に耐えることが困難になる傾向にあり、一方、40%を超えると導水のための空隙が不足する傾向にある。
【0015】
また、導水層の導水性能としては、土壌あるいは濾過層の面内透水係数の数倍から数十倍の性能を有することが好ましく、上部からの荷重を考慮し、5kg/cm2載荷時において、導水層の勾配3%のときの面内透水係数が0.1cm/sec以上であることが必要である。なお、導水層の端部においては、水を排出すべき箇所を除いて導水経路を封止しておくことが必要であり、これにより本積層物の周囲に水が漏れるのを防ぐことができる。
【0016】
次に、遮水層について説明する。遮水層としては、水を遮断できる層であれば特に制限されるものではないが、具体的に例示すれば、合成ゴム系シート、合成樹脂製シート、繊維補強合成樹脂複合シート、アスファルト系シート、ベントナイト系シート等のシート状物が挙げられる。遮水層の厚みとしては、1mm以上が好ましく、1.5〜10mmがより好ましい。
【0017】
遮水層に用いることのできる合成ゴム系シートとしては、加硫および未加硫ゴムからなるもの、具体的にはエチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン及びこれらの混合物等からなるシートが挙げられる。
また、合成樹脂製シートとしては、ポリ塩化ビニル樹脂系、ポリウレタン樹脂系、ポリエチレン樹脂系(高密度、中密度、低密度)、塩素化ポリエチレン系及びエチレン−酢酸ビニル共重合体系等の樹脂シートが挙げられる。
また、繊維補強合成樹脂複合シートとしては、上記したような合成樹脂製シートを構成する合成樹脂からなるマトリックスと、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ビニロン系繊維、ポリアラミド系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリウレタン系繊維およびポリフルオロエチレン系繊維等の補強繊維とで構成された複合シート類が挙げられる。繊維補強合成樹脂複合シートとしては、布帛に樹脂コーティングしたターポリンタイプのものが特に好適に使用できる。
また、ベントナイト系シートとしては、ポリエチレンシート上にベントナイトを積層したものが市販されており、好適に使用できる。
【0018】
本積層構造物は、上記したような濾過層、導水層、遮水層からそれぞれ適宜選択して組み合わせることにより構成すればよいが、濾過層/導水層/遮水層の特に好ましい組み合わせを挙げれば、不織布/繊維構造物/樹脂シート、織物・不織布/繊維構造物/樹脂シート等である。
【0019】
次に、本積層構造物の使用態様について説明する。
図2に示すように、表面土壌5と該土壌下の帯水層7との間に本積層構造物1を設置することにより、本積層構造物1の上の土壌に浸透した水は濾過層で濾過され、帯水層7に達することなく導水層により導水される。すなわち、本積層構造物により、遮水と導水の2つの目的が達成される。導水層により導水された水は、所定の場所に集めることができる。
【0020】
導水層内の水を所定の場所に集める手段としては、導水層の一端からポンプで吸引したり、他端からガス圧で押し出す等の手段を取ることもできるが、最も簡便で効率がよいのは、本積層構造物を傾斜させる等、勾配を付けて設置することにより、重力を利用する方法、すなわち、水が高いところから低いところへ流れるという性質を利用する方法である。
具体的には、例えば図2に示すように傾斜をつけて本積層構造物1を設置することにより、導水層の一端から水を排出させて集めることができる。
【0021】
導水層内の水を端部より排出させて水槽等の比較的狭い箇所に集める具体的な方法としては、次のような方法がある。例えば図3に示すように、本積層構造物1の一端に沿って暗渠11を設け、この暗渠を通じて集水する方法がある。また、図4に示すように、本積層構造物1の端部近傍において、導水流12を誘導するための仕切り13を設けて、水槽14等に集める方法がある。また、図5に示すように、本積層構造物1を傾斜させると共に湾曲させて設置する方法もある。これらの方法においては、前記したように、目的外の場所へ水が排出されないよう、端部を封止しておくことが必要である。さらには、図6に示すように、四角形状の本積層構造物1について、最大傾斜線が対角線と平行になるように傾斜させて設置する方法もある。この場合、最下部に位置するコーナー付近以外の端部を封止しておけば、水は自然と当該コーナー付近に導水され、そこから排出させて集めることができる。なお、上記の各図中においては、導水流を矢印で示したが、これは導水流が進行する概ねの方向を表すものにすぎず、例えば導水層に立体編物等の繊維構造物を用いた場合、実際には層方向に拡散しつつ全体としては概ね矢印の方向へ進行する。
【0022】
本積層構造物は、汚染土壌、すなわち、既に汚染されている土壌もしくは事後的に汚染が予想される土壌において、汚染物質が帯水層に漏れ出るのを防ぐ目的に好適に利用できる。すなわち、図7に示すように、本積層構造物1を汚染土壌16と該土壌下の帯水層7との間に設置して、土壌に浸透した汚染水17を導水して集めることにより、地下水10を保全することができる。集められた汚染水は、別の場所へ移送して処理してもよいが、オンサイトで浄化処理することにより、農業用水として再利用したり、土壌を通じて帯水層へ還すこともできるので好ましい。そのような浄化処理方法としては、公知の方法を用いることができるが、本発明の好適な利用対象である農業汚染に関していえば、汚染水中の硝酸性窒素を除去する方法として、イオン交換膜法や電気透析処理法、あるいは微生物による分解除去法等が挙げられる。本発明でいう浄化処理とは、化学的、物理的もしくは微生物的処理により汚染物質を除去もしくは無害物質に変換することに加え、所定の担体に固定化して後工程で汚染物質を処理することを含む。
【0023】
以上において、土壌に浸透する水としては、通常は雨水や農業用水が想定されるが、汚染土壌の浄化においては、洗浄剤を含んだ洗浄液を浸透させることにより、積極的な土壌の浄化を行なうことも可能である。
【0024】
上記のような本積層構造物を利用して、図8に示すように、汚染土壌16と該土壌下の帯水層7との間に設置された本積層構造物1と、本積層構造物1により集められた水を入れるための水槽14とを有し、好ましくは集められた水を浄化処理する装置18とを有する地下水保全システムを構成することができる。このシステムを多肥集約型農地に導入することにより、近年特に問題となっている農業汚染の問題を解決して、自然にやさしく効率のよい農業生産が可能になる。
【0025】
【発明の効果】
本発明の遮水・導水シート状構造物により、土壌に浸透した水を帯水層に到達させることなく面で捕らえて導水し、特定の場所に集めることができる。したがって、土壌浸透水の利用もしくは浄化処理を行なう種々の用途に使用が可能であるが、特に、農業汚染に代表される土壌汚染に関し、汚染土壌と帯水層との間に埋没させて設置することにより、地下水を汚染させることなく浄化するという地下水保全方法が実現される。本発明によれば、そのような地下水保全システムを簡便に構築することができ、多肥集約型農業による汚染対策として極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物の積層構造を示す断面図である。
【図2】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物の使用態様を示す地中断面図である。
【図3】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物を使用した集水方法を説明するための斜視図である。
【図4】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物を使用した集水方法を説明するための斜視図である。
【図5】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物を使用した集水方法を説明するための斜視図である。
【図6】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物を使用した集水方法を説明するための斜視図である。
【図7】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物を利用した地下水保全方法を説明するための地中断面図である。
【図8】本発明の遮水・導水用シート状積層構造物を利用した地下水保全システムの概略構造を例示する断面図である。
【符号の説明】
1:本発明の遮水・導水用シート状積層構造物
2:濾過層
3:導水層
4:遮水層
5:表面土壌
6:土壌
7:帯水層
8:不透水層
9:浸透水
10:地下水
11:暗渠
12:導水流
13:仕切り
14:水槽
15:封止部
16:汚染土壌
17:汚染水
18:浄化処理装置
Claims (10)
- 少なくとも3層からなるシート状積層構造物であって、遮水層の上には導水層が配され、導水層の上には導水層への土砂等の侵入を防ぐ濾過層が配されてなり、該導水層は、5kg/cm 2 載荷時において、導水層の勾配3%のときの面内透水係数が0.1cm/sec以上であり、導水層の端部において水を排出すべき箇所を除いて導水経路が封止されていることを特徴とする遮水・導水用シート状積層構造物。
- 濾過層は、厚み2mm以上の不織布からなることを特徴とする請求項1記載の遮水・導水用シート状積層構造物。
- 濾過層は、織物と厚み2mm以上の不織布とからなることを特徴とする請求項1記載の遮水・導水用シート状積層構造物。
- 導水層は、繊維材料からなり、単糸径が0.1mm以上のモノフィラメントを30質量%以上含み、かつ無載荷時の単位体積あたりの繊維充填量が1〜40%であり、2〜50mmの厚みを有する繊維構造物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の遮水・導水用シート状積層構造物。
- 遮水槽は、合成ゴム系シート、合成樹脂製シート、繊維補強合成樹脂複合シート、アスファルト系シート、及びベントナイト系シートから選択される1種以上の材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の遮水・導水用シート状積層構造物。
- 表面土壌と該土壌下の帯水層との間に設置され、土壌に浸透した水を集めるのに使用されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の遮水・導水用シート状積層構造物。
- 汚染土壌中の汚染物質が該土壌下の帯水層に漏れ出るのを防ぐために使用されることを特徴とする請求項6に記載の遮水・導水用シート状積層構造物。
- 請求項1乃至5のいずれかに記載の遮水・導水用シート状積層構造物を汚染土壌と該土壌下の帯水層との間に設置して、土壌に浸透した汚染水を集めることを特徴とする地下水保全方法。
- 汚染土壌と該土壌下の帯水層との間に設置された請求項1乃至5のいずれかに記載の遮水・導水用シート状積層構造物と、該遮水・導水用シートにより集められた水を入れるための水槽とを有して構成されることを特徴とする地下水保全システム。
- 集められた水を浄化処理する装置を有して構成されることを特徴とする請求項9に記載の地下水保全システム。
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