JP4057107B2 - ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離されるグルコマンナン及びこれを有効成分とする抗腫瘍剤 - Google Patents

ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離されるグルコマンナン及びこれを有効成分とする抗腫瘍剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハラタケ属(Agaricus)のきのこであるヒメマツタケ(Agaricus blazei)、通称カワリハラタケの培養物から分離されるグルコマンナン及びこれを有効成分とする抗腫瘍剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
きのこの培養物から分離される水溶性成分に各種薬理作用のあることが報告されている。ヒメマツタケについては、その子実体から分離される水溶性の酸性多糖体成分、中性多糖体成分及び蛋白多糖体成分に抗腫瘍作用のあることが報告されており(特開平1−67194、特開平1−67195、特開平2−78630)、またその子実体から分離される水溶性の複合成分に肝機能改善作用、抗癌作用及び免疫能低下改善作用のあることが報告されていて(特開平2−124829、特開平6−128164、特開平7−258107)、更にその培養菌糸体や培養濾液から分離される水溶性の多糖体成分に抗腫瘍作用のあることが報告されている(特開昭55−108292、特開昭55−108293)。ところが、これら従来の報告では、ヒメマツタケ培養物から分離される多種多様の水溶性成分のうちで、何が薬理作用を示す本体であるのか、特に抗腫瘍作用を示す本体であるのか、明らかにされていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、ヒメマツタケ培養物から分離される多種多様の水溶性成分のうちで、何が強い抗腫瘍作用を示すのかを解明し、よってより有効な抗腫瘍剤を提供する処にある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明者らは、上記課題を解決するべく研究した結果、ヒメマツタケ培養物から分離される多種多様の水溶性成分のうちで、強い抗腫瘍作用を示すものは、ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離される特定構造のグルコマンナンであることを知見した。
【0005】
すなわち本発明は、ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離される、下記の式1で示される繰返し単位で構成されたβ−1,2結合のマンノース鎖を主鎖とするグルコマンナンと、このグルコマンナンを有効成分とする抗腫瘍剤とに係る。
【0006】
【式1】
Figure 0004057107
【0007】
式1において、
Glc:グルコース残基
Man:マンノース残基
【0008】
本発明では、ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液を用いる。これらは、担子菌の培養に通常用いられる固体培養法又は液体培養法で得ることができるが、操作の便宜上、液体培養法で得るのが好ましい。例えば、グルコール、サッカロース、マルトース等の炭素源、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム等の窒素源、麦芽エキス、酵母エキス、コーンステイプリカ等の天然複合栄養源、リン酸塩、マグネシウム塩、カリウム塩等の無機塩及びその他の微量元素からなるpH6.0前後に調整した通常の殺菌済み液体培地に、ヒメマツタケの種菌を接種し、温度30℃前後で10〜25日間程度、雑菌汚染を防止しつつ好気条件下に振とう培養又は通気撹拌培養すると、菌糸体が生育するので、この段階で培養系を遠心分離又は濾過することによりヒメマツタケの培養菌糸体と培養濾液とを得ることができる。
【0009】
本発明のグルコマンナンは前記のようなヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離される水溶性多糖体である。詳しくは後述するが、ヒメマツタケの培養菌糸体からは、次のようにして本発明のグルコマンナンを分離できる。先ず、ヒメマツタケの培養菌糸体の乾燥物を熱水抽出し、抽出液を得る。この抽出液を濃縮し、その濃縮液をアルコール沈澱して、沈澱物を得る。この沈澱物の水溶液を塩析により除蛋白し、非蛋白質画分を得る。次に、この非蛋白質画分をステップワイズ法によりイオン交換クロマトグラフィーで分画し、水溶出画分、0.5M塩化ナトリウム水溶液溶出画分及び1.0M塩化ナトリウム水溶液溶出画分を得る。これらの溶出画分の主要多糖体を箱守法により完全メチル化した後、完全加水分解を行ない、アルジトール化及びアセチル化して、GC/MSで解析し、併せて13C−NMRで解析すると、β−1,2結合のマンノース鎖を主鎖とする数平均分子量10万〜250万(GPC法、プルラン換算、以下同じ)のグルコマンナンが含まれている。
【0010】
また前記0.5M塩化ナトリウム水溶液溶出画分をグラジェント法により更にイオン交換クロマトグラフィー及びゲルクロマトグラフィーで繰返し精製して、実質的に単一ピークの精製画分を得る。この精製画分には、これを上記と同様にGC/MSで解析し、併せて13C−NMRで解析すると、式1で示される繰返し単位で構成された平均分子量2083000のグルコマンナンが含まれている。
【0011】
ヒメマツタケの培養濾液から本発明のグルコマンナンを分離する場合には、培養濾液を濃縮し、その濃縮液をアルコール沈澱して、沈澱物を得る。以下この沈澱物を前記と同様に処理して、式1で示される繰返し単位で構成されたβ−1,2結合のマンノース鎖を主鎖とするグルコマンナンを得る。
【0012】
かくしてヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離したグルコマンナンは、ザルコーマ180固型癌を移植したICR/Slc系マウスに対して顕著な抗腫瘍活性を示す。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態としては、下記の1)又は2)が好適例として挙げられる。
1)担子菌用の液体培地にヒメマツタケの種菌を接種し、好気条件下に30℃で14日間振とう培養して菌糸体を生育させる。培養系を遠心分離して菌糸体を得る。菌糸体に10倍量の精製水を加え、煮沸下に2時間熱水抽出し、抽出液を得る。抽出液を1/10に減圧濃縮した後、遠心分離して上澄液を得る。上澄液に等量の99%エチルアルコールを加えて多糖体を沈澱させ、遠心分離して沈澱物を得た後、凍結乾燥する。凍結乾燥物を硫酸アンモニウムで塩析して、蛋白質画分と非蛋白質画分とに分画する。非蛋白質画分をDEAE−Sepharose CL−6B ゲルクロマトグラフィーで分画する。溶出は、ステップワイズ法により、蒸留水、0.5M塩化ナトリウム水溶液、1.0M塩化ナトリウム水溶液及び2.0M塩化ナトリウム水溶液を用いて行なう。蒸留水溶出画分、0.5M塩化ナトリウム水溶液溶出画分及び1.0M塩化ナトリウム水溶液画分に本発明のグルコマンナンが含まれている。
【0014】
前記の0.5M塩化ナトリウム水溶液溶出画分をグラジェント法により更にDEAE−Sepharose CL−6B ゲルクロマトグラフィーで繰返し精製して、実質的に単一ピークの精製画分を得る。精製画分には本発明のグルコマンナン、すなわち式1で示される繰返し単位で構成されたβ−1,2結合のマンノース鎖を主鎖とするグルコマンナンが含まれている。かくしてヒメマツタケの培養菌糸体から分離される、式1で示される繰返し単位で構成されたβ−1,2結合のマンノース鎖を主鎖とするグルコマンナン。
【0015】
2)前記1)のグルコマンナンを有効成分とする抗腫瘍剤。
【0016】
【実施例】
グルコース20g、酵母エキス15g、リン酸水素カリウム10g、硫酸マグネシウム・7水和物2g、塩化カルシウム0.1g及び炭酸カルシウム0.4gを水1リットルに溶解したpH5.5の液体培地に、ヒメマツタケの種菌を接種し、好気条件下に、30℃で14日間振とう培養し、菌糸体を生育させた。培養系を遠心分離して菌糸体を得た。菌糸体に10倍量の精製水を加え、100℃で2時間、撹拌しつつ煮沸下に熱水抽出し、抽出液を得た。抽出液を1/10に減圧濃縮し、冷却した後、遠心分離して上澄液を得た。上澄液に等量の99%エチルアルコールを加えて多糖体を沈澱させ、遠心分離して沈澱物を得た後、凍結乾燥した。凍結乾燥物の水溶液を硫酸アンモニウムで塩析し、蛋白質画分と非蛋白質画分とに分画した。凍結乾燥物に対する各画分の回収率は18.0%、66.4%であった。
【0017】
ICR/Slcマウス腹腔内で継代されているサルコーマ180腹水癌を腋窩部皮下に移植し、移植24時間後より、前記の蛋白質画分と非蛋白質画分とを、マウスの体重1kg当たり10mgの割合で腹腔内に投与した。投与回数は1日に1回の割で10日間とした。移植4週後に腫瘍の直径を測定し、それを対照群と比較して腫瘍抑制率を算出した。また移植5週後に腫瘍完全消失率と死亡率とを調べた。結果を表1に示した。
【0018】
【表1】
Figure 0004057107
【0019】
表1において、
腫瘍抑制率:投与群の腫瘍体積をTとし、対照群の腫瘍体積をCとした場合の(1−T/C)×100で示した。
腫瘍完全消失率:試験に供したマウスの数に対する腫瘍が完全に消失したマウスの数で示した。
死亡率:試験に供したマウスの数に対する死亡したマウスの数で示した。
これらは以下同じ。
【0020】
強い抗腫瘍活性が認められた前記の非蛋白質画分をDEAE−Sepharose CL−6B ゲルクロマトグラフィーで分画した。溶出は、ステップワイズ法により、蒸留水、0.5M塩化ナトリウム水溶液、1.0M塩化ナトリウム水溶液、2.0M塩化ナトリウム水溶液を用いて行なった。非蛋白質画分に対する各溶出画分の回収率は12.5%、70.8%、3.8%、2.8%、0.7%であった。
【0021】
ICR/Slcマウス腹腔内で継代されているサルコーマ180腹水癌を腋窩部皮下に移植し、移植24時間後より、前記の各溶出画分を、マウスの体重1kg当たり10mgの割合で腹腔内に投与した。投与回数は1日に1回の割で10日間とした。移植3週後に腫瘍体積を求め、それを対照群と比較して腫瘍抑制率を算出した。また移植5週後に腫瘍完全消失率を調べた。結果を表2に示した。
【0022】
【表2】
Figure 0004057107
【0023】
表2において、
FA−1a:蒸留水溶出画分
FA−1b:0.5M塩化ナトリウム水溶液溶出画分
FA−1c:1.0M塩化ナトリウム水溶液溶出画分
*:対照群と比較して0.05%の危険率で有意差のあることを示す
【0024】
特に強い抗腫瘍活性が認められた0.5M塩化ナトリウム水溶液溶出画分をグラジェント法により更にDEAE−Sepharose CL−6B ゲルクロマトグラフィーで繰返し精製して、実質的に単一ピークの精製画分を得た。精製画分の平均分子量は2083000であった。精製画分を箱守法により完全メチル化した後、完全加水分解を行ない、アルジトール化及びアセチル化して、GC/MSに供したところ、ガスクロマトグラム上に主要な四つのピーク(No.1,No.2,No.4及びNo.9)が検出された。これらのピークの表3に記載したマススペクトル及び表4に記載したガスクロマトグラム上の相対的保持時間から、これらのピーク(部分メチル化糖のアルジトールアセテート)は、それぞれ1−アセチル−2,3,4,6−テトラメチル−グルシトール、1,2−ジアセチル−3,4,6−トリメチル−マンニトール、1,3−ジアセチル−2,4,6−トリメチル−グルシトール及び1,2,6−トリアセチル−3,4−ジメチル−マンニトールと同定された。
【0025】
【表3】
Figure 0004057107
【0026】
【表4】
Figure 0004057107
【0027】
表3及び表4において、
メチル化糖:部分メチル化糖のアルジトールアセテート
相対的保持時間:GC(ガスクロマトグラム)において、ピークNo.1の保持時間(分)を1としたときの各ピークNo.の相対的保持時間
モル比:GC(ガスクロマトグラム)において、ピークNo.1の面積を1としたときの各ピークNo.の面積比
【0028】
表3及び表4の結果から、精製された多糖体はグルコースとマンノースから構成されており、C−1置換グルコース、C−1とC−3置換グルコース、C−1とC−2置換マンノース、C−1,C−2及びC−6置換マンノースが、それぞれほぼ1:1:1:1の割合で構成されている構造骨格をもっていることが明らかになった。このことから式1に示した構造を有する繰返し単位の存在が解析された。
【0029】
式1において、1,2結合のマンノース、1,6結合のグルコース及び1,3結合のグルコースについて、各結合様式がα又はβのいずれの結合様式をとっているかを確認するため、前記の精製画分を13C−NMRに供した。13C−NMRスペクトルの各シグナル面積比は2:1:1で現れ、105.0147ppmのシグナルはβ−1,2結合マンノースのC−1に、また103.3682ppmのシグナルはβ−1,3結合グルコースのC−1に、更に101.0465ppmのシグナルはグルコースからマンノースへβ−1,6結合したグルコースC−1に帰属された。これらの結果から、式1で示されるマンノース相互間の結合様式、マンノースとグルコースとの間の結合様式及びグルコース相互間の結合様式はいずれもβ結合であると解析された。
【0030】
尚、ICR/Slc系の雄性マウス(5週)及びウイスター系の雄性ラットの腹腔内又は経口投与による急性毒性試験(1週間観察)において、本発明のグルコマンナンはいずれも1000mg/kgで死亡率は0/6であり、飼料摂取量、体重増加量、尿検査、血液検査結果及び相対的臓器重量比等、対照群との間に統計学的有意差は認められなかった。
【0031】
【発明の効果】
既に明らかなように、ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離される本発明の新規のグルコマンナンには強い抗腫瘍活性を示すという効果がある。

Claims (2)

  1. ヒメマツタケの培養菌糸体又は培養濾液から分離される、下記の式1で示される繰返し単位で構成されたβ−1,2結合のマンノース鎖を主鎖とするグルコマンナン。
    【式1】
    Figure 0004057107
    (式1において、
    Glc:グルコース残基
    Man:マンノース残基)
  2. 請求項1記載のグルコマンナンを有効成分とする抗腫瘍剤。
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