JP4056084B2 - 未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金 - Google Patents
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Description
本発明は未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金に関し、特にそのビッレット又は棒材をスピノーダル熱処理に先立ち加工プロセス(wrought processing)に付す必要がない連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金の製造法に関する。上記銅−ニッケル−スズスピノーダル合金は粒界に不連続γ’相の析出が実質的に存在しないこと特徴とする。この記号γ’はNi及びSnの割合を増加させた、従来技術において準安定コヒーレント不連続析出と呼ばれているものに相当する。上付き文字は、上記のγ’を、同じく割合を増加させたNi及びSnの析出であるγと区別するためのもので、このγの安定で非コヒーレントであるが、γ’と異なり脆化を引き起こさずに強度を増大させる。
鋳造及び金属加工の何れの方式においても、できる限り粒界を薄く又粒径を小さくすることが有益であることが知られている。このため、連続鋳造銅合金棒材及び管材中にこのような微粒子構造を得ることを容易にする装置を開発することが望ましいと考えられた。このような棒材及び管材はその後に行われる冷間引き抜き又は冷間加工に申し分なく適合し、あるいは他の未加工材より優れた性質を示すであろう。このため、米国特許第4,315,538号に連続鋳造金属中に微粒子径をもたらす方法と装置が開示された。この方法では、液状合金材リザーバー中に完全に浸漬された連続鋳造ダイが使用され、またそのダイに流入する液状金属が液体及び固体合金材との界面ゾーンにおいて全体としてサイクロン的な運動をもたらすように配置されたダイ中の供給口を使用している。このサイクロン運動は、隣接するダイ内壁から合金材中の一次デンドライト(樹枝状晶)をはぎ取り、これらデンドライトを界面ゾーン全体に渡って分配して等軸結晶核を提供した。これによって、界面ゾーン全体として指向性を有する固化をもたらすのに十分な大きさの合金材中の熱勾配が生じるのを防止した。
米国特許第5,279,353号の主題は同じタイプの連続鋳造装置に用いるダイの構造であるが、丸棒、丸ビレット又は非丸棒及び非丸ビレット等の他の鋳造形材(shape)と同様に壁厚が0.5インチより厚い管材中に微粒子構造を生成する改善された性能を有している。得られる鋳造形材の粒子径は20μm以上、恐らく40μm程度と見積もられるが、それでも他の方法で鋳造された形材より実質的に小さい。
次いで本発明者らは、米国特許第5,279,353号(前記小等軸結晶からなる金属合金)において述べた連続鋳造法で銅金属合金を製造することによる更なる利点は、所望の物理的特性を達成するためのスピノーダル分解型相転移を必要とする銅合金製造と関連していることを発見した。
多成分合金系におけるスピノーダル分解型相転移は米国特許第3,806,336号(1974年4月23日発行)、同第3,954,519号(1976年5月4日発行)及び第4,171,978号(1979年10月23日発行)に記述されている。これらの特許に記述されたように、ある種の二成分系及び他の金属はその組成ダイヤグラム中に「準安定性の限界」又は「スピノーダル」を有する。これは、系の組成に関する化学自由エネルギーの二次導関数の消失位置として熱力学的に定義される。均一単相構造である合金の高温組成を低温域のスピノーダル中に移行すると、分離した二相構造になり、この相分離をスピノーダル分解とよぶ。この分解合金は通常数百オンダストロームオーダーの周期的ミクロ構造を有し、組成調製された二種の同形相(isomorphous phase)からなる。この中で一相は微細析出物の形態をとり、マトリックスを形成する他の相に均一に分配されている。
スピノーダル転移の必要な合金は合金全体に渡って均一な組成を有する必要がある。均一体積内では、そのような合金を構成する溶質金属のある種のものは原子濃度のシフトを熱処理によって起こすことが可能である。このような変化、即ちスピノーダル分解は合金に新たな物理的性質を付与する。
当業者は溶質元素のミクロ偏析により、スピノーダル熱処理に対して種々の応答を示す領域がもたらされることに気づいている。通常連続鋳造ビレット又は他の鋳造物が「コアリング(coring)」又はデンドライトセル中のミクロ偏析だけでなく全般的な逆偏析を常に示す。このようなビレット又は鋳造物をスピノーダル処理に適合させるには、従来は二次デンドライト間距離を機械的に減少させるため材料を「混練(knead)」してミクロ偏析を低減する加工プロセスを金属部品に対して行わなければならなかった。この加工プロセスは通常断面積寸法を40〜90%低減するための圧延、引き抜き又はピルガーリングを包含する。しかしながら非常に厳しい冷間圧延によって断面積を40〜90%減少させる場合、非常に高価で、また多くのアプリケーションで機能するのに十分な大きさの合金部品を製造することは不可能でさえある。
さらに、加工処理は、広い凝固範囲を有する合金の全体的な逆偏析の問題を解決できない。これらの合金は広い凝固範囲を有するため、合金体内における所定の距離にわたっての溶質元素の濃度変動が大き過ぎ、これを溶体化熱処理によって効果的に除去できない。したがって、これらの合金はスピノーダル分解しないであろう。さらに、これらの合金は不連続析出によってその他の脆化純安定相を形成する余地がある。
ビレット、棒材、又は管材を形成するための本発明による連続鋳造プロセスを銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を製造するための本発明による方法と組み合わせて使用することにより、従来技術に開示された処理の上記した全ての困難性、特に金属部品をスピノーダル分解の前に加工処理に付す必要性を回避できる。本発明者らの連続鋳造プロセスによって製造した棒材または管材は、(1)表面から中心まで溶質の分布が均一になる、(2)従来の手段では達成できない二次デンドライト間アーム間隔の大幅な減少が可能になるという有利な特徴を有する。本発明者らのプロセスによって製造した結晶の二次デンドライト間アーム間隔は他の金属に比べ1/10以下にすぎない。したがって、均質化された合金内での溶質要素濃度の変動を最少にでき、合金の多量のスピノーダル変態を許容すると同時に、延性及び靱性に対して悪影響を及ぼすその他の好ましくない準安定相の析出を阻止できる。さらに、銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を製造するための本明細書に開示された本発明者らの方法を使用することにより、粒界における不連続γ’相の析出が実質的に存在しないスピノーダル合金が得られる。したがって、強度及び延性を増すために後工程において未加工状態で熱処理を行うことが可能で、ジャーナル軸受、擦り板、成形板、グラビア印刷ロール等の種々の部品に好適な、断面が3/8インチを越える棒材を生産することが可能になった。
文献の援用
米国特許第5,279,353号を、本発明に関する背景技術情報として、本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
発明の概要
本発明は、微細な等軸結晶が生じるように連続鋳造され、加工工程を必要とせずにスピノーダル分解型相転移をもたらす種々の熱効処理及び時効処理を行うことができる銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を提供する。
本発明の第一の様相によれば、未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金が開示され、この合金はニッケル約8−16重量%、スズ5−8重量%、及び残量の銅を含有する。更に、該合金は粒界において不連続γ’相析出及び引張試験における延性破解挙動が実質的に存在しないことを特徴とする。
本発明の第二の様相によれば、未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金の製造方法が開示される。該銅−ニッケル−スズスピノーダル合金は微細な等軸結晶をもたらす様に連続鋳造される。該合金は所定の最適温度で所定の時間溶体化熱処理されてそのマトリックスが単一相に変態され、その直後に冷水により急冷される。こうして得られた合金は更に所定の最適温度で所定の時間スピノーダル分解(時効)熱処理に付され、直後に冷水で再急冷される。
本発明の第三の様相によれば、未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金の製造において用いられる熱処理の最適温度と時間を決定するための方法を開示される。微細な等軸結晶を有する未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金が提供される。該合金の第一サンプルは最初の溶体化熱処理に付され、その直後、好ましくは冷水により急冷される。次に、第一合金サンプルは最初のスピノーダル分解熱処理に付され、その直後に冷水等の水性媒体による急冷ステップが行われる。該合金の第二サンプルは第二の溶体化熱処理に付され、その直後に好ましくは冷水による急冷ステップが行われる。その後、第二合金サンプルは二回目のスピノーダル分解熱処理に付され、その直後に冷水等の水性媒体による急冷ステップが行われる。この2個のスピノーダル合金サンプルの金属組織を調べ溶体化熱処理及びスピノーダル分解熱処理の両方を含む最適な熱処理のための最適温度及びそれに対応する時間を決定する。
本発明の一つの利点は強度と延性の両方を有する銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を、デンドライトセル内でのマクロ偏析を減少させるための加工工程を必要とすることなく製造できることである。
本発明の他の利点は、表面から中心まで均一な溶質分布を有し、加工工程を必要とすることなくスピノーダル分解を行うことができる連続鋳造ビレット又は棒を製造できることである。
本発明の更なる利点は、通常の連続鋳造材よりも十分の一以下の二次デントライト間アーム間隔を有し、加工工程を必要とすることなくスピノーダル分解を行うことができる連続鋳造ビレット又は棒を製造できることである。
本発明の更なる利点は、未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を簡単に経済的に製造できることである。
本発明の更なる利点は、最適な機械的特性を有する未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を製造できることである。
本発明の更なる利点は、粒界において不連続γ’相が本質的に存在しない未加工銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を作ることができることである。
本発明の更なる利点は、棒材では3/8インチより大きい、またビレットでは最大で16インチの断面積を有する重い対象物を未加工条件で熱処理して優れた強度と延性を得られる。
本発明の更なる利点は、引張試験中の破壊に先立ちネッキングひずみに達し、これを超えることのできる未加工銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を製造できることである。
本発明の更なる利点は、引張試験中に延性破壊挙動を呈する未加工銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を作ることができることである。
本発明の更なる利点は、未加工銅−ニッケル−スズ合金の熱処理時の温度を高めることにより、ビレットが炉中に留まらねばならない時間を減少させ、それによって生産性が改善されると同時に経済性を改善できることである。
本発明の更なる利点は、本明細書に開示された処理によって調製された銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を使用して広範な製品を簡単に且つ経済的に製造できることである。このような製品の例としては、軸受、歯車、及び航空機の着陸装置用軸受、スタンピングプレスの擦り板、ダイカスト又はプラスチック射出成形用の型やその他の構成部品、重量装置用軸受、及び流体式動力伝達システムの構成部品などのその他の摩耗部品が挙げられる。
本発明のその他の利点は、下記の詳細な説明を読みそして理解することにより当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
本発明は部品の物理的形態及び部品の配置にあり、それらの好適な実施態様および代替実施態様が本明細書中において詳細に説明され、本明細書の一部を構成する添付の図面に描かれている。添付図面において、
図1は金属性棒材及び管材の連続鋳造に使用する典型的な設備の部分断面を概略的に示し、特に本発明が関連する一般的な環境の理解を容易にするためのものであり、
図2は図1の2−2線に沿った部分断面図であり、本発明を実施するために使用されるダイとダイ送りスロットを示し、
図3はダイを上から見た図であり、
図4は図2の4−4線に沿った部分断面図であり、ダイキャップのプレスを示し、
図5A〜図5Cは図3の5−5線に沿った断面図で、ダイキャップ内でのスロットの異なった配置方法を示し、
図6A〜図6Bは図4の6−6線に沿った断面図で、ダイキャップ内でのスロットの異なった配置方法を示し、
図7A〜図7Dは、微細粒構造を形成するための最適条件を提供するダイキャップのデザインを計算するのに使用する種々の角度と寸法を示し、
図8は銅−ニッケル−スズスピノーダル合金の白色で安定なγ析出と粒界を示すSEM写真であり、
図9は銅−ニッケル−スズスピノーダル合金の白色で安定なγ析出と粒界を示すSEM写真であり、
図10はγ指数と(T−t)指数との関係を示すグラフであり、
図11は硬度指数及び延性指数とγ指数との関係を示すグラフであり、
図12は典型的なグラビア印刷ロールを示し、
図13は典型的なグラビア印刷ロールの断面図を示し、
図14は水冷式鋳型プレートの断面図を示し、
図15は典型的な軸受を示し、
図16は典型的な軸受の断面図を示す。
好適な実施態様及び代替実施態様の詳細な説明
図面を参照して本発明の実施態様を説明するが、図面は好適な実施態様、また、その変形例を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。図1はダイ、冷却装置キャップBを含み、中実棒材つまりストランドCを連続鋳造するための縦型連続鋳造設備Aを示す。このような設備を用いて黄銅、アルミニウム、青銅等の各種の金属が鋳造される。本明細書ではCu−Ni−Sn合金材の中実棒材あるいは管材への連続鋳造に焦点を当てる。
Cu−Ni−Sn合金は8〜16重量%のニッケル、5〜8重量%のスズを含有し、残りが銅である。その他に、不純物と少量の添加物を含む。少量の添加物にはボロン、ジルコニウム、鉄、ニオブがあり、これらは等軸結晶の生成を高め、また、溶体化熱処理中のマトリックスにおけるNiおよびSnの拡散率の不同性を解消する。その他の添加物にマグネシウムがあり、これは溶融状態の合金を脱酸素する。また、本発明者はマンガンを添加することにより、合金中に不純物として硫黄が含まれているかどうかに関わらず、最終物性を大きく改善できることを発見した。その他の元素も存在する。Cu−Ni−Sn合金には上記の要素がそれぞれ約0.3重量%以下存在する。
連続鋳造設備Aには、本発明の概念を有用に組み込むことのできる各種の形態がある。そのような設備の一つを図1に概略的示す。図1の設備は、上部フレーム部材14、16を支持する間隔を置いて設置された梁状の台座10、12を含む。プラットホーム18は部材10、12により支持され、ダイ−冷却装置組体Bの部分を支持している。プラットホーム18はダイ及び冷却装置と一致した適切な貫通口を有しており、その中を管材あるいは棒材Cが通過できるようになっている。開放式円筒保持炉スリーブ20はフレーム部材14、16により支持され、全体としてカップ状のるつぼをその内部に設置している。るつぼ22は液体合金貯蔵槽として作用し、ダイ−冷却装置組体B部が延在して貫通している底壁24を有する。半径方向に外部に向かって延在するダイ−冷却装置組体Bのフランジ28は底壁24の下面と係合し、これら構成要素を適宜の位置関係に保っている。
底板30はダイ−冷却装置組体部により、保持炉スリーブ20の底に密接して支持されている。この底板は、るつぼの最下部とダイ−冷却装置組体部廻りに配設されたセメント質材32用の台となっている。板30はまたセメント質材32とスリーブ20の内壁間に挟まれた耐火粘土材34用の台にもなっている。耐火粘土レンガ36はプラットホーム18と底板30の下面間に適宜配設されている。注入口38は、溶融銅合金40を保持炉の外側からるつぼ22に注入する際その注入を容易にしており、保持炉蓋42はスリーブ20の最上面を覆い、るつぼを略密閉している。
連続鋳造中、管材または棒材Cがダイ−冷却装置組体Bの下端から一般に垂直方向に排出される。特に、本発明が適用された鋳造処理においては、適切なピンチローラ(不図示)がダイ−冷却装置組体の下側に配設され、鋳造された管材または棒材をダイから引き出すようにしている。これらのピンチローラは従来使用されているもので、他の設備部材の動作を以下に述べる方法で調整して棒材あるいは管材Cに所望の物性を持たせるようにしている。
図1においては、鋳造設備Aの各種構成要素やそれらの相関は、本明細書での特定の状況を理解するのに必要なものに止め、概略的に示されている。具体的な構成、構成要素等は個々の連続鋳造設備により変化し、この変化は本発明の範囲あるいは意図にいかなる影響を及ぼすものではない。更に、設備自身は本発明の一部を構成するものではなく、また、その設備の動作は一般に知られているので、当業者が本発明を完全に理解する上でこれらの詳細な説明が必要であるとは考えない。
図2はダイ−冷却装置組体Bおよび鋳造中の連続棒材あるいは管材Cの一部を示す部分断面図である。また、ダイ−冷却装置組体とるつぼあるいは貯蔵槽22間の境界面領域も示している。更に詳しくは、鋳造ダイは管状シェル様の装置44から成る。このシェル様装置は、この様なダイに一般に用いられている任意数量の異なる材料から構成される。好ましいダイ装置においては、内面46はダイ入口端あるいは領域48と反対側の出口端あるいは領域50間に円筒状ダイキャビティを形成する。内面形状を別の断面形状にすることは可能であり、棒材または管材自身の外面形状によることは容易に理解できる。
シェル44の外壁52は、その上端部が全体として円筒形となっており、半径方向に外部に向かって延在するフランジ54を有する。図2に示すように、ダイ上端部はるつぼの底壁24の開口56に嵌合されており、フランジ54はるつぼ底壁の外面に密着している。ダイ外壁部58はテーパをなしており、隣接するフランジ54から出口端50に向かって内側に傾斜し、冷却装置62のテーパ内壁60に密着している。
冷却装置62は任意の形態の従来型冷却マニホールドでよく、連続鋳造運転中にダイとストランドを冷却する。冷媒は一般にはマニホールド内を循環させ、冷媒入口はダイ出口端50に向かって設けられ、冷媒出口は上端付近に設けられている。
冷却装置62の高さを以下の範囲にすれば、好ましい材料をより経済的な生産速度で得られることを見いだした。
1≦h≦30
ここで、hは冷却装置の高さ(インチ)であり、数字1、30も単位はインチである。更に、鋳造物の断面寸法は下記の範囲であるのが好ましい。
0≦Φ≦30
ここで、Φは鋳造物の断面寸法(インチ)であり、数字0、30も単位はインチである。
最も好ましい方法では、h=1.5(Φ)の冷却装置62を使用する。しかし、経済上の理由及び標準的なhを市場で使用されている各種のΦに広く適用するために、断面寸法が0.375インチ以上、29インチ以下の製品について最も好ましい冷却装置高さは3〜9インチの範囲であることを見いだした。
引き続き図2と、また、図3を参照して説明する。キャップあるはプラグ部材64は、シェル44の上部開口端近傍の領域48用のカバーとして作用し、シェル内のその領域に液体合金が進入するのを防いでいる。キャップ64はシェルの上端部領域に嵌合された第1円筒部66と、第1円筒部よりは少し大きい第2円筒部68から成る。第2円筒部68はシェルの上部端面と係合するように配設された半径方向に延在するフランジを形成する。
るつぼあるいは貯蔵槽22からダイへ液体合金材を注入するために、複数の等間隔に設けられた供給スロットがキャップ64を貫通している。このような供給スロット70、72、74、76が、図3、4、5に示すように設けられている。しかし、連続鋳造する棒材あるいは管材のサイズ及び/または材料によりスロットの数を増加または減少させるのが有利である。図3、4、5から明らかなように、供給スロットはキャップ64内を内部キャビティ48に向かって傾いて設けられている。
図5はダイキャップ64に設ける供給スロットについて、3つの異なる配設方法を示している。配設例A,Bにおいては、スロットはキャップの中心線と交差していない。配設例Aではスロットは中心線に向かって傾斜しており、一方、配設例Bでは逆になっている。配設例Cでは、スロットは中心線と交差している。いずれの配設例も近凝固領域の液体合金動作の特性に大きな影響を与える。与えられた状況の下でどの配設例を選択するかは、液体合金の特性と鋳造サイズにより決まる。
図6に、くさび78を用いてダイキャップ66にスロットを形成する2つの異なる方法を示している。どちらの方法を選択するかは非常に重要である。それは、スロットを適切に形成しないと、ダイキャップが弱くなりすぎ、るつぼ内の圧力のために破壊する。
図2を用いて説明する。供給スロット70、72、74、76はシェル44近辺にオフセットを持たせて配設されている。これにより、好ましい量の液体金属合金を以下に述べるようにダイキャビティに供給する。これらの供給スロットの間隔に関して、図4は一対の直径方向に存在する平面P、P’を示している。これらの平面P、P’は相互に直交し、シェル44の長手方向に延在している。平面Pは供給スロット70、74の中心線に平行に配設され、平面P’は供給スロット72、76の中心線に平行に配設されている。動作全体あるいは動作結果を最適にするため、供給開口70、74の中心線の横方向の距離あるいは間隔a,bは、直径平面Pに関してお互いに反対方向に配設している。また供給開口72、76の中心線の横方向の距離c、dは、直径平面P’に関してお互いに反対方向に配設している。これらの距離は好ましい値になるように計算されている。対称に配設されたスロットのこれら距離の計算方法は米国特許第5,279,353号に記述されている。
図1を参照して説明した一般的な連続鋳造装置における上記ダイ構造を利用した連続鋳造において、供給スロット70、72、74、76の上端はるつぼ22と連通して配設されている。従って、溶融あるいは液体金属合金材は、るつぼあるいは貯蔵槽から図7の矢印で示す複数の供給スロットを通ってダイの内部に流入する。溶融あるいは液体金属合金材の温度は、好ましくは溶融合金混合体の液相点以上の350°Fとする。
これらの供給スロットとダイキャビティ間には図2、図7に示すような相関関係があるので、液体金属合金がダイキャビティに流入するとき非常に強い運動が液体金属合金にもたらされる。この運動は一般には矢印Xで示されるもので、液体合金材料がダイ内をいわゆる近凝固領域に向かって下方に進行するとき、液体合金材料中に均一な温度分布を発生させる。この近凝固領域は供給スロット自身の下方に存在し、その全体が図2において記号80で示されている。更に、この運動はダイの内壁46に隣接してあるいは内壁46の近傍に配設された一次デンドライトをはぎ取り、界面領域82全体にわたってこれらの一次デンドライトを分配させる。このような分配は、界面領域において等軸結晶成長のための核をランダムな位置にもたらす効用がある。
界面領域あるいは遷移領域82は近凝固領域80に隣接しており、液体合金あるいは半液体合金が固体に変態して棒材あるいは管材Cを形成する領域から成る。ストランドをダイ端50から外部に引き出すピンチローラ(不図示)の間欠運動により、ダイ内部の適切な領域においてこの変態がほぼ完了するようになっている。一般には、ピンチローラの各間欠動作あるいはストロークにより、ストローク間の各種時間間隔で、約0.5インチ〜1.0インチの範囲内の距離、毎分30インチでストランドが移動させられる。金属処理率(1bs/時)は、断面形状が円形あるいは非円形のいかん関わらず、ビレット、棒材、あるいは中空棒材の断面寸法(単位はインチ)の約100〜350倍である。
液体状態から固体状態への変態中、液体合金の近凝固領域80へ向かう、また、近凝固領域80での上記運動は、固体状態への遷移中の合金材内の熱分配をも行う。この熱分配は合金の全体として指向を有する固化を発生させるに足る大きさの熱勾配の発生を防いだり排除したりする。上記したような総方向性凝固は、米国特許第4,315,538号の図2に示すような受け入れることのできないマクロ組織を生成する。
棒材あるいは管材Cが界面あるいは遷移領域82から鋳造ダイ内を軸方向に移動するとき、棒材はその最終固体状態への変態中に多少収縮する。従って、図2は、液体あるいは溶融銅合金が凝固して冷え始めたとき棒材の外壁84がダイ内壁46から半径方向に少し離れるように示している。棒材あるいは管材の冷却は冷却装置62により促進される。先に述べたように、この冷却装置には各種のものがあり、一般には、冷却流体あるいは水がその内部を棒材あるいは管材Cの動きと反対方向に流れるようになっている。
上記の本発明の好適な実施態様を使用しているとき、米国特許第4、315、538号の図3に示すような微細結晶粒界を有する多角結晶構造が容易に得られることが分かった。更に、こうして得られた結晶粒度は、従来から知られており、また、用いられている連続鋳造技術と比べても非常に小さい。
連続的に鋳造された合金には熱処理が施される。この熱処理は溶体化熱処理と時効硬化処理の両方を含む。つまり、スピノーダル分解熱処理を行う。溶体化熱処理は固相温度の約60〜80%の温度で、合金のマトリックスを単相(あるいは単相に非常に近い状態)に変態させるだけの充分な長さの時間をかけて行う。言い換えると、合金はα領域で溶体化熱処理されて均質化される。次に、冷水による合金の即時急冷を行う。この急冷の水温は100°F以下とする。合金は少なくとも30分急冷する。急冷は攪拌しながら行うのが好ましい。
所望の最終機械特性により、溶体化熱処理の条件を変更して行う。つまり、固溶化温度をその範囲の上限温度とし、合金を単相に変態させるのに必要な時間よりも長い時間溶体化熱処理を行うこともある。これにより、時効処理時により強力で、より固く、延性のより少ない物性が得られる。その理由は当業者であれば容易に理解できる。
急冷をすることにより、溶体化熱処理で得た単相(均質化)組織をできるだけ多く保存する。水等の水性媒体以外の急冷媒体では満足のいく結果が得られないことが分かっている。ビレットを熱処理炉から取り出してから、急冷を始めるまでの間の時間を最小にすることが重要である。例えば、溶体化熱処理炉から合金を取り出してから急冷を始めるまでの間に数分を越える遅れがあると、有害な結果がもたらされる。
しばしば、本合金からの部品の製造、あるいは、鍛錬加工(wrought)がこの時点で本合金に対して行われる。それは、この本合金がこの状態では「柔らかく」、機械加工あるいは成形が容易だからである。
熱処理の次の工程は、時効硬化あるいはスピノーダル分解熱処理で、固溶化熱処理温度の約30〜60%の温度で所望の最終物性を与えるのに充分な時間をかけて行う。所望の物性により、時効硬化あるいはスピノーダル分解熱処理の条件を変更して行う。一般には、処理時間は同じで温度を変えて時効処理した合金の物性を比較してみると、2種類の温度のうち低い方の温度で処理した方が延性が増加し、強度や硬度が減少する。同様の熱力学法則が、温度は同じで処理時間を変えて処理した合金にも適用される。
時効処理後の最終工程は再度の即時急冷で、好ましくは水で行う。この工程の必要性は当業者にも即座には分からないかもしれないが、時効処理後合金をゆっくり冷却させるた場合、また、時効処理後の水急冷が数分遅れただけでも最適物性が失われることがあることを本発明者らは発見した。合金は処理あるいは組成の比較的小さな差異に非常に敏感で、これにより、同じ基本合金系から有用で異なる物性を有した各種材料の製造が可能となっている。
本発明者らの熱処理法に関し、溶体化熱処理後および時効硬化熱処理後の両方において水で即時急冷をすることが、材料の延性を犠牲にすることなく高強度を得る上で重要であることを発見した。「即時」急冷は、材料を熱処理炉から取り出した後45〜60秒以内に急冷を行うことを意味している。好ましくは、30秒よりもできるだけ短くする。
平衡時のCu−Ni−Sn系の相ダイヤグラムは完全には分かっておらず、非平衡状態の様子については全く分かっていないが、完全なダイヤグラムによれば、溶体化熱処理温度より少し低い温度では、脆化γ’相が急速に形成され、その後時効処理中に不連続に結晶粒粗大化が発生するものと本発明者らは推測する。同様に、本合金が時効硬化温度かそれよりも少し低い温度に、徐冷あるいは空冷の場合のような長い時間さらされると、脆化γ’相や場合によっては他の相も併せて急速に形成される。材料が、たとえ短い間であっても徐冷されて有害な相域に至るのを防ぐために急冷が必要である。これら有害な相域は安定及び準安定状態で存在するものと本発明者らは考えている。
本発明者らの提案する鋳造及び熱処理法に関連した本発明者らの提案する合金組成は、材料のほぼ全体が、溶体化熱処理時において不完全な相ダイヤグラムの単相領域内に保持され、時効硬化処理時においてはスピノーダル領域内に保持されることを保証する。従って、完全なスピノーダル分解を達成し、結晶粒界やマトリックス内における脆化性の準安定なコヒーレント相の大きな不連続析出物の発生を防止する一方で、必要に応じ非コヒーレントな安定したγ相の析出を抑制した。次に、具体的な実施例を示して本発明をより詳細に説明する。
実施例 I
ニッケル9重量%、スズ6重量%、残部が銅であるCu−Ni−Sn合金を、微細結晶サイズを均一にする前記連続鋳造方法を用いて連続鋳造した。前記連続鋳造Cu9Ni6Snの銅含有量は最低でも84重量%以上にしないと所望の熱伝導性が得られなかった。
このCu9Ni6Sn合金中に存在するスズの量は、6.3重量%未満であった。スズ含有量が6.3重量%を越えると、大量の不連続γ’析出が粒界から発生した。析出量が多いと、硬質で強固ではあるが延性を有しない材料となってしまうことが分かった。従って、破壊は常に脆性破壊であった。
Cu9Ni6Sn合金の第1試料に対して第1熱処理“A”を行って最大延性を引き出し、これにより引張強度と硬度が低下した。第1熱処理“A”に従い、該合金を1580°Fで5時間溶体化熱処理した後、水で急冷した。この工程に続き、該合金を570°Fで3時間時効処理した後(スピノーダル分解法熱処理)直ちに2回目の水による急冷工程を行った。
Cu9Ni6Sn合金の第2試料に対して第2熱処理“B”を行って最大引張強度と最大硬度を得た。しかし、該合金はなおもある程度の延性を示した。第2熱処理“B”に従い、該合金を1580°Fで5時間溶体化熱処理後、水で急冷した。この工程に続き、該合金を815°Fで4時間時効処理後(スピノーダル分解法熱処理)直ちに2回目の水による急冷工程を行った。
下記表Iは、本発明者らの連続鋳造プロセスに従って生産され、その後上記スピノーダル分解をもたらすため熱処理“A”又は“B”を行ったCu9Ni6Sn合金の機械械的特性の範囲を示す。これらの特性は、スピノーダル変態した合金の、スピノーダルとコヒーレントな遷移相への変態と、スピノーダルとコヒーレントでない平衡相への変態との相対的体積比によって変化する。これら全ての変態は、拡散によって制御される反応であるので時間及び温度によって左右される。熱処理“A”を行った第1試料中に存在するこれら相の相対量と熱処理“B”を行った第2試料中に存在する同様の相対量を対比させて金属組織学的に検査することにより、最適な熱処理法の推定、即ち最適な溶体化熱処理を行うための最適温度及びこれに対応する時間並びに最適なスピノーダル分解熱処理を行うための最適温度及びこれに対応する時間の推定値を準備した。
この好ましい実施例では、熱処理“A”を行った合金内に存在する相の相対量を熱処理“B”を行った合金に存在する同様の相対量と対比させて金属組織学的に検査することによって決定した最適温度及び最適時間を用いた最適熱処理を、前記Cu9Ni6Sn合金の第3試料に対して行った。従って、実施例Iに関しては、最適熱処理行うため、該合金を1580°Fで4時間溶体化熱処理後直ちに急冷し、815°Fで3時間時効処理した後2回目の水による急冷工程を行った。得られた合金は、下記表IIに示すように延性と強度を最適な組み合わせで有していた。引張試験中該合金は、脆性的挙動を示さなかった。実際、該合金はくびれ歪み(necking strain)に達し、その後も延びた。また、不連続γ’析出はミクロ構造中に全く観察されなかった。
実施例 II
ニッケル15重量%、スズ8重量%、残部が銅である銅合金を、微細結晶サイズを均一にする前記連続鋳造方法を用いて連続鋳造した。
このCu15Ni8Sn合金中に存在するスズの量は、最大で8重量%であった。スズ含有量が8重量%を越えると、大量の不連続析出が粒界から発生した。析出量が多いと、硬質で強固ではあるが延性を有しない材料となることがわかった。従って、破壊常に脆性破壊であった。
Cu15Ni8Sn合金の第1試料に対して第1熱処理“A”を行って最大延性を引き出し、この結果引張強度と硬度が低下した。第1熱処理“A”に従い、該合金を1580°Fで5時間溶体化熱処理した後、水で急冷した。この工程に続き、該合金を570°Fで3時間時効処理した後(スピノーダル分解法熱処理)直ちに2回目の水による急冷工程を行った。
Cu15Ni8Sn合金の第2試料に対してを第2熱処理“B”を行って最大引張強度と最大硬度を得た。しかし、該合金はなおもある程度の延性を示した。第2熱処理“B”に従い、該合金を1580°Fで6時間溶体化熱処理後、水で急冷した。この工程に続き、該合金を800°Fで6時間時効処理後(スピノーダル分解法熱処理)直ちに2回目の水による急冷工程を行った。
下記表IIIは、本発明者らの連続鋳造プロセスに従って生産され、その後上記スピノーダル分解をもたらすため熱処理“A”又は“B”を行ったCu15Ni8Sn合金の機械械的特性の範囲を示す。これらの特性は、スピノーダル変態した合金の、スピノーダルとコヒーレントな遷移相への変態と、スピノーダルとコヒーレントでない平衡相への変態との相対的体積比によって変化する。これら全ての変態は、拡散によって制御される反応であるので時間及び温度によって左右される。熱処理“A”を行った第1試料中に存在するこれら相の相対量と熱処理“B”を行った第2試料中に存在する同様の相対量を対比させて金属組織学的に検査することにより、最適な熱処理法の推定、即ち最適な溶体化熱処理を行うための最適温度及びこれに対応する時間並びに最適なスピノーダル分解熱処理を行うための最適温度及びこれに対応する時間の推定値を準備した。
この好ましい実施例では、熱処理“A”を行った合金内に存在する相の相対量を熱処理“B”を行った合金に存在する同様の相対量と対比させて金属組織学的に検査することによって決定した最適温度及び最適時間を用いた最適熱処理を、前記Cu15Ni8Snスピノーダル合金の第3試料に対して行った。そして、実施例IIに関しては、最適熱処理行うため、該合金を1580°Fで2時間溶体化熱処理後直ちに急冷し、815°Fで3時間時効処理した後2回目の水による急冷工程を行った。この結果生成された合金は、下記表IVに示すように延性と強度を最適な組み合わせで有していた。引張試験中該合金は、脆性的挙動を示さなかった。実際、該合金はくびれひずみに達しその後も延びた。また、不連続γ’析出はミクロ構造中に全く観察されなかった。
表I〜IVに示す機械的特性の範囲は、溶体化熱処理を行った「鋳造されたままの」ビレットからは得ることができなかった。典型的な「鋳造されたままの」ビレットに本発明を利用して達成できる機械的特性を持たせるためには、加工処理工程を用いることが必要となる。加工処理工程を用いた場合でも、最終製品は広い凝固点範囲を有する合金が克服できない逆偏折を保持する。大量の冷間加工をこの材料に導入しない限り、特徴的な脆性挙動は顕在化し、この素材の有用性は多少損なわれることになる。
更に、実施例IとIIに従って製造した本合金の顕微鏡写真を検討してみると、粒界には実質的に不連続なγ’相析出がないことが発見された。
下記表IVは、多数の未加工合金組成物並びに本発明の未加工の微細粒子を有する連続鋳造スピノーダル材料を得る組成物の溶体化熱処理及び時効処理で使用される様々なパラメーターを示している。下記表IVに示すパラメーターは、本発明者らの金属組織学的検査法によって決定された。
「金属組織学的検査」という語は、材料の顕微鏡写真及びグラフック処理による最構成を以下の方法で用い、熱処理のための最適温度と最適時間を決定することを意味する。例えば、硬度と延性の組合わせを最適化することが望ましいと思われる表Vの識別番号2と同じ組成を有するスピノーダル合金を使用し、熱処理“A”(600°Fで1時間時効処理)を行った該合金の第1試料のSEM写真(図8)を撮った。このSEM写真はスピノーダル合金の研磨面を100倍率で撮ったもので、白色で安定なγ析出が示された。300μmの一本の線をこのSEM写真上に引き、白色で安定なγ析出粒子の内の18個がこの線に交差していることが測定された。
次に該スピノーダル合金の第2試料に対して熱処理“B”(800°Fで3時間時効処理)を行った。スピノーダル合金の研磨面の100倍率SEM写真が撮られ(図9)、その写真には白色で安定なγ析出が示された。300μmの一本の線をこのSEM写真上に引き、白色で安定なγ析出粒子の内の5個がこの線と交差していることが測定された。
次に本発明者らは、まず指数を設定してあるグラフを構築した。第1試料に関する時効処理についての指数系では、時間(1時間)と温度(600°F)の積が600であり、(T−t)指数を100に設定した。第2試料に関しては、時間(3時間)と温度(800°F)の積が2400であり、(T−t)指数を400に設定した。
次に本発明者らは、18個の白色析出粒子が100になるようにγ指数を決定し、これは5個の白色析出粒子がγ指数約30に対応することを意味する。前記データを用いて、図10に図示するようにγ指数と(T−t)指数との関係をプロットした。
そして、試料を機械的に検査し、それぞれの硬度を測定した。RB硬度番号が74である試料1の硬度指数を100に設定した。試料2のRB硬度番号が100であることを発見した。従って、試料2についての硬度指数を150に設定した。図11に示すように、前記データを用いて硬度指数とγ指数との関係をプロットした。
二つの試料を引張試験に付し、延性(伸長率%)を測定した。伸長率39%であった試料1に関しての延性指数を100に設定した。試料2は伸長率5%であった。従って、試料2については、延性指数を13に設定した。図11に示すように、前記データを用いて硬度指数とγ指数との関係をプロットした。
図11にプロットされた2本の線の軌跡と交点は、硬度と延性の最適な組合わせを表しγ指数約65に対応した。このγ指数約65は、図10によれば(T−t)指数約230を表し、図11によれば硬度指数135及び延性指数67を表した。従って、硬度と延性の最適組合せをもたらすのに必要な時効処理における時間と温度は、1.7時間815°Fであることを発見した。
下記表IVは、実施例のスピノーダル合金の試料である試料1と試料2について決定された指数及び上記分析によって最適試料について決定された指数を示す。他の特性の最適な組み合わせも、目的とするアプリケーションでの要求に応じて上記の分析によって得られることに注目されたい。例えば、表VIIに示す特性が本方法により得られ、優れているか否かには別にして、記載されたアプリケーションでの使用に適していると思われる材料が提供される。
本方法により、連続鋳造ビレット又は棒のスピノーダル分解法熱処理の利点を得るために従来技術方法において必要とされていた加工処理利用が必要なくなったので、過去においては脆性を無くすための冷間加工による過剰な縮小が必要であったためにCu−Ni−Sn合金からは製造不可能であった広範囲の鋳造材料が本方法により製造できる。例えば、Cu9Ni6Sn合金とCu15Ni8Snは現在、優れた軸受、歯車、航空機着陸装置用軸受、プレス用摩耗プレート、プラスチック射出用鋳型、重装備用ベアリングその他重要部品、即ち潜水艦用安全材料を含むその他摩耗部品の製造に使用されている。
更に具体的には、本発明の新規なCu9Ni6Snスピノーダル合金は図12及び13に図示するグラビア印刷用ロール90の製造に使用できる。多くの印刷発行物が輪転グラビア印刷として知られる方法で作成される。印刷する紙その他の媒体が2個のロールの間に挿入される。1個は支持ロールでもう1個は印刷ロールであり、印刷ロールは従来、ダイヤモンドスタイラスで微細彫刻されるかレーザエッチングされた。一方指示ロールは紙の両面同時印刷のためしばしば彫刻される。過去において通常使用された中空印刷ロール90は、外表面に硬質銅92の層を電気的に堆積させた鋼製のシェルであった。銅層92は、その後彫刻され時にはクロムで電気めっきされる金属として機能する。印刷ロール90の両端に回転軸(非図示)を取り付けるために螺子が形成されている。印刷ロール90の全長は約120インチである。印刷ロール90の外径は約8インチであり、内径は約6.5インチである。
本発明者らは、グラビア印刷ロール90が本発明によるCu9Ni6Sn合金連続鋳造により製造でき、その後本発明で開示された熱処理を行うとスピノーダル変態を引き起こすことができることを発見した。印刷ロール90の上層94は、引張強度100psi、降伏強度70psi、伸長率71/2、ビッカース硬度約200の高強度及び高靱性を有しなければならない。本発明で開示されたプロセスでグラビア印刷ロール90を製造すれば、費用面と環境面で問題の多い電気溶着の必要がなくなる。本発明のプロセスで製造されるグラビア印刷ロール90は、前に彫刻された表面を切削し、新たな印刷原文を再彫刻することにより何回も使用できる。本ロールは高価値であるため再利用可能である。機械における構造的機能性を提供するための充分な機械的強度を有するので、ロールを支持するため再利用材料等としての価値が低い鋼製基体を使用する必要はない。
また本発明による連続鋳造Cu−Ni−Snスピノーダル合金は、ダイカストプロセス/機械の一般的装置において使用されるプランジャーチップの製造にも使用できる。プランジャチップは、適切に熱処理された本スピノーダルCu−Ni−Sn合金から作られる。プランジャチップは加圧溶湯を鋳型のキャビティ内に送り、これによって圧力を維持する。プランジャチップの熱伝導率は、鋼の約2倍である。プランジャチップはCu9Ni6Sn合金製のビレット又は棒から鍛造又は切削された後、ロックウェルC硬度約30になるまで仕上げ加工と熱処理が施される。
また本発明によるCu9Ni6Snスピノーダル合金は、中子または中子ピン等の射出成形用の一定の構成部品の製造にも使用できる。中子は、本発明によるCu9Ni6Snの棒材を使用して長手方向の端部近傍まで穿孔して通路を設けることによって製作でき、該穿孔通路に挿入される銅管により通常導入される水が循環できるようにする。中子は、冷却流体又は加熱流体が中子を通過できるように射出成形モールド組立体において使用される。
また本発明者らは、本連続鋳造Cu9Ni6Snスピノーダル合金が図14に示す水冷式鋳型プレート100としての使用のため製造されるにおいて有益であることを発見した。
例えば、本発明者らは、Cu9Ni6Sn合金から厚さ4インチ幅15インチ全長60インチのスピノーダル青銅スラブを製造した。前述の実施例と同様に処理を行った。その機械的特性は、ロックウェルC硬度が33であることを含め、断面の全体にわたって前記実施例の特性と一致した。更に、本スラブは断面内の種々の位置において20%IACSの電気伝導率を有していた。またその熱伝導率は37〜40BTU/hr−ft−ft2−°Fであり、プラスチック射出成形プロセスのプラスチック射出用鋳型プレートの適用において工具鋼に代わる理想的材料となった。次に本スラブを加工し水冷式鋳型プレート100とした。この作業は、プラスチック製品102を成形するキャビティの掘削、水冷用水路104の形成、中子ピン(非図示)、エジェクタピン106、重合体射出ゲート107、心合せ/位置決め用ポスト(非図示)及び通路(非図示)等のためのに必要な穴の切削等を含み、これにより本鋳型プレートを機械内の工具鋼ベースプレートに装着した。
本発明者らは、実際のプラスチック部品製造において本鋳型プレート100セットを使用した。本部品製造作業の生産性を工具鋼鋳型セットと対照して測定したところ、高熱伝導性鋳型プレート100の使用により生産性が40%(運転1時間当たりの部品数)増加することがわかった。この向上は、機械の上記の増加に比例するサイクル期間の減少によって得られる。何故なら、射出重合体からの吸熱速度が早められ、次の射出工程を成功裡に開始するのに必要な鋳型プレート自体の初期温度への復帰が更に早められるためである。実際、工具鋼の熱伝導率は約17BTU/hr−ft−ft2−°Fであったのに対し、本発明によって製造された鋳型プレートセットは40BTU/hr−ft−ft2−°Fであった。
本プレート100は、1万回の反復工程後においても目立った摩耗又は腐食は観察されなかった。更に、プラスチック粒子は後で行われる電気めっきのために極めて滑らかで平坦な表面を要求されるので、キャビティの切削作業にはキャビティ面の微細ダイヤモンド研磨面の形成が含まれる。本発明スピノーダル合金は所要の仕上面を困難無く形成でき、一般に使用される鋼、工具鋼、銅ベリリウム合金、銅アルミニウム合金及びアルミニウム合金等の他材料より優れた研磨仕上面を形成できるものと判断された。
他の高伝導性の工具鋼代替品の使用において産業界が以前直面した問題としては高コストがあげられた。何故なら、他の銅ベースの代替品でも、鋳型プレートを切削によって作る材料となる金属製基体を作るために多数の追加処理が必要となるからである。これらの処理は本発明の使用により除去される。
第2に、他の銅ベースの工具鋼代替品は基本的にベリリウム等を含んだ銅合金であった。かかる金属基体からの製造に関しては環境的及び人体的危険があるので、産業界はベリリウムの使用を避けたいと考えている。また、鋳型腐食は特定の重合体と共に使用される場合に生じる問題であると考えられている。他の材料に関しても問題はある。例えば腐食の問題は、銅−アルミニウム−亜鉛−クロム−コバルト−鉄−ケイ素合金でも発生し、これは選択的侵出腐食(selective leaching corrosion)に起因するものである。一方本発明は、これらの各問題及び産業界における懸念に対処し、各ケースにおいて改良をもたらした。
また本発明者らは、本発明のCu15Ni8Sn合金をジャーナル軸受、往復軸受、航空機着陸装置及び制動装置用軸受、トランスファースタンピングプレス用ガイド又は擦り板、又は油圧式ピストンポンプ及びモータにおけるシリンダーブロックとして製造並びに使用することが有利であることを発見した。
実際本発明者らは、本発明において開示され図15及び図16に示されるジャーナル軸受110(平軸受)をCu−Ni−Sn合金から製造した。ジャーナル軸受110は潤滑剤受入れ用の直径が1/8インチのドリル孔112を含んでいた。またジャーナル軸受110は、軸受110の何れの末端にも達しない1/8インチの直線溝114を含んだ。軸受110の内径1インチに対し、外径は約1.5インチであった。
鋼製軸を、軸受で支持し通常の市販グリスで間欠的に潤滑しながら一定速度で連続2日間、負荷をかけて回転させた。この様な方法でシステムの負荷と速度の組合わせを種々変更した。軸受応力で示される負荷は、20ksi〜95ksiにわたって変化した。軸の回転速度は、毎分2フィート〜毎分30フィート(表面速度)の間で変化した。これら2つのパラメーターの積は、該システムのPV値として知られている。軸受のPS値は40,000psi−ft/min〜1,600,000psi−ft/minの範囲であった。運転後の軸受中空部の容積の増加は、PV値が250,000psi−ft/min未満の時、表面の移動1フィート当たり0〜10.2x10-9in3/ftの間であった。摩耗についての同様の測定値は、PV値は250,000psi−ft/minより高く1,200,000psi−ft/min未満の時、全体として10〜50x10-9in3/ft未満であった。平軸受材料によるこの様な性能は、文献と一致しない。
各軸受テストにおいてシステムの動作温度を測定した。一般的に、軸の回転が開始されるとシステムの温度が初期温度である室温から100°F以下上昇した。PVが低い状態では温度はその後一定に保たれる。PVが高い状態では温度上昇の増加が観察された。しかしながら、システムは流体力学的に挙動し、検出可能な摩耗を発生しなかったため、PVが最高値の時の温度上昇はたった50°Fであった。また、24時間間隔での断続的な潤滑を行うとその後は比較的長期間にわたって高PV状態での温度が低下することが観察された。このような温度変化はシステムの動作に有害ではない。また、軸受材料の熱伝動率が高くなるように軸受の合金組成に比べて温度上昇が低いことを観察した。
下記の表VIIは、表Vに示したスピノーダル合金の可能な用途の幾つかをまとめたものである。更に、表Vに示した各合金について最低の機械的特性が示されている。
本発明を好適な実施態様と代替の実施態様を参照して述べた。本明細書を読みそして理解すれば変形や変更がが可能であることは明らかである。添付の請求の範囲及びこれと均等な範囲に入るものてあればそのような変形や変更も本発明に含まれる。
Claims (7)
- ニッケル8−16重量%、スズ5−8重量%、及び残量の銅を含有する、連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金を製造する方法であって、該方法は、
(a)容器中の液体合金に没入させたダイから上記合金を溶融状態で連続鋳造して未熱処理の鋳造物を形成し、該ダイは、該ダイに入った液体合金が、該ダイのキャビティ内に生成した一次デンドライトを、合金の液体と固体間の凝固界面にランダムに分配するように配設された合金供給スロットを有し、これにより均質化した微細結晶の合金マトリックスを有する未熱処理鋳造物を得る工程と、
(b)前記未熱処理鋳造物を加熱処理し、その合金マトリックスを単一相に変換した後、直ちに水冷する工程と、
(c)該水冷した鋳造物を加熱処理し、その合金をスピノーダル分解した後、直ちに水冷し、これにより未加工スピノーダル合金を形成する工程とを有することを特徴とする未加工連続鋳造銅−ニッケル−スズスピノーダル合金の製造方法。 - 製造された合金が0.95〜76.2cmの断面寸法または壁厚を有する請求項1記載の方法。
- 製造された合金が粒界において不連続γ’相析出が存在しないことを特徴とする請求項2の記載の方法。
- 製造された合金が、軸受、歯車、ダイ、ロール、擦り板、グラビア印刷シリンダーまたは成形プレートの形態である請求項2記載の合金。
- 製造された合金が、10.1〜76.2cmの断面寸法または壁厚を有する請求項2記載の方法。
- 製造された合金が粒界において不連続γ’相析出が存在しないことを特徴とする請求項5記載の方法。
- 製造された合金が、軸受、歯車、ダイ、ロール、擦り板、グラビア印刷シリンダーまたは成形プレートの形態である請求項5記載の方法。
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