JP4053933B2 - 構造物の表層部剥落防止方法およびアンカー - Google Patents

構造物の表層部剥落防止方法およびアンカー Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばトンネル等の構造物の表層部の剥落を防止する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、コンクリートで形成されたトンネル等のコンクリートからなる構造物は、経年変化等によって劣化していき、その表層部にひび割れが生じ、剥落の可能性があるコンクリート片(表層部片)が生じている場合がある。このようなコンクリート片の剥落を防止するために、従来では、例えば、繊維シートの貼り付けや、L型鋼や金網などを利用した剥落防止工が行われている(例えば、非特許文献1参照)。
繊維シートの貼り付けは、剥落の可能性があるコンクリート片を含む表層部の表面に、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等のシートを含浸・接着樹脂によって積層するとともに接着するものである。
また、L型鋼や金網などを利用した方法は、コンクリート構造物の表層部の表面を金網によってコンクリート片を含んで大きく覆い、その金網の端部をL型鋼によって抑え、このL型鋼をアンカーボルトによって表層部に固定するものである。
【0003】
【非特許文献1】
「トンネル保守マニュアル」財団法人 鉄道総合技術研究所発行、平成12年5月初版第1刷、105頁、108〜109頁
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記のような従来の剥落防止工では以下のような課題があった。
すなわちまず、L型鋼や金網などを利用した方法では、L型鋼や金網を吊り上げるためのクレーン等の重機が必要となって、工事が大掛かりなものとなる。特に鉄道のトンネル等、作業空間が狭く、工事の時間帯が限られる場合は工事が非常に困難となる。
また、L型鋼を固定しているアンカーボルトの本数がさほど多くないため、品質管理のためのアンカーボルトの抜き出し試験ができない。
【0005】
繊維シートの貼り付けによるものは、ひび割れ等が発生している劣化箇所を覆ってしまうため、対策後(工事後)の状況を確認できない。さらに、ひび割れ箇所から漏水が発生した場合、繊維シートで覆っているため、この繊維シートが漏水によって膨れて剥がれてしまう。
また、両方法いずれの場合でも、万が一施工不良により繊維シートが剥がれたり、L型鋼が外れたりした場合、これらがトンネル内を走行する列車等に衝突して、この列車に大きな衝撃を与えてしまう可能性がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、コンクリート片等の表層部片の剥落防止のための工事が容易であり、工事後の状況も容易に確認でき、漏水にも強く、品質管理のための抜き出し試験もでき、さらには、万が一施工不良があっても列車等に大きな衝撃を与えることのない構造物の表層部剥落防止方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、例えば図1〜図3に示すように、コンクリート、ブロック、レンガのうちの少なくとも1種類で構成された構造物の表層部の剥落を防止する構造物の表層部剥落防止方法であって、
ひび割れ3やコールドジョイントによって、前記表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片(コンクリート片)4がある場合に、
前記表層部の構造物本体(コンクリート本体)2にL型のアンカー5の一端部5aを埋設固定し、この構造物本体(コンクリート本体)2に隣接する前記表層部片(コンクリート片)4に前記アンカー5の他端部5bを隙間をもつようにして近接させることを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、構造物の表層部の構造物本体にアンカーの一端部を埋設固定し、この構造物本体に隣接する表層部片に前記アンカーの他端部を隙間をもつようにして近接させる。したがって、表層部片が剥落しようとすると、その表層部片がアンカーの他端部によって支持されるので、表層部片の剥落を防止できる。
また、アンカーの一端部を構造物本体に埋設固定するとともに、他端部を表層部片に隙間をもつようにして近接させるだけの簡単な作業であるので、従来のようなクレーン等の重機が必要なく、工事が容易であり、さらに、ひび割れ等の劣化が生じるたびに、その部分の表層部片が剥落しないように補修するのが容易である。
また、ひび割れ等が発生している劣化箇所を覆うことがないので、工事後の状況も容易に確認でき、漏水にも強いものとなる。
さらに、表層部片の剥落を防止する場合、多数のアンカーを使用することにより、品質管理のためのアンカーの抜き出し試験も容易にでき、また、万が一アンカーの一部に施工不良があっても、そのアンカーが脱落するだけであるので、列車等に大きな衝撃を与えることがない。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構造物の表層部剥落防止方法において、例えば図4に示すように、
前記表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片(コンクリート片4(4a〜4c))が複数ある場合に、互いに隣接する表層部片(コンクリート片4a,4b(4c,4b))のうちの少なくとも一方の表層部片(コンクリート片4a(4c))にL型のアンカー5の一端部5aを埋設固定し、他方の表層部片(コンクリート片4b)に前記アンカー5の他端部5bを隙間をもつようにして近接させることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、ひび割れ等によって、表層部片が複数ある場合に、構造物本体に隣接する表層部片の剥落がアンカーによって防止され、さらに、互いに隣接する表層部片がそれぞれアンカーによって剥落が防止されるので、複数の表層部片は、アンカーや表層部片を介して全て支持され、それらの剥落が防止される。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構造物の表層部剥落防止方法において、
前記構造物はトンネル1であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、トンネルの表層部の表層部片の剥落を防止できる。
また、トンネル内を列車等が通過しない短い時間帯で容易に表層部片剥落防止工事を行える。
【0014】
請求項4に記載の発明は、例えば図9および図10に示すように、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表層部剥落防止方法で使用されるL型のアンカー20であって、
前記構造物本体(コンクリート本体)2に、この構造物本体(コンクリート本体)2の表面から突出した状態で一端部が埋設固定される軸部21と、この軸部21の突出している他端部に軸部21と交差するようにして係合し、先端部が前記表層部片(コンクリート片)4に隙間をもつようにして近接する支持部23とを備えていることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記軸部としては、丸棒状のものや角棒状のものが好適に使用されるが、これに限ることなく、異形断面の棒状のものでもよいし、棒状に限らず筒状のものでもよい。
また、軸部に支持部を係合させる場合、例えば、軸部の突出している他端部に雄ねじ部を形成する一方で、支持部にこの雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を形成し、これらを螺合させることによって、軸部に支持部を係合させればよい。
また、係合の手段はこれに限ることなく、例えば、支持部に軸部が貫通する孔を形成するとともに、軸部と支持部の少なくともいずれか一方に、支持部が軸部に対して抜け出るのを防止する防止手段を設けてもよい。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、ひび割れやコールドジョイントによって、前記表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片がある場合に、前記表層部の構造物本体(コンクリート本体)2にアンカーの軸部の一端部を埋設固定し、この構造物本体に隣接する前記表層部片に支持部の先端部を隙間をもつようにして近接させる。したがって、表層部片が剥落しようとすると、その表層部片が支持部の先端部によって支持されるので、表層部片の剥落を防止できる。
また、この軸部の突出している他端部に支持部が軸部と交差するようにして係合しているので、この係合量を大きくとることによって、軸部に対する支持部の固定強度が高くなり、よって、剥落しようとする表層部片の重量に十分耐えることができる。
さらに、軸部と支持部が別体であるので、構造物の性状や表層部片の大きさによって、軸部や支持部の大きさ、形状等を容易に変更でき、また、軸部を埋設固定した後でも、支持部の大きさ、形状等を容易に変更できる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のアンカーにおいて、
前記軸部21に、前記支持部22と前記構造物本体(コンクリート本体)2との間に介在する介在物(ワッシャ)23が外挿されていることを特徴とする。
【0018】
ここで、前記介在物は、軸部が挿通される孔が形成された板状のものが望ましいく、また、この介在物の厚さは数mm程度のものが望ましい。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、軸部に、支持部と構造物本体との間に介在する介在部が外挿されているので、介在物に支持部を当接するとともに、介在物を構造物本体に当接することによって、支持部と構造物本体との間の隙間を確実に一定に保持できる。したがって、表層部片が構造物本体から完全に剥落する前においては、前記隙間が狭まるので、剥落の危険性を事前に察知することができる。
【0020】
請求項6に記載の発明は、例えば図11および図12に示すように、請求項4または5に記載のアンカーにおいて、
前記支持部22の先端部に、押圧されることによって破損するカプセル30が取付けられており、このカプセル30内に、該カプセル30が破損した際に外部に放出されて物体に付着する付着物31が充填されていることを特徴とする。
【0021】
ここで、前記カプセルは接着剤等によって支持部の先端部に取付けるのが望ましい。また、カプセルの材料としては、例えば、ポリプロピレンやビニール、プラスチックなどの高分子材料や、ガラスなどの無機材料が好適であり、所定の押圧力で容易に破損して、内部の付着物を外部に容易に放出でき、しかも、漏水などに対して抵抗性があり、容易に溶解しないものが望ましい。また、カプセルは所定の押圧力で容易に破砕するのが望ましいが、破砕に至らなくても破損し、内部の付着物を外部に容易に放出できるもであればよい。
また、カプセル内に充填する付着物としては、淡色の塗料や蛍光体、発光体などを含む液体等が好ましいが、粉体であってもよく、要は物体に付着可能でかつ目視可能なものであればよい。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、ひび割れやコールドジョイントによって、前記表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片がある場合に、前記表層部の構造物本体にアンカーの軸部の一端部を埋設固定し、この構造物本体に隣接する前記表層部片に支持部の先端部を近接させ、これによって、支持部の先端部と表層部片との間に、カプセルを挟み込む。この際、カプセルは表層部片に当接するか、あるいは表層部片との間に僅かの隙間を設ける。
そして、表層部片が剥落すると、この表層部片によってカプセルが押圧されて破損し、表層部片は支持部の先端部によって支持される。カプセルが破損するとその内部から付着物が放出されて、この付着物が表層部片や支持部の先端部に付着する。したがって、この付着した付着物を目視することによって、表層部片の剥離(変位)を、至近距離でなくても容易に確認できる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、例えば図13に示すように、請求項6に記載のアンカーにおいて、
前記カプセル30は緩衝材32に埋設されており、この緩衝材32を介して前記支持部22の先端部に取付けられていることを特徴とする。
【0024】
ここで、緩衝材としては、比較的柔軟な樹脂や、発泡樹脂等が好適に使用される。緩衝材にカプセルを埋設する場合、例えば、カプセルを被覆するようにして緩衝材となる樹脂を成形すればよい。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、カプセルが緩衝材に埋設されているので、アンカーを搬送したり、表層部の構造物本体にセットしたりする場合において、カプセルの破損を未然に防止できる。
また、カプセルの形状が丸みをおびていたり、カプセルを複数支持部に取付ける場合に、カプセルが緩衝材に埋設されているので、この緩衝材を支持部に取付けることによって、カプセルを容易にかつ強固に支持部に取付けることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、構造物としてコンクリートで築造されたトンネルの断面を示す。このトンネル1の内周部には覆工コンクリート(構造物本体)2が形成されている。この覆工コンクリート2の表層部の一部には、経年変化等によるひび割れや継目等3(以下、ひび割れや継目等3を、ひび割れ3と略称する。)が存在している。このひび割れ3によって、前記覆工コンクリート2の表層部には、図2および図3に示すように、剥落の可能性があるコンクリート片(表層部片)4が生じている。
【0027】
本実施の形態の構造物の表層部剥落防止方法では、前記コンクリート片4の剥落を防止する。
すなわちまず、L型のアンカー5を多数用意しておく。このアンカー5は接着式のアンカーである。
そして、コンクリート片4の外側に隣接しているコンクリート本体(覆工コンクリート(構造物本体))2に、コンクリートドリルで下孔6を形成する。この下孔6はコンクリート本体2に隣接するコンクリート片4の外周方向に沿って、つまり、ひび割れ3に沿って所定間隔で多数形成する。
次に、各下孔6からコンクリートの切粉を除去した後、各下孔6に接着用の樹脂が充填されたカプセル(図示せず)を挿入する。
【0028】
次に、各下孔6にそれぞれアンカー5の一端部5aをハンマー等によって叩いて挿入していく。すると、アンカー5の一端部5aによってカプセルが破られ、このカプセル内から接着用の樹脂が押出されてアンカー5の一端部5aの回りを覆うようにして下孔6内に充填される。このとき、アンカー5の他端部5bは、コンクリート片4の外周縁部側に向けて配置し、コンクリート片4の表面に対して若干の隙間をもつようにして近接させておく。また、各アンカー5の他端部5bはひび割れ3に対して略直角となるように配置する。樹脂が硬化すると、アンカー5の一端部5aがコンクリート本体2に埋設固定され、他端部5bはコンクリート片4に近接した状態で固定される。
【0029】
このようにして、コンクリート片4の外周側に位置するコンクリート本体2に多数のアンカー5の一端部5aをひび割れ3に沿って所定間隔で埋設固定し、他端部5bをコンクリート片4に近接させる。
なお、前記下孔6にアンカー5の一端部5aを埋設固定する場合、全ての下孔6を形成した後、これら下孔6にアンカー5の一端部5aを埋設固定してもよいし、下孔6を所定の個数だけ形成した後、その下孔6にアンカー5の一端部5aを埋設固定してもよいし、一つずつ下孔6を形成して、その下孔6にアンカー5の一端部5aを埋設固定してもよい。
【0030】
そして、コンクリート片4が剥落しようとすると、そのコンクリート片4が多数のアンカー5の他端部5bに当接する。アンカー5の一端部5aはコンクリート本体2に埋設固定されているので、コンクリート片4はアンカー5の他端部5bによって支持され、これによって、コンクリート片4の剥落を防止できる、つまりアンカー5のせん断耐力によってコンクリート片4の剥落を防止できる。
また、コンクリート片4がコンクリート本体2から完全に剥落する前においては、アンカー5の他端部5bとコンクリート片4との間の隙間が狭まるので、剥落の危険性を事前に察知することができる。
【0031】
さらに、アンカー5の一端部5aをコンクリート本体2に埋設固定するとともに、他端部5bをコンクリート片4に近接させるだけの簡単な作業であるので、従来のようなクレーン等の重機が必要なく、工事が容易であり、さらに、ひび割れ等の劣化が生じるたびに、その部分のコンクリート片4が剥落しないように補修するのが容易である。
また、ひび割れ3が発生している劣化箇所を覆うことがないので、工事後の状況も容易に確認でき、漏水にも強いものとなる。
さらに、コンクリート片4の剥落を防止するために、多数のアンカー5を使用しているので、品質管理のためのアンカー5の抜き出し試験も容易にでき、また、万が一アンカー5の一部に施工不良があっても、そのアンカー5が脱落するだけであるので、列車等に大きな衝撃を与えることがない。
【0032】
なお、本実施の形態では、剥落の可能性があるコンクリート片4が一つの場合について説明したが、剥落の可能性があるコンクリート片4が複数生じている場合には、以下のようにしてコンクリート片の剥落防止を行う。
すなわち、図4に示すように、コンクリート本体2にひび割れ3によって、複数のコンクリート片4(4a,4b,4c)が生じている場合に、互いに隣接するコンクリート片4aと4bのうちの一方のコンクリート片4aにアンカー5の一端部5aを埋設固定し、他方のコンクリート片4bにアンカー5の他端部5bを近接させる。
同様にして、互いに隣接するコンクリート片4cと4bのうちの一方のコンクリート片4cにアンカー5の一端部5aを埋設固定し、他方のコンクリート片4bにアンカー5の他端部5bを近接させる。
さらに、両側にあるコンクリート本体2,2にそれぞれアンカー5の一端部5aを埋設固定し、各コンクリート本体2に隣接するコンクリート片4a,4cにそれぞれアンカー5の他端部5bを近接させる。
【0033】
このようにすれば、ひび割れ3によって、コンクリート片4が複数生じている場合に、コンクリート本体2に隣接するコンクリート片4a,4cの剥落がアンカー5によって防止され、さらに、互いに隣接するコンクリート片4a,4bや4b,4cがそれぞれアンカー5によって剥落が防止されるので、複数のコンクリート片4a〜4cは、アンカー5やコンクリート片4を介して全て支持され、それらの剥落が防止される。
【0034】
また、本実施の形態では、L型のアンカー5を用いた場合を例にとって説明したが、本発明では、図5に示すようにU型のアンカー10を用いてもよい。このアンカー10をコンクリート本体2やコンクリート片4に埋設固定する場合、例えば図6に示すような、ガン式の穴明け工具11を用いるのが望ましいが、他の穴明け工具を用いてもよいのは勿論である。
前記穴明け工具11は、平行な2本のコンクリートドリル11a,11aを備えており、これらコンクリートドリル11a,11aの距離は、U型アンカー10の一端部10aと他端部10bとの間の長さと等しく設定されている。また、引き金11bを引くことによって、コンクリートドリル11a,11aが軸回りに回転するようになっている。
【0035】
そして、図5に示すように、コンクリート本体(覆工コンクリート)2と、このコンクリート本体2に隣接しているコンクリート片4とに、穴明け工具11を用い、そのコンクリートドリル11a,11aによって下孔6,6を同時に形成する。コンクリートドリル11a,11aの距離は、U型アンカー10の一端部10aと他端部10bとの間の長さと等しいので、下孔6,6間の距離もU型アンカー10の一端部10aと他端部10bとの間の長さに等しくなる。
【0036】
次に、下孔6,6からコンクリートの切粉を除去した後、下孔6,6に接着用の樹脂が充填されたカプセル(図示せず)を挿入したうえで、下孔6,6にそれぞれアンカー10の一端部10aと他端部10bとをハンマー等によって叩いて挿入していく。すると、アンカー10の一端部10aと他端部10bによってカプセルが破られ、このカプセル内から接着用の樹脂が押出されてアンカー10の一端部10aと他端部10bの回りを覆うようにして下孔6,6内に充填される。樹脂が硬化すると、アンカー10の一端部10aと他端部10bがコンクリート本体2とコンクリート片4にそれぞれ埋設固定される。
【0037】
このようにして、コンクリート本体2とコンクリート片4とを、多数のアンカー10によって連結する。
そして、コンクリート片4が剥落しようとすると、アンカー10の一端部10aはコンクリート本体2に埋設固定されており、他端部10bがコンクリート片4に埋設固定されているので、コンクリート片4はアンカー10の他端部10bによって支持され、これによって、コンクリート片4の剥落を防止できる。
【0038】
また、L型のアンカー5を使用した場合と同様に、コンクリート片剥落防止のための工事が容易であり、工事後の状況も容易に確認でき、漏水にも強く、品質管理のための抜き出し試験もでき、さらには、万が一施工不良があっても列車等に大きな衝撃を与えることがない。
さらに、アンカー10の他端部10bがコンクリート片4に埋設固定されているので、より確実にコンクリート片4の剥落を防止でき、また、コンクリート片4の横方向へのずれも防止できる。
また、穴明け工具11を使用したので、アンカー10を挿入できる下孔6,6を同時かつ容易に形成でき、作業性がよい。
【0039】
さらに、本発明では、前記L型のアンカー5やU型のアンカー10の他に、図7に示すような三つ又のアンカー12や、図8に示すようなオス・メス型のアンカー13を用いても、L型のアンカー5やU型のアンカー10を用いた場合と同様の効果が得られる。
アンカー12は、図7(b)に示すように、側面視L型のものであり、一端部12aは、図7(a)に示すように、3本に分れている。このアンカー12は、3本の一端部12aをコンクリート本体2に埋設固定し、他端部12bによってコンクリート片4を支持する。
アンカー13は、図8に示すように、オス型14とメス型15とから構成されている。オス型14はL型のアンカーであり、その一端部14aの外周部には多数の突起が形成されている。メス型15は筒状のものあり、その内部にはオス型の突起に係合する突起が多数が形成されている。
そして、このようなアンカー13は、そのメス型15をコンクリート本体2に前記アンカー5の一端部5aと同様にして、埋設固定したうえで、メス型15にオス型14の一端部14aを係合させることで、コンクリート本体2に埋設固定され、オス型14の他端部14bによってコンクリート片4を支持するようになっている。
【0040】
また、本発明では、上述したようなアンカー5,10,12,13の他に、図9に示すようなアンカー20を使用してもよい。
すなわち、アンカー20は、軸部21と支持部22とワッシャ(介在物)23とを備えている。
軸部21は丸棒状のものであり、その一端部(図9においては上端部)はコンクリート本体2に埋設固定されるようになっており、他端部(図9においては下端部)には雄ねじ部21aが形成されている。
【0041】
支持部22はその先端部で剥落してきたコンクリート片4を支持するものであり、側面視において頂点が円弧状の略三角形状をなしている。また、支持部22は先端側(図9において右側)に向かうほど細くなるような尖った形状とされ、基端部には上下に貫通して前記軸部21の下端部が挿通される孔が形成され、この孔の内面には軸部21の雄ねじ部21aに螺合(係合)する雌ねじ部22aが形成されている。また、支持部22の基端部(図9において左端部)は、孔が形成された部分の上下方向の厚さが最も肉厚に形成されており、先端部に向かうほど薄くなるように形成されている。また、支持部22はその先端部がコンクリート片4の外周部に達するに足るだけの長さを有している。さらに、支持部22の上面は平面とされている。
【0042】
前記ワッシャ23は、円板状のものであり、その直径は支持部22の基端部の平面視における直径とほぼ等しくなっている。ワッシャ23には孔が形成されており、この孔に軸部21を挿通することによって、ワッシャ23が支持部22とコンクリート本体2の間に介在するようになっている。
【0043】
上記のような構成のアンカー20を用いて、コンクリート片4の剥落を防止するには、前記L型のアンカー5を用いた場合とほぼ同様にして行う。
すなわちまず、図9および図10に示すように、アンカー20を多数用意しておき、コンクリート片4の外側に隣接しているコンクリート本体(覆工コンクリート(構造物本体))2に、下孔6を、ひび割れ3に沿って所定間隔で多数形成する。
次に、各下孔6からコンクリートの切粉を除去した後、各下孔6に接着用の樹脂が充填されたカプセル(図示せず)を挿入する。
【0044】
次に、各下孔6にそれぞれ、アンカー20の軸部21をハンマー等によって叩いて挿入していく。すると、軸部21の一端部によってカプセルが破られ、このカプセル内から接着用の樹脂が押出されて軸部21の一端部の回りを覆うようにして下孔6内に充填される。樹脂が硬化すると、軸部21の一端部がコンクリート本体2に埋設固定され、他端部はコンクリートー本体2の表面から突出した状態となっている。
【0045】
次に、コンクリート本体2の表面から突出している軸部21の他端部に、ワッシャ(介在物)23を外挿するとともに、支持部22の孔を外挿して、その孔に形成されている雌ねじ部22aを、軸部21の他端部に形成されている雄ねじ部21aに螺合する。これによって、軸部21の他端部に支持部22を軸部21と交差(直交)するようにして係合する。
この場合、支持部22を回しながら係合していき、この支持部22とコンクリート本体2とによって、ワッシャ23を挟み付ける。このように、ワッシャ23に支持部22を当接するとともに、ワッシャ23をコンクリート本体2に当接することによって、支持部22とコンクリート本体2との間の隙間を確実に一定に保持できる。
また、ワッシャ23を支持部22とコンクリート本体2とで挟み付けた状態では、支持部22の先端部をコンクリート片4の外周縁部側向けて配置することで、支持部22の先端部がコンクリートー片4に近接した状態となる。
【0046】
なお、前記下孔6にアンカー20の軸部21を埋設固定する場合、全ての下孔6を形成した後、これら下孔6に軸部21を埋設固定してもよいし、下孔6を所定の個数だけ形成した後、その下孔6に軸部21を埋設固定してもよいし、一つずつ下孔6を形成して、その下孔6に軸部21を埋設固定してもよい。
さらに、予め、軸部21にワッシャ23と支持部22とを取り付けておき、軸部21をワッシャ23、支持部22と共に、下孔6に埋設固定してもよい。
【0047】
そして、コンクリート片4が剥落しようとすると、そのコンクリート片4が多数のアンカー20の支持部22の先端部に当接する。支持部22が係合している軸部21はコンクリート本体2に埋設固定されているので、コンクリート片4は支持部22によって支持され、これによって、コンクリート片4の剥落を防止できる、つまり軸部21のせん断耐力によってコンクリート片4の剥落を防止できる。
また、軸部21の突出している他端部に支持部22が軸部と交差するようにして係合(螺合)しており、軸部21が螺合している部分の支持部22の肉厚が厚く、その分、軸部21と支持部22との係合量が大きくなるので、軸部21に対する支持部22の固定強度が高くなり、よって、剥落しようとするコンクリート片4の重量に十分耐えることができる。
【0048】
さらに、軸部21と支持部22が別体であるので、コンクリート本体2の性状やコンクリート片4の大きさによって、軸部21や支持部22の大きさ、形状等を容易に変更でき、また、軸部21を埋設固定した後でも、支持部22の大きさ、形状等を容易に変更できる。
さらに、コンクリート片4がコンクリート本体2から完全に剥落する前においては、支持部23の先端部とコンクリート片4との間の隙間が狭まるので、剥落の危険性を事前に察知することができる。
【0049】
また、図11に示すように、前記アンカー20の支持部22の先端部に、カプセル30を接着剤等によって取付けてもよい。このカプセル30は所定の押圧力によって破損し、かつ、漏水などに対して抵抗性があり、容易に溶解しないもので形成されており、例えば、ポリプロピレンやビニール、プラスチックなどの高分子材料や、ガラスなどの無機材料等によって形成されている。
カプセル30内には、このカプセル30が破損した際に外部に放出されて物体(例えば、コンクリート片4や支持部22)に付着して目視可能な付着物31が充填されている。この付着物31としては、例えば淡色の塗料や蛍光体、発光体などを含む液体が使用される。
【0050】
そして、ひび割れやコールドジョイントによって、表層部の一部に剥落の可能性があるコンクリート片4がある場合に、表層部のコンクリート本体2にアンカー20の軸部21の一端部を埋設固定し、このコンクリート本体2に隣接するコンクリート片4に支持部22の先端部を近接させ、これによって、支持部22の先端部とコンクリート片4との間に、カプセル30を挟み込む。この際、カプセル30はコンクリート片4に当接するか、あるいはコンクリート片4との間に僅かの隙間を設ける。
そして、コンクリート片4が剥落すると、このコンクリート片4によってカプセル30が押圧されて破損し、コンクリート片4は支持部22の先端部によって支持される。
一方、カプセル30が破損するとその内部から付着物31が放出されて、図12に示すように、この付着物31がコンクリート片4や支持部22の先端部に付着する。したがって、この付着した付着物31を目視することによって、コンクリート片の剥離(変位)を、至近距離でなくても容易に確認できる。
【0051】
また、カプセル30を、支持部22の先端部に直接ではなく緩衝材32によって間接的に取付けてもよい。
すなわち、図13に示すように、複数のカプセル30,30が緩衝材32に埋設されており、この緩衝材32を介して支持部22の先端部に取付けられている。緩衝材32は、比較的柔軟な樹脂によって形成されており、この緩衝材32にカプセル30,30を埋設する場合、図示しない金型内にカプセルを配置し、この金型内に樹脂を充填することによって行われている。
【0052】
この場合、カプセル30,30が緩衝材32に埋設されているので、アンカー20を搬送したり、表層部のコンクリート本体2にセットしたりする場合において、カプセル30,30の破損を未然に防止できる。
また、カプセル30の形状が丸みをおびていたり、カプセル30を複数支持部22に取付ける場合に、カプセル30,30が緩衝材32に埋設されているので、この緩衝材32を支持部22に取付けることによって、カプセル30,30を容易にかつ強固に支持部22に取付けることができる。
【0053】
なお、上述した実施の形態では、接着式のアンカー5,10,12,13,20を用いたが、本発明ではこれに限ることなく、下孔を形成したうえで、打撃や回転による締め付けによって機械的に固定するものでもよく、さらには下孔を形成することなく、コンクリート本体やコンクリート片に直接打ち込みによって埋設固定するものでもよい。この場合、打ち込みは、エアー、油圧、火薬等を利用して行えばよい。
また、本実施の形態では、本発明をコンクリート造りのトンネルに適用した場合を例にとって説明したが、本発明は、コンクリート構造物であればどのようなものに適用してもよい。
さらに、継目の剥離により、剥落の可能性のあるブロックやレンガ造りの構造物にも適用できるのは勿論である。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ひび割れやコールドジョイントによって、表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片がある場合に、表層部の構造物本体にL型のアンカーの一端部を埋設固定し、この構造物本体に隣接する表層部片にアンカーの他端部を隙間をもつようにして近接させることによって、表層部片の剥落を防止したので、表層部剥落防止のための工事が容易であり、工事後の状況も容易に確認でき、漏水にも強く、品質管理のための抜き出し試験もでき、さらには、万が一施工不良があっても列車等に大きな衝撃を与えることがない。
【0055】
また、アンカーが、軸部と、この軸部に係合する支持部とを備えているので、この係合量を大きくとることによって、軸部に対する支持部の固定強度が高くなり、よって、剥落しようとする表層部片の重量に十分耐えることができる。
さらに、支持部の先端部に、内部に付着物が充填されたカプセルが取付けられているので、支持部の先端部と表層部片との間に、カプセルを挟み込むようにしてアンカーをセットすることによって、表層部片が剥落すると、カプセルが押圧されて破損し、その内部から付着物が放出されて表層部片や支持部の先端部に付着する。したがって、この付着した付着物を目視することによって、表層部片の剥離(変位)を、至近距離でなくても容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の表層部剥落防止方法の一例を説明するためのもので、トンネルの横断面図である。
【図2】同、図1における要部の拡大図である。
【図3】同、コンクリート片を示す平面図である。
【図4】同、コンクリート片が複数ある場合のトンネルの要部の横断面図である。
【図5】同、アンカーの第1の変形例を示す図である。
【図6】同、下孔を形成するための穴明け工具を示す図である。
【図7】同、アンカーのその他の変形例を示す図である。
【図8】同、アンカーのその他の変形例を示す図である。
【図9】同、軸部と支持部を備えたアンカーの例を示す図である。
【図10】同、コンクリート片を示す平面図である。
【図11】同、アンカーの支持部の先端部にカプセルが取付けられている状態を示す断面図である。
【図12】同、カプセルが破損して付着物が支持部に付着した状態を示す断面図である。
【図13】同、カプセルを緩衝材を介して取付けた状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1 トンネル(コンクリート構造物)
2 覆工コンクリート(構造物本体(コンクリート本体))
3 ひび割れ
4 コンクリート片(表層部片)
5,12,13,20 アンカー
21 軸部
22 支持部
23 ワッシャ(介在物)
30 カプセル
31 付着物
32 緩衝材

Claims (7)

  1. コンクリート、ブロック、レンガのうちの少なくとも1種類で構成された構造物の表層部の剥落を防止する構造物の表層部剥落防止方法であって、
    ひび割れやコールドジョイントによって、前記表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片がある場合に、
    前記表層部の構造物本体にL型のアンカーの一端部を埋設固定し、この構造物本体に隣接する前記表層部片に前記アンカーの他端部を隙間をもつようにして近接させることを特徴とする構造物の表層部剥落防止方法。
  2. 請求項1に記載の構造物の表層部剥落防止方法において、
    前記表層部の一部に剥落の可能性がある表層部片が複数ある場合に、
    互いに隣接する表層部片のうちの少なくとも一方の表層部片にL型のアンカーの一端部を埋設固定し、他方の表層部片に前記アンカーの他端部を隙間をもつようにして近接させることを特徴とする構造物の表層部剥落防止方法。
  3. 請求項1または2に記載の構造物の表層部剥落防止方法において、
    前記構造物はトンネルであることを特徴とする構造物の表層部剥落防止方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の表層部剥落防止方法で使用されるL型のアンカーであって、
    前記構造物本体に、この構造物本体の表面から突出した状態で一端部が埋設固定される軸部と、この軸部の突出している他端部に軸部と交差するようにして係合し、先端部が前記表層部片に隙間をもつようにして近接する支持部とを備えていることを特徴とするアンカー。
  5. 請求項4に記載のアンカーにおいて、
    前記軸部に、前記支持部と前記構造物本体との間に介在する介在物が外挿されていることを特徴とするアンカー。
  6. 請求項4または5に記載のアンカーにおいて、
    前記支持部の先端部に、押圧されることによって破損するカプセルが取付けられており、このカプセル内に、該カプセルが破損した際に外部に放出されて物体に付着する付着物が充填されていることを特徴とするアンカー。
  7. 請求項6に記載のアンカーにおいて、
    前記カプセルは緩衝材に埋設されており、この緩衝材を介して前記支持部の先端部に取付けられていることを特徴とするアンカー。
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