JP4033697B2 - 細胞チップ作製方法と標的蛋白質スクリーニング方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、標的蛋白質と各種物質との相互作用を調べるために利用できる細胞チップの作製方法と、この方法で作製した細胞チップ、並びにこの細胞チップを用いた標的蛋白質スクリーニング方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゲノムプロジェクトにおいて多くの新規遺伝子が発見されている。これらの遺伝子がコードしている蛋白質の機能を調べたり、これらの蛋白質を利用して新しい医薬品を開発するためには、これらの蛋白質(標的蛋白質)と結合する物質を見つける必要がある。そこで、そのためのアッセイ法が種々開発されてきた(E. M. Phizicky and S. Fields, Microbiol. Rev. 59:94-123, 1995; A. R. Mendelsohn and R. Brent, Science 284: 1948-1950, 1999)。最も一般的な方法は、複数の標的蛋白質を担体に固定し、これに標識したプローブを作用させて、結合するかどうかを調べる方法である。従来、標的蛋白質の固定化が容易なウエスタンブロッティング法とELISA法が広く用いられているが、次のような問題点がある。
(a) 多量の標的蛋白質を調製する必要がある。
(b) 標的蛋白質の単離精製に、時間と労力を要する。
(c) 単離精製や固定化の過程で標的蛋白質が分解・変性することがある。
(d) スクリーニングするのに多量のプローブが必要である。
【0003】
この中の(a)と(d)の問題点を解決するために、最近、蛋白質マイクロアレイ法が開発された。すなわち、標的蛋白質をスライドグラス上の微少領域に格子状に高密度で固定化した蛋白質チップを用いる方法である(MacBeath & Schreiber, Science 289:1760-1763, 2000)。
【0004】
しかしながら、この蛋白質チップでも、(b)と(c)の問題点は残されていた。そこで、標的蛋白質の単離精製プロセスを省くために、標的蛋白質の発現ベクターをスライドグラス上に格子上のスポットに固定したのち、この上で細胞を培養し、発現ベクターを培養細胞内に導入することによって、標的蛋白質発現細胞を格子状に配置した細胞チップを作製し、各細胞が発現する標的蛋白質にプローブを作用させる方法も開発されている(J. Ziauddin & D.M. Sabatini, Nature 411:107-110, 2001)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の一般的な蛋白質チップの場合には、標的蛋白質の単離精製に多くの労力や時間を必要とした。また、蛋白質の単離精製や担体への固定化の過程で蛋白質が分解したり変性したりして、標的蛋白質としての機能を喪失してしまう危険性も存在した。
【0006】
一方、発現ベクターをスポッティング固定した担体上で細胞を培養し、発現ベクターを培養細胞内に導入することによって標的蛋白質発現細胞を担体上に固定配置した細胞チップ(Nature 411:107-110, 2001)の場合には、蛋白質を単離精製したり、担体上へ固定配置したりする行程は省略することができる。しかしながら、この従来の細胞チップの作製には、発現ベクターを1スポットづつ固定するために、アレイアーやドットブロッターのような特別の装置を必要とし、しかも発現ベクターは一定間隔を置いて1スポットづつ固定するため、1枚の担体に固定配置することのできる標的蛋白質発現細胞の種類は制限され、多数の標的蛋白質を1枚の細胞チップで試験することができないという問題点を有してもいた。
【0007】
この出願の発明は、以上の従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、蛋白質の単離精製や担体への固定プロセスを省き、特別な装置を必要とせずに、高密度で細胞を固定配置した細胞チップを提供することを課題としている。
【0008】
さらにまたこの出願は、前記の方法で作製した細胞チップ、この細胞チップを用いた標的蛋白質スクリーニング方法を提供することを課題としてもいる。
【0009】
【発明を解決するための手段】
この出願は、前記の課題を解決するための第1の発明として、発現パターンの違いによってそれぞれが発現する標的蛋白質が特定可能である複数種の真核細胞混合培養物を、担体上の微小領域に高密度で固定配置することを特徴とする細胞チップ作製方法を提供する。
【0010】
この第1発明の細胞チップ製造方法においては、真核細胞が標的蛋白質の発現ベクターを導入した真核細胞であることを好ましい態様としている。
【0011】
また、前記第1発明またはその好ましい態様においては、真核細胞が哺乳動物培養細胞であることを別の好ましい態様としてもいる。
【0012】
この出願は、第2の発明として、前記第1発明の方法で作製した細胞チップであって、発現パターンの違いによってそれぞれが発現する標的蛋白質が特定可能である複数種の真核細胞が、担体上の微小領域に高密度でランダムに固定配置されていることを特徴とする細胞チップを提供する。
【0013】
この出願はまた、第3の発明として、前記第3発明の細胞チップの各細胞にプローブを反応させて、プローブと結合する標的蛋白質を検出することを特徴とする標的蛋白質スクリーニング方法を提供する。
【0014】
以下、実施形態を示し、前記の各発明について詳しく説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】
第1発明の方法において作製する「細胞チップ」は、標的蛋白質を発現する1個の真核細胞を構成成分とする。すなわち、標的蛋白質を発現する1個の真核細胞が、従来の蛋白質アレイにおける標的蛋白質の1個のスポットに相当する。そして、標的蛋白質の発現パターンがそれぞれに異なる複数種の真核細胞が、担体上の微少領域に高密度で固定配置されている。
【0016】
担体上に固定配置された複数種の真核細胞は、それぞれが発現する標的蛋白質の発現パターンの違いによって互いに他の真核細胞と区別される。「発現パターンの違い」とは、例えば、発現する蛋白質の種類の違い、発現量の違い、蛋白質の発現局在の違い等である。例えば、特定の細胞種でのみ発現する標的蛋白質を発現する真核細胞は、その標的蛋白質を発現しない他の細胞種と区別される。また、他の生物種由来の外来性蛋白質を発現する真核細胞は、その内在性蛋白質のみを発現する同一細胞種と区別される。さらに、特定の蛋白質を過剰発現する真核細胞は、その蛋白質の発現量が正常である同一細胞種と区別される。またさらに、特定蛋白質の発現が特定の細胞部位に局在する細胞種は、その発現局在部位が異なる同一細胞種と区別される。そして、真核細胞が互いに区別されることによって、それぞれが発現する標的蛋白質が特定可能である。
【0017】
「標的蛋白質」は、ヒトを含めたあらゆる生物種由来の、あらゆる蛋白質を対象とすることができる。その機能が既知であってもよく、あるいは機能未知のものであってもよい。標的蛋白質のアミノ酸配列、またはそれをコードするDNA配列は未知であってもよいが、既知であることが好ましい。アミノ酸配列は、天然に存在する蛋白質由来の配列であっても、人工的にデザインした配列であってもよい。さらにこの標的蛋白質は、天然蛋白質のアミノ酸配列における一部連続配列からなるポリペプチドまたはオリゴペプチドであってもよい。
【0018】
「真核細胞」は、サル腎臓細胞COS7、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO、各種ヒト腫瘍株化細胞などの哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞など、いかなる真核細胞でもよい。浮遊細胞よりは、培養器に付着する細胞の方が好ましい。また、混合培養が可能であれば、由来する種や組織が異なる2種類以上の真核細胞を用いても良い。
【0019】
このような真核細胞の一つの態様は、標的蛋白質が内在性蛋白質である真核細胞である。ただし、その場合は、その内在性蛋白質の発現パターンによって、他の細胞種と区別可能な細胞であることを条件とする。例えば、癌遺伝子産物や変異蛋白質等を発現する真核細胞である。
【0020】
真核細胞の別の好ましい態様は、標的蛋白質の発現ベクターを導入した真核細胞である。この場合の発現ベクターは、例えば、標的蛋白質として外来性蛋白質を発現するベクター、外来性または内在性蛋白質を過剰発現するベクター、外来性または内在性蛋白質を特定の細胞内局在で発現するベクター等である。また、1個の細胞に2種類以上の標的蛋白質を発現させるようにしてもよい。
【0021】
発現ベクターとしては、プロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターであれば、プラスミドベクター、ウイルスベクターを問わずいかなるものでもよく、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBVベクター、pRS、pYES2などが例示できる。これらのベクターに、標的蛋白質をコードするcDNAやDNA断片をクローン化して発現ベクターを作製する。また、標的蛋白質を過剰発現させる場合には、標的蛋白質コード配列に、その真核細胞で作用する高発現プロモーター等を連結すればよい。さらに、標的蛋白質を特定の細胞内局在で発現させる場合には、細胞内の特定の部位(例えば、細胞膜、オルガネラ膜、核膜など)に局在化することが知られている公知の局在化シグナルペプチドのコード配列を、標的蛋白質コード配列に所定の位置関係となるように連結して発現ベクターを構築すればよい。なお、標的蛋白質を細胞内の特定の部位に局在化させることは、プローブと標的蛋白質との結合が容易に検出できるため、特に好ましい。
【0022】
標的蛋白質発現ベクターを真核細胞に導入するには、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など公知の方法を用いることができる。
【0023】
担体上に固定配置する「真核細胞の混合培養物」は、それぞれに異なる標的蛋白質を発現する複数種の真核細胞を、それぞれ均等(例えば、各細胞1個づつ)に混合培養してもよく、あるいは特定の1種以上の細胞を他の細胞より多く、または少なく混合培養してもよい。真核細胞の混合培養物を調製するには、それぞれの細胞を個別に培養してから混合する方法と、予め混合した細胞を培養する方法のいずれを採用することもできるが、混合比を正確に制御できることから、前者が好ましい。その場合、個別に培養した細胞をプロテアーゼ処理などによって培養器から剥離させ、それぞれに所定の数の細胞を含む懸濁液を調製し、それぞれの懸濁細胞液を各細胞が均一になるように十分混合したのち、細胞チップの担体の上に蒔き、さらに培養を続ける。この時、植える細胞数をコントロールし、あるいは細胞の種類を選ぶことによって、1 mm2当たり最大5,000個の高い細胞密度のチップが得られる。
【0024】
混合細胞を培養し固定するための担体としては、培養細胞が接着でき、顕微鏡観察が可能な透明のものであれば、その材質はいかなるものであってもよく、例えばスライドグラスやプラスチック製の培養容器が例示できる。また、コラーゲンやラミニン等の蛋白質によるコート処理、あるいは化学的な処理によって、担体表面の細胞接着能が高められているものも用いられる。
【0025】
第1発明の方法は、以上のとおり、真核細胞の混合培養物を担体上に蒔くことによって細胞チップを作製するため、従来技術において必要とされるアレイアー等の特別な装置は必要としない。
【0026】
以上の方法によって作製された第2発明の細胞チップは、発現パターンの違いによってそれぞれが発現する標的蛋白質が特定可能である複数種の真核細胞が、担体上の微小領域に高密度でランダムに固定配置されている。そして、ランダムに配置されている各細胞が発現する標的蛋白質は、前記のとおり、それぞれの発現パターンの違いによって特定可能であり、それによって第3発明のスクリーニング方法に使用することができる。
【0027】
なお、第2発明の細胞チップは、真核細胞を担体上に固定した後ただちにプローブと反応させて第3発明のスクリーニングに用いることができる。あるいは、パラホルムアルデヒドなどで固定してもよい。さらには、冷凍庫で使用時まで保存することもできる。
【0028】
第3発明のスクリーニング方法は、前記第2発明の細胞チップの各細胞にプローブを反応させて、プローブと結合する標的蛋白質を検出することを特徴とする方法である。プローブが既知の場合は、既知物質に結合する未知蛋白質として標的蛋白質が同定される。一方、標的蛋白質が既知の場合には、この標的蛋白質と結合する新規の物質(例えば、薬剤開発のためのリード化合物等)が同定される。
【0029】
この第3発明のスクリーニング方法は、高密度で細胞を固定配置した細胞チップ使用するため、スクリーニングする範囲が狭まり、必要なプローブの量はμlオーダーの極微量とすることができる。例えば、0.4 cm2の面積のウェルのカルチャースライドを用いた場合、最大200,000個の細胞のスクリーニングを20μlのプローブを用いて行える。
【0030】
プローブとしては、酵素、放射性同位体、蛍光色素などで標識した天然物質または合成物質等を用いることができる。酵素は、代謝回転数が大であること、プローブ候補物質と結合させても安定であること、基質を特異的に着色させる等の条件を満たすものであれば特段の制限はなく、例えば、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース−6−リン酸化脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることもできる。これら酵素とプローブ候補物質との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。基質としては、使用する酵素の種類に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3',5,5'−テトラメチルベンジシンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。放射性同位体としては、125Iや3H等の通常のRIA等で用いられているものを使用することができる。蛍光色素としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等の通常の蛍光法に用いられるものの他、緑色蛍光蛋白質等の蛍光蛋白質を使用することができる。
【0031】
このような標識化プローブを細胞と接触させ、プローブからのシグナルを標識に対応する公知の方法で検出する。標識として酵素を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定する。放射生同位体を用いる場合には、放射性同位体の発する放射線をオートラジオグラフィーなどにより検出する。また、蛍光色素を用いる場合には、蛍光顕微鏡を組み合わせた測定装置によって蛍光量を測定すればよい。ただし、細胞内に局在化させた標的蛋白質の場合には、蛍光標識プローブを用い、顕微鏡観察によって結合を検出する方法が好ましい。顕微鏡下で観察することによって、標的蛋白質を局在化させた部位に結合が認められるようであれば、その結合はプローブと標的蛋白質の結合である可能性が高い。なお、標的蛋白質が細胞内蛋白質、または標的蛋白質を細胞内に局在化させた細胞であって、細胞膜を透過できないプローブを用いる場合には、細胞を界面活性剤や有機溶剤で処理して、細胞膜を透過性にしてからプローブと反応させる。
【0032】
【実施例】
次に実施例を示して、この出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、DNAの組換えに関する基本的な操作および酵素反応は、文献("Molecular Cloning. A laboratory manual", Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に従った。制限酵素および各種修飾酵素は特に記載の無い場合宝酒造社製のものを用いた。各酵素反応の緩衝液組成、並びに反応条件は付属の説明書に従った。
実施例1:発現ベクターの作製
(1)蛍光蛋白質発現ベクター
pEGFP-N1、pEYFP-N1、pDsRed2-N1(いずれもClontech社)のそれぞれから調製した蛍光蛋白質(EGFP、EYFP、DsRed2)のcDNAを含むEcoRI-NotI断片をpKA1(Kato et al., Gene 150:243-250, 1994)のEcoRI-NotIに挿入し、蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1を作製した。
(2)膜局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトグリコホリンC様蛋白質(GPCL)をコードするcDNAを有するpHP10524(WO 00/00506号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にSmaI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとSmaIで消化した後、前記(1)で作製した蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1のそれぞれのEcoRI−SmaI開裂部位に挿入し、膜局在化蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-GPCL-EGFP、pKA1-GPCL-EYFPおよびpKA1-GPCL-DsRed2を作製した。融合蛋白質GPCL-EGFP、GPCL-EYFPおよびGPCL-DsRed2の模式図を図2(a)に示す。
(3)ミトコンドリア局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトミトコンドリア3-ヒドロキシイソブチレートデヒドロゲナーゼ(MHIBDH)をコードするcDNAを有するpHP00698(特開2001-037482号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にBamHI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとBamHIで消化した後、蛍光蛋白質発現ベクターpEGFP-N1、pEYFP-N1およびpDsRed2-N1のEcoRI−BamHI開裂部位に挿入し、ミトコンドリア局在化蛍光蛋白質発現ベクターpMHIBDH-EGFP、pMHIBDH-EYFPおよびpMHIBDH-DsRed2を作製した。融合蛋白質MHIBDH-EGFP、MHIBDH-EYFPおよびMHIBDH-DsRed2の模式図を図2(b)に示す。
(4)核局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトアシルCoA結合蛋白質様蛋白質(ACoABPL)をコードするcDNAを有するpHP01124(特開2001-333781号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にKpnI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとKpnIで消化した後、前記(1)で作製した蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1のEcoRI−KpnI開裂部位に挿入し、核局在化蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-ACoABPL-EGFP、pKA1-ACoABPL-EYFPおよびpKA1-ACoABPL-DsRed2を作製した。融合蛋白質ACoABPL-EGFP、ACoABPL-EYFPおよびACoABPL-DsRed2の模式図を図2(c)に示す。
(5)核小体局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトATP-依存性RNAヘリカーゼ(ARH)をコードするcDNAを有するpHP02644(特開2001-218584号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にSmaI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとSmaIで消化した後、前記(1)で作製した蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1のEcoRI−SmaI開裂部位に挿入し、核小体局在化蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-ARH-EGFP、pKA1-ARH-EYFPおよびpKA1-ARH-DsRed2を作製した。融合蛋白質ARH-EGFP、ARH-EYFPおよびARH-DsRed2の模式図を図2(d)に示す。
実施例2:細胞チップAの作製
(1)培養細胞
ヒトフィブロサルコーマ細胞株HT-1080は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、5% CO2存在下、37℃で培養した。2x105個のHT-1080細胞を6ウェルマルチディッシュ(ヌンク社)に植え、5% CO2存在下、37℃で22時間培養した。培地除去後、リン酸緩衝液(PBS)で細胞表面を洗浄し、さらに10%FBSを含むDMEM 1.5 mlを添加した。
(2)細胞への発現ベクターの導入
実施例1(1)〜(5)で作製した5種類の発現ベクター(pKA1-GPCL-EGFP、pMHIBDH-EGFP、pMHIBDH-DsRed2、pKA1-ACoABPL-DsRed2、pKA1-ARH-EYFP)それぞれの溶液1μl(1.5 μg相当分)を無血清DMEM 100μlに添加したのち、トランスフェクション試薬PolyFectTM(キアゲン社)10μlと混合し10分間室温でインキュベートすることによってDNA複合体を形成した。前記(1)の培養細胞HT-1080をPBSで一回洗浄し、10%FBSを含むDMEM 1.5 mlを添加した。先に調製したDNA複合体に10%FBSを含むDMEM 600μlを添加したものを、この細胞に添加し、5% CO2存在下、37℃で22時間培養した。
(3)融合蛋白質発現細胞の担体への固定
前記(2)で作製した5種類の融合蛋白質発現細胞を、それぞれ0.05%トリプシン-EDTA溶液1 mlと37℃で5分間反応させて培養基材から剥離した。10% FBSを含むDMEM 2 mlを添加して細胞を回収したのち、これら5種類の融合蛋白質発現細胞を2x105細胞/mlになるように調製し、均一に混合した。この細胞混合懸濁液1 mlをコラーゲンIカルチャースライド(ファルコン社)に蒔き、5% CO2存在下、37℃でさらに32時間培養した。細胞をPBSで洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド含有PBSで室温15分間固定し、細胞チップAを作製した。
【0033】
この蛋白質チップAを共焦点蛍光顕微鏡(Bio-Rad社MRC1024ES)で観察し、チップ上の各細胞が発現するGFP融合蛋白質に由来する蛍光を測定した。その結果を図3に示す。5種類の融合蛋白質を発現した細胞が顕微鏡視野内に観察できる。この時の細胞の密度は、約1,300個/mm2であった。
実施例3:細胞チップBの作製
実施例2(1)および(2)と同様の方法により、実施例1(1)で作製したpKA1-EGFP-N1およびpKA1(対照ベクター)をそれぞれ導入したHT-1080細胞を作製した。それぞれの細胞を1:100の割合で混合し、この細胞混合懸濁液100μlを16ウェルチェンバースライド(ヌンク社)に植え、実施例2(3)と同様の方法で細胞チップBを作製した。
実施例4:抗体を用いたスクリーニング
実施例3で作製した細胞チップBをPBSで洗浄した後、0.1% Triton X-100で処理した。これに10% Block Ace(大日本製薬社)中で抗GFP抗体20μlを90分間反応させ、PBS洗浄後、10% Block Ace中でローダミン結合二次抗体と40分間反応させた。共焦点蛍光顕微鏡により抗体に由来する赤色蛍光の分布を観察した結果、赤色蛍光を発する細胞が、10個/mm2の割合で見られた。赤色蛍光を発する細胞は、EGFP本来の緑色蛍光をも示した。
【0034】
以上の結果から、この発明の細胞チップは、微量のプローブ(抗体)を用いて、100個に1個の割合で含まれている標的蛋白質の有無を調べることが可能であることが確認された。
【0035】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願によって、微少領域に高密度で標的蛋白質発現細胞を固定した細胞チップと、アレイアー等の特別な装置を必要とせずにこの細胞チップを作製する方法、さらにはこの細胞チップを用いた標的蛋白質スクリーニング方法が提供される。細胞チップやスクリーニング方法は、標的蛋白質と各種物質との相互作用を調べるために利用することができ、その情報は、病気の分子レベルでの解明や新しい医薬の創製に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の蛋白質チップの概念図を模式的に表示した図である。
【図2】この出願の発明に用いた融合蛋白質の構造を表示した図である。GPCL-XFP(a)、MHIBDH-XFP(b)、ACoABPL-XFP(c)、ARH-XFP(d)をそれぞれ示す。ここで、XFPは、EGFP、EYFP、DsRed2のいずれかを表す。また、図中、TMDは膜貫通ドメインを、MtLSはミトコンドリア局在化シグナルを、NLSは核局在化シグナルをそれぞれ表す。
【図3】 5種類の融合蛋白質(GPCL-EGFP、MHIBDH-EGFP、MHIBDH-DsRed2、ACoABPL-DsRed2、ARH-EYFP)を発現する細胞からなる蛋白質チップを観察した共焦点顕微鏡写真を作図したものである。微分干渉像(a)、蛍光画像(b)をそれぞれ示す。目盛りの単位はμmである。
Claims (3)
- 発現パターンの違いによってそれぞれが発現する標的蛋白質が特定可能である複数種の真核細胞の混合物が担体上の微小領域に高密度でランダムに固定配置されている細胞チップにプローブを反応させ、プローブと結合する標的蛋白質を検出する方法であって、前記発現パターンの違いが、
(1)発現する標的蛋白質の種類の違い、
(2)標的蛋白質の発現量の違い、および
(3)標的蛋白質の発現局在の違い、
のいずれか、またはこれらの任意の組合せであることを特徴とする標的蛋白質検出方法。 - 真核細胞が標的蛋白質の発現ベクターを導入した真核細胞である請求項1の標的蛋白質検出方法。
- 真核細胞が哺乳動物培養細胞である請求項1または2の標的蛋白質検出方法。
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