JP4147293B2 - 識別コード付き細胞集団 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、識別コード付き細胞集団に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、識別コードとしての発光特性および発光局在によって個々の細胞が識別可能であり、発現クローニングによる遺伝子探索等に有用な細胞集団に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゲノムプロジェクトにおいて多くの新規遺伝子が発見されている。これらの遺伝子の中から、目的とする活性を有する蛋白質をコードしている遺伝子を探索するために、発現クローニングと呼ばれる方法が広く用いられている。すなわち、細胞に遺伝子の発現ベクターを導入して、各種の遺伝子がコードする蛋白質(標的蛋白質)を発現させた細胞のライブラリーを作製し、この中から目的とする活性を有する細胞を選別する方法である(「新遺伝子工学ハンドブック」、村松正實・山本雅編、p.18-54、羊土社、2000)。例えば、抗体をプローブとして用いて、抗原を発現している細胞をスクリーニングしたり、生物活性を指標として、目的とする酵素・サイトカイン・レセプターなどを探索した例が報告されている。
【0003】
しかしながら、発現クローニングに関する従来法には次のような問題点がある。
(a) 多数の煩雑なアッセイを行なわなければならないこと。
(b) 目的とする標的蛋白質を発現する細胞が得られても、この細胞がいかなる遺伝子を発現しているかを調べるために、細胞の単離、培養、遺伝子抽出、遺伝子のクローン化、塩基配列決定といった煩雑なプロセスが必要であること。
【0004】
これらの問題点を解決するために、遺伝子発現ベクターをスライドグラス上に格子状のスポットとして固定したのち、この上で細胞を培養し、発現ベクターをスポット上に生えた数十個の培養細胞内に導入することによって発現させ、得られた細胞チップを用いて目的活性を有する細胞をスクリーニングする方法も開発されている(J. Ziauddin & D.M. Sabatini, Nature 411:107-110, 2001)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記の細胞チップは、個々の細胞に導入される遺伝子発現ベクターの種類が事前に規定されており、個々の細胞がスライドガラス上で格子状に整列配置されているため、目的の標的蛋白質を発現する細胞が得られた場合、その細胞の配置位置によって細胞が発現している遺伝子を速やかに同定することが可能である。
【0006】
しかしながら、この従来の細胞チップの作製には、発現ベクターを1スポットづつ固定するために、アレイアーやドットブロッターのような特別の装置を必要とし、しかも発現ベクターは一定間隔を置いて1スポットづつ固定するため、1枚の担体に固定配置することのできる標的蛋白質発現細胞の種類は制限され、多数の標的蛋白質を1枚の細胞チップで試験することができないという問題点を有していた。
【0007】
さらにまた、従来の細胞チップの場合には、スライドガラス上にスポット固定した発現ベクターの位置とその種類によって個々の細胞を特定するため、必然的に固相系スクリーニングに限定され、しかもベクターから発現される標的蛋白質のみがスクリーニングの対象であって、細胞それ自体の性質の違いをスクリーニング対象とすることができないという問題点を有してもいた。
【0008】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、特別な装置を必要とせずに簡便に作製することができ、固相系のみならず、液相系のスクリーニングにも使用することができ、しかも標的蛋白質の発現を含めた様々な細胞の性質についてのスクリーニングにも適用可能な新しい細胞集団を提供することを課題としている。
【0009】
またこの出願の発明は、前記の識別コード付き細胞集団から1個の細胞を識別する方法を提供することを課題としてもいる。
【0010】
【発明を解決するための手段】
この出願は、前記の課題を解決するための発明として、特性の異なる発光物質が、それぞれ1または2以上の異なる細胞部位で発光する細胞の集団であって、各細胞は発光物質の特性とその発光部位の違いによって個々に識別可能であることを特徴とする識別コード付き細胞集団を提供する。
【0011】
この発明の細胞集団においては、一部または全ての細胞の発光物質が蛍光蛋白質であること、そして一部または全ての細胞が蛍光蛋白質と局在化シグナルペプチドとの融合蛋白質を発現することを好ましい態様としている。
【0012】
この発明の細胞集団においては、各細胞がそれぞれに異なった性質を有する細胞であること、その異なった性質が異なった標的蛋白質の発現であることを好ましい態様としている。
【0013】
またこの出願は、別の発明として、前記発明の識別コード付き細胞を構成する1個の細胞を、その発光物質の特性と発光部位を指標として、他の細胞と区別して識別することを特徴とする細胞識別方法を提供する。
【0014】
以下、実施形態を示し、前記の各発明について詳しく説明する。
【0015】
【発明の実施の形態】
この発明の細胞集団は、特性の異なる発光物質を、それぞれ1または2以上の異なる細胞部位で発光する細胞の集団であって、その発光物質の特性および発光部位の違いの組み合わせによって個々の細胞が識別可能であることを特徴とする。
【0016】
「特性の異なる発光物質」とは、顕微鏡による観察によって、互いに他の発光物質と区別することのできる特性をそれぞれに有する発光物質である。そのような特性とは、例えば色彩や明暗強度等である。また、発光の形態は、蛍光であっても燐光であってもよい。
【0017】
「発光物質」は、公知の天然発光物質または化学合成物質、例えば蛍光色素化合物、蛍光蛋白質、蛍光半導体(量子ドット)などを用いることができる。蛍光色素化合物としてはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等、蛍光蛋白質としては緑色蛍光蛋白質、赤色蛍光蛋白質、青色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質等、蛍光半導体としては各種発光色の異なる量子ドットを用いることができる。この発明においては、細胞集団を構成する全ての細胞が同一タイプの発光物質を識別コードとしてもよく(例えば全ての細胞が色彩の異なる蛍光蛋白質を識別コードとする)、あるいは一部の細胞が蛍光色素化合物を識別コードとし、他の細胞が蛍光色素化合物とは色彩の異なる蛍光蛋白質を識別コードとしてもよい。この発明では、特に1部または全ての細胞が蛍光蛋白質を識別コードとすることを好ましい態様としている。
【0018】
「異なる細胞部位」とは、顕微鏡観察によって発光物質の発光部位が特定可能な局在部位であればいかなるものでもよい。例えば、オルガネラ(ミトコンドリア、ペルオキソーム、エンドソームなど)、核、核内構造物(核小体、スプライセオソームなど)、細胞質構造物(微小管、アクチンフィラメント、中間フィラメントなど)、内膜系(小胞体、ゴルジ体など)、細胞膜などが例示できる。
【0019】
以上のとおりの「特性の異なる発光物質」と「異なる細胞部位」との組み合わせ(以下、「発光局在パターン」と記載することがある)は、局在部位がn種類(nは1以上の自然数)で、それぞれについて発光色がm種類(mは1以上の自然数)の発光物質がある場合、これらの組み合わせ数は次の式で表される。
【0020】
【式1】
Figure 0004147293
【0021】
例えば、発光色の異なる3種類の発光物質を用い、局在部位を1〜4部位とした場合には、理論的には次のような組み合わせで合計255種類の発光局在パターンが得られる。
【0022】
局在が1部位の場合:4C1×3=12種類
局在が2部位の場合:4C2×32=54種類
局在が3部位の場合:4C3×33=108種類
局在が4部位の場合:4C4×34=81種類
さらに、色を一色増やして4色と4局在部位の組み合せとした場合には、発光局在パターンは合計で624種類となる。
【0023】
局在が1部位の場合:4C1×4=16種類
局在が2部位の場合:4C2×42=96種類
局在が3部位の場合:4C3×43=256種類
局在が4部位の場合:4C4×44=256種類
発光物質を細胞の特定の部位に局在化して発光させるためには、発光物質を「細胞内局在化誘導物質」を介して細胞の特定部位に結合させる。細胞内局在化誘導物質としては、局在化シグナルペプチド、抗体、蛋白質の結合モチーフを含むペプチド、天然物質、合成物質等を用いることができる。発光物質と細胞内局在化誘導物質との結合は、共有結合、イオン結合、疎水結合などいかなる結合でも良いが、解離しにくい共有結合であることが好ましい。両者の結合は担体(蛋白質、合成高分子、有機化合物、無機物質など)を介しても良い。
【0024】
発光物質および/または細胞内局在化誘導物質の細胞内への取り込みは、エンドサイトーシスによる取り込み、トランスフェクション試薬などの輸送担体を用いた取込み、細胞表面への結合、遺伝子発現による細胞内生産等の方法を適宜に組み合わせて行うことができる。例えば、細胞内局在化誘導物質(例えば、蛍光蛋白質に特異的に結合する抗体)をコードする遺伝子を細胞の特定部位に発現させ、この細胞にエンドサイトーシス等によって蛍光蛋白質を導入すれば、発光蛋白質を細胞内の特定部位に局在化させることができる。なお、この発明においては、遺伝子発現による方法(蛍光蛋白質と局在化シグナルペプチドの融合蛋白質の細胞内発現)によって発光物質を局在化した細胞集団を好ましい態様としている。また、蛍光蛋白質と局在化シグナルペプチドの融合蛋白質を発現する細胞は、細胞集団を構成する全ての細胞であってもよく、あるいは一部の細胞であってもよい。すなわちこの発明においては、細胞集団を構成する各細胞が互いに他の細胞と区別して識別されることを条件として、様々な発光物質を識別コードとする細胞が混在していてもよい。そのような細胞の混在は、細胞の種類、スクリーニングやアッセイ対象となる細胞の性質や標的蛋白質の種類等によって、それぞれ適した細胞を選択して行うことができる。
【0025】
蛍光蛋白質と局在化シグナルペプチドの融合蛋白質を発現する細胞集団の作製法を図1に示した。すなわち、複数種類の蛍光蛋白質のN末端やC末端に局在化シグナルペプチドを融合させて、局在化シグナル付き蛍光蛋白質の発現ベクターを作製する。これらの発現ベクターを様々な組み合わせで細胞内に導入し、それぞれを共発現させることによって、目的とする発光局在パターンが得られる。蛍光蛋白質としては、緑色蛍光蛋白質、赤色蛍光蛋白質、黄色蛍光蛋白質、青色蛍光蛋白質などがあげられる。局在化シグナルペプチドとしては、オルガネラ(ミトコンドリア、ペルオキソーム、エンドソームなど)、核、核内構造物(核小体、スプライセオソームなど)、細胞質構造物(微小管、アクチンフィラメント、中間フィラメントなど)、内膜系(小胞体、ゴルジ体など)、細胞膜などへの局在化を引き起こす局在化シグナルペプチドが用いられる。なお、「局在化シグナルペプチド」は、局在化シグナルを有する全長蛋白質であってもよく、局在化シグナルを含む蛋白質の一部であってもよく、さらには局在化シグナルを構成するアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。
【0026】
発現ベクターとしては、例えば真核細胞を対象とする場合にはプロモーター、スプライシング領域、ポリ(A)付加部位等を有する真核細胞用発現ベクターであれば、プラスミドベクター、ウイルスベクターを問わずいかなるものでもよく、pKA1、pCDM8、pSVK3、pMSG、pSVL、pBK-CMV、pBK-RSV、EBVベクター、pRS、pYES2などが例示できる。これらのベクターに、蛍光蛋白質をコードするcDNAと局在化シグナルをコードするDNA断片をクローン化して発現ベクターを作製する。発現ベクターを真核細胞に導入するには、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法など公知の方法を用いることができる。
【0027】
なお、発光蛋白質に局在化シグナルを融合させて、局在パターンの異なる発光蛋白質を細胞内で発現させることは広く行なわれているが(例えば、CLONTECHniques April, 2000)、異なる発光局在パターンを個々の細胞に付与し、これによって細胞集団の個々の細胞を識別するという発想はこれまでなかった。
【0028】
この発明の細胞集団を構成する「細胞」は、原核細胞および真核細胞のいずれでもよいが、真核細胞は複数の局在化部位を利用することができるので、より多くの種類の発光局在パターンが得られるため好ましい。真核細胞としては、例えば、サル腎臓細胞COS7、チャイニーズハムスター卵巣細胞CHO、各種ヒト腫瘍株化細胞などの哺乳動物培養細胞、出芽酵母、分裂酵母、カイコ細胞、アフリカツメガエル卵細胞などが例示できる。あるいはまた、動物から単離した初代培養細胞であってもよい。また、混合培養が可能であれば、由来する種や組織が異なる2種類以上の真核細胞を用いても良い。さらに、浮遊細胞および付着細胞のいずれの細胞でもよいが、細胞集団を細胞チップとして利用する場合には付着細胞が好ましい。
【0029】
この発明の細胞集団における第1の態様は、発光局在パターンが異なり、その他の性質は同一である細胞の集団である。このような細胞集団は、その後の処理によって個々の細胞に「異なる性質」を付与することによって、各種のスクリーニングやアッセイ法に使用することができる。
【0030】
従って、この発明の細胞集団における第2の態様は、発光局在パターンが異なり、さらに異なる性質が付与された細胞の集団である。この場合の「異なる性質」とは、外来遺伝子を導入することによって新しい遺伝子型を付与すること、物理的あるいは化学的処理をすることによって性質を変化させることなどを意味する。例えば、発光局在パターンが異なる同一性質細胞の集団に、それぞれ異なる蛋白質発現ベクターを導入することによって、発現した標的蛋白質の異なる細胞ライブラリーが構築される。そして、特定のプローブ等に反応する細胞が発現している標的蛋白質の種類は、その細胞の発光局在パターンによって即座に特定される(図1参照)。
【0031】
この発明の細胞集団における第3の態様は、個々に性質が異なり、さらに発光局在パターンが異なる細胞の集団である。この場合の「異なる性質」とは、遺伝子型あるいは表現型が異なることを意味する。例えば、前記の外来遺伝子の導入や物理的・化学的処理による性質の変化に加え、由来する種、器官、組織が異なるため元々遺伝子型が異なることも「異なる性質」に含まれる。このような細胞集団は、先ず前記の手段によって性質の異なる細胞集団を調製し、この細胞集団の個々の細胞に異なる発光局在パターンを付与するようにする。
【0032】
また、第2の態様および第3の態様において、外来遺伝子発現ベクターの導入によって異なる性質を付与し、局在化シグナル付き蛍光蛋白質の発現ベクターの導入によって異なる発光局在パターンを付与する場合には、2つのベクター導入を同時に行ない、導入した遺伝子を共発現させても良い。
【0033】
この発明の識別コード付き細胞集団は、前記のとおり、各細胞の発光局在パターンがそれぞれに異なることによって、1個の細胞を他の細胞と区別して識別することができる。そのため、例えば細胞の性質やその標的蛋白質の種類と発光局在パターンとを対応させておけば、特定プローブが反応する細胞がどのような性質または標的蛋白質を発現する細胞であるかを即座に判定することができる。
【0034】
またこの発明の識別コード付き細胞集団は、目的とするスクリーニング法やアッセイ法に応じて、個々の細胞を担体に固定化した細胞チップとして用いることもできるし、浮遊状態で用いることもできる。例えば、標的蛋白質を発現させた細胞の中からプローブと結合するものをスクリーニングする場合には、細胞チップが適している。あるいは、これらの細胞を懸濁させて浮遊状態で種々の反応を行ない、この中から反応が起こったものを選別することもできる。例えば1,000種類の細胞をμlあるいはnlオーダーの溶液に懸濁させることによって極微量スケールのアッセイが可能である。これらのスクリーニングによって特定の性質を有する細胞が選別された時、その細胞を蛍光顕微鏡下で観察することにより、その発光局在パターンからその細胞の性質を直ちに判定することができる。
【0035】
【実施例】
次に実施例を示して、この出願の発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、この出願の発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、DNAの組換えに関する基本的な操作および酵素反応は、文献("Molecular Cloning. A laboratory manual", Cold Spring Harbor Laboratory, 1989)に従った。制限酵素および各種修飾酵素は特に記載の無い場合宝酒造社製のものを用いた。各酵素反応の緩衝液組成、並びに反応条件は付属の説明書に従った。
実施例1:発現ベクターの作製
(1)蛍光蛋白質発現ベクター
pEGFP-N1、pEYFP-N1、pDsRed2-N1(いずれもClontech社)のそれぞれから調製した蛍光蛋白質(EGFP、EYFP、DsRed2)のcDNAを含むEcoRI-NotI断片をpKA1(Kato et al., Gene 150:243-250, 1994)のEcoRI-NotIに挿入し、蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1を作製した。
(2)膜局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトグリコホリンC様蛋白質(GPCL)をコードするcDNAを有するpHP10524(WO 00/00506号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にSmaI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとSmaIで消化した後、前記(1)で作製した蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1のそれぞれのEcoRI−SmaI開裂部位に挿入し、膜局在化蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-GPCL-EGFP、pKA1-GPCL-EYFPおよびpKA1-GPCL-DsRed2を作製した。融合蛋白質GPCL-EGFP、GPCL-EYFPおよびGPCL-DsRed2の模式図を図2(a)に示す。
(3)ミトコンドリア局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトミトコンドリア3-ヒドロキシイソブチレートデヒドロゲナーゼ(MHIBDH)をコードするcDNAを有するpHP00698(特開2001-037482号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にBamHI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとBamHIで消化した後、蛍光蛋白質発現ベクターpEGFP-N1、pEYFP-N1およびpDsRed2-N1のEcoRI−BamHI開裂部位に挿入し、ミトコンドリア局在化蛍光蛋白質発現ベクターpMHIBDH-EGFP、pMHIBDH-EYFPおよびpMHIBDH-DsRed2を作製した。融合蛋白質MHIBDH-EGFP、MHIBDH-EYFPおよびMHIBDH-DsRed2の模式図を図2(b)に示す。
(4)核局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトアシルCoA結合蛋白質様蛋白質(ACoABPL)をコードするcDNAを有するpHP01124(特開2001-333781号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にKpnI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとKpnIで消化した後、前記(1)で作製した蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1のEcoRI−KpnI開裂部位に挿入し、核局在化蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-ACoABPL-EGFP、pKA1-ACoABPL-EYFPおよびpKA1-ACoABPL-DsRed2を作製した。融合蛋白質ACoABPL-EGFP、ACoABPL-EYFPおよびACoABPL-DsRed2の模式図を図2(c)に示す。
(5)核小体局在化蛍光蛋白質発現ベクター
ヒトATP-依存性RNAヘリカーゼ(ARH)をコードするcDNAを有するpHP02644(特開2001-218584号公報に記載)を鋳型にして、T7プライマーと、終止コドンの下流にSmaI部位を付加したプライマーを用いてPCR産物を調製した。このPCR産物をEcoRIとSmaIで消化した後、前記(1)で作製した蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-EGFP-N1、pKA1-EYFP-N1およびpKA1-DsRed2-N1のEcoRI−SmaI開裂部位に挿入し、核小体局在化蛍光蛋白質発現ベクターpKA1-ARH-EGFP、pKA1-ARH-EYFPおよびpKA1-ARH-DsRed2を作製した。融合蛋白質ARH-EGFP、ARH-EYFPおよびARH-DsRed2の模式図を図2(d)に示す。
実施例2:培養細胞への識別コードの付与
(1)培養細胞
ヒトフィブロサルコーマ細胞株HT-1080およびサル腎臓細胞COS7は、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、5% CO2存在下、37℃で培養した。2x105個のHT-1080細胞を6ウェルマルチディッシュ(ヌンク社)に植え、5% CO2存在下、37℃で22時間培養した。培地除去後、リン酸緩衝液(PBS)で細胞表面を洗浄し、さらに10%FBSを含むDMEM 1.5 mlを添加した。
(2)細胞への発現ベクターの導入
実施例1(1)〜(5)で作製した発現ベクターを単独であるいは2種類組み合わせたものと、それぞれの組み合わせについてヒト完全長cDNAバンク(加藤誠志、BIO INDUSTRY 11:760-770, 1994)から選択した一種類の異なるcDNA発現ベクターを対にして、それぞれの溶液1μl(1.5 μg相当分)を無血清DMEM 100μlに添加したのち、トランスフェクション試薬PolyFectTM(キアゲン社)10μlと混合し10分間室温でインキュベートすることによってDNA複合体を形成した。前記(1)の培養細胞HT-1080あるいはCOS7をPBSで一回洗浄し、10%FBSを含むDMEM 1.5 mlを添加した。先に調製したDNA複合体に10%FBSを含むDMEM 600μlを添加したものを、この細胞に添加し、5% CO2存在下、37℃で22時間培養した。
(3)発光局在パターンの観察
培養した細胞をPBSで洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド含有PBSで室温15分間、固定した。これを共焦点蛍光顕微鏡(Bio-Rad社MRC1024ES)で観察したところ、導入した融合蛋白質に応じて様々な発光パターンを示す細胞集団が得られた。この実施例では、局在が1部位と2部位、3色の蛍光蛋白質を用いたので、それぞれ12種類と54種類、合計66種類の発光パターンを示す細胞集団が得られた。図3に局在が2部位の場合の発光パターンの一部を示す。(a)から(c)までが細胞膜と核小体、(d)と(e)が細胞膜とミトコンドリア、(f)から(h)までが核と核小体、(i)が細胞膜と核、(j)がミトコンドリアと核で、それぞれ異なる色の蛍光蛋白質が発現しているHT-1080細胞集団の例である。細胞の種類が異なっても基本的な発光パターンは変わらないが、局在の様子が少し異なる場合がある。例えば、COS7細胞を用いて細胞膜に局在化させた場合、細胞膜全体が発光し、核の周辺の小胞体にも蓄積が見られる((k)から(n)参照)。このような違いがあっても、単独で発現させた場合のパターンを前もって確認しておけば、局在部位の識別に支障は来さない。それぞれの細胞は異なる標的蛋白質を発現しており、この細胞集団を用いて各種スクリーニングを行い、その結果選別された細胞の発光パターンを観察すれば、その発光パターン発現ベクターと一緒に導入した標的蛋白質発現ベクターがわかっているので、その細胞がどの標的蛋白質を発現しているかを直ちに同定することができる。
【0036】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願によって、特別な装置を必要とせずに簡便に作製することができ、固相系のみならず、液相系のスクリーニングにも使用することができ、しかも標的蛋白質の発現を含めた様々な細胞の性質についてのスクリーニングにも適用可能な新しい細胞集団が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の識別コード付き細胞集団の作製工程並びにこの細胞集団を用いたスクリーニング工程を模式的に表示した図である。
【図2】実施例として、この発明の細胞集団にそれぞれ導入した融合蛋白質の構造を表示した図である。GPCL-XFP(a)、MHIBDH-XFP(b)、ACoABPL-XFP(c)、ARH-XFP(d)をそれぞれ示す。ここで、XFPは、EGFP、EYFP、DsRED2のいずれかを表す。また、図中、TMDは膜貫通ドメインを、MtLSはミトコンドリア局在化シグナルを、NLSは核局在化シグナルをそれぞれ表す。
【図3】この発明の識別コード付き細胞集団を観察した共焦点顕微鏡写真を作図したものである。GPCL-EGFP/ARH-DsRed2 (a)、GPCL-DsRed2/ARH-EYFP (b)、GPCL-EYFP/ARH-DsRed2 (c)、GPCL-DsRed2/MHIBDH-EGFP (d)、GPCL-EYFP/ MHIBDH-DsRed2 (e)、ACoABPL-EGFP/ARH-DsRed2 (f)、ACoABPL-EYFP/ARH-DsRed2 (g)、ACoABPL-DsRed2/ARH-EGFP (h)、GPCL-DsRed2/ACoABPL-EGFP (i)、MHIBDH-DsRed2/ACoABPL-EGFP (j)、GPCL-EGFP/ARH-DsRed2 (k)、GPCL-DsRed2/ARH-EYFP (l)、GPCL-EYFP/ARH-DsRed2 (m)、GPCL-EGFP/MHIBDH-DsRed2 (n)、MHIBDH-EGFP/ARH-DsRed2 (o)をそれぞれの組み合わせで発現させた細胞を示す。細胞として、(a)から(j)までは、HT-1080細胞を、(k)から(l)までは、COS7細胞をそれぞれ用いた。

Claims (3)

  1. それぞれに異なった性質を有する細胞の混合物であり、各細胞はの異なる蛍光蛋白質との異なる局在化シグナルペプチドの組合せからなる融合蛋白質を発現し、この融合蛋白質からの発光局在パターンの違いによって各細胞の性質が識別可能であり、細胞の性質が発光局在パターンとは別の性質であることを特徴とする少なくとも24個の識別コード付き細胞混合物。
  2. 異なった性質が、
    (1) 細胞本来の遺伝子型の違い、
    (2) 異なった標的蛋白質の発現
    のいずれか一方または両方である請求項1の識別コード付き細胞混合物。
  3. 請求項1記載の識別コード付き細胞混合物を構成する1個の細胞を、その細胞の発光局在パターンを指標として他の細胞と区別することによって、その細胞の性質を識別することを特徴とする細胞識別方法。
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