JP4032698B2 - ジアセトキシブテンの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はブタジエン、酢酸及び酸素を反応させてジアセトキシブテンを製造する方法に関するものである。ジアセトキシブテンは1,4−ブタンジオールやテトラヒドロフランを製造する中間体として重要な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
パラジウムを含む固体触媒の存在下に、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させてジアセトキシブテンを生成させることは公知である。反応は液相で進行するので、反応を効率よく行わせるためには、気相から液相への酸素の移動を促進して、液相中の酸素濃度を高く維持することが重要である。かかる観点から、反応形式としては、酸素を含む雰囲気中に触媒を固定床として収容し、触媒表面にブタジエン及び酢酸を含む液を流下させる方式が好ましいと考えられている。この反応形式によれば、液面は常に酸素雰囲気に接しており、かつ液面は流下に伴い常に更新されるので、液中への酸素の溶解が促進されることが期待される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の反応形式では、爆発の危険があるので、雰囲気中の酸素濃度は爆発下限よりも低くしなければならない。雰囲気の酸素濃度が低いことは、当然のことながら、液中への酸素の溶解を促進するうえで障害となる。従って本発明は、液中への酸素の溶解を促進して、効率よくジアセトキシブテンを生成させる方法を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、パラジウムを含む固体触媒が存在している反応帯域に、ブタジエン、酢酸及び酸素を供給してジアセトキシブテンを生成させるに際し、反応帯域を酢酸及びブタジエンを含む液相中に固体触媒が存在している状態に形成し、反応帯域から反応液を抜出して反応帯域の下部に供給する液循環路を形成し、この循環路に混合装置を2段階に設け、前段の混合装置で循環路を流れる反応液に7モル%以上の酸素を含む酸素含有ガスを供給して反応液中に酸素含有ガスを微細な気泡として分散させ、後段の反応装置で酸素含有ガスが微細な気泡として分散している反応液にブタジエンを供給して混合することにより、安全にかつ効率よくジアセトキシブテンを製造することができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明では、ブタジエン及び酢酸を含む液相中に固体触媒が存在している状態に反応帯域を形成し、この液相中に酸素含有ガスを微細な気泡、好ましくは直径10mm以下の気泡として供給することにより、ジアセトキシブテンを生成させる。すなわち反応帯域は全体として液相で占められており、この液相中に酸素含有ガスが微細な気泡として供給される。この反応方式は、前述した従来の反応方式、すなわち酸素を含む気相中に固体触媒を保持し、この固体触媒の表面に沿ってブタジエン及び酢酸を含む液相を流下させる方式とは、液相中への酸素の溶解という観点からは全く逆の反応方式である。そして本発明のように液相中に酸素含有ガスを微細な気泡として供給することは、液相中への酸素の溶解を促進するうえで極めて有効である。その理由の一つは、微細な気泡、特に直径10mm以下の気泡は単位体積当たりの表面積が極めて大きいことである。気相から液相への酸素の溶解は、両相の界面を経て行われるので、酸素含有ガスの単位体積当たりの表面積が大きいことは、液相への酸素の溶解を大きく促進する。他の理由の一つは、酸素含有ガスとして酸素を高濃度に含むガスを用い得ることである。これは反応帯域の条件下で爆発組成物を形成するような濃度の酸素含有ガスを供給しても、微細な気泡、好ましくは直径10mm以下の気泡として液中に存在する場合には、気泡中の酸素が速やかに液相中に溶解して、気泡中では反応条件下で爆発組成物の形成を回避しやすく、一部の気泡中で激しい燃焼が起きてもそのエネルギーが小さいため、連鎖反応的に爆発することが無いからである。従って酸素を高濃度に含むガスでも、ブタジエン及び酢酸を含む液相に微細な気泡として供給すれば安全である。かつ気泡中の酸素はすみやかに周囲の液相中に溶解するので、気泡中の酸素濃度は急速に低下する。従って気泡の反応帯域における滞留時間が適切であれば、気泡が反応帯域から流出する迄には、気泡中の酸素濃度は著しく低下して、爆発組成の下限を充分に下廻るようになる。
【0006】
このように本発明では爆発を回避し得るので、高濃度の酸素含有ガスを用いることができる。通常は7モル%以上、好ましくは12モル%以上の酸素を含む酸素含有ガス、例えば空気、を用いる。所望ならば酸素富化空気や酸素ガスを用いることもできる。本発明の好ましい態様では、酸素濃度が高くて反応帯域の条件下では爆発組成物を形成するような酸素含有ガスを用い、かつ反応帯域の出口では爆発組成の下限を下廻る酸素濃度となるように、反応帯域における気泡の滞留時間を制御する。通常の反応条件下、すなわち3〜8MPa、60〜120℃で、液相の大部分が酢酸で占められている条件下では、爆発組成の下限は下式で安全側の値として推算できるので、この推算値を用いて反応帯域に供給する酸素含有ガスの濃度、及び反応帯域から流出させるべき酸素含有ガスの濃度を決定すればよい。
【0007】
【数1】
Y=−0.1{(x/0.098)−1}+12 …(1)
Y=−0.01{(x/0.098)−1}+6.6 …(2)
但しYは爆発組成物を形成する下限の酸素濃度(モル%)であり、xは反応帯域の圧力(MPa)である。そしてx≦6MPaでは(1)式を用い、6<x≦8MPaでは(2)式を用いる。
【0008】
本発明のように爆発下限を上廻る酸素濃度の酸素含有ガスを、反応帯域に微細な気泡として供給することにより爆発を回避する反応方式では、微細な気泡の形成を確実に行うことが重要である。また、反応帯域には酢酸は反応媒体を兼ねて大量に存在するがブタジエンは少量しか存在しないので、ブタジエンは速やかに拡散して局部的な濃淡を生じないように反応帯域に供給するのが好ましい。本発明では、反応帯域から反応液を抜出して反応帯域の下部に供給する液循環路を形成し、この循環路に混合装置を2段階に設け、前段の混合装置に酸素含有ガスを供給して、循環路を流れる反応液中に微細な気泡として分散させ、次いで後段の混合装置にブタジエンを供給して、酸素含有ガスが微細な気泡として分散している反応液中にブタジエンを混合する。このように循環路を流れる反応液中に酸素含有ガスとブタジエンとを混合して反応帯域に供給することにより、反応帯域で酸素やブタジエンの局部的な濃淡を生ずるのを防止して、反応を円滑に進行させることができる。そして循環路を流れる反応液中に酸素含有ガスとブタジエンとを混合する場合には、本発明のように先ず酸素含有ガスを混合し、次いでブタジエンを混合する方が、両者を同時に混合したり、ブタジエンを混合してから酸素含有ガスを混合するよりも、微細な気泡を確実に形成させることができるので、安全性の確保の点からして好ましい。循環路に設置する混合装置としては、所望の混合成績を達成し得るものであれば任意のものを用いることができるが、通常はスタティックミキサーを用いるのが好ましい。
【0009】
スタティックミキサーは、周知のように管路に設置されるインライン方式の混合機で、機械的な駆動部が全くなく、代わりにエレメントと呼ばれる部材が内部に設置されている。液やガスなどの流体は、スタティックミキサーを通過する際に、エレメントにより分割や反転を受けて、混合・分散が進行する。本発明においては、循環路を流れる反応液中に酸素含有ガスを微細な気泡として分散させるが、そのためには液に対するガスの体積比は0.05〜1.0であるのが好ましい。微細な気泡とは、通常、気泡の直径が10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、特に1mm以下が好ましい。気泡の直径を10mm以下にすると爆発組成物の形成を回避しやすい。
【0010】
循環路で形成された反応液中に酸素含有ガスが微細に分散している気液混相流を反応帯域の下部に供給する際は、反応帯域の全面にわたって均一に供給されるように、全面にわたって多数配置したノズルを経て供給するのが好ましい。ノズルの開口部の口径やノズルの本数は、ノズルから気液混相流が放出される反応帯域の断面積に応じて適宜決定すればよい。ノズルからの気液混相流の放出は、放出流速が5m/秒以下、特に0.5〜3m/秒となるようにするのが好ましい。放出流速が大きすぎると、気液混相流を反応帯域全体に拡散させるのが困難となる。逆に放出流速を著しく小さくすることは、ノズルの全開口部断面積を大きくする必要があり、装置的に困難である。またノズルの上方に衝突板(邪魔板)を設け、ノズルから流出した気液混相流がこれに衝突して側方に分散するようにするのも好ましい。衝突板の大きさはノズルの開口部断面積の1〜9倍、すなわち通常の円形断面のノズルであればノズルの直径の1〜3倍の円板をノズルと同心に、その上方に設置すればよい。衝突板の設置位置は、ノズルの開口部断面積や放出流速に応じて適宜調節するが、通常はノズルの出口から5〜30cm上方が好ましい。この間隔が小さすぎると、放出された気液混相流の流動が阻害されるおそれがある。逆にこの間隔が大きすぎると、気流混相流の側方への分散が不十分となる。一般に開口部断面積の大きいノズルを用いるほど、衝突板の大きさや設置高さの調節がより重要となる。
【0011】
本発明では、上述のように、反応帯域から抜出した反応液を反応帯域の下部に供給する液循環路を設け、この循環路に設けた混合装置を経て酸素含有ガス及びブタジエンを反応液に混合して反応帯域に導入する以外は、常法に従って反応を行わせることができる。反応は通常60〜120℃、3〜8MPaで行われる。所望ならばこの範囲外でも行うことはできるが、反応速度や副反応、さらには装置費用などを考慮すると上記の範囲が好ましい。この反応は発熱反応なので反応熱の除去が必要であるが、本発明では液循環路を設けて反応液を循環するので、この循環路に冷却装置を設けることができる。好ましくは冷却装置は混合装置の前方に設け、冷却された反応液に酸素含有ガスを混合して分散させるようにする。また反応帯域に供給する酢酸は、冷却装置の前方で循環路内を流れる反応液に供給するのが好ましい。
【0012】
本発明方法によりジアセトキシブテンを製造する際のフローシートの1例を図1に示す。図中、101は反応器であり、パラジウムを含む固体触媒が収容されてる。触媒は通常は固定床を形成しており、かつ偏流を避けるため、流れの方向に対して直角に複数層に分割して充填されている。触媒としては常用の担体付パラジウム触媒、すなわちパラジウム及び助触媒のビスマス、セレン、アンチモン、テルル、銅などを、シリカ、アルミナ、活性炭などの担体に担持したものを用いればよい。担体付パラジウム触媒のパラジウム含有量は0.1〜20重量%が好ましく、また助触媒成分のビスマス、セレン等は0.1〜30重量%が好ましい。
【0013】
102は気液分離器であり、反応器1の流出物が導管107を経て流入する。気相は導管108を経て系外に抜出され、液相は循環導管109を経て抜出される。反応で生成したジアセトキシブテンに相当する量のジアセトキシブテンを含む液相が導管110を経て循環導管109から抜出され、ジアセトキシブテンを回収する後処理工程に送られる。気液分離器から抜出される液相のうち、導管110を経て系外に抜出されるのは通常10〜30%であり、残りの90〜70%はポンプ103、冷却器104、前段混合装置105及び後段混合装置106を経て反応器101の下部に供給される。すなわち大量の反応液が循環導管109を流れている。この反応液に導管111を経て酢酸が供給される。次いで導管112を経て酸素含有ガスが前段混合装置105に供給され、反応液中に微細な気泡として分散される。ここで生成した気液混相流に、導管113を経て後段混合装置106にブタジエンが供給され、均一に混合されて反応器101に供給される。
【0014】
本発明によれば高濃度の酸素含有ガスを用いることができ、かつ反応を円滑に進行させることができる。その結果、触媒当たりのブタジエンの反応量を従来法におけるよりも増加させることができる。
【0015】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
実施例1
図1に示すフローシートに従ってブタジエンと酢酸とからジアセトキシブテンを製造した。反応器にはパラジウム及びテルルをシリカに担持させた触媒を、固定床を形成するように充填した。循環導管に設置する混合装置としては、前段及び後段共にスタティックミキサーを用いた。酸素含有ガスとしては空気を用いた。循環導管を経て反応器下部に供給した反応液、及びこれに混合した酢酸、空気及びブタジエンの量は、触媒1kg当たり、反応液は14.306kg/Hr、酢酸は3.235kg/Hr、空気は0.454kg/Hr、ブタジエンは0.223kg/Hrであった。また反応液に含まれて反応器に導入されたブタジエンは、触媒1kg当たり0.055kg/Hrであった。循環導管から反応器への気流混相流の供給は、16個の円形ノズルを経て、2m/秒の流速で行った。ノズルの上方20cmの位置には、ノズルと同心に、ノズルの直径の2.3倍の直径の円板を水平に設置し、ノズルからの気液混相流をこれに衝突させて分散させた。気液混相流の気泡の大きさは1mm以下であり、この気液混相流を77℃、6MPaで反応器に導入した。この条件で連続的に反応を行わせたところ、ブタジエンの反応速度は触媒1kg当たり0.222kg/Hrであった。
【0016】
比較例1
実施例1において循環導管から混合装置を取外して、酢酸及びブタジエンの供給管を循環導管に単に接続するだけとし、かつ空気を穴径3mmのスパージャーを用いて反応器の下部から20m/秒で直接反応器に供給した以外は、実施例1と全く同様にして反応を行った。ブタジエンの反応速度は触媒1kg当たり0.205kg/Hrであった。なお、スパージャーから吹込まれた空気の気泡径は3〜4mmであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施する際のフローシートの1例である。
【符号の説明】
101 反応器
102 気液分離器
103 循環ポンプ
104 冷却器
105 前段混合装置
106 後段混合装置
109 循環導管
111 酢酸供給管
112 空気供給管
113 ブタジエン供給管

Claims (10)

  1. パラジウムを含む固体触媒が存在している反応帯域に、ブタジエン、酢酸及び酸素を供給してジアセトキシブテンを生成させるに際し、反応帯域を酢酸及びブタジエンを含む液相中に固体触媒が存在している状態に形成し、反応帯域から反応液を抜出して反応帯域の下部に供給する液循環路を形成し、この循環路に混合装置を2段階に設け、前段の混合装置で循環路を流れる反応液に7モル%以上の酸素を含む酸素含有ガスを供給して反応液中に酸素含有ガスを微細な気泡として分散させ、後段の混合装置で酸素含有ガスが微細な気泡として分散している反応液にブタジエンを供給して混合することを特徴とするジアセトキシブテンの製造方法。
  2. 混合装置がスタティックミキサーであることを特徴とする請求項1記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  3. 循環路を流れる反応液に前段混合装置より前方で酢酸を供給することを特徴とする請求項1又は2に記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  4. パラジウムを含む固体触媒が存在している反応帯域に、ブタジエン、酢酸及び酸素を供給してジアセトキシブテンを生成させるに際し、反応帯域を酢酸及びブタジエンを含む反応液中に固体触媒が固定床を形成して存在している状態に形成し、反応帯域から反応液を抜出して反応帯域の下部に供給する液循環路を形成し、この循環路に冷却装置並びに前段及び後段の2段階のスタティックミキサーを反応液の流れに沿って順次配置し、前段のスタティックミキサーで循環路を流れる反応液中に7モル%以上の酸素を含む酸素含有ガスを供給して酸素含有ガスを微細な気泡として反応液中に分散させ、後段のスタティックミキサーで酸素含有ガスが微細な気泡として分散している反応液中にブタジエンを供給して混合することを特徴とするジアセトキシブテンの製造方法。
  5. 循環路を流れる反応液中に、冷却装置より前方で酢酸を供給することを特徴とする請求項4記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  6. 酸素含有ガスが12モル%以上の酸素を含むものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  7. 酸素含有ガスを直径1mm以下の気泡として反応液中に分散させることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  8. 循環路を流れる反応液に分散させる酸素含有ガスの体積が、循環路を流れる反応液及びこれに供給される液の合計の0.05〜1.0倍であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  9. 循環路で酸素含有ガスを微細に分散させた反応液を5m/秒以下の流速でノズルから反応帯域に流出させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のジアセトキシブテンの製造方法。
  10. ノズルの上方にノズルの開口部断面積の1〜9倍の面積を有する衝突板を設け、ノズルから流出した酸素含有ガスを微細に分散させた反応液を、この衝突板に衝突させて分散させることを特徴とする請求項9記載のジアセトキシブテンの製造方法。
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