JP4028761B2 - 電気用金属箔張り積層板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低熱膨張性、靭性、耐熱性、耐水性、銅箔との密着性、ドリル加工性等に優れた硬化物を形成するビニルエステル系ラジカル重合性樹脂組成物から得られる電気用金属箔張り積層板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応生成物であるビニルエステルは、エポキシアクリレートとも呼ばれ、通常、ラジカル重合性単量体と併用することによりラジカル重合性樹脂として用いられる。このビニルエステル樹脂は常温で液状を示すため、取扱い作業性に優れるというメリットを有している。しかもこのビニルエステル樹脂を硬化させた硬化物は、耐薬品性、強度、耐熱性、靭性等の特性が比較的良好であり、金属に比べて軽量でかつ耐食性にも優れているので、ビニルエステル樹脂を含む成形材料が各種分野に用いられ、また、ライニングや塗料等の分野にも使用されている。
【0003】
しかしながら、このように優れた特性を有するビニルエステル樹脂であっても、その成形法や適用分野によっては、必ずしも満足できる性能が得られていないことから、さらなる改善が要求されている。例えば、電気用プリント配線基板や絶縁板等の分野では、パンチング加工時のクラックや補強繊維の層間剥離に耐え得る高度な耐衝撃性や靭性が、ビニルエステル硬化物に求められ、加えて高温のハンダ工程にも耐え得る耐熱性が要求される。特に、電気・電子機器、通信機器、計算機器等に広く用いられるプリント配線板については、配線の高密度化・高集積化がハイスピードで進展しており、配線用の金属箔張り積層板の耐熱性等の向上による信頼性向上が一層強く求められている。このような点で、金属箔張り積層板は、より高度な耐熱性、低い線膨張係数、高度な耐衝撃性および靭性を兼ね備えることが要求される。また、金属箔張り積層板にはドリル加工性も必要である。このドリル加工性は生産性向上のための重要な性能であり、具体的には、切削性がよく、スミア(樹脂カス)の発生およびドリル孔の内壁の荒れが極めて少なく、ドリル刃の寿命を短縮させないような、すなわち耐ドリル摩耗性に優れた硬化物を得ることのできる樹脂が求められている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明では、電気用金属箔張り積層板を製造する際に用いられる硬化性樹脂の分子設計を制御することによって、耐熱性、耐衝撃性、靭性がバランスを採りつつ高レベルであり、線膨張率が小さく、金属箔と硬化樹脂層との密着性に優れ、さらに耐ドリル摩耗性にも優れている電気用金属箔張り積層板を提供することを課題として掲げた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の金属箔張り積層板は、金属箔と補強繊維層とが硬化樹脂により一体化された電気用金属箔張り積層板であって、金属箔と補強繊維層との一体化に当たり、ビスフェノールおよび/またはブロム化ビスフェノールと、ビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸および/またはグリシジル(メタ)アクリレートとから合成され、分子量が2000以上である高分子量ビニルエステルを、ゲルパーミエーション(GPC)法で測定されたクロマトグラムの面積比率で30%以上含有するビニルエステルと、ラジカル重合性単量体とを含有するラジカル重合性樹脂組成物を用いて、これを硬化させたところに要旨を有する。ビニルエステル中に高分子量ビニルエステルを含有させたことで、高い耐熱性と靭性等を両立させることができた。
【0006】
ビニルエステルが10〜45質量%のブロムを含むものであるか、難燃剤(添加型)を0.01〜30質量%含むものであると、電気用金属箔張り積層板に難燃性を付与することができる。このとき、添加型難燃剤としては、窒素原子含有化合物、リン原子含有化合物および珪素原子含有化合物よりなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0007】
ラジカル重合性単量体は、スチレンおよび(メタ)アクリル酸が好ましく、硬化性に優れた樹脂組成物が得られ、硬化物の特性も良好となる。
【0008】
ラジカル重合性樹脂組成物を硬化させた硬化物の荷重たわみ温度が90℃以上となるようなラジカル重合性樹脂組成物を用いることで、電気用金属箔張り積層板の耐熱性は一層良好となる。
【0009】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の電気用金属箔張り積層板の製造のために用いられるラジカル重合性樹脂組成物について説明する。このラジカル重合性樹脂組成物は、ラジカル重合性樹脂であるビニルエステルと、ラジカル重合性単量体とを必須成分として含むものである。このビニルエステルは、ビスフェノールおよび/またはブロム化ビスフェノール(以下、ビスフェノール成分という)と、ビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂(以下、エポキシ樹脂成分という)と、(メタ)アクリル酸および/またはグリシジル(メタ)アクリレート(以下、(メタ)アクリロイル基導入成分という)とから合成され、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルを、GPC法で測定されたクロマトグラムの面積比率で30%以上含有することを必須要件とする。
【0010】
分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は、ビニルエステルの合成の際に用いられるビスフェノール成分とエポキシ樹脂成分および(メタ)アクリロイル基導入成分の使用割合に依存する。従って、後述するビニルエステル合成反応の際に、得られるビニルエステル中の分子量2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量がGPC法で測定されたクロマトグラムの面積比率で30%以上となるように、各成分の使用割合を調整すればよい。
【0011】
本発明に係る上記ビニルエステルは、ビスフェノール成分とエポキシ樹脂成分と(メタ)アクリロイル基導入成分との反応によって合成されるビニルエステルであって、合成された「ビニルエステル」は、鎖延長された様々な分子量のビニルエステルや、鎖延長されていないビスフェノールやブロム化ビスフェノールとグリシジル(メタ)アクリレートとの反応生成物、あるいはビスフェノール型エポキシ樹脂やブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応生成物(低分子量ビニルエステル)等の混合物となる。
【0012】
本発明のビニルエステルは、分子中に含まれる(メタ)アクリロイル基間の距離が比較的長い高分子量ビニルエステル成分の存在によって、硬化物の架橋間距離を比較的長く設定できるので、強度・耐熱性を低下させることなく、耐衝撃性と靭性がバランスよく向上し、かつ他の特性も優れたものとなると考えられる。これらの効果を発揮させるには、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルは、全ビニルエステル中、GPC法で測定されたクロマトグラムの面積比率で30%以上必要である。30%未満では、得られる硬化物が脆弱になるためである。この分子量2000以上の高分子量ビニルエステルの量は35%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。ただし、あまりに多過ぎると、ビニルエステルの粘度が高くなって取扱い作業性が低下するので、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。
【0013】
また、高分子量ビニルエステルは、分子量2000以上であれば上記効果が発揮されるが、分子量4000以上の高分子量ビニルエステルが含まれていると、上記効果が一層発揮されて耐衝撃性と靭性、さらには他の特性も一層向上するため、このような分子量4000以上の高分子量ビニルエステルが全ビニルエステル中、GPC法で測定されたクロマトグラムの面積比率で20%以上含まれていることは本発明のより好ましい実施態様である。ただし、このような分子量4000以上のビニルエステルが多く含まれる樹脂組成物は高粘度になって取扱い性が劣ってくるので、その上限は50%とすることが好ましい。さらに、分子量1000以下の低分子量ビニルエステルも、耐熱性を高め、靭性とのバランスを採るのに必要であるので、このような低分子量ビニルエステルが20〜50%含まれていることが好ましい。分子量4000以上の高分子量ビニルエステルが20〜50%、分子量1000以下の低分子量ビニルエステルが20〜50%を含むビニルエステルが最も好ましいビニルエステルである。
【0014】
ビニルエステル中に占める高分子量ビニルエステルの含有量は、ゲルパーミエーション(GPC)装置によって求めることができる。本発明では、下記条件で測定した。
【0015】
分子量2000のポイントは、標準サンプルとしてポリスチレンオリゴマー(東ソー社製、商品名「TSKスタンダードポリスチレン」)を用い、この標準サンプルで上記GPC条件における分子量検量線を作成して求めた。また、高分子量ビニルエステルの含有量は、この検量線を使用し、次の方法で求めた。まず、上記GPC条件で測定対象となるビニルエステルのクロマトグラムを得る。図1に、検量線とクロマトグラムの例を示す。横軸がリテンションタイム(分)、検量線の縦軸が分子量Mの常用対数(LogM)であり、クロマトグラムの縦軸は図示していないが検出強度(mV)である。検量線上の分子量2000の点から垂線を下ろしたとき、この垂線とベースラインとピーク波形で囲まれる高分子量領域側(斜線部)の面積S1についての、クロマトグラム曲線とベースラインで囲まれた全ピーク波形面積S2に対する面積比率(S1/S2)を、全ビニルエステル中に占める分子量2000以上の高分子量物の含有量(%)とした。
【0016】
上記ビニルエステルの第1の原料となるビスフェノール成分は、ビスフェノールおよび/またはブロム化ビスフェノールであり、ビスフェノールは、下記一般式(1)で表される。中でも特に好ましいのはビスフェノールA、すなわち2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0017】
【化1】
【0018】
また、ブロム化ビスフェノールの具体例は下記一般式(2)で表すことができ、中でも、2,2−ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、いわゆるテトラブロムビスフェノールAは、入手が容易でかつ1分子当たりのブロム数が多いため最適である。
【0019】
【化2】
【0020】
ビスフェノールとブロム化ビスフェノールの使用割合は特に限定されない。なお、ビニルエステルそのものに難燃性を付与するためには、ビニルエステルが10〜45質量%のブロムを有していることが好ましい。ビニルエステル中のブロム含有量が10質量%未満では、満足のいく難燃性が得られ難くなる。より難燃性を高めるには、18質量%以上がより好ましく、さらに好ましくは22質量%以上である。しかし、ブロム含有量があまりに多くなると、ラジカル重合性不飽和単量体との相溶性が低下してくるので、45質量%以下が好ましい。このような難燃性ビニルエステルを得る場合には、ビスフェノール成分中に占めるブロム化ビスフェノールの量で15モル%以上とすることが好ましい。15モル%未満では、硬化物が難燃性不足になることがあるが、エポキシ樹脂成分中に占めるブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂の使用量を多くし、ビニルエステル中に占めるブロム含有量で10質量%以上を確保すればよい。ブロム化ビスフェノールのより好ましい使用量は30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上である。
【0021】
本発明に係るビニルエステルの第2の原料となるエポキシ樹脂成分は、ビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂である。
【0022】
前述したビスフェノールあるいはブロム化ビスフェノールにエピクロロヒドリンを公知の条件で反応させれば、下記一般式(3)で代表されるビスフェノール型エポキシ樹脂や、下記一般式(4)で代表されるブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂を得ることができ、また、種々のグレードのものが市販されている。これらの中でも特に好ましいのは、一般式(3)、(4)においてY1、Y2がいずれも−C(CH3)2−でc〜fがいずれも2であるビスフェノールA型エポキシ樹脂とブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0023】
【化3】
【0024】
【化4】
【0025】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂として特に好ましいのは、鎖延長による硬化物物性の最適化が容易である点で、エポキシ当量が170以上、500以下のビスフェノールA型エポキシ樹脂である。
【0026】
また、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂として特に好ましいのは、ビスフェノール型エポキシ樹脂と同様の理由で、エポキシ当量が330以上、800以下のブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂である。とりわけ好ましいのは、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂である。1分子中にビスフェノール骨格とブロム化ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂も、ブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂として用いることができる。
【0027】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂とブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂とのモル比率は特に限定されない。また、ビニルエステルそのものに難燃性を付与する場合には、ビスフェノール成分のビスフェノールとブロム化ビスフェノールのモル比率を考慮して、得られるビニルエステル中のブロム含有量が10〜45質量%となるように設定するとよい。ブロム含有量が10質量%未満では、満足のいく難燃性が得られ難く、逆にブロム含有量が多過ぎると、ラジカル重合性単量体との相溶性が低下し、取扱い性が悪くなるからである。
【0028】
ビニルエステルの第3の原料である(メタ)アクリロイル基導入成分は、樹脂にラジカル重合性を与えるためのものであり、(メタ)アクリル酸および/またはグリシジル(メタ)アクリレートを用いる。(メタ)アクリル酸は、エポキシ樹脂成分のエポキシ基に反応させるために用いられ、グリシジル(メタ)アクリレートは、フェノール成分のヒドロキシル基に反応させるために用いられる。
【0029】
ビニルエステルの合成反応は、
・ビスフェノール成分、エポキシ樹脂成分、(メタ)アクリロイル基導入成分を一気に仕込み一括して行う方法(方法1)、
・ビスフェノール成分とエポキシ樹脂成分による鎖延長反応を先に行い、次いで(メタ)アクリロイル基導入成分を反応させる方法(方法2)、
・ビスフェノール成分、エポキシ樹脂成分、グリシジル(メタ)アクリレートあるいは、ビスフェノール成分、エポキシ樹脂成分、(メタ)アクリル酸による鎖延長反応を先に行い、次いで、(メタ)アクリル酸あるいはグリシジル(メタ)アクリレートを反応させる方法(方法3)
等があり、いずれの方法を採用しても構わない。
【0030】
いずれの合成法を採用するにしても、エポキシ樹脂成分中のエポキシ基、またはエポキシ樹脂成分中のエポキシ基とグリシジル(メタ)アクリレート中のエポキシ基の合計エポキシ基1当量に対し、ビスフェノール成分に含まれるフェノール性ヒドロキシル基、または、ビスフェノール成分に含まれるフェノール性ヒドロキシル基と(メタ)アクリル酸のカルボキシル基の合計量が0.9〜1.1当量となるように仕込んで反応させることが望ましい。
【0031】
ビスフェノール成分と(メタ)アクリル酸および/またはグリシジル(メタ)アクリレートとのモル比は、ビスフェノール成分に含まれるフェノール性ヒドロキシル基の合計1当量に対し、(メタ)アクリル酸の有するカルボキシル基および/またはグリシジル(メタ)アクリレートに含まれるエポキシ基の合計量が0.2〜1.3当量となるように仕込んで反応させることが好ましい。ビスフェノール成分が少ないと、高分子量ビニルエステル、特に分子量2000以上のものが不足気味となり、また(メタ)アクリル酸量および/またはグリシジル(メタ)アクリレート量が少ないと、ラジカル重合性樹脂の硬化性が低くなる傾向が生じるからである。
【0032】
ビニルエステル合成反応条件は特に限定されないが、好ましくは温度を80〜130℃の範囲とし、この温度範囲で反応が完了するように反応時間を適宜設定して行うのがよい。この際、反応促進のために反応触媒を添加したり、あるいは、重合反応や重合進行によるゲル化等を起こすことのないよう、重合禁止剤や分子状酸素を添加することももちろん有効である。
【0033】
反応触媒としては、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等のアミン類;テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;2−エチル−4−イミダゾール等のイミダゾール類;アミド類;ピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムブロマイド、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩;スルホニウム塩;スルホン酸類;オクチル酸亜鉛等の有機金属塩等が挙げられる。
【0034】
これらの反応触媒は、ビニルエステル合成原料の総量に対し0.005質量%以上、3.0質量%以下が好ましい。0.005質量%未満では、満足のいく反応促進効果が得られないことがあり、逆に3.0質量%を超えて過多に添加しても、反応促進効果が飽和するからである。より好ましい範囲は0.05質量%以上、1.0質量%以下である。
【0035】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、p−ベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルベンゾキノン、ナフトキノン、フェノチアジン、N−オキシル化合物等が挙げられる。また、分子状酸素を反応容器内に存在させても重合禁止効果があり、例えば空気、あるいは空気と窒素等の不活性ガスとの混合ガス等を反応容器に吹き込む、いわゆるバブリングを行えばよい。重合禁止効果を高めるには、重合禁止剤と分子状酸素とを併用することが好ましい。
【0036】
本発明では、ビニルエステルの分子量を高めて金属箔張り積層板の特性を高めることを目的としており、生成するビニルエステルは高粘度となるため、合成反応を希釈剤の存在下で行うことも有効である。希釈剤として不活性有機溶剤を使用した場合は、ビニルエステル合成反応後に脱溶剤すればよい。また合成されたビニルエステルは、ラジカル重合性単量体と共にラジカル重合性樹脂として使用されるので、上記合成反応をラジカル重合性単量体の存在下で行う方法を採用すれば、反応生成物がそのままラジカル重合性樹脂になり、各種成形材料の原料としてそのまま使用できるので、脱溶剤工程が不要となるというメリットがある。
【0037】
ビニルエステルと共にラジカル重合性樹脂を構成するラジカル重合性単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスホネート等の芳香族系単量体類;(メタ)アクリル酸;酢酸ビニル、アジピン酸ビニル等のビニルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリルレート類;トリアリルシアヌレート等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0038】
上記ラジカル重合性単量体の中でも特に好ましいのはスチレンである。スチレンは、ビニルエステルとの重合反応性が良好で、相溶性にも優れており、強度・耐熱性と耐衝撃性・靭性とのバランスに優れた硬化物が得られ易いからである。また、(メタ)アクリル酸は、ラジカル重合性樹脂組成物に配合される無機充填剤や金属箔張り積層板の製造の際に用いられる補強繊維層との濡れ性の向上に効果的であるので、スチレンと共に用いてもよい。ただし、(メタ)アクリル酸は、少量で上記効果が発揮し、多量に添加すると硬化物の物性が低下するので、ラジカル重合性樹脂(ビニルエステル+ラジカル重合性単量体)中に占める比率で1〜10質量%が好ましい。1質量%未満では濡れ性改善の目的が有効に発揮されない。より好ましい下限は2質量%、より好ましい上限は8質量%である。
【0039】
ラジカル重合性樹脂中のビニルエステルとラジカル重合性単量体の量は特に限定されないが、ビニルエステルの量を20〜80質量%、ラジカル重合性単量体の量を20〜80質量%とするのが好ましい。ビニルエステルが20質量%未満(単量体が80質量%超)となると、ビニルエステルの量が相対的に少なくなるので、硬化収縮が大きくなって硬化物にクラックが発生したり、ビニルエステルと単量体との相溶性が低下する等の不都合がある上に、硬化に時間がかかることがある。一方、ビニルエステルが80質量%を超える(単量体が20質量%未満)と、単量体による希釈効果が不十分となって作業性が低下する。より好ましいビニルエステルの下限は40質量%(単量体量の上限60質量%)、さらに好ましいビニルエステルの下限は50質量%(単量体の上限50質量%)である。より好ましいビニルエステルの上限は70質量%(単量体量の下限30質量%)である。
【0040】
本発明の金属箔張り積層板の製造には、上記ラジカル重合性樹脂を必須的に含むラジカル重合性樹脂組成物を用いる。なお、ラジカル重合性樹脂組成物中には、本発明の目的を妨げない範囲で、本発明に係るビニルエステル以外のビニルエステル、不飽和ポリエステル、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等のラジカル重合性オリゴマーが含まれていてもよい。
【0041】
ビニルエステルとして、ブロムを含まないビニルエステルか、ブロム量が10質量%未満のビニルエステルを用い、かつ、難燃性が必要である用途に適用する場合は、ラジカル重合性樹脂組成物には難燃剤を添加することが好ましい。もちろん、ブロム量が10質量%を超えるビニルエステルを用いる場合でも、難燃剤を添加しても構わない。難燃剤の添加量は、ビニルエステル中のブロムの量に応じて適宜増減すればよいが、ラジカル重合性樹脂組成物中の量として0.01〜30質量%が好ましい。0.01質量%より少ないと難燃性が不充分であり、30質量%を超えて配合すると、耐熱性等の性能低下やブリードアウト等の不都合が起こるため好ましくない。
【0042】
難燃剤としては、窒素原子含有化合物、リン原子含有化合物、珪素原子含有化合物が難燃効果が高く、これらの1種以上を用いることが好ましい。窒素原子含有化合物としては、メラミン化合物、グアニジン塩類、アミド化合物等が挙げられる。リン原子含有化合物としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート等のリン酸エステル類や芳香族縮合リン酸エステル(例えば、大八化学社製「PX−200」等が挙げられる。珪素原子含有化合物としては、ジメチルシリコーンオイル、超高分子量ジメチルシリコーンポリマー、シリコーンレジン、Siパウダー(例えば、ダウ・コーニング社製「SiパウダーDC4−7081」;)が挙げられ、特にSiパウダーは少量添加で難燃効果が著しい。また、酸化アンチモン、ホウ素化合物等を難燃助剤として配合してもよい。
【0043】
本発明のラジカル重合性樹脂組成物には、無機充填剤を配合してもよい。無機充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、金属粉末、カオリン、タルク、ミルドファイバー、珪砂、珪藻土、結晶性シリカ、溶融シリカ、ガラス粉、クレー等が挙げられる。これらの中でも水酸化アルミニウムは、成形性に優れ、難燃性向上効果も有している点で好適である。無機充填剤は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し、30〜400質量部の範囲で配合することが好ましい。また、金属箔張り積層板の補強繊維層への含浸性が妨げられない範囲で、公知の繊維強化材(チョップドストランドが好ましい)を添加してもよい。
【0044】
ラジカル重合性樹脂組成物を金属箔張り積層板の製造の際に硬化させるには、加熱するか、紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を照射すればよく、この際、熱重合開始剤や光重合開始剤、光増感剤等を配合し、硬化時間の短縮を図ることも有効である。
【0045】
熱重合開始剤としては公知のものを使用でき、具体的には、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−へキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオジケネート、ラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジエチルバレロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。
【0046】
また、熱重合時に硬化促進剤を混合することも有効であり、硬化促進剤としては、ナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等あるいは三級アミンが代表例として挙げられる。熱重合開始剤は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し、0.1〜5.0質量部の使用が好ましい。
【0047】
光重合開始剤としては公知のものが特に限定されず使用できる。光重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性樹脂100質量部に対し0.1〜5.0質量部の範囲が好ましい。また、公知の光増感剤を併用することも勿論有効である。
【0048】
光重合開始剤を配合したラジカル重合性樹脂や成形材料を硬化させるには、紫外線、電子線、放射線等の活性エネルギー線を公知の装置を用いて成形材料に照射すればよい。紫外線照射装置としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等を備えたものが使用可能である。また、電子線照射装置としては、例えば、走査型エレクトロカーテン型、カーテン型、ラミナー型、エリアビーム型、ブロードビーム型、パルスビーム型等が挙げられる。
【0049】
本発明のラジカル重合性樹脂組成物を金属箔張り積層板の製造のために使用するに当たっては、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の不活性溶剤を希釈剤として配合し、また、必要に応じて顔料、着色剤、耐炎剤、消泡剤、湿潤剤、分散剤、防錆剤、静電防止剤、熱可塑性樹脂、エラストマー等を配合することができる。
【0050】
次に、本発明の電気用金属箔張り積層板について説明する。金属箔としては特に限定されないが、一般的には、電気抵抗の低い銅箔が用いられる。適宜厚さの電解・圧延銅箔が好ましい。
【0051】
補強繊維層の繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、セラミックス繊維等の無機繊維;ポリエステル系、ポリアミド系(全芳香族系も含む)、フッ素樹脂系、フェノール系の各種有機繊維が適宜使用できる。これらの繊維には、適宜、公知の表面処理を施してもよい。補強繊維層の形状も、電気用に適していれば、織布状、不織布状等、適宜選択可能である。
【0052】
金属箔張り積層板を製造する方法としては、公知の方法がいずれも採用でき、例えば、補強繊維層に硬化前のラジカル重合性樹脂組成物を含浸させてた後に金属箔を重ねて、加熱加圧しながら樹脂を硬化させる方法が一般的である。なお、本発明の金属箔張り積層板には、片面金属箔張り積層板タイプ、両面金属箔張り積層板タイプのいずれも含まれる。
【0053】
本発明の電気用金属箔張り積層板は、プリント配線基板用途等、あらゆる電子・電気部品等に幅広く使用できる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されるものではなく、前記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の範疇に含まれる。なお、実施例中の部、%は、特記しない限り質量基準である。
【0055】
合成例1
撹拌機、還流冷却器、ガス導入管、温度計を備えた反応容器(フラスコ)に、テトラブロムビスフェノールA[2,2−ビス(3,5−ジブロム−4−ヒドロキシフェニル)プロパン];東ソー社製、商品名「フレームカット120G」]1088部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(非ブロムタイプ;東都化成社製、商品名「エポトートYD−127」、エポキシ当量184)894部と、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製、商品名「エポトートYDB−400」、エポキシ当量402)459部、メタクリル酸176部、トリエチルアミン(反応触媒)5.2部、ハイドロキノン(重合禁止剤)0.52部を仕込み、空気を導入しながら110℃で8時間反応させた。酸価5.0mgKOH/gのビニルエステル1を得た。
【0056】
このビニルエステル1のブロム含有量は約33%である。また、前記した条件でGPCで測定した数平均分子量(Mn)は1600、ビニルエステル1中の分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は63%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル1に、スチレン1249部を加え、ラジカル重合性樹脂(ビニルエステル樹脂)No.1を得た。
【0057】
合成例2
合成例1と同様の反応容器に、「フレームカット120G」1088部、「エポトートYD−127」920部、「エポトートYDB−400」804部、メタクリル酸263部、トリエチルアミン6.2部、ハイドロキノン0.62部を仕込み、空気を導入しながら110℃で8時間反応させた。酸価5.0mgKOH/gのビニルエステル2を得た。
【0058】
このビニルエステル2のブロム含有量は約34%である。また、Mnは1200、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は43%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル2に、スチレン1467部を加えることにより、ラジカル重合性樹脂No.2を得た。
【0059】
合成例3
合成例1と同様の反応容器に、ビスフェノールA(三井化学社製)228部、「エポトートYD−127」736部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド(反応触媒)2.1部、ハイドロキノン0.21部を仕込み、空気を導入しながら110℃で5時間反応させた。酸価が1.0mgKOH/gになったのを確認した後、メタクリル酸181部を加え、さらに110℃で5時間反応させた。酸価4.0mgKOH/gのビニルエステル3が得られた。
【0060】
このビニルエステル3のブロム含有量は0%である。また、Mnは950であり、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は30%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル3に、スチレン530部を加えてラジカル重合性樹脂No.3を得た。
【0061】
合成例4
合成例1と同様の反応容器に、「フレームカット120G」1360部、「エポトートYD−127」552部、グリシジルメタクリレート284部、トリエチルアミン9.2部、ハイドロキノン0.8部、希釈剤としてスチレン400部を仕込み、空気を導入しながら110℃で9時間反応させた。得られたビニルエステル4の酸価は2.5mgKOH/g、ブロム含有量は36%である。また、Mnは1750、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は72%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル4とスチレンの混合物に、さらにスチレン648部を加え、ラジカル重合性樹脂No.4を得た。
【0062】
合成例5(低分子量ビニルエステルの合成)
合成例1と同様の反応容器に、「エポトートYD−127」710部、メタクリル酸338部、トリエチルアミン3.5部、ハイドロキノン0.35部を仕込み、空気を導入しながら110℃で6時間反応させた。酸価4.0mgKOH/gのビニルエステル5を得た。このビニルエステル5のブロム含有量は0%である。また、Mnは390、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は0%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル5に、スチレン450部を加え、低分子量タイプのラジカル重合性樹脂No.5を得た。
【0063】
合成例6(比較用)
合成例1と同様の反応容器に、「エポトートYDB−400」1608部、メタクリル酸351部、トリエチルアミン3.9部、ハイドロキノン0.39部を仕込み、空気を導入しながら110℃で6時間反応させた。酸価が4.0mgKOH/gのビニルエステル6を得た。このビニルエステル6のブロム含有量は約40%である。また、Mnは480、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は0%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル6に、スチレン840部を加えて比較用ラジカル重合性樹脂No.6を得た。
【0064】
合成例7(比較用)
合成例1と同様の反応容器に、「ビスフェノールA」228部、「エポトートYD−127」883部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド2.7部、ハイドロキノン0.27部を仕込み、空気を導入しながら110℃で5時間反応させた。酸価が1.0mgKOH/gになったのを確認した後、メタクリル酸249部を加え、さらに110℃で5時間反応させた。酸価4.0mgKOH/gのビニルエステル7を得た。このビニルエステル7のブロム含有量は0%である。また、Mnは850、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は28%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル7に、スチレン649部を加え、比較用ラジカル重合性樹脂No.7を得た。
【0065】
合成例8
合成例1と同様の反応容器に、カルボキシル基含有液状アクリロニトリルブタジエンゴム(B.F.Goodrich Chemical社製;商品名「ハイカーCTBN1300×13」)184部、「エポトートYD−127」368部、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド1.4部、ハイドロキノン0.14部、希釈剤としてスチレン200部を仕込み、空気を導入しながら110℃で5時間反応させた。酸価が2.0mgKOH/gになったのを確認した後、メタクリル酸163部を加え、さらに110℃で5時間反応させた。酸価3.0mgKOH/gのビニルエステル8を得た。このビニルエステル8のブロム含有量は0%である。また、Mnは1360、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量は20%(クロマトグラムの面積比率)であった。このビニルエステル8に、スチレン276部を加え、比較用ラジカル重合性樹脂No.8を得た。
【0066】
以上の結果をまとめて表1に示した。なお、表1では、各組成をモル(mol)で示した。
表中の略語は、以下の意味である。
TBBA:テトラブロムビスフェノールA(「フレームカット120G」)
BPA:ビスフェノールA
YD−127:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エポトートYD−127」)
YDB−400:テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂(「エポトートYDB−400」)
MAA:メタクリル酸
GMA:グリシジルメタクリレート
CTBN:カルボキシル基含有液状アクリロニトリルブタジエンゴム(「ハイカーCTBN1300×13」)
≧2000:ビニルエステル中の分子量2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量(%;クロマトグラムの面積比率)
【0067】
【表1】
【0068】
実験例
上記合成例1〜8で得られたラジカル重合性樹脂No.1〜8を用い、表2に示した組成で、ラジカル重合性樹脂と、必要に応じて芳香族縮合リン酸エステル系添加型難燃剤(大八化学社製、商品名「PX−200」)およびアクリル酸を混合して樹脂混合物を作成した。この樹脂混合物100部を用い、硬化物の物性、積層板の物性を下記方法で測定し、結果を表3に示した。なお、分子量が2000以上の高分子量ビニルエステルが30%(クロマトグラムの面積比率)以上含まれるNo.1〜8は本発明の積層板に用いられるラジカル重合性樹脂組成物に係る本発明例であり、No.9〜12は高分子量ビニルエステルが30%(クロマトグラムの面積比率)未満の比較例である。また、表2の略語は以下の意味である。
≧2000:ビニルエステル中の分子量2000以上の高分子量ビニルエステルの含有量(%;クロマトグラムの面積比率)
≧4000:ビニルエステル中の分子量4000以上の高分子量ビニルエステルの含有量(%;クロマトグラムの面積比率)
1000〜4000:ビニルエステル中の分子量1000超4000未満のビニルエステルの含有量(%;クロマトグラムの面積比率)
≦1000:ビニルエステル中の分子量1000以下の低分子量ビニルエステルの含有量(%;クロマトグラムの面積比率)
【0069】
1.硬化物の物性測定方法
[破壊靭性値]
上記樹脂混合物100部に、熱重合開始剤(日本油脂社製、商品名「パーブチルO」)1.0部を加えて均一に混合し、図2に示す形状・寸法のサンプルを作って、熱風循環式乾燥炉中110℃で30分間、さらに150℃で30分間加熱して硬化させた。続いて、硬化物サンプルの中央の切欠き部先端に剃刀でスタータークラックを入れた。切欠き部の長さは2mm、幅は1mm、スタータークラックの長さは2mmであり、よってaは4mmである。このサンプルの中央部に、10mm/minの速度で下向きに荷重をかけたときの荷重−時間カーブ(図3)を求め、破壊時の荷重(Pc)、クラックの長さ(a)等から下記式1により破壊靭性値(MPa・m1/2)を算出した。
【0070】
【式1】
【0071】
[荷重たわみ温度]
破壊靭性値のときと同様に、上記樹脂混合物100部に、「パーブチルO」1.0部を加えて均一に混合し、熱風循環式乾燥炉中110℃で30分間、さらに150℃で30分間加熱して硬化させた。JIS K 6911に準拠し、東洋精機社製の「H.D.T.&V.S.P.T.TESTER」を用いて、荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0072】
[難燃性]
上記樹脂混合物100部に対し、「パーブチルO」1.0部と水酸化アルミニウム(昭和電工社製、商品名「ハイジライトH−320」)100部とを加えて均一に混合し、30cm×30cm×2mmのガラスケースに注型し、熱風循環式乾燥炉を用いて110℃で30分間、さらに150℃で30分間加熱して硬化させた。得られた硬化物サンプルについて、「UL−94」に準拠して燃焼試験を行った。V−0は難燃性が優れていることを示し、HBレベルは難燃性が低いことを示す。
【0073】
2.積層板の物性の測定方法
[金属箔張り積層板サンプルの作製]
上記各樹脂混合物100部に、熱重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド(日本油脂社製、商品名「パークミルH−80」、80%溶液)1.0部と、水酸化アルミニウム(住友化学社製、商品名「CL−310」)30部を加えて混合した樹脂組成物Aと、上記樹脂混合物100部に水酸化アルミニウム「CL−310」を140部加えて混合した樹脂組成物Bを調製した。
【0074】
ガラス繊維不織布(日本バイリーン社製、商品名「EP−4060」、60g/m2)に樹脂組成物Bを含浸させたものを2枚重ね、その両側にガラス織布(日東紡績社製、商品名「WE−18K−BK」)に樹脂組成物Aを含浸させたもの各1枚をそれぞれ積層し、さらに、その両側にそれぞれ厚さ18μmの銅箔(古河サーキットフォイル社製、商品名「TSTO」)各1枚を配して、積層物を作製した。この積層物を金属プレートの間に挟み、平置きの状態で110℃で60分間加熱硬化させ、さらに170℃で30分間アフターキュアし、厚さ1.6mmの両面銅箔張り積層板を得た。
【0075】
[線膨張率α]
JIS K 7197に準拠し、40〜100℃における線膨張率αをTMAで求めた。試験片は、積層板から銅箔をエッチングで除去した後、短尺(横)方向に15mm、断面積が3mm×1.5mmとなるように切り出したものを用いた。
【0076】
[ピール強度]
JIS C 6481のプリント配線板用銅張り積層板試験法の引きはがし強さ試験を参考にして、ナイフまたはエッチングによって積層板の片面の中央部に10±0.1mmの銅箔を残して両側の銅箔を除去した試料(全幅20mm、全長100mm)を作製した。銅箔の先端をチャックで掴み、引張方向が銅箔面に垂直になる方向に、50mm/分の速度で連続的に約50mm引きはがし、この間の荷重の最低値をピール強度(kN/m)とした。
【0077】
[ドリル摩耗率]
前記厚さ1.6mmの両面銅箔張り積層板を4枚重ねて、直径0.5mmのキリ状ドリルを用い、送り速度2.4mm/分、回転数7500rpmで5000個の孔を開けた。使用前ドリルの直径Xと、使用前ドリルの直径Yとを測定し、100×(X−Y)/Xをドリル摩耗率(%)とした。この値が大きいほど、耐ドリル摩耗性に劣ることとなる。
【0078】
[ハンダ耐熱性]
前記厚さ1.6mmの両面銅箔張り積層板を25mm×25mmに切断し、260℃のハンダ浴に浮かべて放置し、積層板に膨れ等の異常が生じるまでの時間(分)を目視で確認した。120秒放置しても異常が認められなかった場合は、「>120」と示し、120秒よりも速く異常が認められた場合は、その時間を示した。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表3から明らかなように、本発明例1〜8では、破壊靭性値と荷重たわみ温度とがバランス良く優れており、線膨張率、密着性、積層板としての物性にも優れるものであった。これに対し、高分子量ビニルエステルが含まれていない比較例9、10は、耐熱性には優れているが脆くなっており、破壊靭性値は低い。また、積層板としての物性にも劣るものであった。比較例11は破壊靭性値が改善されているが若干低く、ドリル摩耗率に劣っていた。比較例12は、ゴム成分が入っていることから、破壊靭性値と荷重たわみ温度のバランスは良好であったが、線膨張率が大きいことがわかる。また、ブロムを適量含有する系では、いずれも優れた難燃性を示した。
【0082】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されているので、耐熱性、耐衝撃性、靭性がバランスを採りつつ高レベルであり、線膨張率が小さく、金属箔と硬化樹脂層との密着性に優れ、さらに耐ドリル摩耗性にも優れている電気用金属箔張り積層板を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】高分子量ビニルエステル成分量の特定法を説明するためのGPCクロマトグラムと検量線である。
【図2】破壊靭性値を測定するための硬化試験片を示す説明図である。
【図3】破壊靭性値の測定に用いた荷重−時間カーブである。
Claims (6)
- 金属箔と補強繊維層とが硬化樹脂により一体化された電気用金属箔張り積層板であって、金属箔と補強繊維層との一体化に当たり、ビスフェノールおよび/またはブロム化ビスフェノールと、ビスフェノール型エポキシ樹脂および/またはブロム化ビスフェノール型エポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸および/またはグリシジル(メタ)アクリレートとから合成され、分子量が2000以上である高分子量ビニルエステルを、ゲルパーミエーション(GPC)法で測定されたクロマトグラムの面積比率で30%以上含有するビニルエステルと、ラジカル重合性単量体とを含有するラジカル重合性樹脂組成物を用いて、これを硬化させたことを特徴とする電気用金属箔張り積層板。
- 上記ビニルエステルが、10〜45質量%のブロムを含むものである請求項1に記載の電気用金属箔張り積層板。
- 上記ラジカル重合性樹脂組成物が、難燃剤を0.01〜30質量%含むものである請求項1または2に記載の電気用金属箔張り積層板。
- 上記難燃剤が、窒素原子含有化合物、リン原子含有化合物および珪素原子含有化合物よりなる群から選択される1種以上である請求項3に記載の電気用金属箔張り積層板。
- 上記ラジカル重合性単量体が、スチレンおよび(メタ)アクリル酸である請求項1〜4のいずれかに記載の電気用金属箔張り積層板。
- 上記ラジカル重合性樹脂組成物を硬化させた硬化物の荷重たわみ温度が90℃以上となるようなラジカル重合性樹脂組成物を用いるものである請求項1〜5のいずれかに記載の電気用金属箔張り積層板。
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