JP4024105B2 - イオン交換樹脂膜の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン交換樹脂膜の製造方法及び膜処理装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
イオン交換樹脂は、高分子鎖中にスルホン酸基やカルボン酸基等の強酸基を有する高分子材料であって、特定のイオンを選択的に透過する性質を有しているため、固体高分子型燃料電池をはじめ、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等の様々な用途に用いられている。中でも燃料電池は、水素やメタノール等を電気化学的に酸化することにより、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、クリーンな電気エネルギー供給源として注目されている。
【0003】
このようなイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系固体高分子電解質が知られている。パーフルオロ系固体高分子電解質は、化学的安定性が非常に高いことが特徴である。
これに適合するカルボン酸基及び/又はスルホン酸基を有するイオン交換樹脂膜は、例えば、熱可塑性を有するイオン交換樹脂前駆体の状態において製膜した後、イオン交換基前駆体を加水分解してイオン交換基を形成させることにより製造される。この場合、イオン交換基前駆体の加水分解は、イオン交換樹脂前駆体膜を、反応液体であるアルカリ浴に浸漬することにより実施される。具体的には、特開昭61−19638号公報に記載の、水酸化ナトリウムを20〜25質量%含んだ水溶液を用い、70〜90℃において16時間加水分解を行う方法、特開昭57−139127号公報に記載の、水酸化カリウムを11〜13質量%とジメチルスルオキシドを30質量%含んだ水溶液を用い90℃で1時間加水分解を行う方法、特開平3−6240号公報に記載の、水酸化アルカリを15〜50質量%と水溶性有機化合物を0.1〜30質量%含んだ水溶液を用い、60〜130℃で20分〜24時間加水分解を行う方法等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、イオン交換樹脂前駆体膜のフィルムをアルカリ浴に浸漬して連続的に加水分解処理を行った場合(以下、浸漬法、という)、処理時間の経過とともにアルカリ浴の組成が変わるため、品質に影響が出ないように、浴組成を適切に制御する必要があった。特に、加水分解処理により発生するフッ化物は、処理時間の経過とともにアルカリ浴内に蓄積されるため、これを除去する必要があった。このため、アルカリ浴を定期的に入れ替えする等の作業が必要となり、工程が煩雑であるとともに、一度に大量の産業廃棄物が出るという問題点があった。
【0005】
また、イオン交換樹脂前駆体膜が疎水性であるのに対し、加水分解処理されたイオン交換樹脂膜は親水性であり、その結果、吸水して、特に、水平方向(膜の厚み方向に対し垂直)に大きく膨潤する。このような水平方向での膜膨潤が逐次拡幅されずにロールを通過すると、皺やたるみの原因となる。このため、通常の浸漬法では、膜膨潤が急激に発生するのを防ぐために、加水分解速度の遅い条件下で、膜膨潤を抑制しながら処理を行う等の工夫がなされている。しかしながら、それでも皺やたるみ等の品質上の問題を生じる場合があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、管理及び制御が煩雑で、かつ、大量の産業廃棄物を排出するアルカリ浴への浸漬を行うことなくイオン交換樹脂前駆体膜の加水分解処理を行って、連続的に高品質のイオン交換樹脂膜を製造する方法、及びその方法の実施に適した膜の処理装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、反応液体をイオン交換樹脂前駆体膜に塗布して加水分解処理することによって、アルカリ浴への浸漬を行うことなく加水分解できることを見出した。そして、ロールを通過させることなく、前駆体の両端を把持した状態で加水分解することにより、皺の発生なしに加水分解処理できることを見出した。更に、加水分解に伴い発生する膜膨潤を、前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜を伸長させる、すなわち、テンター等を用いて加水分解前に、予め、前駆体膜を延伸して吸収する、又は加水分解に伴い前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜を逐次拡幅させて吸収することにより、たるみを発生させることなく加水分解処理できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1) イオン交換基前駆体を有するイオン交換樹脂前駆体膜を反応液体に接触させることにより、イオン交換基前駆体を加水分解するイオン交換樹脂膜の製造方法であって、
塗布によりイオン交換樹脂前駆体膜を反応液体に接触させ、
前駆体膜の両端を把持して、0.01〜100m/minの速度で連続的に搬送しながら加水分解処理を行うことを特徴とするイオン交換樹脂膜の製造方法。
(2) 前駆体膜及び/又は加水分解処理されたイオン交換樹脂膜を伸長することを特徴とする(1)に記載のイオン交換樹脂膜の製造方法。
(3) 前駆体膜を延伸後に反応液体を塗布して加水分解処理することを特徴とする(1)又は(2)に記載のイオン交換樹脂膜の製造方法。
(4) 膜の両端を把持する手段、前記の把持する手段を駆動させて膜を連続的に搬送する手段、膜の両端を把持して搬送しつつ膜に反応液体を塗布する塗工手段を有することを特徴とする(1)に記載のイオン交換樹脂膜の製造方法に使用する膜処理装置。
(5) 塗工手段が、ダイ先端部に沿って設けられた吐出口から反応液体を吐出して膜に塗布するダイコータであることを特徴とする(4)に記載の膜処理装置。
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明によると、イオン交換基前駆体を有するイオン交換樹脂前駆体膜は、反応液体と接触することにより、イオン交換基前駆体が加水分解される。本発明で用いられるイオン交換樹脂前駆体は、以下の方法により製造される。
【0010】
(イオン交換樹脂前駆体の製造)
本発明において、イオン交換樹脂前駆体とは、スルホン酸基又はカルボン酸基等のイオン交換基前駆体を有するフルオロカーボン重合体のことをいう。フルオロカーボン重合体としては、CF2=CX1X2(X1及びX2は、それぞれ独立にハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基)で表されるフッ化オレフィンと、CF2=CF(−O−(CF2−CF(CF2X3))b−OC−(CFR1)d−(CFR2)e−(CF2)f−X5)で表されるフッ化ビニル化合物(bは、0以上8以下の整数、cは、0又は1、d、e及びfは、それぞれ独立に、0以上6以下の整数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン元素又は炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基、X3は、ハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、X5は、CO2R3、COR4又はSO2R4(R3は、炭素数1以上3以下の炭化水素系アルキル基、R4は、ハロゲン))とのフルオロカーボン共重合体が好ましい。
【0011】
代表的なフッ化オレフィンとしては、CF2=CF2、CF2=CFCl、CF2=CCl2が挙げられる。フッ化ビニル化合物としては、CF2=CFO(CF2)z−SO2F、CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)z−SO2F、CF2=CF(CF2)z−SO2F、CF2=CF(OCF2CF(CF3))z−(CF2)z-1−SO2F、CF2=CFO(CF2)z−CO2R、CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)z−CO2R、CF2=CF(CF2)z−CO2R、CF2=CF(OCF2CF(CF3))z−(CF2)2−CO2R(zは、1以上8以下の整数、Rは、炭素数1以上3以下の炭化水素系アルキル基を表す)等が挙げられる。
【0012】
フルオロカーボン共重合体は、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のパーフルオロオレフィン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の第三成分を含む共重合体であってもよい。
このようなイオン交換樹脂前駆体の製造のための重合方法としては、フッ化ビニル化合物をフロン等の溶媒に溶かした後、フッ化オレフィンのガスと反応させて重合する溶液重合法、フロン等の溶媒を使用せずに重合する塊状重合法、フッ化ビニル化合物を界面活性剤とともに水中に仕込んで乳化させた後、フッ化オレフィンのガスと反応させて重合する乳化重合法等が挙げられる。
【0013】
重合により製造されたイオン交換樹脂前駆体は、化学式(1)で表される。
−[CF2CX1X2]a−[CF2−CF(−O−(CF2−CF(CF2X3))b−OC−(CFR1)d−(CFR2)e−(CF2)f−X5)]g− (1)
(式中、X1、X2及びX3は、それぞれ独立に、ハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、aは、0以上20以下の整数、bは、0以上8以下の整数、cは、0又は1、d、e及びfは、それぞれ独立に、0以上6以下の整数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、gは、1以上20以下の整数、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基、X5は、CO2R3、COR4又はSO2R4(R3は、炭素数1以上3以下の炭化水素系アルキル基、R4は、ハロゲン元素))
【0014】
(イオン交換樹脂前駆体の製膜)
イオン交換樹脂前駆体を製膜するには、一般的な溶融押出成形法(Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等)が用いられる。別の方法として、上記イオン交換樹脂前駆体の溶液又は分散液の溶媒を蒸発させてキャスト製膜する、溶剤キャスト法が挙げられる。この時、特開平8−162132号公報に記載のPTFE膜を延伸処理した多孔質膜や、特開昭53−149881号公報及び特公昭63−61337号公報に示されるフィブリル化繊維に、上記分散液をキャストしてもよい。
【0015】
必要に応じて、イオン交換樹脂前駆体膜を、予め、延伸配向させることもできる。Tダイ法による溶融製膜やキャスト法による湿式製膜を行う場合は、例えば、横1軸テンターや同時2軸テンターを使用することによって延伸配向させることが可能である。インフレーション法による溶融製膜を行う場合も、ダイレクトインフレーションやブロー延伸と呼ばれる公知の技術によって、容易に延伸配向させることができる。
【0016】
(イオン交換樹脂前駆体膜の加水分解方法)
イオン交換基前駆体を有するイオン交換樹脂前駆体膜を反応液体に接触させることによってイオン交換基前駆体を加水分解して、イオン交換基を有する化学式(2)で表されるイオン交換樹脂膜を得る。
−[CF2CX1X2]a−[CF2−CF(−O−(CF2−CF(CF2X3))b−OC−(CFR1)d−(CFR2)e−(CF2)f−X4)]g− (2)
(式中、X1、X2及びX3は、それそれ独立に、ハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、aは、0以上20以下の整数、bは、0以上8以下の整数、cは、0又は1、d、e及びfは、それぞれ独立に、0以上6以下の整数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、gは、1以上20以下の整数、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基、X4は、COOZ又はSO3Z(Zは、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は水素原子))
本発明によると、イオン交換樹脂前駆体膜に反応液体を塗布することにより、イオン交換樹脂前駆体膜と反応液体とを接触させて、イオン交換基前駆体の加水分解を行わせる。限定されるものではないが、反応液体の塗布は、前駆体膜の両端を把持しながら連続的に送る搬送装置に備えられた塗工手段によって行われることが好ましい。
【0017】
搬送装置としては、膜の両端を着脱できる把持手段を有し、その把持手段を駆動できるものであれば、如何なる手段も使用することができる。このような手段として、テンターが好ましい。例えば、ベルト、チェーン、ワイヤー、ロープ、紐、針金、糸、その他可撓性ないしは屈曲性を有するもの(以下、これら全てを、ベルト、という)に多数の把持手段を設けて膜の両側に配置して、前駆体膜の両端を把持し、駆動させることにより、前駆体膜を搬送する。把持手段を設けたランナーが無端状のガイドレールを走行するようにしてもよい。
【0018】
把持手段としては、様々な形状や機構を有するピンやクリップ等を利用したものが挙げられる。例えば、クリップとばねから構成される把持手段を用い、ばねを押すことにより、クリップを開口させて膜を呼び込んだ後、ばねを押すことをやめてクリップを閉じて膜を把持して搬送し、再び、ばねを押してクリップを開口して膜を解放することができる。
把持手段が膜と直接に接触する部分の形状としては、円形状、点状、四角状、三角状等が挙げられるが、これらに制限されない。膜と把持手段の接触部分の面積は限定されないが、好ましくは0.001cm2以上100cm2以下、より好ましくは0.01cm2以上10cm2以下、最も好ましくは0.1cm2以上5cm2以下である。
【0019】
把持手段における、膜と直接に接触する部分の材質は、一般的な金属材料やゴムが好ましい。塩基性反応液体が塗布された膜の両端を把持する場合があり、耐塩基性の観点から、材質としてステンレス製のものを用いるのが好ましい場合がある。
把持手段が膜と直接に接触する部分とベルトとの距離は一般的に短い方が好ましいが、塩基性反応液体が塗布された膜の両端を把持する場合、設備の汚染の観点から、ある程度、離れていることが好ましい場合があり、好ましくは0.01cm以上100cm以下、より好ましくは0.1cm以上10cm以下、最も好ましくは1cm以上5cm以下である。この際、例えば、嘴状の長いクリップを用いてもよい。
【0020】
前駆体膜を把持する際に切断等の不具合が生じないように、把持手段は最適に温度制御されていることが好ましい。把持手段の温度が高いと把持手段の材質が劣化したり、把持部分で膜に応力集中が発生して膜が切断したり、把持手段から外れることがある。温度が低すぎると、膜の把持部が冷却されすぎる場合があるため、0℃以上200℃以下が好ましく、より好ましくは30℃以上150℃以下、最も好ましくは50℃以上100℃以下である。
【0021】
把持手段の間隔は、応力集中が起きないように、できるだけ小さい方がよく、限定されるものではないが、好ましくは0.01cm以上100cm以下、より好ましくは0.05cm以上10cm以下、最も好ましくは0.1cm以上3cm以下である。
ベルトを駆動させる方法としては、例えば、無端チェーンの場合、チェーンに噛合する複数個のスプロケットを膜の両側に設置し、各1つのスプロケットをモーター等で回転駆動させる方法を挙げることができる。ベルトの種類に応じて、スプロケットの代わりに、プーリ爪車、歯車、ホィール等を使用することができる。ベルトは、褶曲、例えば、ジグザグに屈曲して走行するようにしてもよい。褶曲とは、縦向きで山や谷を形成するもののみならず、横向き又は斜めに折り返されるものや、それらを組み合わせたものを含む。
【0022】
前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜を搬送する速度は限定されないが、好ましくは0.001m/min以上1000m/min以下、より好ましくは0.01m/min以上100m/min以下、最も好ましくは0.1m/min以上10m/min以下である。搬送と停止を断続的に行うようにしてもよい。加水分解処理に供するイオン交換樹脂前駆体膜は長尺状であることが好ましいが、枚葉であってもよい。
【0023】
搬送装置の長さは限定されないが、好ましくは0.01m以上1000m以下、より好ましくは0.1m以上100m以下、最も好ましくは1m以上10m以下である。搬送装置の幅は、好ましくは0.01m以上1000m以下、より好ましくは0.1m以上100m以下、最も好ましくは1m以上10m以下である。滞留時間は、好ましくは0.01min以上1000min以下、より好ましくは0.05min以上100min以下、0.1min以上10min以下である。
【0024】
特公昭35−11775号公報に記載されている、フィルム両縁に形成した厚耳を溝付き誘導具で把持してフィルムを摺動移送する搬送装置、更に、それに摺動抵抗減少用のエアー吹き出しノズルを設けた特開昭56−70919号公報に記載の搬送装置等も本発明の加水分解方法に用いることができる。特公昭51−33590号公報に記載の、リニアモータによって生じる電気的な力によって各クリップ間の距離を増大させる同時2軸延伸装置、特公昭62−45812号公報に記載の、ねじ溝のピッチが漸増する構造のスピンドルを把持手段のガイドに用いる同時2軸延伸方法、特公昭50−20590号公報に記載の、リンク調整装置を有する同時2軸延伸装置等も本発明の製造方法に好適に用いられる。
【0025】
反応液体は限定されないが、塩基性であることが好ましく、その場合は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、塩基性窒素化合物等を少なくとも1種類含有する。アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物としては、限定されないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。塩基性窒素化合物としては、限定されないが、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン類が挙げられる。アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、塩基性窒素化合物等の含有率は限定されないが、通常、0.01質量%以上99質量%以下、好ましくは2質量%以上40質量%以下、より好ましくは5質量%以上35質量%、最も好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
【0026】
反応液体中に含まれる、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、塩基性窒素化合物等を溶解する溶媒として、水及び/又は非水溶媒を用いることもできる。溶媒の含有率は限定されないが、0.01質量%以上99質量%以下、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは30質量%以上80質量%、最も好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
非水溶媒としては、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、塩基性窒素化合物等を溶解するものであれば、任意の非水溶媒を使用できる。有機溶媒は、水よりも濡れ性に優れるために好ましい。
【0027】
有機溶媒の例として、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール等のアルコール類、ジヘキシルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ベラトロール、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられるが、これらに限定されない。特に、プロパノールとグリセリンは、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物をよく溶解するために好ましい。グリセリンは、沸点が約300℃と高く、加水分解処理温度を高くできるため非常に好ましい。その結果、従来の水系反応液体を用いて加水分解処理した場合に比べ、反応速度を向上させることが可能である。
【0028】
非水とは、含水率が1質量%以下であることをいう。しかしながら、場合によっては、水を添加して水系−非水系混合体が好ましい場合がある。例えば、加水分解処理温度が100℃近辺の場合、水を添加することにより加水分解反応速度が向上する時がある。この時の含水率は限定されないが、通常、1質量%以上50質量%以下、好ましくは2質量%以上40質量%以下、より好ましくは5質量%以上30質量%以下、最も好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0029】
反応液体は、膨潤性有機化合物を含有する場合がある。特開平3−6240号公報に記載のように、水酸化アルカリ水溶液に、膨潤性有機化合物を併用すると、イオン交換樹脂前駆体の樹脂層を膨潤させ、加水分解反応速度を促進させる効果があることが、すでに知られている。膨潤性有機化合物としては、ジメチルスルホキシド、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、スルホランが挙げられるが、これらに限定されない。膨潤性有機化合物の含有率は限定されないが、通常、0.01質量%以上99質量%以下、好ましくは0.1質量%以上80質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上50質量%、最も好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0030】
イオン交換樹脂前駆体膜を加水分解処理するのに用いる反応液体は限定されないが、その粘度は、通常、50mPa・s以上100000mPa・s以下、好ましくは100mPa・s以上80000mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以上60000mPa・s以下、最も好ましくは1000mPa・s以上50000mPa・s以下である。ここでいう粘度とは、20℃の反応液体を大気中で円錐平板型の回転式粘度計(以下、E型粘度計という)で測定した値である。
【0031】
上記の粘度を発現させるために、反応液体に増粘安定剤を含有させてもよい。増粘安定剤は限定されないが、アルミナ、ボロンナイトライド等の無機粒子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロース等の合成添加物、種子を原料とする多糖類(グアーガム、カジブビーンガム、タラガム、タマリンドシードガム等)、樹脂、樹液を原料とする多糖類(アラビアガム、トラガントガム、カラヤガム等)、海藻を原料とする多糖類(アルギン酸、カラギナン等)、発酵生産物多糖類(キサンタンガム、ジエランガム、カードラン等)、植物抽出物(ペリチン)、甲殻類抽出物(キチン、キトサン、キトサミン等)等の天然品の多糖類及び/又はその誘導体が挙げられる。また、ポリエーテル系粘弾性調整剤、アクリル系共重合体アルカリ増粘型エマルジョン、ポリアクリル酸系高分子型粘弾性調整剤、D−ソルビノールとベンズアルデヒドとの縮合反応誘導体等も挙げられる。この中でも、多糖類及びその誘導体は、耐アルカリ性に優れるために好ましい。含有量は限定されないが、好ましくは0.001質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。
【0032】
反応液体の表面張力を下げるため、反応液体中に界面活性剤を含有させることができる。表面張力は、液滴法によるポリテトラフルオロエチレンのフィルムへの接触角で、好ましくは10°以上80°以下、より好ましくは20°以上70°以下、最も好ましくは30°以上60°以下である。界面活性剤は限定されず、カルボン酸塩系、スルホン酸塩系、硫酸エステル塩系、リン酸エステル塩系の陰イオン性界面活性剤、アミン塩系、アンモニウム塩系の陽イオン性界面活性剤、カルボキシベタイン型、アミノカルボン酸塩系の両性界面活性剤、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型の非イオン性界面活性剤が挙げられる。特に、陰イオン系界面活性剤が、温度が高いほど界面活性が上がるため、好ましい。炭化水素系ではなく、フルオロカーボン系の界面活性剤も使用することができる。含有量は限定されないが、好ましくは0.001質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以上5質量%以下である。
【0033】
反応液体中に、塗布後の反応液体の揮発を抑制するため、被膜形成剤を含有させることができる。これに適合するものとしては、限定されないが、親水性部位と疎水性部位とを合わせもつ両親媒性分子が好ましく、代表例として、たん白質等が挙げられる。また、オレイン酸ナトリウム、モルホリン脂肪酸塩といった被膜形成剤もこれに適合する。
反応液体を前駆体膜に塗布する塗工手段としては、任意の手段を採用できる。コータとしては、リバースロールコータ、ダイレクトロールコータ、カーテンコータ、ファウンテンコータ、ナイフコータ、ダイコータ等が挙げられ、また、公知の噴霧(スプレー)技術を使用することもできる。このような塗工手段は、搬送装置に備えられ、前駆体膜の両端が把持されている時及び/又はその前後で、前駆体膜に反応液体を塗布する。また、刷毛等を用いて、前駆体膜に反応液体を手塗りしてもよい。
【0034】
塗布量は限定されないが、1g/m2以上9000g/m2以下が好ましく、より好ましくは50g/m2以上1000g/m2以下、最も好ましくは100g/m2以上500g/m2以下である。塗布は、前駆体膜の片面又は両面どちらで行ってもよく、塗布しない部分があってもよい。
反応液体を塗布後、その状態に保持したままで加水分解処理することができるが、イオン交換樹脂前駆体膜を最適な温度に加熱し、加水分解処理を行うことが好ましい。加水分解の処理温度は限定されないが、通常、30℃以上200℃以下、好ましくは60℃以上180℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下、最も好ましくは80℃以上120℃以下である。処理時間は、処理温度や反応液体組成によって変わり、限定されないが、通常、1秒以上10時間以下、好ましくは10秒以上1時間以下、より好ましくは10秒以上20分以下、最も好ましくは10秒以上10分以下である。加熱方法は限定されないが、熱風を当てる対流加熱、赤外線を照射する放射加熱、マイクロ波を照射するによる加熱等の公知の加熱方法を用いることができる。
【0035】
前駆体膜は、反応液体と接触する前及び/又は後に伸長されることが好ましい。伸長とは、延伸応力の発生を伴う伸長を意味する延伸だけでなく、延伸応力の伴わない伸長を意味する拡幅も該当する。
加水分解前に、予め、前駆体膜を延伸する、もしくは加水分解に伴い前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜を逐次拡幅することにより、加水分解に伴い発生する膜膨潤を吸収し、たるみの発生を防ぐことができる。
【0036】
膜幅方向の伸長倍率は限定されないが、通常、1.01倍以上4.0倍以下、好ましくは1.03倍以上2.0倍以下、より好ましくは1.05倍以上1.5倍以下、最も好ましくは1.1倍以上1.3倍以下である。
把持する前の前駆体膜の送り速度と把持している時の前駆体膜の搬送速度に差を設けることにより、搬送方向に伸長してもよい。この場合、面積倍率として1.01倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは1.05倍以上5.0倍以下、最もより好ましくは1.1倍以上2.0倍以下である。前駆体膜を伸長させる時の温度は、好ましくは0℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上100℃以下であるが、これに限定されない。
【0037】
驚くべきことに、加水分解処理中及び/又はその前後において、前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜を延伸し、分子鎖を特定の方向に配向させることにより、高強度のイオン交換樹脂膜を製造することができる。このような高強度のイオン交換樹脂膜は、前駆体膜を延伸する延伸部と前駆体膜を加水分解する反応部とから構成される搬送装置を用いることにより、連続的に製造することができる。この際、塗工手段が延伸部と反応部との間に備えられていることが好ましい。
【0038】
延伸倍率は限定されないが、面積倍率として、1.1倍以上100倍以下が好ましく、より好ましくは2倍以上20倍以下、最も好ましくは4倍以上16倍以下である。このうち、膜幅方向に関しては、通常、1.1倍以上100倍以下、好ましくは1.2倍以上10倍以下、より好ましくは1.5倍以上6倍以下、最も好ましくは2倍以上4倍以下である。延伸温度は、好ましくは0℃以上200℃以下、より好ましくは0℃以上100℃以下であるが、これに限定されない。
【0039】
搬送方向に延伸する方法としては、前述のように、把持する前の前駆体膜の送り速度と、把持している時の前駆体膜の搬送速度に差を設ける方法以外にも、縦延伸ロールによる延伸や、同時2軸テンターによる搬送方向と膜幅方向と同時に延伸する方法が挙げられる
前駆体膜を延伸した後、反応液体を塗布して前駆体膜を加水分解する際に、前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜の両端を把持した2つのベルトの間隔を膜の送り方向に向かって漸次縮小させる等により、前駆体膜及び/又はイオン交換樹脂膜の乾燥収縮応力を緩和させることが好ましい場合がある。反応液体を前駆体膜に塗布する時の膜幅に対する、加水分解が終了し膜の両端を解放する時の膜幅の割合、つまり縮小倍率は限定されないが、好ましくは0.10倍以上0.999倍以下、より好ましくは0.50倍以上0.995倍以下、最も好ましくは0.90倍以上0.99倍以下である。
【0040】
前駆体膜を延伸した後に、一旦、膜の両端を解放し、反応液体を前駆体膜に塗布した後、前駆体膜の両端を再び把持して加水分解処理することもできる。解放してから再び把持するまでの距離は限定されないが、好ましくは0.1cm以上1000cm以下、より好ましくは1cm以上500cm以下、最も好ましくは3cm以上50cm以下である。解放してから再び把持するまでの前駆体膜の温度は限定されないが、好ましくは−100℃以上200℃以下、より好ましくは−50℃以上100℃以下、最も好ましくは−20℃以上50℃以下である。反応液体が塗布された前駆体膜の両端を再び把持して加水分解処理してもよい。
【0041】
本発明の方法を達成するための最も理想的な膜処理装置は、膜の両端を把持する手段、前記の把持する手段を駆動させて膜を連続的に搬送する手段、膜の両端を把持して搬送しつつ膜に液体を塗布する塗工手段を有する。液体を塗布する際に、膜の両端が把持されていることにより、膜幅方向の塗工量分布や経時的な塗工量変動を小さくすることができる。この際、膜が伸長され、緊張した状態で膜の両端が把持されているのが好ましい。
【0042】
粘着性を有し、ロールへ貼りついてしまう場合があるため、アプリケーションロールを使用せず基材に非接触の状態で塗布することのできる塗工手段が好ましい。これに適合する塗工手段としては、スプレー法が挙げられるが、より好ましい形態は、ダイ先端部に沿って設けられた吐出口から液体を吐出して膜に塗布するダイコータである。この塗工手段は、このようなダイコータを両端が把持された膜の上下に備えた両面塗工型であってもよい。
【0043】
加熱方法として、液体の飛散を防止するために放射加熱が好ましい。特に、遠赤外線ヒータは、液体を飛散させることなく液体と膜に遠赤外線が直接に作用して効率良く加熱することができるので好ましい。
遠赤外線ヒータは、放射面が遠赤外線放射材料に被覆された構造を有し、遠赤外線放射材料が各種熱源に加熱されて遠赤外線を放射するヒータが好ましい。熱源は限定されないが、電気式、ガス式、オイル式、スチーム式といったものが挙げられるが、この中でも、特に、特許第2526175号明細書に記載のスチーム式は、着火部を有しない防爆構造であるために、安全性が高く、しかもエネルギーコストが低廉であり好ましい。遠赤外線ヒータの形状としては、パネル式やパイプ式といったものを挙げることができる。ヒータ温度の制御方法としては、遠赤外線ヒータの放射面又は雰囲気に温度検出センサーを設け、このセンサーの検出信号により、電流、ガス流量、オイル流量、スチーム流量等を制御する等の方法により行うことができる。
【0044】
(イオン交換樹脂膜)
イオン交換樹脂前駆体膜を加水分解処理した後、必要に応じて水洗等を施して、アルカリ金属型イオン交換基又はアルカリ土類金属型イオン交換基を有する、化学式(2)(但し、Zは、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子)で表される本発明のイオン交換樹脂膜を得ることができる。さらに塩酸等の無機酸で処理することにより、化学式(2)(但し、Zは水素原子)で表される酸型イオン交換基を有する本発明のイオン交換樹脂膜(プロトン型イオン交換樹脂膜)を製造することも可能である。
【0045】
−[CF2CX1X2]a−[CF2−CF(−O−(CF2−CF(CF2X3))b−OC−(CFR1)d−(CFR2)e−(CF2)f−X4)]g− (2)
(式中、X1、X2及びX3は、それぞれ独立に、ハロゲン元素又は炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、aは、0以上20以下の整数、bは、0以上8以下の整数、cは、0又は1、d、e及びfは、それぞれ独立に、0以上6以下の整数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、gは、1以上20以下の整数、R1及びR2は、それぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1以上10以下のパーフルオロアルキル基又はフルオロクロロアルキル基、X4は、COOZ又はSO3Z(Zは、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子又は水素原子))
本発明の方法により製造されたイオン交換樹脂膜の当量重量、すなわち、イオン交換基1当量当りの乾燥重量EWは限定されないが、通常、250以上1500以下、好ましくは400以上1400以下、より好ましくは500以上1300以下、最も好ましくは600以上1200以下である。膜厚は限定されないが、1μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0046】
(膜電極接合体)
本発明の方法により製造されたイオン交換樹脂膜を固体高分子型燃料電池に用いる場合、アノードとカソード2種類の電極が両側に接合された膜電極接合体(MEA)として使用される。電極は、触媒金属の微粒子とこれを担持した導電剤とから構成され、必要に応じて撥水剤が含まれる。電極に使用される触媒としては、水素の酸化反応及び酸素による還元反応を促進する金属であれば限定されず、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム又はそれらの合金が挙げられる。この中では、主として白金が用いられる。
【0047】
前記電極とイオン交換樹脂膜からMEAを作製するには、例えば、次のような方法が行われる。イオン交換樹脂をアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、電極物質となる白金担持カーボンを分散させてペースト状にする。これをPTFEシートに一定量塗布して乾燥させる。次に、PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間にイオン交換樹脂膜を挟み込み、熱プレスにより転写接合する。熱プレス温度は、イオン交換樹脂膜の種類にもよるが、通常は100℃以上であり、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上である。
【0048】
(燃料電池)
固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレーム、ガス供給装置等から構成される。このうち集電体(バイポーラプレート)とは、表面等にガス流路を有するグラファイト製又は金属製のフランジのことをいい、電子を外部負荷回路へ伝達する他に、水素や酸素をMEA表面に供給する流路としての機能を持っている。こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池を作製する。燃料電池の作動は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素又は空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃以上100℃以下で作動させることが多いが、100℃以上150℃以下で作動させることもある。酸素や水素の供給圧力は高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確率も増加するため、適当な圧力範囲に調整することが好ましい。
【0049】
本発明の方法により製造されたイオン交換樹脂膜は、クロルアルカリ、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。
本発明の膜処理装置は、フィルムへのガスバリア層コート、熱可塑性樹脂製フィルムの熱処理や多孔化処理等の各種フィルム処理技術にも使用することができる。
【0050】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は実施例に制限されるものではない。
実施例で用いた膜処理装置は、以下のとおりである。
【0051】
(小型テンター)
図1は、膜処理装置の平面写真、図2は、同じ膜処理装置の平面の模式図、図3は、図2の膜処理装置の断面の模式図である。
図1及び2において、膜3は、1対のグリップチェーン1a、1bに設けられた把持具2に、その両端が把持されて矢印の方向に運搬される。把持具2は、ステンレス製のクリップとネオプレン製のゴムとからなり、クリップとゴムの間に膜3が把持される。把持具2がプッシュを通過する時に把持具2のバネが押されて、クリップが開口して膜3がクリップとゴムの間に挟まれ、プッシュを通過するにつれバネが徐々に押されなくなってクリップが閉じ、膜3がクリップに把持される。再びクリップがプッシュを通過する時にバネが押されてクリップが開口して膜3が解放される。
【0052】
グリップチェーン1は、複数のスプロケットに噛ませ、その内の1つであるスプロケット4a、4bをモーターにより回転させて駆動させる。膜3の搬送速度は、モーターの回転数により適宜、調節される。グリップチェーン1aが弛まないように、スプロケット5とスプロケット6の位置により調整する(グリップチェーン1bの場合も同様)。
膜を処理するにあたって、グリップチェーン1a、1bを駆動させ、膜3の両端をスプロケット7a、7b近傍で把持して矢印の方向に搬送する。スプロケット8a、8b間の距離を、スプロケット7a、7b間の距離よりも長く設定することにより、グリップチェーン1a、1bは、スプロケット7a、7bからスプロケット8a、8bに向かうのに伴い、グリップチェーン1a、1bの距離が増加して、膜3は膜幅方向に延伸される。
【0053】
スプロケット4a、4bに到達し、再びプッシュがバネを押してクリップが開口し、膜3が解放される。グリップチェーン1aは、スプロケット6a及び5aを通過し、再びスプロケット7に戻り、再び膜3の両端を把持する(グリップチェーン1bの場合も同様)。
遠赤外線セラミックプレートヒータ9((株)ノリタケカンパニー社製PLR420K、以下、ヒータ、という)は、スプロケット7a、7bと8a、8bの間及びスプロケット8a、8bと4a、4bの間に、各々、膜3から5cm離した上下、計4箇所に設置されている。ヒータの寸法は、膜幅方向に30cm、長さ方向に20cmである。各ヒータ温度は、その表面温度を各温度調節器にて調節する。膜温度の測定は、非接触熱電対((株)キーエンス社製TF−K132)を用いて行う。
【0054】
スプロケット7a、7bからスプロケット8a、8bの部分は延伸部であり、膜3を膜幅方向に延伸する工程である。スプロケット7a、7b近傍にて膜3を把持する際のクリップ間の距離(以下、入口幅、という)は、膜幅に合うように設定するとともに、適切な延伸倍率になるようにスプロケット8a、8b近傍でのクリップ間距離(以下、中間幅、という))を調節する。必要に応じてヒータを使用し適切な温度に設定して、加熱しながら延伸を行う。
【0055】
スプロケット8a、8bからスプロケット4a、4bの部分は反応部であり、ここで、アルカリ液体を塗布した後、加熱して加水分解処理を行う。図3に示すように、スプロケット8a、8b近傍(若干、スプロケット4寄り)に、膜3との隙間が100μm程度になるように上下両面に、図4に示すダイコータ10を取り付け、アルカリ液体を塗布する。アルカリ液体を塗布した後、ヒータにて加熱して加水分解処理を行う。加水分解時間は、ヒータの長さ20cmを処理長とみなし、これを搬送速度で割った値がこれに相当し、例えば、4cm/minの場合、加水分解時間は5分である。必要に応じて、スプロケット4a、4b近傍でのクリップ間距離(以下、出口幅、という)を適当に調整する。
【0056】
(ダイコータ)
図4は、膜に液体を塗布するためのダイコータの斜視図である。
ダイ先端部の膜幅方向に沿って100μmの隙間を有する吐出口11を設け、そこからアルカリ液体を吐出する。このダイコータに,直径1cm程度の穴12を設け、コネクタを介してテフロン(登録商標)チューブと接続し、外部からアルカリ液体を供給する。
このダイコータ10は、図3に示す膜処理装置のスプロケット8a、8b近傍に、膜との隙間が100μm程度になるように上下両面に取り付けられている。ダイアフラム式定量ポンプ((株)ケー・エヌ・エフ・ジャパン社製STEPDOS、FEM08KT.18S)により流量を適宜設定して、アルカリ液体をダイコータに供給する。
【0057】
【参考例1】
(アルカリ液体の作製)
加水分解処理に用いる反応液体を、次のように調製した。まず、第一工業薬品(株)社製DKSファインガム(商標)G-270 を、イオン交換水341gに対し17g添加し、スリーワンモーターにて攪拌しながら溶解させた。この溶液に対し、水酸化カリウム272gをイオン交換水280gに溶解させた水溶液を加えて十分に攪拌した後、更に攪拌しながら徐々にジメチルスルホキシド90gを加えて、1kgの反応液体を作製した。この反応液体の液組成は、KOH/水/DMSO/G-270=27.2/62.1/9.0/1.7(質量比)、粘度は1500mPa・sであった。
【0058】
【実施例1】
イオン交換樹脂前駆体として、CF2CF2とCF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2)2−SO2Fとのフルオロカーボン共重合体(EW950、MI20)を製造した。
この共重合体のJIS K−7210に基づいた、温度270℃、荷重2.16kgで測定されるメルトインデックス(以下、MI(g/10分)、という)は20であった。この共重合体をTダイ法にて溶融押出製膜を行い、厚み25μm、幅22cmの長尺状のイオン交換樹脂前駆体膜を得た。
【0059】
この長尺状の前駆体膜を簡易繰出し機から繰出し、小型テンターに導入した。この際、小型テンターの搬送速度と繰出し速度に差を設け、搬送方向に1.5倍延伸されるように設定した。小型テンターの入口幅、中間幅及び出口幅は、各々17cm、28cm及び28cmに調整し、搬送速度は、4cm/minとした。スプロケット8a、8bの近傍において、前駆体膜は膜幅方向に1.5倍延伸、搬送方向に1.2倍延伸されていた。
アルカリ液体の塗布は、幅20cmのダイコータを用いて行い、塗布量は両面とも100g/m2、反応部のヒータの温度を120℃に設定した。加水分解処理されている膜の温度を非接触熱電対((株)キーエンス社製TF−K132)で測定したところ、約90℃であった。加水分解時間は5分であった。
【0060】
スプロケット4a、4bにて解放された膜は、60℃の湯水洗槽を通した後、弛まない程度に簡易巻取り機で約10m巻き取った。この加水分解処理した長尺膜から数箇所サンプリングしてFT−IR測定したところ、全て加水分解は終了していた。厚みは25μmであり、皺や弛みはなかった。
加水分解完了の判定は、以下の方法で行った。
日本分光(株)製FT/IR−300Eを用いた。3cm角の膜サンプルをホルダーにセットして透過法により測定し、1470cm-1付近のエステル伸縮振動に帰属するピークの有無から、加水分解処理が完了したかどうかを判断した。ピークが完全に消失した場合に加水分解処理完了とした。
【0061】
【実施例2】
実施例1と同じイオン交換樹脂前駆体を用いて、厚み100μm、幅15cmの長尺状のイオン交換樹脂前駆体膜を得た。この長尺状の前駆体膜を搬送方向に2.5倍延伸されて小型テンターに導入されるように繰出した。小型テンターの入口幅、中間幅及び出口幅は、各々、7cm、30cm及び25cmに調整し、搬送速度を4cm/minとした。スプロケット8a、8bの近傍において、前駆体膜は膜幅方向に2倍延伸、搬送方向に2倍延伸されていた。
反応部及び湯水洗の条件は実施例1と同じように行い、弛まない程度に簡易巻取り機で約10m巻き取った。この加水分解処理した長尺膜から数箇所サンプリングしてFT−IR測定したところ、全て加水分解は終了していた。厚みは30μmであり、皺や弛みはなかった。
【0062】
【実施例3】
イオン交換樹脂前駆体として、CF2CF2とCF2 =CFO(CF2 )2 −SO2 Fとのフルオロカーボン共重合体を重合した。このイオン交換樹脂前駆体のEWは710、MIは3.0であった。この共重合体をTダイ法により溶融押出製膜を行い、厚み25μm、幅32cmの長尺状のイオン交換樹脂前駆体膜を得た。
この長尺状の前駆体膜を搬送方向に1.5倍延伸されて小型テンターに導入されるように繰出した。この際、簡易繰出し機と小型テンターの入口との間にヒータを備え、ヒータ温度を120℃に設定して、膜温度が80℃になるように設定した。
【0063】
小型テンターの入口幅、中間幅及び出口幅は、各々、26cm、37cm及び33cmに調整し、搬送速度を4cm/minとした。延伸部のヒータの温度は120℃に設定して、膜温度が80℃になるようにした。スプロケット8の近傍にて前駆体膜は膜幅方向に1.5倍延伸、搬送方向に1.2倍延伸されていた。
アルカリ液体の塗布を幅32cmのダイコータを用いて行ったこと以外は、反応部及び湯水洗の条件は実施例1と同じように行い、弛まない程度に簡易巻取り機で約10m巻き取った。この加水分解処理した長尺膜から数箇所サンプリングしてFT−IR測定したところ、全て加水分解は終了していた。厚みは30μmであり、皺や弛みはなかった。
【0064】
【実施例4】
イオン交換樹脂前駆体として、CF2CF2とCF2 =CFO(CF2 )2 −SO2 Fとのフルオロカーボン共重合体を重合した。このイオン交換樹脂前駆体のEWは710、MIは3.0であった。この共重合体をTダイ法にて溶融押出製膜を行い、厚み100μm、幅18cmの長尺状のイオン交換樹脂前駆体膜を得た。
この長尺状の前駆体膜を搬送方向に2.5倍延伸されて小型テンターに導入されるように繰出した。この際、簡易繰出し機と小型テンターの入口との間にヒータを備え、ヒータ温度を120℃に設定して、膜温度が80℃になるようにした。
【0065】
小型テンターの入口幅、中間幅及び出口幅を、各々、9cm、37cm及び33cmに調整し、搬送速度を4cm/minとした。延伸部のヒータの温度は120℃に設定して、膜温度が80℃になるようにした。スプロケット8の近傍にて前駆体膜は膜幅方向に2倍延伸、搬送方向に2倍延伸されていた。
アルカリ液体の塗布を幅32cmのダイコータを用いて行ったこと以外は、反応部及び湯水洗の条件は実施例1と同じように行い、弛まない程度に簡易巻取り機で約10m巻き取った。この加水分解処理した長尺膜から数箇所サンプリングしてFT−IR測定したところ、全て加水分解は終了していた。厚みは30μmであり、皺や弛みはなかった。
【0066】
【発明の効果】
本発明のイオン交換樹脂膜の製造方法を用いることにより、管理及び制御が煩雑で、かつ、大量の産業廃棄物を排出するアルカリ浴への浸漬を行うことなく、イオン交換樹脂前駆体膜の加水分解処理を短時間に行うことができ、皺やたるみのない高品質のイオン交換樹脂膜の連続的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の膜処理装置の一例を示す平面写真。
【図2】図1の膜処理装置の平面模式図。
【図3】図1の膜処理装置の断面模式図。
【図4】膜処理装置に用いられるダイコータの一例を示す斜視図。
Claims (5)
- イオン交換基前駆体を有するイオン交換樹脂前駆体膜を反応液体に接触させることにより、イオン交換基前駆体を加水分解するイオン交換樹脂膜の製造方法であって、
塗布によりイオン交換樹脂前駆体膜を反応液体に接触させ、
前駆体膜の両端を把持して、0.01〜100m/minの速度で連続的に搬送しながら加水分解処理を行うことを特徴とするイオン交換樹脂膜の製造方法。 - 前駆体膜及び/又は加水分解処理されたイオン交換樹脂膜を伸長することを特徴とする請求項1記載のイオン交換樹脂膜の製造方法。
- 前駆体膜を延伸後に反応液体を塗布して加水分解処理することを特徴とする請求項1又は2に記載のイオン交換樹脂膜の製造方法。
- 膜の両端を把持する手段、前記の把持する手段を駆動させて膜を連続的に搬送する手段、膜の両端を把持して搬送しつつ膜に反応液体を塗布する塗工手段を有することを特徴とする請求項1記載のイオン交換樹脂膜の製造方法に使用する膜処理装置。
- 塗工手段が、ダイ先端部に沿って設けられた吐出口から反応液体を吐出して膜に塗布するダイコータであることを特徴とする請求項4記載の膜処理装置。
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