JP4019920B2 - カーボンナノチューブ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、広くはナノサイズの炭素繊維であるカーボンナノチューブに関し、特に結晶性の優れた、長さの長いカーボンナノチューブに関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素原子の六員環が無限に広がった網面一枚をグラフェンといい、このグラフェンを継目のない円筒形に巻いたチューブ形状のカーボンナノチューブが知られている。グラフェン筒が一重のカーボンナノチューブを単層カーボンナノチューブ、複数のグラフェン筒が同心円状に積層しているものを多層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、特異な物性を有していることから、新素材として注目されている。
【0003】
カーボンナノチューブの直径は、単層カーボンナノチューブが0.7nmから通常1〜3nm程度であり、多層カーボンナノチューブは4〜50nm程度である。また、これらのカーボンナノチューブの先端部分は、フラーレン(C60)と同様に五員環が入ることにより閉じているものが多い。これらのものとは別に、そこの抜けたカップがいくつも重なったような形状のカップスタック型のカーボンナノチューブや、竹のように途中に節のあるバンブータイプのカーボンナノチューブがある。また、気相成長法(CVD)で合成されたものには、グラフェンに構造的欠陥が多く、一枚一枚のグラフェン筒が明確でないカーボンナノチューブもある。
【0004】
カーボンナノチューブに関して多くの研究がされており、外径30nm以下の円筒状構造をもつ黒鉛繊維であって、繊維の先端が円錐形状で終わる円筒状黒鉛繊維(例えば、特許文献1参照)や、直径3.5〜75nmの複数の黒鉛質層を有する微細糸状チューブ形態で、長さが直径の2倍以上の炭素フィブリル(例えば、特許文献2参照)や、グラファイト筒が複数同心状に筒中心部まで密に積層しているグラファイト質ナノ繊維(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−11520号公報(段落0005、図2および3)
【特許文献2】
特表平2−503334号公報(第4頁コラム937〜40行)
【特許文献3】
特開2000−327317号公報(第2頁コラム248行〜第3頁コラム32行、図3、4および5)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来は、グラフェン筒の構造が良くて一枚一枚のグラフェン筒が明確に認識できるカーボンナノチューブで長いものを合成することは困難であった。グラフェン筒の構造が良くて一枚一枚のグラフェン筒が明確に認識できることを、結晶性が良いという言葉で一般的に言い表されている。結晶性が良いカーボンナノチューブは、一般にアーク放電法により合成されるといわれているが、従来アーク放電法では、長いものでも1μm程度のカーボンナノチューブしか合成できなかった。
【0007】
気相成長法(CVD)では、長いカーボンナノチューブが合成できるとされているが、長いものはその直径も50nm以上と太いものが多く、結晶性も悪いものであった。結晶性の悪いカーボンナノチューブを熱処理によって、結晶性の良いものに改質することが出来るが、改質のためには3000℃近い温度の熱処理が必要であるばかりではなく(例えば、特許文献2参照)、熱処理を行ってもカーボンナノチューブの長さ方向に、ある一定の確率で発生する層状欠陥を防止することは難しかった。また、熱処理過程において、カーボンナノチューブの長さも短くなってしまい、結晶性が良く、かつ10μmを超える程の長いカーボンナノチューブを得ることは困難であった。
【0008】
ここでカーボンナノチューブの結晶性という言葉の意味について説明する。図9は、カーボンナノチューブ側壁部の六角網面の状態を模式的に表したものである。図9(a)は、アーク法によるカーボンナノチューブの状態を示している。網平面が繊維軸に並行で長く、グラフェン筒を明確に形成しており、その積層間隔も均等なものになっている。
【0009】
一方、CVD法で合成されたカーボンナノチューブの構造は、図9(b)に示すように、小さな網面が断続的に連なった状態であり、繊維軸にほぼ平行に配向しているものの、その面間隔もまちまちなものとなっている。本来、結晶とは、3次元的な原子の配置に規則性がなければならず、網面の積層方向にもある規則的な関係がなければならないが、一般に多層カーボンナノチューブにはその関係はなく、いわゆる乱層構造となっている。
【0010】
よって、厳密な意味で、黒鉛結晶とは異なるが、図9(a)のように、網平面が繊維軸に並行で長く、その積層間隔も均等なものをカーボンナノチューブの結晶性が良いという言葉で表わしている。このように、網平面が繊維軸に並行で長く繋がっているという構造が、強度および熱伝導性や導電性に優れた特性を示す要因となっている。図9(c)、(d)は、CVD法によるカーボンナノチューブを熱処理した際に発生しやすい層状欠陥を表している。図9(c)は、長さ方向途中での層の欠如を、図9(d)は、層の食い違いを示している。
【0011】
カーボンナノチューブのみの集合体は、通常粉末状または塊状もしくは海綿状で得られるが、不純物やバインダーなどを用いずに、純度の高いカーボンナノチューブを薄く、かつミリメートルサイズの広がりを持った膜状物質として形成できれば、取扱いも容易で、電子放出源やセンサーまたは機能性分離膜など広い用途に、容易に使用できるようになる。このような膜状物質を利用上十分な強度を持って形成するためには、結晶性の良い、長いカーボンナノチューブが必要となる。
【0012】
また、カーボンナノチューブを樹脂や金属などに混合して使用する場合においても、結晶性が良く、長いカーボンナノチューブは、同量混入したとしても導電性や強度および熱伝導性など多くの点で短いカーボンナノチューブに比べ、優れた特性を示す。しかしながら、従来は結晶性が良く、長いカーボンナノチューブはなかったため、所定の導電性や強度および熱伝導性などを得るためには、多くのカーボンナノチューブを用いなければならなかった。また、純度の高いカーボンナノチューブから成る膜状物質を利用上十分な強度を持って形成することは出来なかった。
【0013】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、従来のカーボンナノチューブの問題点を解消できる新規物質のカーボンナノチューブを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明のカーボンナノチューブは、
1)アーク放電法により合成された、10μm越の長さを有するものであり、
2)上述1)において、グラフェンから出来た筒が同軸多層構造を有するものであり、
3)グラフェンから出来た筒が同軸多層構造を有するカーボンナノチューブであって、その中心まで密に筒が積層しており、10μm越の長さを有するものであり、
4)グラフェンから出来た筒が同軸多層構造を有し、最外郭の直径が4から30nmのカーボンナノチューブであって、10μm越の長さを有するものであり、5)グラフェンから出来た筒が同軸多層構造を有し、最外郭の直径が4から30nmのカーボンナノチューブであって、その中心まで密に筒が積層しており、10μm越の長さを有するものである。
【0015】
上記1)、2)に係る本発明のカーボンナノチューブは、アーク放電法により合成されたので、グラフェン筒の構造が良くて、一枚一枚のグラフェン筒が明確に認識できる、つまり所謂結晶性の優れたカーボンナノチューブであり、10μm越の長さを有するため、導電性や強度および熱伝導性など多くの点で短いカーボンナノチューブに比べ、優れた特性を示す。また、純度の高いカーボンナノチューブから成る膜状物質を利用上十分な強度を持って形成することができる。
【0016】
さらに、グラフェンから出来た筒が同軸多層構造を有する、所謂多層カーボンナノチューブであるため、熱的、電気的および機械的な強度および耐久性が高く、特に、その中心部まで密にグラフェン筒が積層しているため、電子源として使用した場合に、より多くの電流を流すことができると共に、耐久性も向上する。
これは、電流を流すカーボンナノチューブの有効断面積が増加するためであるが、中心部に空間を持たず、芯まで密にグラフェン筒を積層することにより、カーボンナノチューブの直径を増加させずに有効断面積を増加させることができる。カーボンナノチューブの直径が増加したのでは、その細束性からくるカーボンナノチューブの電界放出特性が劣ってしまう。
【0017】
また、上記3)、4)および5)に係る本発明のカーボンナノチューブは、グラフェン筒が同軸多層構造を有し、10μm越の長さを有するカーボンナノチューブであって、最外郭の直径が4から30nmのものを用いることによって、さらにまた、耐久性および流せる電流値を考慮してその中心まで筒を密に積層することによって、優れた電界放出特性ならびに耐久性を兼ね備えたカーボンナノチューブを得ることができる。なお、カーボンナノチューブの直径は、4から30nmのものが良いが、より望ましくは4から15nmのものがよい。
これは一般的にカーボンナノチューブでは、その直径が細いほど、また長さが長いほど、各種カーボンナノチューブ特有の特徴を強く示すが、実用面からみると、直径が3nm以下の単層カーボンナノチューブでは、その耐久性に問題があり、例えば、これらを電子放出源として使用した場合、低いしきい値電圧で作動するが、高い電流密度は出せず、また、耐久性も低いとの報告がある。本発明は、これを解決したものである。
【0018】
また、本発明のカーボンナノチューブは、
6)カーボンナノチューブの一方、もしくは両方の先端部が、少なくとも最外郭のグラフェンから出来た筒の一部または全部を開放しているものであり、
7)上述3)〜6)におけるカーボンナノチューブをアーク放電法により合成したものであり、
8)上述1)、2)、7)のいずれかにおいて、炭素材料を陰極として陽極電極との間にてアーク放電をおこなうことにより、カーボンナノチューブを合成する際、前記陰極炭素材料は、材質が主として炭素質であるものを用いて合成したものであり、
9)上述1)、2)、7)、8)のいずれかにおいて、炭素材料を陰極として陽極電極との間にてアーク放電をおこなうことにより、カーボンナノチューブを合成する際、前記陰極炭素材料は、その電気抵抗が3500μΩ/cm以上もしくは熱伝導率が52W/mK以下のものを用いて合成したものである。
【0019】
カーボンナノチューブを電界放出の電子源として利用する場合、直径が細く、また長いほど電子放出のしきい値電圧が低くなり好ましい。しかし、耐久性および流せる電流値を考慮した場合、前述のごとく、中心まで密にグラフェン筒が積層したものが良く、かつ、その直径は4から30nm、より望ましくは4から15nmのものがよい。また、電子放出のしきい値電圧に大きな影響を与える他の因子として、カーボンナノチューブの先端性状があり、カーボンナノチューブの先端が、五員環を含むグラフェンによって曲面または円錐状に閉じられていると、端部が破れて開放している場合に比べ、電子放出のしきい値電圧が高くなってしまう。
よって、上記6)に係る本発明のカーボンナノチューブは、一方もしくは両方の先端部において、少なくとも最外郭のグラフェンから出来た筒の一部または全部が開放していることにより、より電界放出特性を向上させることができる。
【0020】
また、上記7)に係わる本発明のカーボンナノチューブは、アーク放電法により合成されたものであり、グラフェン筒の構造が良くて、一枚一枚のグラフェン筒が明確に認識できる、つまり所謂結晶性の優れたカーボンナノチューブであり、上記の特性に加え、導電性や強度および熱伝導性など多くの点で優れた特性を示す。
【0021】
上記8)に係る本発明のカーボンナノチューブでは、アーク放電により生成されるカーボンナノチューブであり、主として陽極炭素電極から発生した炭素蒸気および炭素イオンが陰極側に拡散し、陽極より温度の低い陰極電極表面にて凝縮することによりカーボンナノチューブ(特に多層カーボンナノチューブ)が合成される。そのため、陰極の温度は低い方がカーボンナノチューブの成長速度が速く、陰極材料は、耐熱性伝導材料であれば炭素材料である必要もないとされていた。しかしながら、陰極に用いる炭素材質により、合成されるカーボンナノチューブの性状が大きく影響されることを本発明者は確認し、炭素材料を陰極として陽極電極との間にてアーク放電を行うことによりカーボンナノチューブを合成する際、陰極炭素材料の材質を主として炭素質であるものを用いて合成した場合には、黒鉛質の炭素材料を陰極に使用した場合に比べ、カーボンナノチューブの合成量が多く、また、カーボンナノチューブの長さが著しく長くなることが分かった。
【0022】
この場合、合成されたカーボンナノチューブは長く、ほとんどのカーボンナノチューブが、10μm越えの長さを有している。さらに、別途実施した詳細なSEM観察の結果、半数以上のものが25μm越えの長さを有し、50μm越えのものも多数観察された。
ここでいう炭素質とは、黒鉛質と対比した意味で、結晶の発達程度の低い炭素を意味しており、黒鉛質に比べ、結晶子のサイズは小さく、その配列の度合いおよび層面の積み重なりの規則性などが劣っているものである。
【0023】
また、上記9)に係るカーボンナノチューブでは、室温においてその電気抵抗率を3500μΩ・cm以上、熱伝導率を52W/mK以下とすることにより、これらの特性を有する炭素材料を陰極として使用した場合、アーク発生部の陰極電極は、アーク放電時に高い電流密度であるので、電気抵抗発熱のため陰極点近傍が高温度となる。また、熱伝導率が低いため、陰極点近傍の狭い範囲が高温に長時間保たれることになる。そのため、陰極の温度がカーボンナノチューブが生成されやすい温度範囲となり、合成量が高く、かつ長さの長いカーボンナノチューブを生成することができた。
【0024】
表1に、各種炭素電極を陰極に用い、アーク放電を行った際のカーボンナノチューブの合成量と合成されたカーボンナノチューブの長さについて調べた結果を示す。放電条件は、大気圧下、大気雰囲気中にて直径10mmの棒状炭素陽極と直径36mmの炭素陰極を対向させ、両者間で直流アーク放電を一定時間行った後、陰極に付着した生成物中のカーボンナノチューブの合成量およびその長さを調べたものである。10μm越えの長さを有するカーボンナノチューブを含むものを「長い」とした。この結果よりわかるように、電気抵抗率(固有抵抗)が3500μΩ・cm以上、熱伝導率を52W/mK以下の陰極炭素電極において、長さの長いカーボンナノチューブが合成される。また、望ましくは、電気抵抗率(固有抵抗)が4000μΩ・cm以上、熱伝導率を40W/mK以下の炭素材料を陰極電極として用いることにより、カーボンナノチューブの合成量も多くすることができる。表1の実験範囲内では、陰極炭素電極の電気抵抗率(固有抵抗)は大きいほど、また熱伝導率は小さいほど、長さの長いカーボンナノチューブが多く合成されたが、電気抵抗率(固有抵抗)が50000μΩ・cm以上、熱伝導率を10W/mK以下の炭素材料を陰極電極として用いると、アーク点弧時におけるアーク発生不良の頻度が上昇し、また、アークの安定性も劣るため、陰極炭素電極の電気抵抗率(固有抵抗)は50000μΩ・cm以下、および熱伝導率は10W/mK以上が望ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
なお、一般的に炭素材料は、製造時の熱処理温度により、その構造、組織、機械的特性や物性などが大きく異なる。カーボンナノチューブの生成に重要な影響をもたらす因子として、電気抵抗値(固有抵抗)および熱伝導率が考えられ、熱処理温度の比較的低い炭素質の炭素材料では、黒鉛化(結晶化)度が低いため、電気抵抗値(固有抵抗)が高く、熱伝導率の低いものとなる。通常電極用として使用されている炭素電極の電気抵抗値は500から2000μΩ・cm程度の範囲であり、熱伝導率は、50から200W/mKの範囲にある。
【0027】
さらに、本発明のカーボンナノチューブは、
10)上述1)、2)、7)〜9)のいずれかにおいて、炭素材料を陰極として陽極電極との間にてアーク放電をおこなうことにより、カーボンナノチューブを合成する際、陰極と陽極の相対位置を移動させながら合成したものであり、
11)上述1)、2)、6)〜10)のいずれかにおいて、炭素材料を陰極として陽極電極との間にてアーク放電をおこなうことにより、カーボンナノチューブを合成する際、陰極材料全体もしくは陰極炭素材料のアーク放電部を予熱してから合成したものであり、
12)上述1)、2)、7)〜11)のいずれかにおいて、炭素材料を陰極として陽極電極との間にてアーク放電をおこなうことにより、カーボンナノチューブを合成する際、中空の陽極電極の内部から陰極電極に向けて供給されるアルゴンガス等の不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの流れに沿ってアークを発生させながら合成したものであり、
13)上述1)、2)、7)〜12)のいずれかにおいて、アーク放電を大気雰囲気中にて行わせ、合成したものである。
【0028】
カーボンナノチュブの合成方法において、アークが集中した中心部に高純度のカーボンナノチューブから成る生成物が得られるが、常に同一場所にて放電を行うと、徐々に単位時間当りのカーボンナノチューブの合成量が低下してくると共に、カーボンナノチューブの長さも短いものとなってくる。これは、合成されたカーボンナノチューブが長時間アークに曝されるため、カーボンナノチューブの合成過程と分解過程が同時に進行してくるためであると考えられる。
そこで、上記10)に係る本発明のカーボンナノチューブは、両電極の相対位置を連続的に移動させ、アークの陰極点を陰極材料上で連続的に移動させることにより、適正な移動速度においては常に単位時間当りのカーボンナノチューブの合成量を最大にすることが出来るとともに、より長いカーボンナノチューブを合成することができた。
【0029】
本発明者は、先に示したように、陰極に用いる炭素材質によって、合成されるカーボンナノチューブの量および性状が大きく影響されることを確認した。さらに、アーク放電時の陰極材質の温度がある温度以上に保つことが、合成量の多い、かつ長さの長いカーボンナノチューブを生成する上で重要であることを確認した。
そこで、上記11)に係る本発明のカーボンナノチューブは、陰極電極全体、もしくはアークの陰極点またはアーク前方の陰極電極上を部分的に加熱しながらアーク放電を行うことにより、合成量の多い、かつ長さの長いカーボンナノチューブを合成できた。
【0030】
一般にアーク放電では、その陰極点は電子放出能の高い個所に選択的に発生する。しかし陰極点がしばらく発生するとその個所の電子放出能が弱まるため、より電子放出能の高い別の個所に陰極点が移動する。このように従来のアーク放電では、陰極点が激しく不規則に移動しながらアーク放電が行われる。さらに、場合によっては、陰極点が陽極対向位置から大きくずれ、電源の負荷電圧容量を上回り、アークが消弧してしまうこともある。このように、陰極点が激しく移動するアーク放電では、陰極のある一点を見た場合、その温度および炭素蒸気密度などの化学的因子が時間的に大きく変動することになる。このため、ある期間はカーボンナノチューブが合成されやすい条件となるが、別の期間ではカーボンナノチューブが合成されにくい条件となるか、カーボンナノチューブが分解されやすい条件となり、結果としてカーボンナノチューブの合成量が少なく、不純物を多く含むカーボンナノチューブが陰極点発生位置全体に合成されることになる。
【0031】
また、アーク放電法では10μmを超えるような長いカーボンナノチューブは合成できなかった。このため、従来技術では、アークの安定とカーボンナノチューブの合成量を増加させるために、密閉容器内の雰囲気ガス種および圧力を適正に選定・制御する手法が採られていた。
しかしながら、密閉容器内の雰囲気ガス種および圧力の調整のみでは、アークの陰極点を完全に固定することは難しく、多くの不純物とカーボンナノチューブの混合体としての陰極堆積物しか回収することはできなかった。また、10μmを超えるような長いカーボンナノチューブは合成できなかった。
【0032】
そこで、上記12)に係る本発明のカーボンナノチューブでは、陽極電極に中空電極(Hollow electrode)を用い、中空電極の内部から陰極電極に向けてアルゴンガス等の不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けることにより、ガスの電離度が高くなってガス噴出経路にアークが発生しやすい条件を形成させ、また、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガと接している中空電極内部表面に安定した陽極点を形成せしめることができた。このため、アーク発生経路が拘束され、陰極電極上のアーク陰極点の不規則な移動が防止され、その結果、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブを効率的に合成することができ、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)で合成量の多い、かつ長さの長いカーボンナノチューブを合成物することができた。
【0033】
また、一般に、アーク放電を起こすためには、電極間空間を電離する必要がある。原子の電離には、種々の過程があるが、アーク放電においては、電子との衝突による電離過程が支配的である。また、原子番号の小さいHe、Neは除き、Ar、Kr、Xeなどの不活性ガスは、電子との衝突による電離能率が高く、アークを発生しやすい空間を提供する。
上記13)に係る本発明のカーボンナノチューブは、酸素、窒素等に比べ電離能率が高いAr、Kr、Xeなどの不活性ガス、もしくは不活性ガスを含む混合ガスを、大気雰囲気中にて陽極電極から陰極電極に向けて供給しながらアーク放電を行うことによって、アークをガス流路に沿って集中して発生させることができ、陰極点を安定化させることができる。この結果、合成量の多い、かつ長さの長いカーボンナノチューブを合成することができた。
【0034】
【発明の実施の形態】
[実施の形態1]
図1(a)、(b)は、本実施の形態1における、合成されたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。 図1(a)は陰極堆積物の中心部のSEM写真、図1(b)はカーボンナノチューブの拡大SEM写真である。
本実施の形態において、陽極電極として、外径36mm、内径10mmの中空電極を用い、大気圧下、大気雰囲気中で電流500A、電圧35V(アーク長約5mm)にて1分間アーク放電を行った。電極間の相対移動は行わず、1分間のアーク放電を行ったところ、陰極電極に数10mgのカーボンナノチューブが得られた。中空電極内から送給したガスは3%の水素を含むアルゴンガスで、流量は10リットル/分である。
【0035】
図1(b)に見られるように、合成されたカーボンナノチューブは長く、ほとんどのカーボンナノチューブが、10μm越えの長さを有している。さらに、別途実施した詳細なSEM観察の結果、半数以上のものが25μm越えの長さを有し、50μm越えのものも多数観察された。
中空電極内部から送給するガスは、純アルゴンもしくは20%程度の水素ガスやヘリウムガスを混入した混合ガスを用いたがアーク形態に大きな変化は見られなかった。適正ガス流量は、電極穴の断面積に影響され、穴の断面積1mm2 当り10〜400ml/分が適正であった。
【0036】
[実施の形態2]
図2は本実施の形態2における、カーボンナノチューブの合成方法を示す説明図である。図2における2Aは陰極電極、11は陽極電極、3はアーク、31Aはカーボンナノチューブが複雑に絡み合って形成された膜状物質である高純度CNTテープを示す。
図2において、陽極電極11としては外径10mm、内径4mmの中空炭素電極を用い、陰極電極2Aとして直径35mmの円柱状炭素電極を用いた。陰極電極2Aを回転させるとともに、陽極電極(中空電極)11を陰極電極2Aの軸方向に直線的に移動させて、陰極電極2A上に螺旋を描く形で陰極点を移動させた。陰極電極2Aの回転速度は1.5回転/分であり、陽極電極(中空電極)11の移動速度は、35mm/分である。また、アーク放電は、大気圧下、大気雰囲気中で行い、中空電極内から送給したガスには純アルゴンガスを用い、流量は1リットル/分とした。放電条件は、電流100A、電圧20V(アーク長約1mm)である。陰極電極2Aに用いた炭素材料は、電気抵抗率が4200μΩ・cmの炭素質炭素材料である。
【0037】
アーク放電後、陰極電極2A上で陰極点が移動した螺旋状の位置に、幅2〜3mm程度、厚さ10〜100μm程度のテープ状の物質、高純度CNTテープ31Aが合成され、一部に自然剥離する現象が観察された。
【0038】
本実施の形態における、合成されたカーボンナノチューブは、直径に比し、長さが極めて長く、かつ、丸まったりして複雑に絡み合って陰極堆積物を構成しているので、その長さを定量的に評価することは困難である場合が多い。そこで、陰極堆積物に外力を与えて引きちぎり、その破断部における、引き伸ばされたカーボンナノチューブの長さを、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。
図3は、引きちぎられて引き伸ばされたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
端部のカーボンナノチューブは、外力によりほぼ直線状に引き伸ばされ、切断されたものと考えられる。切断されたカーボンナノチューブの長さは、1本のカーボンナノチューブと同定できる部分だけでも50μmを越える長さのものも有り、かつ、破断部の両方の端部に同様なものが観察されるので、実際の長さは、50μmの倍以上、つまり100μm以上に及ぶものも存在すると考えられる。本実施の形態2においては、螺旋状に連続合成された高純度CNTテープ31Aは、上述のように陰極電極2Aの表面から自然剥離ないし容易に剥離することができ、カーボンナノチューブ繊維の連続性を期待することができる。実質、本実施の形態2においては、高純度CNTテープ31Aは、陰極電極2Aの円周長さ約1/2乃至3周分切断なしで連続生成することができた。従って、本実施の形態2において合成されたカーボンナノチューブの長さと直径の比(以下、アスペクト比という)と、前記実施の形態1におけるカーボンナノチューブのアスペクト比約3000〜20000に対する割合Kは、生成可能な連続長さの割合と仮定すれば約10〜100倍程度になる可能性が認めらる。
また、本実施の形態におけるアスペクト比は、その合成条件を適宜選択することにより大幅に増加向上させることが可能であり、また、前記の相対移動に対し集中アーク角度を移動方向に所定角度傾け合成することによって、より好ましい増加向上を図ることができる。
さらにまた、上記剥離性の特徴と相俟って相対移動を、平面を対象するものとすることも容易に行い得る。
【0039】
[実施の形態3]
図4は、本実施の形態3における、カーボンナノチューブの合成方法を示す説明図であり、図中前述の実施の形態2の図2と同じ部分には同一の符号を付してあり、説明を省略する。
図4において、陰極電極2Aに交流電流5を通電し、陰極電極2Aを500℃〜2000℃に予熱した。その他の合成条件は前記実施の形態2におけるものと同じである。本実施の形態により合成の結果、テープ状カーボンの合成量を大幅に増加させることができた。
【0040】
図5は、本実施の形態3において合成されたテープ状物質の外観写真を示す。図5から分かるように、合成されたテープ状物質は、ミリメートルサイズの広がりを持った膜状で、しなやかに撓む可撓性と、取扱い上十分な強度を有している。
【0041】
図6は、本実施の形態3において合成された陰極堆積物のSEM写真を示す。図6において、合成された陰極堆積物は、ほとんど全て長いカーボンナノチューブにより構成されており、その長さは、先に示した実施の形態1における静止アークの場合に比し、ほとんどのものが10μm越えの長さを有しており、50μm越えのものも多く、前記生成物の剥離性の特徴と相俟って、生成条件により前記実施の形態1におけるアスペクト比に対するアスペクト比の割合Kが20〜300倍にも及ぶ可能性があることが予想される。
【0042】
図7は、本実施の形態3において合成されたテープ状物質の構成物であるカーボンナノチューブのTEM写真を示す。
図7から分かるように、合成されたカーボンナノチューブは、ほぼ完全なグラフェン筒による同軸多重構造を示している。また、詳細な調査の結果その直径は4〜30nmであり、4〜15nmのものが全体のほぼ90%を占めていた。
また、図8(a)、(b)は、図7のカーボンナノチューブ先端構造および中実構造の説明図である。
図8(a)は、カーボンナノチューブ先端のグラフェン筒が完全に開いたもの、図8(b)はカーボンナノチューブ先端の外周部のグラフェン筒が開いており、かつ内部までグラフェン筒の詰まった構造のものであり、これらが混在しているのが観察された。
【0043】
上述のごとく、本発明においては、結晶性が優れ、かつ10μm越えの長さを有する長いカーボンナノチューブが大量に密集して合成されているために、図4に示されるような可撓性を有する薄い膜状の長いテープ物質が形成し得たものと考えられる。
【0044】
従来、カーボンナノチューブのみの集合体は、粉末状または塊状もしくは海綿状で得られるが、不純物やバインダーなどを用いずに、または、基板上に合成するなどの方法を用いずに、純度の高いカーボンナノチューブを薄く、かつミリメートルサイズの広がりを持った膜状物質単体として、かつ利用上十分な強度を持って形成することはできなかった。
これに対し、本発明のカーボンナノチューブは、結晶性が優れ、かつ長さが10μmを越えると考えられる長いものを含む、高純度のカーボンナノチューブで構成されていることにより、極めて優れたテープ状物質を初めて実現できたものである。
【0045】
【発明の効果】
本発明の カーボンナノチューブは次のような効果を有する。
1.結晶性が良く、かつ長さの長いカーボンナノチューブが合成されることにより、不純物やバインダーなどを用いずに、純度の高いカーボンナノチューブを薄く、かつミリメートルサイズの広がりを持った膜状物質として形成できるようになった。この膜状物質は、可撓性と利用上十分な強度を持っているため、取扱いも容易で、電子放出源やセンサーまたは機能性分離膜など広い用途に、容易に使用できるようになる。
2.本発明の結晶性が良く、長いカーボンナノチューブを樹脂や金属などに混合して使用することにより、従来の短いカーボンナノチューブに比べ同量混入したとしても導電性や強度および熱伝導性などに、より優れた特性を示す。
【0046】
3.本発明の直径が細く、長さが長いカーボンナノチューブであることによる特性により、その具体的利用技術として、以下のものが考えられる。
(イ)本カーボンナノチューブの細束性および結晶性が優れている特性により、電界放出用電子源として、蛍光表示管やフィールドエミッションディスプレイ(FED)などの陰極材料および電子顕微鏡の探針などへの利用、
(ロ)本カーボンナノチューブを電子源として用いることにより、効率の良いイオンやオゾンの発生装置の作成、およびこれらのイオンやオゾンによる脱臭や消臭効果、特にマイナスイオンによる人の心理面、生理面への良好な波及効果、
なお、上記(イ)、(ロ)については、直径が細いことが望ましい。
(ハ)本カーボンナノチューブの優れた結晶性による高強度が、理論的には鉄の100倍以上の引張強度を有し、かつ、比重はアルミニウムの約半分であるため、樹脂や金属に混入したり、複合化することにより、軽くて強度の高い構造材料の提供。
【0047】
(ニ)また、本カーボンナノチューブが、形状が比較的均一で細く、長い特徴により、マイクロマシンの構造部材やアクチュエータの構成部品としての利用、
(ホ)本カーボンナノチューブが、導電性が優れていることにより、ICの配線材料としての利用、また、樹脂や繊維に混入することにより、これらの物質に導電性を持たせたり、静電気の帯電防止機能を持たせること、塗料に混入させた導電性塗膜や導電性インクへの利用、
また、これらのものは、導電性を必要とする部材に利用以外の、電磁波の反射損失や誘電損失に基づく電磁波吸収・遮蔽材としても利用、
【0048】
(ヘ)また、二次電池の負極材料に混入させることにより、負極導電性の経年劣化の防止、
(ト)さらに、グリスに混入させることにより、グリスに導電性を持たせると共に、通電部でのグリスの性能劣化の防止対策、
(チ)ダイヤモンド以上の熱伝導性を有することにより、ICなどの放熱材としての利用、また、放熱材として利用する場合は、単体として、または、樹脂や金属に混入したものとしての適用、
(リ)アルミ板などの表面に塗布もしくは貼り付けることにより放熱特性の大きな部材への適用、
(ヌ)さらに、ナノサイズのきわめて小さな構造体である本カーボンナノチューブは、量子効果を利用したダイオードやトランジスタ、および量子コンピュータの基本素子である量子ドットなどの電子部品の材料としても利用。
【0049】
4.また、本発明のカーボンナノチューブは、その集合体として下記の利用効果を有する。
(a)比較的均一なナノサイズの直径の長さが長い本カーボンナノチューブが複雑に絡み合ったカーボンナノチューブ集合体は、その密集度から決まるある大きさの空間を有しているため、特定の大きさを有する物質を選別するためのフィルターや分離膜としての利用、
(b)また、その単位重量あたりの表面積の大きさは、活性炭をも凌ぐものであり、有害物質の吸着材や、水素やメタンなどのガス貯蔵材としての利用、
(c)特定ガスを検出するガスセンサなど機能材料としての利用、
(d)さらに、触媒の担持材として利用することによって、各種化学反応の効率の向上、
(e)さらには、医療分野等において、薬剤等を吸着・保持させて体内の病巣部へ運搬するキャリヤーとして利用、その他、キャパシターの電極材料としての利用。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(a)、(b)は、本実施の形態1において、合成されたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図2】 実施の形態2における、カーボンナノチューブの合成方法を示す説明図である。
【図3】 引きちぎられて引き伸ばされたカーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図4】 実施の形態3における、カーボンナノチューブの合成方法を示す説明図である。
【図5】 実施の形態3において合成されたテープ状物質の外観写真を示す。
【図6】 実施の形態3においてる合成されたテープ状物質のSEM写真を示す。
【図7】 実施の形態3において合成されたテープ状物質の構成物であるカーボンナノチューブのTEM写真を示す。
【図8】 図8(a)、(b)は、図7のカーボンナノチューブ先端構造および中実構造の説明図を示す。
【図9】 カーボンナノチューブ側壁部の六角網面の状態を模式的に表したものであり、図9(a)は、アーク法によるカーボンナノチューブの状態を、図9(b)は、小さな網面が断続的に連なった状態を、図9(c)は、長さ方向途中での層の欠如を、図9(d)は、層の食い違い状態を示す。
【符号の説明】
2A 陰極電極、3 アーク、31A 高純度CNTテープ、11 陽極電極、5 交流電源。
Claims (1)
- 陽極電極として中空電極を使用し、該中空電極の中空部から陰極電極に向かってアルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)又はキセノン(Xe)からなる不活性ガスを流しながらアーク放電をおこない合成された、グラフェンから出来た筒が同軸多層構造を有し、最外郭の直径が4から30nmのカーボンナノチューブであって、10μm越の長さを有することを特徴とするカーボンナノチューブ。
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