JP3861857B2 - カーボンナノチューブテープの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カーボンナノチューブテープの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
カーボンナノチューブ(CNT)は、2つの炭素材料の間にてアーク放電を行うことにより得られるもので、炭素原子が6角形に規則正しく並んだグラフェンシートが円筒形に丸まったものがカーボンナノチューブ(CNT)であり、グラフェンシートの筒が一重のものが単層カーボンナノチューブ(SWCNT)で、その直径はおよそ1〜数nmである。また、グラフェンシートの筒が同心状に何重も重なっているものが多層カーボンナノチューブ(MWCNT)で、その直径は数nm〜数十nmである。単層カーボンナノチューブは、従来は触媒金属を含有したカーボン電極を用いるかもしくは触媒金属を陽極電極に埋め込んで、アーク放電することによって合成している。なお、ここでいう炭素材料とは、炭素を主成分とする非晶質または黒鉛質などの導電性材料である(以下同じ)。
【0003】
いずれにせよ、従来より2つの炭素材料の間にてアーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブ(CNT)を合成する技術が種々提案されている。例えば、密閉容器内にヘリウムまたはアルゴンを満たし、密閉容器内の圧力を200Torr以上としてカーボン直流アーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブを製造する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、密閉容器内にヘリウムを満たし、密閉容器内を加熱し、その内部温度を1000〜4000℃にするとともに、その温度を制御した中で炭素棒からなる放電電極間で直流アーク放電を行うことによって、長さと直径の分布のそろったカーボンナノチューブを製造する技術が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
また、(a)陰極堆積物を回分式から連続式に回収できるようにすること、(b)陰極堆積物の成長に伴うアークの不安定性を回避できるようにすること、(c)陰極堆積物がアークに長時間曝されることによる収率低下を防止できるようにすること、(d)陰極表面の広い領域にカーボンナノチューブを生成できるようにすること、を目的として、不活性ガスで満たされた密閉容器内に水平方向に配置された対向する電極間でアーク放電を行うとともに、電極を相対的にかつ連続的または間欠的に回転又は往復移動させることによってカーボンナノチューブを製造する技術が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
また、空気、酸素、窒素から選ばれる少なくとも1種類以上のガスを含む雰囲気中において、アークを放電させ、円盤状の陰極を連続的に、あるいは間接的に回転させながら、陰極にグラファイト質繊維を形成させる技術が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平6−280116号公報
【特許文献2】
特開平6−157016号公報
【特許文献3】
特開平7−216660号公報
【特許文献4】
特開2002−88592号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、カーボンナノチューブは、アーク放電が行われている部分の陰極側のカーボン電極に堆積する炭素原子からなる物質内もしくはアーク周辺部に付着した煤の一部に生成される。しかしながら、前記従来例のカーボンナノチューブの製造方法によれば、生成物中にカーボンナノチューブ以外の黒鉛、非晶質カーボンなどが混在するのを避けられず、カーボンナノチューブそのものの割合は低いものであった。
【0009】
すなわち、一般のアーク放電では、その陰極点は電子放出能の高い個所に選択的に発生する。しかし陰極点がしばらく発生するとその個所の電子放出能が弱まるため、より電子放出能の高い別の個所に陰極点が移動する。このように一般のアーク放電では、陰極点が激しく不規則に移動しながらアーク放電が行われる。さらに、場合によっては、陰極点が陽極対向位置から大きくずれ、電源の負荷電圧容量を上回り、アークが消弧してしまうこともある。このように、陰極点が激しく不規則に移動するアーク放電では、陰極のある一点を見た場合、その温度および炭素蒸気密度などの化学的因子が時間的に大きく変動することになる。このため、ある期間はカーボンナノチューブが合成されやすい条件となるが、別の期間ではカーボンナノチューブが合成されにくい条件となるか、カーボンナノチューブが分解されやすい条件となり、結果として不純物を多く含むカーボンナノチューブが陰極点発生位置全体に合成されることになる。ここで、カーボンナノチューブが分解とは、カーボンナノチューブの生成機構自体が未だ不明な点が多く、断定できないが、ある温度範囲では、炭素がカーボンナノチューブの構造でいるより、グラファイトやアモルファスカーボンの形でいる方が安定な場合、カーボンナノチューブがグラファイトやアモルファスカーボンに構造変化を起こす現象や、かなりの高温下では、生成したカーボンナノチューブを構成している炭素原子の一郡(クラスタ)が放出されて、カーボンナノチューブが崩壊していく現象をいう。なお、カーボンナノチューブの生成過程自体も高温で行われるので、この生成過程においても前記のようなクラスタ放出が起きているものと考えられるが、カーボンナノチューブの生成に最適な温度では、カーボンナノチューブの生成速度が崩壊速度(クラスタ放出速度)を上回り、カーボンナノチューブが合成されるものと推察される。
【0010】
したがって、従来は、アークの安定とカーボンナノチューブの合成割合を増加させるために、前記のようにアーク放電装置を密閉容器内に設け、密閉容器内の雰囲気ガス種および圧力や密閉容器内の温度を適正に選定・制御する手法が取られていた。
【0011】
しかしながら、密閉容器内の雰囲気ガス種および圧力や密閉容器内温度の調整のみでは、アークの陰極点を完全に固定することは難しく、依然として多くの不純物とカーボンナノチューブの混合体である陰極堆積物もしくは煤状物質としてしか回収することができなかった。そのため、結果的にカーボンナノチューブの収率が低下するとともに、カーボンナノチューブの純度を高めるために複雑な精製作業を行わなければならず、カーボンナノチューブの製造コストを増加させる原因となっていた。さらに、装置が大型化し、設備費用がかさむとともに、アーク放電によるカーボンナノチューブの大量合成を難しいものとしていた。
【0012】
また、既述したようにカーボンナノチューブを連続的に高収率または高密度にて製造するために、電極の相対移動を行う方法が提案されているが、従来は依然として不純物の多い陰極堆積物を連続的に回収することが主目的であった。相対速度を高速化することによって、高密度のカーボンナノチューブが得られる場合もあるが、その厚さは100μm前後であり、刃状の剥ぎ取り器などを用いても、回収することは容易ではない。さらに従来の移動方法では、同一場所を何度も移動させるため、陰極の温度が徐々に上昇し、アーク発生点の温度履歴が変化する。このため、安定してカーボンナノチューブを高純度、高収率にて製造することができなかった。
【0013】
また、カーボンナノチューブの細束性および高結晶性により、電界放出用電子源として、蛍光表示管やフィールドエミッションディスプレイ(FED)などの陰極材料および電子顕微鏡の探針などへの利用が考えられているが、従来のカーボンナノチューブは、不純物を多く含む粉末状または塊状でしか得られないため、精製工程が煩雑で、取扱いや加工が煩雑であった。
【0014】
また、カーボンナノチューブは、圧縮または液体に浸した後乾燥させるとお互いがファンデルワールス力で結集する性質があり、精製過程でのすり潰し工程や酸溶液での処理工程などで、カーボンナノチューブが塊状や太い束状となってしまい、カーボンナノチューブの細束性が失われてしまう。このように、カーボンナノチューブが塊状や太い束状となって、その細束性が失われると、電界放出用電子源としての性能が著しく劣化する。
【0015】
また、アーク放電により合成されたカーボンナノチューブは、一般には熱分解法で合成されたカーボンナノチューブに比べ結晶性がよく高品質であるが、アークの温度が高いために、このアーク法を用いてシリコン等の基板上に直接膜状のカーボンナノチューブを合成することができず、熱分解法を用いるか、アーク法で作られた粉末状のカーボンナノチューブを薄く広げ、何らかの方法で貼り付ける必要があった。しかし、熱分解法では高品質のカーボンナノチューブは得られないし、従来のアーク放電法で作られた粉末状のカーボンナノチューブを用いる場合は、膜上のカーボンナノチューブの分布にムラができる等の問題があった。
【0016】
さらに、粉末状または塊状のカーボンナノチューブを例えば電界放出用電子源として均一に基板や電極上に貼り付けるために、カーボンナノチューブを導電性ペースト(例えば銀ペーストなど)に分散させた状態で、基板や電極上に塗布し、乾燥・焼成を行った後、表面にカーボンナノチューブを露出させるために、研磨処理またはレーザ光やプラズマで処理する方法が用いられているが、電界放出用電子源として安定した品質を得ることは難しく、また工程も複雑、高度になり製造コストを増加させてしまうという問題があった。
【0017】
本発明は除々の点に鑑み、カーボンナノチューブテープを密閉容器等を用いることなく大気雰囲気中にてアーク放電法で容易に製造できるようにすること、を目的とする。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、アーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブを合成する際に、陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から、炭素材料からなる陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高い不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けながら、その間にアークを発生させることで、アーク発生経路を拘束し、同時に両電極の相対位置を移動させることにより、アークの陰極点を陰極材料上で移動させることを特徴としている。
【0026】
この請求項1の発明のように、陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高いアルゴンガス等の不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けると、ガスの電離度が高くなってガス噴出経路にアークが発生しやすい条件が形成される。また、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスと接している中空電極内部表面が安定した陽極点を形成せしめるものと考えられる。このため、アーク発生経路が拘束され、陰極電極上のアークの陰極点の不規則な移動が防止される。その結果、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブを優先的に合成することができ、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブの合成物を製造することができる。しかし、常に同一場所にて放電を行うと、徐々に単位時間当りのカーボンナノチューブの合成量が低下してくる。これは、合成された多層カーボンナノチューブが長時間アークに曝されるため、多層カーボンナノチューブの合成過程と分解過程が同時に進行してくるためであると考えられる。そこで、両電極の相対位置を移動させ、アークの陰極点を陰極材料上で移動させることにより、適正な移動速度においては常に単位時間当りの多層カーボンナノチューブの合成量を最大にすることができる。また、原料炭素材料や不純物である黒鉛や非晶質カーボンの塊とカーボンナノチューブとの熱膨張率の相違により、その冷却過程において、カーボンナノチューブがテープ状に剥離現象を起こし、多層カーボンナノチューブの回収がいたって容易となる。そして、このようにテープ状に剥離回収されたカーボンナノチューブは、あらゆる基板上に簡単に貼り付けることが可能となる。つまり均一かつ高密度の多層カーボンナノチューブを基板上に簡単に貼り付けることができる。
【0028】
本発明の請求項2に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、アーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブを合成する際に、陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から、炭素材料からなる陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高い不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを、触媒となる金属粉末または金属化合物粉末と共に吹付けながら、その間にアークを発生させることで、アーク発生経路を拘束し、同時に両電極の相対位置を移動させることにより、アークの陰極点を陰極材料上で移動させることを特徴としている。
【0029】
この請求項2の発明のように、陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から、陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高いアルゴンガス等の不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを、触媒となる金属粉末または金属化合物粉末と共に吹付けると、ガスの電離度が高くなってガス噴出経路にアークが発生しやすい条件が形成される。また、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスと接している中空電極内面に陽極点が安定して形成される。これによりアーク発生経路が拘束されて、陰極電極上のアークの陰極点の不規則な移動が防止される。そしてこの固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブを優先的に合成することができる。この段階で、前記請求項1の発明では電極のみでのアーク放電となっているため、多層のカーボンナノチューブしか合成できないのに対し、この請求項2の発明では中空電極の内部から陰極電極に向けて吹付ける不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスと共に、触媒となる金属粉末または金属化合物粉末を吹付けているため、触媒がアーク熱により超微粒化し、それが核となり、そこから単層のカーボンナノチューブが成長していく。つまり、固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブの合成物を製造することができる。そして、両電極の相対位置を移動させ、アークの陰極点を陰極材料上で移動させることにより、適正な移動速度においては常に単位時間当りの単層カーボンナノチューブの合成量を最大にすることができる。また、不純物である黒鉛や非晶質カーボンの塊とカーボンナノチューブとの熱膨張率の相違により、その冷却過程において、カーボンナノチューブがテープ状に剥離現象を起こし、単層カーボンナノチューブの回収がいたって容易となる。そして、このようにテープ状に剥離回収されたカーボンナノチューブは、あらゆる基板上に簡単に貼り付けることが可能となる。つまり均一かつ高密度の単層カーボンナノチューブを基板上に簡単に貼り付けることができる。なお、ガスと共に陰極電極に向け吹付けられる金属粉末の粒子はできる限り細粒化することが望ましい。
【0030】
本発明の請求項3に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、両電極の相対位置の移動によって、アークの陰極点を陰極材料表面上で速度10mm/分〜1000mm/分の範囲で相対移動させることを特徴としている。
【0031】
両電極の相対移動速度が10mm/分未満の極めて遅い移動では、陰極表面の温度履歴に影響する因子を種々変化させても、適正な範囲の温度履歴を得ることは難しかった。つまり、所定のピーク温度が得られるようにアーク入熱などを設定すると、その後の冷却速度が著しく低下するため、生成されたカーボンナノチューブが長時間高温に曝され、純度が低下する。また、相対移動速度を1000mm/分超とした場合も、同様に適正な範囲の温度履歴を得ることは難しかった。つまり、たとえば所定のピーク温度が得られるようにするためには、単位時間あたりのアーク入熱を大きく設定しなければならず、そうすると陽極の消耗が著しくなり、長時間の運転は困難となる。また、ピーク温度付近での滞留時間が短くなり、生成されるカーボンナノチューブの厚みも極端に薄くなって、テープ状物質が生成されなくなる。前記請求項3の発明のように、両電極の相対位置の移動によって、アークの陰極点を陰極材料表面上で速度10mm/分〜1000mm/分の範囲で相対移動させることで、良好なカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を生成することができる。
【0034】
本発明の請求項4に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、アーク放電を、大気雰囲気中にて行なわせることを特徴としている。
【0035】
アーク放電を起こすためには、電極間空間を電離する必要がある。原子の電離には、種々の過程があるが、アーク放電においては、電子との衝突による電離過程が支配的である。一般に、原子番号の小さいHe、Neは除き、Ar、Kr、Xeなどの不活性ガスは、電子との衝突による電離能率が高く、アークを発生しやすい空間を提供する。Ar、Kr、Xeなどの不活性ガスは、酸素、窒素等に比べ電離能率が高いので、請求項4の発明のように、大気雰囲気中にて陽極電極から陰極電極に向けて、これらの不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを供給しながらアーク放電を行うと、アークをガス流路に沿って集中して発生させることができる。つまり、陽極電極から陰極電極に向けて供給する不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスをプラズマガスとして用いることにより、アークを集中させ、陰極点を安定化させることができる。
つまり、本発明の要点は、アーク放電経路を確保するプラズマガスとして、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを用い、雰囲気ガスをプラズマガスよりも電離しにくいガス雰囲気とするという2種類のガスを用いることで、極度に集中し、安定したアーク放電を達成できるという点にある。この結果、従来にない、高純度のカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を生成することが可能となる。
また、大気雰囲気中では、アーク放電部に酸素を巻き込むため、炭素の酸化・燃焼が起こる。この際、生成されたカーボンナノチューブもいくぶん酸化するが、より燃焼温度の低い非晶質炭素や多結晶黒鉛粉などの不純物が優先的に酸化・燃焼し、結果として生成物中のカーボンナノチューブ純度を向上させる効果がある。
従来は、不活性ガス雰囲気または活性ガス雰囲気中での放電によるカーボンナノチューブの合成方法であり、プラズマガス、雰囲気ガス共に同種ガスによる放電のため、ガス種により多少のアーク安定および生成物の品質向上が図られてはいたが、十分な効果は得られておらず、まして高純度のカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を生成するまでには至らなかった。
ところで、アーク放電においては、シールドガスという概念がある。これは、アーク全体を覆うように所定のガスを吹き付け、アークおよびその近傍の電極を大気などから遮蔽するためのもので、簡易的にアーク近傍のみを所定のガス雰囲気にする目的で使用される。よって、シールドガスは前記従来法の雰囲気ガスの範疇に入るものである。
【0036】
本発明の請求項5に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、中空電極の内部から陰極電極に向けて吹付ける不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの流量を、中空電極の孔の断面積1mm2当り10〜400ml/分としたことを特徴としている。
【0037】
中空電極の孔から供給する不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの流量が少なすぎては、プラズマガスとして十分に機能せず、また流量が多すぎると陽極周辺部までプラズマガスの濃度が増加し、中央部だけでなく、周辺部でもアーク放電が起こりやすい条件となり、アークを集中させることができなくなる。そこで、請求項5の発明のように中空電極の孔から供給する不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの流量を、中空電極の孔の断面積1mm2当り10〜400ml/分とすることにより、プラズマガスとして機能させつつ、陽極電極中央部のみが周辺部に比べアーク放電しやすい条件を作り出すことができる。その結果、陰極点を集中させることができ、純度の高いカーボンナノチューブを収率良く生成することができる。
【0039】
本発明の請求項6に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスとして、アルゴンもしくはアルゴンと水素ガスの混合ガスを用いることを特徴としている。
【0040】
Ar以上の原子番号を有するAr、Kr、Xeなどの不活性ガスは、電子との衝突による電離能率が高く、アークを発生しやすい空間を提供する。特にArは最も安価で工業的に利用しやすいガスであるため、カーボンナノチューブの製造コストを低減することができる。また、混合ガスとして、Arに数%〜数十%のH2 を混ぜることにより、アークの安定性を損なうことなく、カーボンナノチューブの収量を増加することができる。これは、H2 に陽極電極上で昇華した炭素がクラスタとして成長するのを防止する効果があり、陰極電極上でカーボンナノチューブが合成されやすい条件となるためであると考えられる。
【0042】
本発明の請求項7に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、両電極を、アークの発生と終了位置付近を除き、陰極表面上のアーク発生点がほぼ同一の温度履歴を経るように相対移動させることを特徴としている。
本発明の請求項8に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、陰極表面上の一度陰極点が形成された領域に再び陰極点が位置しないように移動させることを特徴としている。
【0044】
本発明の請求項9に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、陰極電極全体またはアークの陰極点もしくは陰極電極上のアーク軌道におけるアーク前方部分を、加熱しながらアーク放電を行うことを特徴としている。
【0045】
種々の検討の結果、高純度のカーボンナノチューブを効率よく合成するための電極相対移動の本質は、請求項7のようにカーボンナノチューブが生成される陰極表面上のアーク発生点における温度履歴が常に同一となるようにすることであることを見出した。
すなわち、アーク放電によるカーボンナノチューブの合成では、主として陽極炭素電極から発生した炭素蒸気および炭素イオンが陰極側に拡散し、陽極より温度の低い陰極電極表面にて凝縮することによりカーボンナノチューブ(特に多層カーボンナノチューブ)が合成されるものと考えられている。そのため、陰極の温度は低い方がカーボンナノチューブの成長速度が速く、陰極材料は耐熱性導電材料であれば炭素材料である必要もないとされている。
しかしながら、陽極の炭素蒸気および炭素イオンのみを増加させてもカーボンナノチューブの合成比率は低いものしか生成できず、カーボンナノチューブが生成される陰極の温度を適正な温度範囲に保つことが純度の高いカーボンナノチューブを生成する上で重要であることが本発明者等による実験の結果明らかとなった。すなわち、請求項8のように陰極表面上の一度陰極点が形成された領域に再び陰極点が位置しないようにアークを移動させることによって、陰極上に連続したアーク発生点の温度をほぼ均一に保つことができ、連続して純度の高いカーボンナノチューブを合成できる。
また、請求項9のように陰極電極全体またはアークの陰極点もしくは陰極電極上のアーク軌道におけるアーク前方部分を、適正な温度に加熱しながらアーク放電を行うと、テープ状に剥離回収された純度の高いカーボンナノチューブを合成できることが確認された。
ここでいう陰極の温度とは、最高到達温度のみならず、昇温や冷却過程の温度変化速度なども含む陰極表面上のアーク発生点における温度(熱)履歴のことである。つまり、カーボンナノチューブが生成されるピーク付近の温度域はもちろん、その昇温速度や冷却速度もカーボンナノチューブの製造に重大な影響をもたらすことが明らかとなった。例えば、冷却速度が遅い場合、生成されたカーボンナノチューブはその後の冷却過程で分解や燃焼を起こし、カーボンナノチューブの収量が低下する。カーボンナノチューブが生成する適切なピーク付近の温度域に滞留している時間が短すぎる場合は、カーボンナノチューブが十分に成長せず、テープ状物質を形成しない。また、昇温速度もその後のピーク温度や冷却速度に影響し、カーボンナノチューブの生成に影響を及ぼす。このようにカーボンナノチューブが生成する陰極表面上のアーク発生点における温度(熱)履歴は、カーボンナノチューブの生成に大きな影響を及ぼすため、安定してカーボンナノチューブを高純度、高収率にて製造するためには、カーボンナノチューブが生成する陰極表面上のアーク発生点における温度履歴が常に同一となるように、電極を相対移動させることが必要となる。言い換えれば、移動するアーク発生点を基準にした場合、時間に無関係な一様な温度場が実現される準定常状態とすることが重要である。陰極表面の温度履歴に影響する因子は、主として、陰極の物性、形状、大きさ、初期温度、およびアーク入熱、アークの個数、そしてアークの移動速度および移動経路である。つまり、陰極の物性、形状、大きさ、初期温度、およびアーク入熱、アークの個数に応じて、適切なアーク発生点の温度履歴が得られるように、電極の相対移動の速度および経路を決定することにより、安定してカーボンナノチューブを高純度、高収率にて製造することができ、その結果として、高純度のカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を連続して生成することが可能となる。
同一場所を何度も移動させる移動方法では、陰極の温度が徐々に上昇し、アーク発生点の冷却速度が低下するため、安定してカーボンナノチューブを高純度、高収率にて製造することができない。また、一度アークが放電された陰極表面は、物性や表面粗度が変化する場合があり、放電条件や移動速度を一定としても、陰極での電気抵抗発熱量やアーク入熱分布の形態が変化し、アーク発生点の温度履歴を一定とできず、同様な結果となる。アーク発生点の温度履歴をほぼ一定とするための移動方法は、幅ならびに厚さのほぼ一定な平板上を直線的に一度だけ移動させたり、円柱もしくは円筒状陰極の側面を螺旋移動させる方法が良い。これらの方法によると、アークの発生開始位置と終了位置付近を除き、ほぼ一定な温度履歴をアーク発生点は受けることになり、適正な温度履歴が得られる電極の相対移動とすれば、カーボンナノチューブの純度ならびに収量の増加がほぼ全線にわたり得られる。
さらに、カーボンナノチューブが十分に成長する条件下では、従来見られなかった高純度のカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を連続して生成することが可能となる。このテープ状物質は、テープ状のまま陰極から引き剥がすことが可能であるので、回収が至って容易である。
なお、陰極表面の物性や表面粗度が変化していない場合は、温度分布が一定となった後、陰極を再度使用することができる。陰極表面の物性や表面粗度が変化している場合は、変質部分を研削または研磨などで除去した後に再度使用することができる。
【0047】
本発明の請求項10に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、陰極電極として、電気抵抗率が4000μΩ・cm以上もしくは熱伝導率が40W/m・K以下の炭素材料を用いることを特徴としている。
【0048】
高い純度と収量のカーボンナノチューブを合成するためには、陰極材料のアーク陰極点の温度をある程度高くすることが有利である。そのためには、電気抵抗率(=固有抵抗)が高く、熱伝導率の低い、いわゆる黒鉛化度の低い炭素質の炭素材料を用いることが望ましい。通常電極として使用されている炭素材料の電気抵抗率(=固有抵抗)は500〜2000μΩ・cm程度の範囲であるが、4000μΩ・cm以上の電気抵抗率を有する炭素材料を陰極材料として使用すると、陰極材料の陰極点近傍では、アーク放電時に高い電流密度となるので、電気抵抗発熱のため陰極点近傍が高温度となる。そのため、陰極を加熱したのと同様な効果が得られ、収量ならびに純度の高いカーボンナノチューブを生成することができる。
また、通常電極として使用されている炭素材料の熱伝導率は、50〜200W/m・Kの範囲であり、炭素材料における電気抵抗率と熱伝導率はほぼ負の相関関係が有る。つまり、電気抵抗率が大きいものは、熱伝導率が低く熱を伝えにくいので、より陰極点近傍が高温度となる。電気抵抗値4000μΩ・cm以上の炭素材料の熱伝導率は、ほぼ40W/m・K以下に相当する。
【0050】
本発明の請求項11に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、陰極電極として、表面の算術平均粗さ(Ra)が3.2μm以下の炭素材料を用いることを特徴としている。
【0051】
カーボンナノチューブ生成後の冷却過程でテープ状に剥離するメカニズムは、主としてカーボンナノチューブの集合体からなる綿状物質の収縮率と、その表裏面に付着している多結晶黒鉛および非晶質炭素の薄皮や粒子の収縮率が異なるため、熱応力が生じ分離するものと考えられる。また、生成および冷却過程での大気による酸化作用により、テープ状の生成物表裏面に付着している多結晶黒鉛および非晶質炭素の薄皮や粒子が燃焼するために、陰極とテープ状物質の付着力が弱まることも考えられる。
しかしながら、陰極材料の表面粗さが粗い場合(算術平均粗さ(Ra)が4.0μm以上の場合)、陰極とテープ状物質の付着力が高まり、容易には剥離を起こさなくなる。厚さ10〜500μmのテープ状物質を機械的に削り落とし、回収することは容易ではない。そこで、陰極炭素材料の表面の算術平均粗さ(Ra)を3.2μm以下とすることで、陰極とテープ状物質の付着力を弱め、熱応力により自然剥離させることにより、テープ状に生成されたカーボンナノチューブの回収をいたって容易にすることができる。
【0053】
本発明の請求項12に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、アークの陰極点の軌跡上に生成されている生成物にガスを吹付けることを特徴としている。
【0055】
カーボンナノチューブ生成後に生成物にガスを吹付け、生成物を冷却することにより、生成物の剥離を促進させることができる。吹付けるガスは、可燃性のもの以外の冷却効果があるものなら空気、窒素等、何でも良い。生成物は陰極電極表面に薄い膜状に生成されているので、ガスを吹付けることにより、生成基板の陰極電極より温度低下が急速に進み、生成物と陰極電極との間に熱応力が働いて、剥離が著しく促進されるものと考えられる。
さらに、吹付けるガスが酸素を含んでいる場合や、または酸素を含んでいなくても大気雰囲気中では、ガスを吹付けることによって大気を多少巻き込むため、生成物表裏面に付着している多結晶黒鉛および非晶質炭素の薄皮や粒子の酸化・燃焼を促進する作用があり、その結果、テープ状に剥離された生成物のカーボンナノチューブ純度が上がるとともに、陰極とテープ状物質の付着力が弱まり、テープ状物質の剥離を促進する効果もあるものと考えられる。
【0059】
【発明の実施の形態】
実施形態1.
以下、図示実施形態により本発明のカーボンナノチューブテープの製造方法について説明する。
【0060】
図15は大気圧下、アルゴンガス雰囲気中での炭素材料電極相互のアーク放電状況(一般放電)を模式的に示した図で、陽極1に棒状の炭素材料を、陰極2に平板状の炭素材料を用いている。図15のように大気圧下、アルゴンガス雰囲気中では、アークの発生する位置は大きく動き回り、陰極点の位置も陰極板(平板状炭素材料2)上で激しく不規則に移動する(図15では時間の異なる2つのアーク3a,3bを重ねて図示している)。4は陰極ジェットであり、陰極の炭素が蒸発し、一部の炭素原子が電離を起こしている部分である。このようなアークの激しく不規則な移動は、大気圧下、アルゴンガス雰囲気中では特に顕著であるが、低圧力下のヘリウムガスや水素ガス雰囲気中でも、同様な動きが観察される。
【0061】
図16は前記図15の一般放電によりアークを短時間発生させた場合の陰極点を観察した結果を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真であり、(a)は陰極点の中心部とその周辺部を示すSEM写真、(b)は陰極点中心部の拡大SEM写真、(c)は陰極点周辺部の拡大SEM写真である。これらのSEM写真から明らかなように、陰極点の中心部はカーボンナノチューブが密集して生成されているのに対し、陰極点の周辺部においては、非晶質カーボン(アモルファスカーボン)の塊が堆積しているのみである。つまり、アークの陰極点ではカーボンナノチューブが合成される条件が整っているのに対し、その周辺部は、カーボンナノチューブが合成されない条件となっていることが分かる。これらの結果から、陰極点が激しく不規則に移動する一般のアーク放電形態では、陰極電極上でカーボンナノチューブが合成される条件とカーボンナノチューブが合成されない条件が交互に繰り返されるために、非晶質カーボン等の不純物を多く含んだ陰極堆積物しか回収できないものと考えられる。
【0062】
そこで、図12のように炭素材料からなる陽極として軸心部に孔11aを有する中空電極11を用い、開放空間(大気圧下・大気雰囲気中)にて中空電極11内部の孔11aからアーク3に向けて少量のアルゴンガスを送給したところ、アーク3がガス流経路に沿って発生し、その陰極点も常にガス噴出口に対向する位置に発生するアーク形態となることが分かった。これは、アーク放電による高温下で、アルゴンガスの電離度が上がり、導電性が周辺部に比し大きくなったためにアルゴンガス流経路に沿ってアークが発生するためであると考えられる。また、中空電極内面は不活性ガスと接しているため、陽極点が安定して形成しやすくなるためであると考えられる。また、既述したようにアルゴンなどの不活性ガスは、電子との衝突による電離能率が高く、アークを発生しやすい空間を提供する。したがって、中空電極11内部の孔11aから陰極2に向けてアルゴンガスの送給を開始してからアーク3を発生させるようにすれば、アーク発生初期からアーク発生経路を拘束することができて陰極2上のアークの陰極点の不規則な移動を防止することができる。その結果、アーク発生初期から固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブを優先的に合成することができ、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)で高純度の多層カーボンナノチューブの合成物を製造することができる。
この中空電極11による静止アーク放電で得られた陰極堆積物を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、その中心部である陰極点位置では、長時間アークにおいても高純度のカーボンナノチューブが合成されていることが判明した。中空電極11による静止アーク放電では、前述の図15で説明したような陰極ジェットは観察されず、陰極2から発生した炭素蒸気はアーク柱と重なる位置に噴出しているものと考えられ、アーク中での炭素原子の濃度を上昇させることによって、カーボンナノチューブの合成効率をも向上させているものと推察された。
【0063】
なお、中空の陽極電極は炭素材料に限らず、水冷銅電極などの非消耗電極を用いても良い。
【0064】
また、陽極から陰極へ向けて流す不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスは、必ずしも中空陽極の内部より流す必要はなく、例えば図13に示すように棒状陽極111を用い、棒状陽極111に沿わせて別途配置したガスノズル112より、陽極側面に沿うように陰極電極に向けてガスを流しても良い。このようにしても、ガス流が十分に層流であれば、ガス流に沿ってアークが発生し、陰極点が固定化される。このことは後述する他の実施形態でも同様である。
【0065】
なお、中空電極11内部の孔11aから送給するガスは、純アルゴンもしくは5%程度の水素ガスやヘリウムガスを混入したアルゴンガスを用いてもアーク形態に大きな変化は見られなかった。特にアルゴンに水素ガスを数%〜数十%混ぜると、アークの安定性を損なうことなく、カーボンナノチューブの収量を増加することができた。これは、水素ガスに電極上で昇華した炭素がクラスタとして成長するのを防止する効果があり、陰極電極上でカーボンナノチューブが合成されやすい条件となるためであると考えられた。適正ガス流量は、中空電極11の孔11aの断面積に影響され、孔11aの断面積1mm2当り10〜400ml/分であった。
【0066】
中空電極11の孔11aから供給する純アルゴンもしくは5%程度の水素ガスやヘリウムガスを混入したアルゴンガスの流量が孔11aの断面積1mm2当り10ml/分よりも少なすぎると、プラズマガスとして十分に機能せず、また流量が孔11aの断面積1mm2当り400ml/分よりも多すぎると、電極周辺部までプラズマガスの濃度が増加し、中央部だけでなく、周辺部でもアーク放電が起こりやすい条件となり、アークを集中させることができなくなる。
本実施形態のように中空電極11の孔11aから供給するガス流量を、中空電極11の孔11aの断面積1mm2当り10〜400ml/分とすることにより、プラズマガスとして機能させつつ、陽極電極中央部のみが周辺部に比べアーク放電しやすい条件をつくり出すことができる。その結果、陰極点を集中させることができて、純度の高いカーボンナノチューブを収率良く生成することができる。
【0067】
次に、中空電極11を移動させながらアーク放電を行った場合、図1に示すようにアーク3の中心部(陰極点)3aが通過した陰極電極上にテープ状の物質が生成され、これらが自然剥離する現象が認められた。このテープ状物質を走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ高純度のカーボンナノチューブの集合体で構成されていることが判明した。このテープ状物質すなわち高純度カーボンナノチューブテープ(以下、高純度CNTテープという)31の生成機構(生成メカニズム)は、図2のようであると考えられる。
【0068】
すなわち、アーク3の中心部(陰極点)3aでカーボンナノチューブが合成される機構(メカニズム)は、静止アークの場合と同様であるが、移動アークの場合は、アーク周辺部3bでアモルファスカーボン32が生成されるため、アーク3が移動した部分の生成物断面は図2上段に示すように、カーボンナノチューブの集合体がアモルファスカーボン32で挟まれた形となる。しかし、アーク3が過ぎ去った後、高温の状態で大気と触れ合うため、結晶的構造欠陥の多いアモルファスカーボン32が優先的に酸化・燃焼し、一部が焼失する(図2中段)。さらに、その後の陰極電極2の冷却過程にて、非晶質カーボンの層と高純度カーボンナノチューブ集合体との熱膨張率の相違により、高純度のカーボンナノチューブがテープ状に剥離する現象を起こす(図2下段)ものと考えられる。このように、中空電極11の移動アーク放電により、効率的に高純度のカーボンナノチューブを合成できるとともに、いたって容易にテープ状の高純度カーボンナノチューブの集合体を回収できる。
【0069】
実施例
陽極電極として、外径36mm、内径10mmの中空電極を用い、開放空間(大気圧下・大気雰囲気中)にて中空電極内部の孔から陰極電極に向けて3%の水素を含むアルゴンガスを10リットル/分の流量送給しながら電流500A、電圧35V(アーク長約5mm)にて1分間アーク放電を行った。
【0070】
図14(a)(b)はこの中空電極による1分間の静止アーク放電で得られた陰極堆積物の中心部の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。このSEM写真からも明らかなように、陰極堆積物の中心部に高純度の多層カーボンナノチューブが合成されていることが分かる。この1分間の静止アーク放電により数10mgの高純度の多層カーボンナノチューブが得られた。
【0071】
次に、図3に高純度CNTテープ31Aの合成方法を示す。陽極電極として、外径10mm、内径4mmの中空炭素電極11を用い、陰極電極として直径35mmの円柱状炭素電極2Aを用いた。陰極電極を回転させるとともに、中空炭素電極11を陰極電極の軸方向に直線的に移動させて、陰極電極上に螺旋を描く形で陰極点を移動させた。陰極電極の回転速度は1.5回転/分であり、中空炭素電極(陽極電極)11の横方向(図3中に矢印で示す)の移動速度は35mm/分、陰極電極上のアーク発生点の移動速度は約170mm/分である。また、アーク放電は、開放空間(大気圧下・大気雰囲気中)で行い、中空電極内から送給するガスには純アルゴンガスを用い、流量は1リットル/分とした。放電条件は、電流100A、電圧20V(アーク長約1mm)である。アーク放電後、陰極電極上で陰極点が移動した螺旋状の位置に、幅2〜3mm程度、厚さ100ミクロン程度のテープ状の高純度CNTが合成された。このCNTテープの幅および厚さは、電極の形状、サイズおよび合成条件により変化させることが可能である。図4(a)(b)に合成された高純度CNTテープのSEM写真を示す。テープ表面には1ミクロン程度の球状の非晶質カーボンが取り付いているが、内部は高純度のカーボンナノチューブの集合体で構成されている。この程度の量の非晶質カーボンは酸化雰囲気中の熱処理により容易に除去が可能である。
【0072】
図5に二条の高純度CNTテープ31A,31Bの合成方法を示す。陽極電極として、外径10mm、内径4mmの2つの中空炭素電極11A,11Bを用い、陰極電極として直径35mmの円柱状炭素電極2Aを単一用いた。陰極電極を回転させるとともに、中空炭素電極11A,11Bをともに陰極電極の軸方向に直線的に移動させて、螺旋のピッチが同一となるように陰極電極上に二条の螺旋を描く形で陰極点を移動させた。また、アーク放電は、開放空間(大気圧下・大気雰囲気中)で行い、中空電極内から送給するガスには純アルゴンガスを用い、流量はそれぞれ1リットル/分とした。放電条件は、電流100A、電圧20V(アーク長約1mm)である。
【0073】
単一陽極電極による図3の高純度CNTテープの合成方法では、アーク発生点の適正相対移動速度は既述したように約170mm/分であったが、複数陽極電極による図5の高純度CNTテープの合成方法では、アーク発生点の適正相対移動速度は、単一陽極電極の場合の約1.8 倍である310mm/分であった。これは、2つの熱源が相互に影響するため、適正な温度履歴が得られる電極の相対移動の速度が単一陽極電極の場合に比べ、約1.8倍になったものと推察された。この予熱または加熱度合いの増加に伴う、テープ状物質が生成される最適なアーク発生点の相対移動速度の上昇現象は、後述する他の実施形態でも観察された。
【0074】
陰極表面の温度履歴に影響する因子を種々変化させた検討の結果、本発明を実現する上では、前記アーク発生点の相対移動速度が10mm/分〜1000mm/分の範囲、好ましくは相対移動速度が50mm/分〜500mm/分の範囲、さらには相対移動速度が100mm/分〜350mm/分の範囲であれば、極めて良好なカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を生成することができることが分かった。相対移動速度が10mm/分未満の極めて遅い移動では、陰極表面の温度履歴に影響する因子を種々変化させても、適正な範囲の温度履歴を得ることは難しかった。つまり、所定のピーク温度が得られるようにアーク入熱などを設定すると、その後の冷却速度が著しく低下するため、生成されたカーボンナノチューブが長時間高温に曝され、純度が低下する。また、相対移動速度を1000mm/分超とした場合も、同様に適正な範囲の温度履歴を得ることは難しかった。つまり、たとえば所定のピーク温度が得られるようにするためには、単位時間あたりのアーク入熱を大きく設定しなければならず、そうすると陽極の消耗が著しくなり、長時間の運転は困難となる。また、ピーク温度付近での滞留時間が短くなり、生成されるカーボンナノチューブの厚みも極端に薄くなって、テープ状物質が生成されなくなる。
単一陽極電極による図3の高純度CNTテープの合成方法において、中空炭素電極11の直線移動を停止した状態にて、陰極電極である円柱状炭素電極2Aを回転させ、同一円周上に繰返し放電を行った場合、陰極電極が1周する間は、テープ状のカーボンナノチューブが連続して生成するが、2週目以降ではカーボンナノチューブは生成されるもののテープ状として回収できる割合が急激に低下した。これは、1周目の放電にて、放電軌跡部の陰極材質が変化、たとえば放電による熱のため黒鉛化が促進され電気抵抗率が減少もしくは熱伝導度が増加し、2週目以降の温度履歴が大きく変化すること、および、1周目の放電にて、陰極材料表面の酸化が起こり、表面粗さが増大しテープ状に剥離しにくくなったためと考えられる。これに対して、中空炭素電極11を直線移動させて、アーク放電の軌跡を螺旋状とし、陰極表面上の一度陰極点が形成された領域に再び陰極点が位置しないように移動させた場合は、放電発生部の軌跡全体に渡り、テープ状のカーボンナノチューブを合成,採取することができた。なお、アーク放電による陰極材料の変質および表面酸化は放電発生部近傍でも起こるため、軌跡同士の間隔は4mm以上、より好ましくは8mm以上とすることが望ましい。このように、陰極表面のアーク放電発生部軌跡が交差しないように相対移動することにより、安定してテープ状のカーボンナノチューブを合成することができる。なお、陰極の熱による変質部は表面層のみに限られているため、変質部分を研削または研磨などで簡単に除去でき、その後に再度使用することができる。
【0075】
図6及び図7はいずれも本実施形態のCNTテープを用いた電界放出型電極を模式的に示した図である。カーボンナノチューブを含むテープ状物質31は、カーボンナノチューブの純度も高く、かつ合成されたままの状態、つまり1本1本のカーボンナノチューブが互いに部分的にしか接しておらず、その細束性を維持した状態で、均一な薄い膜状であるので、そのまま2つの基板50,50間に挟み込む、もしくはそのまま基板50や電極上に貼付け、高性能の電界放出型電極として用いることができる。例えば、テープ状物質31を2つの基板50,50で挟み込み、テープ状物質31の一端がはみ出る形態とすれば良い。もしくは基板50の片面に導電性接着剤等51を塗り、テープ状物質31を貼り付ければよく、その後の表面処理等は不要であるため、製造工程ならびに製造コストの低減が図れる。ここで、導電性接着剤51としては、銀やニッケル、アルミなどの金属粉末、またはグラファイト粉末を溶剤に混ぜ合わせた導電性ペーストなどが使用できる。溶剤の含有率が高いと、ペーストの粘性が下がり、ペーストが毛管現象によりテープ状物質31の細部にまでしみこみ、テープを構成するカーボンナノチューブが束状に集結してしまう。テープ表面のカーボンナノチューブが束状に集結してしまうと、何らかの表面処理を施さなければ、良好な電界放出特性が得られない。このようなことを防止するために、粘性の高い、溶剤の含有率の低いペーストを用いて、テープ状物質31を貼り付けることが望ましい。粘性の高いペーストでも、テープ内部への浸透が幾分あるが、テープ状物質31の表面のカーボンナノチューブにまで浸透が及ばなければ、電界放出特性に影響は出ない。なお、テープ状物質31をペーストで貼付け、かつ基板で挟み込む形態としても良い。
【0076】
このようにして、カーボンナノチューブが密集したテープ状物質31を用いることによって、カーボンナノチューブを電子源としての特性を発揮しやすい形態とした電界放出型電極を簡単に製造することができる。
【0077】
実施形態2.
図8は本発明の第2の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法の説明図であり、図中、前述の第1実施形態の図1と同一部分には同一符号を付してある。
【0078】
本実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法は、炭素材料からなる陽極として前述の第1実施形態の陽極と同様の軸心部に孔11aを有する中空電極11を用いるとともに、触媒となる金属粉末または金属化合物粉末21を収容した触媒混入容器22内と中空電極11の孔11aとを接続し、開放空間(大気圧下・大気雰囲気中)にて、触媒混入容器22を介して中空電極11内部の孔11aから陰極電極2に向けて少量のアルゴンガス等の不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けるとともに、このガス流に乗せて触媒金属粉末または金属化合物粉末21を注入し、更に中空電極11を陰極炭素電極2に対し相対移動させながらアーク放電を行うようにした点に特徴を有している。
【0079】
本実施形態においても中空電極11内部の孔11aから送給するガスとして、純アルゴンもしくは5%程度の水素ガスやヘリウムガスを混入したアルゴンガスを用いた。特にアルゴンに水素ガスを数%〜数十%混ぜると、アークの安定性を損なうことなく、カーボンナノチューブの収量を増加することができた。これは既述したように水素ガスに電極上で昇華した炭素がクラスタとして成長するのを防止する効果があり、陰極電極上でカーボンナノチューブが合成されやすい条件となるためであると考えられる。
【0080】
また、本実施形態においても適正ガス流量は、前述の第1実施形態と同様、中空電極11の孔11aの断面積に影響され、孔11aの断面積1mm2当り10〜400ml/分であり、この適正ガス流量とすることで、プラズマガスとして機能させつつ、陽極電極中央部のみが周辺部に比べアーク放電しやすい条件をつくり出すことができる。その結果、陰極点を集中させることができ、純度の高いカーボンナノチューブを収率良く生成することができる。
【0081】
なお、本実施形態において使用される金属粉末または金属化合物粉末の種類は、触媒機能のあるものなら何でも良いが、ここではFe 、Ni 、Co 、FeS 等の単体もしくはそれらの混合体を使用した。
【0082】
本実施形態においても中空電極11内部の孔11aからアーク3に向けて不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けているので、アーク放電による高温下で、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの電離度が上がり、導電性が周辺部に比し大きくなる。また、中空電極内面に陽極点が安定して形成されるため、ガス流経路に沿ってアークが発生する拘束アーク形態となる。
【0083】
さらに、本実施形態では、ガス流に乗せて触媒金属粉末または金属化合物粉末21を注入しているので、触媒がアーク熱により超微粒化し、それが核となり、そこから単層のカーボンナノチューブが成長していく。つまり、固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)およびその周辺部で高純度の単層カーボンナノチューブの合成物を製造することができる。そして、中空電極11を移動させながらアーク放電を行うことで、前記図1で説明したものと同様にアーク3の中心部(陰極点)が通過した陰極電極上に高純度の単層カーボンナノチューブを含むテープ状の物質31を生成することができる。
【0084】
実施形態3.
図9は本発明の第3の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法の説明図であり、図中、前述の第1実施形態の図3と同一部分には同一符号を付してある。
【0085】
アーク放電によるカーボンナノチューブの合成では、主として陽極炭素電極から発生した炭素蒸気および炭素イオンが陰極側に拡散し、陽極より温度の低い陰極電極表面にて凝縮することによりカーボンナノチューブ(特に多層カーボンナノチューブ)が合成されるものと考えられている。そのため、陰極の温度は低い方がカーボンナノチューブの成長速度が速く、陰極材料は耐熱性導電材料であれば炭素材料である必要もないとされている。
【0086】
しかしながら、陽極の炭素蒸気および炭素イオンのみを増加させてもカーボンナノチューブの合成比率は低いものしか生成できず、カーボンナノチューブが生成される陰極の温度を適正な温度範囲に保つことが純度の高いカーボンナノチューブを生成する上で重要であることが本発明者等による実験の結果明らかとなった。すなわち、前述の第1又は第2実施形態と同様の電極構成および条件下で、図9のように陰極電極2A全体を別電源(交流電源)による通電加熱してからアーク放電を行うと、陰極点部の温度は予熱がない場合に比べ高い温度にでき、かつ純度の高いカーボンナノチューブを含むテープ状物質を合成できることが分かった。
【0087】
このように、高い純度と収量のカーボンナノチューブを合成するためには、陰極点部の温度をある程度高くすることが有利である。通常電極として使用されている炭素電極の電気抵抗率(=固有抵抗)は500〜2000μΩ・cm程度の範囲であるが、4000μΩ・cm以上の電気抵抗率を有する炭素材料を陰極材料として使用すると、陰極材料の陰極点近傍では、アーク放電時に高い電流密度となるので、電気抵抗発熱のため陰極点近傍が高温度となる。そのため、陰極を加熱したのと同様な効果が得られ、収量ならびに純度の高いカーボンナノチューブを生成することができる。
【0088】
また、通常電極として使用されている炭素電極の熱伝導率は50〜200W/m・Kの範囲であり、炭素材料における電気抵抗率と熱伝導率はほぼ負の相関関係が有る。つまり、電気抵抗率が大きいものは、熱伝導率が低く熱を伝えにくいので、より陰極点近傍が高温度となる。電気抵抗率4000μΩ・cm以上の炭素材料の熱伝導率は、ほぼ40W/m・K以下に相当する。
【0089】
実施形態4.
図10は本発明の第4の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法の説明図であり、図中、前述の第1実施形態の図3と同一部分には同一符号を付してある。
【0090】
本実施形態のカーボンナノチューブテープの製造方法は、前述の第1又は第2実施形態と同様の電極構成および条件下で、図10のようにアーク3の陰極点もしくは陰極電極2A上のアーク軌道におけるアーク前方部分を、レーザ発振器からのレーザ光線によって加熱しながらアーク放電を行うようにしたものである。
【0091】
本実施形態においても、陰極点部の温度は加熱がない場合に比べ高い温度にでき、かつ純度の高いカーボンナノチューブを含むテープ状物質を合成することができた。
【0092】
実施形態5.
図11は本発明の第5の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法の説明図であり、図中、前述の第1実施形態の図3と同一部分には同一符号を付してある。
【0093】
本実施形態のカーボンナノチューブテープの製造方法は、前述の第1又は第2実施形態と同様の電極構成および条件下で、図11のようにアーク3の陰極点の軌跡上に生成されている生成物すなわち高純度CNTテープ3Aに、ガスノズルからガスを吹付けるようにしたものである。
【0094】
テープ状物質生成後に生成物にガスを吹付け、生成物を冷却することにより、テープ状物質の剥離を促進させることができる。吹付けるガスは、可燃性のもの以外の冷却効果があるものなら空気、窒素等、何でも使用可能である。テープ状物質は陰極電極2A上に薄い膜状に生成されているので、ガスを吹付けることにより、陰極電極2Aより温度低下が急速に進み、テープ状物質と陰極電極との間に熱応力が働いて、剥離が著しく促進される。
さらに、吹付けるガスが酸素を含んでいる場合や、または酸素を含んでいなくても大気雰囲気中では、ガスを吹付けることによって大気を多少巻き込むため、テープ状物質表裏面に付着している多結晶黒鉛および非晶質炭素の薄皮や粒子の酸化・燃焼を促進する作用があり、その結果、テープ状物質のカーボンナノチューブ純度が上がるとともに、陰極とテープ状物質の付着力が弱まり、テープ状物質の剥離が促進される。
【0095】
なお、陰極とテープ状物質の付着力は、陰極材料の表面の算術平均粗さ(Ra)によっても変動する。すなわち、陰極材料の表面粗さが粗い場合(算術平均粗さ(Ra)が4.0μm以上の場合)、陰極とテープ状物質の付着力が高まり、容易には剥離を起こさなくなる。したがって、陰極電極として、表面の算術平均粗さ(Ra)が3.2μm以下の炭素材料とすることで、陰極とテープ状物質の付着力弱め、熱応力により自然剥離させることにより、テープ状物質の回収をいたって容易にすることができる。
【0096】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高い供給される不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けながら、その間にアークを発生させることで、アーク発生経路を拘束し、同時に両電極の相対位置を移動させることにより、アークの陰極点を陰極材料上で移動させるようにしたので、アーク発生経路を拘束できて、陰極点の不規則な移動を防止することができた。その結果、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブを優先的に合成することができ、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)で高純度の多層カーボンナノチューブの合成物を製造することができた。また、高純度のカーボンナノチューブがテープ状に剥離現象を起こし、多層カーボンナノチューブの回収がいたって容易となった。
【0097】
また、中空電極の内部から、炭素材料からなる陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高いアルゴンガス等の不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを、触媒となる金属粉末または金属化合物粉末と共に吹付けながら、その間にアークを発生させることで、アーク発生経路を拘束し、同時に両電極の相対位置を移動させることにより、アークの陰極点を陰極材料上で移動させるようにしたので、アーク発生経路を拘束できて、陰極点の不規則な移動を防止することができた。その結果、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)でカーボンナノチューブを優先的に合成することができ、この固定された陰極点の発生位置(アークの中心部)で高純度の単層カーボンナノチューブの合成物を製造することができた。また、高純度のカーボンナノチューブがテープ状に剥離現象を起こし、単層カーボンナノチューブの回収がいたって容易となった。
【0098】
また、両電極の相対位置の移動によって、アークの陰極点を陰極材料表面上で速度10mm/分〜1000mm/分の範囲で相対移動させるようにしたので、良好なカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を生成することができた。
【0099】
また、アーク放電を、大気雰囲気中にて行なわせるようにしたので、装置を簡素化でき、またアークの安定性を損なうことなく非晶質炭素や多結晶黒鉛粉などの不純物を優先的に酸化・燃焼でき、結果として生成物中のカーボンナノチューブ純度を向上させることができた。
【0100】
また、中空電極の内部から陰極電極に向けて吹付ける不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの流量を、中空電極の孔の断面積1mm2当り10〜400ml/分としたので、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスをプラズマガスとして機能させつつ、陽極電極中央部のみが周辺部に比べアーク放電しやすい条件を作り出すことができた。その結果、陰極点を集中させることができて、純度の高いカーボンナノチューブを収率良く生成することができた。
【0101】
また、不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスとして、アルゴンもしくはアルゴンと水素ガスの混合ガスを用いたので、電子との衝突による電離能率が高く、アークを発生しやすい空間を提供することができて、アークの安定性を損なうことなく、カーボンナノチューブの収量を増加することができた。
【0102】
また、両電極を、アークの発生と終了位置付近を除き、陰極表面上のアーク発生点がほぼ同一の温度履歴を経るように相対移動させるようにしたので、安定してカーボンナノチューブを高純度、高収率にて製造することができ、その結果として、高純度のカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を連続して生成することが可能となった。
【0103】
また、陰極電極全体またはアークの陰極点もしくは陰極電極上のアーク軌道におけるアーク前方部分を、加熱しながらアーク放電を行うようにしたので、純度の高いカーボンナノチューブが密集したテープ状物質を連続して生成することが可能となった。
【0104】
また、陰極電極として、電気抵抗率が4000μΩ・cm以上もしくは熱伝導率が40W/m・K以下の炭素材料を用いるようにしたので、電気抵抗発熱によって陰極点近傍を高温度とすることができて、陰極を加熱したのと同様な効果が得られ、収量ならびに純度の高いカーボンナノチューブを生成することができた。
【0105】
また、陰極電極として、表面の算術平均粗さ(Ra)が3.2μm以下の炭素材料を用いるようにしたので、陰極とテープ状物質の付着力を弱めることができて、熱応力により自然剥離させることができ、テープ状物質の回収をいたって容易にすることができた。
【0106】
また、アークの陰極点の軌跡上に生成されている生成物にガスを吹付けるようにしたので、陰極電極よりテープ状物質の温度低下が急速に進み、テープ状物質と陰極電極との間に熱応力が働いて、剥離を促進することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係るカーボンナノチューブテープの製造方法の基本原理の説明図である。
【図2】 カーボンナノチューブテープの生成メカニズムの説明図である。
【図3】 第1の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法による単一陽極を用いた炭素材料電極相互のアーク放電状況を模式的に示す図である。
【図4】 カーボンナノチューブテープの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】 第1の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法による複数陽極を用いた炭素材料電極相互のアーク放電状況を模式的に示す図である。
【図6】 カーボンナノチューブテープを用いた電界放出型電極を模式的に示す図である。
【図7】 カーボンナノチューブテープを用いた電界放出型電極を模式的に示す図である。
【図8】 本発明の第2の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法による炭素材料電極相互のアーク放電状況を模式的に示す図である。
【図9】 本発明の第3の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法による炭素陰極電極加熱方法を模式的に示す図である。
【図10】 本発明の第4の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法による炭素陰極電極加熱方法を模式的に示す図である。
【図11】 本発明の第5の実施形態に係るカーボンナノチューブテープの製造方法による生成物冷却方法を模式的に示す図である。
【図12】 本発明に係るカーボンナノチューブテープの製造方法の基本原理の説明図である。
【図13】 第1実施形態に係るカーボンナノチューブの製造方法による陽極電極の変形例を模式的に示す図である。
【図14】 本発明の製造方法により得られた陰極堆積物の中心部の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図15】 大気圧下、アルゴンガス雰囲気中での炭素材料電極相互のアーク放電状況(一般放電)を模式的に示す図である。
【図16】 一般放電によりアークを短時間発生させた場合の陰極点を観察した結果を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
Claims (12)
- アーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブを合成する際に、
陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から、炭素材料からなる陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高い不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを吹付けながら、その間にアークを発生させることで、アーク発生経路を拘束し、同時に両電極の相対位置を移動させることにより、アークの陰極点を陰極材料上で移動させることを特徴とするカーボンナノチューブテープの製造方法。 - アーク放電を行うことにより、カーボンナノチューブを合成する際に、
陽極電極に中空電極を用い、中空電極の内部から、炭素材料からなる陰極電極に向けて雰囲気ガスよりも電離能率の高い不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスを、触媒となる金属粉末または金属化合物粉末と共に吹付けながら、その間にアークを発生させることで、アーク発生経路を拘束し、同時に両電極の相対位置を移動させることにより、アークの陰極点を陰極材料上で移動させることを特徴とするカーボンナノチューブテープの製造方法。 - 両電極の相対位置の移動によって、アークの陰極点を陰極材料表面上で速度10mm/分〜1000mm/分の範囲で相対移動させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- アーク放電を、大気雰囲気中にて行なわせることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 中空電極の内部から陰極電極に向けて吹付ける不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスの流量を、中空電極の孔の断面積1mm2当り10〜400ml/分としたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 不活性ガスもしくは不活性ガスを含む混合ガスとして、アルゴンもしくはアルゴンと水素ガスの混合ガスを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 両電極を、アークの発生と終了位置付近を除き、陰極表面上のアーク発生点がほぼ同一の温度履歴を経るように相対移動させることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 陰極表面上の一度陰極点が形成された領域に再び陰極点が位置しないように移動させることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 陰極電極全体またはアークの陰極点もしくは陰極電極上のアーク軌道におけるアーク前方部分を、加熱しながらアーク放電を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 陰極電極として、電気抵抗率が4000μΩ・cm以上もしくは熱伝導率が40W/m・K以下の炭素材料を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- 陰極電極として、表面の算術平均粗さ(Ra)が3.2μm以下の炭素材料を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
- アークの陰極点の軌跡上に生成されている生成物に、アーク放電直後の冷却過程において、ガスを吹付けて、合成することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載のカーボンナノチューブテープの製造方法。
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