JP4017958B2 - 細胞培養担体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は細胞培養技術に関するものである。より具体的には、細胞培養担体、該細胞培養担体を用いた細胞の培養方法、該培養方法により得られる細胞培養物に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子含水ゲルは、生体に類似した構造を持ち、温度、酸性・アルカリ性等の外部条件によって膨張、収縮する性質を有するため、人工筋肉などの人工臓器・組織への応用、内部に薬剤を封入して放出量をコントロールする医療分野への応用のみならず、各種サイトカイン等を含むゲルとして細胞を培養する際に細胞成長の足場としての利用も試みられている。
【0003】
細胞は生体内で組織を形成する際に極性を持って配列することが知られている。例えば、肝細胞は血管内皮細胞側から血液成分を吸収し、逆側から胆汁酸などの代謝物を排泄する。この胆汁酸は細胞毒性が強いため、通常の培養用シャーレに細胞を付着させて培養したのでは、長期間の安定な培養が難しい問題がある。また、細胞に対して一方向から刺激を与えることで細胞の極性が発現することも知られているが、通常の培養用シャーレに細胞を付着させて培養したのでは刺激を接着側から与えられない問題がある。
【0004】
このような問題を解決し細胞の両面を違った培地で培養する細胞培養用材料として、株式会社高研から細胞培養用透過性コラーゲン膜MEN-01が発売されている。しかしながら、この製品ではコラーゲン膜の培地による膨潤が大きく培養中に大きく歪み培養状態を観察するのが困難であった。また、多孔質膜と該多孔質膜上にアルギン酸ゲル層と細胞外マトリックス成分ゲル層又は細胞外マトリックス成分スポンジ層とを重層化させた細胞培養担体が提案されているが(特許文献1)、ミクロフィルター層を有しているため細胞の生育状況を光学顕微鏡で確認することができなかった。さらにキトサンとアニオン性セルロース誘導体の高分子錯体が細胞培養担体として提案されているが(特許文献2)、キトサンとアニオン性セルロース誘導体は混合直後にゲル化するため、平滑な表面の細胞培養担体を得ることが難しく、光学顕微鏡による細胞の観察が困難であった。
【0005】
【特許文献1】
特開2001-120267号公報
【特許文献2】
特開平6-277038号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
本発明の課題は、細胞の両面を異なる培地として培養でき、かつ細胞の生育状況を光学顕微鏡で簡便に行なえる細胞培養用材料を提供することにある。本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、キトサンを含む高分子含水ゲルをコラーゲンで表面被覆して得られた細胞培養担体を用いることによって上記の課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、キトサンを含む高分子含水ゲルを含む細胞培養担体であって、該高分子含水ゲルがコラーゲン及び/又はアルギン酸で被覆された細胞培養担体が提供される。この発明の好ましい態様によれば、2以上の被覆層を含む上記の細胞培養担体;最表層がコラーゲン被覆層又はアルギン酸被覆層である上記の細胞培養担体;最表層がアルギン酸被覆層である上記の細胞培養担体;及びアルギン酸被覆層の上に形成された最表層のキトサン被覆層を含む上記の細胞培養担体が提供される。
別の観点からは、本発明により、上記の細胞培養担体を用いて細胞を培養する方法、上記の細胞培養担体を用いた培養により得られた細胞培養物が提供される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の細胞培養担体は、キトサン含む高分子含水ゲルを含み、該含水ゲルの表面がコラーゲン及び/又はアルギン酸で被覆されていることを特徴としている。また、本発明の別の細胞培養担体では、アルギン酸で被覆された該含水ゲルの表面が、さらにキトサンで表面被覆されていることを特徴としている。本明細書において、「細胞培養担体」とは細胞を培養する際の担体又は支持体となり得るものを意味しており、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。
【0009】
キトサンを含む高分子含水ゲルとは「キトサンゲル」を主成分として含む高分子含水ゲルを意味している(本明細書において、以下、キトサンを含む高分子含水ゲルを「キトサンゲル」と呼ぶ場合がある)。キトサンゲルとしては、細胞培養を行う中性域で溶解しないものであればいかなるものを用いてもよい。例えばキトサンの分子中のアミノ基を中和して細胞培養を行う中性域で溶解しないようにしたものや、キトサンとアニオン残基を有する有機高分子化合物とを塩形成によりゲル化させたもの、あるいは架橋剤で架橋したものなどがあるが、いずれのゲルを用いてもよい。アニオン残基を有する有機高分子化合物としては、たとえば、ポリアスパラギン酸、アルギン酸、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリスチレンスルホン酸などの天然又は合成高分子を挙げることができる。架橋剤としてはアミノ基やヒドロキシル基と反応する基を複数個有するグルタルアルデヒド、ジビニルスルホン、ハロゲン化トリアジンなどのほか、予め活性エステル化した複数のカルボン酸基を有する化合物などがあげられる。
【0010】
キトサンは、キチン(β−ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)を濃アルカリ溶液と加熱するか又はカリウム融解してから、脱アセチル化して得ることのできる生成物(β−ポリ−D−グルコサミン)である。本発明の細胞培養担体の製造には任意のキトサンを用いることができる。例えば、脱アセチル化度が60%以上100%以下で、かつ1重量%酢酸水溶液に0.5重量%の量で溶解した場合に溶液粘度が10cP以上10000cP以下になるものが、膜強度の大きな膜を形成する観点から好ましい。さらに好ましいキトサンとしては、脱アセチル化度が70%以上100%以下、粘度が40cP以上5000cP以下のものである。
【0011】
キトサンのゲル化は、常法に従って行なうことができる。例えば、キトサンの酸性溶液を塗布、乾燥したのち中和することによってキトサンゲルを得ることができる。また、例えば、酢酸水溶液にキトサンを溶解した塗布液を所望の厚さで塗布用基板上に塗布して乾燥し、得られた膜を水酸化ナトリウム水溶液又は中性付近にpHを調整した緩衝液に浸漬してキトサンを中和することによりキトサンゲルを得ることができる。
【0012】
キトサンを含む高分子含水ゲルは化学結合又はイオン結合などの手段で架橋されていてもよい。化学結合による架橋にはジアルデヒド類(グルタルアルデヒドなど)、ジビニルスルホン類(ジビニルスルホニルメタン、N,N’−ジ(1−ビニルスルホニルアセチル)エチレンジアミンなど)、トリアジン類(塩化シアヌル、2,4−ジクロロ−1−ヒドロキシ−1,3,5−トリアジンなど)などの反応性基を複数有する化合物が好ましく用いられる。イオン結合による架橋には多塩基酸(フタル酸、マレイン酸、アジピン酸など)、合成アニオン性高分子化合物(アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸など酸基含有モノマーの重合体や他のモノマーとの共重合体)、天然あるいは天然物から誘導されるアニオン性高分子化合物(アルギン酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン硫酸、アガロペクチン、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースなど)、両性高分子(ゼラチンなど)が好ましく用いられる。
【0013】
キトサンゲルを調製するためのキトサン水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば0.01重量%以上10重量%以下が好ましく、0.1重量%以上5重量%以下が特に好ましい。また、キトサンの溶解性が不足する場合には酸を添加して溶解させてもよく、該酸としては酢酸、塩酸、リン酸等を用いることができる。キトサンゲルを調製するための酸性溶液には、表面張力や粘度を調製するために界面活性剤や有機溶剤を配合してもよい。また、キトサンの酸性溶液の塗布にあたっては、塗布前に内包する気泡を除去するための脱泡工程を採用してもよい。脱泡方法は特に限定されず、液膜脱泡、減圧脱泡、遠心脱泡、超音波脱泡およびこれらの組み合わせなどが好ましく用いられる。キトサンゲルの調製にあたっては、必要に応じて適宜の添加物を1種又は2種以上添加してもよい。このような添加物としては、上記の界面活性剤や有機溶剤のほか、防腐剤、pH調整剤、色素などを例示することができるが、これらに限定されることはない。
【0014】
キトサンゲルをコラーゲンで被覆する方法は特に限定されないが、例えば塗布法または浸漬法で被覆することが好ましい。塗布法は、一般的には被覆すべきゲルの表面にコラーゲン水溶液を塗布する工程を含んでおり、塗布後に水洗や乾燥する工程を任意に採用することができる。浸漬法は、一般的にはコラーゲンの水溶液に被覆すべきゲルを浸漬することによりゲル表面にコラーゲン層を付着させる工程を含んでおり、浸漬後に水洗や乾燥する工程を任意に採用することができる。これらの方法に使用するコラーゲン水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、1 ng/L以上50 mg/L以下が好ましく、1μg/L以上10 mg/mL以下が特に好ましい。コラーゲンの種類は特に限定されず、例えば、I型、II型、III型、IV型、V型などのいずれであってもよい。また、酵素により低分子化したもの、テロペプチドを切断したもの、遺伝子工学により合成したものなどを用いることもできる。酸性溶液に可溶化したコラーゲンを好ましく用いることができる。
【0015】
キトサンゲルをアルギン酸で被覆する方法は特に限定されないが、例えば塗布法または浸漬法で被覆することが好ましい。塗布法は、一般的には被覆すべきゲルの表面にアルギン酸ナトリウム水溶液を塗布する工程を含んでおり、塗布後に水洗や乾燥する工程を任意に採用することができる。浸漬法は、一般的にはアルギン酸ナトリウムの水溶液に被覆すべきゲルを浸漬することによりゲル表面にコラーゲン層を付着させる工程を含んでおり、浸漬後に水洗や乾燥する工程を任意に採用することができる。
【0016】
アルギン酸は、褐藻類の細胞壁構成多糖又は細胞間充填物質として天然に存在しており、これらを原料として採取可能である。原料褐藻類の具体例としては、ヒバマタ目ダービリア科ダービリア属(例えばD.potatorum)、ヒバマタ目ヒバマタ科アスコフィラム属(例えばA.nodosum)、コンブ目コンブ科コンブ属(例えばマコンブ、ナガコンブ)、コンブ目コンブ科アラメ属(例えばアラメ)、コンブ目コンブ科カジメ属(例えばカジメ、ウロメ)、コンブ目レッソニア科レッソニア属(例えばL.flavikans)の褐藻類を例示できる。また、市販のアルギン酸を使用することもできる。アルギン酸のG/Mの比は特に限定されないが、G/Mの比が大きいほどゲル形成能が大きいので、G/Mの比は大きい方が好ましく、具体的には0.1〜1であることが好ましく、0.2〜0.5であることがさらに好ましい。塗布法又は浸漬法におけるアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば1 mg/L以上10 g/L以下が好ましく、10 mg/L以上5 g/mL以下が特に好ましい。
【0017】
本発明の細胞培養担体を製造するにあたり、コラーゲン及びアルギン酸の混合物でキトサンゲルを被覆してもよい。このような混合物にキトサンを配合することも可能である。また、キトサンゲルの表面をアルギン酸で被覆した後、さらにコラーゲンで被覆してもよく、あるいはキトサンゲルの表面をコラーゲンで被覆した後、さらにアルギン酸で被覆してもよい。コラーゲンでの被覆及びアルギン酸での被覆を繰り返して行って多層構造の被覆を形成してもよい。その際に、多層構造の層の1つ又は2つ以上をキトサンによる被覆あるいは他の高分子による被覆とすることもできる。このような多層構造は特に限定されないが、一般的には、最表層がコラーゲン被覆又はアルギン酸被覆、あるいはそれらの混合物による被覆になるように形成される。あるいは、アルギン酸被覆の上にキトサンによる被覆を形成して最表層をキトサン被覆とすることもできる。このような最表層のキトサン被覆にアルギン酸及び/又はコラーゲンを配合しておいてもよい。
【0018】
キトサンによる被覆を形成する方法は特に限定されないが、例えば塗布法または浸漬法で被覆することが好ましい。塗布法は、一般的には被覆すべきゲルの表面にキトサン水溶液を塗布する工程を含んでおり、塗布後に水洗や乾燥する工程を任意に採用することができる。浸漬法は、一般的にはキトサンの水溶液に被覆すべきゲルを浸漬することによりゲル表面にコラーゲン層を付着させる工程を含んでおり、浸漬後に水洗や乾燥する工程を任意に採用することができる。塗布法又は被覆法におけるキトサン水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば1 mg/L以上10 g/L以下が好ましく、10 mg/L以上5 g/mL以下が特に好ましい。
【0019】
コラーゲン、アルギン酸、キトサンのほか、様々な高分子化合物を順次ゲル表面に被覆する方法は特に限定されないが、例えばLayer-by-layer法(Gero Decher著、Science誌、277号、1997年8月29日、1232−1237頁)が好ましく用いられる。Layer-by-layerとは各種高分子化合物の水溶液に膜を浸漬したのち水洗し、新たな高分子化合物に浸漬することを繰り返す方法である。本発明の細胞培養担体の製造にあたっては、キトサンを含む高分子含水ゲル表面の表面修飾は、該高分子含水ゲル両面又は片面に施すことができる。片面のみに該修飾を施すには上記塗布による修飾法もしくは上記浸漬による修飾法の際に片面が浸漬液に触れないようにカバーをつける方法が好ましく用いられる。
【0020】
本発明の細胞培養担体の使用方法は特に限定されないが、例えば、細胞培養担体を筒の底面に貼り、内側と外側で異なる培地を用いた培養を行うことができる。また、本発明の細胞培養担体を2種類の培地が流れている界面に設置して、いわゆる還流培養用の細胞培養担体として用いることもできる。このような種々の使用目的に適するように、本発明の細胞培養担体のキトサンゲルの内部又は裏面を繊維や網などで補強してもよい。このような手段は目的に応じて当業者に適宜選択可能である。
【0021】
本発明の細胞培養担体の被覆面に細胞を培養することができる。培養可能な細胞の種類は特に限定されないが、具体例としては、繊維芽細胞、血管内皮細胞、軟骨細胞、肝細胞、小腸上皮細胞、表皮角化細胞、骨芽細胞、骨髄間葉細胞、胚性幹細胞、体性幹細胞等を例示できる。細胞の培養の際には、通常、細胞濃度1〜1.5万cells/mlの培養液(例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)を細胞培養担体の被覆面上に添加する。細胞の培養条件は、培養する細胞に従って適宜選択し得る。通常は、細胞培養担体の被覆面上で細胞がコンフルエントな単層の細胞層を形成するまで培養を継続することができる。
【0022】
本発明の細胞培養担体を用いた細胞の培養は具体的には次のようにして行なうことができる。細胞培養担体をシャーレ等の内部に設置し、シャーレ内に適当な培養液(例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)を添加して5分浸漬後培地交換することを3回繰り返したのち12〜24時間放置し、培養液を細胞培養担体中に浸潤させる。シャーレ内の培養液を捨て、細胞培養担体の被覆層上に細胞を播き、シャーレ内に適当な培養液(例えば、D-MEM培地、MEM培地、HamF12培地、HamF10培地)を添加する。37℃で1〜2時間放置し、該被覆層に細胞を接着させた後、37℃で培養を続ける。培養の際には、必要に応じて培養液を交換してもよい。通常は培養0.5〜2日ごとに培養液を交換する。本発明の細胞培養担体を用いた細胞の培養により得られる細胞培養物は、本発明の細胞培養担体と、該細胞培養担体の被覆(被覆層が複数あるばあいには最表層の被服層)の表面に保持された細胞層、好ましくは1層の細胞層とを含む。
【0023】
本発明の細胞培養担体には滅菌を施してもよい。滅菌はいかなる方法で行ってもよいが、例えば電子線、γ線、X線、紫外線などの放射線による滅菌が好ましく用いられ、電子線、γ線、紫外線がさらに好ましく用いられ、電子線滅菌が特に好ましく用いられる。滅菌は単一の方法で行ってもよく、あるいは複数の方法を組み合わせて行ってもよい。同一の滅菌法を繰り返し使用してもよい。例えば電子線滅菌を行う場合には、電子線の照射線量は当業者により適宜選択可能であるが、例えば0.1 kGy以上65 kGy以下が好ましく、1 kGy以上40 kGy以下が特に好ましい。エチレンオキサイドガス滅菌などの化学滅菌、高圧蒸気ガス滅菌などの高熱をかける滅菌は、キトサンゲルや被覆層の分解などを引き起こす場合があるので一般的には好ましくない。滅菌した細胞培養担体は無菌条件下において長期間に渡って室温保管が可能である。
【0024】
【実施例】
例1:細胞培養担体の作製
(1)キトサンゲル膜
▲1▼キトサン塗布液の調製
キトサン(和光純薬製 Chirosan 100)2.5gを1重量%の酢酸水溶液98gで溶解した。
▲2▼キトサンゲル膜の調製
1 mmの厚さでポリエチレンテレフタレート基板上にキトサン塗布液を塗布し、塗布物を35℃、30%RHの条件で乾燥した。乾燥したキトサン膜を0.1N水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬したのち、35℃、30%RHの条件で乾燥したものを試料1とした。また、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに等張のpH7.2のリン酸ナトリウム緩衝液に浸漬したものを試料2とした。資料はいずれも20μmの厚さであった。
【0025】
(2)ゲル膜の表面修飾
▲1▼アルギン酸水溶液の調製
アルギン酸ナトリウム(和光純薬製アルギン酸ナトリウム100〜150cP)を1重量%となるように水で溶解した。
▲2▼キトサン水溶液の調製
キトサン(和光純薬製 Chirosan 100)1gを1重量%の酢酸水溶液99 gで溶解した。
▲3▼コラーゲン水溶液の調製
CellmatrixIC(新田ゼラチン製typeIコラーゲン水溶液)を0.03 mg/mlとなるように水で希釈した。
【0026】
▲4▼アルギン酸修飾ゲル膜の作成
(1)で得た試料2を乾燥せずにアルギン酸水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間洗浄した。さらに、キトサン水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間洗浄した。以上の操作を3回繰り返した。次いで、アルギン酸水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間洗浄したのち、35℃、30%RHで乾燥して試料3を得た。▲5▼キトサン修飾ゲル膜の作成
試料3を乾燥せずにキトサン水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間洗浄したのち、35℃、30%RHで乾燥し試料4を得た。
▲6▼コラーゲン修飾ゲル膜の調製
試料3および4を乾燥せずにコラーゲン水溶液に1時間浸漬したのち、流水で1時間洗浄し、35℃30%RHで乾燥して試料5および6を得た。試料1について試料5および6と同様の操作を施したものを試料7および8とした。
なお、試料1から8はいずれも膜が変形しないように4辺を挟んだ状態で乾燥した。
【0027】
(3)キトサン/アルギン酸混合溶液からの膜の調製
上記(2)のアルギン酸水溶液とキトサン水溶液とを1:1の重量比で混合した直後に塗布し、流水で洗浄したのち35℃、30%RHで乾燥して試料9を得た。この試料は塗布前に液がゲル化するため著しく起伏の激しい面状となり、平滑な膜は得られなかった。
得られた試料1から8の構成と面状の評価結果を表1に示す。なお、得られた膜にUV滅菌3時間、電子線滅菌20kGyを施したところ、いずれも菌が確認されなかった。滅菌処理を施していないサンプルからは7000個/m2の菌が確認された。
【0028】
例2:細胞培養担体を用いた細胞の培養
次のようにして細胞培養担体を用いた細胞の培養を行なった。
(1)使用細胞
CHL(Chinese Hamster Lung Cell)
(2)使用培地
Eagle最小培地、10%牛胎児血清
(3)細胞培養担体
高研株式会社製細胞培養用透過性コラーゲン膜MEN-01からコラーゲン膜を剥がした枠に例1で作製した試料1から9の細胞培養担体を貼ったもの、および高研株式会社製細胞培養用透過性コラーゲン膜MEN-01(比較例)をポリスチレン製細胞培養用器に入れ、培地を添加して5分浸漬後培地交換することを3回繰り返したのち一晩放置し、培地を細胞培養担体中に浸潤させた。使用した細胞培養担体と滅菌法の組み合わせを表1に示した。
【0029】
(4)細胞の播種
予め培養しておいた細胞をトリプシン処理で回収し、細胞濃度を50000cell/mlに調整した。セル及びシャーレ内の培地を捨てた後、この細胞液を細胞数10000cell/cm2となるようにシャーレ内に播種し培地を添加した。
(5)培養
CO2インキュベーターを用いて37℃で2日間培養した。
(6)評価
膜の変形は培地に1日浸漬して膜周辺から突出した中央部の高さを評価した。突出が大きいほど光学顕微鏡での観察が困難であり、また5 mm以上になると膜が培養用ディッシュに接触し裏面からの物質供給が不充分となる。また、細胞を光学顕微鏡で観察することにより、細胞接着性と毒性の評価を行った。このとき培養用ディッシュ上での生育状況をタイプとした。
(7)結果
結果を表1に示す。本発明の細胞培養担体は毒性がなく細胞接着性が良好であり、膜の変形も極めて少なかった。また、UV滅菌で培養した培養用ディッシュおよび試料2および5の細胞を光学顕微鏡で観察した結果を図1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【発明の効果】
本発明の細胞培養担体は、細胞の両面を異なる培地として培養でき、かつ細胞の生育状況を光学顕微鏡で簡便に行なえるという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 培養用ディッシュおよび本発明の細胞培養担体(試料2および5)を用いて培養細胞を行った結果を示した光学顕微鏡写真である。
Claims (6)
- キトサンを含む高分子含水ゲルを含む細胞培養担体であって、該高分子含水ゲルがコラーゲン及び/又はアルギン酸で被覆された膜状の細胞培養担体。
- 2以上の被覆層を含む請求項1に記載の細胞培養担体。
- 最表層がコラーゲン被覆層又はアルギン酸被覆層である請求項2に記載の細胞培養担体。
- 最表層がアルギン酸被覆層である請求項2に記載の細胞培養担体。
- アルギン酸被覆層の上に形成された最表層のキトサン被覆層を含む請求項2に記載の細胞培養担体。
- 請求項1ないし5のいずれか1項に記載の細胞培養担体を用いて細胞を培養する方法。
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