JP4013134B2 - 放射性物質モニタリング材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、放射性同位元素、または放射線発生装置を使用している事業所、例えば原子力関連施設や医療機関のRI使用室等の排気系に使用され、排気中に存在する放射性物質、特に放射性の沃素や沃化メチルをモニタリングするためのモニタリング材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、エネルギー消費量が増加し、それに伴って原子力発電所が多く建設されている。これらの原子力施設等から排出される排出ガス中の放射性ガスは、完全に除去する必要がある。また、原子力施設の増加により、不慮の原子力災害に効果的に対処するため環境における放射性ガスを捕集し、モニタリングすることが重要となっている。また、ラジオアイソトープが大学、各種の研究機関、医療施設等多くの場所で使用されるようになり、その排気処理やモニタリングが重要となっている。放出される排ガス中に含有される放射性沃素の捕集材としては主に活性炭が使用されている。しかし、活性炭は沃素単体に対しては捕集性能を有するが、有機系の沃素化合物特に沃化アルキルに変化した場合などでは活性炭ではあまり有効でない。そこで有機系沃素化合物の捕集用としては、沃化カリウム等の有機系沃素化合物と同位体反応が期待される物質を添着した活性炭や特許文献1のように有機系沃素化合物と直接反応する物質を添着した活性炭を使用している。しかしながら、上記のような従来の捕集材では、有機系の沃素化合物が吸着した後、多量に脱離および加熱脱着を生じてしまうという問題を抱えていた。
【0003】
【特許文献1】
特公昭62−44239号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、放射性ガス中に含有される有機沃素化合物の脱離および加熱脱着を抑制した放射性物質モニタリング材を提供することを技術的な課題とするものである。
【0005】
【問題を解決するための手段】
本発明はかかる問題点に鑑み、鋭意検討した結果得られたものである。すなわち細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.15cc/g以下であって、細孔直径3nm以下の細孔容積が0.50cc/g以上、さらに平均細孔直径が2nm以下からなる繊維状活性炭にアミンを添着したものが、化学吸着と物理吸着との相乗作用で有機系沃素化合物の脱離および加熱による脱着を生じにくいことを見出し本発明に至ったのである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、細孔直径3〜30nmの細孔容積を0.15cc/g以下、細孔直径3nm以下の細孔容積を0.50cc/g以上、さらに平均細孔直径を2nm以下の繊維状活性炭にアミンを添着することにより、有機系沃素化合物の脱離および加熱による脱着が生じにくいことを可能とした。
【0007】
この結果、本発明は、活性炭を用いて放射性物質を捕集する放射性物質モニタリング材において、沃化メチルの脱離率が50%以下であり、沃化メチルの加熱脱着率が50%以下で、かつ活性炭が繊維状であることを特徴とする放射性物質モニタリング材を提供するものである。
【0008】
本発明における沃化メチルの脱離率とは、平衡吸着に達した試料に乾燥窒素ガスを通気した後における脱離した沃化メチル重量の沃化メチル平衡吸着重量に対する割合で、この値が小さい程脱離が抑制されていることを意味する。即ち、JIS K 1477の5.7に規定された装置を用い、平衡吸着に達した試料に乾燥窒素ガスを30分間通気し、通気前後の重量から下記の計算式により求める。
脱離率=(A−B)/A×100
A:試料の沃化メチル平衡吸着重量
B:試料の通気後沃化メチル保持重量
【0009】
沃化メチルの脱離率が50%を超えると、沃化メチルが多量に脱離し試料の沃化メチル保持量が少なくなってしまうため、放射性物質モニタリング材として好ましくない。
【0010】
また、沃化メチルの加熱脱着率とは、平衡吸着に達した試料の加熱後における脱着した沃化メチル重量の沃化メチル平衡吸着重量に対する割合で、この値が小さい程加熱脱着が抑制されていることを意味する。即ち、加熱脱着率は平衡吸着に達した試料を160Lの恒温器内において100℃で3時間加熱し、加熱前後の試料の重量から下記の計算式により求められる。
加熱脱着率=(A−C)/A×100
A:試料の沃化メチル平衡吸着重量
B:試料の加熱後沃化メチル保持重量
【0011】
沃化メチルの加熱脱着率が50%を超えると、沃化メチルが温度上昇により多量に脱着し、試料の沃化メチル保持量が少なくなってしまうため、放射性物質除去フィルターとして好ましくない。
【0012】
本発明において、アミンを添着させる活性炭は平均細孔直径が小さいものほど放射性ガスの吸着速度が増大することから、平均細孔直径が2nm以下のものが好ましい。平均細孔直径が2nm以上のものは、吸着したガスが多量に脱離してしまうため好ましくない。ここでいう平均細孔直径とは、例えば高速比表面積・細孔分布測定装置(島津製作所製ASAP2010)を用いて測定され、繊維状活性炭の細孔形状を円柱状と仮定し、BET法により求めた比表面積と細孔容積より算出する。
【0013】
さらに細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.15cc/g以下でかつ細孔直径3nm以下細孔容積が0.50cc/g以上からなることにより、脱離および加熱による脱着が生じにくくなる。細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.15cc/g以上もしくは、細孔直径3nm以下細孔容積が0.50cc/g以下であれば効果はほぼ一定となる。ここでいう細孔容積とは、例えば高速比表面積・細孔分布測定装置(島津製作所製ASAP2010)を用いて測定され、メソポア孔についてはBJH(Barrett−Joyner−Halenda)法、マイクロポア孔についてはHK(Horvath−Kawazoe)法により求められた細孔分布から算出する。
【0014】
本発明では、繊維状活性炭を使用することが重要である。繊維状活性炭は従来使用されている粒状活性炭に比べガス吸着速度が速く、優れた捕集・除去効果を発揮することができ、形状成型の点でも自由度があり好適である。繊維状活性炭としては綿、麻といった天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶融紡糸法によるといった再生セルロース繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維に、芳香族ポリアミド繊維、架橋ホルムアルデヒド繊維、リグニン繊維、フェノール系繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維があげられるが、好ましくは得られる繊維状活性炭の物性(強度等)の高いこと、優れた吸着性能が得られることから再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維を用いて製造するのがよい。具体的には、これら原料繊維の短繊維あるいは長繊維を用いて製織、製編、不織布化した布帛を必要に応じて適当な耐炎化剤を含有させた後、450℃以下の温度で耐炎化処理を施し、次いで500℃以上1000℃以下の温度で炭化賦活する公知の方法によって繊維状活性炭が製造できる。
【0015】
該繊維状活性炭をシート化する際の形態としては、織物状、編物状、不織布状、フェルト状等いずれの形態でもよく、繊維状活性炭と他の繊維材料とを混抄した紙状のものも使用可能である。また、これらを複数層積層したものでもかまわない。繊維状活性炭からなるシートの目付量としては、30〜1000g/m2が好ましく、50〜700g/m2が特に好ましい。30g/m2未満では、放射性物質を捕集する能力が低くなるのみならずシート強度が極端に低下し取り扱い上も好ましくない。一方1000g/m2を超えると通気性を損なうとともにシートが厚くなりすぎ取り扱い性が低下するため好ましくない。
【0016】
本発明に用いるアミンは次の一般式によって表される。
【化1】
【0017】
式中R1、R2およびR3は水素および置換された又は置換されないアルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、脂環式、複素環式および式−NR'R''はR1、R2、R3と同一の群から選択されるがR1、R2およびR3のすべてを水素およびメチルから選ぶことはできずR1とR2の二つのいずれかと窒素と一緒になって複素環式基を表すことが可能で、又はR1、R2とR3のいずれかの二つと一緒になって式=CR'''R''''(R'''とR''''はR1、R2およびR3から選択される)の基からなる群より選択される。R1、R2およびR3中に含まれるのはまた不飽和の、重合体状の置換された又は置換されない脂肪族の、又は芳香族の基である。
【0018】
具体的には、1,4−ジアザ−2,2,2−ピシクロオクタン(トリエチレンジアミン)、N,N'−ビス−(3−アミノプロピル)−ピペラジン、N,N−ジメチル−アミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、1,5−ジアザビシクロウンデセン、ポリ−3級−ブチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレンイミン、1,5−ジアザピシクロ〔4,3,0〕ノン−5−エン、1,5−ジアザピシクロ〔5,4,0〕ウンデ7−5−エン、2−メチル−1,4−ジアザピシクロ〔2,2,2〕オクタン、フェニルヒドラジン、2−シアノピリジン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ヘキサメチレンテトラミン、メチルポリエチレンイミン、ポリアルキルポリアミン等があげられる。特に、1,4−ジアザ−2,2,2−ピシクロオクタン(トリエチレンジアミン)が添着量、取り扱いの点で効果が優れる。
【0019】
アミンの添着量としては3〜40重量%、特に5〜30重量%が好ましい。3重量%未満では脱離および加熱による脱着を生じにくいという効果が小さく、40重量%を超えると添着剤が必要以上に細孔を充填してしまい吸着性能が落ちるので好ましくない。アミンの添着方法は、アミンの溶液に該繊維状活性炭からなるシートを浸漬、乾燥する方法、あるいはアミン溶液を噴霧して溶液を添着させた後乾燥する方法等がある。
【0020】
本発明において繊維状活性炭からなるシートは少なくとも一方を保護シートで積層されていることが望ましい。保護シートを積層していないとシートの強度が弱いため取り扱いが困難となったり、繊維状活性炭が脱落し下流側に飛散してしまう恐れがあるため好ましくない。保護シートの形態としては織物状、編物状、不織布状、紙状等適宜なものを用いることができ、特に限定はない。保護シートの目付は20〜150g/m2が好ましい。20g/m2未満では繊維状活性炭からなるシートを保護するという効果が小さく、150g/m2を超えると通気性が悪くなり、繊維状活性炭からなるシートへ効率よくガスを通気させることが困難となるため好ましくない。
【0021】
さらに、保護シートはエレクトレット繊維シートであることが好ましい。エレクトレット繊維シートとは、保護シート全体がエレクトレット繊維シートである場合や、エレクトレット化された繊維と他の繊維を混繊してシートを形成させる場合がある。保護シートをエレクトレット繊維シートとすることで、ガスのみでなく粉塵も捕集することができ、放射性物質除去フィルターとしてはより好ましい態様となる。この際、エレクトレット繊維シートの平均繊維径は0.5〜100μm、特に1〜40μmが好ましい。平均繊維径が0.5μm未満では粉塵の目詰まりが速く、100μmを超えると粉塵を捕集する効率が悪くなるため好ましくない。
【0022】
本発明において、繊維状活性炭からなるシート同士あるいは繊維状活性炭からなるシートと保護シートを積層する方法としては、積層するシートの間に熱可塑性の接着シートを挟み加熱されたロール間に挿入し加圧する方法や、熱可塑性樹脂からなるパウダー状の接着剤を散布後加熱されたロール間に挿入し加圧する方法、あるいは熱可塑性樹脂を溶融させた状態でスプレーノズルを用いて散布しロール間に挿入し加圧する方法、またはニードルパンチ法等、既知の技術を任意に用いることが出来る。
【0023】
以下実施例によって本発明を更に詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
【0024】
測定方法は下記の方法に準拠した。
平均細孔直径:島津製作所製ASAP2010を使用し、BET法による比表面積と細孔容積から細孔形状を円柱状と仮定し算出した。
細孔容積:島津製作所製ASAP2010を使用し、メソポア孔についてはBJH(Barrett−Joyner−Halenda)法により、マイクロポア孔についてはHK(Horvath−Kawazoe)法により求められた細孔分布から算出した。
アミン添着量:アミン水溶液に添着する前の活性炭重量と、添着後100℃で1時間乾燥した後の活性炭重量の差より計算して求めた。
脱離率:JIS K 1477の5.7に規定された装置を用い、沃化メチル蒸気を含む25℃の窒素気流を2L/minの割合で1時間通気した後、25℃の乾燥窒素ガスを1.8L/minで30分間通気した後のモニタリング材試料重量減少分より求めた。
加熱脱着率:JIS K 1477の5.7に規定された装置を用い、沃化メチル蒸気を含む25℃の窒素気流を2L/minの割合で1時間通気した後、160Lの恒温器内において100℃で3時間加熱した後のモニタリング材試料の重量減少分より求めた。
【0025】
(実施例1)
細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.01cc/g、細孔直径3nm以下の細孔容積が0.73cc/g、さらに平均細孔直径が1.80nmの繊維状活性炭からなる編物状シートを1,4−ジアザ−2,2,2−ピシクロオクタン(トリエチレンジアミン)の1.0%の水溶液に1時間浸漬して、乾燥、アミン添着量が14.7重量%の添着繊維状活性炭からなるシートを得た。該繊維状活性炭からなるシートの片側に目付30g/m2のポリプロピレンエレクトレット不織布を、もう片側に目付80g/m2のポリエステルスパンボンド不織布を、それぞれ目付15g/m2の熱溶融性接着シートによって82℃で積層接着し実施例1を得た。
【0026】
(比較例1)
細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.01cc/g、細孔直径3nm以下の細孔容積が0.73cc/g、さらに平均細孔直径が1.80Åの繊維状活性炭からなる編物状シートの片側に目付30g/m2のポリプロピレンエレクトレット不織布を、もう片側に目付80g/m2のポリエステルスパンボンド不織布を、それぞれ目付15g/m2の熱溶融性接着シートによって82℃で積層接着し比較例1を得た。
【0027】
(比較例2)
細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.34cc/g、細孔直径3nm以下の細孔容積が0.49cc/g、さらに平均細孔直径が2.75Åの繊維状活性炭からなる編物状シートを1,4−ジアザ−2,2,2−ピシクロオクタン(トリエチレンジアミン)の1.0%の水溶液に1時間浸漬して、乾燥、アミン添着量が14.9重量%の添着繊維状活性炭からなるシートを得た。該繊維状活性炭からなるシートの片側に目付30g/m2のポリプロピレンエレクトレット不織布を、もう片側に目付80g/m2のポリエステルスパンボンド不織布を、それぞれ目付15g/m2の熱溶融性接着シートによって82℃で積層接着し比較例2を得た。
【0028】
実施例1、比較例1、比較例2にそれぞれに25℃の1/10飽和度沃化メチル蒸気を含む窒素を2L/minの割合で1時間通気した後、25℃の乾燥窒素ガスを1.8L/minの割合で30分間通気し得た脱離率、および25℃の1/10飽和度沃化メチル蒸気を含む窒素を2L/minの割合で1時間通気した後、160Lの恒温器内において100℃で3時間加熱して得た加熱脱着率を表1に記した。
【表1】
【0029】
表1に明らかなように、実施例1は、放射性物質を捕集するモニタリング材として、沃化メチルの脱離率および加熱脱着率が比較例1、比較例2に比べ極めて低く、沃化メチルの脱離および加熱による脱着が生じにくく、優れた放射性物質モニタリング材といえる。
【0030】
【発明の効果】
本発明によると、放射性同位元素、または放射線発生装置を使用している事業所において、当該事業所から排気される放射性ガス中に含有される有機沃素化合物を捕集、モニタリングする能力に優れ、特に脱離および加熱脱着を抑制し放射性の沃素や沃化メチルを捕集するのに好適な放射性物質モニタリング材を得ることができる。
Claims (5)
- 細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.15cc/g以下、細孔直径3nm以下の細孔容積が0.50cc/g以上であって、平均細孔直径が2nm以下の繊維状活性炭からなるシートにアミンを添着してなる放射性物質モニタリング材。
- 請求項1記載のアミンの添着量が繊維状活性炭の3〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質モニタリング材。
- 沃化メチルの脱離率が50%以下で、かつ平衡吸着に達した試料を100℃で3時間加熱し、加熱前後の試料の重量から下記の計算式により求められる沃化メチルの加熱脱着率が50%以下であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の放射性物質モニタリング材。
(式)加熱脱着率=(A−B)/A×100
A:試料の沃化メチル平衡吸着重量
B:試料の通気後沃化メチル保持重量 - 請求項1記載の繊維状活性炭からなるシートの少なくとも一方に保護シートが積層されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の放射性物質モニタリング材。
- 請求項4記載の保護シートがエレクトレット繊維シートであることを特徴とする放射性物質モニタリング材。
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