JP4007856B2 - ポリエステル異収縮混繊糸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱収縮率の異なるポリエステルマルチフィラメントからなる異収縮混繊糸に関するものである。さらに詳しくは、低収縮糸が、繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントと繊維軸方向に太細を有しないマルチフィラメントとからなり、かつ糸全体として熱水(100℃)処理後の乾熱(180℃)処理における自己伸長率が0超〜6%であるポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントからなり、高収縮糸がポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントからなる異収縮混繊糸であって、布帛にストレッチ性と、繊細で上品なふくらみ感、ナチュラルでドライな触感および優れた杢調(染着濃淡効果)とを同時に発現する性能を持つポリエステル異収縮混繊糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
物理的特性、特に熱収縮率の異なる複数のポリエチレンテレフタレートを組み合わせた混繊糸は、ポリエステル織編物に天然繊維に近いふくらみ感や手触り感もたらす素材として広く使用されている。しかしポリエチレンテレフタレートからなる混繊糸は、布帛にした時のストレッチ性が充分発現しないので、スポーツ衣料用途などのストレッチ性素材としては好ましいものではなかった。
【0003】
一方、ポリエステル本来の特性である優れた寸法安定性、耐光性、低吸湿性、熱セット性を維持し、弾性回復率に優れた特性を持っているポリトリメチレンテレフタレート繊維がストレッチ性素材として注目されており、ポリエチレンテレフタレート繊維との混繊糸が、ストレッチ性能を有するポリエステル異収縮混繊糸として提案されている。
【0004】
例えば、特開平11−140738号公報、特開平11−181639号公報には、ポリトリメチレンテレフタレートを高収縮糸とし、ポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル(ポリエチレンテレフタレートが主)を低収縮糸としたストレッチ布帛用のポリエステル異収縮混繊糸が開示されている。
【0005】
ポリトリメチレンテレフタレート繊維を高収縮糸に配置することによって、確かに、従来のポリエチレンテレフタレート混繊糸よりも布帛のストレッチ性向上は認められる。しかしながら、上記で開示された何れの例においても、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる低収縮糸が混繊糸の鞘成分となった時に、繊維軸方向の形状、特性は均一であり、単純な層構造となっており、得られた布帛は単純な風合いにとどまる為、シルク布帛のような繊細で上品なふくらみ感、綿などの紡績糸織編物のナチュラルでドライな感触および染着濃淡効果による優れた杢調が充分発現しないという課題が残っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、優れたストレッチ性と、繊細で上品なふくらみ感、ナチュラルでドライな触感および優れた杢調とを同時に布帛で発現するポリエステル異収縮混繊糸を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者の研究によれば、上記課題は、「繊維軸方向に太細を有するポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントと繊維軸方向に太細を有しないポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントとからなり、糸全体として熱水(100℃)処理後の乾熱(180℃)処理における自己伸長率が0〜6%である低収縮糸と、ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントからなる高収縮糸とが互いに混繊交絡してなり、かつ該低収縮糸が、小円状の開口部と円弧状の開口スリットを配置した形状を有する吐出孔から、該小円状の開口部における吐出ポリマー流速が円弧状の開口スリットにおける吐出ポリマー流速の1.5〜5.0倍となるようにポリエチレンテレフタレートを別々のポリマー流として溶融吐出した後、合流させ冷却固化した繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントと、断面積が吐出側に向かって連続的に拡大する形状の吐出孔から、紡糸ドラフトが10000以上となるようにポリエチレンテレフタレートを溶融吐出した後に冷却固化した繊維軸方向に太細を有しないマルチフィラメントとを、合糸した後に1000〜3000m/minの速度で引取った未延伸マルチフィラメントを、温度180〜280℃、弛緩率5〜45%で弛緩熱処理したものであるポリエステル異収縮混繊糸。」により達成されることが見出された。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の異収縮混繊糸の低収縮糸を構成するポリエチレンテレフタレートは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85モル%以上がエチレンテレフタレートからなるポリエステルをいい、テレフタル酸及びエチレングリコール以外の成分をテレフタル酸成分に対して20モル%以下の割合で共重合してもよいが、実質的に共重合成分を含有しないもの又は5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したカチオン可染性ポリエステルが好ましい。なお、固有粘度(オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定)は、通常衣料用布帛素材として採用される0.45〜0.70の範囲が適当である。また、公知の添加剤、例えば、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤などを配合してもよい。
【0009】
上記のポリエステルからなる低収縮糸は、繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントと繊維軸方向に太細を有しないマルチフィラメントとからなり、かつ糸全体として熱水(100℃)処理後の乾熱(180℃)処理における自己伸長率0〜6%のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントであることが大切である。なお、ここでいう低収縮糸とは、後述する高収縮糸と比較して熱水(100℃)処理時の収縮率が低いことを意味し、熱水(100℃)での収縮率は1%以下であることが望ましい。
【0010】
このような特性を有する低収縮糸成分は、一旦熱水(100℃)処理を受けると、その収縮特性差から異収縮混繊糸の鞘部に主として配されるようになる。そして鞘部に配された該マルチフィラメントは、その後仕上げ工程等でのより高温の熱処理を受けると、自己伸長して、後述する主として芯部に配されるようになる高収縮糸成分とさらに糸足差が増大する。なお、熱水処理後の乾熱(180℃)処理における自己伸長率が6%を超える場合には、自己伸長が過度に進行し、布帛表面が荒れた感じを与えるので避けなければならない。また、このような自己伸長性を有するマルチフィラメントを安定に製造することも困難である。一方、0%以下(伸長特性なし)の場合には、自己伸長しないか又は収縮するため、後述の自己伸長による繊維軸方向の好ましい形態変化が発現しない。
【0011】
この時、繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントと繊維軸方向に太細を有しないマルチフィラメントとはお互いに異なった自己伸長特性を有しているので、複雑な自己伸長が発現する。すなわち、繊維軸方向に太細を有しないマルチフィラメントは、繊維軸方向およびマルチフィラメント間とで均一な自己伸長を起こす。一方、繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントは、繊維軸方向およびマルチフィラメント間でランダムに不均一な自己伸長を起こす。かくして、この低収縮糸では、2種類のマルチフィラメントが複雑に交絡した重畳層構造の鞘構造が発現する。このような重畳層構造は、布帛にシルクのような繊細で上品なふくらみ感(シルキー感)をもたらす。
【0012】
さらに、繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントにおいては、自己伸長後、太い繊度部分(濃染)と細い繊度部分(淡染)がランダムな自己伸長で再分散され好ましい杢が発現するとともに、再分散した微細で複雑な太細形態差によって、綿織編物に見られるナチュラルでドライな感触が発現する。なお、繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントを任意の断面で観察すると、例えば図1に示すように、大小の断面がランダムに混在している状態が把握できる。本発明においては、繊維軸方向の太細繊度分布を、繊維の任意断面で最大断面積(Amax)と最小断面積(Amin)との比率(Amax/Amin)で規定した。該比率(Amax/Amin)が2.5以上、より好ましくは3.0以上の範囲であれば、より複雑な自己伸長性が発現し、布帛で優れたドライ感と杢調が発現する。しかし、Amax/Aminが8.0以上の場合は、布帛とした時に太繊度部の磨耗が起こり易くなる。また、紡糸時の工程通過性も悪くなる傾向が出てくる。また、太細を有するマルチフィラメントの繊維断面に1〜15%、より好ましくは2〜12%の中空部が存在するのが望ましい。中空率が1%未満の場合は、布帛のふくらみ感が不足する場合がある。15%を超える場合は、紡糸工程通過性が悪くなる場合が多くなる。
【0013】
一方、本発明の異収縮混繊糸の高収縮糸は、布帛にストレッチ性を付与するためにポリトリメチレンテレフタレートで構成されている必要がある。なお、ここでいうポリトリメチレンテレフタレートとは、全繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは85%以上がトリメチレンテレフタレートであるポリエステルをいう。かかるポリエステルには、テレフタル酸及び1,3−プロパンジオール以外の成分を全酸成分に対して20モル%以下、好ましくは15モル%以下共重合したものであってもよい。好ましく用いられる共重合成分としては、酸成分としてフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などを例示することができ、また、グリコール成分としてエチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパンなどを例示することができる。特に、低収縮糸がカチオン可染ポリエステルである場合は、実質的に5−ナトリウムスルホイソフタル酸を含有しないカチオン不可染性ホモポリエステルが好ましい。
【0014】
その固有粘度(オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定)は、通常衣料用布帛素材用として使用されるポリトリメチレンテレフタレートと同じ範疇の固有粘度0.7〜1.5のものが好ましい。また、公知の添加剤、例えば、顔料、染料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤などを配合してもよい。
【0015】
かかるポリトリメチレンテレフタレートからなる高収縮糸は、布帛に良好なストレッチ性能を付与するため、その10%伸長弾性回復率が70%以上、特に80%以上であることが好ましい。
【0016】
また、該高収縮糸の熱水(100℃)収縮率は7〜18%、特に10〜16%の範囲であることが望ましい。熱水(100℃)収縮率が18%を超える場合には、熱水(100℃)処理後でも繊維内部に構造歪みが残りやすくなり、仕上げ工程等でのさらなる熱処理で収縮が起こり、得られる布帛の風合を極めて硬いものとしてしまう場合が多くなる。一方、熱水(100℃)収縮率が7%未満の場合には、低収縮糸との糸足差を大きくすることが難しくなり、得られる布帛のふくらみ感が低下して単調でフラットな風合のものとなりやすくなる。なお、高収縮糸を構成するマルチフィラメントの断面形状は、円形断面が工程安定性の面でより好ましい。
【0017】
本発明のポリエステル異収縮混繊糸は、上記低収縮糸と高収縮糸とを混繊交絡してなるものであるが、その交絡の程度は40〜90個/m、特に50〜80個/mの範囲が適当である。交絡度が40個/m未満の場合には、高収縮糸と低収縮糸との絡みが不充分となって布帛表面が粗野な外観となりやすい。一方、交絡度が90個/mを超える場合には、高収縮糸と低収縮糸との絡みが進み過ぎるために繊維間空隙が減少し、布帛のふくらみ感が不充分なものとなりやすい。
【0018】
混繊糸としての総繊度は60〜300dtex、低収縮糸と高収縮糸との構成重量比は50/50〜70/30の範囲、低収縮糸の単糸繊度は1.5〜6.0dtexの範囲、高収縮糸の単糸繊度は2.0〜7.0dtexの範囲が、布帛の反撥性、柔らかさ及び繊細な手触り感を確保する上で好ましい。
【0019】
以上に説明した本発明のポリエステル異収縮混繊糸は、例えば以下の方法で、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントからなる低収縮糸とポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントからなる高収縮糸とを別々に製糸した後、該2種のマルチフィラメントを混繊交絡することにより製造することができる。
【0020】
すなわち、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントについては、ペレット状となしたポリエチレンテレフタレートを常法で乾燥し、スクリュウ押出機を備えた通常の溶融紡糸設備で溶融、吐出し、冷却し、適切な油剤を付与し、延伸することなく巻き取ってマルチフィラメントとなす。
【0021】
その際、図2に示すような小円状の開口部(図2の4)と円弧状の開口スリット(図2の5)とを配置した形状を有する吐出孔、および特開平5−132810号公報に記載されているような断面積が吐出側に向かって連続的に拡大する吐出部(ランド部)を有する吐出孔(図3)を、同一あるいは異なる面に配置した紡糸口金を用いて溶融吐出することが大切である。
【0022】
小円状の開口部と円弧状の開口スリットを配置した形状を有する吐出孔から、別々に吐出されたポリマー流は吐出後直ちに合流され1つのポリマー流となる。この時、該小円状の開口部における吐出ポリマー流速が、円弧状の開口スリットにおける吐出ポリマー流速の1.5〜5.0倍として吐出することが大切である。小円状の開口部からの高流速のポリマー流が直線開口スリットを通して円弧状の開口スリットから吐出される低流速のポリマー流の側面に衝突し、微小な脈動が起こる。この脈動によって、ポリマー流が冷却・固化される過程で繊維軸方向に太い繊度部と細い繊度部が複雑に混在することになる。また、このような繊維軸方向の太細斑は、さらに物性斑を内在しており、後述する弛緩熱処理あるいは染色、仕上げ工程における熱処理時に、微細で複雑な収縮斑あるいは伸長斑が発現することになる。
【0023】
小円状の開口部は、円弧状開口スリットの外弧の外側に2〜8個、さらに好ましくは3〜6個配置するのが望ましい。開口部が1個の場合、脈動が少なく、繊維軸方向の太細斑の発現が充分でなく、低収縮糸の任意の断面における最大断面積(Amax)と最小断面積(Amin)との比率(Amax/Amin)が2.5未満となることが多い。また、紡糸引取りが不安定となることが多い。開口部が9個以上の場合、ポリマー流の脈動があまりにも激しくなり、紡糸断糸が発生し易くなる。
【0024】
小円状の開口部における吐出ポリマー流速(S1)と円弧状の開口スリットにおける吐出ポリマー流速(S2)との比(S1/S2)は、特開昭60−259615号公報に記載されている如く、小円状の開口部直径および円弧状の開口部のスリット巾を調整することによって任意に設定することができる。該ポリマー流速比(S1/S2)が1.5未満の場合は、脈動が少なく、断面比率(Amax/Amin)が2.5未満となることが多い。ポリマー流速比(S1/S2)が6.0を超える場合、ポリマー流の脈動がかなり大きくなり、紡糸断糸が発生し易くなる。
【0025】
円弧状の開口スリットは、小円状の開口部より内側に、同一円周(PCD)(図2の7)となるように配置する。この時、PCDを変更することによって、該ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント断面における中空率が1〜15%となるように設定することができる。
【0026】
一方、断面積が吐出側に向かって連続的に拡大する吐出部(ランド部)(図3の9)を有する吐出孔を用いると、紡糸口金内のポリマー流動を乱すことなく、吐出面におけるポリマー通過線速度を大幅に下げることが可能となり、紡糸ドラフトを10000以上とした状態で紡糸引き取りすることができるようになる。なお、ここでいう紡糸ドラフトとは、紡糸引取速度(V2)に対する吐出面におけるポリマー平均通過線速度(V1)の比(V2/V1)であり、ポリマー吐出量及び紡糸引取速度に応じて、ポリマー吐出時の吐出横断面積を適宜変えることによって任意に変更することができる。紡糸ドラフトが10000以上、より好ましくは20000〜200000、の状態で紡糸引き取りされた未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントは、前述の小円状の開口部と円弧状の開口スリットとを配置した形状を有する吐出孔から吐出された未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントとともに1000〜3000m/minで紡糸引き取りされる。
【0027】
この際、紡糸ドラフトが10000未満の場合は、小円状の開口部と円弧状の開口スリットとを配置した形状を有する吐出孔から吐出されたポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントとの収縮性および自己伸長性の差が小さくなり、重畳層構造の鞘構造が発現し難くなる。紡糸ドラフトが200000を超えると、紡糸引き取り時に、過重な紡糸張力が発生し、紡糸断糸が多くなることが多い。
【0028】
紡糸引取速度が3000m/minを超える場合には、得られた未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの結晶化が進むので、後述の弛緩熱処理を施しても充分な自己伸長性を付与することが困難となる。紡糸引取速度が1000m/min未満の場合には、得られた未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントは脆弱であり、混繊糸に使用することが困難となる。
【0029】
次に、紡糸引き取りされた未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを一旦巻き取った後、少なくとも2個の回転ローラー間にヒーターを設置した熱処理装置に通し、弛緩熱処理を施し、自己伸長性を有する低収縮糸とする。熱処理用ヒーターは非接触タイプが工程通過性の面で好ましい。弛緩率は5〜45%、より好ましくは10〜35%の範囲、ヒーター温度は180〜280℃、より好ましくは200〜260℃の範囲で弛緩熱処理するのが望ましい。弛緩率が5%未満又はヒーター温度が180℃未満の場合には、熱水(100℃)処理後の乾熱(180℃)において収縮率が0%以上となり、自己伸長性がなくなる場合が多くなる。さらに、ヒーター温度が180℃未満の場合には、熱水(100℃)収縮率を高収縮糸の熱水(100℃)収縮率より低くすることが困難になる場合も多くなる。一方、弛緩率が45%を超える場合には、弛緩熱処理中に走行糸条がローラーに巻きつくことが多くなり、またヒーター温度が280℃を超える場合には、ヒーター付近で断糸が発生しやすくなる。
【0030】
一方、高収縮糸を構成するポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントは、通常のポリエチレンテレフタレートと同様の方法で溶融紡糸延伸して得ることができる。ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントの延伸は、一旦未延伸糸として巻き取りした後、別途延伸する紡糸別延伸方式で行ってもよいし、紡糸後直接延伸するワンステップ法(Spin−draw)で実施してもよい。しかし、ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントは紡糸後一旦巻き取ると、紡糸条件によっては未延伸糸の収縮が起こり、巻き取られたパッケージの巻き締めが発生してワインダーから抜き取り難くなることが多いので、Spin−draw方式で製糸するのが好ましい。延伸時の予熱温度は45〜90℃、延伸セット温度は100〜140℃の範囲が好ましい。予熱温度が45℃未満の場合は不均一な延伸となり、品質斑の多いマルチフィラメントとなりやすい。一方、予熱温度が90℃を超える場合はフロー延伸となりやすく、正常な物性のマルチフィラメントが得難い。延伸セット温度が100℃未満の場合は、マルチフィラメントの熱水(100℃)収縮率が18%を超える場合が多くなる。一方、延伸セット温度が140℃を超える場合は、マルチフィラメントの熱水(100℃)収縮率が7%未満となることが多く、また延伸中に断糸が多くなる。延伸倍率は、紡糸速度に応じて、マルチフィラメントの伸度が35〜65%となるように設定するのが好ましい。伸度が35%未満となるような延伸倍率に設定すると、延伸断糸、毛羽が多くなる。逆に伸度が65%を超えるような延伸倍率に設定すると、得られたマルチフィラメントの10%伸長弾性回復率が70%未満となることが多い。
【0031】
このようにして得られた、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(低収縮糸)とポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメント(高収縮糸)とを引き揃え、2.0〜3.5%のオーバーフィードを掛けつつ、公知のインターレースノズルで、交絡度が40〜90個/mとなるようにノズル圧空圧を調整し、混繊交絡する。得られたポリエステル異収縮混繊糸は、製織又は製編され、精練、染色、仕上げ加工処理を経てストレッチ織編物となる。
【0032】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定した。
【0033】
(2)乾熱(180℃)における自己伸長率(%)
繊維試料をガーゼの袋に入れ、100℃の熱水中に30分間浸漬し、取り出し袋入りのまま、24時間室温で放置乾燥した。次いで繊維試料を袋から取り出し、JIS L1013 8.18.2 B法に準じて乾熱収縮率(この正負を逆にした値が自己伸長率)を測定した。乾燥機温度は180℃とした。
【0034】
(3)熱水(100℃)収縮率(%)
JIS L1013 8.18.1 B法に準じて測定した。熱水温度は100℃とした。
【0035】
(4)強度(cN/dtex)、伸度(%)
繊維試料を気温25℃、湿度60%の恒温恒湿に保たれた部屋に1昼夜放置した後、サンプル長さ100mmを(株)島津製作所製引張試験機テンシロンにセットし、200mm/minの速度にて引張し、破断時の強度、伸度を測定した。
【0036】
(5)断面比率(Amax/Amin)
低収縮糸の任意断面について、560倍の断面写真をとり、フィラメント群(B)の最大面積の断面(Amax)および最小面積の断面(Amin)の断面積を各々測定し、Amax/Aminを断面比率とした。
【0037】
(6)中空率(%)
前項(5)で得た断面写真において、各断面の中空部面積(A)および断面を囲む面積(B)を測定し、下記式で計算し、全断面の平均値を測定試料の中空率(%)とした。
中空率(%)=A/B×100
【0038】
(7)10%伸長弾性回復率
試料繊維に0.03cN/dtex(1/30g/de)の荷重をかけて延びきった状態で、島津製作所引張り試験機テンシロンにセットし、初期サンプル長200mm、試験速度200mm/minで10%伸長後、直ちに同速度で回復させて伸長回復曲線を記録し、回復時初荷重と同じになったときのサンプル初期長に対する伸び率を読み取りB(%)とし、下記式で10%伸長弾性回復率を計算した。
10%伸長弾性回復率(%)=((10−B)/10)×100
【0039】
(8)交絡度(ケ/m)
JIS L1013 8.15 に準じて測定した。
【0040】
(9)風合評価
混繊糸を12ゲージ丸編機で30cm長の筒編みとし、100℃の熱水中でリラックス精錬したあと液流染色機にて15%のアルカリ減量加工を施し、180℃でプリセットした。次に、該生機を布帛重量ベース(OWF)で2重量%の分散染料(スミカロンネイビーブルー)を用い130℃で染色し、170℃にてファイナルセットし風合評価用布帛試料とし、官能検査にて以下の基準で風合いを判定した。
(シルキー感)
レベル1:布帛を掴んだ時、シルクに似た繊細な感触および適度なふくらみが感じられる。
レベル2:布帛を掴んだ時、シルクに似た繊細な感触およびふくらみは感じられるが、レベル1よりその程度は低い。
レベル3:布帛を掴んだ時、プラスチックライクでふくらみ感にかける感じが認められる。
(ドライ感・杢調)
レベル1:布帛を掴んだ時、ナチュラルでドライな感触が感じられる。布帛表面には、ランダム且つナチュラルに分散した明確な杢が認められる。
レベル2:布帛を掴んだ時、ドライな感触は感じられるが、レベル1よりナチュラルな感触は低い。布帛表面には、ほぼランダムに分散した杢が認められる。
レベル3:布帛を掴んだ時、プラスチックライクで単調な感触である。布帛表面は、粗野で明確な杢が認められない。
(ストレッチ性)
レベル1:両手で引っ張った時、充分な抵抗感があり、離した後の布帛に皺などの変形が認められない。
レベル2:両手で引っ張った時、適度な抵抗感があり、離した後の布帛に若干皺状の変形が認められる。
レベル3:両手で引っ張った時、抵抗感が少なく、離した後の布帛に皺などの変形が残る。
【0041】
[実施例1〜3、比較例1]
酸化チタンを0.07重量%含有した固有粘度0.63のポリエチレンテレフタレートを290℃にて溶融し、図2に示すような形状の吐出孔(吐出孔A)で、直径0.25mmの小円状開口部(図2の4)3個が、PCD0.90mmの位置に配置された0.01mm巾の3個の開口スリット(図2の5)に直線開口スリット(図2の6)を介して連結されている吐出孔を16個、及び図3に示すような形状の断面積が吐出側に向かって連続して拡大する吐出部(ランド部)(図3の9)を有し吐出面最大面積28.27mm2の円形吐出孔(吐出孔B)を8個穿設した紡糸口金から、吐出量12.4g/minで吐出した。この時、小円状の開口部における吐出ポリマー流速(S1)と円弧状の開口スリットにおける吐出ポリマー流速(S2)との比(S1/S2)は各々3.1であった。また吐出孔Bのポリマー流にかかる紡糸ドラフトは各々76600であった。
【0042】
引き続き、通常のクロスフロー型紡糸筒から約25℃の空気流をポリマー流に吹き付け冷却固化し、紡糸油剤を付与した後、1400m/分の速度で巻き取り未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント(89dtex/24fil)を得た。この時、吐出孔Aを通して紡糸されたマルチフィラメント成分の断面比率(Amax/Amin)は3.5、中空率は4.3%であった。また、吐出孔Bを通して紡糸されたマルチフィラメント成分は繊維軸方向に均一な繊度を有していた。
【0043】
得られた未延伸ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを、2個の回転ローラー間にスリットヒーターを設置した熱処理装置に通し、表1に示す弛緩熱処理温度および弛緩率で、通過速度330m/分にて弛緩熱処理を施し、巻き取り、各々表1に示す自己伸長率(乾熱(180℃)収縮率の正負逆表示)、熱水(100℃)収縮率及び総繊度のマルチフィラメントを得た。
【0044】
一方、酸化チタンを0.3%含有した固有粘度0.95のポリトリメチレンテレフタレートを260℃にて溶融し、孔径が0.35mmの円形吐出孔が15個穿設された紡糸口金より吐出量28.2g/分で吐出し、通常のクロスフロー型紡糸筒から約25℃の空気流を吹き付け冷却固化し、紡糸油剤を付与し、表面温度が55℃で表面速度が2700m/分に設定された回転ローラー(第1ローラー)に6回ターンさせて予熱し、次いで、表面温度が120℃で表面速度が3400m/分に設定された回転ローラー(第2ローラー)に6回ターンさせて延伸熱処理した後巻き取り総繊度83dtexのポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントを得た。得られたポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントの10%伸長弾性回復率は85%、熱水(100℃)収縮率は12.9%、強度は2.9cN/dtex、伸度は46.2%であった。
【0045】
上記の方法で得られた、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントとポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントとを混繊装置のクリール部に配置し、両糸条を引きそろえ、オーバーフィード率を2.5%に設定し、インターレースノズルの圧空圧を3.5kg/cm2とし、300m/minの速度で混繊交絡処理を施し、各々表1に示す総繊度および交絡度の混繊糸を得た。
【0046】
得られた混繊糸を前述(9)風合い評価の方法で評価を実施した結果、実施例1〜3における布帛は、表1から明らかなごとく、ストレッチ性があり、かつシルクに似た繊細な感触、ナチュラルでドライな感触が感じられ、ランダムでナチュラルに分散した明確な杢が認められた。一方、比較例1の混繊糸からの布帛は、シルキー感がほとんど感じられなかった。
【0047】
【表1】
【0048】
[実施例4]
吐出孔Aの小円状開口部直径を0.20mmに変更し、ポリマー流速比を2.6とした以外は実施例1と同じ紡糸条件、弛緩熱処理条件および混繊条件で表1に示す総繊度および交絡度の混繊糸を得た。得られた混繊糸からの布帛風合いは表1に示す如く、ドライ感・杢調は実施例1よりやや劣るが、優れたシルキー感およびストレッチ性を示した。
【0049】
[実施例5]
吐出孔Bの吐出最大面積を4.91mm2に変更し、紡糸ドラフトを13200とした以外は実施例1と同じ紡糸条件、弛緩熱処理条件および混繊条件で表1に示す総繊度および交絡度の混繊糸を得た。得られた混繊糸からの布帛風合いは表1に示す如く、シルキー感は実施例1よりやや劣るが、優れたドライ感・杢調およびストレッチ性を示した。
【0050】
[比較例2]
吐出孔Bが無く、吐出孔Aのみを24個穿設した紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ紡糸条件、弛緩熱処理条件および混繊条件で表1に示す総繊度および交絡度の混繊糸を得た。得られた混繊糸からの布帛風合いは表1に示す如く、シルキー感がほとんど感じられなかった。
【0051】
[比較例3]
吐出孔Aが無く、吐出孔Bのみを24個穿設した紡糸口金を使用する以外は実施例1と同じ紡糸条件、弛緩熱処理条件および混繊条件で表1に示す総繊度および交絡度の混繊糸を得た。得られた混繊糸からの布帛には表1に示す如く、ドライ感・杢調は全く発現しなかった。
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、ストレッチ性布帛に、シルクのような繊細で上品なふくらみ感、綿布帛のようなナチュラルでドライな触感および優れた杢調を同時に発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の低収縮糸の任意断面の一態様を示した模式図。
【図2】本発明で使用する紡糸口金吐出孔Aの一態様を示した模式図。
【図3】本発明で用いる紡糸口金吐出孔Bの縦断面の一態様を示した模式図。
【符号の説明】
1 : 最大断面積(Amax)
2 : 最小断面積(Amin)
3 : 中空部
4 : 小円状開口部
5 : 円弧状開口スリット
6 : 直線状開口スリット
7 : PCD
8 : ポリマー導入部
9 : ポリマー吐出部(ランド部)
10: ポリマー吐出面
Claims (5)
- 繊維軸方向に太細を有するポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントと繊維軸方向に太細を有しないポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントとからなり、糸全体として熱水(100℃)処理後の乾熱(180℃)処理における自己伸長率が0〜6%である低収縮糸と、ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメントからなる高収縮糸とが互いに混繊交絡してなり、かつ該低収縮糸が、小円状の開口部と円弧状の開口スリットを配置した形状を有する吐出孔から、該小円状の開口部における吐出ポリマー流速が円弧状の開口スリットにおける吐出ポリマー流速の1.5〜5.0倍となるようにポリエチレンテレフタレートを別々のポリマー流として溶融吐出した後、合流させ冷却固化した繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントと、断面積が吐出側に向かって連続的に拡大する形状の吐出孔から、紡糸ドラフトが10000以上となるようにポリエチレンテレフタレートを溶融吐出した後に冷却固化した繊維軸方向に太細を有しないマルチフィラメントとを、合糸した後に1000〜3000m/minの速度で引取った未延伸マルチフィラメントを、温度180〜280℃、弛緩率5〜45%で弛緩熱処理したものであるポリエステル異収縮混繊糸。
- 繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントの任意の断面における最大面積(Amax)と最小面積(Amin)との比率が2.5以上である請求項1記載のポリエステル異収縮混繊糸。
- 繊維軸方向に太細を有するマルチフィラメントの任意の断面における中空率が1〜15%である請求項1または2記載のポリエステル異収縮混繊糸。
- 高収縮糸の熱水(100℃)収縮率が7〜18%である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル異収縮混繊糸。
- 高収縮糸の10%伸長弾性回復率が70%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル異収縮混繊糸。
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