以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明は、高品位な(波長)多重通信システムに必要な高速で波長制御可能な半導体素子として、複雑な構造の半導体素子、特に深さの異なる回折格子を有する半導体素子を、効率良く作製するものである。
このような深さの異なる回折格子を作製する際に、エッチング深さに対応して異なる面積のマスクを用いることにより、1回のエッチングによって深さの異なるエッチングを行うことができ、その結果、深さの異なる回折格子を得ることができる。
ここで、本明細書における「異なる面積のマスク」とは、マスクを形成する半導体の面内のエッチングパターンについての所定の方向に対して面積が変化するマスクのことである。
マスクの面積によって、エッチングの深さを制御する原理を以下で簡単に説明する。
図4(a)〜(c)は、半導体におけるエッチング過程を説明するための図で、図4(a)はエッチング前(半導体とエッチング種の反応前)、図4(b)はエッチング時(半導体とエッチング種の反応時)、図4(c)はエッチング後(半導体とエッチング種の反応後)を各々示し、符号411は半導体原子、412はエッチング種(原子)を示している。
図4(a)〜(c)に示すように、半導体のエッチングにおいてプラズマ状態のガスを用いるドライエッチングの場合、半導体によるエッチング過程において半導体表面で半導体原子411とエッチング種(エッチングガス)412が反応することによりエッチングが進行する。
また、図5(a)〜(c)は、表面にマスクを形成した半導体におけるエッチング過程を説明するための図で、図5(a)はエッチング前(半導体とエッチング種の反応前)、図5(b)はエッチング時(半導体とエッチング種の反応時)、図5(c)はエッチング後(半導体とエッチング種の反応後)を各々示し、符号511は半導体原子、512はエッチング種(原子)、513はマスクを示している。
図5(a)〜(c)に示すように、このエッチングをする際に半導体表面をエッチング種512と反応しない物質(例えば、酸化シリコン、窒化シリコンなどの誘電体など)をマスクに用いて覆った場合、マスク上のエッチング種は拡散してマスク513で覆われていない半導体表面に到達する。この結果、マスク近傍の半導体表面ではエッチング種512の密度が増加する。このエッチング種512の増加は半導体のエッチング速度を増加させる。このように、マスク上に飛来したエッチング種512が半導体表面に拡散して半導体のエッチングを促進するので、マスク面積の増加に伴い半導体のエッチングが増加する。したがって、マスクの面積を変化させることにより半導体表面のエッチング種の密度を変化させることが可能となり、エッチング深さの異なる形状の形成を可能にする。
なお、半導体表面のエッチング種の密度を変化させることが重要であって、マスクの面積を変化させなくても、エッチングパターンの面積を変えるようにしても、エッチングの深さを変えることができる。本発明で重要なことは、異なる面積のマスクを用いることではなく、回折格子の開口部の面積あたりの、エッチングパターンの各々の周辺部に形成されるマスクからエッチングパターンの開口部に拡散されるエッチング種の量(エッチング密度)を、エッチングパターン毎に変化させることが重要である。すなわち、所定の方向(例えば、回折格子に入射する光の光軸方向)に対して垂直な方向の、マスクの開口部とマスク部の距離の比が、所定の方向に沿って異なるようにマスクを作製することが重要である。
なお、本明細書において、「エッチングパターンの開口部」とは、マスクの開口部のことであり、この開口部にエッチング種が到来することによりエッチングが行われる。また、「マスク部」とは、マスクにおいて開口部ではない部分、つまり、実際に基板等をマスクする部分のことを示す。
したがって、このような面積の異なるマスクを用いると、図6のような深さが変化する単純な溝構造を容易に作製することができる。すなわち、半導体60上に形成された、面積が異なるマスク、すなわち半導体60の長手方向の一方端から他方端に向かって面積が徐々に増加(減少)するマスク61の面積に応じて、エッチングによって形成される溝について、マスク61の面積が大きい所では深く、その面積が小さい所では浅くなる。
上述の方法によれば、図7に示すような深さの変化する回折格子を作製することができる。さらに、一回のエッチングで深さの変化する回折格子を得ることができる。
図7(a)および(b)は、深さが変化する回折格子の構造を示す図であり、図7(a)は深さが変化する回折格子の斜視図、図7(b)はその回折格子の断面図である。符号70は半導体、71はマスクを示している。
このように上述の方法によれば、一回のエッチングで深さの異なる回折格子を形成することができるが、更なる品位の向上のために回折格子のエッチング形状の制御を可能にすることが望ましい。すなわち、上述の方法を図7のような深さが変化する回折格子の作製に用いる場合には、図8に示すように回折格子外部部分のマスク82上に飛来したエッチング種84だけでなく、回折格子部分のマスク81上に飛来したエッチング種83もエッチングに影響を与えるため、回折格子のエッチング形状の制御が困難になる。なお、符号81および82は同一のマスクであり、回折格子外部部分と回折格子部分とを区別するために、図8ではそれら部分をそれぞれ異なる色(回折格子外部部分81は黒ぬき)で示す。
この問題を解決するためには、回折格子部分のマスク81に飛来したエッチング種83の寄与、すなわち回折格子部分のマスク81に飛来したエッチング種83がエッチングに係ることを抑制して、回折格子外部部分のマスク82上に飛来したエッチング種84の寄与が主となる条件が必要である。具体的には、エッチングガスの流量を低減してエッチング種の量を低減するとともに、エッチング雰囲気の圧力を低下させてエッチング種の拡散長を増加させることが必要となる。この条件によれば、面積の大きい回折格子外部部分のマスク82上に飛来してエッチングに寄与するエッチング種84の量に比べて、面積の小さい回折格子部分のマスク81に飛来してエッチングに寄与するエッチング種83の量は無視できるほど少なくなるので、回折格子境界部分の深さの増加も無視できる程度に抑制できる。しかしながら、上述のエッチング条件の制御は困難であり、実際にこの方法を用いて再現性よく回折格子を作製することは困難であった。
そこで、本発明では、深さが変化する回折格子を作製する際に、異なる面積のマスクを用いる等して、回折格子の開口部についての回折格子外部部分のマスクから拡散されるエッチング種の密度を、エッチングパターン毎に変化させるマスクを半導体上に形成すると共に、半導体上のマスクを施すべき領域について、回折格子外部部分のマスクではマスクの厚さを厚く、また回折格子部分のマスクではマスクの厚さを薄なるようにマスクを形成する。このようなマスクを用いることにより、一回のエッチングにより深さの異なるエッチングを可能にする。また、回折格子部分からのエッチング種の寄与を少なくすることができ、再現性良く深さの異なる回折格子を作製することができる。
この方法に基づき、回折格子作製時に用いるマスクについて、回折格子周辺部での面積が異なり、また厚さを回折格子外部部分と回折格子部分とで異なるようなマスクを用いることにより、半導体素子内での深さが変化する、すなわち、結合定数が変化する回折格子を有する半導体素子を作製することができる。この回折格子の透過特性と反射特性とは図9に示すように単一波長(モード)となる。この回折格子を半導体フィルタに用いた場合は消光比が改善される。また、DFB、DBR半導体レーザに用いた場合、出射される光スペクトルのサイドモードは抑制され、半導体レーザを動作させる際に動作モード(動作波長)が安定する。以上から分かる通り、深さの異なる回折格子を用いることで、例えば、DFB、DBR半導体レーザ等では高品位なレーザ出力を得ることが出来る等、半導体素子の性能を向上させることができる。
なお、図9において、符号91は深さが変化するする回折格子を有する半導体レーザより出射される光スペクトルを示し、92は深さが一定の回折格子を有する半導体レーザより出射される光スペクトルを示している。
以下で、上述の表面にマスクを形成した半導体のドライエッチングにおける、マスクの厚さが異なる場合について説明する。
図10(a)および(b)は、表面に深さの異なるマスクを形成した半導体のエッチングの過程を説明するための図であり、図10(a)は厚さの薄いマスクの場合、図10(b)は厚さの厚いマスクの場合を各々示し、符号1010および1020は半導体、1011および1021はマスク、1012および1022はエッチング種を示している。
図10に示すように、膜厚の薄いマスクを用いる場合(図10(a))には、エッチング種は半導体表面からマスク端を越えてマスク上に拡散できるので半導体表面上のエッチング種密度は高くならない。したがって、半導体のエッチング速度は増加しない。一方、膜厚の厚いマスクを用いる場合(図10(b))には、エッチング種はマスク端が障壁となりマスク端を越えられないため、エッチング種が半導体表面に閉じ込められて半導体表面上におけるエッチング種密度は増加する。したがって、半導体のエッチング速度が増加する。このことはエッチング深さの異なる形状の回折格子の形成を可能にする。
さらに、プラズマ雰囲気中における正に帯電したエッチング種と正に帯電したマスクとの間に生じる反発力も、マスク厚の増加に伴いエッチング速度を増加させ得る。この反発力によりマスク上から半導体表面上へ拡散するエッチング種が増加する。このマスクの厚さを増加させるとマスクの帯電量が増加するので、反発力を受けるエッチング種の量も増加する。このエッチング種の増加はエッチング速度を増加させる。このように、マスクの厚さを厚くするほど、正に帯電したエッチング種は、正に帯電したマスクから反発力を受け、半導体表面へ拡散するエッチング種を増加することができる。
また、半導体のエッチングにプラズマ状態のガスを用いるドライエッチングにおいて該ガスにメタンやエタンなどの炭化水素系のガスを用いる場合には、プラズマ状態においてガスが炭化水素基と水素に分解され、それぞれイオン化あるいは化学的に活性化(ラジカル化)される。以降、イオン化あるいは化学的に活性化(ラジカル化)された炭化水素基を炭化水素プラズマ、同様の水素原子を水素プラズマと呼ぶ。
この炭化水素プラズマと水素プラズマとが半導体に接触すると、半導体をエッチングする過程と半導体をエッチングすることなく半導体上に重合体(ポリマー)を形成して堆積する過程とが起こる。一般に、水素プラズマが十分にある場合にはエッチング過程が主となり、水素プラズマが不足するとポリマーが堆積する過程が主となる。同時に誘電体(SiO2など)マスク表面においては炭化水素プラズマと水素プラズマとが誘電体と反応しないので重合物(ポリマー)となって堆積する。
図11(a)〜(d)は、炭化水素系エッチングにおいてポリマーが堆積する過程を説明するための図で、図11(a)はエッチング前(半導体とエッチング種との反応前)、図11(b)および(c)はエッチング時(半導体とエッチング種の反応時)、図11(d)はエッチング後(半導体とエッチング種との反応後)を各々示す図である。同図において、符号1111は半導体原子、1112は炭化水素プラズマ、1113は水素プラズマ、1114は誘電体(SiO2など)マスク、1141はポリマーを示している。
炭化水素系ガスまたは炭化水素系ガスと水素との混合ガスは、プラズマ状態において炭化水素プラズマと水素プラズマとに分解される(図11(a))。半導体表面において、飛来した炭化水素プラズマ1112に比べて水素プラズマ1113が不足するとき、半導体およびマスク表面のほとんどを炭化水素プラズマが覆う(図11(b))。このとき、マスク上でポリマーの堆積に寄与しなかった余剰の炭化水素プラズマ1112が半導体表面に流入する。
そこで、上述のようにマスクの厚さの増加に伴い半導体表面に閉じ込められる炭化水素プラズマ1112の量(濃度)が増加するので(図11(c))、厚いマスクに囲まれた半導体表面に堆積するポリマーの厚さが増加する(図11(d))。一方、厚さが薄いマスクと半導体表面との境界部分およびその近傍の半導体表面では、炭化水素プラズマはマスク端を越えてマスク上に拡散するので、半導体表面上に堆積するポリマーの厚さは上記マスクが厚い場合に比べて薄くなる。
このように、異なるマスク厚さによりその周辺の開口部(半導体表面)に堆積するポリマー1141の厚さが変化する。この半導体上に堆積されたポリマー1141は酸素プラズマ照射により酸素プラズマと反応した結果、炭酸ガスと水となって除去される。そこで、酸素プラズマの一定時間照射により部分的に厚さの異なるポリマーのうち一定の厚さ以下のポリマーが除去されるので、部分的に選択的にポリマーを除去して半導体表面を露出することができる。この試料についてエッチング過程が主となるプラズマ条件によりエッチングを施せばポリマーが堆積した部分はエッチングが進行せず、半導体表面が露出した部分のみ選択的にエッチングが進行する。このことはエッチング深さの異なる形状の回折格子の形成を可能にする。
さらに、上述のプラズマ状態において、水素プラズマの量は炭化水素系ガスに水素を混合させることにより増加でき、また、放電電力やガス圧力などによりプラズマ状態を制御することにより増減できる。この水素プラズマの量の制御により堆積するポリマーの量を制御できると共に、さらにエッチングを進行させることもできる。
図12(a)〜(d)は、炭化水素系エッチングにおいてポリマーの堆積と共にエッチングが進行する過程を説明するための図で、図12(a)はエッチング前(半導体とエッチング種との反応前)、図12(b)および(c)はエッチング時(半導体とエッチング種の反応時)、図12(d)はエッチング後(半導体とエッチング種との反応後)を各々示す図である。同図において、符号1211は半導体原子、1212は炭化水素プラズマ、1213は水素プラズマ、1214は誘電体(SiO2など)マスク、1241はポリマーを示している。
図12に示すように、炭化水素系ガス又は炭化水素系ガスと水素との混合ガスはプラズマ状態において炭化水素プラズマと水素プラズマとに分解される(図12(a))。これらの炭化水素プラズマ1212と水素プラズマ1213とは、半導体およびマスク表面に到達する(図12(b))。水素プラズマ1213が多量にあれば、該マスク表面においてポリマーの形成に寄与しなかった水素プラズマ1213がマスク1214近傍の半導体表面に流入する(図12(c))。
この水素プラズマ1213が半導体表面のエッチングの進行に不足していた水素プラズマを補充することにより、マスク近傍の半導体表面においてはポリマーが堆積することなくエッチングが進行する。このとき、マスクの増加に伴い隣接する開口部に閉じ込められる炭化水素プラズマと水素プラズマが増加するので、エッチング速度が増加する(図12(d))。このことはエッチング深さの異なる形状の回折格子の形成を可能にする。また、このエッチング過程においてマスク表面に堆積されたポリマー1241は、酸素プラズマ照射により酸素プラズマと反応した結果、炭酸ガスと水とになって除去される。
以下で、本発明の一実施形態に係る深さの異なる回折格子形成に用いる、異なる面積のマスク部を有し、かつ面内で厚さの異なるマスクの作製方法を示す。
図13(a)〜(d)は、本発明の一実施形態に係る回折格子形成に用いる、異なる面積のマスク部を有し、厚さが薄いマスク部と厚さが厚いマスク部とを有するマスクの作製方法を説明するための図で、図13(a)は表面に窒化シリコン(SiNx)膜による回折格子用マスクを形成した試料、図13(b)は図13(a)に示した試料の表面に酸化シリコン(SiO2)膜を形成した試料、図13(c)はSiO2膜上にレジストを塗布した後に回折格子外部のマスク用のレジストパターン1331を作製した試料、図13(d)はSiO2膜をレジストパターンにより加工した試料を各々示す図である。同図において、符号1310はInP基板上のInPクラッド層、1311は回折格子部分作製用のSiNxマスク、1321は酸化シリコン(SiO2)膜、1331はレジストパターン、1341はSiO2マスクを示している。
(1)厚さが薄いマスクの形成
InP基板上のInPクラッド層1310の表面に30nm厚の窒化シリコン(SiNx)膜を形成する。SiNx膜上にレジストを塗布した後に電子ビーム露光法により回折格子作製マスク用のレジストパターンを作製する。レジストパターンをマスクとしてフッ化硫黄系ガス(SF6など)を用いた反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、RIE)によってSiN2膜を加工することにより、レジストパターンをSiNx膜に転写する。レジストパターンを除去することにより、InP上に回折格子部分作製用のSiNxマスクが形成される(図13(a))。
(2)厚さが厚く、異なる面積のマスクの形成
次に、上述の回折格子部分作製用のSiNxマスクを有するInP表面上に1μm厚の酸化シリコン(SiO2)膜1321を形成する(図13(b))。SiO2膜1321上にレジストを塗布した後に回折格子外部のマスク用のレジストパターン1331を作製する(図13(c))。このレジストパターン1331は、電子ビーム露光だけでなく通常のフォトリソグラフィによるレジスト露光により形成できる。このレジストパターン1331は、回折格子の配列方向に沿って、一方から他方にかけて面積が増加(減少)するようなパターンである。レジストパターン1331をマスクとしてフッ化炭素系(CF4、C2F6など)RIEによってSiO2膜1321を加工することにより、レジストパターン1331をSiO2膜1321に転写する(図13(d))。このとき、回折格子部分作製用のSiNxマスクはフッ化炭素系ガスに耐性を有するのでエッチングされずに残る。レジストパターン1331を除去することによりSiO2マスクは、異なる面積のマスクとなる。
この結果、InP上に回折格子部分と回折格子外部部分とで厚さの異なり、エッチングパターンの周辺部で面積の異なるマスクが形成される(図13(d))。
上述のマスクが形成されたInP基板に対してドライエッチング等、通常のエッチング方法を適用することで、一回のエッチングで深さの異なる回折格子を作製することができる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
(実施例1)
本発明に係る実施例1では、面内で深さの異なる回折格子部分の作製方法の一例を示す。本実施例では、ドライエッチング方法に反応性イオンビームエッチング(Reactive Ion Beam Etching、RIBE)を用いた場合について説明する。
図14(a)〜(e)は、DBR半導体レーザにおける回折格子部分の作製方法を説明するための図で、図14(a)はエッチング前の試料の概観図、図14(b)は図14(a)に示す試料の上面図、図14(c)は図14(a)の回折格子部分の断面図、図14(d)はRIBEによりエッチングした後の試料の断面図、図14(e)は回折格子形成後(SiO2マスク除去後)の試料の断面図である。同図において、符号1401はInP基板、1402はInPバッファ層、1410はSiNxで形成される回折格子部分のマスク、1411はSiO2で形成される回折格子外部部分のマスク、1412は回折格子の長さ、1413は回折格子の幅、1414は回折格子のピッチ(周期)(回折格子部分のマスクの幅)、1415は回折格子外部部分の幅を示している。
上述した本発明の一実施形態に係るマスクの作製方法に基づいて本実施例に係るマスクを作製する。このマスクは、回折格子部分作製用のマスクであって厚さが薄いマスク(SiNxで形成されるマスク)、および回折格子外部部分作製用のマスクであって厚さが厚いマスク(SiO2で形成されるマスク)を有するマスク(SiNx/SiO2マスクとも呼ぶ)である。なお、このマスクの作製方法については上述で説明したのでここでは省略する。
本実施例に係るSiNx/SiO2マスクは、図14(a)〜(c)に示される通り、SiNxで形成される回折格子部分のマスク1410のマスク厚が20nm、回折格子の長さ1412が500μm、回折格子の幅1413が3μm、ピッチ(周期)1414が240nm(SiO2部:120nm、窓部:120nm〉であり、SiO2で形成される回折格子外部部分のマスク1411のマスク厚が1μm、マスクの幅1415は素子両端で狭くなっており(幅は1μm)、素子中央部で広くなっている(幅は5μm)。
このようなマスクを形成した試料に対してRIBEによりエッチングを施す。エッチングガスには塩素を用いて、ガス流量は4sccm、ガス圧力は10Torr、マイクロ波放電電力は、300W、イオン引出し電圧は500V、基板温度は200℃である。
このエッチングにおいて、マスク厚の厚い(1μm〉回折格子外部部分のマスク1411からのエッチング種であるイオン化あるいはラジカル化した塩素原子(塩素プラズマ)の寄与が大きく、マスク厚の薄い(20nm)の回折格子部分のマスク1410からの塩素プラズマの寄与は小さい。すなわち、マスク1411からの塩素プラズマは、厚いマスクからのエッチング種であり、図10(b)で説明したように、マスク端を越えられないため、半導体表面に閉じ込められて、半導体表面上におけるマスク1411からの塩素プラズマ密度は増加する(マスク1411からの塩素プラズマの寄与は大きい)。一方、マスク1410からの塩素プラズマは、薄いマスクからのエッチング種であり、図10(a)で説明したように、半導体表面からマスク端を越えてマスク上に拡散できるので、半導体表面上のマスク1410からの塩素プラズマ密度は高くならない(マスク1410からの塩素プラズマの寄与は小さい)。
したがって、マスク幅の広い回折格子中央部ではマスク1411上で反応しない塩素プラズマが多量に開口部に拡散することにより開口部での塩素プラズマは高濃度になりエッチング速度が増加する。一方、マスク幅の狭い回折格子両端部ではマスク1411上で反応せずに開口部に拡散する塩素プラズマはマスク幅の広い領域に比べて少量となりエッチング速度は遅くなる。ここで、エッチング時の生成物は回折格子方向に沿って拡散するので、その生成物の滞留によりエッチング速度は抑制されない。したがって、回折格子において中央部ではエッチング深さは深く両端部では浅くなる(図14(d))。最後にSF6を用いたRIEによりマスクを除去することにより中央部で深く両端部で浅い回折格子、すなわち深さの異なる回折格子が形成される(図14(e))。
このように、本実施例によれば、SiNx/SiO2マスクを用いてエッチングを行うことにより、エッチングの際に、複雑なエッチング制御を必要とせずに、回折格子部分のマスクに飛来しエッチングに影響する塩素プラズマ(エッチング種)を無視できるほど少なくすることが出来る。よって、再現性良く異なる深さの回折格子を作製することができる。また、一回のエッチングで深さの異なる回折格子を作製することができる。
(実施例2)
図15は、本発明の第2の実施例であるDBR半導体レーザの素子長方向の断面図で、符号150はn型InP基板、151はn型InPバッファ層、152は回折格子、153はInGaAsP(組成波長:1.1μm)ガイド層、154は6層のInGaAsP歪量子井戸(歪量:15%)層と5層のInGaAsP(組成波長:1.3μm)障壁層の多重量子井戸層からなる活性層(発光波長:1.55μm、活性層長:400μm)、155はDBR回折格子領域InGaAsP(組成波長:1.4μm)ガイド層(回折格子長は活性層の前後それぞれ400μm)、156はInGaAsP(組成波長:1.3μm)ガイド層、157はp型InPクラッド層、158はP型lnGaAs(組成波長:1.85μm)コンタクト層、1591はn型オーミック電極、1592はp型オーミック電極である。
本実施例では、実施例1の方法により作製された深さの異なる回折格子を有する試料表面のSiO2マスク除去後、この回折格子上に有機金属気相成長法(MOVPE)により対応する各層を積層することにより、図15に示す深さの変化する回折格子を備えたDBR半導体レーザ構造が作製される。図15に示すDBR半導体レーザの発振波長は、1.55μmであり、半導体素子の長さは、1500μmである。回折格子152については、ピッチ(周期〉は240nm(凸部:120nm、凹部:120nm)であり、深さは素子両端面で浅くなっており5nm、素子中央部で深くなっており30nmである。
図16(a)および(b)は、本実施例に係るレーザにおける回折格子により得られる反射特性を示す図で、図16(a)は位置に対する結合係数κの分布を示し、図16(b)はブラッグ波長からのずれに対する反射率を示している。
図16において、符号1601は、図15に示す回折格子の有する結合係数を示す。回折格子の深さが回折格子の両端部で5nm、中央部で30nmとなるように変化させることにより、結合係数κは回折格子の両端部で5cm−1、中央部で80cm−1と変化する。この回折格子を用いた場合の反射スペクトルを符号1602に示す。比較のために結合係数が80nm−1一定の場合の反射スペクトルを符号1603に示す。回折格子の深さ、すなわち、結合係数を変化させることにより反射スペクトルのサイドモードが抑制されることがわかる。このことは、深さの異なる回折格子を用いたDBR半導体レーザを動作させたときの発振スペクトルにおけるサイドモードが抑制されることを示唆する。このように、実施例1のようにして作製された深さの異なる回折格子を備えたDBR半導体レーザによれば、高品位なレーザ出力を得ることが出来る。
(実施例3)
本発明の第3の実施例では、面内で深さが変化する回折格子部分の作製方法の一例を示す。本実施例はドライエッチングに炭化水素系のガスを用いる場合において一定の条件で生じるポリマーを利用するものである。エッチングに用いるSiNx/SiO2マスクにおいて回折格子部分のSiNxマスク幅は一定であるが回折格子外部部分のSiO2マスク幅が変化するという点で実施例1と同様であるが、SiO2マスク幅が素子中央部で狭く素子両端部で広くなっていることを特徴とする。
図17は、本実施例において試料表面に形成するSiNx/SiO2マスクの上面図である。図17において、符号170はInP表面、1710はSiNxで形成される回折格子部分のマスク、1711はSiO2で形成される回折格子外部部分のマスク、1712は回折格子の長さ、1713は回折格子の幅、1714はピッチ(周期)、1715は回折格子外部部分のマスクの幅である。
上述した本発明の一実施形態に係るマスクの作製方法に基づいて本実施例に係るSiNx/SiO2マスクを作製する。図17において、SiNxで形成される回折格子部分のマスク1710のマスク厚が20nm、回折格子の長さ1712が500μm、回折格子の幅1713が3μm、ピッチ(周期)1714は240nm(SiO2部:120nm、窓部:120nm)である。SiO2で形成される回折格子外部部分のマスク1711のマスク厚が1μm、マスクの幅1715は面内で変化しており、素子両端で広く(幅は10μm)、素子中央部で狭くなっている(幅は3μm)。なお、このマスクの作製方法については上述で説明したのでここでは省略する。
図18(a)〜(e)は、本実施例における回折格子部分の作製方法を説明するための図で、図18(a)はエッチング前の回折格子作製用マスク(図17で示したSiNx/SiO2マスクと同様なもの)を有する試料の一部、図18(b)は1回目のエッチングによりポリマーが堆積した試料の一部、図18(c)は酸素プラズマを照射した試料の一部、図18(d)は2回目のエッチングを施した試料の一部、図18(e)はエッチングと酸素プラズマ照射(図18(a)〜図18(d))とを繰り返し施して作製された回折格子深さの異なる試料の一部を各々示す図であり、各図において(A)は概観図、(B)は断面図を示している。
図18において、符号180はInP基板、1811はSiNxで形成される回折格子部分のマスク、1812はSiO2で形成される回折格子外部部分のマスクを示している。ここで説明を理解しやすくするために回折格子外部部分のマスク1812の一部を点線で透明に記載している。符号1801、1802、1803は回折格子部分の1811マスクの開口部であり、隣接する回折格子外部部分のマスク1812について幅の狭い方から順に1801、1802、1803とする。符号1821は1回目のエッチングにより堆積したポリマー、1831は酸素プラズマ照射後のポリマーである。
上述の本発明の一実施形態に係るマスクの作製方法に従って、InP基板180表面に回折格子部分のマスク1811の幅が一定で、回折格子外部部分のマスク1812の幅が変化するマスクを形成する(図18(a))。この試料について、メタンガスを用いた反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、RIE)を施す。RIE条件はメタンガス流量が80sccm、ガス圧力が5Pa、放電電力が50Wであり、この条件下ではポリマー1821が堆積する過程が主となる。
このRIE過程において、回折格子部分のマスク1811のマスク厚よりも回折格子外部部分のマスク1812のマスク厚の方が厚いというマスク構造のため、マスク厚の厚い(1μm)回折格子外部部分のマスク1812からのメタンプラズマの寄与が大きく、マスク厚の薄い(20nm)回折格子部分のマスク1811からのメタンプラズマの寄与は小さい。このとき、開口部に堆積するポリマーの厚さは回折格子外部部分のマスク1812の幅に依存し、マスク1812の幅が広いほどマスク1812上から開口部に流入する炭化水素基が多量になるので、堆積するポリマー1821の厚さは増加する(図18(b))。
例えば、図18において、RIEを10分間施したときに開口部に堆積するポリマーの厚さはマスク1812の幅が広くなるにつれて、開口部1801、1802、1803の順にそれぞれ、0.1、0.2、0.3μmの厚さで堆積する。引き続き、酸素プラズマを酸素流量10sccm、ガス圧力10Pa、放電電力100Wで1分間照射すると、開口部1801に堆積したポリマー0.1μm厚が除去される。
したがって、上記のRIE時に0.1μmより厚いポリマーが堆積した開口部1802、1803においてはポリマーが残留し、0.1μm以下の厚さでポリマーが堆積した開口部1801においてはポリマーが完全に除去されて、InP基板180の表面が露出する(図18(c))。引き続き、エッチング過程が主となる条件(メタンと水素の混合ガス(メタン濃度20%)のガス流量80sccm、ガス圧力が10Pa、放電電力が100W)でRIEを施せばInP基板180が露出した開口部1801のみエッチングが進行し、ポリマーが残留する開口部1802、1803ではエッチングが進行しない(図18(d))。
このように、初めに0.1μm以下の厚さでポリマーが堆積した開口部1801においてのみ選択的にエッチングがされる。引き続き、同様の酸素プラズマ照射による0.1μm厚さのポリマーの除去とRIEとを繰り返して施すことにより、深さの異なる回折格子を形成することができる(図18(e))。このとき、RIEによるエッチングにおいて、メタンと水素との流量比を、除去するポリマーの厚さに応じて変えることは言うまでも無い。SiO2マスク除去後に、この回折格子上に有機金属気相成長法(MOVPE)により対応する各層を積層することにより図15に示す半導体素子構造が作製される。
本実施例におけるInP基板上に堆積するポリマーの厚さの開口部幅依存性は、メタンガス流量を0−500sccm、ガス圧力を0.01−50Pa、放電電力を50−500Wの範囲で変化させることにより変化する。また、RIE時間を変化させることにより堆積するポリマーの厚さを変化させることができる。また、メタンと水素の混合ガスのメタンガス濃度を0.1−100%、ガス流量を0−500sccm、ガス圧力を0.01−50Pa、放電電力を50−500Wの範囲で変化させることによりエッチング速度を変化させることができる。酸素プラズマ照射は本実施例の条件に限定されず、例えば、基板上に堆積したポリマーを一度に除去するための条件等の他の条件でもポリマーを除去することができる。
(実施例4)
本発明の第4の実施例では、面内で深さが変化する回折格子部分の作製方法の一例を示す。本実施例は炭化水素系のガスを用いたドライエッチングにおいて生じるポリマーを利用する点で実施例3と同じであるが、エッチングに用いるSiNx/SiO2マスクにおいて、回折格子外部部分のSiO2マスクの幅は一定であるが回折格子部分のSiNxマスクの幅が変化するという点で実施例3と異なる。
図19は、本実施例において試料表面に形成するSiNx/SiO2マスクの上面図である。図19において、符号190はInP表面、1910はSiNxで形成される回折格子部分のマスク、1911はSiO2で形成される回折格子外部部分のマスク、1912は回折格子の長さ、1913は回折格子の幅、1914はピッチ(周期)、1915は回折格子外部部分のマスクの幅である。
上述した本発明の一実施形態に係るマスクの作製方法に基づいて本実施例に係るSiNx/SiO2マスクを作製する。図19において、SiNxで形成される回折格子部分のマスク1910のマスク厚が20nm、回折格子の長さ1912が500μm、回折格子の幅1913が素子両端では広く5μm、素子中央部では狭く3μm、ピッチ(周期)1914は240nm(SiO2部:120nm、窓部:120nm)である。SiO2で形成される回折格子外部部分のマスク1911のマスク厚が1μm、マスクの幅1915が10μmで一定である。なお、このマスクの作製方法については上述で説明したのでここでは省略する。
図20(a)〜(f)は、本実施例における回折格子部分の作製方法を説明するための図で、図20(a)はエッチング前の回折格子作製用マスク(図19で示したSiNx/SiO2マスクと同様なもの)を有する試料の一部、図20(b)は1回目のエッチングにより開口部の一部にポリマーが堆積した試料の一部、図20(c)は酸素プラズマを照射した試料の一部、図20(d)は2回目のエッチングをした試料の一部、図20(e)はエッチングと酸素プラズマ照射(図20(a)〜図20(d))とを繰り返し施して作製された回折格子深さの異なる試料の一部、図20(f)はメサ構造に加工された試料を各々示す図であり、各図において(A)は概観図、(B)は断面図を示している。
図20において、符号200はInP基板、2011はSiNxで形成される回折格子部分のマスク、2012はSiO2で形成される回折格子外部部分のマスクを示している。ここで説明を理解しやすくするために回折格子外部部分のマスク2012の一部を点線で透明に記載している。符号2001、2002、2003、2004は回折格子部分の2011マスクの開口部であり、回折格子部分のマスク2011について幅の狭い方から順に2001、2002、2003、2004とする。符号2021は1回目のエッチングにより堆積したポリマーであり、2041は2回目のエッチングにより堆積したポリマーである。
上述の本発明の一実施形態に係るマスクの作製方法に従って、InP基板200表面に回折格子外部部分のマスク2012の幅が一定で回折格子部分のマスク2011の幅が変化するマスクを形成する(図20(a))。ここで、各開口部の幅は、2001、2002、2003、2004の順にそれぞれ、2.0、4.0、6.0、8.0μmとする。
以下に説明する一連のエッチング過程において、本実施例においても、回折格子部分のマスク2011のマスク厚よりも回折格子外部部分のマスク2012のマスク厚の方が厚いというマスク構造のため、マスク厚の厚い(1μm)マスク2012からのメタン・水素プラズマの寄与がは大きく、マスク厚の薄い(20nm)マスク2011からのメタン・水素プラズマの寄与は小さい。
図20(a)に示すInP基板200に対して、メタンと水素の混合ガスを用いたRIEを、メタン流量40sccm、水素流量2sccm、ガス圧力が10Pa、放電電力が100Wで施すと、幅が2μm以下の開口部2001においては、マスク2012上から水素の供給が十分あるのでポリマーが堆積することなくエッチングが進行する。
一方、幅が2μmより広い開口部2002、2003、2004においては、マスク2012上から水素の供給が不足するので、ポリマー2021が堆積してエッチングが進行しない(図20(b))。引き続き、酸素プラズマを酸素流量10sccm、ガス圧力10Pa、放電電力400Wで1分間照射すると、堆積したポリマー2021が除去される(図20(c))。
次に、水素流量を増加させた条件(メタン流量40sccm、水素流量5sccm、ガス圧力が10Pa、放電電力が100W)でRIEを施すと、幅が4μm以下の開口部2001、2002においては、水素の供給が増加するのでポリマー2041が堆積することなくエッチングが進行する。一方、幅が4μmより広い開口部2003、2004においては、マスク2012上から水素の供給がまだ不足するので、ポリマー2041が堆積してエッチングが進行しない(図20(d))。
したがって、幅が2μm以下の開口部2001においては、初めのRIEによるエッチングの後にさらに2度目のRIEによるエッチングが進行するので、その深さは、幅が2μmから4μmまでの開口部の深さよりも深くなる。引き続き酸素プラズマを照射することにより、上述と同様に堆積したポリマー2041が除去される。このようにRIEと酸素プラズマ照射とを交互に繰り返す。この際に、RIEを施すごとに、除去するポリマーの厚さに応じて水素流量を増加させることにより、深さの異なる回折格子を形成することができる(図20(e))。
このとき、水素流量は100sccmまで増加させることができる。その後、マスク除去、メサ構造加工を行うと図20(f)に示す、異なる深さの回折格子を得ることが出来る。この回折格子上に有機金属気相成長法(MOVPE)により対応する各層を積層することにより図15に示す半導体素子構造を作製することができる。
この際、回折格子の開口部の両端部には、マスク上で反応に寄与しなかった水素(プラズマ)が流入する。この水素プラズマ分だけメタンが反応してエッチングが進行する。したがって、ポリマーが堆積する開口部においても両端の一部分のみでエッチングが進行する。このように、開口部全域において深さが均一にならないという問題が生じる場合がある。しかしながら、実際のデバイスにおいてはメサ構造が採用されるため、開口部の両端部はメサ形成時に切り落とされるので、実際のデバイス作製上における問題とはならない。
本実施例ではRIE時に開口部においてエッチングに寄与する水素の量を、水素流量により変化させたが、ガス圧(0.01Pa−50Pa)によるマスク上から水素の拡散距離の変化、または放電電力(50−500W)によるイオン化される水素の量の変化によっても変化させることができ、同様の効果が得られる。
上述の実施例では、回折格子の深さを5〜30nmに設定したが、この深さに限られることはなく素子内で回折格子の深さが一定ではなく変化していれば同様の効果が得られる。この際、回折格子の深さが素子長方向に対称である必要はない。この深さに対応して変化する結合係数も5〜80cm−1に設定したがこの値に限られることはない。
また、上述の実施例では素子用の半導体結晶として化合物半導体InP結晶を用いたが、GaAs、SiGeなどの化合物半導体結晶やInGaAsP、AlGaInAs、InGaN、GaInNAs、AlGaSbなどの混晶結晶を用いても可能である。また、本発明による装置が対応するレーザ光の波長として1.55μmを用いたが、InGaAsP結晶の組成などの構造、回折格子のピッチ(周期)を変えることにより波長が1.0μm〜1.7μmまでの長波長帯にも対応でき、活性層に他の材料(InGaAlN、AlGaInP、AlGaSbなど)を用いることにより波長が1.0μm未満の短波長帯や、1.7μm以上の長波長帯にも対応できる。また、活性層における多重量子井戸構造には、6層、5nm厚のInGaAsP歪量子井戸層(歪量:1.0%)、5層、10nm厚のInGaAsP障壁層(組成波長:1.1μm)を用いたが、歪量、層数、層厚、結晶組成などの構造因子は変化させてもかまわない。
また、上述の実施例では、回折格子等の半導体の加工のためのドライエッチングにおいて、エッチングガスとして塩素やメタンを用いたが、エタン等の他の炭化水素系ガスや臭素などのハロゲン系ガスなど他のガスを用いても構わない。また、エッチングガスとして混合ガスを用いる際の希釈ガスには水素ガスだけではなく窒素やアルゴンなどでも構わないし、希釈ガスは用いなくても構わない。また、ドライエッチング法にRIBE、RIE法を用いたが、イオンビームアシストエッチングなどを用いても加工できる。また、プラズマ状態のガスを用いたドライエッチング以外でも、プラズマ状態でないガスを用いたガスエッチング、酸溶液を用いたウエットエッチングにより加工することも可能である。レジストパターン作製には電子ビーム露光法以外にも干渉露光法を用いることができる。エッチングの際に半導体表面に形成するマスクには酸化シリコン(SiO2)を用いたが、窒化シリコン、酸化チタンなどの誘電体や、金やチタンなどの金属を用いることもできる。
なお、本発明の一実施形態について、上述では、2つの材質のマスク(SiNxマスクおよびSiO2マスク)を用いた半導体素子の製造方法について説明したが、これに限定されない。すなわち、本発明の一実施形態では、1つの材質のマスクを用いるようにしても良い。
以下で、本発明の一実施形態に係る1つの材質のマスクの作製方法について説明する。
図21(a)〜(b)は、本発明の一実施形態に係る回折格子形成に用いる、1つの材質のマスクの作製方法を説明するための図で、図21(a)は表面に酸化シリコン(SiO2)膜を形成した試料、図21(b)はSiO2膜をレジストパターンにより加工した試料、図21(c)は回折格子部分をレジストパターンにより加工した試料を各々示す図である。同図において、符号2110はInP基板上のInPクラッド層、2111は酸化シリコン(SiO2)膜、2112は回折格子外部部分のSiO2膜、2113は回折格子部分のSiO2膜、2114は回折格子外部部分のマスク部、2115は回折格子部分のマスク部を示している。
InP基板上のInPクラッド層2110の表面に1μm厚のSiO2膜2111を形成する(図21(a))。SiO2膜2111上にレジストを塗布した後に電子ビーム露光法により回折格子外部部分を形成するためのレジストパターンを作製する。このレジストパターンは、電子ビーム露光だけでなく通常のフォトリソグラフィによるレジスト露光により形成できることは言うまでもない。本実施形態では、回折格子外部部分が面積の異なるマスク部となるようにレジストパターンを作製する。
このレジストパターンをマスクとしてフッ化硫黄系ガス(SF8など)を用いた反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、RIE)によってSiO2膜2111を加工することにより、レジストパターンをSiO2膜2111に転写する。このRIEでは、回折格子外部部分のSiO2膜2112については1μm厚のままで残すと共に、回折格子部分のSiO2膜については30nm厚となるようにエッチングを行う。レジストパターンを除去することにより、InPクラッド層2110上に回折格子外部部分用のマスク部が形成される(図21(b))。
ついで、InPクラッド層2110に対して、回折格子外部部分用のSiO2膜2112にはエッチングが進行にしないようにレジストを形成して保護すると共に、回折格子部分のSiO2膜2113にはレジストを塗布して電子ビーム露光法により回折格子用のレジストパターンを作製する。回折格子用のレジストパターンをマスクとしてフッ化硫黄系ガス(SF8など)を用いたRIEによって回折格子部分のSiO2膜2113を加工することにより、回折格子の形状のマスクを回折格子部分のSiO2膜2113に形成する。この結果、InP上に、1つの材質からなる、回折格子部分のマスク部2115と回折格子外部部分のマスク部2114とで厚さの異なり、回折格子外部部分のマスク部2114が異なる面積のマスク部となるマスクが形成される(図21(c))。
このようなマスクが形成されたInP基板に対して、上述のようにドライエッチング等、通常のエッチング方法を適用することで、一回のエッチングで深さの異なる回折格子を作製することができる。
なお、回折格子外部部分のマスク部2114は、上述したSiO2で形成されるマスクと同様の機能を果たす。すなわち、マスク部2114を形成することにより、回折格子部分のマスク2115の開口部に拡散されるエッチング種の量を制御することができる。また、回折格子部分のマスク部2115は、上述したSiNxで形成されるマスクと同様の機能を果たす。すなわち、マスク部2114よりもマスク部2115の厚さを薄くすることで、マスク部2115から開口部へ拡散されるエッチング種の影響を小さくすることができる。
また、上述では1つの材質としてSiO2を用いているが、これに限定されず、例えば、SiNx等、マスクを形成できるものであればいずれを用いても良い。