JP4006393B2 - 金属製光学素子の製造方法 - Google Patents

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本発明は、高精度な光学面を持った金属製光学素子を製造するための方法に関する。
金属製の光学素子は、基本的に反射光学系を構成するため、ガラス製の光学素子のように光の透過損失が全く発生せず、特に紫外域や赤外域での波長を取り扱う光学系に用いて有利である。また、反射鏡を用いた身近な画像表示システムとして、フライトシミュレータやヘッドマウンティングディスプレイ,プロジェクタ,赤外線暗視カメラなどが一般に知られている。
硝材などと比較して表面硬度が低い金属を光学素子として用いる場合、摩擦などによる傷の発生を避けるためにその光学面を強化させておくことが好ましい。一般に、金属の強化手段として、固溶強化と時効強化、分散強化などが知られているが、この中でも時効強化および分散強化は、母相と異質な析出や分散した化合物が転移の移動の大きな障害となるため、その強度がより高くなる傾向を持つ。このような高強度化が可能な金属材料として一般的なものは、アルミニウム合金やステンレス鋼などであり、光学面となる部分に対して機械研磨や化学研磨、あるいは複合研磨などを施して平滑化させることにより、広く照明用や光学素子として用いられている。
例えば、金属製の反射鏡およびその材料としては、アルミニウムの冷間圧延材の表面にアルミニウムをベースとする金属を連続蒸着した家庭用照明機器用板材が特許文献1などで知られている。また、鏡面研磨されたステンレス鋼板をプレス成形やバルジ成形によって金属製反射鏡を製造する方法が特許文献2に開示されている。さらに、特許文献3には、アルミニウムまたはその合金あるいはステンレス鋼をへら絞り成形または液圧成形によって所望の曲面に成形し、次いでその表面を研磨することによって照明機器用反射鏡を製造する方法が特許文献3に開示されている。
特開平7−243027号公報 特開平8− 36222号公報 特開平9−120705号公報
近年、硝材の精密プレス成形によってガラス製光学素子を研磨することなく製造する技術が確率しつつあり、これと同様に、金属の精密プレス成形によって、高精度な光学面を持つ金属製光学素子を材料の除去を伴わずに効率よく製造することが望まれている。
このような観点において、特許文献1に開示された反射鏡材料は、アルミニウムを主体とするものであって、他の金属を5重量%まで混入させることが可能であることを示している。実際に、このような反射鏡材料を用いて精密プレス成形を行った場合、成形によって得られた光学面に異物に起因する微視的な凹凸や亀裂が生じ、このような表面欠陥の影響のために高品質な金属製光学素子を得ることができない。また、アルミニウム圧延板の平坦化のためにスキンパス処理を施したり、アルミニウム蒸着時の被処理材の温度を130℃以下という高温下に曝すなどの条件によって、板素材には大きな加工硬化や高い異方性、あるいはホールペッチ効果による高強度化などの成形能を悪化させる因子が作用するため、このような板材では目標とする形状精度を得ることが困難となる。
また、特許文献2に開示された方法では、プレス成形時や離型時におけるステンレス鋼板の鏡面を保護するため、金型の成形面と鏡面研磨されたステンレス鋼板との間に潤滑剤や樹脂シートを介在させている。しかしながら、成形時に金型の成形面に沿ってステンレス鋼板が塑性流動する際に、潤滑剤や樹脂シートがこれらの隙間に不均一に入り込む結果、本願発明が意図するような光学面の精度を到底得ることができない。このような介在物を省略できたとしても、ステンレス鋼を構成する合金特有の微視的に不均質な物質に起因する表面欠陥により、本願発明が意図するような表面あらさの精度を満たすことが根本的に困難である。
同様に、特許文献3に開示された反射鏡の製造方法は、プレス成形後の反射鏡の表面に化学研磨処理を施して照明用金属鏡を得るものであるため、本発明が意図するような高精度な光学面を得ることができない。しかも、プレス成形に続く後工程が必要であり、加工コストおよび精度の両方で満足できるようなものではない。
このように、金属製光学素子の最終的な光学面の表面あらさRaを本願発明が意図するような20nm以下にするためには、従来の方法ではプレス成形後に機械研磨などを中心とする後加工を行う必要があり、製造効率や製造コストが嵩む欠点を有する。たとえ素材ブランクの表面あらさRaが一般的な鏡面として照明機器などで利用可能とされている0.05〜0.1μm以下のものであっても、これをプレス成形によって20nm以下の表面あらさRaにまで仕上げることが困難であった。
本発明は、最大形状誤差PVが2μm以下、表面あらさRaが10nm以下の成形面を有すると共に超硬合金,工具鋼,サーメット,セラミックスの何れかをベースとして形成された成形型を用い、光学面の最大形状誤差PVが5μm以下、表面あらさRaが20nm以下の形状を有する金属製光学素子を製造する方法であって、少なくとも前記光学面となる部分がアルミニウム,銅,ニッケル,銀,亜鉛,錫,鉄,チタンの何れか1つを97モル%以上含み、それ以外の不純物の最大粒径が500μm以下に調整された光学素子ブランクを用意するステップと、前記光学面となる前記光学素子ブランクの部分を平滑化処理するステップと、平滑化処理された前記光学素子ブランクをプレス成形することにより、前記光学面を後加工することなく前記金属製光学素子を得るステップとを具えたことを特徴とするものである。
光学素子ブランクの光学面となる部分の純度を99.995モル%以上にした場合、その素材コストが急上昇して製品コストを押し上げる結果を招くため、光学素子ブランクの光学面となる部分の純度は99.995モル%未満にすることが好ましいと言える。なお、不可避不純物の最大粒径が500μm以下に調整されるため、このプレス成形に関する雰囲気を清浄度の高い環境下にて行うことが有効である。
本発明においては、光学素子の少なくとも光学面となる部分がアルミニウム,銅,ニッケル,銀,亜鉛,錫,鉄,チタンの何れか1つを97モル%以上含み、それ以外の不純物の最大粒径が500μm以下に調整された金属製の光学素子ブランクに対し、この光学素子ブランクの光学面となる部分を予め平滑化処理してから成形型を用いて成形加工を行うことにより、成形型に形成された成形面とほぼ同じ精度、例えば最大形状誤差PVが5μm以下、表面あらさRaが20nm以下の光学面を持つ光学素子が得られる。なお、光学素子ブランクの光学面となる部分の純度を99.995モル%以上にした場合、その素材コストが急上昇して製品コストを押し上げる結果を招くため、光学素子ブランクの光学面となる部分の純度は99.995モル%未満にすることが好ましい。
また、超硬合金,工具鋼,サーメット,セラミックスの何れかをベースとして形成され、最大形状誤差PVが2μm以下かつ表面あらさRaが10nm以下の成形面を有する成形型を用いて光学素子ブランクを成形加工により仕上げるようにしたので、特に光学素子ブランクの光学面となる部分を予め平滑化処理しておくことにより、光学素子ブランクに対して成形型の成形面を確実に転写することができ、得られる光学素子の光学面の最大形状誤差PVを例えば5μm以下かつ表面あらさRaを20nm以下にすることが可能である。この結果、成形後の研磨作業を省略して生産性を上げると同時に製造コストも低減させることができる。
本発明による成形型において、成形面を金属酸化物,金属炭化物,金属窒化物,高密度炭素、貴金属基合金の何れか1つか、あるいはこれらのうちの2種類以上の積層膜にて形成することができる。
プレス形は、光学素子ブランクに対して塑性変形,超塑性変形,クリープ変形の少なくとも1つを与えるものであってよい。この場合、1回の成形工程によって所望の精度を持つ光学素子を成形したり、成形工程を複数回繰り返すことによって所望の精度を持つ光学素子を成形することができる。成形工程を複数回に分けた場合、特に光学素子ブランクを加工硬化の著しい材料にて形成したものでは、少なくとも最終回の成形工程前に成形型を高温に保持し、光学素子ブランクを構成する金属組織に作用している応力を解放して表面あらさを低下させることが好ましい。また、成形型の成形面に対する光学素子ブランクの塑性流動をより円滑化させるため、成形型に超音波振動や衝撃を与えることも有効である。超音波振動や衝撃を加えながら成形することにより、型と被加工物との摩擦が低減し、成形性の向上をもたらす。
本発明の金属製光学素子の製造方法によると、析出相や偏析,分散強化成分,またはプレス成形中に不可避的に混入する異物を極力排除することが可能であり、これらの異物に起因する表面欠陥を減少させ、成形型に形成された成形面の転写性を著しく向上させることができ、最大形状誤差PVが5μm以下かつ表面あらさRaが20nm以下の極めて高精度光学面を持った高品質の金属製光学素子を成形加工によって安価に製造することが可能である。この結果、成形後の研磨作業を省略して生産性を上げると同時に製造コストも低減させることができる。
成形面を金属酸化物,金属炭化物,金属窒化物,高密度炭素の何れか1つか、あるいはこれらのうちの2種類以上の積層膜にて形成した場合には、従来のように成形型と光学素子ブランクとの間に潤滑剤や樹脂シートなどを介在させる必要がなくなり、成形型の成形面の転写性を向上させることができる。
本発明による金属製光学素子の製造方法を凹球面鏡に対して応用した実施形態について、図1〜図3を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限らず、これらをさらに組み合わせたり、この明細書の特許請求の範囲に記載された本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が可能であり、従って本発明の精神に帰属する他の技術にも当然応用することができる。
発明の対象となった凹球面鏡の断面構造を図1に示す。すなわち、この凹球面鏡1は、厚さが1mmのアルミニウム(Al)製,銅(Cu)製,ニッケル(Ni)製,銀(Ag)製,亜鉛(Zn)製,錫(Sn)製,鉄(Fe)製,チタン(Ti)製の何れか1つを97モル%以上含み、それ以外の不純物の最大粒径が10μm以下に調整されたものである。曲率半径が70mmに設定されたこの凹球面鏡1の光学面2には、反射率を増大させるための反射層や光学面2の損傷を抑制するための保護層などのコーティング層3が必要に応じて蒸着形成されている。光学面2は、最大形状誤差PVが2μm以下、表面あらさRaが10nm以下に加工され、本実施形態ではフランジ部4がその外周縁部に一体的に形成されている。
このような凹球面鏡1は、以下のようにして容易に製造することができる。すなわち、その光学面となる一方の表面を予め所定の表面あらさRaにまで平滑化処理した直径が約100mm,厚さが1mmの円板状をなすAl,Cu,Ni,Ag,Zn,Sn,Fe,Ti製の光学素子ブランクをそれぞれ用意し、深絞り,油圧バルジ,圧縮加工によってそれぞれ製造を試みた。
深絞りによる成形手順を図2および図3を参照して説明すると、円筒状のダイホルダ11上に円板状をなす光学素子ブランク5をその光学面2となる部分が下向きとなるように載せ、半球状の凹成形面12が形成されたダイス13を環状のダイプレート14を介して光学素子ブランク5の外周縁部に重ね(図2参照)、ダイホルダ11とダイプレート14およびダイス13とで光学素子ブランク5の外周縁部を挟持しつつ半球状の凸成形面15が形成されたポンチ16をダイス13に向けて上昇させ、ダイス13の凹成形面12とポンチ16の凸成形面15とで光学素子ブランク5を挟み付け、これを所定形状に成形する(図3参照)。
なお、油圧バルジでは、ダイス13に代えて油圧を利用し、光学素子ブランク5をポンチ16の凸成形面15に沿って変形させ、圧縮加では光学素子ブランク5の外周縁部に対する拘束を行わずにダイス13とポンチ16との間に光学素子ブランク5を挟み付けて半球状に変形させる。98%以上のアルミニウム製の光学素子ブランクが超塑性変形する以外、残りの光学素子ブランクは何れも一般的な塑性変形にて成形がなされ、その後Al製,Ag製,Zn製,Ti製の光学素子ブランクはさらにクリープ変形にて成形がなされる。
結果を表1に示す。実施例5,13および比較例3,5が深絞り加工により行ったものであり、実施例2および比較例3が油圧バルジ加工により行ったものであり,残りの実施例および比較例はすべて圧縮加工により行ったものである。成形温度は、加工法に応じて最適な温度が選択されているが、すべて300Kから670Kまでの範囲に納まっている。また、使用した成形型、つまり図2および図3に示されたダイス13およびポンチ16は、何れもその成形面12,15に窒化チタン(TiN)をコーティングしたタングステンカーバイト(WC)をベースとする超硬合金製のものであり、凹球面鏡1の光学面2を成形するための成形面12,15は、要求される光学面と同等の表面あらさRaおよび最大寸法誤差PVに予め仕上げられている。
Figure 0004006393
表1から明らかなように、本発明方法に基づく実施例1〜13のものは、何れも凹球面鏡1の光学面2の表面あらさRaが20nm以下,最大寸法誤差PVが5μm以下であり、本発明が要求する光学面精度を満たしていることを確認できた。ただし、実施例13は凹球面鏡3の光学面1の表面あらさRaおよび最大寸法誤差PVが本願発明の要求を何れも満たしているものの、極めて高純度の素材(光学素子ブランク4)を使用しているため、素材コストが嵩む欠点を有するこれに対し、比較例1〜11のものは何れも凹球面鏡1の光学面2の表面あらさRaが20nmを越えており、本発明が要求するような光学面精度に達していないことも確認できた。また、実施例1〜13,比較例1〜11と同じ条件にて曲率半径が30mmの凹球面鏡の製造も試みたが、全く同じ結果が得られた。
このようにして成形された凹球面鏡1の光学面2には、図1に示すように必要に応じて反射率を増大させるための反射層や光学面2の損傷や腐食を抑制するための保護層などのコーティング層3が蒸着形成される。
上述した実施例1〜13,比較例1〜11においては、成形工程を1回で終了するようにしているが、変形量が大きな成形加工においては、成形工程を2回以上に分けて加工を行うようにしてもよい。この場合、最初の工程で平板状をなす光学素子ブランク4を最終成形形状に近い形状まで変形させ、次の工程で仕上げ成形を行うことが好ましい。このよう方法でも同じ結果を得ることができる。
本発明の対象となった金属製光学素子の一例を表す凹球面鏡の断面図である。 図1に示した凹球面鏡を本発明の方法によって製造する場合に用いられる成形型の一を示す断面図である。 図2に示した成形型を用いて図1に示した凹球面鏡を本発明の方法によって製造する場合の成形中の状態を表す断面図である。
符号の説明
1 凹球面鏡
2 光学面
3 コーティング層
4 フランジ部
5 光学素子ブランク
11 ダイホルダ
12 凹成形面
13 ダイス
14 ダイプレート
15 凸成形面
16 ポンチ

Claims (3)

  1. 最大形状誤差PVが2μm以下、表面あらさRaが10nm以下の成形面を有すると共に超硬合金,工具鋼,サーメット,セラミックスの何れかをベースとして形成された成形型を用い、光学面の最大形状誤差PVが5μm以下、表面あらさRaが20nm以下の形状を有する金属製光学素子を製造する方法であって、
    少なくとも前記光学面となる部分がアルミニウム,銅,ニッケル,銀,亜鉛,錫,鉄,チタンの何れか1つを97モル%以上含み、それ以外の不純物の最大粒径が500μm以下に調整された光学素子ブランクを用意するステップと、
    前記光学面となる前記光学素子ブランクの部分を平滑化処理するステップと、
    平滑化処理された前記光学素子ブランクをプレス成形することにより、前記光学面を後加工することなく前記金属製光学素子を得るステップ
    を具えたことを特徴とする金属製光学素子の製造方法。
  2. 前記成形面は、金属酸化物,金属炭化物,金属窒化物,高密度炭素、貴金属基合金の何れか1つか、あるいはこれらのうちの2種類以上の積層膜にて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属製光学素子の製造方法
  3. 前記プレス成形するステップは、前記光学素子ブランクに対して塑性変形,超塑性変形,クリープ変形の少なくとも1つを与えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属製光学素子の製造方法
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