JP4005831B2 - 親水性塗膜 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は主に洗面、浴室、キッチンなどの水周り部材の塗装に用いられる塗料に関し、特に親水性能が高く、乾燥時間短縮に優れた親水性塗膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の親水性塗料は特開昭61−76563号公報に記載されているようなものがあった。この塗料は反応硬化型のアクリル系塗料で、りん酸エステル系単量体とコロイド状シリカを用いて親水化を図ろうとするもので、コロイド状シリカと数種の塗料単量体成分としてアクリレート単量体、りん酸エステル系単量体、グリセリングリシジルエーテルアクリル酸エステルなどを配合することによって耐久性があり、付着する水滴を濡れの効果で表面に効果的に広げうる塗膜を与えることを意図している。コロイド状シリカは粒子径が10〜50nmと非常に細かく、塗膜表面形状への影響は見られない。また、りん酸エステル系単量体のみの添加、もしくはりん酸エステル系単量体およびコロイド状シリカの添加でも初期の防曇性は得られるものの耐久性に劣るものであり、アクリレート単量体の選定に加え、グリセリングリシジルエーテルアクリル酸エステルを配合することによる複雑な組み合わせで耐久性を確保できるものであった。
【0003】
また、本出願のような無機酸化物粒子とフッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤を組み合わせて用い、さらに親水性に劣る部分を島状に多数構成してなる親水性塗膜に関するものは従来見られない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記従来の親水性塗料では、親水性を発揮するには各種のアクリレート単量体、コロイド状シリカ、グリセリングリシジルエーテルアクリル酸エステルなどの複雑な組合せが必要で、他の種類の塗料、例えばアクリルラッカー、ウレタン塗料、アルキド系塗料などへの適用は困難であった。
【0005】
一方、洗面、浴室、キッチンなどの水周り部材に用いられる親水性塗料であって、塗膜上の水の乾燥速度を一段と高めて、汚れの残りにくい、より清潔な親水性塗膜を得ることが望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決して簡単な添加剤配合の塗料によって親水性能、乾燥速度に優れた塗膜を与えるものである。すなわち、各種の塗料に無機酸化物粒子、さらにフッ素変性界面活性剤もしくはシリコーン変性界面活性剤を添加することに加えて親水性塗膜表面に親水性に劣る部分を島状に多数構成することで、従来の親水性塗膜以上に塗膜表面の水の乾燥速度をあげることができるようにしたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に係る親水性塗膜は、無機酸化物粒子、およびフッ素系界面活性剤もしくはシリコーン系界面活性剤を含む親水性塗膜であって、塗膜表面を濡らした水が水滴に収斂することなく広がったままの状態を維持できる親水性を示す塗膜の海に、水をはじく親水性に劣る部分が島状に多数点在するよう構成したものである。ここで、無機酸化物粒子、例えば二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、シリカゲル、酸化ジルコニウム、ゼオライト、マイカ、タルク、ベントナイトなどの粒子、および界面活性剤の両者を含んで形成される塗膜は、無機酸化物粒子により塗膜表面に形成される微細な凹凸によって顕著な親水性を発揮することができる。一方、親水性塗膜表面に親水性に劣る部分を島状に多数分散させ、この島状部分では水をはじくようにすることで、塗膜表面の乾燥時間が一段と短縮される。
【0008】
本発明の請求項2に係る親水性塗膜は、無機酸化物粒子が添加され、さらに添加されるフッ素系界面活性剤にパーフルオロ基を有する一方、エーテル基、例えばエトキシル基、プロポキシル基、環状エーテルであるエチレンオキシド、プロピレンオキシドなど、およびそれらを含むポリマーを有するものを添加することによって一段と優れた親水性能を発揮することができるものである。
【0009】
本発明の請求項3に係る親水性塗膜は、無機酸化物粒子が添加され、さらに添加されるシリコーン系界面活性剤にジメチルシロキサン基を有する一方、フッ素系界面活性剤と同様のエーテル基を有するものを添加することによって一段と優れた親水性能を発揮することができるものである。
【0010】
本発明の請求項4に係る親水性塗膜は、無機酸化物粒子が添加され、さらにフッ素系、もしくはシリコーン系界面活性剤を添加して親水性を発現させた塗膜に、さらに親水性に劣る粒状樹脂を添加することで親水性に劣る部分が島状に多数分散した状態に構成でき、塗膜表面の水の乾燥を一段と早くすることができるものである。
【0011】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0012】
(実施例1)
ニトロセルロースとアクリル樹脂を配合したアクリルラッカーの固形分100重量部に対して、シリカ粒子(平均粒子径4μm)を5重量部、エチレンオキシド、プロピレンオキシドの複合ポリマーを有するシリコーン系界面活性剤を3.2重量部添加して、さらに粒子径約20μmのメタクリル樹脂ビーズを3重量部添加し、適宜キシレン、ブタノール等の溶剤を加えて十分混練してアクリルラッカーの親水塗料を得る。添加したシリコーン系界面活性剤はアクリルラッカー中のシリカ粒子の分散およびレベリング改良に対して有効であり、改めて分散剤やレベリング剤を添加する必要が無くなる。添加したメタクリル樹脂ビーズの水に対する接触角は78°であり、親水性に劣るものである。また、各種の顔料を添加して着色することも可能である。この親水性アクリルラッカーを塗装し親水性塗膜を得て、その親水性能を評価した。
【0013】
評価方法としては0.3mLの水を塗膜上に滴下して、次いでその水滴を強制的に直径30mmの円盤状に広げる。強制を解除すると水の表面張力で円盤状の水は表面積の小さい球になるよう収斂するが、水および塗膜の表面張力と水/塗膜の界面張力と拮抗した位置で収斂が停止する。その時の塗膜上の水で濡れている面積を画像処理で測定する。すなわち、親水性能が高くて濡れ性に優れた塗膜表面では、水滴は直径30mmのまま留まるかあるいは拡大を示し、収斂性を示さない。
【0014】
この方法で得られた親水性アクリルラッカーの親水性能を測定すると、親水性に劣るメタクリル樹脂ビーズを含むにもかかわらず水は直径30mm(7cm2)のままで留まるものであった。
【0015】
また、この親水性塗膜を塗装した基材を勾配1/50に傾斜させたところ、水は低い方に連続して流れ、水膜の厚さが薄くなった部分では、塗膜表面に多数頭を出しているメタクリル樹脂ビーズによって水がはじかれる現象が観察された。一方、水は塗膜の連続した親水性の部分を伝ってより低い方へ移動を続けていた。すなわち、水を部分的にはじくことによって水の移動速度を速め、塗膜表面上の水の量を少なくすることで、表面の乾燥は一段と促進されるのである。
【0016】
(実施例2)
熱硬化型で自己硬化性のアクリル塗料の樹脂成分100重量部に対して、シリカ粒子(平均粒径3μm)6重量部を添加し、パーフルオロ鎖と、エチレンオキシド基を有するフッ素系界面活性剤を4重量部添加して、さらに水接触角が77°である粒子径約20μmのスチレン樹脂ビーズを4重量部添加し、適宜キシレン、セロソルブアセテートなどの溶剤を加えて十分に混錬して親水性アクリル塗料を得た。この塗料を塗布して160℃で加熱硬化させた。この塗膜を、実施例1記載の親水性能評価を行った結果、水は実施例1同様に水の濡れ面積で7cm2に広がったままの状態を示し、親水性能が十分に発揮されていることを示すものであった。また、本実施例においても実施例1同様に分散剤、レベリング剤は添加の必要の無いものであって、顔料によって着色された塗料でも親水性能を損なうことはなかった。
【0017】
この塗膜を塗装した基材を実施例1と同様に勾配を設けて水を流したところ、表面の水の量が多い時は全体が濡れた状態を示しているが、水が低い方へ流れ落ちて、勾配の高い表面の水膜の厚さが薄くなってくると、塗膜表面に頭を出しているスチレン樹脂ビーズの部分で水のはじきが観察される。その結果、実施例1と同様に乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0018】
(実施例3)
二液型ウレタン塗料のポリオール含有主剤100重量部に対して、シリカ粒子(平均粒径3μm)を8重量部、エチレンオキシド、プロピレンオキシドの複合ポリマーを有するシリコーン系界面活性剤を5重量部添加して、さらに粒子径約20μmのメタクリル樹脂ビーズを3重量部添加し、酢酸ブチル、トルエン溶剤を適宜添加、混錬して親水性ウレタン塗料主剤を得た。この親水性ウレタン塗料主剤に、適量のポリイソシアネート硬化剤を添加して塗装を行い90℃に加熱して親水性塗膜を得た。この塗膜は半艶消し半透明で、その親水性を評価した結果、水の濡れ面積は7cm2を示し十分な親水性を発揮しているものであった。
【0019】
この親水性の塗料による塗膜の断面構成を図1に示す。1は基材で、その表面に親水性塗膜2が塗装されており、このシリコーン系界面活性剤を固溶している親水性塗膜2内にはシリカ粒子3が分散しており、さらに、親水性の低いメタクリル樹脂からなる樹脂ビーズ4が分散されている。樹脂ビーズ4は親水性塗膜2表面に頭を出しており、これが親水性塗膜2表面に水をはじく島状部分5として多数分散されている。
【0020】
この塗料を、一例として浴室の洗い場表面に塗装してその状態を観察した。洗い場に水を流した当初は、表面の水膜の厚さが厚いため全面が濡れた状態を示しているが、洗い場の勾配にしたがって水は排水口に向かって流れ去り、洗い場表面の水膜の厚さは次第に薄くなってゆく。水膜が薄くなるに従って塗膜表面に無数に頭を出しているメタクリル樹脂ビーズ部分で水がはじかれる状況が観察された。洗い場表面の水膜は、はじかれた部分が点々と島状に無数に散らばっているが、それ以外の海の部分で繋がっており水は勾配の低い方へ流れ続けている。
【0021】
従って、洗い場の勾配の上手では、水膜の表面積が大きいことに加えて水の量が極めて少なくなり、表面の乾燥が促進され、順次乾いた部分が広がってゆくので極めて短時間に乾燥を完了できる。また、水が常に連続して流れ去るので表面に残る水の量が少なく、蒸発後に残される残渣としての汚れも少なくなり、汚れ難い洗い場とすることが出来た。
【0022】
以上の実施例について説明すると、実施例1ないし3において、無機酸化物粒子としてシリカ粒子を用い、エチレンオキシド基やプロピレンオキシド基などのエーテル基を有するシリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤をそれぞれ組み合わせて添加した各種塗膜において、水の濡れ面積は7cm2と、水は収斂しない状態を示しており親水性塗膜表面となっている。また、これら組合せの添加剤は、塗料の種類を問わず、実施例1ないし3に示したようにアクリルラッカー、熱硬化型アクリル塗料、二液型ウレタン塗料など、また、実施例に記載した以外の各種の塗料に対しても親水性能を付与できるものである。
【0023】
以上の実施例において、添加した無機酸化物はシリカ粒子、シリカゲル粒子で平均粒子径3μmのものを用いたがその他の粒子径のものや、他の粒子、例えば、シリカゲル粒子、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、ゼオライト、マイカなどの合成、天然無機酸化物粒子であっても、塗膜の透明性は損なわれるが使用可能である。加えて、これらとエーテル基を有するシリコーン系界面活性剤もしくはフッ素系界面活性剤を組み合わせて用いることで初めて親水性の塗料を得ることが出来るものである。
【0024】
また、実施例では親水性に劣る島状の部分を構成するためにメタクリル樹脂ビーズやスチレン樹脂ビーズを用いたが、その他の親水性能に劣る樹脂ビーズや粉砕品、例えば水接触角65°のPET樹脂粉砕品などを用いることも可能であるが、塗膜表面に頭を出すことのできる粒子径を選択する必要がある。
【0025】
上記実施例では、樹脂ビーズを添加して親水性に劣る島状部分を構成したが、この方法は一度の塗装で簡単に親水塗膜の海と島状部分を構成できるものであり、他の方法、例えば親水塗装を行なった後に親水性に劣る塗料を斑点状に塗装することでも可能で、本発明の請求の範囲1は特に親水性に劣る島状部分を構成する手段を限定するものではない。
【0026】
上記実施例では、透明、半透明の塗料について記載したが、これらに顔料を加えて着色しても親水性能が損なわれることはなかった。
【0027】
また、これら親水性塗料の表面硬度は無機酸化物を添加しているため、通常の塗料に比べて鉛筆硬度で1ポイント程高くなっており、また耐摩耗性においても向上が見られるものであった。
【0028】
さらに、添加している無機酸化物粒子も表面に露出するので、摩擦係数が高く滑りにくい塗膜表面とすることが出来る。
【0029】
また、塗膜が乾燥している場合、塗膜表面にはパーフルオロ鎖やジメチルシロキサン鎖が頭を出しているため、油系の汚れ、例えばワセリン、オレイン酸グリセリド、鉱物油などに対して付着力が弱く、洗浄により容易に洗い落とせる効果のあることがわかった。したがって、これら塗膜は汚れの付きにくいものであるといえる。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の請求項1に係る親水塗料は、無機酸化物粒子とフッ素系界面活性剤もしくはシリコーン系界面活性剤を含む親水性塗膜であって、塗膜表面を濡らした水が水滴に収斂することなく広がったままの状態を維持できる親水性を示す塗膜の海に、水をはじく親水性に劣る部分が島状に多数点在するものである。このように無機酸化物といずれかの界面活性剤を組み合わせて用いることに加えて、親水性能に劣る島状の部分を、樹脂ビーズなどを添加するなどの方法で塗膜表面に無数に分散させることにより、塗膜表面を濡らした水は、親水性の高い海部分の作用で水滴に収斂することなく広がったままの状態を維持できる親水性能を示す。一方、塗膜表面に広がった水膜は勾配にしたがって流失して行き、水の膜が薄くなると無数に分散している親水性に劣る島部分で水がはじかれる結果、水膜は依然広い表面積を有していることに加えて塗膜表面の水の量が極めて少なくなるので乾燥に要する時間を一段と短縮することができる。さらに、水は勾配にしたがって流れ落ちるため、浮遊している汚れも水と共に流れ去り、また表面の水の量が極めて少ないので残渣として残る水溶性の汚れもその量は比例して少なくなる。また、無機酸化物を含んでいるため、表面硬度が高く耐摩耗性にも優れたものとなり、さらに摩擦係数も高くなるため滑りにくい塗膜表面となる。さらに、無機酸化物にシリカゲルやシリカ粒子を用いた場合、透明もしくは半透明の塗膜が得られ、オーバーコート用塗料として用いることも可能である。
【0031】
また、請求項2に係る親水塗料は、フッ素系界面活性剤にパーフルオロ鎖を有し、エトキシル基、プロポキシル基、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのエーテル基などのエーテル基を含むものを用いることで、高い親水性能が得られるとともに、乾燥時には塗膜表面に頭を出したパーフルオロ鎖の作用で油などの汚れのつきにくいものとなり、また、付着した汚れは塗膜表面を濡らす水によって容易に除去されるという効果が得られる。
【0032】
また、請求項3に係る親水塗膜はシリコーン系界面活性剤にジメチルシロキサン鎖を有し、エトキシル基、プロポキシル基、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのエーテル基などのエーテル基を含むものを用いることで、高い親水性能が得られるとともに、乾燥時には塗膜表面に並んだジメチルシロキサン鎖の作用で油などの汚れのつきにくいものとなり、また、付着した汚れは塗膜表面を濡らす水によって容易に除去されるという請求項2のフッ素系界面活性剤と同様の効果が得られる。
【0033】
請求項4に係る親水塗膜は、親水性に劣る部分が粒状樹脂からなり、この粒状樹脂を塗料へ添加することによって親水性に劣る島状部分を構成するもので、樹脂ビーズ、樹脂粉砕品などを用いることができる。添加した粒状樹脂は塗膜表面に頭を出して固定されるので、その低い親水性によって水の膜がはじかれる結果、塗膜表面の水量が著しく減少して乾燥時間が一段と短縮される。また、塗膜表面に残って乾燥する水量が極めて少ないので残渣として残る汚れも比例して少なくなり、耐汚染性に優れた親水塗膜とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例3における親水性塗膜の断面図
【符号の説明】
1 基材
2 親水性塗膜
3 シリカ粒子
4 樹脂ビーズ
5 島状部分

Claims (4)

  1. 無機酸化物粒子と、フッ素系界面活性剤もしくはシリコーン系界面活性剤を含む親水性塗膜であって、塗膜表面を濡らした水が水滴に収斂することなく広がったままの状態を維持できる親水性を示す塗膜の海に、水をはじく親水性に劣る部分が島状に多数点在する親水性塗膜。
  2. フッ素系界面活性剤はパーフルオロ鎖およびエーテル基を有する請求項1記載の親水性塗膜。
  3. シリコーン系界面活性剤はジメチルシロキサン鎖およびエーテル基を有する請求項1記載の親水性塗膜。
  4. 親水性に劣る部分が粒状樹脂からなり、この粒状樹脂を塗料へ添加することによって親水性塗膜内に親水性に劣る島状部分を構成した請求項1、2又は3記載の親水性塗膜。
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