JP4004240B2 - 乾燥電気泳動用ゲルカッター - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、乾燥電気泳動用ゲルカッターに関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、電気泳動後のゲルを長期保存用に乾燥させた後、ゲル上の所望の位置を型抜きするための乾燥電気泳動用ゲルカッターに関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
蛋白質は、生命の発生や分化、疾病の進行、環境の変化等に伴って質的、あるいは量的に変動するため、ゲノムによってコードされた蛋白質の1セット(プロテオーム)を解析できれば、このような蛋白質を網羅的に把握し、遺伝情報の流れや生命現象のメカニズムの解明、疾病の診断、医薬品開発において重要な知見が得られると期待される。
【0003】
従来、プロテオームの解析方法としては、ゲル電気泳動法が一般的に用いられている。とくに二次元ゲル電気泳動法は、高い分離能で蛋白質を分離できるため、広く用いられている。二次元ゲル電気泳動法では、対象とする試料の蛋白質を一次元目を等電点電気泳動で、二次元目をSDSゲル電気泳動により展開し、そのパターンを解析する。ついで注目したスポットをゲルから切り出し、含まれる蛋白質を同定する。
【0004】
しかし、このような二次元ゲル電気泳動法では、通常、一枚のゲルから切り出されるスポットの数は、数十から数百個にもおよび、それらの試料を正確に解析し、記録することは困難である。そこで、ゲルから所望のスポットを迅速に切り出し、試料情報を整理、分析、記録するための装置(例えば、Bio-Rad社製PROTEAN 2D-Spot Cutter)が市販されている。このような装置は、二次元電気泳動ゲルを画像化し、画面上で切り出し個所を指定して切り出しを行った後、試料情報を記録したり、個別にウェルに回収したりする機能をも有する。
【0005】
ところで、二次元電気泳動ゲルは、柔らかくて破損し易く、水分の蒸発により乾燥して脆くなるため、長期の保存は難しい。そのため、解析は二次元ゲル電気泳動直後に行う必要があり、前記のとおりの切り出し操作等を行う場合にも、ゲルの乾燥を防ぐ必要があるなど、取り扱い上の問題があった。電気泳動ゲルを長期保存できれば、作業の効率化が図れ、プロテオーム解析の発展の面からも好ましい。そこで、電気泳動終了後の二次元電気泳動ゲルを長期保存用に処理する様々な方法が検討されている(例えば、Lett. Appl. Microbiol, ITA, Vol.19, No.4, pp. 221-224 (1994); BioTechniques, Vol.14, No.2, pp. 200-201 (1993); BioTechniques Vol.8, No.4, pp. 381-382 (1990)他)。
【0006】
このような方法で乾燥され、長期保存が可能となったゲルからのスポットの切り出しや蛋白質の同定には、これまで、通常の二次元電気泳動用ゲルと同様の方法が適用されていた。つまり、薄くて硬いプラスチック状の板となった乾燥ゲルを溶剤等により処理して再び膨潤させ、ウェットなゲルに戻した後に切り出し、および同定を行っていたのである。したがって、長期保存用にゲルを乾燥した場合には、蛋白質の同定に至るまでの工程がより煩雑になるという問題があったのが実情である。
【0007】
前記の種々の方法で乾燥された長期保存用の乾燥ゲルから直接所望のスポットを切り出すことができれば、長期保存用の試料を再度膨潤させる必要がないため、操作が簡便となるだけでなく、溶剤や試薬の影響を受け難くなるため、好ましい。しかし、前記の従来のスポットカッター等は、柔らかいゲル用に開発されたものであるため、これを乾燥ゲルに適用した場合には、乾燥電気泳動用ゲルの割れなどが生じやすく、正確な同定や分析が不可能であった。
【0008】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、簡便に短時間でかつ迅速に乾燥電気泳動用ゲルの所望のスポットを切り出しできる乾燥電気泳動用ゲルカッターを提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、まず第1には、保存用に乾燥した電気泳動用ゲルから試料を型抜きするための乾燥電気泳動用ゲルカッターであって、上下移動機構を備えた円形型と、円形型の外形よりも大きな穴を円形型の真下に有する穴明き台と、その上を前後左右に水平移動できる枠状の試料台と、型抜きされた乾燥電気泳動用ゲル試料を収集するための収集箱を有し、前記円形型の乾燥電気泳動用ゲルとの接触面が乾燥電気泳動用ゲルに対して平行であり、かつ前記円形型の直径と穴の内径のクリアランスが1〜2μmであることを特徴とする乾燥電気泳動用ゲルカッターを提供する。
【0010】
この出願の発明は、第2には、収集箱が、型抜きされた乾燥電気泳動用ゲル試料を個別に収集するための間仕切りと、前記試料台とは独立して前後左右に水平移動するための機構を有する前記の乾燥電気泳動用ゲルカッターを、また、第3には、試料台、穴明き台、および収集箱の底面が透明材料で構成されており、収集箱の下には照明装置を有するものである前記の乾燥電気泳動用ゲルカッター提供する。
【0011】
【発明の実施の形態】
この出願の発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターの概要を図1に例示する。もちろん、この発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターは図1に示されるものに限定されるものではない。
【0012】
この発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターは、保存用に乾燥した乾燥電気泳動用ゲルから試料を型抜きするためのものであり、まず、乾燥電気泳動用ゲル(1)の所望の個所を型抜きするための上下移動機構(21)を備えた円形型(2)と、型抜きされた乾燥電気泳動用ゲル試料を下方に落下させるための穴(31)を円形型(2)の真下に有する穴明き台(3)と、穴明き台(3)上を前後左右に移動できる該乾燥電気泳動用ゲル(1)を設置するための枠状試料台(4)、さらには、型抜きされて穴(31)から落下した前記乾燥電気泳動用ゲル試料(11)を収集するための収集箱(5)を有し、該円形型(2)の直径と穴(31)の内径のクリアランス(32)が1〜2μmであることを特徴とする。
【0013】
このとき乾燥電気泳動用ゲル(1)は、電気泳動後のゲル、とくに二次元ゲル電気泳動後のゲルを乾燥したものであればよく、その分析蛋白質、ゲル材料、電気泳動条件、染色方法、乾燥方法、大きさ、形状等はとくに限定されない。このような乾燥電気泳動用ゲル(1)を枠状試料台(4)に設置し、乾燥電気泳動用ゲル(1)上の所望のスポットを穴明き台(3)の穴(31)の位置に合わせ、上下レバー(21’)等の上下移動機構(21)を動かして円形型(2)を下ろすことにより、乾燥電気泳動用ゲル(1)が型抜きされる。このとき、乾燥電気泳動用ゲル(1)におけるスポット位置を穴明き台(3)の穴(31)の位置に合わせるために、枠状試料台(4)は、乾燥電気泳動用ゲル(1)の表面(12)および裏面(13)を覆うことなく乾燥電気泳動用ゲル(1)を押さえられるように、乾燥電気泳動用ゲル(1)の形状や大きさに合わせた枠状であり、前後左右に水平移動するためのスライド機構等の移動機構を有する。反対に穴明き台(3)は固定されていることが好ましい。
【0014】
打ち抜かれた乾燥電気泳動用ゲル試料(11)は、試料台(4)の下に受け皿として設置された収集箱(5)中に落下し、収集される。このとき収集箱(5)には、間仕切り(51)がされており、型抜きされて穴(31)より落下したゲル試料(11)を個別に収集できることが好ましい。このような間仕切り(51)により、採取個所や分析結果等の収集した乾燥電気泳動用ゲル試料(11)に関する情報が整理、記録しやすくなる。また、収集されたゲル試料(11)が間仕切り(51)を有する収集箱(5)において所望の位置に収集されるように、収集箱(5)は、前記の枠状試料台(4)とは独立して前後左右に水平移動できることが好ましい。このような移動機構としては、例えばスライド機構が考慮される。
【0015】
この出願の発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターでは、乾燥電気泳動用ゲル(1)の染色状況(スポット位置)を確認し、型抜き個所を判別しやすくするために、乾燥電気泳動用ゲル(1)の下方から照明を当てられるような照明箱(6)があることが好ましい。したがって、このとき、照明箱(6)の天板、収集箱(5)の底面と天板、および穴明き台(3)は、アクリル板やガラス等の透明な素材で構成されていることが好ましい。照明箱(6)の照明は、蛍光灯や白熱灯が好ましく例示される。
【0016】
この出願の発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターは、従来の膨潤した電気泳動用ゲルからスポットを打ち抜くためのスポットカッター等と比較して、円形型(2)の形状および大きさに特徴点がある。乾燥したゲルを型抜きする際には、収集した乾燥電気泳動用ゲル試料(11)や乾燥電気泳動用ゲル(1)そのものにひびや割れが発生することを防ぐために、円形型(2)の乾燥電気泳動用ゲル(1)との接触面(22)が乾燥電気泳動用ゲル(1)に対して平行であり、型抜き時に円形型(2)の接触面(22)が乾燥電気泳動用ゲル(1)に均等に接触しなければならない。また、円形型(2)の直径と穴(31)の内径のクリアランス(32)は1〜2μmとする必要がある。これらの条件は、発明者らの鋭意研究により最適化された条件であり、これにより、硬い乾燥電気泳動ゲル(1)でもひび割れ等が生じることなく、簡便に大量のスポットを乾燥電気泳動ゲル(1)から型抜きできるようになる。
【0017】
この出願の発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターを用いることにより、乾燥した状態の電気泳動用ゲルを再度膨潤させることなく、蛋白質同定用の試料を簡便に、再現性高く型抜きできることから、二次電気泳動用ゲルの長期保存方法として知られる種々の乾燥方法と合わせることにより、プロテオーム解析がより簡略化される。
【0018】
以下、実施例を示し、この発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0019】
【実施例】
実施例1
ラット上皮線維芽細胞を蛋白質溶解緩衝液に溶かし、100μg/500μlに調整した。この試料をImmobiline Dry strip(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)に添加し、Multipor II装置(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)による等電点電気泳動により蛋白質を分離した。さらに、二次元目の電気泳動として、Hoefer DALTマルチプルスラブ型電気泳動ユニット(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社)を用いた9〜18%Gradient Gel組成におけるSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、蛋白質を分子量により分離した。
【0020】
二次元電気泳動を行った後、二次元電気泳動ゲルを染色し、50%メタノール、4%グリセロール溶液に30分間浸漬してゲルの補強を行った。MilliQ水で湿らせたセロファンシート2枚にゲルを挟み、ファルマシア社製エアーゲルドライヤーを用いてゲルを乾燥した。
【0021】
図1に示した乾燥電気泳動用ゲルカッターにおいて、乾燥電気泳動用ゲル(1)を枠状試料台(4)に載せ、乾燥ゲル上の目的のスポットを穴(31)に合わせるように枠状試料台(4)をスライドし、レバー(21’)を下ろしてスポットを型抜きした。
【0022】
型抜きされた乾燥ゲル試料をそれぞれ100mM 炭酸水素ナトリウム溶液に20分間浸漬した後、アセトニトリルで脱塩洗浄し、トリプシンで酵素洗浄した後、得られたペプチド断片をゲルから回収した。このペプチド断片を脱塩カラムで前処理し、四重極飛行時間型質量分析装置(Q−TOF:Micromass社)で質量分析して、得られたアミノ酸配列をデータベースFASTAを用いて検索した。検索結果から、型抜きされた乾燥ゲル試料に含まれる蛋白質がコフィリンであることが判明した。また、その他にも、各スポットから対応する蛋白質が同定された。
【0023】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、二次元電気泳動ゲルを長期保存用に乾燥させた後、所望のスポットの切り出しを簡便かつ精度高く行える新しい乾燥電気泳動用ゲルカッターが提供される。この発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターを用いることにより、効率のよいプロテオーム解析を簡便に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の乾燥電気泳動用ゲルカッターの概要を例示した概略模式図である。(a:断面図;b:円形型、穴、枠状試料台およびゲル部分の拡大図)
【符号の説明】
1 乾燥電気泳動用ゲル
11 乾燥電気泳動用ゲル試料
12 表面
13 裏面
2 円形型
21 上下移動機構
21’レバー
22 接触面
3 穴明き台
31 穴
32 クリアランス
4 枠状試料台
5 収集箱
51 間仕切り
6 照明箱

Claims (3)

  1. 保存用に乾燥した電気泳動用ゲルから試料を型抜きするための乾燥電気泳動用ゲルカッターであって、上下移動機構を備えた円形型と、円形型の外形よりも大きな穴を円形型の真下に有する穴明き台と、その上を前後左右に水平移動できる枠状の試料台と、型抜きされた乾燥電気泳動用ゲル試料を収集するための収集箱を有し、前記円形型は、その乾燥電気泳動用ゲルとの接触面が、試料台の表面に対して平行となるように配置されており、かつ前記円形型の直径と穴の内径のクリアランスが1〜2μmであることを特徴とする乾燥電気泳動用ゲルカッター。
  2. 収集箱は、型抜きされた乾燥電気泳動用ゲル試料を個別に収集するための間仕切りと、前記試料台とは独立して前後左右に水平移動するための機構を有するものである請求項1の乾燥電気泳動用ゲルカッター。
  3. 試料台、穴明き台、および収集箱の底面は透明材料で構成されており、収集箱の下には照明装置を有する請求項1または2のいずれかの乾燥電気泳動用ゲルカッター。
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