JP4000959B2 - 空気通路制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、膜状部材(フィルムドア)を空気通路中で移動変位させることによって空気通路の連通状態を制御する空気通路制御装置に関するもので、車両用空調装置に用いて有効である。
【0002】
【従来の技術】
従来、特開平8−2238号公報等において、膜状部材の移動によって空気通路の切替を行う空気通路開閉装置が提案されている。この従来技術においては、膜状部材の両端を駆動軸及び従動軸にそれぞれ連結し、巻き取る構成であるので、駆動軸と従動軸とを連動させる必要がある。このため、プーリー、ワイヤーといった連動機構が必要となり、装置全体として部品点数が増加するとともに、組付も煩雑となり、コスト高になるという問題があった。
【0003】
そこで、出願人は、膜状部材を押し出すようにして移動させることにより、膜状部材の巻き取り機構を不要にして構成を簡素化した空気通路開閉装置(特許願第321632号等)を提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特許願第321632号に記載の発明では、膜状部材を押し出すので、膜状部材が座屈変形して膜状部材が損傷してしまう可能性がある。そして、膜状部材が損傷してしまうと、実質的に空気通路開閉装置が機能しなくなってしまう。
【0005】
また、膜状部材が曲がった状態で長時間放置されると、その曲がり形状が膜状部材に転写されてしまうので、膜状部材が開閉する開口部の外縁部と膜状部材との間に隙間が発生してしまい、密閉性が低下し、空気通路を閉じることができなくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、第1には、従来と異なる新規な空気通路制御装置を提供し、第2には、膜状部材が損傷してしまうことを抑制し、第3には、漏れ風量を所定風量以下に抑制することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、空気通路(4、5)を横断するように変位して空気通路(4、5)の連通状態を制御する、可撓性を有する膜状部材(6a、6b)と、膜状部材(6a、6b)を送り出すように押し出して膜状部材(6a、6b)を変位させる駆動手段(6c、6e)とを有し、駆動手段(6c、6e)は、ラック状のギア部(6d)が形成された枠体(6c)と、ギア部(6d)に噛み合うピニオン(6e)と、ピニオン(6e)を回転させる電動機とを有し、膜状部材(6a、6b)は、膜状部材(6a、6b)の一端が枠体(6c)に固定され、電動機の回転によって押し出される構成となっており、膜状部材(6a、6b)のうち押し出される方向における先端部(6i、6j)が自由端を構成しており、膜状部材(6a、6b)の曲げ剛性は、1μN・m2以上であることを特徴とする。
【0008】
これにより、後述するように、膜状部材(6a、6b)の座屈変形を抑制できるので、膜状部材(6a、6b)が損傷してしまうことを抑制することができるとともに、従来と異なる新規な空気通路制御装置を得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、空気通路(4、5)を横断するように変位して空気通路(4、5)の連通状態を制御する、可撓性を有する膜状部材(6a、6b)と、膜状部材(6a、6b)を送り出すように押し出して膜状部材(6a、6b)を変位させる駆動手段(6c、6e)とを有し、駆動手段(6c、6e)は、ラック状のギア部(6d)が形成された枠体(6c)と、ギア部(6d)に噛み合うピニオン(6e)と、ピニオン(6e)を回転させる電動機とを有し、膜状部材(6a、6b)は、膜状部材(6a、6b)の一端が枠体(6c)に固定され、電動機の回転によって押し出される構成となっており、膜状部材(6a、6b)のうち押し出される方向における先端部(6i、6j)が自由端を構成しており、膜状部材(6a、6b)の厚み、膜状部材(6a、6b)のガラス転移温度及び膜状部材(6a、6b)の曲率半径は、上記数式1に示される関係を有していることを特徴とする。
【0010】
これにより、後述するように、転写量を所定量以下に抑制できるので、漏れ風量を所定風量以下に抑制するとともに、従来と異なる新規な空気通路制御装置を得ることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、膜状部材(6a、6b)の曲げ剛性は、1μN・m2以上であることを特徴とする。
【0012】
これにより、膜状部材(6a、6b)の座屈変形を抑制できるので、膜状部材(6a、6b)が損傷してしまうことを抑制することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、膜状部材(6a、6b)は、樹脂材から構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
因みに、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【0015】
【発明の実施の形態】
本実施形態は、本発明に係る空気通路制御装置を車両用空調装置に適用したものであって、図1は車両用空調装置の一部を示す断面図であり、図2は冷風通路及び温風通路の連通状態を制御するフィルム式の制御ドアの斜視図である。
【0016】
空調ケーシング1は室内に吹き出す空気が流通する空気通路を形成する樹脂製のものであり、この空調ケーシング1内には、空気冷却用の熱交換器2及び空気加熱用の熱交換器3が収納されている。
【0017】
なお、空気冷却用の熱交換器2は、冷媒の蒸発作用により室内に吹き出す空気から吸熱する蒸気圧縮式冷凍機の低圧側熱交換器であり、空気加熱用の熱交換器3は、走行用エンジンの冷却水を熱源として室内に吹き出す空気を過熱するものである。
【0018】
また、空調ケーシング1内のうち冷却用の熱交換器2の空気流れ下流側には、冷却用の熱交換器2を通過した空気を加熱用の熱交換器3に導く温風通路4、及び冷却用の熱交換器2を通過した空気を加熱用の熱交換器3を迂回させて下流側に流す冷風通路5が設けられており、両通路4、5の連通状態、つまり両通路4、5の開度は、フィルム式の制御ドア6により制御される。
【0019】
制御ドア6は、図2に示すように、温風通路4を閉じるための薄膜状の第1フィルム6a、冷風通路5を閉じるための薄膜状の第2フィルム6b、及び両フィルム6a、6bの一端側が固定された矩形状の枠体6c等からなるものである。両フィルム6a、6bの他端側における先端部6i、6jは自由端を構成している。
【0020】
なお、ピン6fはフィルム6a、6bを枠体6cに固定するための固定手段であり、補強バー6gは枠体6cを補強するものであり、ガイドピン6hは空調ケーシング1側に形成されたガイド溝に摺動可能に嵌合して制御ドア6の移動を案内するものである。
【0021】
そして、枠体6cに形成されたラック状のギア部6dに噛み合うピニオン6e(図1参照)をサーボモータ等の電動機にて回転させることにより、各フィルム6a、6bが各通路4、5を横断するように各フィルム6a、6bを変位させて各通路4、5の連通状態を可変制御する。
【0022】
つまり、第1フィルム6aが温風通路4内に位置するときには、温風通路4の開度が絞られ、枠体6cが温風通路4内に位置するときには、温風通路4が全開状態となる。同様に、第2フィルム6bが冷風通路54内に位置するときには、冷風通路5の開度が絞られ、枠体6cが冷風通路54内に位置するときには、冷風通路5が全開状態となる。
【0023】
因みに、本実施形態では、温風通路4及び冷風通路5は特許請求の範囲に記載された空気通路に相当し、第1、2フィルム6a、6bが特許請求の範囲に記載された膜状部材に相当し、枠体6c、ピニオン6e及びサーボモータが特許請求の範囲に記載された駆動手段に相当する。
【0024】
また、本実施形態では、第1、2フィルム6a、6bの曲げ剛性を1μN・m2以上とするとともに、第1、2フィルム6a、6bの厚み、第1、2フィルム6a、6bのガラス転移温度及び第1、2フィルム6a、6bの曲率半径が下記の数式2に示される関係となるように、第1、2フィルム6a、6bの諸元を背選定している。
【0025】
【数2】
t≦0.00578×g0.448×r0.333
但し、t:第1、2フィルム6a、6bの厚み(mm)
g:第1、2フィルム6a、6bのガラス転移温度(K)
r:第1、2フィルム6a、6bの曲率半径(mm)
なお、第1フィルム6aの曲率半径rとは、温風通路4が全開となったときに第1フィルム6aが収納される第1フィルム収納部1aの曲率半径r1(図1参照)を言い、第2フィルム6bの曲率半径rとは、冷風通路5が全開となったときに第2フィルム6bが収納される第1フィルム収納部1aの曲率半径r2(図1参照)を言う。
【0026】
次に、本実施形態の作用効果を述べる。
【0027】
1.フィルム6a、6bの座屈について
制御ドア6(第1、2フィルム6a、6b)を移動させる際の操作力Ffは、以下の数式3にて表すことができる。
【0028】
【数3】
Ff=μ・P・A・eμ θ+(E・b・t3)/(12・r12)+(E・b・t3)/(12・r22)
但し、μ:フィルムと空調ケーシング1との摩擦係数
P:制御ドア前後の差圧(Pa)
A:制御ドアにより閉じられる空気通路の断面積(m2
E:フィルムのヤング率(N/m2
r1:制御ドアにより閉じられる部分の曲率半径(m)
r2:制御ドアにより閉じられる部分と反対側の曲率半径(m)
b:フィルムの幅寸法(m)
t:フィルムの厚み寸法(m)
e:自然対数の底(≒2.71828182845)
θ:制御ドアにより閉じられる部分の曲率中心から見た角度(rad)
このとき、一般的な空調装置においては、数式3を数式4のように簡略化することができる。
【0029】
【数4】
Ff=μ・P・A
ここで、一般的な空調装置では、P≒300Pa、A≒15000mm2であり、フィルム6a、6b材質をポリエチレンテレフタレート(PET)とすると、ヤング率Eは約3920mN/m2であることから、操作力Ffは約0.9Nとなる。
【0030】
また、図4は座屈発生操作力とフィルム6a、6bの曲げ剛性との関係を示す試験結果であり、図4から明らかなように、フィルム6a、6bの曲げ剛性を1μN・m2以上とすれば、フィルム6a、6bが座屈してしまうことを抑制できるので、フィルム6a、6bが損傷してしまうことを抑制することができる。
【0031】
2.フィルム6a、6bの転写について
図5(a)は転写量dとフィルム6a、6bの厚み寸法tと関係を示す試験結果であり、図5(b)は転写量dとフィルム6a、6bの曲率半径rとの関係を示す試験結果であり、図5(c)は転写量dとフィルム6a、6b(PET)のガラス転移温度gとの関係を示すグラフであり、図5(d)は転写量dの定義を示す図である。また、図6は転写量dと風漏れ量との関係を示す試験結果である。
【0032】
なお、この試験における転写量dは、フィルム収納部1a、1bような曲面状の型内にフィルムを相対湿度75%、温度80℃雰囲気に72時間放置した後、温度−30℃雰囲気に72時間放置したときに転写された量を意味している。
【0033】
そして、図5(a)〜(c)の試験結果に基づいて、転写量d、フィルム6a、6bの厚み寸法t、フィルム6a、6bの曲率半径r及び転写量dとフィルム6a、6bのガラス転移温度gとの関係式を求めると、以下の数式5のようになる。
【0034】
【数5】
d=155085485×t3×(r×g1.3454
また、特開平8−156570号公報に記載されているように、漏れ風量が0.000175m3/s以上となる冷暖房性能が著しく低下することから、フィルム6a、6bの厚み寸法tを0.00578×g0.448×r0.333以下となるようにすれば、漏れ風量が0.000175m3/s未満となるような転写量d以下にすることができる。延いては、漏れ風量を小さくして冷暖房性能が著しく低下することを防止できる。
【0035】
なお、本実施形態では、フィルム6a、6bの厚み寸法tの上限値は、数式2により決定され、フィルム6a、6bの材質や幅寸法bによって変動するものの、フィルム6a、6bの厚み寸法tの下限値は、フィルム6a、6bの曲げ剛性を1μN・m2以上とする条件から決定する。因みに、本実施形態では、厚みは188μmであり、幅は196mmである。
【0036】
(その他の実施形態)
本発明は、フィルム6a、6bの曲げ剛性を1μN・m2以上とするものであるから、フィルム6a、6b材質はPETに限定されるものではなく、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルエーテルケルトン(PEEK)等の摩擦係数が小さく摺動性に優れたものであればよい。
【0037】
また、上述の実施形態では、第1、2フィルム6a、6bの曲げ剛性を1μN・m2以上とするとともに、第1、2フィルム6a、6bの厚み、第1、2フィルム6a、6bのガラス転移温度及び第1、2フィルム6a、6bの曲率半径が数式2に示される関係となるように、第1、2フィルム6a、6bの諸元選定したが、本発明はこれに限定されるものではなく、いずれか一方の条件を満たすものであってもよい。
【0038】
また、本発明は、車両用空調装置における空気通路の開閉に限らず、種々な用途の空気通路の開閉に対して広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用空調装置の一部を示す断面図である。
【図2】冷風通路及び温風通路の連通状態を制御するフィルム式の制御ドアの斜視図である。
【図3】(a)は操作力の定義を示す説明図であり、(b)はフィルムの断面図である。
【図4】座屈発生力と曲げ剛性との関係を示すグラフである。
【図5】(a)は転写量とフィルムの厚み寸法と関係を示すグラフであり、(b)は転写量とフィルムの曲率半径との関係を示すグラフであり、(c)は転写量とフィルムのガラス転移温度との関係を示すグラフであり、(d)は転写量dの定義を示す図である。
【図6】転写量dと風漏れ量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1…空調ケーシング、2…蒸発器(冷却用熱交換器)、
3…ヒータコア(加熱用熱交換器)6…制御ドア、
6a、6b…フィルム、6c…枠体。

Claims (4)

  1. 空気通路(4、5)を横断するように変位して前記空気通路(4、5)の連通状態を制御する、可撓性を有する膜状部材(6a、6b)と、
    前記膜状部材(6a、6b)を送り出すように押し出して前記膜状部材(6a、6b)を変位させる駆動手段(6c、6e)とを有し、
    前記駆動手段(6c、6e)は、ラック状のギア部(6d)が形成された枠体(6c)と、前記ギア部(6d)に噛み合うピニオン(6e)と、前記ピニオン(6e)を回転させる電動機とを有し、
    前記膜状部材(6a、6b)は、前記膜状部材(6a、6b)の一端が前記枠体(6c)に固定され、前記電動機の回転によって押し出される構成となっており、
    前記膜状部材(6a、6b)のうち押し出される方向における先端部(6i、6j)が自由端を構成しており、
    前記膜状部材(6a、6b)の曲げ剛性は、1μN・m2以上であることを特徴とする空気通路制御装置。
  2. 空気通路(4、5)を横断するように変位して前記空気通路(4、5)の連通状態を制御する、可撓性を有する膜状部材(6a、6b)と、
    前記膜状部材(6a、6b)を送り出すように押し出して前記膜状部材(6a、6b)を変位させる駆動手段(6c、6e)とを有し、
    前記駆動手段(6c、6e)は、ラック状のギア部(6d)が形成された枠体(6c)と、前記ギア部(6d)に噛み合うピニオン(6e)と、前記ピニオン(6e)を回転させる電動機とを有し、
    前記膜状部材(6a、6b)は、前記膜状部材(6a、6b)の一端が前記枠体(6c)に固定され、前記電動機の回転によって押し出される構成となっており、
    前記膜状部材(6a、6b)のうち押し出される方向における先端部(6i、6j)が自由端を構成しており、
    [数1]
    t≦0.00578×g0.488×r0.333
    但し、t:膜状部材(6a、6b)の厚み(mm)
    g:膜状部材(6a、6b)のガラス転移温度(K)
    r:膜状部材(6a、6b)の曲率半径(mm)
    前記膜状部材(6a、6b)の厚み、前記膜状部材(6a、6b)のガラス転移温度及び前記膜状部材(6a、6b)の曲率半径は、上記数式1に示される関係を有していることを特徴とする空気通路制御装置。
  3. 前記膜状部材(6a、6b)の曲げ剛性は、1μN・m2以上であることを特徴とする請求項2に記載の空気通路制御装置。
  4. 前記膜状部材(6a、6b)は、樹脂材から構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の空気通路制御装置。
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