JP3999960B2 - 燃料電池用電極の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高分子形燃料電池の構成要素である電極の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子電解質を用いた燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることで、電力と熱とを同時に発生させる。燃料ガスと酸化剤ガスとを併せて反応ガスともいう。
このような燃料電池は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜、および貴金属系触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層とガス拡散層とからなる多孔質電極を含む。そして、2枚の前記多孔質電極が、前記触媒層が前記電解質膜に接するような位置関係で前記電解質膜を挟んでおり、前記ガス拡散層は、燃料ガスに対する通気性および電子伝導性を有する。
【0003】
このような高分子電解質および2枚の多孔質電極からなる接合体は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。
また、MEAの両外側には、燃料ガスを供給し、かつ生成ガスおよび余剰な燃料ガスを運び去るためのガス流路が設けられたセパレータが配置される。このMEAと一対のセパレータとからなる構造体は単セルと呼ばれる。そして、単セル複数個を冷却板などを介して積層し、数ボルトから数百ボルトの出力を発揮し得る積層電池が得られる。この積層電池が燃料電池に相当する。
【0004】
高分子電解質型燃料電池の燃料極および酸化剤極では、それぞれ以下に示すような反応が生じる。
燃料極 :H2→2H++2e-、
酸化剤極:1/2O2+2H++2e-→H2O
上記反応式において、燃料極で発生した電子は外部回路を通じて酸化剤極へ移動し、プロトンは高分子電解質膜を介して燃料極から酸化剤極へ移動する。
【0005】
高分子電解質膜は十分に含水した状態でなければ高いイオン伝導性を発揮できないため、加湿器などを用いて反応ガスを加湿してから燃料電池に供給することによって、高分子電解質膜の乾燥を防ぐ必要がある。
また、低温作動、高加湿ガスまたは高電流密度などの運転条件下、特に反応生成物である水が発生する酸化剤極においては、水分が凝縮してガス拡散経路を閉塞する現象(フラッディング)が生じやすい。その結果、特に触媒層に供給される燃料ガスの濃度が低下し、電池性能が大幅に低下してしまう。
【0006】
そこで、フラッディングの発生を防止して安定に高い電池性能を得るために、電極の撥水性を確保して反応ガスの拡散を阻害することなく前記MEAの水分状態を管理する必要がある。すなわち、撥水性を付与した場合であっても、電極は乾燥防止のための保水性およびフラッディング防止のための水分排出性を同時に効果的に発揮することが求められる。
【0007】
このために、電極にフッ素化合物を含有させて撥水性を付与する方法が提案されている。触媒層については、例えば特開平5−36418号公報では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末と触媒を担持した炭素粉末とを高分子電解質溶液に分散させて混練して得られるインクを塗布して触媒層を形成することが提案されている。また、特開平7−183035号公報では、フッ素処理された炭素粉末と触媒を担持した炭素粉末とを分散媒に分散させて混練して得られるインクを用いて触媒層を形成することが提案されている。
【0008】
一方、ガス拡散層については、一般的に導電性多孔質基材であるカーボンペーパーを含フッ素樹脂分散液に浸漬して撥水処理を行い、ついで撥水処理後のカーボンペーパー上に炭素粉末とフッ素系樹脂とを含むインクを塗布して撥水層を設けることが提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来、ガス拡散層の構成部位であるカーボンペーパーまたはカーボンクロスなどの導電性多孔質基材に撥水性を付与した場合、フッ素含有分散液に浸漬することによって撥水性を付与されたカーボンペーパーなどの面内においては、撥水性が均一である。すなわち、撥水剤がカーボンペーパーの面方向において均一に塗布または含浸されているのである。
【0010】
この場合、例えていうならば、電極全体をカーボンペーパーで蓋をした状態となり、電極の乾燥を防ぐ保水性にとって有効に働く。一方、撥水性が面内で均一であるため、電極の面方向における水分の流動性が低くなって本来外部に排出されるべき水分が電極内に蓄積し、長時間運転の際に電池特性の低下を招く原因となる。また、実際に電池を作動させた場合、電極面内の温度および反応ガス濃度などの分布によっても電池特性の低下が発生する。
【0011】
これに対し、例えば特開平6−103983公報では、燃料極側のガス拡散層であるカーボンペーパの面内に、撥水性領域と親水性領域とを交互に隣接させて設けることにより、燃料ガス供給と水供給機能とを同時に発揮し得る電極を形成することが提案されている。
【0012】
しかし、このような撥水性領域と親水性領域を有するカーボンペーパーを酸化剤極へ用いた場合、親水性領域における水の滞留が生じやすくなる。特に親水性領域に隣接して撥水性領域が存在するため、さらその現象が促進され、長時間運転した際、フラッディングによる電池特性の低下が発生する。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上述のような問題点を鑑み、カーボンペーパーまたはカーボンクロスなどの導電性多孔質基材に撥水性を付与し、電極に良好な保水性を保持させるとともに、面内に撥水性の分布を設けることによって、水分の流動性および排出性を向上した機能を有して長期的に安定な性能を示す燃料電池用電極を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、触媒層と撥水性を有する導電性多孔質基材とを具備する燃料電池用電極の製造方法であって、(1)撥水剤分散液を前記導電性多孔質基材に均一に塗布する工程、(2)前記導電性多孔質基材の面を所定の形状にマスキングする工程、および(3)再度前記撥水剤分散液を前記導電性基材に塗布し、前記導電性多孔質基材の面内において前記所定の形状に対応して前記撥水剤を分布させる工程を含み、前記所定の形状が島状であることを特徴とする燃料電池用電極の製造方法に関する。
【0015】
前記導電性多孔質基材の面内において、前記撥水性を有する導電性多孔質基材に対する前記撥水剤の比が50重量%以下であることが好ましい。
前記導電性多孔質基材はいわゆるガス拡散層としての役割を果たし、その面内において前記撥水剤が島状に分布している。
【0016】
【発明の実施の形態】
触媒層と撥水性を有する導電性多孔質基材とを具備する燃料電池用電極は、前記導電性多孔質基材の面内において、撥水剤が島状に分布しており、かつ前記撥水性を有する導電性多孔質基材に対する前記撥水剤の比が50重量%以下であることが好ましい。
【0017】
前記導電性多孔質基材としては、例えばカーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)複合シート、炭素繊維不織布などを用いることができる。
前記電極は導電性多孔質基材および触媒層からなり、前記導電性多孔質基材がガス拡散層としての役割を果たすが、前記導電性多孔質基材と触媒層との間には電性微粒子からなる層が設けられてもよい。この導電性微粒子層を設けることによって、前記導電性多孔質基材中への触媒の侵入を抑制することができ、触媒の有効利用が可能になるからである。また、前記導電性多孔質基材を構成する針状の炭素繊維などによる高分子電解質膜のピンホールを防ぐことができるからである。
【0018】
まず、前記撥水性を有する導電性多孔質基材に対する前記撥水剤の比R(重量%)は、撥水性を有する(撥水処理後の)導電性多孔質基材の重量をW2とし、撥水処理を施していない導電性多孔質基材の重量をW1とすると、関係式(1):
R=(W2−W1)/W2×100 (1)
で表される。
【0019】
本発明における撥水処理後の導電性多孔質基材に対する撥水剤の比Rの最大値は50重量%である。これにより、撥水剤の過剰な添加によってガス拡散経路が閉塞しまうことを抑制することができる。
また、前記比Rは10〜50重量%であるのが望ましい。撥水剤がその保水性および排水性を電池特性に有効に発揮するのRの下限は10重量%である。しかし、本発明の特徴は前記導電性多孔質基材に添加する撥水剤の量にその面内において分布させることにある。分布による効果を発揮させる場合、前記比Rの下限は0重量%であってもよい。下限を0重量%とすることによって、Rが10重量%以下であっても撥水剤の分布を付与することができる。したがって、前記比Rは0〜50重量%であればよく、さらに、充分な撥水効果を得るという観点から、10〜50重量%であるのが好ましい。
【0020】
つぎに、本発明の最大の特徴は、前記導電性多孔質基材に撥水剤を塗布または含浸などすることにより、導電性多孔質基材に撥水性を付与するとともに、前記導電性多孔質基材の面内において撥水性の分布を形成することにある。すなわち、前記導電性多孔質基材の面内において、塗布または含浸される撥水剤の量に分布をもたせるのである。このような構成にすることにより、MEA内部の保水性を良好な状態に保持することができ、さらに、撥水性の分布により良好な水分排出性を確保することができる。
【0021】
本発明に係る導電性多孔質基材の撥水性は、前記導電性多孔質基材の面方向において分布を有する。したがって、導電性多孔質基材の面内において、撥水性の高い部分と撥水性の低い部分を設けるのである。
この分布の形状としては、種々の形状が考えられ、ランダムであっても種々の幾何学的形状であってもよい。
【0022】
また、撥水性(撥水剤の量)は導電性多孔質基材の面内において一方の端部から他方の端部まで連続して変化(傾斜)していてもよい。
なかでも、製造工程上の容易性から島状であるのが好ましい。このような構成により、MEA内部の保水性、および撥水性の分布による水分排出性を、電極の面内において良好に保つことができる。
【0023】
本発明は、(1)撥水剤分散液を前記導電性多孔質基材に均一に塗布する工程、(2)前記導電性多孔質基材の面を所定の形状にマスキングする工程、および(3)再度前記撥水剤分散液を前記導電性基材に塗布し、前記導電性多孔質基材の面内において前記所定の形状に対応して前記撥水剤を分布させる工程を含み、前記所定の形状が島状である燃料電池用電極の製造方法に関する。
【0024】
つまり、本発明において、導電性多孔質基材の面内における撥水性の分布は、上記工程(1)においてまず前記面内に均一に撥水剤を塗布し、ついで工程(2)および(3)において部分的に撥水剤を塗布を塗布することにより達成することができる。なお、前記撥水剤は分散液の形態で用いればよい。
導電性多孔質基材を撥水剤の分散液に浸漬する方法では、前記導電性多孔質基材の面に撥水性の分布を付与することは困難であり、また、ドクターブレードなどを用いる方法は複雑な操作を要する。
【0025】
これに対し、本発明においては、例えばスプレーまたはインクジェットなどを用いて塗布する方法を用いる。
そして、塗布工程において、撥水剤の濃度、吐出量、吐出圧力、ノズルの走査速度およびマスキングなどを調整することにより、導電性多孔質基材の面内に容易に撥水性の分布を形成することができる。
【0026】
前記マスキングにおいては、上述のような撥水性の分布の形状に合わせればよい。なお、撥水性(撥水剤の量)は導電性多孔質基材の面内において一方の端部から他方の端部まで連続して変化(傾斜)させる場合には、スプレーまたはインクジェットのノズルを導電性多孔質基材の一端から他端まで移動(走査)させればよい。
また、マスキングに用いるマスクは、撥水剤と反応したりして導電性多孔質基材への効果的な塗布を妨げることのない材料で作製すればよい。例えば、ガラス、ステンレス鋼板、ポリエチレンテレフタラート(PET)などの樹脂フィルムなどがあげられる。マスクは例えば板状であればよく、その場合の厚さは0.5〜2.0mm程度であればよい。
【0027】
上記工程(1)〜(3)を経た導電性多孔質基材を乾燥などした後、前記導電性多孔質基材の分布を有する面に触媒層を形成する。また、この導電性多孔質基材と触媒層との間には、上述のように導電性微粒子層を設けてもよい。
ここで、上記工程(1)および(3)において用いる撥水剤としては、例えばPTFEまたはFEPなどのフッ素樹脂の分散液を用いればよい。
【0028】
触媒層を形成するためには、100〜500nmの平均粒径を有する貴金属を担持した炭素粉末を用いればよい。
触媒層を形成する際には、操作が容易であることなどから、触媒層用インクを前記導電性多孔質基材に塗布するのが好ましい。このとき、触媒層用インクは、前記炭素粉末のほか、例えば高分子電解質、フッ素系樹脂で撥水処理した炭素粉末および/または撥水剤などを含有していてもよい。
【0029】
また、導電性多孔質基材と触媒層との間に導電性微粒子層を形成する際に用いる導電性微粒子としては、平均粒径1〜10μmの炭素材料または炭素−高分子複合材料などが好ましい。なかでも炭素−高分子複合材料は、フッ素系樹脂を付着させた炭素粉末であることが好ましい。
この場合も、導電性微粒子を含む分散液を塗布することによって導電性微粒子層を形成するのが好ましく、当該分散液は高分子電解質および/または撥水剤などを含有していてもよい。
【0030】
触媒層用インクおよび導電性微粒子層用分散液に用いられる分散媒としては、例えばエタノール、n−プロパノール、エトキシエタノール、酢酸ブチル、エチレングリコール、プロピレングリコールまたは水などがあげられる。なお、これらはそれぞれ単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
なお、常法により、上述のようにして得られる燃料電池用電極を高分子電解質と組み合わせることによって膜電極接合体(MEA)を得ることができ、MEAをセパレーターと組み合わせることによって単電池を得ることができる。そして、この単電池複数個を積層することによって積層電池からなる燃料電池を得ることができる。
以下に、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0032】
【実施例】
《実施例1》
本実施例においては、撥水剤を塗布するために図1に示すような構成を有するスプレー式塗布装置を用い、導電性多孔質基材である厚み360μmのカーボンペーパー(東レ(株)製)に撥水剤分散液を塗布して本発明の燃料電池用電極を作製した。図1は、本発明を実施するために用いる装置の構成を概略的に示す図である。
【0033】
図1において、容器1には撥水剤分散液(ダイキン工業(株)製のND−1(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)分散液))が充填されており、この分散液は常時攪拌されている。分散液はポンプ2によりスプレーノズル3に圧入され、スプレーノズル3から噴出されなかった分散液はバルブ3aを経て容器1に循環回収される。
スプレーノズル3は2個のアクチュエーター3bにより水平方向においてXおよびYの2軸方向に任意の速度で走査することが可能である。カーボンペーパー4の上には60mm角のマスク5が配置されており、この上をスプレーノズル3が分散液を吐出しながら移動し、カーボンペーパー4に撥水剤を塗布する。
【0034】
(a)撥水剤分散液を前記導電性多孔質基材に均一に塗布
はじめに、撥水剤分散液をカーボンペーパー4の面内に一様に塗布するように、スプレーノズル3を移動させた。このとき、塗布後のカーボンペーパー4に対する撥水剤の比率が10重量%になるようにスプレーノズル3の走査速度および吐出量を調整した。マスク5は枠部分のみを有しているため、その開口部分を通じて、撥水剤分散液はカーボンペーパー4の周辺部以外の部分に均一に塗布された。なお、マスク5は、カーボンペーパー4の周辺部に撥水剤分散液を塗布させないために用いた。
【0035】
(b)前記導電性多孔質基材面のマスキングおよび撥水剤分散液塗布による撥水性分布の形成
つぎに、カーボンペーパー4上からマスク5を取り除き、図2に示す形状を有するマスク6を設置した。マスク6は島状の開口部7とマスキング面8とを有し、スプレーノズル3から撥水剤分散液を噴出させると、開口部7を通って撥水剤分散液がカーボンペーパー4に塗布された。
【0036】
塗布後、撥水剤分散液に含まれていた残留分散剤および界面活性剤を除去するために、カーボンペーパー4を350℃で焼成し、面内において撥水性の分布を有するカーボンペーパーを得た。このカーボンペーパー4の面内においては、マスク6の開口部7とマスキング面8とに対応して撥水性(すなわち撥水剤)が海−島状に分布していた。
【0037】
このように撥水剤分散液の塗布する際、スプレーノズル3の走査速度および吐出量を調整し、塗布後のカーボンペーパーに対する撥水剤の比率を15重量%〜70重量%に制御した。塗布後のカーボンペーパーに対する撥水剤の比率は、塗布後のカーボンペーパーを小片状に切り抜き、この小片の重量を測定することにより行った。
【0038】
(c)導電性微粒子層の形成
上述のように撥水性を付与したカーボンペーパー上に、炭素粉末(電気化学工業(株)製のデンカブラック)150gとPTFE分散液(ダイキン工業(株)製のD−1)36gとを混合して得られたインクを塗布し、350℃で焼成することによって導電性微粒子層を設けた。
このようにして、本発明に係る燃料電池用電極を構成するガス拡散層を得た。
【0039】
(d)触媒層の形成
触媒である白金を担持させた炭素粉末(50重量%が白金)(田中貴金属(株)製のTEC10E50E)10g、イオン交換水10gおよび高分子電解質分散液(旭硝子(株)社製のフレミオン9重量%エタノール溶液(FSS分散液))59gを超音波攪拌により分散、混合させて触媒層用インクを調製した。
この触媒層用インクを上記(c)において得たガス拡散層に塗布し、70℃で乾燥させ、触媒層とガス拡散層とからなる本発明に係る燃料電池用電極を作製した。
【0040】
[評価1]
本発明に係る燃料電池用電極の性能を評価するために、高分子電解質膜(米国Du Pont社製のNafion112)を、上述のようにして得た電極2枚で挟み、120℃でホットプレスを行ってMEAを作製した。ついで、このMEAをセパレータ、集電板、ヒーター、絶縁板および端板で挟み、単電池を得た。
この単電池を電流―電圧特性測定装置に設置し、燃料極に水素を流しかつ酸化剤極に空気を流し、電池温度75℃、燃料利用率70%および空気利用率40%の条件で単電池を作動させた。なお、水素ガスは75℃の露点を有するように加湿し、空気は60℃の露点を有する用に加湿してから供給した。電流密度0.2A/cm2および0.7A/cm2に対する電池電圧の結果を図4に示した。
【0041】
《参考例1》
マスク6の代わりに図3に示すマスク9を用いた他は、実施例1と同様にしてカーボンペーパーに撥水性を付与し、単電池を作製した。図3に示すマスク9は、帯状の開口部10とマスキング面11とからなり、このマスク9を用いることによりカーボンペーパーに縞状に撥水剤を分布させて塗布することができた。なお、本参考例においても塗布後のカーボンペーパーに対する撥水剤の比率を15重量%〜75重量%とした。電流密度0.2A/cm2および0.7A/cm2に対する電池電圧の結果を図5に示した。
【0042】
図4および5から明らかなように、撥水剤の最大比率が50重量%を超えると電池電圧の急激に低下している。この傾向は、特に電流密度が0.7A/cm2の場合に顕著である。これは、撥水剤の最大比率が50重量%以下の場合に本発明に係る燃料電池用電極が優れた特性を発揮することを示している。50重量%を超えると、塗布した撥水剤によりガス拡散経路の閉塞により、ガス拡散性が低下したものと考えられる。また、撥水性の分布が島状であっても縞状であっても同様の結果が得られた。
【0043】
《実施例2》
マスク6の代わりに図6に示すマスク12を用いた他は、実施例1と同様にしてカーボンペーパーに撥水性を付与し、単電池を作製した。図3に示すマスク12は、市松模様状に開口部13とマスキング面14とからなり、このマスク12を用いることによりカーボンペーパーに市松模様状に撥水剤を分布させて塗布することができた。なお、本実施例においては塗布後のカーボンペーパーに対する撥水剤の比率を40重量%とした。
【0044】
《比較例1》
比較例として面内において一様に撥水性を有するカーボンペーパーを得た。実施例1の(a)においてスプレーノズル3を移動して撥水剤分散液をカーボンペーパーの面内に一様に塗布した他は、実施例1と同様にして単電池を作製した。なお、塗布後のカーボンペーパーに対する撥水剤の比率は40重量%とした。
【0045】
《比較例2》
比較例として面内に撥水性領域と親水性領域とが交互に隣接したカーボンペーパーを得た。実施例1における(a)を行わず、(b)において図6に示したマスク12を用いてスプレーノズル3から撥水性分散液を塗布した他は、実施例1と同様にして単電池を作製した。ここで得られた撥水性カーボンペーパーは、マスク12の開口部13およびマスキング面14に対応して、相互に隣接した撥水性領域と親水性領域を有していた。なお、塗布後のカーボンペーパーに対する撥水剤の比率は40重量%とした。
【0046】
[評価2]
上記評価1と同様にして、実施例2、比較例1および比較例2で作製した単電池の電流密度0.2A/cm2における電池電圧の作動後の経時変化を測定した。その結果を図7に示した。
図7から、実施例2の電池は、電池稼働時間が500時間を超えても安定な高い特性を示すことがわかる。これは、カーボンペーパーにその面内において撥水剤による分布を付与することが長時間安定な特性を発揮するのに有効であることを示している。ここでは、撥水剤の最大比率を40重量%としたが、撥水剤の最大比率を50重量%にした場合にも同様の効果が得られた。
【0047】
【発明の効果】
本発明によれば、撥水性を有する導電性多孔質基材であって、前記導電性多孔質基材の面内おいて撥水性(撥水剤の量)に分布を持たせると、保水性および水分排出性が向上したMEA、さらに長時間安定で高い性能を発揮し得る燃料電池の提供を可能とする燃料電池用電極を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の燃料電池用電極を製造する際に用いる塗布装置の一例の構成を概略的に示す図である。
【図2】 本発明において用いるマスクの一例の構成を示す図である。
【図3】 本発明において用いる別のマスクの一例の構成を示す図である。
【図4】 実施例1で製造した単電池の撥水剤比率と電流密度0.2A/cm2および0.7A/cm2における電池電圧との関係を示す図である。
【図5】 参考例1で製造した単電池の撥水剤比率と電流密度0.2A/cm2および0.7A/cm2における電池電圧の特性を示す図である。
【図6】 本発明の実施例または比較例において用いるマスクの一例の構成を示す図である。
【図7】 実施例2、比較例1および比較例2で製造した単電池の作動後の経過時間と、電流密度0.2A/cm2おける電池電圧と関係を示す図である。
Claims (1)
- 触媒層と撥水性を有する導電性多孔質基材とを具備する燃料電池用電極の製造方法であって、(1)撥水剤分散液を前記導電性多孔質基材に均一に塗布する工程、(2)前記導電性多孔質基材の面を所定の形状にマスキングする工程、および(3)再度前記撥水剤分散液を前記導電性基材に塗布し、前記導電性多孔質基材の面内において前記所定の形状に対応して前記撥水剤を分布させる工程を含み、前記所定の形状が、島状であることを特徴とする燃料電池用電極の製造方法。
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